Coolier - 新生・東方創想話

魔理沙とアリスのスクワット1000回チャレンジ

2025/10/09 17:37:38
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朝靄の残る魔法の森。
柔らかな日差しが木々の間から差し込み、森の小道を淡く照らしていた。
鳥の声が遠くで響く中、静寂を破るように元気な声が響き渡った。

「よーし!スクワット1000回やるぜ!」

霧雨魔理沙が、自宅前の開けた空間で両手を腰に当てて仁王立ちしていた。
麦わら帽子を軽く押さえ、得意げな笑みを浮かべている。

少し離れた場所では、アリス・マーガトロイドが紅茶を片手に座っていた。
彼女は眉をひそめ、まるで「また始まった」とでも言いたげな表情を浮かべる。

「朝から何を騒いでいるの?新しい魔法実験?」
「いや、筋トレだぜ!」
「……筋トレ?」

魔理沙は胸を張った。

「この前、霊夢に腕相撲で負けたんだ。しかも二連敗!こりゃ魔法だけじゃなく、フィジカルも鍛えなきゃって思ってな」
「発想が単純ね……」
「単純こそ最強なんだぜ!」

アリスは呆れたように紅茶を置き、しばらく魔理沙を眺めた。
いつも勢いばかりで、何かに夢中になると周りが見えなくなる。
けれどその真っ直ぐさが、どこか憎めなかった。

「で、なんで1000回?」
「キリがいいだろ? 100回とかじゃ物足りないし」
「根拠がそれだけ?」
「うるさいなぁ。始めるぞ!」

そう言って、魔理沙は勢いよくしゃがみ込んだ。

 ◇

最初のうちは軽やかだった。
魔理沙の声が森に響く。

「いーち、にー、さーん……!」

アリスはその横で人形たちを操りながら、ちらちらと視線を送っていた。
ほんとにやってる……。

やがて五十回を超えた頃、魔理沙の息が少し荒くなる。
額から汗が滴り落ち、土に小さな斑点を作った。

「ねえ、魔理沙。無理する前に休憩したら?」
「わ、私はここからが本番だぜ!」

そして百回を終えた瞬間、彼女は大きく息をついた。
しかしその表情は満足そうで、どこか誇らしげだった。

アリスは肩をすくめる。

「まったく、どうしてそんなに無茶をしたがるのかしら」
「無茶ってのはな、挑戦の別名だぜ」
「……私と使ってる辞書が違うみたいね」

 ◇

二百回目に入ったころ、魔理沙の動きが徐々に鈍くなった。
太ももがプルプルと震え、呼吸も荒くなる。
太陽も天頂に達し、魔理沙を容赦なく照らしている。

「ようやく二百……!」
「まだ八百もあるのよ」
「言うなアリス、心が折れる!」

アリスはため息をつきながらも、そっと彼女の横に立った。

「……仕方ないわね。少し付き合ってあげる」
「おおっ、アリスもやるのか?」
「あなた一人だと途中で寝転がりそうだもの」

二人は並んでスクワットを始めた。
最初はぎこちなかったテンポが、次第にそろっていく。

しゃがんで、立ち上がる。
ふたりの影が草の上で揺れ、同じリズムを刻む。

「……ふふ、妙に息が合ってるわね」
「禁呪の詠唱チームの復活だな」

アリスは少し頬を赤らめた。
永い夜の想い出が、胸を巡った。

 ◇

五百回を越えたあたりで、空気が変わった。
魔理沙は膝に手をつき、息を荒げる。

「はぁ……っ、はぁ……っ」
「もうやめたら? 無理をしても仕方ないわよ」
「いや、ここでやめたら絶対後悔する!」

彼女の目には、燃えるような光が宿っていた。
アリスはその表情を見て、心の中で小さく息をのむ。

ほんと、馬鹿みたいに真っ直ぐ……

魔理沙のそういうところが、羨ましくもあり、眩しくもあった。
自分は常に計算して動いてきた。
無駄を嫌い、効率を優先してきた。
自分の限界を思い知るのが嫌で、全力を出さない癖が付いていた。

