Coolier - 新生・東方創想話

東方毒術考

2006/02/10 02:31:17
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「汝自身を知れ。神をあれこれ詮索するようなことはよせ。人類にふさわしい研究対象は人間である」

アレクサンダー・ポープ








場所は幻想郷げんそうきょうの山奥。そこは鈴蘭の花が大量に咲いていた。
この場所の鈴蘭は確かに野生で、普通に群生しているのだが、通常の鈴蘭より遥かに毒性が強い。
その理由は、ここに住む者の仕業とされているが、詳しいことはわかっていない。

「御無沙汰しているわ、メディスン」

そこに足を踏み入れたのは、北斗七星が象られた赤と青の衣装に身を包んだ銀髪の女性だった。
名前を八意永琳。幻想郷唯一の薬剤師であり、「月の頭脳」の異名を持つ人物である。

「あら、お久しぶり。今日は兎さんはいないの?」
「ええ、ウドンゲは貴女の事をどうも誤解しているようでね。信用していないのよ、ごめんなさいね」
「いいのよ、別に。私のアプローチが足りないだけよ」

と、永琳に言ったのは、この鈴蘭畑を住処すみかとしているメディスン・メランコリーであった。
彼女は四季映姫・ヤマザナドゥによる教えを受けてから、幻想郷に住む者達と積極的にコンタクトを取るようになっていた。
妖怪になって日が浅い彼女は、まだまだこの世界のなんたるかを知らない。

故に人形解放という、通常では意志を持たないはずである人形を、人間から解放するという企てをしようとしていた。
しかし、今のメディスンは違う。幻想郷の住人とある程度出会った事で、知らない事を知るようになってきた。

「アプローチ?」
「いや…あなたには関係なさそうね。で、今日は何か用かしら?」
「まあね、ちょっと研究してみたいことがあってね」
「研究?」

メディスンには思い当たる節があった。
八意永琳と始めて出会った時に自己紹介をされたのだが、その時永琳は、ありとあらゆる薬を作る薬剤師と名乗った。
流石に毒を操るメディスンも馬鹿ではない。天才的な薬の作り手ならば、毒だって無力化してしまうかもしれない。
この鈴蘭は確かに有毒ではあるが、全草を強心剤と利尿剤として使うこともある。
永琳ならば、その程度の知識は基本中の基本だ、とメディスンは思った。

「いや、ゲルセミウム・エレガンス。懐かしくてね。
 正倉院しょうそういんの中にあった治葛やかつと同じだったから、まさかここでもこんな毒草に会えるなんて思ってもなかったわ」
「……正倉院?」

メディスンは尋ねた。

「貴女は知らないだろうけど、この幻想郷の外の世界。そこには日本という国家があるの。
 今からずっと昔、もう千年以上も前だけど、聖武天皇という為政者の遺愛品を納めた宝物庫があるの。それが正倉院よ。
 今は残っているかわからないけど。まあ、こっちに来てからかなり経ってるしね。
 で、その中にゲルセミウム・エレガンスがあってね、ここにもあったからちょっと驚いたわ」

永琳はにこやかな表情をして言った。

「ふーん、随分と毒草に詳しいのね」
「職業柄、貴女の専門知識である毒なんて全て知っている。貴女の知らないモノもね」
「…そうか、薬剤師だから、薬を作るための材料のことも知らなくちゃね」
「そういうこと。私が知らない毒はない。貴女が言った別剌敦那ベラドンナ鳥兜トリカブト彼岸花ヒガンバナ梅形草バイケイソウ走野老ハシリドコロ朝鮮朝顔チョウセンアサガオ、等々。
 数え上げたらキリがないわ」

やはりな、とメディスンは思った。この女は、いろんな意味で危険すぎる。
確かに自分は毒を操る能力を持っている。この鈴蘭の毒のみでなく、ありとあらゆる毒を操ることができる。
だが、今自分と会話をしているこの人物は、ある意味で自分と同じだ。

ありとあらゆる薬を作る能力を有しているのならば、当然薬の材料にする物質の知識が必要となってくる。
それには、当然薬の材料とする草の成分も含まれている。
薬草だけではない、彼女ならば、全ての毒草を知っているに違いない。

