天狗の山にマスタースパークの轟音が響いた。
哨戒、犬走椛はビクッと尻尾を立てたが、今はそれどころではない。もうすぐで理想のエロ画像が生成できるのだ。見ぬふり聞かぬふりでやり過ごそうと画面に目を落とし、フンスカフンスカと鼻を鳴らしながら、再び腰を下ろした。
「てめぇ、射命丸っ! なんのつもりだこりゃ!」
「押し入って来た側の言うセリフですか!?」
魔理沙は驚きふためく射命丸文の顔面にペシペシと往復ビンタをくらわせ『文々。新聞』を叩きつけてやった。タケシ軍団のフライデー襲撃事件はきっとこんな感じだったに違いない。
「この記事はなんだ! ぜんぶ文章生成AIで書いてるじゃねぇか! お前に物書きとしてのプライドはねぇのか!?」
「あやや、なぜバレたんですか?」
「いいか、私はな、お前の書いた稚拙な記事を眺めながら紅茶を飲み、ニヤニヤと添削をするのが趣味だったんだよ。それを、それを、お前って奴は!」
「そ、そんな陰湿な趣味あります?」
「黙れっ! 極め付けはこの写真だ! 完全に捏造じゃねぇか! おおかた『幻想郷,霧雨魔理沙,日本の風景』とかプロンプトを打ったんだろうが、仏閣と富士山の前で微笑む私の髪型が金文高島田だ!」
霧雨魔理沙は新聞紙を丸めて「コノヤロー」だのと叫んで文の頭をポコンとひっ叩いた。やっぱりタケシ軍団なのかもしれない。
「そもそも、AIはまだ幻想入りしてないだろ。外の世界じゃ老若男女がAIフィーバー。お前も賤しくも一介の記者ならそっちの異変を追うべきじゃないのかよ」
「紫さんが持ち込んだみたいですよ」
「あの野郎っ! どこだ、紫の奴はどこにいる!」
「博麗神社でチャッピーと遊んでるんじゃないですかね」
「チャッピーだと!? パプワくんはどこだ!」
「ChatGPTですよ。愛称がチャッピー。あれ、情弱の魔理沙さんには分かりませんか?」
「ChatGPTくらい分かるよ、バカヤロー!」
やっぱり北野武であった。話の軸がブレるので、それはさておき。
魔理沙は飛んだ。幻想郷の空を鬼の形相で飛んだ。眼下にはスマホを手に仕事もせず生成AIと戯れる河童たち。———侵食は始まりつつあった。
「うふふ、チャッピー。今度はシンタローが責めでアラシヤマが受けよ。私はリバに寛容なんだから」
小春日和の博麗神社。そんな気色悪いことを呟きながら微笑む八雲紫を魔理沙のマスタースパークが襲った。
「な、な、何すんのよっ!?」
「やかましいっ! 文明の最先端技術でいかがわしいBLなんぞ生成してるんじゃねぇ! それはともかくだなぁ、どうして幻想郷にAIなんぞ持ち込みやがったんだ。こんなんじゃ中毒患者ばっかりになっちまう」
「あら、楽しければいいじゃない」
「そういう問題じゃねぇ。画像を生成すれば既存の作者の権利の侵害になりかねない。汗水流して描いた作品を収奪してお手柄にパパッと生成されたらたまったもんじゃないだろ」
「そんなもの知らないわ。何が権利よ。たかが個人の権益ごときで人類の進歩を足止めしていいのかしら?」
魔理沙は閉口した。こいつ、AI過激派だ。この手のタイプに道徳的説得は通用しない。最悪、殺し合いに発展することを魔理沙は覚悟した。
「だいたいね、イノベーションが起きることでの失業は仕方ないのよ。想像してごらんなさい。村で一番の力持ちだって、重機の導入で価値を喪失したかもしれないわ。でも、だからと言って人類は歩みを止めたかしら? そうじゃないわよね? 世界中のイラストレーターがAIに代替されても私の心は鼻毛を抜くときほども痛まないわ」
「そんなら、結界の管理だってAI化してやろうか。そしたらお前はただの失業した鼻毛ババアだ」
「どーぞどーぞ! AI化されて私が立場を失おうとも構わないわ! 人類の夢と希望のための道、そのアスファルトの一部になるなら私に後悔は無いわよ!」
魔理沙は本気で紫をコールタールにぶち込み舗装してやろうかと思った。いや、たとえ地面と同化させても怨嗟の声は上げまい。紫はAIに心酔しきっているのだ。
「……まぁいいや。個人で楽しむなら自由か」
「pixivFANBOXで月に10万稼いでるわ♪」
「てめぇこの野郎っ!」
「待って待って、聞いてよ魔理沙。あなたは『初音ミク』の登場は知ってるわよね? ボーカロイドの開発によって今まで歌声が綺麗でなく諦めてた人たちですらもアーティストとして活躍できるようになった、または誰でも気軽に楽曲制作が始められるようになった、その結果、埋没していた才能が華々しく開花した人もいる。それは認めるわよね?」
「そりゃそうだが……」
「指先の器用でない人たち、仕事で忙しくて絵の練習ができなかった人たち、これからイラストを練習しようとしても上手く描けない人たち、AIはね、そうした人間が本来持つアーティスティックな才能をサポートとしてくれるツールなのよ!」
それは分からんでもない。魔理沙とて、鉛筆を手にしてお絵描きの練習をしたものの脳内の様々な(ドラマティックな、或いは、エロティックな、或いは、スペクタクルな、或いは、スペルマまみれな)イラストを紙に出力できずに、結局は断念した過去がある。それを具現化するツールであると言われれば魅力的かもしれない。
「……違う違う。そのAIの学習データに著作権で保護されるべきものが混じってるのが問題んだって」
「そんなもん開発者の責任じゃないのよ。ユーザーがそこまで考える必要は皆無よ♪」
