「えっと、分量は・・・・」
「ちょっとそれ入れすぎよ」
「そうか?これぐらいが丁度いいと思ったんだけどな」
「アリス、グラニュー糖を」
「はい、次は?」
「暫くは入れるものないと思うんだが」
わいわいがやがやと少女3人厨房に並び立っている。
何れも三角巾を被り、エプロンを装着、腕まくりと言う完全体勢で目の前のモノに挑んでいる。
『おいしいお菓子の作り方』にかぶりつくかのように睨めっこしているパチュリーはこれまでの手順に間違いはなかったかと何度も確認する。
ボウルの中に入れたバターをクリーム状にし、隣の少女から渡されたグラニュー糖を入れて丹念に混ぜ合わせている魔理沙は混ぜすぎないように、しかしよくかき混ぜる。
アリスはもう一つのボウルに入れていた卵と牛乳を魔理沙同様に混ぜ合わせている。
3者一切同じ行動はしてないが目的は単純に一つ、ただのお菓子作り。
しかし、何故このような事になったのだろうか。発端は他ならぬパチュリーだった。
「作ろう」
誘いは唐突だった。
その日、紅魔館に魔理沙がアリスを引き連れ目的は異なるがヴワル図書館に入ると同時に待ち構えていたパチュリーが『おいしいお菓子の作り方』を正面にかざし言った。
「・・・・・・・えっと」
「・・・・・・唐突だな」
両者の反応はちまちまと呆然。
しかし復帰も早かった。
「それで作るとしても何を作りたいの?」
「そうだな。作るものによって色々変わってくるだろうし」
それを聞いて待ってましたと言わんばかりにパチュリーが笑みを浮かべて人差し指でそのページを開こうとする。が、
「あ、あれ?ちょ、何で開かないのよ。このっ!」
しかしそうも簡単に行かず、彼女のプライドが許さないのかあくまで人差し指だけで開きたいらしく本はかざしたまま。その姿を魔理沙とアリスは微笑ましく見届けている。なお、本棚の影から彼女の使い魔兼司書をしている小悪魔が覗いてハラハラしながら見守っていたりもするが二人は勿論気付いているがあえて無視。
「ぬっ!ふん!くぅ!・・・・・・・」
そのプライドはあっさりと折れた。
前に突き出していた本を手元に戻しきっちりと栞を入れていた部分を開くが
「・・・・・・・あれ?」
どうやら間違えていたらしい。慌てて少しだけ厚い本の中身をパラパラと急いでめくりようやく見つけだすまでに約10分。待ち構えていた客は借りていた本を返しに来たメイド長咲夜と談笑をしており、パチュリーが見つけ出す頃には小悪魔に本を渡して仕事へと戻っていた。
「というわけこれよ」
これまでの失敗というか間抜けっぷりを曝していたのに実に涼しい顔でページを突き付けるパチュリー。そのページに書かれていたのを読むアリス。
「チョコレートマフィン?」
「ええそうよ」
普段の病弱チックな表情からはとても想像がつかない満面の笑みを浮かべるパチュリー。それに対し魔理沙が不審そうに言う。
「しかし何でまたお菓子なんて作ろうとするんだ?」
「面白そうだからに決まってるじゃない。あと興味があったから」
が、パチュリーはあっさりと言い返す。その口振りからすると7:3の割合だろうか。意外に反対なのかもしれないが。その発言に苦い顔をする魔理沙。しかし、アリスは興味津々といった顔でレシピと作り方を見ている。ふと、何かを思い出したかのような表情を作り僅かな思考の後、
「良いわ。作りましょう」
「ホント!?」
「え~」
アリスの発言に二人の反応は異なった。パチュリーは驚きと喜び、魔理沙は面倒くさそう100%。だが、すぐにまぁいっかとなりパチュリーは小悪魔に作っている間は任せたと言い付け、厨房に行く途中で咲夜を呼び手配するように言った。
その間、アリスは思わぬ収穫が入ったと思いながらさてどうするかと思いながら笑みのまま厨房という戦場へ向かった。
「それでバターとグラニュー糖を混ぜたのに卵と牛乳を混ぜ合わせたのを入れると」
「次は湯煎でチョコを溶かせばいいのでしょう?」
「私はどれぐらい混ぜれば良いんだ?」
などと魔女たちのお料理会は思いのほか盛り上がり、最初は心配げに見ていた咲夜もこれ以上は邪魔になりそうだからと微笑みながらその場を後にした。
「・・・・・・・なんかさ」
「「?」」
混ぜ合わせている最中、魔理沙がふと口を開く。二人は何事だろうと思いながら魔理沙を見る。
「こういうのって、悪くないな」
少し戸惑いの色を混ぜながらも嬉しそうに笑う魔理沙。二人は一度お互いの顔を見て破顔。
「そうね、たまには、ね」
「ええ、そうね」
悪くはないと。楽しいと。二人は笑顔で言った。
作業は難航することなくひたすら楽しく進み、その過程で
『ここできのこを』
『『止めなさい』』
