Coolier - 新生・東方創想話

貝がら姫のアルティメットトゥルース

2025/11/05 20:31:08
最終更新
サイズ
15.89KB
ページ数
1
閲覧数
348
評価数
11/12
POINT
1100
Rate
17.31

分類タグ

 なんだかとってもセンチメンタルで、アンニュイかつ、メランコリックな暮れの秋の昼下がり。

「……はぁ。もう秋も終わりねぇ。つい、こないだ来たばっかりと思ったのに」

 穣子が冬の気配漂う妖怪の山を、一人でぶらぶらしていると、落ち葉のつもった山道に、大きな貝がごろんと転がっているのを見つけました。

「なんでこんなところに貝? しかも二枚貝だなんて」

 もの珍しく思った穣子は、その貝をえっちらおっちらと家に持って帰ることにしました。

 案の定、しぶ柿を食べたような顔の静葉が、出迎えます。

「……まったく。穣子ったら、またこんなの拾ってきて。こんな大っきな貝なんて」
「ねえねえ、姉さん。これ何貝だろ?」
「さあ。たぶん、でっ貝か、きち貝じゃないの」

 と、静葉がどうでもよさそうに、ふざけたことを言っていると。

「キチ貝なんかじゃないよ!」
「うあー!? 貝がしゃべったぁああああっ!?」

 おどろいて、思わず尻もちをつく穣子の目の前で、ぱかりと貝が開いたかと思うと、中からまるで女神のようなブロンドの女の子が、ぺかーっと姿を現しました。

「あらあら。ずいぶんかわいらしい子じゃない。あなた名前は」
「名前? 私は渡里ニナよ! それにしても失礼じゃない。キチ貝って! それってよーするに、頭おかしいってことでしょ!? ひどいっ! ひどすぎるわ! いくら私が、今までウソに踊らされていたからって……!」

 そう言いながらニナと名乗った貝の子は、顔を両手でおさえて、泣くようなそぶりを見せます。

 思わず穣子はつぶやきます。

「……うーん。私ったら、また、ナニやら、いわくありそーなやつ連れてきちゃったみたいねぇ……?」
「まったくもう。穣子ったら、こうやって何でもかんでも拾ってくるのやめなさいよ。イモじゃないんだから」
「それを言うならイヌでしょ!?」
「わかっているなら、尚更やめなさい」

 静葉は、ふて腐れている穣子を見やると、優しくニナに話しかけました。

「……そう。あなたニナっていうのね。私は静葉。静かなる葉と書いて静葉よ。そっちで、ぶーたれているのは穣子。私の妹で、イモの神と書いて穣子」
「ちげーよ!? いきなりウソ教えんな!?」
「……そう、静葉とイモの神(みのりこ)ね。覚えたわ。で、二人とも私をどうする気よ?」
「ほら!? 信じこんじゃったじゃない!? どーすんのよ!? ねえ、聞いて! 私はイモ神じゃなくて……!」

 ピーピー騒ぐ穣子をスルーして、静葉は笑みを浮かべながらニナに優しく告げました。

「……大丈夫よ。安心しなさい。別におそいかかったりはしないから」
「……ほんとうに?」
「ええ、もちろんよ。……ところで、見たところ、あなた何か色々あったみたいね。よければ話を聞かせてくれないかしら」

 静葉の言葉で、少しだけ肩の力が抜けたニナは、素直にこれまで起きたことを、二人に話してくれました。

「……そう、目覚めたばかりだったこともあって、頭に入ってきたウソの声を真に受けてしまい、陰謀論に染まっていたの。それで一度、神社のお世話になろうとしたけど、やっぱり逃げてきちゃったのね」
「……ふーん? ま、仕方ないわねー。あの神社なにかと、うさんくさいし」
「ねえ、静葉、イモの神(みのりこ)私、これから何を信じて生きていけばいいの……?」