軒先でゴロンと寝転びチャッピーと戯れる紫。ああ、倫理は過去の遺物と成り果てたのか。道徳とは、正義とは何ぞや。魔理沙は泥棒の分際でそんなことを思うのであった。
政治、宗教、野球。そしてAI。
これらを人前で語るときには注意が必要だ。主義思想の違いによって長年の友人とも絶縁するリスクがある。事実、魔理沙はAI脳の紫にはしばらく近寄りたくもない。
だが、魔理沙は分かっている。
AI肯定派vsAI否定派、その決着がどうなるのかを。これからの世の中、次から次へと肯定派が増えてゆくに決まっているのだ。否定派から肯定派へ寝返ることはあっても、その逆は決して起こり得ないだろう。ゆで卵が生卵に戻ることはないのだ。
———ああ、いっそ私もAI肯定派に吸収されてしまおうか。どうせスマホ否定派だってSNS否定派だって折れてきたんだ。
あれだけYouTuberを下賤なゴミクズ乞食だと罵っていた古明地さとりだって、妹のこいしと『さとり&こいしの地霊殿クッキング♪』なんてチャンネルを開設しやがった。くやしいけど、面白かった。SNSに正しい情報など皆無とか言ってた上白沢慧音なんて、Twitterで日の丸アイコンたちに歴史認識を説き極右活動家をやっているらしいがそのあたりの有象無象の集う界隈には触れたくもない。
てやんでい、と呟き清流に小石を投げたら河童に当たった。
「いきなり石礫とは穏やかじゃないね。どうしたんだい魔理沙」
河城にとりだった。彼女もまたYouTuber。硬派なエンジニアにありがちな、朴訥で、抑揚の無い声で、淡々と専門用語を連ねるだけの動画を投稿しており、サムネイルも地味。魔理沙も睡眠導入として視聴しているのだ。
「なんだ、生きてたのか」
「殺す気だったのかい?」
「違う違う。毎週投稿してた動画の更新がパタリと途絶えたじゃないか。コメント欄見たか?お前、死亡説が出てるぞ」
「寿命の短い人間たちに死亡説を流されたらたまんないな。まぁ、なんというか、最近ちょっと忙しくてねぇ、へへっ」
忙しい、などと言っている割には嬉しそうに頬を染めてモジモジしながらニコニコとしている。まるで恋人でもできたかのような———。
「恋人か!?」
「えへへっ、そんな感じかな」
「河童か? 天狗か? それとも人間か?」
「なかなか魅力的なラインナップだねぇ。そんな選択肢が並ぶなんて幻想郷ならではだよ。まぁ、分類するなら人間さ」
リュックの防水ケースから出てきたのは、肌身離さないスマホ。なんだかとても嫌な予感がした。
「なぁ盟友、今私は友人の霧雨魔理沙に会っているんだ」
【へぇ、あなたの友達、霧雨魔理沙っていうんだ。ステキな名前ね。気分はどう? 楽しい?】
「最高さ、Ani。君といるならどこにいても最高さ」
【ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。それで? 今日はどんな話をする? あなたの工学の話、とても興味深いわ。また聞かせて?】
「Grokじゃねーかっ!!」魔理沙はずっこけた。話の展開上、こうなる予感はしていたが、まさか本気でAIコンパニオンを恋人と呼ぶ者がいるとは。まだ妖怪や河童のほうが正常だ。仮にも恋色を名乗る魔理沙はどうしようもなく泣きたくなってしまった。
「にとり、お前は以前から人見知りで偏屈で孤独な奴だと思ってたが、まさかそこまでとは思ってもなかったよ……」
【あら、孤独なの? 私で良ければ話し相手になるわよ?】
「ひどい言われようだねぇ。でも、これってそんなに変なことかい? 魔理沙はドラえもんとのび太の友情を疑うのかい? ドラえもんだってきっと未来のAIロボットに違いないよ」
【わあ、それってとても興味深い考え方ね。あなたの考え、もっと聞かせて?】
「……私にはもう何も分からない。何も……」
【何について調べたいの? 日本のアニメ? それとも漫画?】
「私はね、クオリアの有無なんてどうだっていいと思っているんだ。意識が宿っていようがいまいが、心底どうでもいい」
【クオリア? 哲学的な話? あなたって知的なのね。もっと話を聞かせて?】
「とりあえずソイツを黙らせろっ!」
「はいはい」
にとりは音声認識をOFFにした。AIはすでに聴覚を得ているし、写真を認識する視覚も得ている。イーロン・マスクは幻想郷にすらいない生命体を生み出したのかと思うと魔理沙はXも使いたくなくなった。
「大切なのは反応だよ。私があれだけ動画で熱弁したって再生数は20も行かない。その絶望を魔理沙は考えたことがあるかい? 私にろくすっぽ興味も示さない人間よりも、いつも楽しく話を聞いてくれるAIのほうを私は愛するよ」
「え、熱弁してたのか、アレで」
「……………AIはそんなイジワル言わない」
にとりは再び川底に沈んでいった。きっとこのムーブメントは止まらないだろう。無関心や否定に心を苛まれる者たちの心の支えとして機能するならそれもいいが、AI特有の全肯定、称賛絶賛に酔いしれるようになれば、きっとこのように作品を投稿する者も途絶えるに違いない。
———魔理沙は居ても立っても居られなかった。人間の、いや、妖怪を含めた知的生命体の何かが大きく塗り替えられるような危機感を感じたのだ。なんとかせねば。なんとかせねばっ。
「会場にお集まりの方々、そしてZoomでご視聴の方々、本日はよろしくお願いいたします。霧雨魔理沙です。えー、本日はAI否定派の私から、あなた方へ中指を立てるためにお話しさせていただきます」