と、何処から取り出したのかというか持っていたのか見るからに1UPするどころかDOWNしそうな緑ではない紫きのこをぶち込もうとした魔理沙に遠慮のない手短な武器、頭突きをぶちかます二人。
『ごっ!』
まさかパチュリーからも来るなどと思っていなかった―――というか頭突きがだが―――魔理沙は見事に決まってしまいそのままダウン。しまったと思った二人だが残機が減らされるよりはマシだと思いながら作業を続ける。
魔理沙が混ぜ合わせていたものにアリスが湯煎して溶かしたチョコを入れ、何もしないのはと言うことでパチュリーが混ぜる役になり、今度はアリスが指示を出しながらもパチュリーの一生懸命な姿に微笑みながら手伝う。
ある程度混ぜたところに薄力粉を加え、粉が見えなくなる程度まで軽く混ぜ合わせたのまでは良いが途中で生地を入れる型が無いことに慌てた二人はえーりんではなないが『さくや!さくや!たすけてさくや!』と増援を呼んだら気付いたときには仕事の途中で型を用意するのを忘れた瀟洒な従者は慌てて型を用意、二人が気付いたときには8個の型が目の前にあり二人は瀟洒な従者に感謝した。
あらかじめ暖めておいたオーブンに生地の入った8個の型を入れる。
「ふぅ型がないときは焦ったけど流石は瀟洒な従者ね」
「ふふ、そうね。けど、初めから無かったのはどういうことかしらね」
パチュリー様、少しお冠。それに関係するかどうか分からないが丁度清掃していたメイド長が清掃中に転倒したらしいが関係はないだろう。多分。
焼き上がりの15分間は額に真新しい絆創膏を付けた咲夜が淹れた紅茶で談笑していた二人。そして15分が経ち、オーブンから焼き上がったマフィンを取り出す。
焼き上がりの様子を見て完成を喜ぶ二人だったが急に味の方を心配したパチュリーを大丈夫と、アリスが励ます。
「けどやっぱり・・・・・・」
何時に無く気弱になっているパチュリー。正直な話、料理らしい料理はこれまでしたことが無く、パチュリーにとって途中からではあるが料理は初めてだ。自分が手にしているチョコレートマフィンを不安そうな顔で見ているパチュリー。それに我慢できなくなったアリスが
「ああもう、少しは自信を持ちなさい!」
「あっ」
パチュリーの手にしていたマフィンを掻っ攫うように自分の手の中に入れて型から取り出して一口。もぐもぐと口の中で食感を味わうかのように口を動かす。その様子を心配げに見ていたパチュリーに気がつき、自分の手にしていたマフィンを向けて一言。
「パチュリーの作ったこれ、美味しいよ」
大丈夫だと、自信を持てとの笑みで。
恐る恐るアリスが持っていたマフィンを手に取り、決して大きくは無いが口を開けて一口。もぐもぐと口を動かす。
「・・・・美味しい」
「でしょ?」
良かったと、嬉しそうに二人は笑った。
その後、残りのマフィンを二人はそれぞれレミリア、咲夜、フラン、美鈴、小悪魔にと渡し、各自から美味しいと喜ばれた。
たった1個ではあったがそれぞれその味を噛み締めながら食べてくれた光景を思い出したのかアリスが咲夜から了承を得て元々パチュリーとお茶をしようとしていたということで持参していたウバを味わっていたパチュリーが笑む。
「そう言えばなんだけどね」
パチュリーの笑顔に自分も嬉しくなったのか笑みのままアリスは言う。
「外の世界じゃあそろそろバレンタインの時期なのよ」
アリスの言葉を聞いてそう言えばと思った。
実際、パチュリーは小悪魔が読んでいた小説を興味本位で読むとどうやらバレンタインを題材にしたアンソロジーで読むにつれ興味が湧き、何気なく料理本を見つけて読んでみて作ってみたいと思ったのが本来の切っ掛け。だとしたらとパチュリーは思った。
「だからね、貴女にあげたのはちょっとだけ早いバレンタインプレゼント」
嬉しそうに言ったアリスの発言を聞いてアリスがこれに賛同したのはこの為だったのかと思いやれた気持ちになるが悪い気分ではなかった。
「そうね、私もよ」
正確には奪い取られたけど。
パチュリーの言葉が意外だったのか驚いた顔を見せるアリス。が、しかしお互いにクスクスと笑った。
「ちょっとまて何だそれは」
魔理沙が気がつくと紅魔館の医務室で側にはアリスとパチュリーが居た。
ぼやけた頭で魔理沙の前に二人が差し出したのは最期の1個だったマフィンだった。
「何って私たちが作ったマフィンよ」
「あなた何を言ってるの?」
いやいや妖夢・・・・・じゃなくてと魔理沙は心の中で突っ込んだ。無論、後の言葉は口に出して。
「それは何となく分かる。けど、なんだそのタワーは?」
魔理沙が突っ込んだのは文字通りもう最期だったマフィンの上にもこもこもこたんではないがもっさりと天井に届きそうなぐらいに重なっていたきのこだった。
