ほっと息をつく。日差しの届かぬじめじめとした地底の奥底にて、ただ読書に勤しむ。こういったゆったりとした時間は中々取れない上、読書が趣味であるから、ずっとこの時間が続けばいい、だなんて夢を見る。
私はそんなささやかな幸せを噛み締めていた。
「お姉ちゃん!」
何者かが自室の部屋をノックもなく無造作に開けてきた。あぁ、こいしだ。さよなら私の幸せの時。貴方とは今生の別れかもしれないわ。だって、私の妹であるこいしに巻き込まれたら、ちょっとした休みなんて湯水の如く溶けていくもの。
「…こいし、部屋に入る時はノックをしてちょうだい」
「…?分かった!」
コンコン。ノックの音が部屋に鳴り響く。いやしかし、今回の音は紛れもなく私の妹が、部屋の中から発したものである。
「ノックしてきたよ!」
「あぁ、もう」
私の妹はどうにも愛らしい。そして私はそれに勝てないということを思い知った。
こいしの頭をそっと撫でてみる。にへら、と彼女は微笑んできたのでついこちらの顔も崩れていった。
「それで、要件はなんですか?」
彼女を撫でていると何があったか忘れてしまいそうだったので、これ以上はしないと誓いながら要件を聞くこととした。
「ピクニックに行こうよ!お姉ちゃん!」
ピクニック。ピクニックとはあれか、野外に繰り出しては飯を食べたりスポーツを嗜んだりするあれだというのか。
「えぇ…面倒です。私は本を読む方が性に合っていますから」
流石に外には出たくない。そう思い、断ることにした。
「えぇー。それは困るなぁ」
「何が困ると言うのですか」
「お空とお燐、もう行く気になっちゃったし」
我が妹ながら、やり口が汚い。まだ誰にも話していなければ、この場でこの話を終わらせることが出来ただろうに、このことを第三者に話していた。しかも、こういったイベント事には人一倍乗り気な二人に、だ。
「…とりあえず、その二人も呼んできてください」
私は断ることを諦めて、なんとか穏便かつ楽にピクニックを終わらせることにしよう。そう心に誓うことにした。
「そう言われると思って、実は部屋の外に待っててもらっているんだよねー」
「はぁ」
この妹はどこまで用意周到なのだろう。ここまできたら少し楽しみである。
♢
私は少し、前言を撤回する必要がありそうだ。
「…こいし」
「うん?なに?」
「何故何も決まっていない段階で私を誘ったのですか…?」
そう。あろうことか彼女は立案だけしておきながら、行き先、日程、その他諸々全てを決めていなかったのだ。あぁ、やはり妹というもの、ダメな姉に似るのだろうか、だなんて心にもないことを思う。
そんなことを考えていると、お燐が切り出した。
「その、すみません…さとり様。本来はさとり様を休ませてあげたいと願って私が企画した事なのですが…」
本当の黒幕はここにいたらしい。まぁ、どうせここまできたら乗りかかった船である。ただ…
「私の休暇って、何…?」
本来の趣旨と異なって、私の休みというものは、根本的にどこにも無いのかもしれない。
さて、結局私が幹事を執り行うことになったのだが、その中身は実に悲惨な…というより、意味があるものなのか?と思ったことが多かった。
例えば…
「さとり様!バナナはおやつに入りますか!」
「バナナは果物ですから、おやつというよりかは弁当の中に入れておいた方がいいのでは?」
「なるほど!ありがとうございます!」
やら。
「お姉ちゃん!ピクニックに行ったら久しぶりに弾幕勝負しよ!」
「いいですけど、周りのものを破壊しないように気をつけてくださいね」
「わーい!やったー!」
やら。
「さとり様、できればあたいは地上の素敵な景色を見に行きたいです」
「え、いや…流石にそれは私の一存で決められことでは…」
「そう、ですか…」
「あぁ、いえ。なんとかしてみせます」