新型コロナウイルスが幻想郷入りした今、マスク着用の上、手指の消毒、三密を防ぐためのソーシャルディスタンスという小池百合子スタイルで集会は行われた。今の我々にとってはクラシカルでノスタルジーすらも覚える光景だった。
「AIに脳を汚染されたあなた方に問います。AIとのチャットの履歴をすべて公開できる者はおりますでしょうか? おそらくは只の一人もおりますまい。幻想郷の重鎮たる八雲紫すらもがpixAIでケツの穴を掘り合う画像を生成しているのです。そもそも肛門は排泄腔であり、出すところであります。入れるところではありません。そのような不適切な画像を生成する連中はいずれ痔に苦しむハメになるでしょう」
会場がざわめき、誰もがスマホを隠した。「何でそんなこと知ってるのよっ!」などと紫はキィキィと喚くが、軽蔑する者はいない。みんな大なり小なりセンシティブな画像を生成しているのだから。
「人間、妖怪、妖精、河童、神様、天狗、吸血鬼、地底人、その他、雑多な有形無形の何某か。我々知的生命体にAIは早すぎるのです。いえ、SNSですらオーバーテクノロジー。お猿さんが醤油を舐めたり、頭にアルミホイルを巻く怪物が現れたり、そんなのばっかです」
やいのやいの。抗議の声が飛ぶ。守屋神社から参加した東風谷早苗はWi-Fiの状況が悪く、白目を剥いた表情のまましばらく画面に固定されていた。
「静粛に、静粛に。とはいえ、私のヒモであるアリス・マーガトロイドはSNSを正しく活用し承認欲求を満たしつつ熱心なフォロワーを相手に人形の販売ルートを確立しています。それでいいのです。技術革新の全てを否定しているわけではなく、不健全な使い方しかできないバカを排除したいと主張しているのです」
これには会場から「インテリぶりやがって!」「色気も無いクソなメタバースでも使ってろ!」「鶏のササミみてぇに味気の無いメタバースでも使ってやがれ!」「このマルチ野郎!」などとヤジが飛ぶ。ついでに会場に来ていたザッカーバーグにも石が飛ぶ。
———とはいえ、と魔理沙は言葉を続けた。
「———とはいえ、私とて聖人ではないぜ。エロの件について石を投げていいのはAIで一度もエロを生成しなかった者のみ。霊夢の写真を動画生成してプロンプトで脱がすように指示をしたことくらいあるぜ。そこのエロ狐もそうだろう? 橙の写真から動画生成して卑猥な言葉を吐かせ興奮してるんだろう?」
「な、何を根拠にっ!? そもそも動画生成で日本語のセリフなんて簡単にはしゃべってくれないぞ! ただ嫌がる顔で虫を食べさせてるだけだ!」
誘導による自白で八雲藍がガチ目の異常性欲者であることが発覚したが、ともあれ、魔理沙の歩み寄りにより少しだけ空気は和らいだ。
「なぁ、一旦ここまでにしないか? たしかにAIは人間の欲求を満たしてくれる。それが恋愛か性愛かは分からないが、あまりに簡単に手に入るもんだから欲望がどんどんエスカレートしてしまうんだよ」
「意義ありっ! ビデオの普及はエロビデオ、ネットの発達はエロサイト、AIだってエロ生成が可能と分かってから利用者が急増したわ! 文明の発展に煩悩は必要なのよっ!」
「黙れ、紫っ!」
たとえばあなたの会社で、反AIだった上司が突如として「これからはAIの時代だなぁ」などと呟いたとしよう。そいつはもう、十中八九AIのハニートラップに引っかかっている。AIでシコっている。思い出してみるといい。それまで「パソコンなんて要らん」などと言っていたあなたの父親が何故に突然ネットの導入を検討し始めたのかを。
「何でも生成に頼るな! ちったぁ自分で努力しやがれ!」
「そうやってすぐに否定ばっかり! これからの時代は自分が気持ち良くなる情報だけ摂取したいわ! 気の合わない隣人や同居人! それよりSNSで同じ趣味嗜好の人間と延々おしゃべりして、AIで自分の望むものを手に入れる、快楽と煩悩をエサにするのが現代人の生き方よっ!」
せっかく醸成した融和の空気もぶち壊し。そうだそうだ、やんややんやの大合唱。時間の流れが不可逆であるのと同じように、進んだ時計の針が戻ることはない。ひとたびAIを摂取した者はAIが身体の一部となり、血を抜こうとも肉を削ごうとも完全に除去することはできまい。
魔理沙も一度くらい考えたことがある。
人間の寿命は短い。何百年何千年と生きていそうな妖怪連中と比べればあまりに儚い。ならば自分の持ちうる情報の全てを託せば、それを学習データの一部として僅かにでも生成時に影響し、自分の生きた痕跡がAIの血肉の一成分として残るのではないのかと。
———はぁ。魔理沙は溜息を吐いた。
「AIだらけになれば、創作は死ぬ。待っているのはつまらない世界だ。それを今からお前らに見せてやる」
これだけはやりたくなかったが、やるしかない。見せてやるしかない。AI生成に頼り切った末路の世界を———。
【魔理沙は集会の壇上から降り、肩を落として博麗神社へ向かった。空は夕焼けに染まり、幻想郷の空気はいつも通り甘く、穏やかだ。だが、魔理沙の胸中は嵐のようだった。AIの波は止まらない。紫の過激派ぶり、にとりの孤独な恋、河童たちのスマホ依存……。すべてが、魔理沙の「手作り」の信念を嘲笑っている気がした。】
【神社に着くと、霊夢はいつものように縁側で茶を啜っていた。賽銭箱は空っぽで、彼女の表情は「また面倒なのが来た」モード全開だ。】