「見れば分かるでしょう?」
「ちょっと魔理沙、頭大丈夫?」
二人は一切心配そうな顔をせず言う。
「それぐらい分かる!私が突っ込んでるのはその色だ!」
色。そう、もこもこと幾つものタワーとなっているきのこの色が魔理沙が持参し、生地の中にぶち込もうとしていた確実に残機が減りそうな色をしているきのこだった。
「なんだそんなこと」
「それがどうしたのよ?」
何か問題でも?と二人は実に涼しい顔で言う。
「少しはまともな反応しろよ!というかなんでタワーなんて出来てるんだよ!?」
魔理沙は少し熱くなっているようだ。が、二人は平然とした表情で理由を言った。
「簡単よ。残ったマフィンに試しにきのこを刺してみたのよ」
「そうするとあら吃驚。あっという間にきのこ版バベルが完成って言うわけ」
魔理沙は自分の持ち込んだきのこにそんな生態があったかと考え始めた。いや、元々アレはジョークだったのだが二人は何をやってるんだろうと考えたら何故それをここに持ってきてるんだろうと考えたら凄く嫌な顔と嫌な汗がセットで出た。
「な、なぁ二人とも」
心なしか自分の声が震えているのに気付くが止められない。しかしそんな魔理沙の様子を他所にして二人は何かを思い出したような顔つきになった。
「そういえばアリス、知ってる?」
「なになにパチュリー?」
「外の世界じゃあそろそろバレンタインという伝統的な季節だそうよ」
「そういえばそうだったわね」
「あれぇ?ここに都合よくチョコレートマフィンがあるわぁ」
「うわぁホントぉ。それに都合よく魔理沙も居るわぁ」
「お前ら全部台詞棒読みじゃあねえかよ!てかそれはお前らが私のところに持ってきたんだろうがぁ!」
魔理沙が言い放つと同時に医務室から香霖堂へ一直線に帰ろうと(間違いではない)するが出た瞬間、
「あ、あれ?」
「どうしたの魔理沙?」
「何をそんなに驚いた顔をしているの?」
医務室だった。魔理沙には理解出来なかった。しかし再び―――別の意味で―――身の危険を感じて出る。が、
「・・・・・え゜?」
「全く、大丈夫?」
「少し大人しくしたら?」
言葉は優しいが顔が全然笑ってねーと突っ込む魔理沙。ふと、ドアの向こうからクスクスと笑い声が聞こえ合点が言った。
「メーイードォー!お前かーーーーーーーーーーーーー!」
「あらあらどうしたの?」
魔理沙の怒声に何事かと”丁度”メイド長咲夜さんがご登場。更には
「何かあったのかしら?」
「あー魔理沙だー」
御館様レミリアと妹様フランドールのスカーレット姉妹参上。
「あらあら咲夜にレミリア、それに妹様まで」
「一部抜きだけど紅魔館のメンバーが勢ぞろいね」
魔理沙はベッドの上で真っ白になっていたが全員シカトに入りましたよ魅魔様。
「そうそう聞いてよレミリア」
「なになにパチュリー」
「魔理沙が私たちが作ったマフィンを食べてくれないのよー」
「それはそれは困ったことですわ」
「そーだねー私たちが食べたのは美味しかったのにねー」
「そういうわけだから貴女からも言って欲しいのよ。食べなさい、美味しいからと」
「魔理沙、わがままはよくないわよ」
「ええそうよ。そんなんだと成長しないわよ」
「我慢はよくないって魔理沙自身が言ってたじゃなーい」
お前ら目が笑ってないぜ。
「い、いや、私はちょっと今、胃の調子が・・・・・・」
自分自身でも苦し紛れだと思うがぶっちゃけこのメンバーにゃあ勝てませんよ。時は止まるわ、運命はいじられるは、何でも破壊されるわで。
「「「・・・・・」」」
3人とも真顔になって止まる。頼むから少しは現状を理解してくれぇー。
「・・・・そうね、無理に進めるのは善くないわよね咲夜」
「そうですわね妹様」
「あはははそうだねーパチュリー」
「そうね、無理は駄目よねアリス」
「それもそうね」
「はははははーそうだよなー」
よし!勝ったぞ!紅魔館、完!と自分でも意味の分からないことを心の中で叫んでいるが魔理沙にとってそんなことはどうでもいい。しかし魔理沙、忘れてはいけない。その言葉と同時にある格言があることを。
「「「「「ははははははははははは」」」」」
「「「「「食え」」」」」
「・・・・・・・・・・・・・・」
その後、暫く魔理沙を見たものは居ない。
教訓。食べ物を粗末にしたら天罰が下ります。つまり、毒物混入しないことがあなたに出来る善行でしょう。ってけーねが言ってた。
アリスとパチュリーいいですね。棒読み部分がなんとも。
後は「もこもこもこたん」が気に入りました。
あ、それと魔理沙の一人称は「俺」じゃなくて「私」ですのでよろしくです。
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