Coolier - 新生・東方創想話

幽香、最凶の証明

2006/02/20 10:58:22
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※)オリスペ出ます。



しぶとい寒さもようやく衰え始めたこの季節。
博麗神社の梅にも一様に開花が訪れていた。


霊夢と魔理沙は布団を外したばかりのコタツで対面に座している。
卓上には煎餅と急須。そしてユラユラ湯気を立てる湯飲みが二つ。
この場面だけ見れば、いつもの光景と何ら変わりない。
けれど、いつもと決定的に違うのは、二人に活気がなく雰囲気は暗い。


何よりも、魔理沙も、霊夢も、目元に涙を浮かべているのだから。


「(グスッ)、悔しいぜ。私がこうまで惨敗するなんてな……」

俯きがちの魔理沙はハンカチで涙を拭う。

「そうね……確かに手も足も出なかったわ……」

霊夢も手拭いで目尻を押さえる。


事の発端は二時間前。二人は弾幕勝負で敗北した。
相手は四季のフラワーマスター『風見 幽香』

勝負は時の運、しかも相手は最強クラスの妖怪。
一、二度の惜敗くらい有って当たり前というものだ。

けれど今日の敗北はそんな性質のものではない。

人間として幻想郷最強の部類に入る霊夢と魔理沙ですら、
ワケが判らないうちに調子を崩し、手も足も出ずに負けてしまったのだ。
落ち込むのも無理はない。

二人とも黙りこくっている。
思い出してしまったのだろうか。
再び魔理沙の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。
ソレを見た霊夢は……

「ほら、魔理沙。ちり紙。まだ涙が出てるわよ。…………あと鼻水も」
「おお、すばんな。それじゃ、失礼して(ゴソゴソ)
 …………ふぅ、スッキリしたぜ」

鼻をかみ終えると同時に気持ちが切り替わったのか、
魔理沙にようやくいつもの笑顔が戻った。
それを見る霊夢の表情にも陽が差し始めている。

「さて、こうしてもいられない。『アレ』の対策を練らないとな」

霊夢もコクと頷く。

「そうね、あいつの性格を考えれば、
 此処ぞとばかりに畳みかけてくるでょうしね」

二人は見つめ合い、そして頷く。

「しかし、いま考えただけで身の毛も弥立つな、『アレ』は……」

それは先程、幽香が使用した初見のスペルカード。
今まで見てきた弾幕とは、まったく一線を画すものだった。

「でも、見たところ、それほど強力な妖気は感じなかったのにね」

確かに霊夢の勘は、あのスペルから微量の妖力しか感じなかった。
だから油断していた。
けれど二人は確実にあのスペルカードで調子を崩し、そして敗北した。
それだけは間違いのない事実。

霊夢は再び問う。

「で、アレの正体。なんだと思う?」

魔理沙は暫し考えた後、

「多分、目に見えないほど微細な弾。それを霧の様に操っている……」

「ええ、私も同意見。でも……」

「そう、そこなんだ。弾丸が小さくなれば、それだけ破壊力は減少する。
 だから、そんな微細な弾だったらダメージすら無いはず。
 ……とすると、やはり『毒』か?」

その言葉に霊夢は首を振る。

「いいえ違うと思う。『毒』だったら私の勘がそう告げるもの。
 私の直感を信じるなら、アレはむしろ……」

霊夢は一呼吸置き、先を続けた。

「そう、むしろ在り来たりの自然現象、私にはそう思えたわ……」

二人の意見は再び其処に行き着いてしまった。結局、実態が掴めない。
にもかかわらず、幽香の霧のような微細な弾幕は結界を擦り抜け
二人に致命的なダメージをもたらしたのだ。

その後も二人で意見を出し合うものの、
結局、弾幕の正体は判らないままだった。
そして正体が判らない以上、一つの結論に行き着くのは必至である。

「奴があのスペルカードを使う前に仕留める、コレしかないな」

「同感ね……」 霊夢も魔理沙の言葉に合わせ頷く。


作戦は決まった。


「それじゃ、こうしましょう。
 私が夢想封印でアイツの足を止めている間に、
 魔理沙のマスタースパークで問答無用に射抜く……なんて、どう?」

「……ま、単純だが、それが一番効果的だな。それでいこう」


プランも決まった。


となれば、あとはやがて来る対決の時を、ただ座して待つのみ。
そうと決まれば故事に従うべし。腹が減っては戦は出来ぬ。
魔理沙は目前の煎餅に手を伸ばし、口に放り込んでガリゴリやっていた。

その時だった。

(シッ!!)

突然、霊夢は人差し指を唇に当て、魔理沙の租借を制する。


(来た!!、アイツよ!)


それを皮切りに、二人は雨戸の裏へ駆け込み外の気配を伺う。
同時に、外から聞き慣れた声が聞こえた。

「ほら、出てきなさい、二人とも」

幽香の声だ。

「今日という今日は、しっかりと虐め抜いてあげるから」


顔を見合わせ、頷く二人。
魔理沙は霊夢に指を三本立てて突き出す。
それが合図だと言わんばかりに。


「ほらほら、来ないなら私から行くわよ?」


幽香の挑発を無視し、魔理沙は指を折っていく。





       ──3──





       ──2──





       ──1──





      「「GO!!」」



障子を蹴破って飛び出ると同時に、霊夢は夢想封印を放つ。

幽香めがけて飛び立った光珠は、螺旋を描きつつ彼女へ牙をむく。
霊夢本人はその影に隠れつつ、御札をばらまき距離を詰める。

自動追尾八連光珠+誘導破邪札の波状攻撃。

流石の幽香も回避で精一杯。むしろ避けている事自体が奇跡に思える。
随伴していた『エリー』と『くるみ』など、五秒待たず撃墜され地に伏している。
反撃する余裕など無いはずだ。