 どうやら彼女はワラ……。いや、イモにもすがりたい様子。すると穣子がヒソヒソ声で、静葉に話しかけます。

「……ねえ、姉さんどうする? いっそ、山に返しちゃう? なんかめんどそーだし」
「……そうねえ。たしかにそれも手だけど。……一度でもまやかしに毒されてしまうと、なかなか解毒できないものよ。山に返してもこれからが、きっと苦しいでしょうね」
「そーなの?」
「そうよ。穣子、考えてみなさい。例えばの話、秋が短いのは他の季節を司る者の仕業って説があったとするわ」
「うんうん。ほんとにそうかもしれないけどね?」
「それって私たちからすれば、おあつらえ向きな話でしょ」
「なんでよ?」
「だって何かのせいにしているのって、とても楽でしょ。とらえどころのない悪を作ることで、私たちは心の平穏を得られる。都合の悪いことが起きたら、全てそれのせいにすればいいんだから」
「はぁ。たしかにそうだけど。そんなことしても、なんにもならないんじゃ?」
「陰謀論ってのは、そう言うものよ。ほとんどのものは一割の事実に九割の都合のよい作り話を織り交ぜた、自己満足の創作物なの」
「よーするに、モノ好きたちのヒマつぶしってこと? そんなの付き合うだけムダじゃん」
「そう思うでしょうけど、それが心のよりどころとなり、生温かい沼となるのよ」
「はぁ……。ってゆーか、なんか姉さんやたら詳しいわね? 変なもんでも食った?」
「……前に文が言ってたのよ」
「なーんだ、ブン屋の受け売りか。ま、アイツの言うことも、どこまで本当かわかんないけど……」
「そういうこと。この世界は、常に現と作り話との狭間で揺れ動いているものなのよ。でも、一度でもそういうよく出来たウソに染まってしまうと、なかなか抜け出せなくなっちゃうの。なにせ居心地がいいから……」

 と、そのとき、ずっと口をぽかんと開けたまま、二人の話に聞き耳を立てていたニナが、まるでせきを切ったようにドドドドドドっと話し始めます。

「そうそう! まさにそれっ! それなのよっ! この世界の究極の真実【アルティメットトゥルース】って名乗る声が、目覚めたときからずーっと頭の中で鳴り響いていて! で、その声が言うには、この世には民どもを裏で牛耳ってる財団Bってやつがいるとか! 仕事がつらいのは、わざとオーバーワークさせてヘトヘトにすることで、考えさせなくして、国民を小麦の奴隷にするためだとか! とにかく、とにかく! そんな感じの声がずーっとずーーっとずーーーーーっと、私の頭の中に聞こえてきて、私はそれが本当だと思い込んでしまって! ……それで、よし! ここはみんなのために、この世界の悪と戦わなくちゃいけないって! 私が愚かな民を正しい道へ導く裸の王様、じゃなくて裸足の女神にならなくちゃいけないって思って! ……っていうか、実は今もずっと頭の中で流れているのよ、その声が。だまされるな! この姉妹は、おまえをおとしいれようとしている悪のズッコケ二人組だって。季節をめちゃくちゃにして、全てを壊し、全てをつなごうとしてる破壊者だって――」

 早口で、ハイテンションにまくし立てるニナに対し、思わず二人は、ため息をついてしまいます。

「……あーこりゃ、そーとー重症だわ」
「……ええ、これはなかなか、やっかいね。貝だけあって」

 結局、彼女の独演会ならぬ毒演貝は、夜通しで続けられたのでした。

 □

 そして次の日。

 一晩中、心の内を吐き尽くしたニナは、秋晴れのごとくスッキリとした面持ち。

 対する二人は、まるで今日は立冬の前日か? と、いうくらい、よどんだオーラがにじみ出ています。

「……と、いうわけで、ニナ。あなたは今日一日、穣子と過ごしなさい」
「はーい!」
「この子の、ぱっと見、何も考えてないイモのような生き様を見れば、少しは何か生きるヒントみたいなのが、得られるかもしれないし、得られないかもしれないわ」
「……姉さん。それって、ほめてんの? けなしてんの?」
「決まってるでしょ。ほめてるのよ。さ、それじゃ私は、文のところに行ってくるわね。じゃ、後はまかせたわよ」

 と、言い残し、静葉は足早に天狗の住みかの方へと、行ってしまいました。

「あ! 待ってよ? ……ちっ。さては逃げたな。あの枯葉大魔神ササニシキ」

 穣子は毒づくと、ちらりとニナの方を見ます。
 ニナは何かを心待ちにしているような眼差しを、穣子に向けています。

「……あーもう。そんな目で見ないでってば!? 別に変わったことは、何もしないんだからね?」
「わかったわ。イモの神(みのりこ)!」
「あー、まず、そこからかぁ……! あのね? よく聞いてね? 私の名前はね……?」
「……ん?」

