Coolier - 新生・東方創想話

変質鬼の領分

2025/11/27 20:01:44
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 ある人間が言ったらしい。

「人間を壊すなんて簡単さ。昼に手ずから穴を掘らせ、夜に手ずから埋めさせる。人間はその無意味さに耐えられない。耐えられなくとも続けさせる。すると人間はその無意味な生に耐えられず……呆気なく壊れてしまう」

 本当なのか? 俺は本当だと思う。もし俺が人間なら、とっくの昔に壊れて狂っていたに違いない。つまり俺の仕事ってのは昼に手ずから穴を掘り、夜に手ずからそれを埋めるようなもんなんだ。
 わかるだろう。それくらい無意味な仕事だって意味だ。
 まあ無意味なだけならまだマシで、この仕事は……胸糞悪いのさ。人の頭を金棒でぶち砕いたり、火の中に突き落とすより、よっぽど気分が悪くなるに違いない。
 けれどもな、時には気のいい同僚にそんな事を口走りたくもなるが、俺は絶対にそんなヘマは踏まない。俺は同僚連中を理解できない。連中も俺を理解できないだろう。連中に一言でもこぼせばクソ真面目に、上役達に俺の勤務態度について忠言するだろう。そうなったらもうなす術はない。ただでさえ経営は右肩下がりなんだ。俺たちのような末端はいつ切り捨てられてもおかしくないんだ。

「おい! 何ぼさっとしてるんだ。交代の時間だろ!」

 俺は自分が狂気の過程に居るとわかる。だが実際に狂う事はないのさ。
 俺は人間じゃない。俺は鬼だ。それが俺の唯一の領分なのだから。

 ◯

 変な鬼が居る、と戎瓔花は報告を受けていた。まあ所詮は水子達から上げられたものだから、「報告」より「ちくり」とか「告げ口」と言った方がいいのかもしれない。賽の河原は変化に乏しい土地だ。変わったことがあればすぐに伝わる。特に子供の間では……そして彼らはみんな子供だった。

「じっと見てくるの」
「なんか目つきがこわくってさあ」
「ふつーの鬼なら、石くずしたらすぐに行っちゃうのに」
「くずした後もなかなか行ってくれないんだよな」
「えいかー! 私こわいよ! なんとかしてぇ!」

 抱きついてくる子供達を宥めながら、瓔花はどうしたものかと首を捻った(骨がないから捻りたい放題だ)。
 そりゃあ、不気味な話ではある。何とかできるんなら何とかしてやりたい。しかし相手は鬼だ。力関係というものがある。そもそもその変な鬼とやら、まだ実害のある事は何もしてないじゃないか? 害と言う意味じゃ、せっかく積み上げた石を崩してくるのだから、どの鬼だって変わりはしないのに。

(調べてみるか……)

 ほんの気まぐれだった。どうせやることと言えば石を積むことくらいだし、変化という刺激も時には必要だ。瓔花にとって、ではない。瓔花はちょっと他の子供達とは違っていたから。そして瓔花は、子供達の心が自分より遥かに脆弱だと知っていたから。
 なんでもいいから面白いものが出てきてくれたらいいな。
 そんな程度のものだった。

 ――数日後。

「それで本当にでたのかい、妙な鬼とやら」

 赤髪の死神・小野塚小町の確認に、瓔花はうなずいて答えた。彼女はよく三途の川のほとりでサボタージュを決め込んでいる。が、瓔花と話してる間は少なくとも「水子達の状況視察」と言う名目が立つ(と本人は思っている)ので、いつしか気軽に話し合う間柄になっていた。

「うん、でた」
「よくまあ、このだだっ広い三途の川で出くわしたもんだね」

 小町の言う通り三途の川は無限にも等しい大河である。賽の河原の区画はその一部分でこそあるが、それでも相当に広い。無論そこで石積みをする水子の霊も十や二十ではきかない。
 いつの世も、どんなご時世でも、水子は流れ着いてくる。
 その割合は年々減りつつあるが、反対に水子達の平均滞在年数は増加傾向にあるのだ。瓔花にも詳細はわからないが、人間世界の方で何かしら変化があったのだろう。
 水子の数が減っているということは、それだけ子供が死に難くなったという意味だ(※一般に水子とは生まれる前に亡くなった子を指すが、賽の河原で石を積むのは十歳までに亡くなった子供達とする説もある。そのためここでは賽の河原で苦行を受ける子全般を水子と呼んでいる)。
 滞在期間が延びたということは、子が死んでから親が死ぬまでの期間が開いた事を意味する。つまり人間全体の死亡率が低下し、平均余命が延びたのだろう。
 昔なら、石積みの苦行と言ってもほんの十年かそこらが関の山だった。
 今の子供達は長く苦しむ。当然、子を亡くした親が悲しむ歳月も増えた事だろうから。