でも魔理沙は違う。
どんなに無茶でも、笑われても、挑戦を辞めない。
この子を見ていると、いつか星に手が届くかもしれないなんて、おかしな空想をしてしまう。

「……いいわ、もう少し付き合ってあげる」
「へへっ、助かるぜ」

ふたりは再び並び、ゆっくりと腰を下ろした。
そのたびに、心の距離が少しずつ縮まっていく。

 ◇

六百回を越えると、もはや声に出して数える余裕もない。
遠くからカラスの鳴く声だけが響く。
2人は、いつの間にか互いの呼吸が聞こえる距離まで近づいていた。

魔理沙の視界の端に、アリスの横顔が映る。
汗に濡れた金髪が頬に貼りついていて、それが夕日を反射して美しかった。

「な、なあ……アリス」
「ハァ…… な、なに……?」
「なんで……そんなに、ハァ……冷静なんだ?」
「……え?」

唐突な質問にアリスは一瞬動きを止めた。
視線を伏せる。

「……揺れないように、ハァ…… 見えるだけよ」
「ほんと……か?」

彼女の声は穏やかで、少しだけ寂しそうだった。
魔理沙はそんな表情を見たのが初めてで、胸の奥が少しだけ痛んだ。

 ◇

七百回を超えた頃、森の風が吹き抜けた。
二人の服のリボンはひらりと舞い、木々の葉がざわめく。

魔理沙は疲労の中でも笑っていた。
アリスも、つられて微笑む。

言葉は少なかった。
けれど、その沈黙の中に確かな連帯感があった。

まるで、心と心で会話しているようだった。

八百回を越えたころ、魔理沙の足はガクガクと震えていた。
動かすたびに、筋肉が悲鳴を上げ、激痛が体中を駆け巡る。

「……ぐっ……!」

もう立つことすら苦しい。
汗が顎から滴り落ち、土の上に淡い円を描いた。
アリスも同じく、息を荒げている。

「もうやめても……ハァ…… いいのよ」
「ハァ…… 嫌だ」
「意地、張らないで……ハァ……」
「これが私の……ハァ……生き方なんだ……!」

その言葉に、真っ直ぐな目に、アリスの胸が小さく揺れた。
彼女は黙って、魔理沙の横で動きを合わせる。

二人の影が夕陽に伸びて、重なった。
その重なりは、まるで二つの心のように一体化していた。

 ◇

八百五十回を越えたあたりで、魔理沙は片膝をついた。

「くそっ……足が、もう動かねぇ……」

その背中を見て、アリスはほんの一瞬迷った。
助けたい。辞める理由を差し出して、楽にしてあげたい。
アリスはそっと魔理沙の肩に手を置いた。

「これ以上は……努力じゃなくて破滅よ……ハァ……」

魔理沙は顔を上げる。
その瞳は、涙で潤み、中に宝石を閉じ込めているように輝いていた。

「……私は何か一つくらい、最後までやり遂げたいんだ」
「……今までも充分頑張ってきたわ」
「違うんだよ。途中で諦めた事も、叶ってない事も、沢山ある。魔法も、挑戦も。……でも今日は、絶対に途中で投げ出したくないんだ」

その言葉には、子どものような純粋さがあったが、挑戦という言葉が、アリスの心に小さな影を落とす。
紅と白が、思考の端にちらついた。
アリスは目を閉じ、小さく息を吐いた。