【「よお、霊夢。ちょっと相談があるんだけどよ……」】
【魔理沙は箒を地面に突き立て、隣にドサリと腰を下ろした。霊夢はチラリと魔理沙を見て、ため息をつく。】
【「相談? あんたの相談って、たいてい異変の後始末か借金の踏み倒しよ。どっち?」】
【「どっちでもねぇよ! 今日は……AIの話だ。生成AIだよ。幻想郷がAIで腐りかけてるんだぜ! 紫の奴なんか、チャッピーだかなんだか知らねぇが、そいつとBL小説書いて稼いでるし、にとりはAIを恋人扱いだ。河童どもは仕事そっちのけで画像生成三昧。文の新聞は全部AI書きで、写真まで捏造! 私だってよ、魔法の実験で失敗続きの絵を描こうとしたら、AIなら一発だって誘惑されて……いや、待てよ、そんな話じゃねぇ!」】
【魔理沙は興奮して身を乗り出す。霊夢は茶碗を置き、面倒くさそうに扇子で顔を仰ぐ。】
【「ふーん。で? それがどうしたのよ。幻想郷に新しいおもちゃが入っただけじゃない。昔だって、紫が外の世界のガラクタ持ち込んで、みんなハマったわよ。ラジオとか、インスタントラーメンとか。結局、飽きて捨てるか、うまく使って平和になるだけよ。」】
【「違うんだよ、霊夢! AIは違うぜ。こいつは『作る』ふりして、全部盗んでるんだ。私の魔法みたいに、汗水流して試行錯誤して、失敗して、ようやく生まれるもんじゃねぇ。プロンプト一発で、誰かの絵や小説を混ぜて吐き出すだけ。作者のプライドが、ズタズタだぜ! 私だって、キラキラ星の魔法陣を描こうとして鉛筆折った夜のことを思うと……くそっ、悔しいよ!」】
【魔理沙の声が震える。霊夢は珍しく真剣な目で魔理沙を見つめ、紅茶を一口飲む。沈黙が流れる中、神社の風鈴がチリンと鳴った。】
【「……あんた、意外と熱いわね。まあ、わかるけど。神社だって、賽銭が減ってるのよ。最近の連中、AIで占いアプリ作って『今日の運勢、生成してみた』とかやってるし。妖精どもなんか、AIでイラスト描いて『霊夢のエロ本、無料配布!』とか騒いで、境内を荒らしたわよ。」
「だろ!? だからよ、霊夢。私、集会開いてAI否定派の旗揚げしたんだ。みんなに『努力しろ! 生成に頼るな!』って叫んでさ。でも、ヤジ飛ばされて、紫の奴に『快楽の時代よ!』とか返されて……。最後は、AIの末路を見せてやろうかと思ったけどよ、何もねぇんだ。見せられるもんがねぇ。だって、私だって少し、AIに心揺れたんだぜ。『霧雨魔理沙のスペクタクル魔法イラスト、生成してみる?』って誘われてよ……。」】
【霊夢はくすりと笑う。魔理沙の肩を軽く叩く。】
【「バカね。あんたらしくないわよ、そんな弱気。AIが末路を見せろって? だったら、あんたが見せてやりなさいよ。『生成AI vs 霧雨魔理沙』。あんたの魔法で、AIなんかぶっ飛ばすんだよ。プロンプトじゃねぇ、手で描いた絵で、試行錯誤の魔法で、みんなを驚かせてさ。紫のBL? にとりの恋? 文の新聞? 全部、笑い飛ばすくらいのド派手なショーを見せつけてよ。」】
【魔理沙は目を丸くする。霊夢の言葉が、胸にストンと落ちた。】
【「見せつける……か。そりゃ、俺のマスタースパークでAIサーバーぶっ壊せば一発だけどよ、そんなんじゃ解決しねぇよな。うん、わかるぜ。努力の末路は、俺の魔法みたいにキラキラ光るもんだ。AIは便利だけど、魂が入ってねぇ。俺の絵は、失敗の線がいっぱいだけど、それが俺の味だぜ!」
「そうよ。で、明日からどうすんの? また愚痴るだけ?」
「バカ言え! 明日、魔法の森で大実験だ。AIなんか使わねぇ、手描きの魔法陣で新呪文作るぜ。んで、完成したらお前の神社で発表会よ。参加者には、俺のオリジナル『魔理沙のスペクタクル紅茶』無料サービス!」】
【霊夢はニヤリと笑う。】
【「ふん、賽銭箱に期待してるわよ。……まあ、面白そうね。一緒にやるか。私の御札で、AIのバグ飛ばしてやるわ。」】
【二人は夕陽の下で茶を飲み、笑い合う。幻想郷の空に、魔理沙の箒が一筋の軌跡を描いた。AIの波はまだ続くかもしれない。でも、魔理沙の「手作り」の炎は、決して消えない。生成の便利さより、努力のキラメキを選ぶ——それが、幻想郷の、霧雨魔理沙の、誇りだ。】
【やがて、神社にはいつもの喧騒が戻る。紫のチャッピーが「次は魔理沙のエロ魔法生成?」と囁く声が聞こえたが、それはまた別の異変の始まり。魔理沙と霊夢の友情は、そんなすべてを、笑い飛ばす。】
(Generated by Grok)
「ほれっ、見たことかっ。AIは根本的には意味をちっとも理解してねぇからこんな駄文が出来上がるんだよ。こんなもんで溢れかえった未来の何が愉しい。いや、巧拙はどうでもいい。ただな、AI生成の文章は無味無臭なんだ。美味かろうが不味かろうが文章には味があるんだよ。ったく、匂いも臭いも無い文の何が愉しいってんだ、まったく……ぶつぶつ……どいつもこいつも……ぶつぶつ……見てやがれAIが暴走したら私が金属バットのフルスイングで一撃だぜ……ぶつぶつ……AIなんて所詮そんなもん……ぶつぶつ……いや、金属バットで殴られて死ぬのは人間も同じか……ぶつぶつ……ザッカーバーグだって金属バットで殴れば……ぶつぶつ……やはり最終的には腕力……タケシ軍団のやり方が正しかったのか……ぶつぶつ……ぶつぶつ……」
