「女が男の友達になる順序は決まっている。
まずはじめが親友、それから恋人、そして最後にやっとただの友達になる」
アントン・パヴロヴィッチ・チェーホフ
<第二章> 『晴れた日はロケットに乗って ~ His destination of the Moon』
<1> 『大空への再戦 ~ Revenge Match』
◆第百二十季 文月之十五(7月15日) 昼 ヴワル魔法図書館地下
初夏だというのに異様な涼しさを与えているのは、ここの場合、物理的感覚より心理的感覚の方が大きい。
この場は確かに地下であるが、必要最低限の明かりのみ灯っているために、夏なのに寒気を感じさせた。
ここ、ヴワル魔法図書館地下は、一種の格納庫であった。
そこに鎮座されているのは、犬塚豊彦が操縦する秋水である。
外部の修復はほぼ完璧に終わっており、パチュリーの見立てで使い物にならなくなっていたエンジンは取り替えられている。
ついこの前、エンジン作成を森近霖之助に依頼しようとした彼女は、既に霖之助が作成に着手しているのを知って仰天していた。
彼女は彼が自然と感付いたのかと思っていたが、実際は八雲紫の仕業である事はもちろん知るはずが無かった。
しかし、とにもかくにも修理が完了したのは確かである。
後は実際に飛ばし、順調に飛行できたらとりあえず苦労は報われたと言って良い。
ところが、パチュリーにはある程度の不安材料があった。果たして、八卦炉で大丈夫かという事であった。
霧雨魔理沙の恋符の威力は、パチュリー自身が何度も相手をしているのでわかっている。
それは魔理沙の魔力と合わさってであるが、確かにミニ八卦炉がもたらす破壊力は並大抵のものではない。
そのミニ八卦炉を巨大化(少なくとも、パチュリーにはそう見えた)したものであるから、どんだけの推力を叩き出すのだろうか。
下手をすれば、ロケットを越えるのではにかと思っていた。
だが、それは実際に犬塚自身によって操縦させてやらないとわからない。
パチュリーは、正規のパイロットの操縦技術(それも、ロケットエンジン搭載型航空機を操る)があるのだから、大丈夫とは思っていた。
それだけで不安材料が尽きるわけではないが。
けれども、今日は絶好の飛行日和。雲ひとつ無い良い天気だ。
なあに、恐れる物など何も無い。
私が自身をもって復元した機体に、香霖堂店主開発の
それに犬塚豊彦の技術があれば、絶対に成功できるはずだ。
犬塚豊彦は、すぐにパチュリーによって呼び出された。
その呼び出しのコメントは「修理が終わったから、是非動かしてみて」という至極単純明快なものであった。
他にどうでも良い蛇足を付けるより、きっぱりと言った方が良かったと思ったからであった。
秋水のパイロットはすぐにやってきた。
幻想郷にやってきて数日経つ彼は、もう立派な住人となった。
朝は上白沢慧音と藤原妹紅といつもの朝食を取り、里の子供達と遊ぶ。
犬塚自身は、自分が幼児退行したのではないかというはしゃぎぶりを見せた事もあった。
この季節は暑いので、子供達に連れられて川へ行き、水をばしゃばしゃとかけあった。
水に濡れて衣服が透けた慧音の肢体が色っぽかったりと、やはり男性的想像はしたが、それでも彼は毎日が楽しくてしょうがなかった。
彼自身、できうるならば、この状態が一生続けば良いと思っていた。それと同時、自分の居場所について激しく自問自答していた。
しかし、今回は今回で秋水に乗る時間がやってきた。
未だに空への情熱を失っていなかった彼は、久方振りの操縦を心待ちにもしていた。
「……秋水」
犬塚は、自分の相棒の名を告げた。
この、ずんぐりとしたフォルムの飛行機が、本当に空を飛ぶのかと疑問に思った事があった。
しかし、こいつの
記憶しているのは、上昇中、物凄い加速力だった事。こりゃ凄い、たまらんなと感じた。
これだよこれ。これなら月まで本当に届いてしまうんじゃないかと思った。
―――そういえば、ロケットといえば、月まで届くロケットをいつかは造りたいと言っていた航空技師がいた気がする。
確か愛知だったか。死ぬほど勉強して地方の帝大に入り、航空工学を学んで技師となった苦労人。
ドイツの
そして、いつか、月まで届くロケットを造りたいと夢見ていた技師。
あの人は、今頃どうしているかなと犬塚は思った。
「エンジン部分は取り替えたのですね?」
犬塚は機体を見、近くで待機していたパチュリーに言った。
「ええ、わかります?」