「似ているわね、貴女と私って。
 貴女は単純に毒を操る。だけど、私は薬を作るために毒を操る。
 仕様用途は違うけれど、ほぼ同じ。貴女も私も、毒を操る能力を有していることになるわね」
「そうね、確かに似ているわね。私は単純に毒を操るけれど、あなたは違うわ。
 薬という、『薬』にも『毒』にもなる危険な物を操る能力を持っている。
 あなた次第で、『薬』にも『毒』にもなる。薬を必要とする人の命さえも、あなたは左右している」

永琳を睨むような目付きでメディスンは言った。

「あらあら、そんなに怖い人間じゃないわよ、私は」
「どうかしら? 人間ってのは、心の中ではとんでもないことを考えているからね」

そう言うと、メディスンは目を下に落とした。
何故そうしたのかわからないが、永琳と会話するのが嫌になったか、あるいは怖くなったか。

「じゃあ、貴女に訊くわ。貴女はどうして毒を操るのかしら?」
「え?」
「私は薬を作るために毒を操る。だけど、貴女が毒を操る根拠は私は知らない。
 できれば私はそれが知りたいわ」
「……それは」

メディスンは行き詰った。

「貴女は毒によって動く人形。長年の間、鈴蘭の毒を浴びる内に、その毒は人形を蝕んできた。
 やがて毒は人形を魂のうつわたる『肉体』へと変化させ、内臓を作り、骨格を形成し、人格を作り上げた。
 しかし、科学的にも物理的にも、毒が人形に生命を与えるなんていうことはありえない」
「違うわ」

事実を言われ、ついカッと来たのか、メディスンは強く言い返した。
それに対し、永琳はメディスンをじっと見つめる。
その姿勢は余裕。ありとあらゆる知識を持つ彼女にとって、メディスンの生半可な知識など、敵ではない。

「ありえないなんてことは、ありえないわ。現に私は鈴蘭スーさんの毒のおかげで私を得た。
 毒によって自我を得た人形は、私自身。だからありえるのよ」
「前言撤回。それは認めましょう。でも、本題は違うわ。何故貴女は毒を操るのか。
 その回答を私は欲しているわ。……貴女自身にも、少し興味があるしね」

その台詞に対し、メディスンは唇を強く真一文字に結んだ。
危険というか、この女の挑戦的態度は何かとむかついてくる。
しかし、根拠がわからなければ話にならない。

「いいわ。私が毒を操るその理由、じっくり時間をかけて考えてあげる」
「ふふ、良い回答を期待しているわ。……まあ、そんなにあせらなくても、答えは自然に導かれるわよ、きっとね」

そう言うと、永琳は鈴蘭畑から去っていった。

「……面白いじゃない。私が毒を操る理由。スーさんがどうして私に命を吹き込み、そして私を毒使いにしたのか。
 その根拠、見つけてやろうじゃない!」

かくして、メディスン・メランコリーの戦いは始まった。










とは言ったものの、やはり自分ひとりではどうこうすることもできない。
ここは、幻想郷の住人の知識を借りるべきだとメディスンは思った。
そう、自分は知識を増やす必要がある。
住人の知識を借りれば、ある程度のコミュニケーションにもなる。彼女はそう考えた。

まず、手始めにメディスンが向かったのは、幻想郷に存在する大きな湖であった。
水はとても澄んでおり、小魚が暮らしており、釣りをする者も存在している。
その湖のほとりには、紅い色をした洋館が建っている。
彼女は、最初はここに住む者に尋ねてみることにした。

その紅い建物、名前を紅魔館こうまかんという。
メディスンは紅魔館の大きな正門にやってきた。

「ごめんくださいな」

とりあえず、誰かいたのでメディスンは声をかけた。

「あれ、見かけない人ですね? どちら様でしょうか?」

そこにいたのは中国風の服装をした女性だった。

「あ、あなたは! ……え、ええっと、確か名前は………ええと、うーんとね、あのね」
「あ、な、名前ですか? 私の名前は―――――」
「セイ! セイセイセイ!!!
 わかってるのよ。ルナマリアの妹と名前が同じなのはわかってるのよ!」

メディスンは右手を開いて女性に向け、大声でそう叫び、制した。
あまりの剣幕に、女性はそれ以上何も言わない。

「名前……あ、そうだ! 思い出した! 紅美鈴くれないみすずだっけ?」
「違いますっ! というか、そこまでわかっていて何故!?」
「え、違うの? 『にはは、美鈴ちん、強い子』、じゃなかったっけ?」
「漢字が違います! ファンに怒られますよ! それに、私の名前は―――――」
「バッチコーイ!!! 違うわよ、名前は……ああ、あれだ。ええっと、中国」
「だから違います!!!」
「違った? じゃあ、あれだ。ソブレメンヌイ」
「……………もういいです、ぐすん」

