Coolier - 新生・東方創想話

汝、菌類を愛せよ!

2025/10/24 22:01:10
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 香り松茸、味しめじ、キノコと名乗ったからにはカゴに入れ。と、いった具合に、今年もキノコの季節がやってきたのです。

「と、いうわけで、短い秋を見越して、山でキノコを採ってきたぜ!」
「……それはいいけど、なんでそれをわざわざ私んとこ持ってくんのよ」
「決まってるだろ。私は、魔法の森以外のキノコは専門外だからさ」
「だからって、なんで私んとこなのって話よ!」
「だって、お前さんはキノコの神さまじゃないか?」
「だから私は豊穣の神だっつーの!?」

 行く当てもなく秋の青空を、とりとめなくボンヤリと眺めていたところに、とつぜん現れた闖入者。そのあまりにもトンチンカンな発言に、秋穣子は、ハァ……。と、思わずため息をもらします。

 その闖入者こと、キノコマニアの霧雨魔理沙は、カラカサタケのように、からからと笑いながら、キノコのたくさん入った背負いカゴを、穣子の前にドズーンと置きました。

「はあ……。こりゃまた、ずいぶん大漁なことで」
「そうだろ? なんせ私はキノコ採りの名人だからな!」

 胸を張る魔理沙に、穣子はジト目を向けつつ、その菌の香り漂うカゴを軽く物色します。

「……ふーん。ま、食べられそうなキノコも、そこそこあるよーね。反対に毒っぽいのも半々と言ったところ?」
「なあ、イモ神。これ全部鑑定してくれよ」
「え? ヤだ。めんどいし!」
「そう言うなって。美味しいヤツ少し分けてやるから」
「少しだけ? それじゃ全然割に合わないわ。あのさ。キノコの鑑定って大変なんだからね?」
「じゃ、半分の少しなら、どうだ?」
「うーん……。もう一声!」
「……よーし、それじゃ出血大サービスだ! 思い切って、少しの半分でどうだ!?」
「お? よーし、それなら! ……って、ちょっと待て。少しの半分って……? それ、もしかしなくても減ってるんじゃ……?」
「ちっ、バレたか」
「ふざけんじゃないわよ!? 何が出血大サービスよ!? 全部没収するわよ!?」

 などと、二人がわちゃわちゃと騒いでいると。

「こーんにーちはー。おイモさーん。……あ、なんかいいニオイするー?」
「げっ。その、貧相で、幸薄そうで、浅ましそうで、ひもじそうで、いかにも飯食ってなさそうなフヌけた声は……!」

 二人の元にフラフラとやってきたのは、泣く子も貧する貧乏神こと、依神紫苑。どうやら、メシをたかりにきた様子。

「うわぁー!?」

 紫苑は、カゴの中の山盛りキノコを見るなり、そのみすぼらしい目をキラキラ輝かせます。

「すごいキノコ、すごいキノコ! ごちそうだ、ごちそうだー! ねえねえ、食べていい? 食べていいっ?」
「ちょっと! キノコをそのまま食べないでよ!? あと、落ち着け!」
「そうだぞ、紫苑、キノコは生で食うと腹こわすぜ?」
「だーいじょーぶーい! 私の胃はダイヤモンドー♪」

 などと歌いながら、紫苑が、キノコの入ったカゴごとかじりつこうとするもんだから、穣子はたまらず……

「……あーもう、わかったわよ! そのまま食われちゃうくらいなら、ぜぇーんぶ鑑定して、おいしいヤツ見つけて、おいしーく調理してやるわっ! そうすればいいんでしょ!? ねぇっ!?」

 と、ヤケを起こしてしまいました。じつに悪いクセです。

「おっ! その言葉待ってたぜ! イモ神!」
「わーい! キノコまつりだー!」
「……はっ!?」

 我に返って後悔しても、あとの祭り。これから始まるのはキノコ祭り。と、いうわけで、やんややんやと、はやし立てる二人の元、穣子による、キノコの鑑定大会が、唐突に始まったのでした。