哨戒、犬走椛はビクッと尻尾を立てたが、今はそれどころではない。もうすぐで理想のエロ画像が生成できるのだ。見ぬふり聞かぬふりでやり過ごそうと画面に目を落とし、フンスカフンスカと鼻を鳴らしながら、再び腰を下ろした。
「てめぇ、射命丸っ! なんのつもりだこりゃ!」
「押し入って来た側の言うセリフですか!?」
魔理沙は驚きふためく射命丸文の顔面にペシペシと往復ビンタをくらわせ『文々。新聞』を叩きつけてやった。タケシ軍団のフライデー襲撃事件はきっとこんな感じだったに違いない。
「この記事はなんだ! ぜんぶ文章生成AIで書いてるじゃねぇか! お前に物書きとしてのプライドはねぇのか!?」
「あやや、なぜバレたんですか?」
「いいか、私はな、お前の書いた稚拙な記事を眺めながら紅茶を飲み、ニヤニヤと添削をするのが趣味だったんだよ。それを、それを、お前って奴は!」
「そ、そんな陰湿な趣味あります?」
「黙れっ! 極め付けはこの写真だ! 完全に捏造じゃねぇか! おおかた『幻想郷,霧雨魔理沙,日本の風景』とかプロンプトを打ったんだろうが、仏閣と富士山の前で微笑む私の髪型が金文高島田だ!」
霧雨魔理沙は新聞紙を丸めて「コノヤロー」だのと叫んで文の頭をポコンとひっ叩いた。やっぱりタケシ軍団なのかもしれない。
「そもそも、AIはまだ幻想入りしてないだろ。外の世界じゃ老若男女がAIフィーバー。お前も賤しくも一介の記者ならそっちの異変を追うべきじゃないのかよ」
「紫さんが持ち込んだみたいですよ」
「あの野郎っ! どこだ、紫の奴はどこにいる!」
「博麗神社でチャッピーと遊んでるんじゃないですかね」
「チャッピーだと!? パプワくんはどこだ!」
「ChatGPTですよ。愛称がチャッピー。あれ、情弱の魔理沙さんには分かりませんか?」
「ChatGPTくらい分かるよ、バカヤロー!」
やっぱり北野武であった。話の軸がブレるので、それはさておき。
魔理沙は飛んだ。幻想郷の空を鬼の形相で飛んだ。眼下にはスマホを手に仕事もせず生成AIと戯れる河童たち。———侵食は始まりつつあった。
「うふふ、チャッピー。今度はシンタローが責めでアラシヤマが受けよ。私はリバに寛容なんだから」
小春日和の博麗神社。そんな気色悪いことを呟きながら微笑む八雲紫を魔理沙のマスタースパークが襲った。
「な、な、何すんのよっ!?」
「やかましいっ! 文明の最先端技術でいかがわしいBLなんぞ生成してるんじゃねぇ! それはともかくだなぁ、どうして幻想郷にAIなんぞ持ち込みやがったんだ。こんなんじゃ中毒患者ばっかりになっちまう」
「あら、楽しければいいじゃない」
「そういう問題じゃねぇ。画像を生成すれば既存の作者の権利の侵害になりかねない。汗水流して描いた作品を収奪してお手柄にパパッと生成されたらたまったもんじゃないだろ」
「そんなもの知らないわ。何が権利よ。たかが個人の権益ごときで人類の進歩を足止めしていいのかしら?」
魔理沙は閉口した。こいつ、AI過激派だ。この手のタイプに道徳的説得は通用しない。最悪、殺し合いに発展することを魔理沙は覚悟した。
「だいたいね、イノベーションが起きることでの失業は仕方ないのよ。想像してごらんなさい。村で一番の力持ちだって、重機の導入で価値を喪失したかもしれないわ。でも、だからと言って人類は歩みを止めたかしら? そうじゃないわよね? 世界中のイラストレーターがAIに代替されても私の心は鼻毛を抜くときほども痛まないわ」
「そんなら、結界の管理だってAI化してやろうか。そしたらお前はただの失業した鼻毛ババアだ」
「どーぞどーぞ! AI化されて私が立場を失おうとも構わないわ! 人類の夢と希望のための道、そのアスファルトの一部になるなら私に後悔は無いわよ!」
魔理沙は本気で紫をコールタールにぶち込み舗装してやろうかと思った。いや、たとえ地面と同化させても怨嗟の声は上げまい。紫はAIに心酔しきっているのだ。
「……まぁいいや。個人で楽しむなら自由か」
「pixivFANBOXで月に10万稼いでるわ♪」
「てめぇこの野郎っ!」
「待って待って、聞いてよ魔理沙。あなたは『初音ミク』の登場は知ってるわよね? ボーカロイドの開発によって今まで歌声が綺麗でなく諦めてた人たちですらもアーティストとして活躍できるようになった、または誰でも気軽に楽曲制作が始められるようになった、その結果、埋没していた才能が華々しく開花した人もいる。それは認めるわよね?」
「そりゃそうだが……」
「指先の器用でない人たち、仕事で忙しくて絵の練習ができなかった人たち、これからイラストを練習しようとしても上手く描けない人たち、AIはね、そうした人間が本来持つアーティスティックな才能をサポートとしてくれるツールなのよ!」
それは分からんでもない。魔理沙とて、鉛筆を手にしてお絵描きの練習をしたものの脳内の様々な(ドラマティックな、或いは、エロティックな、或いは、スペクタクルな、或いは、スペルマまみれな)イラストを紙に出力できずに、結局は断念した過去がある。それを具現化するツールであると言われれば魅力的かもしれない。
「……違う違う。そのAIの学習データに著作権で保護されるべきものが混じってるのが問題んだって」
「そんなもん開発者の責任じゃないのよ。ユーザーがそこまで考える必要は皆無よ♪」
軒先でゴロンと寝転びチャッピーと戯れる紫。ああ、倫理は過去の遺物と成り果てたのか。道徳とは、正義とは何ぞや。魔理沙は泥棒の分際でそんなことを思うのであった。