「……囮捜査をしたの。その鬼の目撃情報を集めて、その場所、その時間帯で私が石積みをしてみた。そしたら出やがった」
「あの連中シフト制だからな」
「そうなの?」
「うん。なにせ三途の川は馬鹿みたいに広い。崩さなきゃならない石も膨大だろ」
「崩さなくていいのに」
「そんで班ごとに担当エリアを振って、その中でさらに時間単位でのシフトを組んでる」
「よく知ってるね? 自分はサボり魔なのに」
「昔は違ったんだよ。昔は鬼の一人一人が、水子達によりよい仏塔を積み上げさせるのだと、その為に崩すのだと息巻いて働いてた。でもそれがやりがい搾取だと批判を受けてね……まあ、三途の川勤務のブラックさは有名だったからな。そんでいつだったかのスリム化政策の一環で、もっと効率的にやろうって話になった……」
「あなたも昔は忙しかったの?」
「若いうちはね。でも死神ってのは専門職だからな。組合の力もけっこう強くて、昔からあんまし変わってないかな」
「ふーん。ま、石を崩すくらいの仕事、誰でもできるもんね」
「そんなことは大っぴらに言うもんじゃないな」

 小町も否定はしなかったな、と瓔花はほくそ笑んだ。が、すっかり本題を外れているのに気付き、慌てて付け足した。

「それでね、その変な鬼なんだけど、確かに変なのよ。私が石積みしてる横でじろじろ眺めてくるし、いつまでたっても崩そうとしない……まるで私が満足するまで待ってるみたいだった。それでもう、この塔はこれ以上積めないなって思って一息つくと、ちょっと小突くみたいにして崩してった。それから別の子の所でまた同じようにしてた」
「へぇ……」
「でも何より不気味だったのは、あの鬼の目! なんて言えばいいのかな……何だか怒ってるみたいでさ。いや、鬼はみんな怒ったような目をしてるよ。でももっと、こう……あの鬼は何に怒ってるんだろう? 私、何かしたっけ? って。やっぱり鬼だからさ、凄まれると怖ぁいじゃない。体もずっと大きいし……」
「そりゃそうだ」
「何か知ってる? また地獄の方針が変わったりしたの?」
「いや」

 小町は口をつぐんで川面を見た。死神の周りに鬼は寄ってこない。恐れではなく、管轄で揉めるのが面倒だからだ。けれどもそれは、双方が常に無関心であることを意味しない。特に小町は死神の中でも「変わり者」の部類であったから。
 彼女は色々とものを知っている死神だった。

「瓔花ちゃん、悪い事は言わない。これ以上この件には深入りしなさんな」
「なに? 急に」
「水子達に被害は出てないんだろ」
「でもみんな怖がってる」
「怖がることはないさ。いや、怖くたって当然だろ。鬼は水子に責苦を与える為にやって来るんだから。なあ、瓔花ちゃん。あたいが言うのも何だけどさ、互いに守るべき領分てものがある。水子達が石を積むのは元々、供養の仏塔とするためだ。そして鬼が塔を崩すのはそれが供養にもならぬ形だと水子達に思い知らせる為だ。もはや鬼達も、地獄の偉いさん方も、そんな由来なんぞ忘れてしまっただろうが。ただ石を積ませ、崩す事が目的となって久しいが……それでも領分は領分。そして気に食わないけどな、領分を踏み越える時に生じる余波を被るのはいつでも一番弱い奴だよ。瓔花ちゃんならわかるだろ」
「ふん……ようするに水子は水子らしく鬼に虐められておけってこと?」

 小町は否定しなかった。瓔花の表情からすっと色が消えた。小町の笑う声が川の波の音に被さった。

「……今日もよく働いたな。酒でもひっかけてくか」

 それでふと瓔花には、なぜこの死神がいつもまともに職務に向き合わないのか……少しだけ、理解できた気がした。

 ◯

 時折思うのは、地獄を支配したり地上で暴れ回ったりするような名のある鬼と、俺たち獄卒衆と、いったい何が違うのかって事だ。
 下っ端の獄卒衆に与えられた地獄長屋は快適とは言い難い。かつての地獄街道沿いには慰問用の温泉施設が併設されていたと言うが、今やそんなもの影も形もないじゃないか。
 あるのは手狭で小汚い赤提灯横丁だけで、その酒代も年々吊り上がっていくばかり。

「おい旦那、たりてねえぜ」
「なに? いつもそれで足りてるだろ……」
「値上げしたんだよ。張り紙しといたろ」
「今年でもう三度目だぞ」
「仕方ねえだろうよ」

 叩きつけた小銭が跳ねるのを店主の亡者が慌てて掴む。わかっている。この親父に当たっても仕方がない。こいつも何かしらの罪をすすぐ為に転生もできず、こんな所でぐずぐず働いてるんだ。いや、しかし俺はこいつに金を払ってる。鬼と亡者の領分てものはないのか? この店も昔は地獄の妖がやっていたのだろうが、あの「スリム化」以降ばたばたと店は潰れ、空き店舗をこんな亡者が我が物顔で切り盛りする。
 しかし何はともあれ俺たちは酒を飲むし、こいつらはキチンと上前を納めるから、お上はこれ幸いという顔で無視を決め込んでいる。