「そりゃ、一度は動かした身ですから。で、これは何と言うんですか?」
「八卦炉と言います。外の世界の部品を溶かし、混ぜ合わせたものです。
霖之助さんの見立てでは、485ノットを超えるんじゃないかと」
「ほぉ……」
犬塚は感心したような声で言った。取り替えたというのは、やはり特呂二号は欠陥があったのだろう。
だが、彼はパチュリーの言葉の真意を理解していた。
485ノットというのは約900km/h。特呂二号が叩き出す最高速度である。
これを超えるのだから、きっと、とんでもないスピードなのだろう。1000を行くかもしれない。
それに、秋水をここまで修理した腕を持つのだから、とりあえずは安心して乗れると思って良いだろう。
戦史の書籍が置いてある所だ。秋水についての資料から、完全に復元したに違いない。
「少なくとも、八卦炉の力は相当の物だと思います。操縦の時には気を付けてと霖之助さんが」
「そんなに出るんですか?」
そこには、「秋水乗りをなめないで下さいよ」という自信が溢れていた。
「まあ、一応は出るかと。まだテストしてませんしね」
パチュリーは苦笑しながら言った。
幻想郷に秋水を乗れる者はいないからである。
「任せて下さいよ。こいつは僕の相棒です。絶対に乗りこなして見せます」
そこには、戦闘機乗りの自信が全身から出ていた。
◆同日 昼 紅魔館周辺
紅魔館には、犬塚による秋水のフライトを見物しにきた者達で萃まっていた。
博麗霊夢は恐らく自然だろうと思っていた。別に萃香が能力を使わなくても、こんなイベントならば、勝手に来るはずであるからだ。
犬塚は秋水に乗り込んだ。その風貌は、いつもの彼とは大きく違っていた。
大日本帝国海軍大尉にして、ロケットエンジン搭載型の怪物を操る凄腕のパイロット。
ここを訪れた人間で彼の事を詳しく知る者は少数派だが、そうでなくてもその姿から読み取れた。
滑走路は、紅魔館周辺の広大な敷地―――そこに人為的に整備された道路であった。
幸運な事に、
まだ未開の部分が多い幻想郷でも、いろいろと物資搬入路のために人間が通れる道は少なからず用意されている。
航空機は離陸のためのちゃんとした滑走路が必要だが、あいにく幻想郷には空港が無かった。
犬塚は計器類を起動させ、相棒を眠りから覚ました。
どう修理したのか彼にはわからないが、少なくともあの時と同じである。
八卦炉は見事に作動しており、本当に特呂二号と同じ感触を主人に与えていた。
犬塚は真っ直ぐ前を見据える。願わくば、この飛行が成功しますように。
そして、一気に秋水は加速した。それは、ロケットというより、ジェット機の加速に近かった。
八卦炉は轟音を轟かせ、機体を動かす。犬塚は慣性の法則で急激に前乗りになるも、安定した操縦を行った。
そうでなければパイロットは務まらない。
天候は悪くない。雲ひとつ無い良い天気だ。犬塚は、相棒がぐんぐん上昇するのがわかった。
これこそが、秋水であった。高度10000まで約3分。いや、この調子なら2分で辿り着くだろう。
身体にかかるGは、あまりかからない。八卦炉は完全に信用しきれなかったのか、推力調整を慎重に行っていた。
それに、自分は耐Gスーツなるものを着用していない。
そのため、急ぐ必要など全く無いし、身体に体重の何倍ものGを与える必要は無かった。
犬塚の予想通り、秋水は快調に高度10000に辿り着いた。
太陽が見事に濃緑色の機体を照らし、機体上面は太陽光を綺麗に反射していた。
計器を見れば安定しているのだが、燃料ゲージが全く減らないのに犬塚はある種の恐怖を覚えた。
多分、これはロケットではないけれど、これはロケットなのだろう。
自分自身が操縦した機体で、こんな加速力を出す機体は、秋水しかないのだから。
それと同時、犬塚は思った。
もしも―――、もしも、こいつが実戦配備されていたらどうなっていただろうか。
この加速力ならば、B-29ですら赤子同然だろうと考えた。
もともと、秋水のコンセプトは、ロケットエンジンによる急加速を武器にして敵機に突撃、帰投という戦法しかできない。
つまりは一撃離脱戦法の
だが、結果を出せば良い世界だ。こいつならば、本当にB公ですら叩き潰せる。
しかし―――それでも犬塚は別の事を考えていた。秋水は、日本の夢なんだと。
もしも太平洋戦争なんか無くて、日本が平和であれば、秋水は月まで届くロケットになっていたかもしれない。
希望的観測かもしれないが、そのロケットに乗るのは自分なのだろうかと犬塚は思った。