そう言うと、中国風の女性は、体育座りをして地面の土に「の」という文字を書き始めた。
彼女の目からは、涙が華厳滝けごんのたきのように流れていた。

「……なんなのよ、一体」

それはそれでどうでもいいが、問題は正門が閉まっている事である。
恐らく門番である女性はもう立ち直れない状態にある(メディスンにはそう見えた)ので、行儀悪いが強行突破を試みた。

その方法、門の扉の鉄格子に足をかけて、登って入る方法。
かなり古典的だが、メディスンはそうやって紅魔館内部へと入っていった。






「思ったんだけど、どうして貴女がここにいるのよ…」
「あのね、ちょっと質問したくてね」
「美鈴はどうしたの? まさか倒したとか?」
「ううん、なんかね、名前間違えたらいじけちゃった」
「ああ、やっぱりね」

紅魔館を歩いて数分、すぐに巡回のメイドに見つかり、事情を話したメディスンは客室に招かれた。
少なくとも、門番を倒すか実力で正門を突破した者には最高のおもてなしをするのが、ここの礼儀であった。

メディスンに紅茶をれ、洋菓子を用意したのは、
紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの侍従長じじゅうちょう瀟洒しょうしゃなメイドこと、十六夜咲夜であった。

季節は夏であるので仕様はアイスティーであり、メディスンの要望に応じてミルクティーを用意した。
メディスンは咲夜が出したミルクティーに口を付けた。

「それで、何か用かしら?」
「うん。ちょっと貴女の意見を聞こうと思って。私はどうして毒を操るか、そのことをね」
「なるほど。つまり、自分が何のために毒を操っているのかってこと?」
「大体そんな感じ」

そう言うと、メディスンは出されたクッキーを食べ始める。
香霖堂こうりんどう経由で取り寄せた、外の世界ではそれなりに有名なユーハイムの洋菓子である。

「うーん、ぶっちゃけ言い換えれば、あなたはどうして時間を操れるの?」
「どうして、と言われると結構困るかな。生まれつきその能力があったからね。
 実はね、私、過去の記憶が一切ないのよ。
 覚えているのはお嬢様に『十六夜咲夜』という名前をたまわって、それからここで働き出した事ぐらい。
 幻想郷の住人は、何かしら能力のひとつやふたつ持ってそうだから、別にあなたに限ったことじゃないわ」

咲夜は10人が見れば10人は惚れる笑顔を作って言った。

「ふーん…。じゃあ、私も生まれつきで確定していいのかなぁ。
 でも、私は私で、あなたはあなただし」

両肘を付き、両手の手の平を頬に付くポーズを取ってメディスンは言った。
足をブラブラと上下運動させて思考する。

「そうね、そう考えるとやっぱり難しいわね。ちょっと哲学的要素が入ってくるから。
 まあ、時間は一杯あるんだし、ゆっくり考えた方がいいんじゃないかしら」







「生まれつき、かぁ。何だか良くわからなくなってきたなぁ」

メディスンは紅魔館を去り、次なる目的地へ向けて移動を開始した。
あの後、咲夜に紅魔館のほぼ隅々までを紹介されたため、時刻は正午になっていた。
飲み物とお菓子を頂き、更に紅魔館の案内までしてくれるとは。人間という種族は、案外捨てたものじゃないかもしれない。

彼女が次に向かったのは、幻想郷と外の世界の境に存在する博麗神社であった。
メディスンは、以前鈴蘭畑に迷い込み、返り討ちにしてやった巫女がそこにいることを知っている。
幻想郷唯一の情報源である、『文々。新聞』によって知ったのであった。







幻想郷は、夏であった。

幻想郷の花が一斉に咲く、原因不明の異変が解決してから早数ヶ月。
ここに住む巫女は人間であり、元来サボり癖があるのだが、夏になるとその癖は悪化していた。
何故なら人間は、暑い日は外に出たがらない傾向がある。博麗の巫女もまた、そうである。
雨の日ならまだしも、強烈な日差しが照り付けるこの季節。一般的な人間なら、普通であった。