「この頃はよ、死者を弔う人間が減ってきてるそうだからな。死んだらそれっきりなんだろ。そうすると副葬品も入ってこねえ。外貨がなきゃ国は廃れるさ。地獄もおんなじなんだな」
「お前たちはいい。お前たちはいつかは転生できる。俺はずっとここだ。ここは地獄だ。俺はずっと地獄の獄卒だ」
「そう言いなさんなよ。俺は生前もちんけな店の親父ぃやってたけどよ、上もまあ碌でもない所だったぜ。旦那方はいいお客だよ。カッとなって殴らねえし」
「勝手に亡者への責苦を加えれば減俸だ」
「じゃ本音は殴りたくて仕方ねえのか」
「……さあ」
「でも旦那は良い方だよな。水子の石を崩す担当なんだろ。釜茹でだの火責めだのを担当してる兄さん達が三途の川観光でたまに来るけどよ、暴れる亡者さん達をとっ捕まえて沸騰する油だの燃え盛る炎だのに連れてくわけだから、もう手も足も凄くってさ」

 俺は答えずに店を出た。軒先の赤提灯のぼんやりした光に自分の手をかざしてみた。
 なるほど、綺麗な手だった。

 ◯

 小野塚小町はああ言ったが、戎瓔花は諦めてなどいなかった。初めは水子たちの安心と、退屈を慰める話題作り程度の気持ちだったはずが、いつの間にか絶対にあの妙な鬼の正体を暴いてやるとその気になっていた。

「こうなったら真っ向勝負だわ」

 どうせあの鬼の来るタイミングはわかっている。囮作戦続行だった。瓔花は前と同じ時間帯に、同じエリアで、何食わぬ顔をして他の水子達と石を積んで待った。

「一つ積んでは父の為え……二つ積んでは母の為え……三つ積んでは……」

 獄卒の気を引けるよう歌まで歌って待った。水子の歌。瓔花はけれど、あまりこの歌に納得していなかった。
 確かに水子が石を積むのは小町に言われるまでもなく、親に先立つ不幸を贖う為なのかもしれない。だからこそ父の為、母の為と泣く泣く歌いながら石を積む。父上恋し、母上恋しと咽び泣きながら咎を負う。
 それが水子達の領分。それが戎瓔花の領分である。
 でもそれはあくまで領分であって、誰かが勝手な決めた都合であって。
 別に領分なんて関係なくて……ただ楽しいから石を積んではいけないの? 瓔花はそんなことを思いながら歌を歌っていた。それこそ歌を歌うのだって、今ばかりは鬼の耳目を引く為ではあるが、普段は何の意味もない。ただ歌いたいから歌うのだ。父の為、母の為、と思いながら歌っても構わない。けれども音律は平等だ。言葉は言葉の領分を持つ。歌は歌の領分を持つ。心は心の領分を持つ。瓔花は骨も不確かな水子の霊かもしれないが、他のどの水子だって、一人残らず心だけは持ってきている。
 彼らには彼らの領分がある。
 ふと気がつけば瓔花の周りの子供達も歌を歌っている。瓔花はこの子達が大好きだった。確かにほとんどの子は世界の明るさを知らず、あるいは微かに垣間見ただけだったかもしれないが、心だけは一人前だ。むしろその生の短かったが故に、その魂は太く濃い。
 小町の言う通り、瓔花は領分を踏み越えようとしているのかもしれない。けれども、この子達は小町の考えよりずっと強い。この試みの全ては最後には素晴らしい冒険譚になって、皆の心を力付けてくれるだろう。
 瓔花は歌い続けた。やがて獄卒のやってくる気配がした。彼女はドキッとなりながらも素知らぬふりで石を手に取った。

(きた……)

 瓔花はキッと振り返り見た。いったいなぜそんな風に私達を睨むのか。塔を崩すだけじゃ飽き足らないのかと、そう問いただすつもりで。
 
「ねえっ!」

 すっと突き出た棍棒の先が石の塔を打ち崩した。儚い音を立てて石ころが転がった。

「こんな物では功徳足り得ぬ。積み直せ」

 そうして鬼は去っていく。次の子の塔を崩す為。
 いつも通りの文句だ。水子達に課された罪と罰を体現するための決まり言葉。瓔花は去っていく鬼を見つめてみた。鬼の容姿の違いなんてピンとは来ない。でも、例のあの変質者みたいな鬼と違うことくらいはわかる。なにせあの鬼の纏っていた、刺すような苛立ちの気配が無かったから。厳しく振る舞い、恐ろしい言葉を吐き出しても、それは役割に徹しているだけだとわかる。
 あの鬼は来なかった。瓔花は憮然として転がった石に手をかけ、また、積み直し始めた。

 ◯

「異動、ですか……」

 予感はあった。いつかこんな日が来るだろうという予感。早かったとも言えるし、随分と遅かったなとも思える。なにせ獄卒の勤めとは永遠に続くのだ。永遠の前にはどんな時間もカスのようなものだ。
 俺は曖昧にうなずいた。この頃急にシフトから外された時点で察しはついていた。上役はわざとらしい笑みを浮かべていた。