「なんでこーなるの……」

 □

「……あー。もうそんじゃさー、テキトーにキノコ渡してちょうだいよ。それ見て判断すっからさー」

 穣子は、かったるそうに、どかっとあぐらかいて座り込むと、床に文の新聞紙をバサッと広げました。こういうときにだけ役に立つ新聞です。

 その横で魔理沙は、カゴからキノコを取り出して穣子に渡します。つまり助手役です。

 その様子を、床に寝っ転がって頬杖ついて眺めているのが紫苑。
 ようは、ただの賑やかしです。しかし油断すると、すぐキノコを食べようとするので要注意です。毒キノコでも食わせておけばいいんじゃないでしょうかね。

「ほんじゃ、手始めにこの黄色いキノコを頼むぜ。ちなみに、なんかスゴく粉っぽいぞ!」
「あーこれかー。ちなみに、どこに生えてた?」
「うーん。忘れたぜ」
「それくらい覚えときなさいよ! さっきとってきたばかりでしょ?」
「いやー。なんせ、とるのに夢中だったからな。場所なんてイチイチ覚えとらん!」

 呆れた様子で穣子は、サクッとキノコを見定めます。

「……ま、コイツは十中八九、コガネタケね」
「ほー。これがウワサの……!」
「コイツは基本的に尿素を含んだところに生えるのよ」
「なに!? 尿素だと!? つまり、アンモニアじゃないか!? つまり……。バッチぃじゃないか!」
「そう言うんじゃないわよ。コイツは、そのアンモニアを分解してくれるんだからね?」
「いや、そうは言ってもなぁ……」

 と、難色を示す魔理沙に、穣子は呆れた様子で告げます。

「……あのねぇ。手遅れキノコジャンキーのアンタなら知ってると思うけど、キノコってのは森の分解者なのよ? キノコが生える所ってのは、何かしらが分解されてるの。それを栄養にしてキノコってのは育つんだからね?」
「まあ、確かにイモ神の言うとおりだな。なんせ、腐生菌ってのが存在するくらいだからな。あ、ちなみに腐生菌ってのは、木や落ち葉を分解するキノコのことを言うぞ? 紫苑」
「へー。そーなんだー。ねーねー。おイモさーん。それで、このキノコって美味しいのー?」
「ええ、美味しいわよ。ちゃんと調理すればだけど」
「へー。そーなんだー」
「ただし、周りについてる黄色い粉は、しっかり洗い落とすこと!」
「落とさないと、どうなるのー?」
「お腹痛めるわよ。あと、生で食べたり、食べ過ぎたりしてもダメだからね?」
「そーなんだ? でも、私なら大丈夫だよねー。だって私の胃はダイヤモンドー♪」

 などと、言ってコガネタケを手に取る紫苑。すかさず穣子が阻止して強引にキノコを奪い取ります。

「だーーかーーらーー! あんたはそのまま食おうとすんな!? そんなに何か食いたいんだったら、そこらへんの角材でもかじってなさい!」
「やだよ、角材なんて。カタくて美味しくないもん」
「はっはっは。さすがの貧乏神でも、セルロースまでは消化できないようだな!」
「ま、その貧乏神でも消化できないセルロースを分解するのが、キノコなんだけどね?」
「マジで? キノコつおい!?」
「ああ、そうだな。例えば……」

