注・この物語は紫煙シリーズ(作品集21・23)の続編となります。
「なぁ……やっぱり止めといたほうが良いって……」
「なに言ってんの? 余裕だって」
「だけどさぁ……」
「教えたことの半分も実戦出来ればハッピーエンド間違いなし!」
「あんたがそう言ったって相手は師匠よ?」
「大丈夫だって。今のあんたに敵う奴なんていないんだから」
永遠亭の長い廊下を歩きながら、相方が声をかけてくる。
彼女の名は因幡てゐ。
私がここに居ついてから、それなりに長い付き合いの相手である。
先ほどから彼女はここ数ヶ月で私に仕込んだ技術を試して来いと聞かない。
しかし……こいつの口車に乗っていい目を見た試しは、一度もない。
「だけどさぁ……」
「あー!? もうじれったいなぁ!」
「っひ!?」
煮え切らない私にてゐが切れる。
思わず硬直する私。
いつからだろう……
彼女の怒声にひたすら苦手意識を持ったのは……
「あんたはそうやってン十年もうじうじしてんじゃない!」
「いや、あのね?」
「あんたが永琳のことどう想ってるかなんて本気で今更なんだから!!」
「その前提条件が既に間違ってるんだけど……」
「いい加減くっつきそうでくっつかないラブコメはもう食傷なんだよ!!!」」
「そもそも師匠とはそんなんじゃない……」
「いいからさっさとコクって楽になれやーーーーー!!!!」
「聞いて……ないよね?」
こうなったてゐを止められるものはいない。
諦める事はとっくの昔に身につけている。
うん、判ったよ。
さっさとコクって終わりにしよう。
そして犬にでも噛まれたと思って新しい明日を探すんだ。
こうしている間にも、私たちは足を止めていない。
既に師匠の私室は目の前である。
もはや、退路は無い。
「ほら、着いたよ?」
「うん、見届けてね?」
「もちろん!」
「……ありがと」
暗に『逃げるなよ』というニュアンスを込めた事に、てゐは気づいているだろうか?
もはや身にかかる火の粉を回避するすべは無い。
なればこそ、てゐには全ての責を負ってもらわねばならないのだ。
しかし……
「結局割り食うんだろうな……私」
「なんか言った?」
「別に何も」
まぁ確かに、師匠とどうにかなったら……と考えたことも無いではない。
いつか通る道だとしたら、それは早いほうがいい。
てゐが隣部屋に入っていったのを見届ける。
一人になると余計なことを考えてしまう。
私は一つ息をつき、扉の向こうにいる師匠にノックする。
「師匠、私です」
「ウドンゲ?」
あ、ヤバイ。
師匠の声を聴いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
心臓がおかしい。
体が……鈍い……
「はい、少しよろしいでしょうか?」
「ええ」
……大丈夫。
声は裏返ってない。
震えてもいない。
kt36.8 P107 BD136/85 ってとこか?
バイタルはやや高め。
特に脈拍107ってなによ?
少し落ち着け、私。
「失礼します」
師匠の私室が襖でないのは幸運だった。
扉に手をかけ、ノブを回し、ドアを開ける。
その間に私は自身の波長を繰って、何とか体を正常値に引き戻す。
セルフコントロールは、私の得意とするところ。
……どうしても、顔から赤みを抜くことは出来なかったが。
「いらっしゃい」
そこには、いつもと同じ師匠がいた。
何か書き物をしていたのだろう。
彼女は普段はあまり使わない眼鏡をかけている。
「珍しいわね」
「なにがです?」
「今更畏まって入ってくることも無いでしょうに」
「そうでしたか」
そこから先は覚えていない。
あまり意味の無いやり取り。
それを1つ2つ続けるうちに、私は師匠の目の前にたどり着いてしまった。
「少し、お時間よろしいですか?」
「ええ、いいわよ」
師匠は眼鏡を外し、濡れタオルで顔を拭く。
師匠……私の師匠。
初めて会ったときから、私に好意的だった。
生きることが希薄で投げやりだった私に、お節介なくらい踏み込んでくれた。
あの時も、今と同じ微笑で……
「どうしたの?」
「……あ、何でもありません」
「そう?」
「はい。少しぼぅっとしちゃいました」
いつもと変わらぬ、師匠の笑み。
それを見ると、なんだか落ち着いた。
いつだって、私に微笑んでくれた師匠。
出会ったときから、これまでも。
そして今……
―――私に銃口を向けられたときも、やはり彼女は微笑んでいた……
「え?」
銃声。
硝煙。
血の香り。
崩れ落ちる師匠の亡骸。
ソレにむかい……
「好きです師匠」
……言った!
とうとう言ってしまった!
私は逃げ出したい衝動を堪えるのに必死だった。
てゐ、私やったよ。
師匠が受け入れてくれるかは分からないけど。
でも今は……ちゃんと前に踏み出した自分を褒め……
「何やっとるかアホ兎ーーー!!」
「てゐ!?」
いきなり壁をぶち抜いて乱入してきた、今回のプロデューサー。
何故か、彼女は真っ赤になって怒っている。
「ちょっと! 今あんたが入ってきたら台無しじゃない!」
「既に失敗していることに気づけこのボケが!」
「はぁ? なによ、あんたが『八意永琳の好み、ソレすなわち、ツンデレにあり』っていうからそうしたんじゃない」
「いや、言ったけど! 根本的に違うだろ!?」
「えー……あんたの言ったツンデレってヤツを、私なりに解釈したらこうなったんだけど……」
「告白する相手をぶっ殺して何が実るってんだこのすっとこどっこいがー!!!」
「あ、そうか!」
「あん?」
事此処にいたって、私は自分のミスに気がついた。
なるほどつまり……
「相手が死んでたら告白聞けないだろ、ってことね?」
「違うわー!」
「グフ!?」
いきなりてゐの蹴りが飛ぶ。
まともに食らい、吹っ飛ぶ私。
私は師匠愛用の机を粉砕し、その瓦礫に頭以外を埋める事となった。
因みに、今の蹴りは見えていた。
見えていたのに避けられなかった。
此処に居ついてから、既に何十年。
いつからこんなに緩んでしまったのか……
師匠はいいことだって言ってたけど。
「あーったくもう! 馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど此処までとはね!」
「すいません」
納得いかないことは多々あるが、ともかく私は謝った。
さっきも言ったが、こうなったてゐを止めることなど出来ない。
辛抱することは、当の昔に身に付いてる。
ここは消極的に同意して、嵐が収まるのを待つのが得策である。
……そして、犬にでも噛まれたと思って新しい明日を……
「明日から、また一から仕込みなおしだよ! 今から寝る間もないと思え!」
「はぁ!? まだやるの!?」
「あ?」
「……よろしくご指導ご鞭撻のほどを」