 ――そしておよそ半刻後

「わかったわ! あなたの名前は秋穣子で、豊さを司るイモの神なのね! 覚えたわ!」
「……はぁ。もう、それでいーわよ。……あーつかれた」

 穣子は名前の勘違いを解こうと、なんどもニナに伝えましたが、どうやら真っ先に得た知識が、彼女の脳にすり込まれてしまったようで、イモの神という言葉が、どうしても残ってしまいました。

「それでイモの神、穣子。これからどうするの?」
「あー……。そーね。もうつかれたから、空でも眺めましょ」
「空を……?」
「そーよ。この気持ちのいい、秋の青空を眺めてれば、陰謀論だか、テンガロンだか、テンビリオンだか知んないけど、そのうちどーでもよくなるからさー」
「そうなの……?」
「そうよ。さ、考えるより、まずやってみるのよ!」

 穣子は怪訝そうなニナをむりやり横にさせると、いっしょに縁側で大の字になって、空を眺めはじめました。

 心地よい秋風が、落ち葉をまといながら、二人の体を吹き抜けていきます。

「どーよ。気持ちいいでしょ?」
「うーん。わかんないわ」
「ま、そのうちわかるようになるわよ……」

 などと言ってるうちに、穣子はしだいにウトウトと、しはじめ……。

「ちょっとー! 穣子! イモの神ー!」

 ニナに肩を揺すられた穣子は、慌てて目を開けます。

「……ふにゃっ? ……はっ!? あまりにも心地よすぎて……!」
「穣子が寝ちゃったら、なんにもならないでしょ!?」
「あ、うーん。……じゃ、私が寝ないように何か面白い話してよー」
「うん! まかせて! そういうの私の十八番よ! それじゃあね。この話はどうかな? ええとね……」

 ――さて、夕方

「ただいま。穣子」

 穣子は帰ってきた静葉の姿を見るなり、慌てて告げます。

「姉さん! 一大事よ!?」
「どうしたの。もしかしてニナに何かあったの」
「違うわ! よく聞いてね!? この世界には実は、春死ねーしょんって組織があって、そいつらが、季節を牛耳ってるんですって!」
「はぁ……」
「秋が短いのも、春死ねーしょんの仕業なんだって! ニナが教えてくれたわ! どーも、おかしいと思ったのよね。どうして秋だけが他の季節と比べてこんなに短いのかって、ずーっとふしぎに思ってたけど、これでようやく全て繋がったわ! ぜんぶ奴らの仕業だったのよ!」

 目を見開き、鼻息を荒げ、早口でまくし立てる穣子に、静葉は思わず頭を抱えてしまいます。

「ちなみにね! 春死ねーしょんは、名前の通り、まずは春をなくそうとしたらしいけど、うまくいかなかったから、ターゲットを秋に変えたんだって!」
「……それなら、春死ねーしょんじゃなくて、秋死ねーしょんじゃないの」
「……あ、たしかに!?」
「あのねえ。穣子、あなたが陰謀論に引っかかってどうするのよ」
「えっ!? これって陰謀論だったの!?」
「そうよ。そうやって何も考えてないような人が、まんまとひっかかるのが陰謀論なのよ」
「そ、そっか……! 身をもって知ったわ! たしかにこれはキケンね! うんっ!」

 などと、言いながら腕組みをして、何度もうなずく穣子を尻目に、静葉はニナに話しかけます。

「……さてと、ニナ」
「はーい?」
「明日は、そこのイモの神じゃなくて、私と過ごしなさい」
「はーい!」

 □

 そして次の日。

「で、今日はなにをするの? 静葉」

 キラキラとした眼差しで見つめるニナに、静葉は告げます。

「私についてきなさい」
「はーい」

 静葉はニナを妖怪の山へと連れてきました。

 紅や黄に染まる木々の中をひたすすみ、どんどんと山の奥へと向かいます。

 山の奥に向かうにつれて、辺りもひんやりとしてきました。息をすうと鼻の奥がつーんとします。

「……ね、ねえ、静葉。どこまでいくのよー?」
「もうすぐつくわ」

 心細そうなニナを見やり、静葉は更に進みます。すると、しばらくして、山の奥深くの小さな広場へと、たどりつきました。

「ここは……?」

 あたりをきょろきょろと見回すニナに、静葉は笑み浮かべて答えました。

「ここは妖怪の山のもっとも深いところにある、名もなき広場よ。ここは私のお気に入りの一つなの」
「お気に入り……? こんなさみしいとこが?」
「ほら、あれを見なさい」