と、突然、霊夢の攻撃がパタリと止んだ。



幽香が強力な魔力に気付き、地上を睨む。
その瞬間に見たのは、自らに両手を突きつけている霧雨 魔理沙の姿。


「これは、さっきのお返しだぜ……」

隠蔽しようがないほど膨大な魔力。
それが両手の間に一点集約し、目映いばかりの輝きを放つ。


「いっけぇぇぇぇ、マスタースパァァァァク!!!!!!」


魔理沙の両手から放たれた光の奔流が、幽香の姿を容赦なく飲み込んでいく。
周囲全てを光に包まれて、影絵の様なシルエットを晒す幽香。


「よしっ!!!」魔理沙は呟いた。


「やったわね」空想穴から戻った霊夢も勝利を確信する。


が、

チュインッという音と共に、幽香の周りに魔力が凝縮され
不可侵の防御結界が其の姿を現した。
『花符「幻想郷の開花」』を、喰らいボムに使って切り抜けたのだ。

「そんな……」

「ふふん、喰らいボムを想定していない程、
 集中力を欠いているなんてらしくないわね?
 ……でも、私の術中にいる貴方達じゃ無理もないわ」

「術中だって?」

「そう、この季節だけ、この私に与えられる特殊能力によって、
 貴方達人間にとてつもない災いをもたらすことができるのよ。
 こんな風にね……」


幽香の合図と共に霊夢と魔理沙に『症状』が出始める。
その『症状』に悶え苦しむ二人。

「さあ、私の可愛い『花』たちの恵みを受け取りなさいな……」

幽香はスペルカードを手にその場でクルクルと回り始める。
靡くスカートの動きに合わせ、どこからか黄褐色の細粒が集う。
まるで流砂のように。

「……くっ、まただ」魔理沙の眼に涙が浮かぶ。

幽香が回転するたびに粒子は増加し、長大な陣形を描き始める。
その姿、まるで地上に降りた夜空の星雲。

「いったい、何でこんな風になるの?」霊夢の体に強烈な痒みが走る。

やがて視界が悪くなるほど濛々とした『何か』が周囲を包む頃、
ようやく幽香は回転を止めた。

「ふふ、そろそろ覚悟は良いかしら、お二人さん?」

いつも以上に不敵な笑みの幽香。
対する二人は気力を振り絞り、何とか体勢を整える。


「でも、これは人間への戒め。自然の痛みをその身に刻みつける為の。
 それじゃ行くわ!! 『 杉符「スギ花粉、黄塵万丈」!! 』



幽香の背後に黄褐色の竜巻が現れる。もちろんその全てが『スギ花粉』。
人間の許容値など一瞬で振り切らせる程の膨大な量。
まるで龍のようにうねり、砂のように流れ、二人の姿を取り囲んでいく。


「うわぁぁぁあ、……目が……目がぁ……!!」瞼を押さえる魔理沙
「きゃぁぁぁっ、痒いっ!! かゆい痒いかゆい痒い」体を掻きむしる霊夢。
そして二人の醜態を堪能し、あざ笑い続ける幽香。

その光景、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。

霊夢とて『巫女』である前に一人の少女、
魔理沙とて『魔法使い』である前に恋する乙女である。

二人とも涙と鼻水でドロドロになった顔で戦闘続行できるほど、
恥じらいを捨てている訳ではなかった。


「ぶぇっっくしょい、……くそう……、ぶぇっっくしょぉおい」
「魔理沙、此処はひとばず、へっはいひはひょ(ひとまず撤退しましょう)」


幽香の高笑いなどお構いなく大急ぎで神社へ戻り、
雨戸を堅く堅く締めて籠城する二人。
多分、今頃、風呂場で猛烈な水浴びに興じていることだろう。



二人の醜態を十分堪能したのか、しばらくして笑い終えた幽香は、
ひとり虚空に向けて呟いた。


「ふふ、この調子で幻想郷中の人間に災いを振りまいてあげましょう。
 だって、これは……」

多様な花弁を振りまきつつ、スカートを翻してクルリと一回転。
そして、決めポーズ。



    「 大自然のお仕置きよ(はぁと) 」 





<終>








エリー(うわっ、幽香さま、言うに事欠いてナ○ルルだって)
くるみ(ほんと、歳を考えてほしいわ、クスクス)
エリー(強いて言うなら、幻○郎だよな……花使いだし)
くるみ(……というか性格的に……)
二人 ((……クスクス……))

幽香「……二人とも聞こえてるわよ~」
二人((ギクゥ))
幽香「帰ったらお仕置きね(はぁと)」
二人「「ひぇぇ」」


<The End> 

黄塵万丈:黄砂が濛々と立ち上るさま、なんて意味らしいです。

例の後編が未完なのですが、時期的に限界かと思い
コチラを先に投稿することをお許しください。
今月中に何とかできればと思ってますので。
SOL
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コメント



0.1450簡易評価
10.70名前が無い程度の能力削除
ボリューム的にはプチかなぁ……と思った。

ともあれ、ナ○ルル噴いたwww
12.70月影蓮哉削除
ジョアを飲んでいるおかげか、俺は花粉症になった事ありませんがw
今年もスギとブタクサが大暴れするのだろうか。