「うむ」
「面白そうなお話ね?」
時が、止まった。
決して大げさな比喩ではない。
少なくとも私の目の前で、因幡てゐという妖怪の時間は止まっていた。
声の主はもちろん、私の自慢のお師匠様。
うん、心の中で今、少し媚びが入った。
だって今の師匠、いつもの貌で嗤っているんだもん。
「どうしたのかしら、てゐ?」
「いや……えっとね?」
「私は貴女がいかにしてこの窮地を脱するか非常に興味があるのだけれど?」
ご自身で窮地といっている以上、既にお仕置きは確定だろう。
しかし、てゐはニッコリ笑ってのたもうた。
「私はぜんぜん悪くないと思うんだけどなぁ」
「ほう?」
「私はただ、『永琳はちょっと素直じゃない娘が好みだ』って言っただけだよ?」
「へぇ」
「そう、だから私は悪くない」
「ふむ、遺言はそれだけなのね?」
師匠が愛用の弓に矢を番える。
距離が近い。
如何なてゐといえど、これを避けることは出来ないだろう。
しかし……
「今よ鈴仙!」
「なに!?」
突然私に声を掛けるてゐ。
いや違う。
私に、ではなく、師匠に声を掛けたのだ。
反射的にこちらを振り向く師匠が見たものは、瓦礫に埋もれた私。
師匠の表情が曇る。
彼女らしからぬ失態である。
いつもはこんな手に引っかかる方じゃないのに……
「エンシェント・デューパー」
「っち!?」
師匠が振り返るわずかな隙に、てゐの本当の『遺言』が放たれる。
師匠は舌打ちしつつてゐから離れ距離をとり、見た目避けづらい嘘弾幕を捌く。
その間にてゐは悠々とこの修羅場から脱出した。
「……逃がしたか」
「ご心中、お察しします」
ため息などつきながら、師匠は弓矢を納める。
そして半眼になり、私を見やる。
「ウドンゲ」
「はい」
「今からてゐを追いかけるわ」
「はい」
「貴女はここを片しておいて頂戴。それで不問にします」
「了解いたしました」
私は机の残骸から抜けると、服に付いた埃を払う。
正直、この程度で済むとは思っていなかった。
しかし、それはそれで不気味でもある。
「師匠?」
「なに」
「怒らないんですか?」
「怒るのって苦手なのよ」
「はぁ……」
「それよりね、ウドンゲ」
「はい?」
「貴女……私が死んでるとき、何か言った?」
「……別に」
「……そう」
師匠はそれだけ言うと、私に背を向ける。
私はその背を見ながら、少しだけ罪悪感を覚える。
いつか、ちゃんと……
―――セン
「え?」
「どうしたの?」
「あ、いえ……呼びました?」
「私? 何も言ってないけど」
あれ……でも今……
「空耳じゃないかしら」
「そう……ですね」
「ええ。それじゃ、行って来るわ」
そう言って、師匠は部屋を出て行った。
私は何も答えず、その背中を見送った。
先ほどの空耳が、頭の中から離れなかった。
たぶん空耳……なんかじゃない。
さっきの声……アレは……
* * *
深夜、私は寝床を抜け出し外に出た。
空を見る。
星も、そして月もない曇り空。
私は一つ、息をつく。
そして全力で駆け出した。
速く速く。
目に見えない何かから逃れるように。
何かが私を捉えるために、背後から迫っていると想像する。
そのナニカから逃れるため、私はさらに加速する。
あらゆるものを振り切るために。
走る走る。
「あ!?」
竹林を抜けたところで何かに躓いた。
反射的に受身を取る。
しかし自分の全力疾走中に転んだのだ。
それなりの距離を転がって、私はようやく停止した。
「はっ……っはぁ……」
息が荒い。
視界が白い。
しばらく動けそうもない。
この感覚は、知っている。
月にいたころは、何度も味わった自分の限界。
あのころは……
この感覚と共に、これから自分は死ぬのだという実感が付いて回っていた。
「ふ……ふふふ」
でも、ここなら死なない。
自分が動けなくて倒れていようと、銃で撃たれることはない。
なぜならここは平和だから。
年寄りから順に死ねるくらいには平和な場所だから。
人を喰らう妖怪も、兎を喰らう獣もいる。
それでも人同士、兎同士で殺し合い等起こらない、楽園だからだ。
嗚呼……私は……なんて……
「幸せなんだろ」
私は仰向け寝転んだまま、煙草を取り出す。
ポケットに突っ込んだまま、くしゃくしゃになったパッケージ。
私は一本抜き取ると、折れ曲がった煙草を指で伸ばして口に咥えた。
片手でマッチを擦り、煙草に火を点す。
軽く吸い込むと紫煙が肺に流れ込む。
酩酊感が私を溶かす。
因みにコレは師匠お手製。
月から持参したものはとっくの昔に無くなっている。
数は減ったものの、私は未だにコレを止められずにいた。
私は呆けたように、煙草の先端に点る炎を見つめる。
紫煙がゆっくりと空に昇り、そして消えていく。
これだ。
コレを見るのが、好きなんだ。
そして、肺の中で白くなった煙を吐き出した。
「どうした……もんかな」
昼間のアレは、間違いなく月兎の念話。
確認したところ、それは私の帰参を呼びかけたものだった。
ついに月は地上との全面対決を決めたらしい。
それにしても、戦況はよほど芳しくないのだろう。
とっくに軍を抜けた、しかも犯罪者のところにまで招集が来るのだから。
彼らは自らこう言っていた。
『誇りのある我々は負けない』と。
よく出来たギャグである。
脱走兵である私を捉えることも出来なかった月。
人殺しを重ねた私を毅然として罰することも出来ず、身内を使って謀殺せんとした月。
そして今……
そんな私に対しても、人材を求めねばならないほどに老いた月。
「誇りねぇ」
そんなものとっくに失われていると、なぜ気づかないのだろう。
地上の者を賤しいと蔑み、自らを誇る月。
それぞれがやっていることに、差異があるわけでもないのに。
月は私を容れるには狭く、私を繋ぎ止めてくれたのは、賤しい地上の方だった。
しかし……
「迎えに行く……か」
念話の最後は、そう締めくくられていた。
期限は次の満月。
抵抗しても無駄だと言っていた。
それはつまり、拒否すれば拉致すると宣言しているようなもの。
ここに居れば、おそらく争いは避けられまい。
師匠は、きっと守ってくれるだろう。
姫は、きっと帰さないと言ってくれる。
てゐも、おそらく一緒に戦ってくれる。
それはたぶん、間違いない。
「……っ畜生……なんでよ……?」
それを是としたい本音と、断固として否とする理性が、私の中でせめぎ合う。
「どうして……今頃……こんなっ!?」
私は蹲り、震える身体を抱きしめる。
理不尽だという思いが胸を満たす。
反面、そろそろ私の番かもしれないという諦観も芽生えていた。
皆……私を置いて逝ってしまった。
中には私自身で葬ってしまったものもある。
それらに比べれば、私は不当なまでに幸せで、長く生き過ぎたのではないだろうか?