 そう言って静葉が指で示した先には、鮮やかに色づいて、そびえ立つ大きなモミジの木が。

「わぁ。これはみごと……!」
「そうでしょ。ここにいると身も心も落ち着くの」
「……たしかに、どことなく落ち着く感じするわ。なぜか、声もほとんど聞こえなくなってるし、ピラミッドの中とは大違い……」

 そう言って木に見とれているニナに、静葉は、ふと告げます。

「……この場所は、私にとって『この世の真実』でもあるのよ」
「……へ?」

 思わず目が点になっているニナに、静葉は優しく語りかけました。

「いい、ニナ。『この世の真実』っていうのは、ざわめきや混沌の中にあるのではなく、清らかな静けさの奥底にあるものなの。そう。ここのように」
「……えーと。もしかして、わびさびの世界ってヤツかな? ……さすがに、よくわからないけど」
「……ええ、近いわね。でも風情とかよりも、もっと深い。……もっと根っこにあるものよ。あえて言うならば、……そう、幽玄かしら」
「幽玄……」

 ぽかんと口を開けているニナに、静葉は話を続けます。

「この世界には、目で見えるものだけではなく、気配や心の目で感じ取れるものがあるのよ。……この木は確かにここに在る。けど、ここに在るのは木じゃないのよ」
「え? どう見ても木だけど……。どういうこと……?」

 静葉は、木を見上げると、静かにニナに告げました。

「……ここにあるのは、そう――秋。秋そのもの。秋という概念が具現化したものなのよ。すなわちこれが、私、秋神としての、『この世の真実』なの」
「……えーと。精神論というか、どちらかというとフィロソフィーって感じ? あるいはオカルトっていうか……。うーん」
「ええ。もしかすると、それらに近いのかもしれないわね。……でもね。ニナ。知識だけでは、世の中生きていけないのよ」
「そうなの……?」
「確かに、現れたばかりのあなたが、たくさん知識を得ようとしているのは、それはあなたが、この世界で生きようとしている証。それはとても素晴らしいことよ」
「う、うん。ほめてくれてありがとう。……で、いいのかな?」

 どことなく腰が引けたようなニナに、静葉はふっと笑みを浮かべ告げました。

「ええ。ほめてるわよ。……でもね。ニナ。これだけは言っておくけど、真実というのは、外側から教えられて、軽々しく知れるものじゃないわ」
「え、そうなの? たしかにあの声は、ニセモノだったけど……」
「ええ。真実は常に、己の中に在るものなのよ」

 そのとき、一筋の冷たい風が吹き、モミジの葉が舞い散ります。

 その舞い散った葉を静葉は、そっと、すくうようにして手のひらにのせると、微笑みながらニナに告げました。

「……少なくとも私の真実は、常に私の中にあるわ。私が秋神であり、紅葉神である、『この世の真実』というのは、……そう。言うなれば、心の中を映し出した鏡のように、この現実世界に広がっているの。……ゆえに、この木は秋としての全てを兼ね備えている存在となり得るし、現にそうなっているのよ。もちろん、このモミジの葉も」
「そうなんだ。……うーん、なんかよくわからないわ。なんか、得体の知れないものを、むりやりつかみ取ろうとしてるような、そんな感じがする」

 口に手を当てて、難しい顔をしているニナを見て、静葉は微笑みながら、そっと手のひらの葉を宙へ放ちます。

 葉は風にゆられながら、舞うようにして、どこかへ消えてしまいました。

「……そうね。たしかに、雲をつかむような話かもしれないわね。でも、そこまで感じ取れているだけでも、すでにすごいことよ。そこにすらたどり着けない人たちも、世の中にはたくさんいるのだから」
「そうなんだ……?」
「……ええ。だから、あなたも追い求めなさい。深く考えなさい。自分の存在意義を。自分にとっての『この世の真実』……真の【アルティメットトゥルース】を。幸い、あなたは玉石混淆とはいえ、すでに色んな知識を得ているわ。それは他にはない、大きな強みよ。だからあとは、それを生かして、見聞を広めればいいのよ」
「見聞を広めるったって、どうすればいいの……? 何もアテがないよ……」