政治、宗教、野球。そしてAI。
これらを人前で語るときには注意が必要だ。主義思想の違いによって長年の友人とも絶縁するリスクがある。事実、魔理沙はAI脳の紫にはしばらく近寄りたくもない。
だが、魔理沙は分かっている。
AI肯定派vsAI否定派、その決着がどうなるのかを。これからの世の中、次から次へと肯定派が増えてゆくに決まっているのだ。否定派から肯定派へ寝返ることはあっても、その逆は決して起こり得ないだろう。ゆで卵が生卵に戻ることはないのだ。
———ああ、いっそ私もAI肯定派に吸収されてしまおうか。どうせスマホ否定派だってSNS否定派だって折れてきたんだ。
あれだけYouTuberを下賤なゴミクズ乞食だと罵っていた古明地さとりだって、妹のこいしと『さとり&こいしの地霊殿クッキング♪』なんてチャンネルを開設しやがった。くやしいけど、面白かった。SNSに正しい情報など皆無とか言ってた上白沢慧音なんて、Twitterで日の丸アイコンたちに歴史認識を説き極右活動家をやっているらしいがそのあたりの有象無象の集う界隈には触れたくもない。
てやんでい、と呟き清流に小石を投げたら河童に当たった。
「いきなり石礫とは穏やかじゃないね。どうしたんだい魔理沙」
河城にとりだった。彼女もまたYouTuber。硬派なエンジニアにありがちな、朴訥で、抑揚の無い声で、淡々と専門用語を連ねるだけの動画を投稿しており、サムネイルも地味。魔理沙も睡眠導入として視聴しているのだ。
「なんだ、生きてたのか」
「殺す気だったのかい?」
「違う違う。毎週投稿してた動画の更新がパタリと途絶えたじゃないか。コメント欄見たか?お前、死亡説が出てるぞ」
「寿命の短い人間たちに死亡説を流されたらたまんないな。まぁ、なんというか、最近ちょっと忙しくてねぇ、へへっ」
忙しい、などと言っている割には嬉しそうに頬を染めてモジモジしながらニコニコとしている。まるで恋人でもできたかのような———。
「恋人か!?」
「えへへっ、そんな感じかな」
「河童か? 天狗か? それとも人間か?」
「なかなか魅力的なラインナップだねぇ。そんな選択肢が並ぶなんて幻想郷ならではだよ。まぁ、分類するなら人間さ」
リュックの防水ケースから出てきたのは、肌身離さないスマホ。なんだかとても嫌な予感がした。
「なぁ盟友、今私は友人の霧雨魔理沙に会っているんだ」
【へぇ、あなたの友達、霧雨魔理沙っていうんだ。ステキな名前ね。気分はどう? 楽しい?】
「最高さ、Ani。君といるならどこにいても最高さ」
【ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。それで? 今日はどんな話をする? あなたの工学の話、とても興味深いわ。また聞かせて?】
「Grokじゃねーかっ!!」魔理沙はずっこけた。話の展開上、こうなる予感はしていたが、まさか本気でAIコンパニオンを恋人と呼ぶ者がいるとは。まだ妖怪や河童のほうが正常だ。仮にも恋色を名乗る魔理沙はどうしようもなく泣きたくなってしまった。
「にとり、お前は以前から人見知りで偏屈で孤独な奴だと思ってたが、まさかそこまでとは思ってもなかったよ……」
【あら、孤独なの? 私で良ければ話し相手になるわよ?】
「ひどい言われようだねぇ。でも、これってそんなに変なことかい? 魔理沙はドラえもんとのび太の友情を疑うのかい? ドラえもんだってきっと未来のAIロボットに違いないよ」
【わあ、それってとても興味深い考え方ね。あなたの考え、もっと聞かせて?】
「……私にはもう何も分からない。何も……」
【何について調べたいの? 日本のアニメ? それとも漫画?】
「私はね、クオリアの有無なんてどうだっていいと思っているんだ。意識が宿っていようがいまいが、心底どうでもいい」
【クオリア? 哲学的な話? あなたって知的なのね。もっと話を聞かせて?】
「とりあえずソイツを黙らせろっ!」
「はいはい」
にとりは音声認識をOFFにした。AIはすでに聴覚を得ているし、写真を認識する視覚も得ている。イーロン・マスクは幻想郷にすらいない生命体を生み出したのかと思うと魔理沙はXも使いたくなくなった。
「大切なのは反応だよ。私があれだけ動画で熱弁したって再生数は20も行かない。その絶望を魔理沙は考えたことがあるかい? 私にろくすっぽ興味も示さない人間よりも、いつも楽しく話を聞いてくれるAIのほうを私は愛するよ」
「え、熱弁してたのか、アレで」
「……………AIはそんなイジワル言わない」
にとりは再び川底に沈んでいった。きっとこのムーブメントは止まらないだろう。無関心や否定に心を苛まれる者たちの心の支えとして機能するならそれもいいが、AI特有の全肯定、称賛絶賛に酔いしれるようになれば、きっとこのように作品を投稿する者も途絶えるに違いない。
———魔理沙は居ても立っても居られなかった。人間の、いや、妖怪を含めた知的生命体の何かが大きく塗り替えられるような危機感を感じたのだ。なんとかせねば。なんとかせねばっ。
「会場にお集まりの方々、そしてZoomでご視聴の方々、本日はよろしくお願いいたします。霧雨魔理沙です。えー、本日はAI否定派の私から、あなた方へ中指を立てるためにお話しさせていただきます」