「本当ですか?ありがとうございます!」
といったように。兎角、三人とも楽しそうにしてなによりではある。ただ、お燐。貴方は私のことを休ませる気はあるのですか…?と。それだけが、聞きたかった。
それからというもの、様々な問題に追われながらも(尚、その問題は大抵こいしが引き起こしたものである)なんとか当日に漕ぎ着けた。
「…さとり様、大丈夫ですか?」
お燐が心配そうにこちらを覗いてくる。
「まぁ、大丈夫か否かで言えば、否でしょうね」
心身ともに疲労が辛い。
「でも、私が引き受けたことですから。私だけ楽しめないというのも、嫌ですし。行きますよ、燐」
「はい!」
元気に返事をした燐を見て、なんだか私も元気をもらったような気がした。
地上は今、春らしい。温かな陽気が私たちを照らす。やはり見慣れないもので、元々体力に余裕が無い私としては、割と限界に近かった。
それでもなんとか、燐に支えられながら(こいしと空は自由すぎて私のことを気にもかけなかった。ちくしょう)今回の目的地に着く。桜が綺麗な場所らしい。
そんな桜咲く場所にて、腰を下ろす。疲れていたので、深く息を吸って、吐く。深呼吸をするとともに、少しばかり気分も落ち着いた。
ピクニックということで、お弁当を食べては、談笑したり、こいしと空は遊びに走る。燐は猫になって、私の膝の上で丸くなっている。私はそれを眺めていた。
その光景を見て、「あぁ、まぁ。こういったこともたまには悪くない」なんてつい呟いてしまった。
それはきっと、燐に、空に、こいしに、皆に聞かれていたのか。微笑み返された。
それでなんだか、ちょっとした幸せを少し噛み締めてしまうのだから。
まぁ、きっと。多分、おそらく。たまにはこういうのも、悪くない。
後日、紫に「地霊殿の主が許可も得ずに地上に繰り出すだなんて…」とか言われながら、こっぴどく怒られたことは言うまでもない。
やっぱり、前言撤回だ。もう二度と、ピクニックなんて行ってやるもんか。
私はそんなささやかな幸せを噛み締めていた。
「お姉ちゃん!」
何者かが自室の部屋をノックもなく無造作に開けてきた。あぁ、こいしだ。さよなら私の幸せの時。貴方とは今生の別れかもしれないわ。だって、私の妹であるこいしに巻き込まれたら、ちょっとした休みなんて湯水の如く溶けていくもの。
「…こいし、部屋に入る時はノックをしてちょうだい」
「…?分かった!」
コンコン。ノックの音が部屋に鳴り響く。いやしかし、今回の音は紛れもなく私の妹が、部屋の中から発したものである。
「ノックしてきたよ!」
「あぁ、もう」
私の妹はどうにも愛らしい。そして私はそれに勝てないということを思い知った。
こいしの頭をそっと撫でてみる。にへら、と彼女は微笑んできたのでついこちらの顔も崩れていった。
「それで、要件はなんですか?」
彼女を撫でていると何があったか忘れてしまいそうだったので、これ以上はしないと誓いながら要件を聞くこととした。
「ピクニックに行こうよ!お姉ちゃん!」
ピクニック。ピクニックとはあれか、野外に繰り出しては飯を食べたりスポーツを嗜んだりするあれだというのか。
「えぇ…面倒です。私は本を読む方が性に合っていますから」
流石に外には出たくない。そう思い、断ることにした。
「えぇー。それは困るなぁ」
「何が困ると言うのですか」
「お空とお燐、もう行く気になっちゃったし」
我が妹ながら、やり口が汚い。まだ誰にも話していなければ、この場でこの話を終わらせることが出来ただろうに、このことを第三者に話していた。しかも、こういったイベント事には人一倍乗り気な二人に、だ。
「…とりあえず、その二人も呼んできてください」
私は断ることを諦めて、なんとか穏便かつ楽にピクニックを終わらせることにしよう。そう心に誓うことにした。