 魔理沙はカゴの中から、茶色い平べったいキノコを取り出します。

「みろ! このシイタケは、たしか倒木に生えていた。つまり……」
「ちょっとタンマ!」
「なんだよ。イモ!」

 穣子は、そのキノコを魔理沙から奪い取ると、根元を割いて、中を見ます。そして一言。

「あー。やっぱり。これはツキヨタケよ。確かに木を分解するキノコだけど……」

 と、言って「ダメだこりゃ」と、ばかりに手を広げ、首を横に振ります。すると紫苑が首をかしげて

「ねーねー。おイモさん」
「なによ? あと、今更だけど私は、おイモさんじゃないからね?」
「じゃあ、おイーモさん。どーして、さっき根元のところ割いて中見たの?」
「あーそれはね。根元に黒いシミがあるかどうか確かめたのよ」
「シミがあるとどうなるの?」
「毒キノコなのよ。ツキヨタケっていうの」
「月夜のキノコ? ずいぶん風流な名前ね」
「言われてみたら、たしかにそうかも? でも、名前の由来は夜になるとキノコのヒダの部分が、光るところから来てるのよ」
「へー。これ光るんだ?」
「ああ、そうだぜ! なんてったって、光る! 鳴る! デラックス毒キノコだからな!」

 と言って、蒸着! と、いわんばかりのポーズをとる魔理沙に、穣子はすかさずツッコミます。

「別に鳴りはしないわよ!? あと、ヒラタケとかならまだしも、シイタケと間違えて、ツキヨタケなんかとってくるんじゃないわよ!? 何がキノコとりの名人よ! いい? 紫苑、こんなキノコルゲの言うことなんか信じちゃ――」

 そのときです。ぐぅうううううううううううっ! と、いう音が盛大に響き渡ります。紫苑の腹の音でした。

「う。キノコみてたらお腹が……」
「はっはっはっは! ほらみろ! 鳴ったじゃないか!」
「そーいう意味なの!?」
「ねーねー。おイモさーん。このツキヨタケ食べていーい?」
「あーもう、かってにしなさいよ! どうせ、毒だし」

 すると紫苑は「はーい」と、気の抜けた返事とともにツキヨタケをもぐもぐと食べてしまいます。彼女の満腹ゲージが少しだけ回復しました。夜には腹が光るかもしれません。

「……よし、つーわけで次行くわよ! 次!」
「ほいきた!」

 □

 続いて魔理沙は、カゴから大ぶりで真っ白いキノコを取り出します。穣子はそれを一目見ると、すぐ見定めました。

「あ、それはドクツルタケ(テッポウタケ)ね。毒も毒、猛毒の」
「やっぱりか。多分そうだと思ったぜ。こいつは魔法の森にも生えるからな」
「わかってたんなら、わざわざとってくるんじゃないわよ! こんな全身スラッとして真っ白で、ささくれた柄で、輪っか状のツバがあって、根元に膨らんだツボがあるキノコなんて、たいがい毒キノコだってわかってるでしょ!?」
「ああ、もちろんだとも! ちなみにコイツの毒成分は、アマトキシンと言ってな。いわゆる環状ペプチド系に分類されているシロモノだ。主に肝臓や腎臓の細胞を破壊して死に至らしめることで知られているぜ。なお、食べてもすぐには発症せず、半日から一日後くらいに発症するから、コイツの毒のせいと気づかず、処置が遅れて手遅れになることが多いと言われているな。具体的な症状は、まず消化器官にワルさをして、激しい腹痛、嘔吐、下痢などの症状をもたらす。この症状自体は割とすぐに治まるぜ。ところが、だ。治まったと見せかけて、さっき言ったとおり、内臓の組織へ栄養が届くのを阻害し、細胞を次々と死なせ、つまり、ネクローシス(壊死)を引き起こし、多臓器不全に陥らせていくんだ。こうなると、もうほぼ手遅れ。のたうち回って、血ヘド吐いてそのままオダブツになるか、それこそ永遠亭の医者に泣きすがるかのどちらかだ。そういや、永琳のヤツも前に言ってたな。コイツにやられた患者を処置するのはさすがに大変だってさ。そりゃそうだよな。なんせ、細胞が壊されて、使い物にならなくなったスカスカの臓物を、イチから再生させなきゃいけないんだから、いくら月の医者と言えど――」
「ちょっとタンマ!」
「なんだよ。いいとこなのに」
「紫苑がビビッてるって」