しかし、それでも……
「……死にたく……ない……」
それが、間違いなく私の本音。
多くを殺し、自分の命を繋いできた、咎兎の醜い性根。
アレだけ他人の命を奪っておきながら、何ゆえ今更恐れるのか。
―――死にたくない
そんな哀願に対し、無情を持って答えてきた私に、今更怯える資格などない。
解っている。
だけど……
「……死にたくないよぉ」
怖かった。
初めから無いものならば諦めもつく。
しかし、私は手に入れてしまった。
大切な場所を……人を。
失いたくない。
亡くしたくない。
「……」
不意に思考が冷静でないと自覚した。
私は胸に手を置き、深く三つ、息を吸う。
ほら、落ち着いた。
既に身体は震えてない。
セルフコントロールは得意分野。
かつて徹底して叩き込まれた戦闘訓練が、私を自由にはしてくれない。
当然だ。
他人の命を糧に、学んできたことなのだから。
「長く……居すぎた」
私は立ち上がり、空を見る。
寒いと思っていたら、空から白いものが舞ってきた。
「雪か」
私は虚空に手を伸ばし、一片の雪を掬う。
既にかじかんだ私の手。
それでも、雪には暖かすぎた。
一瞬で溶けて、消えてしまった雪の欠片。
綺麗なもの、美しいものの末路なんてこんなものだ。
それはきっと、時間も空間も変わらない。
失うときは一瞬で、しかも殆どの場合は失うことが確定するまで、その貴重さに気づかないのだ。
私は踵を返し歩き出す。
「寒くなってきたなぁ」
今、頭にあるのはそんなことだけ。
死の恐怖は既に無かった。
こんな時だけ開き直れる自分が、心底疎ましかった。
師匠は、私をウドンゲと呼ぶ。
姫は、私をイナバと呼ぶ。
しかし、私はレイセン。
先ほど恐怖で震えていた私。
恐怖を無視して立ち上がれた私。
そして今、大切な人を巻き込みたくないと考えたのも、私なんだ。
私は死ぬまで、私を辞めることは出来ない。
左手を銃の形にし、右手をその手首に添える。
視線は空へ。
雲の向こうの月を射抜くために。
「私は、還る」
左手を月に翳し、撃ち抜いた。
大丈夫。
戦える。
だって、私は……
「幸せだったんだから」
それだけで、どこでだって戦える。
* * *
姫の部屋に乾いた音が響く。
師匠が私の頬を張り飛ばした音。
彼女は自身の行動が信じられないというように、私を打った右手を見つめていた。
しかしすぐに躊躇いは消え、その双眸に怒りを湛えて私を睨む。
姫を見ると、彼女は瞳を閉じて俯いていた。
私は二人に先日の念話の内容を伝えた。
そして自らここを出て、月に帰ると。
その反応がこれ。
さすがに殴られるとは思わなかったな……
「ウドンゲ……」
「はい」
「貴女、月に帰ったらどうなるか判ってる?」
「……よくて前線をたらい回し。悪くすれば一発拘束で献体解剖……そんなとこですか」
「それが判ってっ!?」
不意に、姫が師匠を制す。
血の味がする。
どうやら口の中を切ったらしい。
姫は私の頬に手を当てる。
「平気?」
「はい」
「そう……なら、下がりなさい」
「姫!?」
「大丈夫よ永琳。イナバは逃げない」
「……」
そんな保障は出来かねる。
なんでそんな明け透けに私なんかを信じるんだ。
その方がよっぽど裏切りにくいのに……
「永琳と相談するから、二人にして頂戴」
「……」
「判りました」
振り返り、部屋を出る。
私の背に向かい、師匠が声を掛けてくる。
「ウドンゲ……」
「……」
「口の中、洗っておきなさいね」
「……はい」
襖が二人から、私の姿を隠す。
その瞬間に力が抜けた。
そのままもたれかかる様に座り込む。
「情けないの」
五月蝿い、黙れ。
部屋の前で待っていてくれたてゐに、私は声には出さずに毒づいた。
私は膝を抱えて蹲る。
「そんなに嫌なら帰らなきゃいいのにさ」
「……そうもいかないって」
「なんでよ?」
「……てゐはさ、あとどれくらい生きられる?」
「あん?」
「寿命だよ」
「さーねぇ。私は妖怪だから、健康管理に飽きたときに死ぬんだと思う」
「そっか……じゃ、結構しぶといだろうね」
「ったりまえよ。それで?」
「私はね、月兎なんだ」
「知ってるって」
「じゃあさ、私の寿命も知ってる?」
「……知らない」
「でしょ……結構長いんだよ、月兎って」
「良い事じゃない?」
「そうかもね」
「ち、回りくどいなぁ!」
なかなか本題に入れない私に、てゐが切れる。
仕方ないじゃない。
こっちだって心の準備とか要るんだから。
「私がここに来てからの何十年かで、たくさん兎が死んだよね」
「ええ、そうだね」
「いつか、あんたも死ぬじゃない?」
「そう……だろうね」
なんとなく、私の言いたいことを察したらしい。
てゐは語勢を弱めてくれた。
「……時間が過ぎれば世代が変わる」
「……」
「世代が変われば、いつかは私が月の兎だって覚えている者も居なくなる」
「……」
「でも、私は覚えてる。自分が何者なのか、月でどれだけ殺したか」
「……」
「皆が忘れても、私は絶対に忘れられない」
こんな話は、姫にも師匠にも出来ない。
無限である二人には、言ったところで解らないだろう。
あの二人には存在の長短など無意味だ。
他人の終わりを幾ら見てきても、所詮は他人事なのだから。
しかし私とてゐは有限。
その長い短いは決して軽いことではない。
「だからさ、そろそろ私の番なんだよ、きっと」
「おい……」
「だっていっぱい殺したんだもん」
「おい」
「いつか報いを受けるんだとしたら、早いほうが良いじゃない?」
「おい!」
てゐの怒声が、私の声を遮る。
ごめんね。
本心でこんなことを言っている訳じゃない。
でも、これは昨日決めたこと。
自分が死ぬという恐怖。
手に入れた幸せを失うという絶望。
それにもまして、私に残った大きな感情。
―――皆を巻き込みたくない
それが、私の中の真実だった。
また独りになるのだとしても。
私のせいで皆の安寧まで壊すのは……耐えられない。
そんなことを許す訳にはいかない。
「それで、帰ってまた殺すわけ?」
「……ええ」
「殺して、そいつの仲間から怨み買うわけ?」
「……うん」
「馬っ鹿じゃないの?」
「……そうだね」
「その挙句に、自分も死んじゃうんでしょ?」
「……だろうね」
「それって、あたし達にあんたを見殺しにしろって事?」
「……」
ズルイ言い回しをしてくれる。
私は何か言い返そうと、顔を上げた。
そのとき……
突然背後の襖が開かれた。
「きゃぁ!?」
「痛!?」
背中に衝撃が走る。
そして、見た。
私の視界の中で派手に素っ転び、顔から廊下に着地する、お姫様を……
『姫!?』
師匠とてゐの声が被る。
おそらく、自室から飛び出してきたのだろう。
そして、出入り口に座り込んでいた私に躓いたのだ。
因みに姫の私室は、師匠の結界で完全防音になっている。
そのため私の耳を持ってしても、姫が出てくることに気づかなかった。
……私のせいじゃないと思う。
「きゅー……」
「ちょっと輝夜!? 大丈夫!」