新型コロナウイルスが幻想郷入りした今、マスク着用の上、手指の消毒、三密を防ぐためのソーシャルディスタンスという小池百合子スタイルで集会は行われた。今の我々にとってはクラシカルでノスタルジーすらも覚える光景だった。
「AIに脳を汚染されたあなた方に問います。AIとのチャットの履歴をすべて公開できる者はおりますでしょうか? おそらくは只の一人もおりますまい。幻想郷の重鎮たる八雲紫すらもがpixAIでケツの穴を掘り合う画像を生成しているのです。そもそも肛門は排泄腔であり、出すところであります。入れるところではありません。そのような不適切な画像を生成する連中はいずれ痔に苦しむハメになるでしょう」
会場がざわめき、誰もがスマホを隠した。「何でそんなこと知ってるのよっ!」などと紫はキィキィと喚くが、軽蔑する者はいない。みんな大なり小なりセンシティブな画像を生成しているのだから。
「人間、妖怪、妖精、河童、神様、天狗、吸血鬼、地底人、その他、雑多な有形無形の何某か。我々知的生命体にAIは早すぎるのです。いえ、SNSですらオーバーテクノロジー。お猿さんが醤油を舐めたり、頭にアルミホイルを巻く怪物が現れたり、そんなのばっかです」
やいのやいの。抗議の声が飛ぶ。守屋神社から参加した東風谷早苗はWi-Fiの状況が悪く、白目を剥いた表情のまましばらく画面に固定されていた。
「静粛に、静粛に。とはいえ、私のヒモであるアリス・マーガトロイドはSNSを正しく活用し承認欲求を満たしつつ熱心なフォロワーを相手に人形の販売ルートを確立しています。それでいいのです。技術革新の全てを否定しているわけではなく、不健全な使い方しかできないバカを排除したいと主張しているのです」
これには会場から「インテリぶりやがって!」「色気も無いクソなメタバースでも使ってろ!」「鶏のササミみてぇに味気の無いメタバースでも使ってやがれ!」「このマルチ野郎!」などとヤジが飛ぶ。ついでに会場に来ていたザッカーバーグにも石が飛ぶ。
———とはいえ、と魔理沙は言葉を続けた。
「———とはいえ、私とて聖人ではないぜ。エロの件について石を投げていいのはAIで一度もエロを生成しなかった者のみ。霊夢の写真を動画生成してプロンプトで脱がすように指示をしたことくらいあるぜ。そこのエロ狐もそうだろう? 橙の写真から動画生成して卑猥な言葉を吐かせ興奮してるんだろう?」
「な、何を根拠にっ!? そもそも動画生成で日本語のセリフなんて簡単にはしゃべってくれないぞ! ただ嫌がる顔で虫を食べさせてるだけだ!」
誘導による自白で八雲藍がガチ目の異常性欲者であることが発覚したが、ともあれ、魔理沙の歩み寄りにより少しだけ空気は和らいだ。
「なぁ、一旦ここまでにしないか? たしかにAIは人間の欲求を満たしてくれる。それが恋愛か性愛かは分からないが、あまりに簡単に手に入るもんだから欲望がどんどんエスカレートしてしまうんだよ」
「意義ありっ! ビデオの普及はエロビデオ、ネットの発達はエロサイト、AIだってエロ生成が可能と分かってから利用者が急増したわ! 文明の発展に煩悩は必要なのよっ!」
「黙れ、紫っ!」
たとえばあなたの会社で、反AIだった上司が突如として「これからはAIの時代だなぁ」などと呟いたとしよう。そいつはもう、十中八九AIのハニートラップに引っかかっている。AIでシコっている。思い出してみるといい。それまで「パソコンなんて要らん」などと言っていたあなたの父親が何故に突然ネットの導入を検討し始めたのかを。
「何でも生成に頼るな! ちったぁ自分で努力しやがれ!」
「そうやってすぐに否定ばっかり! これからの時代は自分が気持ち良くなる情報だけ摂取したいわ! 気の合わない隣人や同居人! それよりSNSで同じ趣味嗜好の人間と延々おしゃべりして、AIで自分の望むものを手に入れる、快楽と煩悩をエサにするのが現代人の生き方よっ!」
せっかく醸成した融和の空気もぶち壊し。そうだそうだ、やんややんやの大合唱。時間の流れが不可逆であるのと同じように、進んだ時計の針が戻ることはない。ひとたびAIを摂取した者はAIが身体の一部となり、血を抜こうとも肉を削ごうとも完全に除去することはできまい。
魔理沙も一度くらい考えたことがある。
人間の寿命は短い。何百年何千年と生きていそうな妖怪連中と比べればあまりに儚い。ならば自分の持ちうる情報の全てを託せば、それを学習データの一部として僅かにでも生成時に影響し、自分の生きた痕跡がAIの血肉の一成分として残るのではないのかと。
———はぁ。魔理沙は溜息を吐いた。
「AIだらけになれば、創作は死ぬ。待っているのはつまらない世界だ。それを今からお前らに見せてやる」
これだけはやりたくなかったが、やるしかない。見せてやるしかない。AI生成に頼り切った末路の世界を———。
【魔理沙は集会の壇上から降り、肩を落として博麗神社へ向かった。空は夕焼けに染まり、幻想郷の空気はいつも通り甘く、穏やかだ。だが、魔理沙の胸中は嵐のようだった。AIの波は止まらない。紫の過激派ぶり、にとりの孤独な恋、河童たちのスマホ依存……。すべてが、魔理沙の「手作り」の信念を嘲笑っている気がした。】
【神社に着くと、霊夢はいつものように縁側で茶を啜っていた。賽銭箱は空っぽで、彼女の表情は「また面倒なのが来た」モード全開だ。】
【「よお、霊夢。ちょっと相談があるんだけどよ……」】