「君はこれまでずっと賽の河原勤務だったかね」
「はい」
「そうかそうか。それじゃ今までよくやってくれたな……ここの仕事はきつかっただろう」

 上役の猫撫で声が右から左に抜けていく。この鬼も昔はもっと鬼のような鬼だったはずだ。が、この頃は何かとうるさくなった。いっそ怒鳴りつけられた方がマシだが、そうしたことはこの上役の領分に含まれなくなった。両分を踏み越えれば降り注ぐのは厄災のみだ。誰もそんな事は望まない。
 そうとも。上役は獄卒の末端を正常に機能させる。末端の俺たちは地獄のシステムを正常に機能させる。それができなくなったなら、わざわざ直すよりは交換する方が手っ取り早く効率的だ。効率、というのがここ数百年の地獄のキラーワードなんだ。
 俺はもう一度うなずく。

「異動先はどこになるんでしょう」
「追って通達がいくだろう。それとも希望先があるかな」

 どこだって同じだ。どこだって獄卒の末端が任される仕事は、昼に手ずから穴を掘り、夜に手ずからそれを埋めるようなものだ。上役は「もう行っていい」という感じで手元の書類を取り上げた。俺は退出しかけたが、何かどうしようもない衝動に行手を塞がれた。
 いや、そんなことすべきじゃない。俺の領分を超えた話だ。そう思うほど腹の底が熱くなった。

「一つ聞いていいですか」

 声に出すともう引っ込みがつかなくなった。

「……どうした」
「ご迷惑おかけしました」
「いや、迷惑などは」
「俺の勤務態度が悪いってんでしょう。誰かが報告したんです?」
「まあ落ち着きなさい」
「違うんです、怒りたいわけじゃない……俺が、私が、もう長く続けられないことはわかってました」
「君のせいじゃない。賽の河原勤務はきつい仕事だ。子供を苛むのだから」
「しかし我々は鬼ですよ」
「君は若い世代だね。鬼のあり方だって人の世の影響を受ける。ずっと問題にはされてる事だ。私なんぞよりずっと上の立場の、お偉い方々が、何百年もそれを議論している……鬼もまた変質する。地獄が変質し続けるのと同じく」
「いえ……」
「鬼の目にも涙、という言葉があるそうだ。もはや鬼は圧倒的な暴威の化身では無くなってしまったのだろうな。しかしそれを考えるのは私達の領分ではない。いやなに……罪人を責め苛む地獄の施設はまだいくらでもある。同情の必要もない罪人達が掃いて捨てるほどいる!」

 違う。俺は水子霊に同情していたわけじゃない。子供を苛むから胸糞悪いと思っていたわけじゃない。それは……いや、いいんだ。俺は地獄から別の地獄に行くだけだ。文字通り。
 それに実際のところ、亡者達を灼熱やら針山に突き落とす事は、その悲鳴を浴びる事は、俺の手を鬼らしい物にするかもしれない。
 とにかく俺はうなずく。最悪な事は、何よりも避けるべき事は、いよいよ使い物にならないと切り捨てられる事だ。
 地獄からあぶれた獄卒はどうなる? もはやそいつは鬼でもいられない、ぐずぐずした野良の妖怪になるしかない。地獄にはそんなのがごまんといる。そんなのはぞっとしない未来だ。実際に会った事はないが、きっと最低な末路に決まってる。俺は部屋を後にする。その先で、見覚えのない死神に呼び止められた。

「よお。ちょっとツラぁ貸してくれないかい?」

 二言は認めないという雰囲気だ。ぬっと伸びた死神の鎌が剣呑に輝いている。道ゆく獄卒達が我関せずと離れていく。死神に難癖をつけられるなんて面倒事は誰も望まない。

「あんたは……」
「うだうだ言うなよ。一杯奢るからさ」
 
 訳がわからない。ただの獄卒に死神様が奢る理由が見当たらない。それでも俺は首を縦に振った。ともかくも、酒が飲みたい気分だったから。

 ◯

 死神に連れて行かれた先は、結構上等な店だった。普段通うような赤提灯とは全然違う、それでいて飾り気の押し付けがましくない……こんな店があったのか、というのが第一印象だった。料亭って程じゃない。どちらかと言えば庶民的な店だろう。まあ、俺の赤提灯だって悪い訳じゃない……。

「なあ、あんたのことやっと思い出した。その真っ赤な髪、サボり魔で有名な小野塚さんだろ」
「サボってんじゃないよ。英気を養ってるのさ。渡す魂もいないのに気を張ってたら仕方ないだろ」
「俺ら獄卒がそんな事したら一発で解雇だ。噂通り死神衆は裁量権が大きいんだな」
「まだ呑んでもいないのによく喋るじゃないか」
「どうして俺なんかに声かけたんだ」
「あんたに文句を言いたいって奴がいてね、あたいはその仲介」
「なに……」