「姫! しっかり、しっかりしてください!」
「……」
姫に駆け寄る、師匠とてゐ。
私も立ち上がる。
なんとなく、出遅れた。
そんな中、姫はよたよたと立ち上がり、こっちを向いた。
……真っ赤になった鼻が痛々しい。
「決めたわ、イナバ」
「はい」
「貴女を月には帰さない」
「そう……ですか」
「不満?」
「不満なんて……ありません」
視界が歪む。
「ありません……」
目の奥が熱い。
「ないけど……だけど……」
私は自然、下を向いていた。
「なんで、独りにしてくれないんです?」
「うん」
「みんなを巻き込みたく、ないんです」
「うん」
「だから、私は……いかなきゃ……」
「それは駄目よ」
これ以上、話すことは出来なかった。
不意に、姫に抱きしめられた。
離して欲しい。
しかし、喉が震えて声が出ない。
しばらくの間、私の嗚咽のみが場を満たす。
やがて姫は、私を離して語りかけた。
「イナバ」
「はい」
「私達は、貴女と在ることを諦めない」
「はい」
「月から何が来ようと、関係ないわ」
「それは……」
「だって貴女は……」
「……」
「貴女は、私を守ってくれるでしょう?」
「……はい」
またあふれそうになる涙を、今度は辛うじて自制した。
そうそう泣いてばかりもいられない。
私は、守ると言ったのだから。
「私が……守ります」
月で守れなかった私の家族を、ここで守る。
それは私がここに馴染んだ後、貴女達に誓った私の約定。
どうして忘れていたのだろう。
私は私の手の届くところの者しか守れない。
月に帰ったら、彼女達を守ることが出来ない。
「私が、守る」
今度こそ、見失うまい。
私はかつての誓いを、もう一度その聴覚に刻み込んだ。
* * *
しばらくは穏やかな日々が続いた。
師匠は世界から月をすり替え、この地上を密室にした。
満月さえなくなれば、彼らはここに来られないらしい。
ならばわざわざ、月の使者と戦うことはない。
師匠の能力の本質は、護る事、癒す事、生み出す事である。
そんな彼女にとって、地上の密室はまさにお家芸とも言える。
師匠は私を引っ叩いた翌日には、その術式をあらかた完成させていた。
そして、今日は本来満月の夜。
その空に浮ぶ月が満月でなかったことを確認したとき、永遠亭は歓声に包まれた。
その月が何時までたっても動かないことに気づくまでは……
「ま、こんな予感はしてたんだけどね」
「てゐ……」
「妖怪のスペックなんてほんとにピンキリだから。月なんて関係なく強いやつだって居る」
私とてゐは中庭に座って空を見上げていた。
先ほどから、月は殆ど動いていない。
星に到っては動いているかさえ判らない。
明らかに時間がおかしい。
「これだけ大掛かりなことやってるんだからね。邪魔が入る事くらい、覚悟の上だけどさ」
「そうだね。だけど……」
「使者の他にも敵が出来るとは思わなかったなぁ」
「ま、人生なんてそんなもんだって」
「そんなもんか」
てゐは斧を担いで立ち上がる。
てゐが本来好んで使うのは、凶悪な鈍器の杵である。
ここに来て以来、私はこいつが斧を使うところは一度も見ていない。
しかし形状、重心など、似通っている点は多い武器。
おそらくこれが、てゐ本来の武装なのだろう。
だろうが……
「ん? どったの?」
「なんでもない。ないからその斧、こっちに向けないで」
てゐは訳が判らぬと言わんばかりに首をかしげる。
こいつは自分がどれだけ“ヤバイ”モノを持っているか、気づいていないのだろうか?
てゐがその小さな肩に担いだ斧。
それは今、ボロボロの布で厳重に包まれ、更に師匠が直々に封印の呪を施してある。
にもかかわらず、その禍々しい妖気は私の背筋に冷たい汗を滲ませる。
何でこんなもの持って平然としてるんだこいつ?
「あ、これ? 良いでしょ? 持ってみる?」
「いい! いいから近づけないで!」
「そう……」
妙に沈んだ声で引き下がるてゐ。
そんなに私に持たせたかったのか?
「何でも、コレ自体が意思を持ったアクマノオノ何だって」
「……そうなんだ」
「肉を喰らい血を啜る事のみを求め、振ったときの風切り音はまさに生物の悲鳴!」
「へぇ……」
「運が悪いとダメージがフィードバック起こす、なんて噂もあるんだけどね?」
「おい!?」
「大丈夫だって、私運だけはいいんだから」
カラカラと笑うてゐ。
しかしこの斧が放つ鬼気は、運だけで使いこなせる代物ではないと思う。
「ねぇ……やっぱり、違うのにしない?」
「馬鹿言わない。相手は夜を止めるような化け物なのよ?」
「そうだけどさぁ」
「私は強い妖怪じゃないんだから、せめて武器くらい良いの持たないと勝てないの」
「でも、ものには限度ってものがさ……」
「あー、うっさい! だったらあんたもその物騒な銃置いてきなさいよ!」
「コレはいいの。呪いなんてないから」
「呪いがなくても、その鉄と硝煙の匂いは嫌いなの! ……それにさ」
「うん。もう遅いってね」
空が突然低く、狭くなった。
実際にそうなった訳ではない。
凄まじいプレッシャーの主が、近くまで来たのだ。
しかし、これは……
「どうやら大物来たみたいだね」
「うん。めんどいなぁ」
てゐが包みの布に手を掛け、斧の刃を使って一気に引き裂いた。
見た目は無骨な、唯の斧。
しかし空気に触れたその刀身は、禍々しい深紅。
私が視るまでもない。
コレは、既に狂っている。
「行こうか?」
「ええ」
釣りにでも誘うように、てゐが声を掛けてくる。
永遠亭は今、師匠の術でその内部が若干変化している。
私とてゐが向かうのは、姫の私室へ続く一本道の廊下。
相手は正面の扉から現れ、私達の背後に在る通路を通らねば、師匠と姫の部屋には辿り着けない。
しかもこの一本道もじきに閉ざされる
それにはあと僅かに時が足らないが、それは私達が稼げばいい。
そしてもし私達が突破されても、その後には師匠が控えている。
あの人が本気になったときの守備力は、桁違いを通り越して非常識。
師匠の攻撃能力自体は高くないが、それでも決して『負けない』だろう。
今回は不眠不休で働いてくれる師匠を、あまり戦わせたくないが。
「なるべくここで止めよう、てゐ」
「判ってる」
師匠は術の要を姫に据えて術を行使した。
自分を要としなかったのは、自身が戦う可能性を考慮したためである。
コレで姫は満月である今夜いっぱい、部屋から出ることが出来なくなった。
しかし姫ならば部屋から動けなくとも、数々の宝具でもって戦う術が在る。
この配置が、今の条件下において一番戦力を整えられる形というのが、私と師匠の結論である。
……今、扉の向こうで立っている兎は、居なくなった。
相手はおそらく、三人。
真直ぐこちらに向かってくる。
「来るよ」
「オッケー」
てゐは斧を担いで私の前に立つ。
彼女が前衛、私は後衛。
お互いが一番力を出しやすい形が、これ。
私は二挺の銃、漆黒・ピースメイカーと白金・エンゼルクライムを取り出した。
相手が扉に手を掛ける。
私は聴覚でその気配を察知した。
まずは……奇襲!