 魔理沙が見やると、穣子の言うとおり、紫苑はドン引きと言った具合に青ざめた様子で、ドクツルタケを見つめています。

「……こ、これってそんなに怖いヤツだったんだ……!? フツーに食べてたよ。美味しかったのに……」
「そーいうことだぜ。ほれ、食うか? ダイヤモンドの胃を持つお前さんなら大丈夫だろ?」
「いらないよっ!?」

 全力で拒否する紫苑に、思わず苦笑を浮かべる穣子。

「ま、毒キノコにも美味しいものはあるっていうからねー?」
「ああ、そうだとも! 毒があるからマズいというわけではないからな。うまみ成分を持つ毒キノコも割とあるし」
「そーいや、私も前に食べたけど、たしかに結構美味しかったわね」
「え!? おイモさんもコレ食べたことあるの!?」
「あるわよ。だって、神にキノコの毒なんて通用しないもの」
「マジで! 神さまつおい!?」
「おいおい、そういうお前も神じゃないのかよ? 紫苑」
「わ、私はどちらかというと妖怪寄りだから……」
「へー。そうなのか。そりゃ初耳だぜ」
「ドクツルタケ食って平気な時点で、すでに妖怪超えてるような気がするけどね……?」
「あ、ちなみに女苑は、のたうち回ってたよ」
「そりゃご愁傷様だったな……」
「それじゃ次! 次! ちゃんと食べられるヤツ頼むわよ!?」
「よーし、それじゃ次は――」

 □

 ……といった調子で、キノコ鑑定は、秋の夕日が家の中に射し込むまで、だらだらとグダグダと続きました。
 美味しいキノコは食材にして、それ以外のは紫苑のお腹の中と言った具合です。

 ちなみに鑑定結果はこんな感じになりました。
 ここからは一部ダイジェストでお送りします。

 傘が赤くて、柄が黄色いカラフルなキノコ
魔理沙「どうだ、派手だろ? きっとマツタケの突然変異に違いない!」
 鑑定結果→タマゴタケ(食)
穣子「お! これは美味しいヤツ。でも断じてマツタケじゃないけどね」
紫苑「食べたかったなぁ……」
 (食材行き)

 全身真っ白で傘の真ん中がくぼんだ大ぶりなキノコ
魔理沙「どうだ、白いだろう? きっとマツタケの突然変異に違いない!」
穣子「確かに白いわね」
 鑑定結果→オオイチョウタケ(食)
穣子「ま、普通においしいキノコよ」
(食材行き)

 黒くて大きなキノコ
魔理沙「どうだ。渋いだろ? きっとマツタケの突然変異に違いない!」
 鑑定結果→クロカワ(食)
穣子「なんでもかんでもマツタケの突然変異にするな!? それはそうと、これはちょっとクセのあるキノコなのよね。はい紫苑、あげる」
紫苑「うぇええ……。ほろ苦い」
 (紫苑の腹へ)

 株になって生えていた茶色いキノコ
魔理沙「見ろ! この見事な株を! これは間違いなく食えるぜ!」
穣子「あー……これは(ちょっとかじって)……苦っ。残念! ハズレ!」
 鑑定結果→ニガクリタケ(猛毒)
穣子「はい、紫苑あげる。猛毒だけど、アンタなら大丈夫ね」
紫苑「うぇええ……。苦いぃ」
 (紫苑の腹へ)

 傘の裏が管孔状になってる茶色いキノコ
魔理沙「どうだ? 変わったマツタケだろ?」
穣子「もう突っ込む気も起きないわ……。お? これは(縦に裂いて)」
魔理沙「あ! 何するんだ!? せっかくのカワリマツタケを」
穣子「やっぱりね。見なさい。裂いた断面が、あっという間に真っ青になったでしょ?」
紫苑「わーすごーい! インクみたい」
 鑑定結果→イロガワリ(食)
穣子「こんなんでも食用なのよ」
(食材行き)