 そうして通された座敷席で見たものに、俺は魂が飛び出すかと思った。水子の霊が一人、座布団の上にちょこんと座り込んでいる。なぜ? 三途の川をどうやって渡ってきたんだ? 監視担当の連中は何をしてるんだ? 俺が呆然としていると、その水子はキッと眦を決して俺を見上げた。

「ねえ!」
「小野塚さん、なんで賽の河原の子供が地獄(ここ)にいるんだ!」
「この子がどうしても直接話をつけたいって言うからさ」
「誰と、何を……」
「あなたとよ! この変質鬼ー!」
「変質鬼……?」
「まあ座んなよ。一杯奢るって言ったろ」
「私ミルクね」
「あい、あい」
「小野塚さん、これは問題ですよ。水子を賽の河原から連れ出すなんて……」
「思ったよりしつこいねあんたも」

 そりゃあしつこくもなる。ただでさえ俺は目を付けられてる立場なんだ。それをこんな現場まで見られたらどうなる……だが死神はどこ吹く風という態度だし、それが余計に苛ついた。

「あんたは?」
「俺は、だから……」
「呑むの、呑まないの」
「……焼酎、水割り」
「ケチケチしなくてもいいんだよ」
「くそ! 地獄酒だ! 熱燗で!」
「そうこなくちゃ。鬼が焼酎だなんてさ! 熱燗二つとミルク! あと海月の酢の物を」

 そして俺たちは席についた。別に遠慮してた訳じゃない。本当に焼酎が好きなんだ……地獄酒の次に。

「注ごうか」
「死神に酒を注がれる筋合いはない」
「はぁ、こんな美人をつかまえといて……」

 捕まえられたのは俺の方だし、死神の見た目なぞ当てにならない。その気になればどんな姿だって取れるだろう。獄卒は鬼らしい姿を予め定められている。だが死神は服装容姿自由だと聞いている。
 久々に地獄酒を喉に通すと、胸の底がカッと熱くなった。

「それで」

 誰かと酒を飲むのは好きじゃない。自分のことが酷くみみっちく感じられる。実際、そうなんだ。
 水子がミルクを飲み干し、口元をぐしぐしと拭ってから、また俺に向き直る。

「どうして皆を怖がらせたりするの!」

 何のことだからわからないでいると、子供はさらに身を乗り出して俺を糾弾した。怖がらせる? もちろん、獄卒の仕事は亡者を震え上がらせることだ。何の意味もない仕事だ。少なくとも俺にとっては……

「ほら、また」
「なに……」
「怒ってるでしょ。私たち、何かした? 水子の罪に怒ってるの? 私たちが、親不孝をしたって」
「いや……亡者がなぜ亡者として責苦を受けるのかは獄卒の領分の外だ。などと言っても水子にはわからないだろうが」
「どういう意味?」
「わかってもらおうとは思わない」
「誰に怒ってるの。何に怒ってるの?」
「そんな事は関係ない!」
「怒鳴らないでよ! 私だってあんたなんかどうでもいいの! でも水子達が怖がるんだよ! 一生懸命積み上げた功徳の塔を崩して崩してそれでもまだ! 足らないの!?」
「おい、ちょっと瓔花……」
「安心しろ」
「何を!」
「俺はもう異動になる。賽の河原勤務から外されたんだ」

 地獄酒を飲み干す。焼酎を頼むと、死神が遮って二本目を追加した。

「馬鹿正直だな。ここはあたいの持ちだよ。本当に一杯だけだと思ったのか?」
「そう言われた」
「ははぁ……」

 水子は黙りこくったままジリジリ俺を見つめている。唇をとんがらせて、今にも噛みつかれそうだ。いや、もう噛みつかれたようなものだ。
 もちろん恨みがあるだろう。獄卒は水子の霊を苛む。散々、無意味な仕事の果てに、こんなちびっ子の恨みを買っているだけだ。
 勢いで二杯目を頼んだ事を早くも後悔していた。いっそ金だけ置いて出て行こうか。だがその前にまた、水子の霊が叫んだ。

「小町!」
「どうしましたお嬢さん」
「獄卒って話すとみんなこんな感じなわけ?」
「うーん……どうなんだい?」
「俺に聞くなよ」
「この中じゃあんたが一番詳しいだろ」

 そりゃあそうだろうが、だからって聞くものか? 
 俺が黙っていると、まるでその一秒一秒がますます己を責め立てるのだと言いたげに、この子供のまなじりが吊り上がっていく。眼光だけで射殺されそうな心持ちだ。本当に俺たちは、こんなのを相手に威張り散らしていたのか?