「わかったわ。なら最後まで付き合う」
「アリス……!」

魔理沙の瞳が、少しだけ輝きを取り戻した。

 ◇

九百回を越える頃には、二人とも完全に無言だった。
ただ、呼吸と鼓動の音だけが森に響いていた。

そのとき、魔理沙の膝が限界を迎える。
がくん、と体が崩れ、倒れそうになる。

瞬間、アリスが手を伸ばした。
その小さな手が、魔理沙の腕を掴む。

「っ……!」

触れた瞬間、魔理沙の心臓が跳ねた。
いつも冷静なアリスの手。運動をした為か、とても温かく感じた。

「大丈夫?」
「……ああ。まだいける」

二人の手は離れなかった。
腕を組み、互いに支え合うように動きを続けた。

九百五十回。
九百七十回。
九百八十回。

数を重ねるたびに、痛みと苦しみの中で、不思議な静けさが訪れた。

 ◇

最後の十回を残して、魔理沙は小さく息をついた。

「……あと、十回だ」
「ええ」

ふたりは、互いにうなずき合う。
それ以上の確認はいらない。
「頑張ろう」なんて言葉はもはや野暮だった。

「いーち……!」

声を出すたびに、体が震える。
アリスの瞳はまっすぐ前を見つめ、魔理沙はその姿に力をもらっていた。
声を合わせて、回数を重ねていく。

「……ご……ろく……!」

息が合う。リズムがひとつになる。
痛みの中で、不思議な一体感が生まれていた。

「なな……はち….!」

ゴールに向けて、2人はただ走り続ける。
身体中が悲鳴を上げる中、心だけがを居心地の良さを叫んでいた。

「……きゅう……!」

そして——

「せんっ!!!」

最後の一回。
二人は力の限り腰を落とし、そして立ち上がった。

その瞬間、二人はそのまま崩れるように地面に倒れ込み、息を切らした。

森の空気は静まりかえっている。いつの間にか、すっかり日は落ちていた。
夜風が火照った身体を撫でるのが気持ち良い。

 ◇

「……終わった……よな」
「ええ、確かに……1000回」

魔理沙は仰向けになり、星を見上げた。
夜空には満天の星々が瞬いている。

「なあ、アリス」
「なに?」
「お前がいなかったら、途中でやめてたかも」
「ふふ、知ってる」

アリスは小さく笑い、隣で寝転がった。
二人の肩が、ほんの少し触れた。

「不思議ね」
「何が?」
「ただスクワットしてただけなのに、こんなに気持ちが満たされるなんて」
「達成感ってやつだな」
「それだけじゃない気がするわ」

アリスはそっと目を閉じた。

「……たぶん、誰かと一緒に頑張るって、こういうことなのね」

魔理沙は少し照れくさそうに笑った。

「そうだな。二人の方が、楽しいもんな」

二人の笑い声が、静かな夜風に溶けていった。

 ◇

やがて夜も深まった頃、虫の音が遠くで響く。
魔理沙が立ち上がり、帽子のつばを軽く整えた。

「なあ、アリス」
「なに?」
「明日もやろうぜ」
「……また1000回?」
「明日は腕立てかな」

アリスは呆れたように笑い、肩をすくめた。

「ほんとにあなたって、懲りないわね」
「努力家って呼んでくれ」

アリスはしばらく魔理沙を見つめ、柔らかく微笑んだ。

「……いいわ。明日も付き合ってあげる」

魔理沙は嬉しそうな、照れたような笑顔を浮かべた。
そして二人は並んで歩き出す。
夜の森を抜ける風の冷たさが、二人の距離を近付ける。

その背中を、星が静かに照らしていた。
アリスは800回しかやっていません
やんたか@タイ
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コメント



0.150簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.100竹内凛削除
いい話やんって思ってたら後書きでクソワロタw
4.80名前が無い程度の能力削除
良かったです。
6.100名前が無い程度の能力削除
絵面が面白かったです。
7.80夏後冬前削除
いや、800回もできてる時点で貴様も太ももバキバキ女だからね??? という気持ち
8.100南条削除
面白かったです
地道なことにひたすら没頭する魔理沙たちが目に映るようでした
読んでいて楽しかったです
9.90のくた削除
「〝少し〟付き合ってあげる」と言いつつ最後まで付き合うアリス、と思ったら後書きで笑った
10.100ねつ削除
ただスクワットをやっているだけなのになんでこんなに面白いんだ…
そしてあとがきで笑いました!