「うーん、咲夜が打った素麺そうめんはやっぱ美味うまいな」
「そうね」

博麗神社の内部では、巫女である博麗霊夢とその親友である霧雨魔理沙が素麺を食べていた。
以前、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットが流し素麺をやってみたいと言い、永遠亭全面協力の元に実施された。
永遠亭が協力したというのは、流し素麺に使う竹の提供である。

幻想郷には麺類を専門とし、それで日々の糧を得る者はいない。
そのため、レミリアの侍従長である十六夜咲夜が一から素麺を作ったのである。
「夏の暑い日に冷えた素麺を食べ、暑さを吹き飛ばそう」のスローガンを掲げたこの催しは、大盛況に終わった。
霊夢と魔理沙は、それ以来素麺作りに凝った咲夜から、おすそわけとして貰った素麺を食べていた。

「はろー、元気に生きてるかしら?」

先程とは違う挨拶をメディスンは行った。
霊夢と魔理沙は思わぬ珍客に目を疑った。

「げ、あの時の毒人形」

先に言ったのは魔理沙だった。霊夢もそうであったが、彼女もメディスンと戦って、返り討ちに遭っていた。

「…何よ、まだやるつもり?」

麺つゆが入った容器と箸を置いて、霊夢はメディスンに言った。
メディスンはそれに対し、首を横に振る。

「違うわよ。ちょっと私の質問に答えて欲しいだけよ」





「なるほどねぇ。どうして自分が毒を使うか、永琳に言われたのか」
「そゆこと」

立ち話もなんなので、霊夢と魔理沙はメディスンを中に招き、昼なので素麺をメディスンに馳走ちそうしていた。
3人で仲良く素麺をずるずると食べながら、議論は開始された。議題は「メディスンは何故毒を使うか」である。

「どうしてって言われると、やっぱり困るわよね?」
「だよなぁ。それは自分が自分だから、じゃないの?」

烏賊イカの天ぷらを麺つゆに付け、魔理沙はあぐあぐと食べながら言った。

「自分が自分だから?」

メディスンは魔理沙に言った。

「少なくとも、私はそう思うな。幻想郷の住人は恐らく誰もが能力を持っているだろ?
 例えば霊夢は空を飛ぶ能力で、私だったら魔法を使う能力だ。
 それが、お前さんの場合は毒を自由自在に操ることだった。そうじゃないのか?」

魔理沙は言った。うーん、幻想郷の住人はやはりそう思っているのだろうか。
メディスンは思考する。魔理沙の言った事は先程尋ねた十六夜咲夜と言っている事と同じである。
能力を持つ事は、それ自体が自分の存在意義なのだろうか?


「確かに、あの時私はいろんな人に会ったけど、あなた達含めてみんなは何かの能力を持っていたわ。
 彼女のあれは何なの? いつの間にかナイフが目の前に迫ってびっくりしたけど」
「咲夜は時間を操る能力を持っているんだ。時間を停止させ、ナイフを指定の位置にセットして、また時間を動かす。
 だからナイフがいきなり目の前に迫ってるように見えたんだよ」
「ふーん、そうだったのね。厄介な能力ね」
「お前さんのそれも厄介だけどな」

魔理沙は苦笑いをしながら言った。

「霊夢、貴女はどう思う?」
「うーん、そうねぇ。私も魔理沙と同じかな。能力を得た時、そりゃあ最初は驚いたけどね。
 でも慣れれば意外と役に立つ事もあったし…まあ、今もそうなんだけどね」

メディスンはふーんと言って頷いた。
やはり、これは能力と言っていいのだろうか。

幻想郷の住人は、何かの能力を持つ者が暮らす世界。その能力が、自分の場合は毒を操ることなのか。
果たして、これで結論付けていいものなのだろうか。
私がメディスン・メランコリーという名前の妖怪であり、その妖怪は毒を操る能力を持つ者。

………『あの人』に訊いてみよう。

メディスンはそう思った。

「よし、私訊いてみる。お昼ご飯、ありがとね!」

そう言うと、メディスンはいきなり立ち上がり、早足で縁側に行って靴を履くと、そのまま何処かへ走り去っていった。

「「………いってらっしゃーい」」

急速の行動だったためか、霊夢と魔理沙は引き止めることもできず、逆にそう言う事しかできなかった。










無縁塚むえんづか
ここは、弔う縁者の無い死者が、永遠の眠りにつく場所である。
そして、以前に紫色の桜が一斉に開花した場所でもある。

その異変は、四季映姫・ヤマザナドゥにはすぐにわかった。
全て生あるモノは、死ぬと三途の川を渡る。
しかし、死んだ生あるモノが余りに多すぎて、三途の川を渡れなかったケースもあった。