無機物狂視『爆散』
「え!?」
てゐの間抜けな声が聞こえる。
まぁ、無理もないか。
扉が突然指向性を持って、大爆発を起こしたのだから。
こちら側には何の影響も無いが、扉の向こう側に居れば即死は免れないだろう。
無論普通なら、の話であるが。
「まぁ、霊夢。コレが噂の祝砲というものですわ」
「知らなかったわ。最近の祝砲は殺意込もってんのね」
「二人とも、私を楯にしないでくださいな……」
煙が晴れ、視界が通る。
最初に現れたのは金髪の女
掌から生み出した蒼赤の卍を、互い違いに組み合わせて楯のように構えている。
背丈は耳を入れた私よりもなお高い。
導師のような服を纏い、頭髪と同じ黄金の九尾をなびかせて佇んでいる。
「藍……貴女、私そっちのけで霊夢を庇いに行ったわね?」
「気のせいでしょう。私は事実、お二人の楯となったのですから」
「私が移動したの。霊夢は動いてない。コレは何を意味するのかしら?」
藍と呼ばれた、長身の妖怪。
その影から、現れた女。
藍とは違い長髪だが、その髪の色は同じ。
二人の感じが似ている所からすると、姉妹かも知れない。
まぁ、尻尾がないから違うのかもしれないけど。
「気にしないの紫。皆無事なんだからいいじゃない?」
最後に現れたのは黒髪の女。
白と紅の見慣れぬ装束に身を包み、やる気のなさそうな表情で突っ立っている。
彼女は……私の目が狂っていなければ、人間に見える。
妖怪と人間の組み合わせ。
ここに来てから知った常識が、私に違和感を投げかける。
妖怪は人を喰らい、人は妖怪を退治する。
その常識から鑑みれば、明らかにおかしいチームである。
おかしいけど、この違和感は覚えがあった。
アレは初めて戦場に出て……人と兎が共に在ることを知ったときだ。
そうだ、あの時は……
―――歪みきった殺意を抑制することが出来なかった
「好い貌で嗤うじゃないか、若いくせに」
その声が私を思考の海から引き戻す。
いけない。
敵の目の前でなにを感傷に浸っているのか。
私は一つ息を吐き、心の中の違和感も一緒に吐いた。
今喋ったのは藍と言ったか?
見れば既に卍を消し、両手を左右逆の袖にしまっている。
あれは絶対、袖に何か仕込んでるな。
「多少マシなのが出てきたってとこかしら?」
「そうね霊夢。向こうもあまり余力はなさそうよ」
気楽に笑う侵入者。
私はそれには耳を貸さず、三人の波長を読み取ることに集中する。
藍という妖怪は長くもなく短くもない普通の波長。
霊夢という人間は、長短が交互にくる不思議な波長。
そして紫という妖怪の波長は、私には読み取れない。
これはスパンが長すぎて解らないのか、もしくは短すぎて拾えないのか。
それとも、彼女にはそんなものは無いのだろうか。
とにかく不可思議な女である。
しかしコレだけははっきりと解る
こいつらはヤバイ。
私はこのとき、敵を討つ為の手段をすべて放棄。
負けないことに徹した戦闘プランを頭の中で構築する。
この三人相手に勝つのはまず無理だ。
地の利と条件を生かし、朝まで粘ればこちらの目的は達成できる。
問題は相手がどれだけの間、夜を止めていられるのかという事だが……
「古来より、兎狩りは狐の役目」
薄笑い等浮べつつ、藍が一歩、踏み出した。
袖から手を出し、緩やかに広げ、私達の視界から後ろの二人をごく自然に覆い隠す。
その様は堂に入っており、随分と『慣れた』印象を受ける。
「勝てるのかしら?」
からかう様な紫の言葉に、女狐の笑みが深くなる。
「私が負けると思います?」
その言葉に苦笑する紫。
本当に、彼女の勝利を疑っていないようである。
ま、いいけど。
「それでは先に進むとしましょうか。夜は案外、短いものですわ」
「いいの紫?」
「今の藍はどうせ、私が何言っても聞きやしませんもの」
突然、私の後ろに気配が二つ。
おそらく妖狐の背後から空間を渡ったのだろう。
私は遠ざかっていく気配を追う事は出来ない。
目の前の相手はそれを許してくれない。
私達が振り向けば、躊躇無く後ろから撃ってくるだろう。
あー……師匠に怒られる……
「それじゃ始めるとしますかね……」
そう言って、藍は右手に一振りの細剣(レイピア)を握る。
刃渡りは90cm以上100cm未満。
おおよそ平均的な大きさで、両刃もの。
握りを保護する大きな鍔と、手の甲を覆う湾曲した金属が付けられた、標準的なつくりである。
私は相手の左手に目をやる。
そこには何も握られていない。
あれ……確か……あの武器は……
考え込む私を余所に、一つ二つと振ってみせる藍。
空気を鋭く切り裂く音が鼓膜を叩いた。
「んー……ま、こんなもんかな」
そういって、微笑みを浮かべる藍。
彼女は左手に細剣を持ち直すと、同じように振って見せた。
それは右手のときとなんら変わる事のない剣捌き
やはり両利きか……
両手が使えるというのは案外有効なフェイントになりうる。
おそらく態と私達に見せているのだろう。
彼女は自身が負けるとは微塵も思っていないのだ。
「よし、いつでもいいぞ」
藍は切っ先を下ろした自然体をとる。
それにしてもてゐの斧を見た上で、なお細剣を用いて捌くつもりなんだろうか?
それが出来るとしたら、とんでもない使い手だが……
「あ、言っておくけど、コレも唯の細剣じゃないよ? 妖剣に仕立ててあるから、簡単には折れない」
「随分いろいろ教えてくれるのね?」
「あっさり終わったらつまらん。それに……」
「?」
「自分の十分の一も生きてない小娘に、本気になるのも大人気ないだろう?」
「あっそ。ならそのまま死んでよ、お婆さん」
「ふふ、こちらも老い先短い身。手加減しておくれ若人よ」
「あー! うるっさいな、もう!」
別に会話を楽しんでいるわけではない。
ただ、なるべく戦闘開始を遅らせたかった。
判っている。
藍を見てから、てゐは一言も喋っていなかった。
てゐは別に意識して黙っていたわけではない。
動物は自分を捕食する相手に逆らうことが出来ない。
相手がかつての食物連鎖の上位者で、同じ妖怪なら……
しかも現在の自分よりも強いと、本能で理解してしまったら……
おそらく、自分の中の恐怖心と戦っていたのだろう。
その上で吼えた相方の背中は、私にはとても頼もしかった。
「御託はいいんだよ! さっさと構えな」
「あ、もう始めるんだ? 時間を稼ぎたいと思ったのに」
「……判った上で、付き合ってたの?」
「ああ。あの二人が先に進んだ時点で、既に勝ったようなものだから」
「勝ったようなものってのはさ……」
「ん?」
私は銃を構え、てゐは担いでいた斧を構える。
一瞬てゐに視線をやると、その手も身体も震えていない。
よし、大丈夫そうだ。
「まだ勝ってないってことよ」
「む、そうさね……確かにそうだ」
感心したように私達をみやる藍。
しかしあくまでも、その余裕は崩さない。
「それじゃあさっさと終わらすか」
「させねぇよ」
「そういうことね」
藍の笑みから遊びが抜け、真剣な微笑が残った。
彼女も細剣の切っ先をこちらに向ける。
そして謡うよう言の葉を紡ぐ。
「いらっしゃい? 勇ましい小兎さん」
* * *
てゐが翔る。
彼我の距離は約20メートル。
藍は動かず、その切っ先をてゐに向けるのみ。
細剣は相手の武器を流して急所を貫くことが本来の使い方。
受け流す事が至上の命題である以上、おそらく自分からは仕掛けない。
武器の長さを含めた間合いは、殆ど五分。
やはり藍はてゐが間合いに入っても動かなかった。
「死ね!」
てゐの斧が横なぎに振るわれる。
私は藍の動きに集中する。
どう受けるのか、どう流すのか。
アレを凌いだ後に、なにを返すのか。
その全てを見極めるために。
しかし、変化は突然だった。
「え?」
てゐの声が聞こえた。
だが姿は見えない。
私の目の前には酷薄な笑みを浮かべた藍がいる。
空間転移!?