「……いや。俺は落ちこぼれだ」
「落ちこぼれ? どういう意味?」
「上司の受け売りだが、鬼もまた変質していくものだそうだ。俺もそうなんだろう。鬼として、獄卒として、当たり前に備えるべき能力を持っていない」
「ふーん……能力って?」
「仕事をする能力さ」
「あんた皆の石積を邪魔してきたじゃない、他の鬼と同じよーに。それが仕事でしょ?」
「そういうことじゃない」
「じゃ、どういうことよ」
「何だってそんなに食いついてくるんだ!」
「あんたが皆を怖がらせたからじゃん!」
「それが鬼の仕事だ!」
「まあまあ、二人とも落ち着きなよ。ったく、あたいったら世話焼きなんだよなぁ」
「そーいうの自分で言うのどうかと思う」
「誰のせいだい? はぁ……獄卒さんよ、あんた水子達の間で噂になってたらしいのさ」
「俺が? どうして」
「凄い形相でジロジロみてくる変質者の鬼がいるって」
「そんな覚えはない」
「うそ! 私も囮調査までしたんだからね! すっごい怖い顔で私のこと睨んできたでしょ!」
「だからそんな覚えはない!」
「うそだ!」
「うそついてどうする!」
「怒鳴るなよ! うるさいな。別にあたいは閻魔様じゃないし、あんたら獄卒衆の上役でもないから、粗探しして突き出してやろうってんじゃない。でもその子が言ってんのも嘘じゃない。あんたは……自覚がないのかい。子供達を睨んでいたそうだが」

 そう言われても本当に覚えなどなかった。なかったが……酒を飲み干す。なかったわけじゃないんだ。吐き出す息が血の池地獄の硫黄煙のように熱い。

「酢の物、食べないのかい。海月の」
「俺は……睨んでたわけじゃない」
「ふーん?」
「ただ、くそ、まるで尋問だな」
「尋問してるのよ」
「この子は怖いよ、多分あんたが産まれるよりずっと昔からあの賽の河原を仕切ってるんだから」
「脅すのか」
「いいから答えて」
「睨んだりするものか! 理解できなかっただけだ。水子の霊は石を積む。俺たちはそれを壊す。それが無限に続く互いの領分だ」
「……」
「それだから理解できない。お前たち知っているか? 人間を壊す方法がある。昼に手ずから穴を掘らせ、夜に手ずから埋めさせる」
「なにそれ」
「人間はその無意味さに耐えられないんだそうだ。だが耐えられなくとも続けさせる。すると人間はその無意味な生に耐えられず、やがて呆気なく壊れる」
「だから?」
「わからないか」
「わかるから、聞いてるの」
「……俺にはわからない。お前たちは、お前は、どうして壊れないんだ。どうして石を積み続けられる。俺たちに壊されるだけだろうに。俺は……同僚たちだってそうだ。賽の河原では、水子も鬼も同じじゃないか! お前たちが穴を掘り、俺たちはそれを埋める。それだけだ。なぜ皆耐えられるんだ? 俺には耐えられない。何故そんな無意味を続けられる? こんなものは地獄だ! 俺は気が狂いそうなんだ!」

 酒はもう空っぽだった。やはり地獄酒は「効く」。気がつけば俺は水子を睨みつけていた。その先で、子供の眼光が俺の視線を真正面から打ち砕いた。

「それだけ?」
「ああ」
「じゃあ……皆を怖がらせるつもりじゃなかったってこと?」
「そうだろうな」

 酷い話だと自覚はしている。どうして石を積み続けられるのかと言われても、他ならぬ俺たちがそれを強いてるのだから。
 それでも……賽の河原で目にする子供たちは……それだというのに、瞳に活力を宿し、何の意味もない石積みに精を出す。時には笑みさえ浮かべる。それこそが、理解できないものだった。

「……瓔花」
「え?」
「私は瓔花よ。戎瓔花。あなたは?」
「下っ端の獄卒に名前なんて無い」
「そうなの?」
「こいつの言ってることは嘘じゃない。名を得る鬼は特別な鬼さ。妖怪(ばけもの)というのはなんでもそうなんだよ」
「ふうん……とりあえず、変質鬼さん」
「さっきも聞いたが何なんだそれは」
「変質者の鬼だから変質鬼」

 閉口する他なかった。水子は……戎瓔花は真顔のまま立ち上がり、口元のミルク髭をぐしぐしと拭い捨てる。

「小町、賽の河原に行きたい」
「もう帰るのかい」
「ううん。変質鬼さんも連れていくの。いいでしょ?」
「おいおい、ここまで連れ出すのだってあたいなりの危ない橋渡ってんだよ!」
「行きたいの」
「瓔花ぁ」
「行きたい」
「はぁ……困ったアイドルだよまったく」

 それから死神は俺の方に向き直ると、赤い唇をひん曲げて尋ねた。

「着いてくるよな?」

 それでようやく俺は、本当に遅すぎたくらいだが、とんでもない誘いに乗ってしまったのだと理解したんだ。

 ◯

 戎瓔花は鼻息も荒く凱旋を果たした。ざわざわと寄り集まってくる水子達の視線が注がれた先は、まず赤い髪の死神。しかしこれはしばしば河原で寝そべっているのを見たことがある。
 それよりも、瓔花が鬼を引き連れてきた! それこそ遥かな大事であった。