三途の川の船頭は小野塚小町という死神なのだが、彼女ひとりでは全ての霊魂を渡せなかったのである。
これによって、渡れなかった霊魂は途方に暮れ、身近な花に身を寄せたのである。
これが一斉開花に繋がったのであるが、要約すれば、花自体全てが霊魂なのである。それも、膨大な数。

この場合、生あるモノが一気に死んだとしか考えられない。
生あるモノが一気に死ぬ。世界中の人間が一斉に大量殺人を行ったとは考えにくい。
考えられるのは、世界中を巻き込んでの大自然災害か、もしくは世界中を巻き込んでの大戦争か…。

現在は、その異変は収まっている。

これまで花に身を寄せていた霊魂達が無事に三途の川を渡り、
冥界である白玉楼へと行き、無事に天寿を全うしたのであった。

「『ヒト』という種族は、互いを殺し合う。それも、終わり無き戦い。
 それは主義のため、それは利益のため、それは自民族の優秀さを見せ付けるため…。
 一度始まった戦いに、終わりは見えるのでしょうか?
 …まあ、彼らに何を言っても恐らくは無駄でしょうが」

映姫は、ひとり呟く。

部下である小野塚小町に、どのような霊魂が渡ったかを記録させ、
それを定期的に提出されるよう命じて以来、彼女の怠慢はなくなった。

もしそれを怠ったら恐怖の審判を下すと伝えたのだが、まさかそれが通用するとは映姫は思っていなかった。
しかし、小町の怠慢は、彼女にとっては「罪」なのであった。

たまに無縁塚を歩いてみるのもまた余興。
様々な思考を巡らせ、考え事をしながらの散歩は、閻魔ヤマである彼女にとっては余興でしかなかった。

「久しぶりね、閻魔様」

「あら、貴女はメディスン・メランコリー。久しぶりですね。私の教えは遵守じゅんしゅしていますか?」
「ええ、もちろん。幻想郷の住人に出会い、見聞を広めているわ」

自信たっぷりにメディスンは言った。
四季映姫・ヤマザナドゥに嘘を言う事は、バレない事が自分を善人に見せる絶対条件となる。
そして、バレると大きなマイナスとなる。

「それはよかった。そうです、あなたは人間からの人形解放を謳った。
 しかし、人形というのは人間が作り出した物である。
 無機物であるため意志を持たない人形は、人間から一方的に愛される。
 人形という時点で、人間からの解放は出来ない。
 あなたは立派な妖怪なのであって、人形ではない。だから、そんな浅はかな事はしてはならない」

映姫の言っていることは本当だった。
その教えはメディスンに伝わり、彼女は幻想郷に住む一妖怪として生きている。
もう自分は道具ではなく、意志を持った生あるモノなのである。

「あなたが無縁塚にやってくるとは…。もしや、私に何か用ですか?」
「用があるからやってきたのよ。閻魔様、貴女に訊くわ。私は何で毒を操るのかを」

その言葉に、一瞬映姫は目を疑った。
だが、彼女は瞬時にメディスンの言葉を理解し、返す。

「あなたが毒を操る理由ですか。…また、随分と難しい事を訊きますね。
 ですが、私は白黒はっきり付ける閻魔です。教えましょう。

 貴女が何故毒を操るか。それは私にはわかりません」

映姫はきっぱりと言った。

「はい?」

思わず訊き直した。
何だって? わかりませんだって?