 思わずうつむくニナに、静葉は諭すように告げます。

「大丈夫よ。色んな人と交流を深めればいいのよ。この世界で生きている人たちと会って話すことで、色んなものを得ることができるわ。中には経験したくなかったようなことも、きっと出てくるでしょう。けど、そうやって、己の価値観というものは深まっていくの。とにかく、体中を使って色んなものを感じて会得していく。少なくとも、今はそれでいいのよ。焦ることはない。……だって、あなたは、すでにここに在るのだから。あなたの未来は、限りなく、いくらでもあるのよ」

 静葉の言葉を聞いたニナは、何かに気づいたように目を見開きます。
 
「……未来は、いくらでもある……!」


 小さく、しかし力強くつぶやいた彼女を見て静葉は、フッと笑みを浮かべるのでした。

 □

 ――その日の夜。

「……で、その後ニナとは別れたってわけ?」
「ええ、山の中に去って行ったわ。自分の本当の真実を見つけるって言い残してね。ま、少しは解毒になったんじゃないかしら」
「どーせ、姉さんのことだから、まーた小難しいこと吹き込んだんでしょ?」
「よくわかったわね。でも、それなりに知識があるあの子だからこそよ。知識がない者には、まったく響かないでしょうし」
「ふーん……? そうなの?」

 と、言いながら、懐から焼きイモを取り出す穣子に、静葉は思わずため息をついてたずねました。

「……そういえば穣子。春死ねーしょんはどうなったの」
「ん? なんだっけそれ」
「……もう忘れたの。あなたが昨日、自分で言ってた陰謀論よ」
「あー……あれ? あれねー。なんかさー。もうどうでもよくなったわ。なんていうかー。難しいコト考えてるより、イモ食ってる方が幸せだしー……」

 と、寝そべって美味しそうに焼きイモを食べ始める穣子。
 静葉はあきれたように、ぼそりとつぶやきます。

「……まったく。世の中の人たちもあなたくらいシンプルなら、陰謀論なんかに振り回されずに済むのでしょうに」
「なによそれ、どーいう意味よ?」

 と、焼きイモに負けないくらい、頬をぷうっと膨らませる穣子に、静葉はフッと笑みを浮かべると、目を閉じて告げました。

「決まってるじゃない。ほめてるのよ」

 □

 立冬間近の、夜の妖怪の山の山あいにそびえる木々のてっぺんに、ニナは立っていました。

 吹きすさぶ冷たい風が、これから来るであろう、厳しい冬のおとずれを感じさせましたが、金髪をなびかせる彼女の面持ちは、実に晴れ晴れとしていました。

 いつのまにか、彼女の中の例の声は、まったく聞こえなくなり、そのかわり、昼間の静葉の言葉がなんども、彼女の頭の中で鐘のように鳴り響いています。

「……未来はいくらでもある。うん、そうだよね……!」

 そう、つぶやいた彼女の目の前には、おぼろげながらにも、確かに広がっていました。

 ――幾重にも連なる、光り輝く、明るい未来が。
ニナに、さちあれ。
バームクーヘン
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.50簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
静葉からニナへの祝福の言葉、大変感じ入るものがありました。
ニナに幸あれ。
2.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
3.100みやび削除
陰謀論が幻聴のように真実として聴こえて振り回されるニナのキャラが良く伝わってました。静葉のアドバイスは秋神らしく良かったです。
4.100名前が無い程度の能力削除
おもしろーい!
6.90福哭傀のクロ削除
しれっとニナの入った貝ごとお持ち帰りしてる穣子様がパワータイプ。一緒にいたらそうなるだろうという予想通りの穣子様がおかわいらしいこと。今日も秋姉妹のもとにまた厄貝事が紛れ込む
7.100名前が無い程度の能力削除
気持ちの移り変わりというか、さわやかで良かったです。春死ねーしょんという未知の概念好き
8.100名前が無い程度の能力削除
姉さん~~
9.90夏後冬前削除
穣子とニナが合体したらイモガイになるのですげー強いじゃん。これが陰謀ってコトか、というアルティメットトゥルースに氣づいてしまいました
10.90のくた削除
静葉様が素晴らしく神様していました
11.100南条削除
面白かったです
ニナと秋姉妹の化学反応がとてもよかったです
これを機に農業に詳しくなってそう
12.90東ノ目削除
「春死ねーしょん」の発想があまりにも天才のそれでした