てゐの斬撃をかわしつつ、私を必殺の間合いに収める一手。
藍の手首が翻った……のだろう。
そこまで見てはいられなかったが。
しかし細剣の切っ先は私の右目に吸い込まれて……
冗談じゃない!
私は咄嗟に、白金の銃身で切っ先を遮る。
硬い音と共に右手に衝撃が走る。
凌いだ。
だが追撃まではかわせない。
再び切っ先が変化し、今度は首を……
「っのぉ!」
てゐの声が木魂する。
てゐは空振った勢いそのままに振りぬくと、斧をこちらに投げたのだ。
舌打ちしつつ飛び退く藍。
斧は藍を見失い、そのまま私に迫る。
あいつが避けたら、その斧私に当たるんだよてゐ?
まぁ、いいけど。
無機物狂視『軌道変化』
「なに!?」
藍は驚愕の声をあげる。
私に当たる筈の斧は、やおらその軌道を変えて、再び藍を追い詰める。
藍はその身を仰け反らせ、服一枚切らせて回避した。
「てゐ!」
私が声を掛けるまでも無く、既にてゐは私と藍の斜線上に回り込んでいる。
それは斧の軌道。
てゐは飛んでくる斧を見事に掴み、そのまま藍に振り下ろす。
藍は切っ先で突いて刃を逸らす。
ここだ!
藍の動きが止まった瞬間、私は両手二挺の残弾が空になるまで引き金を引く。
銃声が響き、藍の身体がよろめいた。
「やった!」
「まだよてゐ!」
「っと」
同時に藍は足を踏みしめ、体勢を立て直す。
信じられないことだが、着弾音は全て金属音だった。
あの細剣に流された。
凄い……
私は素直にそう思う。
貫通力のある白金は切っ先で突くか、刃先で逸らす。
破壊力のある漆黒は強固な鍔元で受け止める。
それぞれ一発ならば可能かもしれない。
しかし二挺あわせて、計三十発。
その全てを細剣で受けきるなど神業に等しい。
藍は慌てて振るわれた斧をバックステップで回避する。
「な……んで無傷なんだよ……」
てゐは呆然と問いかける。
遠目の私は目で追えたが、近くのてゐにはわからなかったのだろう。
私も出来れば、知りたくなかった。
「守りなんて単純なのさ。自分に当たる攻撃に合わせて、逸らす。それだけだ」
それだけであってたまるものか。
異論はあるが実際にそれをやっている以上、きっとそうなのだろう。
というか化け物か、こいつは?
アレが出来る以上、てゐが如何に早く振ろうと当たらない。
私もそのまま撃ったのでは先ほどと同じになる。
弾丸狂視はてゐを誤射する可能性が高くなるから使いづらい。
ならば……私はカートリッジを交換する。
「まさか今のでお仕舞い、なんてことは無いよな?」
「ええ、これからよ!」
私の声と共に、てゐが走る。
私も左右から二発ずつ牽制を撃った。
そのままてゐと挟むように、彼女の右側に回り込んでいく。
そしてさらに二発。
藍は身体をこちら向けて、私の放った弾丸を捌く。
それは同時に、てゐに対して素手の左半身を晒したことになる。
そのまま二発、四発、六発と、時間差で藍の武器を引き付ける。
弾丸狂視が使えず、数を撃ち込むことも出来ない以上、私に藍への決定打は無い。
だがてゐの斧ならば話は違う。
私の役目は、てゐがアレを当てる機会を作ることだ。
「せ!」
「……」
てゐの斧が振るわれる。
藍は見向きもせずに私と相対している。
私はてゐの斬撃を援護する。
藍は斧よりも早く身体に届く、私の弾丸を刀身で弾く。
タイミングは完璧。
藍のディフェンスは間に合わない。
しかし藍は左手を翻し、袖から手にした短剣で凶悪極まる斧の接近を阻んでいた。
……やはり持ってたか。
「っく」
「マインゴーシュ(左手用レイピア)……」
「あ、知ってたのか?」
そう言って人の悪い笑みを浮かべる藍。
彼女が細剣を出したとき。
またそれを両方の手で使って見せたとき。
それを持っている可能性は高いと見てはいた。
「こっのぉ!」
てゐは逆上したように斧を振るう。
一見すると乱雑なそれは、しかし全て藍の武器を狙ったもの。
武器破壊か……
しかし通用するだろうか?
確か簡単には折れないといっていたが……
「粘るじゃないか小兎が」
「おばさん、うっさい!」
藍は涼しい顔でてゐをあしらっている。
時には切っ先で突いてずらし、時には刃先で合わせて受け流す。
てゐ一人を相手にするとき、藍は剣の先しか使っていない。
それは明らかに、藍にとって余裕があることを示していた。
藍はまだ、殆ど攻撃を仕掛けていない。
彼女がその気になれば、私達を倒すのにさしたる時間は掛かるまい。
なればこそ、その気になる前に決定的なアドバンテージを奪っておかねばならないのだが……!?
一瞬、てゐが視線をこちらに向けた。
なにか策があるのか?
在ったとしても即興で合わせることが出来る策なのか?
私はてゐのアクションに集中する。
時折牽制で弾丸を放つも、全て細剣で落とされる。
その隙に振るわれるてゐの斧は、全て短剣で止められる。
私達の攻撃が途絶えた一瞬、藍の細剣が迸る。
「っつ!」
首を狙った突きを辛うじてかわすてゐ。
こいつ……私達の連携にも慣れてきてる!?
私は彼女の手元を狙って発砲する。
狙いは武器落とし。
しかし藍は一瞬早く左右の武器を持ち替えると、右手の短剣で私の弾丸を切り裂いた。
私の牽制にも、慣れてきてやがる。
カートリッジに弾がない。
てゐは攻撃力の高い細剣のある、左を相手にすることになる。
私が弾丸をリロードするほんの僅かな時間。
そのたった二秒に満たない刹那に両刃の細剣は、てゐの四肢を切り裂いた。
「てゐ!?」
「っち……っのぉ!」
それでもてゐは退かず、更に踏み込んで藍の肩口に斧を叩きつける。
藍はそれまでと違い、細剣の根元で受けた。
同時に手首をしならせて、斧に刀身を滑らせる。
今までで一番深かったが、それでも彼女に届かない。
藍はよろめいたてゐを前蹴りで吹っ飛ばす。
「がっ」
「てゐ!」
呼びかけつつも、そちらは見ない。
これはチャンスだった。
私の銃はリロード直後。
そして藍とてゐの間合いは離れた。
今なら弾丸狂視を存分に使える!
無機物狂視
「鈴仙! 『視て』!」
「え?」
私は攻撃を中断して、てゐの呼びかけに応えていた。
てゐに視線をやる。
そこには手にした斧を投擲する相方の姿。
私は半ば無意識に舌打ちしていた。
それはもう通用しない……
私の内心を余所に、てゐは斧を追って藍に迫る。
もうやるしかない!