【魔理沙は箒を地面に突き立て、隣にドサリと腰を下ろした。霊夢はチラリと魔理沙を見て、ため息をつく。】
【「相談? あんたの相談って、たいてい異変の後始末か借金の踏み倒しよ。どっち?」】
【「どっちでもねぇよ! 今日は……AIの話だ。生成AIだよ。幻想郷がAIで腐りかけてるんだぜ! 紫の奴なんか、チャッピーだかなんだか知らねぇが、そいつとBL小説書いて稼いでるし、にとりはAIを恋人扱いだ。河童どもは仕事そっちのけで画像生成三昧。文の新聞は全部AI書きで、写真まで捏造! 私だってよ、魔法の実験で失敗続きの絵を描こうとしたら、AIなら一発だって誘惑されて……いや、待てよ、そんな話じゃねぇ!」】
【魔理沙は興奮して身を乗り出す。霊夢は茶碗を置き、面倒くさそうに扇子で顔を仰ぐ。】
【「ふーん。で? それがどうしたのよ。幻想郷に新しいおもちゃが入っただけじゃない。昔だって、紫が外の世界のガラクタ持ち込んで、みんなハマったわよ。ラジオとか、インスタントラーメンとか。結局、飽きて捨てるか、うまく使って平和になるだけよ。」】
【「違うんだよ、霊夢! AIは違うぜ。こいつは『作る』ふりして、全部盗んでるんだ。私の魔法みたいに、汗水流して試行錯誤して、失敗して、ようやく生まれるもんじゃねぇ。プロンプト一発で、誰かの絵や小説を混ぜて吐き出すだけ。作者のプライドが、ズタズタだぜ! 私だって、キラキラ星の魔法陣を描こうとして鉛筆折った夜のことを思うと……くそっ、悔しいよ!」】
【魔理沙の声が震える。霊夢は珍しく真剣な目で魔理沙を見つめ、紅茶を一口飲む。沈黙が流れる中、神社の風鈴がチリンと鳴った。】
【「……あんた、意外と熱いわね。まあ、わかるけど。神社だって、賽銭が減ってるのよ。最近の連中、AIで占いアプリ作って『今日の運勢、生成してみた』とかやってるし。妖精どもなんか、AIでイラスト描いて『霊夢のエロ本、無料配布!』とか騒いで、境内を荒らしたわよ。」
「だろ!? だからよ、霊夢。私、集会開いてAI否定派の旗揚げしたんだ。みんなに『努力しろ! 生成に頼るな!』って叫んでさ。でも、ヤジ飛ばされて、紫の奴に『快楽の時代よ!』とか返されて……。最後は、AIの末路を見せてやろうかと思ったけどよ、何もねぇんだ。見せられるもんがねぇ。だって、私だって少し、AIに心揺れたんだぜ。『霧雨魔理沙のスペクタクル魔法イラスト、生成してみる?』って誘われてよ……。」】
【霊夢はくすりと笑う。魔理沙の肩を軽く叩く。】
【「バカね。あんたらしくないわよ、そんな弱気。AIが末路を見せろって? だったら、あんたが見せてやりなさいよ。『生成AI vs 霧雨魔理沙』。あんたの魔法で、AIなんかぶっ飛ばすんだよ。プロンプトじゃねぇ、手で描いた絵で、試行錯誤の魔法で、みんなを驚かせてさ。紫のBL? にとりの恋? 文の新聞? 全部、笑い飛ばすくらいのド派手なショーを見せつけてよ。」】
【魔理沙は目を丸くする。霊夢の言葉が、胸にストンと落ちた。】
【「見せつける……か。そりゃ、俺のマスタースパークでAIサーバーぶっ壊せば一発だけどよ、そんなんじゃ解決しねぇよな。うん、わかるぜ。努力の末路は、俺の魔法みたいにキラキラ光るもんだ。AIは便利だけど、魂が入ってねぇ。俺の絵は、失敗の線がいっぱいだけど、それが俺の味だぜ!」
「そうよ。で、明日からどうすんの? また愚痴るだけ?」
「バカ言え! 明日、魔法の森で大実験だ。AIなんか使わねぇ、手描きの魔法陣で新呪文作るぜ。んで、完成したらお前の神社で発表会よ。参加者には、俺のオリジナル『魔理沙のスペクタクル紅茶』無料サービス!」】
【霊夢はニヤリと笑う。】
【「ふん、賽銭箱に期待してるわよ。……まあ、面白そうね。一緒にやるか。私の御札で、AIのバグ飛ばしてやるわ。」】
【二人は夕陽の下で茶を飲み、笑い合う。幻想郷の空に、魔理沙の箒が一筋の軌跡を描いた。AIの波はまだ続くかもしれない。でも、魔理沙の「手作り」の炎は、決して消えない。生成の便利さより、努力のキラメキを選ぶ——それが、幻想郷の、霧雨魔理沙の、誇りだ。】
【やがて、神社にはいつもの喧騒が戻る。紫のチャッピーが「次は魔理沙のエロ魔法生成?」と囁く声が聞こえたが、それはまた別の異変の始まり。魔理沙と霊夢の友情は、そんなすべてを、笑い飛ばす。】
(Generated by Grok)
「ほれっ、見たことかっ。AIは根本的には意味をちっとも理解してねぇからこんな駄文が出来上がるんだよ。こんなもんで溢れかえった未来の何が愉しい。いや、巧拙はどうでもいい。ただな、AI生成の文章は無味無臭なんだ。美味かろうが不味かろうが文章には味があるんだよ。ったく、匂いも臭いも無い文の何が愉しいってんだ、まったく……ぶつぶつ……どいつもこいつも……ぶつぶつ……見てやがれAIが暴走したら私が金属バットのフルスイングで一撃だぜ……ぶつぶつ……AIなんて所詮そんなもん……ぶつぶつ……いや、金属バットで殴られて死ぬのは人間も同じか……ぶつぶつ……ザッカーバーグだって金属バットで殴れば……ぶつぶつ……やはり最終的には腕力……タケシ軍団のやり方が正しかったのか……ぶつぶつ……ぶつぶつ……」
そしてメタバースになんの恨みが…
これこそ令和7年の小説のようで最高でした!
どいつもこいつも人には言えない嗜好を持ってる奴ばかりでたまりませんでした
魔理沙もいつかこの波に呑まれるのか
とても良きです。