 白くて全身トゲのような突起物だらけのキノコ
魔理沙「見た目はいかついな。でもこういうのが案外美味かったりするのがキノコだ」
穣子「そしてまんまと毒にやられると」
 鑑定結果→シロオニタケ(毒)
紫苑「じゃ、いただきまーす」
(紫苑の腹へ)

 一見するとマツタケに見えるキノコ
魔理沙「これは世にも珍しい、雑木林に生えてたマツタケだ! きっとマツタケの突然変異に(以下略)」
穣子「マツタケが雑木林に生えるか!? あんたバカ?」
 鑑定結果→バカマツタケ(食)
紫苑「わあー!? マツタケそっくりー! もーらい!」
穣子「あ、こら!? 勝手に食うな!?」
 (食材→紫苑強奪)

 茶色いキノコ
魔理沙「見ろ! 地味だ!」
穣子「地味ね。でもこれ毒よ」
魔理沙「なんだと!?」
紫苑「あ、じゃあちょーだい!」
穣子「いいわよ。はい」
 鑑定結果→カキシメジ
(紫苑の腹へ)

 傘の裏が網状になってる黄色っぽいキノコ
魔理沙「これは私知ってるぜ。いくちと呼ばれてる奴だ」
穣子「お、珍しく正解!」
 鑑定結果→アミタケ
魔理沙「どんなもんだ!」
穣子「明日は槍でも降るのかしら」
(食材行き) 

 真っ赤な棒状のキノコ
魔理沙「どうだ? 一見毒々しいがこういうのが…」
穣子「捨てなさい」
魔理沙「なんでだよ?」
穣子「いいから捨てろ!」
 鑑定結果→カエンタケ(猛毒)
紫苑「……えーと、もしかして食べない方がいいやつ?」
穣子「まあ、ご自由に? ただ、ドクツルタケより毒性強いけどね」
紫苑「いらないよ!」
(廃棄)


 固くて茶色い大きなキノコ
魔理沙「見ろ! こいつぁ固いぜ!」
 鑑定結果→コフキサルノコシカケ(不食)
穣子「あきらかに食えないもんとってくんな!?」
紫苑「う、固い……。さすがにこんなに固いのは私でも食えないよ……」
 (廃棄)

 ――などなど、なお、その他、名前のわからない大量の雑キノコ類は、ぜぇーんぶ紫苑の腹の中行きとなりました。

「ごちそうさまー!」

 □

 さて、キノコの選別が終わったので、次は料理に入るわけなのですが……。

「で、コレどうやって食うつもりだ? ポテト神」
「いい加減、イモから離れろっつーの。……そうねぇ。手っ取り早いのは鍋だけど」
「鍋か。なんか芸がなくないか?」
「そーなのよねぇ」

 と、考え込んでしまう二人。ちなみに紫苑は、キノコをたらふく食って満足したのか、機嫌良く帰っていきました。
 キノコってカロリーほぼゼロなのに……。プラシーボ効果ってヤツでしょうかね?

「あ、そうだ、うどんとか、どう?」
「お、いいな。じゃあ、さっそく呼んでこようか」
「誰を?」
「決まってるだろ。うどんげだよ」
「アイツなんか呼んでどうするのよ?」
「決まってるだろ。煮込むんだよ」
「アホか!? うどんげ煮込んでも、うどんにはならないわよ!?」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」
「普通にうどん入れればいいでしょ!?」
「たしかにそうだな」
「そうよ!」
「よし、じゃあ、さっそくうどんよこせ!」
「ないわよ」
「なんだと!? この家は、うどんもないのか!? なんだよそれじゃ、今の会話まるっきりムダだったじゃないか。どーしてくれるんだ。貴重な時間をムダにしてしまったぞ!?」
「そんなん知らないわよ!? アンタが勝手に早合点して、勝手にキレ散らかしてるだけでしょうが! それに付き合わされてる私の身にもなってみなさいよね!?」
「ま、それもそうか」
「急に素に戻るな!?」