無機物狂視『軌道変化』
私の干渉に呼応して、斧は軌道を大きく変える。
その軌道は弧を描き、てゐの接近と同時に藍の背中に刺さるはず。
だが初見で通じなかったものが、二度目に通じるはずが無い。
おそらく、藍は避けるだろう。
既に二人の間合いが近すぎる。
ここはてゐを援護するしか、私に出来ることはない。
私は銃を構えて二人の動きを注視する。
しかし……
「それ」
「!?」
突然、藍は細剣を私に投げつける。
咄嗟に銃身で払うと、全く同じ軌道で放たれた短剣が現れる。
動揺したのが不味かった。
私は身体を捩って、何とか短剣の投擲を回避する。
しかし無理に捻った身体は、もはや取り返しのつかないほどにバランスを失っていた。
「てゐ! 止まって!」
そう叫ぶのが精一杯だった。
私はてゐを援護が出来ない。
藍も武器を手放したが、おそらく素手でも勝てないだろう。
私の声に応えてか、てゐは藍の間合い一歩手前で停止した。
「その芸はさっき見たよ?」
藍は一歩、左にずれる。
そのままノールックで背後から迫る斧をキャッチした。
不味い!
あそこで藍が斧を持ったら……
そこは既に射程内!
「摘みだ、小兎」
躊躇無く、藍は斧を振り下ろす。
アレは……避けられない!
「てゐ!」
倒れながらも、必死に銃口を向ける。
だが、それが限界だった。
藍の斬撃が、てゐの左肩口に吸い込まれる。
間に合わない!
「っがぁあっぐ!?」
え?
今の悲鳴は……藍?
私は銃を構えたその姿勢で固まっていた。
藍の斧は間違いなく、てゐを捕らえていたはず……
しかし斧はてゐに触れたところで止まっている。
そして藍の左肩からは鮮血が溢れ、見る間に赤の面積を広げていった。
これは一体……あ!?
―――運が悪いとダメージがフィードバック起こす、なんて噂もあるんだけどね?
「あ……え……?」
藍は信じられないといった表情で、斧を取り落とす。
てゐは今度こそ、自ら斧を掴み取る。
私はこのとき、ようやく金縛りを脱していた。
この状況下で出来ること、それは……
無機物狂視『昇華』!
「摘みだよ、おばさん」
『昇華』は対象の存在意義を高める、私の奥の手。
そしてあの斧の存在意義は『肉を喰らい、血を啜る事』
私の能力を受け、深紅の刃が黒くなる。
てゐの振るう漆黒の刃は、過たずに藍の右肩に振り下ろされた。
「ぁ―――っ―――」
喀血混じりの悲鳴は、既に聞き取れるものでは無くなってた。
返り血が、白兎を赤く染める。
私はようやく、てゐの狙いを理解した。
運が悪いと自らを傷つける、悪魔の斧。
それは自分が使おうと、相手が使おうと、結局のところ運の勝負に帰結する。
自分が振るって当たらないなら、相手に当てて貰えばいい。
自分の運が相手のそれに勝っているのなら、結果は同じということになる。
おそらくてゐは自分が勝っているものはコレしかないと踏んだのだろう。
自分の命をチップに使ったデスゲーム。
その成功報酬は、相手の命。
藍の長身が力を失い、崩れ落ちる。
「……勝った?」
そうつぶやいたてゐも、その場に座り込んでしまう。
本当に……勝った?
あの化け物に、私達が……?
倒れた雌狐からは大量の血があふれ出し、今なお廊下に広がっている。
私達はその光景を呆然と見入っていた……
* * *
荒い息使いが、私の鼓膜を叩いていた。
それは私のものか、てゐのものか、あるいはその両方か。
私は全身に汗をかいている事を自覚した。
危なかった。
今回は本当に危なかった。
正直勝てたのは実力でも計算でもない。
運がよかった。
「てゐ、行くよ」
「あ?」
「早く! 師匠と姫のところへ行かないと!」
「ああ!」
先鋒がここまでの化け物だったのだ。
後の二人がこいつ以上とは思いたくないが、そうでないとは言い切れない。
私達は踵を返して奥を目指す。
既に通路の閉鎖には成功している。
しかし私はそれを飛び越えて、師匠か姫の部屋まで行ける。
空間狂視『歪曲』
「これ酔うんだよー」
「贅沢言わない! さっさと行くよ」
私はてゐの手を掴み……とたん、汗が吹き出した。
冷や汗とか、そういうモノではない。
物理的に、この廊下の温度が上がったのだ。
密室で消えない炎を焚き続ければ、きっとこうなるのだろう。
今回、その炎の根源は……
私達はゆっくりと振り返る。
そして、見た。
その全身に陽炎を纏い、左手の平に狐火を乗せて、静かに佇む金色の妖狐。
「不死身……なの?」
呆然とつぶやくてゐ。
しかし、藍はこちらを見ていない。
虚ろな瞳で俯いて、なにやら呟いている。
何を言っているかは、聞こえない。
しかし左手に乗った狐火は、赤から紫に、そして紫から白に変化していった。
藍はそのまま、無造作に左手を掲げ……
反射的に、私はてゐ突き飛ばしていた。
藍が掲げた左手を振り下ろす。
同時に、私とてゐの間に何かが奔った。
藍の放った斬撃(だと思う)は、師匠の張った術を切り裂き、二人の部屋へ続く通路を露わにした。
「嘘……」
呟いたのはてゐだったか、それとも私だったのか。
私は藍から目を離せない。
今のはなんだ?
藍の立ち位置を境に、天井から廊下まで焼き斬られている。
もしアレを……横薙ぎにされていたら……
「凄いな、君ら。私の自爆を狙っていたのか?」
藍は相変わらず、俯いたままである。
左手に湛えた白の炎は、今も主に振るわれることを待っていた。
藍は炎の乗った左手で、右肩に刺さった斧を引き抜く。
「今のは、効いたよ。死ぬかと思った」
白い炎は悪魔の斧を包み込み、瞬く間にその存在を抹消した。
足が震えているのが解る。
月にいたときも、これほどリアルに死を感じたことは無かった。
「武器なんか使ってしまったのが悪かったな。端からこうしていれば良かった」
武器……『なんか』……?