「え、閻魔様である貴女がわからない!?」
「閻魔が全知全能の神ではありません。私は死者を裁く神ですけど」

映姫は笑いながら言った。確かに閻魔はインドのヴェーダ神話における「神」である。

「いや、どうしても答えが見つからないのです。
 ある人は『理由はある』と言いますが、ある人は『理由は無い』と言うとしましょう。
 貴女の問いの場合、どうしても討論ディベートになってしまう。
 それではいくらやっても答えは見つかりません。だから私の答えは『わからない』です」

メディスンは打ちのめされたような表情をした。
そんなバカな。せっかく閻魔様に訊いたのに。

「代わりといっては何ですか、私が今まで裁いてきた死者の罪の話でも聴きます?」
「いりません、そんなの」












メディスンはひとり、鈴蘭畑に戻っていた。
空は夕焼けであり、日没が迫っていた。
鈴蘭畑に居座り、今までのことが全て無駄であったのか、そうでないのかを彼女は思考した。

あーあ、結局骨折り損のくたびれ儲けかぁ。
でも、閻魔様の事はその通りだと思う。
私が毒を操る事に『理由なんて無い!』といえば、じゃあ何故『理由が無いんだ。その理由を言え』と突っ込まれる。
そうすれば、永遠に応酬が続く。下手をすれば討論自体意味不明な物となってしまう。



「どう? 答えは見つかったかしら?」

そこに八意永琳が現れた。メディスンの機嫌はかなり悪かった。

「ええ、見つからなかったわよ。私が何で毒を操るのかを」
「………あら、正解よ」

その言葉を聴いた途端、メディスンの表情は一変した。

「は?」
「貴女が毒を操る理由なんて無い。答えは無いのよ。私に薬を作る能力があると同じようにね」

答えはない。じゃあ何だ、自分がやってきたことは何だ?

「ちょっと待ってよ! 
『理由は無い』って言って、『じゃあどうして理由が無いんだ。その理由を述べよ』って言われたらどうするの!?」
「私は薬を作る能力を持ち、貴女は毒を操る能力を持つ。それ自身に理由が無いから。
 問題自体を否定してしまえば、答えも否定せざるを得ないでしょう?」

な、何だこいつは。
問題自体を否定してしまうとは、恐るべき女かな。

「あ、貴女騙したわね!?」
「別に騙してないわよ。それに私は答えを限定するようなことは言ってないわ。
 問題の答えが無いこともあるのよ。それに貴女言ったわよね、ありえないことなんて、ありえないって」

やられた。
まんまとこの女に一杯食わされた。

「今日は楽しかったわ、メディスン」
「そりゃよーござんしたね」
「ふふ、またお話しましょう……」

それだけ言うと、永琳は元来た道であろう道を歩いていった。






答えなど、無かったのだ。

ただ、メディスンには何かがわかったような気がした。
少なくとも、それは彼女自身に係わることであることは理解した。
自分が何故毒を操るのか。それに理由などありはしなかったのである。
自分が自分だからでもなく、毒を操るから毒を操るからでもなく。
後味は悪かったが、答えは見つかった。

まだまだ自分には見聞が足りなかったのだ。
それを思うと未熟であるということが、メディスンには理解できた。
もっと見聞を広め、知識を吸収する。

恐らく、それをすることが、第一かもしれない。
とりあえず、メディスン主役二次創作『東方毒術考』をお送りしました。
えー、この作品は某所において投稿したのを大幅修正した物です。さしずめ、Ver1,1って所ですか。

今回はメディスンが毒を操るその理由ですが、これで大丈夫かなぁと思ってます。

えー、私は団塊の論客ではないので討論が苦手であります。
同じ日本語を使っても、何故彼らはあのように言えるのか不思議でなりません。

というわけで、かなりの御批判やツッコミが来ると思いますが、覚悟しています(笑
だったらそんなモン書くな! と言われそうですが、私が『書きたい物を書く』性格ですので御了承を。
……ある意味、二次創作界の異端児かもしれません、自分w


というか、そもそも東方世界においてこういうの考える事自体が間違いかも(ぉ
月影蓮哉
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コメント



0.1220簡易評価
5.50名前が無い程度の能力削除
盛り上げられた所でいきなり空気抜かれた感じ。
もう少し答えが無いと言われてからの葛藤が欲しかった。
てゆうか、人を形成する上で真に理由が無い事などある筈が無い。 認識の上。
つまり「答えが無い」というえーりんの答えはなにかしらを含む嘘ではないのか。
それらを感じさせるにも永琳の行動がどうにも薄いし、どうにも袋小路な感じ。
気分的には匿名評価で言うところの30だが、
「書きたい物を書く」というスタンスは好きなので+20。
15.20名前が無い程度の能力削除
脈絡無く駆逐艦の名前を出されてもな。
20.70削除
少し読みづらい感が有ったが、面白かった