「えーか、えーか! その鬼、子分にしたの?」

 誰か調子のいい子供が尋ねたが、瓔花は優しくかぶりを振った。それでも鬼は子分としか思えぬほど静かだった。石積みを崩すときの恐ろしげな気配は毛頭なかった。だからおそらく子供達の誰もこの鬼が、噂の変質鬼だとは気がつかなかっただろう。
 瓔花は手頃な岸辺まで歩みゆくと、ずっとその場に腰を下ろした。小町はよってたかるちびっ子の相手をするのに忙しい(ここでは何もかもが珍しかったから)。唯一、変質鬼だけが憮然と立ち尽くしていたが、瓔花に手招きされて側にかがみ込んだ。

「土台は、なるべく平たくて大きなのを探すのよ」
「何がだ」
「石積みの基礎よ」
「俺に石を積めと言うのか? 水子の霊みたいに」
「そのために着いてきたんでしょ?」

 そんなわけはなかった。変質鬼は訳もわからぬまま連れてこられただけだ。途中、関所をくぐった時は生きた心地も無かった。業務時間外に賽の河原に行く所を見咎められたらどうなるか……けれどもそうはならなかった。死神・小野塚小町の摩訶不思議な力によって関所は呆気なく突破された。なるほど、死神とは斯様にして人の家に入り込み、その枕元に陣取るわけなのだろう……。

「ほら、それ、そこの石がちょうどいいんじゃない?」

 変質鬼は言われるがままそれを掴み、引き寄せると、目の前に転がした。まるで子供の駄々に付き合うかのように。

「次は、基礎よりも小さめの石を積むといいね」
「それくらいわかる」

 ならやってみせろとばかりに瓔花はジロジロと遠慮もなく変質鬼の様子を監視している。鬼の指先が手頃な石を掴み、基礎の上に積んだ。二段目ができた。三段目も同じようにして積んだ。ただの石積みに過ぎない。造作もない仕事だ。
 そうして四段目の石を積んだ。流石に少しぐらつくが、最初に瓔花の選んだ基礎が素晴らしく安定していたおかげで倒壊を免れている。
 変質鬼が五つ目の石を掴んだ。それを塔の頂上に据える。その寸前。立ち上がった瓔花の裸足が石の塔を蹴り壊した。

「……」

 気がつけば、死神から興味を失くした水子達が変質鬼を取り囲むようにして見つめていた。鬼は怖気に囚われた。もしかしたら。
 もしかしたらこの水子霊達は、復讐を企図しているのじゃないか? いつも鬼に苛まれるから、ちょうど弱っている俺のような鬼を見つけて、意趣返しをするつもりじゃないのか? と。
 彼はすでに罠の中に居た。自らの意思も欠いたまま、死神の力によって領分を踏み越えてきてしまった。今ここで逃げ出しても、水子が騒ぎ立てれば遠からず巡回のシフト担当者が来るだろう。今にでも現れるかもしれない。そうしたら変質鬼は言い訳のしようもない。

「まんまと術中にハマったってのか」

 変質鬼は次の一段目を探した。賽の河原にかけられた魔法によって、壊された塔の構成石は塵に還る。当然、そうでなければ罰とならないからだ。
 しかし先ほどの一段目に相応しいような石はもう見つからない気がした。じっとりと鬼の手先が汗ばんでいった。それでも、兎にも角にも石を積んだ。だが震える指先に小突かれたのか、五段目を積む前に塔は独りでに崩れてしまった。

「へたくそー」

 ギャラリーの中から嘲笑が上がる。「あんただって」それをかき消す瓔花の言葉。

「あんただって最初はへたくそだったじゃない」
「……上達するものなのか?」
「当たり前じゃん! ずっと同じ事をしてるんだもの、嫌でも上手くなるよ」
「俺にもそうなれと言うのか」
「え?」
「もう……勘弁してくれ。鬼が憎いのはわかる。だから、」
「そんなんじゃないわ」
「だったらなんのつもりなんだ」
「同じだって言うから」

 変質鬼には瓔花の答えがピンと来ない。それでも何かに圧されるように石を積もうとする。
 その回は、比較的に平らで大きめの石を基礎に置く事ができた。二段目は少し形が悪かったが、首尾よく四段目まで辿り着く。そうして五段目を置こうとする刹那、また、瓔花の砂に汚れた足先が石の塔を破壊した。
 瓔花の丸い瞳が鬼を見た。

「わかったでしょ」
「ああ、確かに俺たちは残酷だ。よくわかった。頭でも下げてほしいのか」
「ちがう! 全然わかってない……あなた言ったでしょ。水子も鬼も同じだって」
「あ、ああ」
「同じじゃないよ」
「……」
「石を積んでもらったのは、単に手っ取り早いと思っただけ。別に私たちと同じ目に遭わせたかったんじゃない。ただ、知って欲しかったの。私たちのやってる事の方がずっと……もっと、もっと、空しいって」

 淡々と語る瓔花の言葉は三途の川の澱みにも負けず滔々と響く。周りの子供達は黙りこくって変質鬼を見つめている。瓔花は手早く四段小石を積み上げると、自分でそれを打ち壊した。