それはつまり……
「もう少し君らと遊んでいたかったのだがね」
私はてゐを庇うように前に立つ。
何の意味も無いことは、既に解ってしまっているが……
「残念。時間切れだ」
そういって藍は炎を収め、天井を指す。
私は釣られて、上を見る。
そこは藍に切り裂かれ、空が露出していた。
虚空に浮ぶのは真実の月。
私の生まれた月。
師匠と姫が捨てた月。
ああそうか……私達は負けたのか。
「これ以上戦っても意味は無い。それとも……」
藍は人の悪い笑みを浮かべる。
「今ここで、続きをするか?」
「勘弁して」
「ん、賢明だね」
今度は満足そうに微笑む、金色の妖狐。
しかし彼女はすぐに笑みを消した。
「では、命を助ける代わりに、一つ質問に答えておくれ」
「……なに?」
「お前ら、なんでこんな事を?」
そういえば、そんな話をする前に戦ったんだっけ。
「月にね……帰りたく無かったの」
「月に?」
「ええ。満月は地上と月を繋ぐ唯一の鍵。それさえ無くなれば、行き来は出来なくなる」
「……」
藍は唖然とした様に私を見る。
何だろう……
「それだけか?」
「ええ」
「そうか……」
藍はなぜか疲れたように嘆息すると、右手で髪をかき上げる。
「あのな小兎? ここ、幻想郷は元々隔離空間。お前らが策を弄さずとも、外部からの出入りは出来ん」
「え? でも……」
だけど私は……
「君は外から来たようだが、それにしても内部から招かれなければ、おそらく此処へは辿り着けなかった」
「そんなこと……」
「事実だ。君を招いたのがこの世界か、もしくは人か、何に惹かれて来たのかは私にも判らん。だが……」
そう言って、藍は一度言葉を切る。
そして踵を返して背を向けた。
「君はこの世界に縁があったんだ」
「この世界に……縁が……」
「そう、縁。せいぜい、大事にしておきなさい」
この世界にある、私の縁。
それは此処、永遠亭とその家族しかない。
だとしたら……
突然、てゐが私の手を掴む。
私は彼女の手を握り返す。
大丈夫。
私は、此処にいる。
「そうだ、最後に聞かないと」
藍は振り向く。
相変わらず、人の悪い微笑を浮かべて。
「私は八雲藍。君らは?」
「因幡てゐよ」
「私は……レイセン……」
「レイセン?」
「そう、鈴に仙。鈴仙・優曇華院・イナバ」
「なるほど」
藍は満足そうに頷き、今度こそ本当に振り向いた。
「今度は、家にいらっしゃい。秘蔵の武器で、お相手するから」
それは勘弁して欲しい。
「それではまた、な」
そう言い残し、金色の妖狐は姿を消した。
凄まじい疲労が、私を捕らえる。
このまま大の字で寝転んだら、さぞ気持ちいいだろう。
それが布団の上だったら、もう起きれないかもしれない。
だが、八雲藍が放った熱閃。
その破壊痕が、私にそれを許してくれない。
「行くよ、鈴仙」
「ええ」
私達は負けた。
姫は、そして師匠は無事だろうか?
私達は廊下を疾走する。
お願い……どうか無事に……
「師匠!」
私は師匠の私室に駆け込む。
師匠は既に原型を留める物のない部屋に在り、自身は無傷で佇んでいた。
耳を澄まして、師匠の身体の音を聞く。
良かった……無事だ……。
しかし師匠は私を見ると、糸が切れたように崩れ落ちた。
私は寸前で、師匠の身体と床の間に、自分の身体を割り込ませることに成功する。
「てゐ! 姫のところに!」
「合点!」
応えて、てゐは廊下に消えていった。
「師匠! 師匠!?」
「ウドンゲ……」
師匠は私の顔に手を伸ばし……
そのまま耳を掴んで引っ張った。
「イタ!?」
「耳元で大きな声を出さないの」
「すいませんすいません御免なさい御免なさい」
「なぁにウドンゲ? 耳鳴りがして聞こえないの」
「あー……離してー。耳が萎れるー」
師匠は私の耳を一頻り引っ張ると、ようやく開放してくれた。
今気づいたが、結構きわどい体勢になっている。
私は師匠を胸に抱いて、仰向けに倒れているのだから。
んー……ま、いいか。
「師匠……」
「なに?」
「何回死にました?」
「五回」
「……お疲れ様でした」
「ええ」
「本当に……ありがとう……ございました」
私は師匠を抱きしめる。
泣き顔を見せないように。
きっと私は今、ボロボロだったから。
「ねぇ、ウドンゲ」
「はい」
「ごめんなさい」
「いえ、師匠は……」
「失敗したことじゃないわ」
師匠は身を捩り、私の上で仰向けになる。
「邪魔ね」
「はい」
無機物狂視『爆散』
師匠の部屋の屋根が、私の能力で無くなった。
コレで空が見える。
そこには夜明け前の星空と、大きな満月が浮んでいた。
「ごめんなさい、ウドンゲ」
「何について、謝っていらっしゃいます?」
「貴女だけじゃなかったの」
「……」
「月に何かを置いてきてしまったのは、私も姫も、同じだった」
師匠は懐から小箱を取り出す。
中身は私も持っている。
師匠自作の煙草だった。
「いつかは、月と決別しなくちゃいけなかった」
師匠は片手でマッチを取り出し、火を点ける。
「何時までも逃げていることは出来ないから」
煙草の先端に、火を移す。
「私は貴女を口実に、それをしようとしたんだわ」
師匠は吸おうとせず、先端から昇る紫煙を見ていた。
「貴女を護るという建前の裏で、私は自分を利していた」
燃え尽きた灰を脇へ落とし、また紫煙を空へ放つ。
「だから、ごめんなさい」
師匠はようやく煙を吸い込み……
吐き出すことなく咽込んだ。
「大丈夫ですか?」
「……ええ」
「吸えもしないのに、持ってるんですか?」
「そうよ。だって……」
師匠が虚空は手を翳す。
煙草の先端を月に向けて。
紫煙が、月へ昇っていく。
私の好きな光景。
「好きなのよ……コレ見るの」
「私もです」
私達はしばし、その光景に見入っていた。
やがて、煙草が燃え尽きる。
灰が師匠の指を焼いたが、師匠は顔を顰めただけだった。
「ねぇ、師匠?」
「ん」
「私はもう、月には帰りません」
「ええ」
「ですから……」
うう……言わなきゃ駄目かな……
駄目なん……だろうな……
何時だか、私は自分で決めた。
師匠が起きてる時に、ちゃんと言うって。
「末永く……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
もう何十年も一緒にいたのに。
そう思うと、不意に可笑しくなってきた。
笑いがこみ上げてくる。
私達は月明かりの下で笑いあった。
やがて笑いが収まると、今度は疲れを思い出した。
ああ、もうじき夜明けだってのに……
「眠いわウドンゲ」
「私もです」
「このまま寝ていい?」
「はい」
「ん」
「師匠……」
「なに?」
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
すぐに師匠の寝息が聞こえてきた。
私も限界。
薄闇から漆黒へ、私の意識が滑落していく。
―――明日此処片づけなくちゃ……
師匠のぬくもりを感じながら、私は最後にそんなことを考えていた……
【了】
相変わらず戦闘がカッコイイです!
藍さま相変わらず武器の研究を続けてらっしゃるようで…
もう少し尺をとって、緩くて丸い、少しへたれてきたウドンゲを見せて欲しかった気もします。
実際は、そんな事ほとんど些事のようなものですが。
バトルが面白かっただけに少し勿体無いかなぁ、と。
偉そうなこと言ってごめんなさい。
本当に楽しみながら読ませて頂きました。
この後、レイセンも藍様の武器の実験台になるところまで幻視しました。
妖夢と一緒に必死でしょうね。
最後に……師匠かうどんげ、どっちでもいいから場所を変わっt……。
>ソレにむかい……
>「好きです師匠」
キタコレ! って本気で叫んじゃいました……。そんな私はshinsokkuさんの所で破ったプロットを千々にして地面に叩き付けてストンピング下挙げ句、油をくべて焼き尽くします。
でもてゐの打った一手には痺れましたぜ。
月まで届くか紫の煙。
届かずとも良いのです。
今そこにある、それだけで……
ではでは最終話、心からお待ちしておりますw
それでも私は、大好きだ。
優しくて、熱くて。そんな世界が大好きだ。
鈴仙、幸せにな。
実に斬られ役
つくづく八雲藍の運の無さを実感させてもらったよ。
…といったところでしょうか。今回はお稲荷様の引き立て役だった兎でした。
次の話がすごい楽しみです。
ってか、藍様つえぇーーー!!!