「そう言われると思って、実は部屋の外に待っててもらっているんだよねー」
「はぁ」
この妹はどこまで用意周到なのだろう。ここまできたら少し楽しみである。
♢
私は少し、前言を撤回する必要がありそうだ。
「…こいし」
「うん?なに?」
「何故何も決まっていない段階で私を誘ったのですか…?」
そう。あろうことか彼女は立案だけしておきながら、行き先、日程、その他諸々全てを決めていなかったのだ。あぁ、やはり妹というもの、ダメな姉に似るのだろうか、だなんて心にもないことを思う。
そんなことを考えていると、お燐が切り出した。
「その、すみません…さとり様。本来はさとり様を休ませてあげたいと願って私が企画した事なのですが…」
本当の黒幕はここにいたらしい。まぁ、どうせここまできたら乗りかかった船である。ただ…
「私の休暇って、何…?」
本来の趣旨と異なって、私の休みというものは、根本的にどこにも無いのかもしれない。
さて、結局私が幹事を執り行うことになったのだが、その中身は実に悲惨な…というより、意味があるものなのか?と思ったことが多かった。
例えば…
「さとり様!バナナはおやつに入りますか!」
「バナナは果物ですから、おやつというよりかは弁当の中に入れておいた方がいいのでは?」
「なるほど!ありがとうございます!」
やら。
「お姉ちゃん!ピクニックに行ったら久しぶりに弾幕勝負しよ!」
「いいですけど、周りのものを破壊しないように気をつけてくださいね」
「わーい!やったー!」
やら。
「さとり様、できればあたいは地上の素敵な景色を見に行きたいです」
「え、いや…流石にそれは私の一存で決められことでは…」
「そう、ですか…」
「あぁ、いえ。なんとかしてみせます」
「本当ですか?ありがとうございます!」
といったように。兎角、三人とも楽しそうにしてなによりではある。ただ、お燐。貴方は私のことを休ませる気はあるのですか…?と。それだけが、聞きたかった。
それからというもの、様々な問題に追われながらも(尚、その問題は大抵こいしが引き起こしたものである)なんとか当日に漕ぎ着けた。
「…さとり様、大丈夫ですか?」
お燐が心配そうにこちらを覗いてくる。
「まぁ、大丈夫か否かで言えば、否でしょうね」
心身ともに疲労が辛い。
「でも、私が引き受けたことですから。私だけ楽しめないというのも、嫌ですし。行きますよ、燐」
「はい!」
元気に返事をした燐を見て、なんだか私も元気をもらったような気がした。
地上は今、春らしい。温かな陽気が私たちを照らす。やはり見慣れないもので、元々体力に余裕が無い私としては、割と限界に近かった。
それでもなんとか、燐に支えられながら(こいしと空は自由すぎて私のことを気にもかけなかった。ちくしょう)今回の目的地に着く。桜が綺麗な場所らしい。
そんな桜咲く場所にて、腰を下ろす。疲れていたので、深く息を吸って、吐く。深呼吸をするとともに、少しばかり気分も落ち着いた。
ピクニックということで、お弁当を食べては、談笑したり、こいしと空は遊びに走る。燐は猫になって、私の膝の上で丸くなっている。私はそれを眺めていた。
その光景を見て、「あぁ、まぁ。こういったこともたまには悪くない」なんてつい呟いてしまった。
それはきっと、燐に、空に、こいしに、皆に聞かれていたのか。微笑み返された。
それでなんだか、ちょっとした幸せを少し噛み締めてしまうのだから。
まぁ、きっと。多分、おそらく。たまにはこういうのも、悪くない。
後日、紫に「地霊殿の主が許可も得ずに地上に繰り出すだなんて…」とか言われながら、こっぴどく怒られたことは言うまでもない。
やっぱり、前言撤回だ。もう二度と、ピクニックなんて行ってやるもんか。
ピクニックに行く地霊殿のみんなが楽しそうで読んでいて癒されました