「どうして石を積み続けられるのかって、そう聞かれたから」
「ああ……」
「だから、あなたは私たちを見つめてきたのね」
「そうだ」
「どうしてだと思うのよ」

 それがわからないからこんな事になった。だが「わからない」等と言ってこの恐るべき子供たちが納得すると思えなかった。
 いったい彼は、いや、他の獄卒連中でさえ、自分たちがこんな連中の行いごとを無感情の中で突き崩していると知っていたのだろうか?
 変質鬼は戎瓔花の手を見た。
 流水に落ち込んだように鬼の全身が汗でびっしょりだった。

「それはね、私たちの持ち物が、それだけだからだよ」

 瓔花の声は子供達に告げるように優しい。どっと変質鬼が脱力してへたり込んだ。

「私たちは生まれながらに、ううん、産まれることもなく、あらゆる可能性を取り上げられたから。もちろん賽の河原は責苦のためにある。でもそんなの知ったことじゃない。だって、だってこの河原だけが、ここだけが、石を積むことだけが、その罪が、その罰が、子供のポケットにも入り切るくらいちっぽけな持ち物の全部だから。だから……積むの。遊ぶための道具が河原の石ころしかなくたって構わないんだよ。川の小石が尽きるまでそれを使い尽くすって思う。楽しみ尽くすって思うの。だって」

 そして、シンと静まり返った石の上で、花のひとつも咲かぬステージで、戎瓔花は微笑んだ。

「そうじゃなきゃ嘘だもん」

 ◯

 行きは息苦しかったせいもあり、随分長い旅路に感じたものだが、帰りは呆気ないものだった。死神の技は恐ろしい。こんな連中なら俺たちよりも遥かに高待遇であるのも納得がゆく。
 
「つまらない噂話だが……地獄の支配者には奇妙奇天烈な服を着て、狂った妖精をただ一人の従者とする女神がいるらしい」

 とぼとぼと足を進める俺を死神は振り返らなかった。もう三途の川の関所を抜けた先、いつもの飲み屋街に戻ってきていた。通い慣れた赤提灯はもう灯っていない。あの親父もようやく転生を許されたのか。それとも地獄のノルマに首が回らなくなって逃げ出したのか。

「ようするにだな、この地獄で自由を着こなせるのは力のある者だけだっていう皮肉めいた話だよ。小野塚さん、あんたを見ているとその女神の話を思い出す」
「そりゃあたいが女神みたいに美人だってことかね」
「ただの獄卒に美醜の感覚なんぞないよ」
「地獄も変わったな」
「どう変わろうと地獄は地獄だ」
「ちがいない! 初めておまえさんに共感したよ」

 俺たちはそこで別れることにした。その最後、死神は振り向いて尋ねた。

「瓔花と会ってどうだった?」

 どうもこうもない。俺はそのまま逃げ去ろうとしたが、いくら歩いても歩いても前に進まない。くそ。死神なんぞに目をつけられるものじゃない。

「子供なのは顔つきだけだ」
「見た目は子供、心は大人、ってかい」
「違う。心のことなどわかるもんか……ただ、あいつの手が」
「手?」
「使い込まれた手だった」

 今度はもう常識はずれの足止めを食うこともなかった。実際ひどい目にあったもんだ。あれから、水子共にああだこうだ評価(または罵倒、野次)を受けながら何度も何度も石を積んでみた。上達などしない。石積みに上達も何もあるのか? 地獄は酷い所だ。誰があんな責苦を思いついたんだ? まったくひどい目にあわされた!

「なあ! 鬼の!」

 それにほら、地獄の空は絶望的に赤いじゃないか。

「くよくよすんじゃないよ!」
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コメント



0.150簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.90福哭傀のクロ削除
いい悪いというより好みとか解釈の中での問題で、少しヘイト管理に気になる点があった。水子の在り方よりも鬼の在り方の方が変わってきているところとか、手の描写とかは好きでした
3.100くろあり削除
まだまだ未熟のため、二次創作にけるオリキャラの存在がどれだけ優良かをはじめて理解しました。
主人公の成長物語であることを最初気づけなかったことが幸運でした。まさか変質鬼が正しい側ではなくむしろスリム化の弊害、経済低迷の絶望感が生んだ無気力の代弁者とは。変われる鬼というダブルミーニングにも打たれました。
彼の転属先に明記はないものの、きっと戻してもらえたに違いないと信じています。しっかりと叱ってくれる瓔花ちゃんに励まされました。ありがとうございました。
4.80のくた削除
結局わからないのに、手に関してだけはわかってしまう鬼、というのが非常に印象に残りました
5.100南条削除
面白かったです
無意味に続く終わりない仕事はそれだけで無間地獄ですよね
身につまされました
6.100名前が無い程度の能力削除
着想と丁寧な社会性の描写が良かったです。鬼の独白というか語りが切実でした。
7.90竹者削除
よかったです
10.90東ノ目削除
社会ってままならないものだよねえと思いました