 と、いうわけで、キノコのバター炒め物とキノコ鍋を作ることになりました。イッツ、オーソドックスです。シンプル・イズ・ベストと言えば聞こえはいいですが、ようするにブナン・オブ・ブナン。何の芸もありません。まさに無芸大食。しかし、そんなことはお構いなしに二人は調理を始めるのでした。

 なお、調理場面は特に面白みもないので割愛することにします。

「ちょっと!? 私のカレイな包丁さばきの見せ所が……!」
「オマエの場合は、カレイじゃなくてヒラメだろう」
「ヒラメな包丁さばきって何?」
「知らん」
「自分で言ったことくらい責任持ちなさいよ!?」

 □

 そんなこんなで、無事、キノコ料理も出来上がり、ついに夕食と相成りましたとさ。

「それはいいんだけど……」
「なんで、オマエらがいるんだ?」
「いやー。スクープのニオイがしたもんで……」
「いやー。ヒマだったもんで……」

 と、いうわけで射名丸文と、にとりの凸凹コンビも食事に混ざることに。
 なお、二人ともそれらしいコトを言ってますが、ようはメシをたかりにきただけです。

「おおっ! これはスクープですね!」

 そう言いながらキノコ鍋を写真におさめる文。

「いいから冷めないうちに食いなさいよ!」

 そう言いながらキノコ鍋をお椀によそって、二人に渡す穣子。するとにとりが。

「おい、穣子!」
「なによ?」
「私は河童だぞ? 河童がキノコなんか食うわけないだろ!」
「じゃあ、どーしろってのよ?」
「きゅうりをよこせ!」
「そんなものはない!」
「なんだと!? この家は、きゅうりもないのか? なんだよそれじゃ、この家に来た意味まるっきりないじゃないか! どーしてくれるんだ!」
「そんなん知らないわよ!? そっちが勝手に期待して、勝手にキレ散らかしてるだけでしょーが!?」

 と、どこかで見覚えのあるやりとりのあと、にとりは渋々自分のバッグからきゅうりを取り出します。

「持ってたんなら始めから、それ食べなさいよ!?」
「はーい、そんじゃいただきまーすっと!」

 にとりの返しをあいさつがわりにして、皆キノコ料理を食べ始めます。にとりはきゅうりです。
 野菜と肉から出た滋養に富んだダシが、ひたひたに染み込んだキノコを皆、うまいうまいと夢中になって食べます。
 にとりもきゅうりに夢中です。

 皆、にっこりマル顔、満面の笑みなのは、きっとそれだけキノコが美味しい証拠なのでしょう。

 決してワライタケやヒカゲシビレタケが入ってるとか、そういうワケではないでしょう。ええ、断じて。

 さて、そんなこんなで夕食が進み、鍋の残った汁に米を投入して作ったシメのキノコ雑炊もなくなりつつあった頃のこと。

 四人に忍び寄る怪しい影が……。

「あら、あなたたち、ずいぶんいいもの食べてるじゃない」
「う! そ、その声は!?」

 一同の元に現れたのは、秋静葉。穣子の姉にしてこの家の主です。一人ハブられてしまったからか、何やら不服そうです。

「まったく、ズルいじゃない。私に内緒でそんなもの食べてるなんて」
「あ、いや……。静葉さん、たまたまですよ? たまたま家に来たらたまたま鍋があって、たまたま夕食の時間になって、たまたまいただくことになってですね……」

 ムリのある言い訳です。

「まったく、姉さんったら、帰ってくんの遅いのよー。もっと早く帰ってくれば、美味しいキノコが待ってたのにさー」

 と、言いながら、穣子は残ってた雑炊を平らげてしまいます。始めから残してあげる気0です。

「私は、実は残しておこうと思っていたんだが、あまりのウマさに気づいたら全部なくなっていたんだ! 本当だぞ? だから悪いのはこのウマすぎたキノコ料理なんだ! 私は絶対断じて神に誓って悪くない!」

 悪いです。

「言っておくけど、私は無罪だからな? だって、きゅうりしか食ってないし!」
「アンタは本当、何しに来たのよ!?」

 と、一様、思い思いに弁明という名の言い訳をしていると、静葉はニヤリと笑みを浮かべて告げます。

「ま、実は私も、もうミスティアのとこで食べてきちゃったから、別にどうでもいいんだけどね」
「だー!? なんだよそれ!?」
「おいおい、冗談が過ぎるぜ……!」

 思わずその場でズッコケてしまう一同。すると静葉が。

「それより、いいもの手に入れてきたわよ。実にタイムリーなやつを」

 と、言って皆に差し出したのは一升ビン。どうやら中にお酒が入っているようですが……?

「言っておくけど、ただのお酒じゃないわ。ミスティア特製のシイタケ酒よ」
「何ぃ!? シイタケ酒だと……!?」

 思わず鼻息を荒げる魔理沙。どうやらキノコ狂の血が騒ぎ出したようです。

「いったいなんだソレは!? ソレは美味しいのか!? 私も飲んでみてもいいか!?」

 と、矢継ぎ早に静葉へ質問します。

「シイタケを焼酎で漬けたものよ。シイタケのうまみがよく染み込んでいて、まろやかで美味しいわ。ええ、もちろんよ」

 静葉は魔理沙の質問攻めをカレイにさばくと、皆に告げました。

「さあ、それではキノコ祭り第二陣といきましょう」

 と、いうわけで、唐突にシイタケ酒の試飲会が始まり、結局、その後、残っていたキノコをアテに、そのまま朝まで宴会コースへとなだれ込んだのでした。よきかな。

 □

 さて、そんな狂熱のキノコ祭から数日後のこと、魔理沙はあるものを持って、再び穣子の元をたずねました。
「よお」
「なによ?」
「いや、こないだは、ありがとうな。……その、楽しかったぜ?」
「そりゃ良かったわね。ま、こっちもそれなりに楽しかったわよ」
「それは何よりだ。で、実はな……」

 そう言いながら魔理沙が取り出したのは、紐で束ねられたお手製の本。

「なにこれ」
「いや、こないだのキノコパーティーが、あまりにも楽しかったんでな。その記憶を頼りにして、ちょっとした本にしてみたんだ」
「あら、いいじゃない」
「そーだろ? コレを読めば、楽しみながらキノコの知識を得ることが出来るってワケさ」
「ふーん。……で、この本、何て言うの?」

 魔理沙は、秋の陽光を浴びながら、自信満々に胸を張って答えました。

「汝、菌類を愛せよ! だ!」
※ おことわり
毒キノコを食べる際は、くれぐれも自己責任で。また、鑑定に自信のないキノコは秋穣子のところまで持ち込んでください。

穣子「だから私はキノコの神さまじゃないっつーの!」
バームクーヘン
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コメント



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1.100みやび削除
鑑定の時に穣子が魔理沙に自然な感じで各キノコの毒性や特徴を伝える所が今作が1番良かった風に思います。シイタケ酒で飲み明かし、後に本を書いて成長した魔理沙も良かったです。
2.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
3.100名前が無い程度の能力削除
おもしろーい!
4.100夏後冬前削除
しっかり判りやすく書かれているキノコトリビアが楽しかったです
5.100南条削除
面白かったです
キノコには詳しくないのに毒性には詳しい魔理沙がよかったです
世もすっかり秋ですな
6.90東ノ目削除
異常に毒への耐性が高い紫苑が面白かったです。貧しくても他の人では味わうことのできない物を賞味できる人生は一周回って幸せなのかもしれないですね
7.100名前が無い程度の能力削除
良かったです。さらっと毒食ってて笑いました。
8.80福哭傀のクロ削除
教育番組見たいな雰囲気を楽しめました
9.90ローファル削除
なんでも松茸にしたがる魔理沙が面白かったです。