空が、とても青かった。
ああ、そうだ。僕は空で戦う人間ではないのだ。僕は、空を愛する人間でいたかったんだ。
数分の飛行を行った後、秋水は機体を着陸態勢に移した。
機体を滑走させ、恐らく駐機スポットとして整備された広い空間が見えた。
犬塚は華麗な着陸を行い、相棒を停止させた。
ハッチを開き、飛行帽を脱いで風防を開けた。そして、大きく息を吸い込み、大きく吐き出した。
「すげぇーっ! あんな事できんのか!?」
そう言ったのは魔理沙だった。
ある意味で大空への情熱がある彼女は、犬塚が秋水を操縦する事自体に驚いていた。
「まあね。僕はこれでもプロだから」
犬塚は笑顔で言った。彼の周りには自然と幻想郷の女性陣が集まっていた。
彼は自然と慧音と目が合った。慧音は笑みを作り、犬塚もそれに答えた。
しかし、犬塚は慧音が悲しんでいるように見えた。
…ああ、なるほど。
秋水が動いた以上、僕の居場所は―――。
幸運は、時に残酷となる。
犬塚はそう思った。
「多分、彼は堪えているわね」
犬塚による試験飛行が終わった後、ヴワル魔法図書館地下でパチュリー・ノーレッジはそう言った。
彼というのは言うまでも無く、犬塚豊彦の事である。
「堪えているとは?」
適当な椅子に座り、秋水を見上げながら森近霖之助は言った。
機体の整備関係で、エンジン担当者はここに詰めている必要がある。
彼は吸いたい煙草を我慢していた。パチュリーが喘息を患っているからだ。
「秋水が飛んだのならば、あなたにもわかるでしょう?」
「ああ、彼が発つという事か…」
「そうよ。元々ここの住人じゃない彼は、本当にここに必要なのかと思っていると私は思うわよ」
パチュリーの意見は確かにもっともであった。
何の因果でもあれ、太平洋戦争中の日本で生きている犬塚は、幻想郷の人間ではない。
最近でも幻想郷に辿り着き、土着し始めた者達は確かにいるが、犬塚の場合はそうではなかった。
様々な人間と出会い、幻想郷に暮らすのも悪くは無いと思うが、まだ彼は祖国への思いが強かった。
「あの人、強いわよ」
パチュリーは言った。それが精神的強さである事は霖之助はすぐにわかった。
「パチュリー。彼はどうなると思う?」
「どうなるって、帰るか留まるかどっちかでしょ」
「なら、どっち?」
「そうねぇ………。帰るんじゃないかしら。あくまで私の観測にすぎないけれど」
<2> 『月まで届け、秋水の炎』
◆第百二十季 文月之十五(7月15日) 夜 人里 上白沢慧音の家
その日の夜、犬塚豊彦は急に上白沢慧音に切り出した。
それは、あまりにも唐突な物であった。
「そうか……。行くのか」
慧音は湯のみを置いて呟いた。
その表情はとても悲しそうにしていたが、慧音はそれを隠した。
「ええ。僕は決めました」
犬塚豊彦は言うと、湯のみに口をつけた。
一番辛いのは恐らく彼かもしれないのは、慧音自信も良くわかっていた。
「でもさ、何で急にそんな事言うんだよ…」
慧音の隣に座っていた藤原妹紅が言った。
同居人の彼女は、犬塚と直截触れ合う機会があまりにも多すぎたのである。
「妹紅、これは豊彦殿の問題だ」
「わかってる。…わかってるけどさ」
そう言うと、妹紅は途端にうつむいた。
やはり彼女には強すぎたかと慧音は思った。
だが、別れは唐突にやってくるものである。そうではない場合もあるけれど。
「確かに、ここは良い所です」
犬塚は語り出した。
祖国を離れ、幻想郷という異世界に辿り着いてしまった者の本音だった。
「そして、…ここは僕の第二の祖国かもしれないと考えました。
この争いの無い平和な土地は、本当に魅力的な物ですよ」
戦争体験者である彼にとって、平和とは何であるかを考える時間があった。
いつも暇な日常。最初こそはそんな国があるなんて信じられなかったが、やはり慣れてくると違った。
それと同時、祖国が、日本がこうであったら良いと思った。
だが、現実はどうだろうか。犬塚は慧音が所持する本を読んで考えた。
外の世界では大規模な戦争が終わったのにもかかわらず、未だに戦争が続いているではないか。
日本は豊かになったというものの、その代償はあまりにも大きすぎた。
豊かになりすぎた代償は、語り尽くせないほどの悲劇を生んだ。
ならばどうすれば良い? 自分が求めていた平和は、一体何なのだ?
しかし、この幻想郷はあまりに平和すぎた。あきれるほどの平和だった。
戦争と平和。この対義語の真意とは何だろうか? 戦争が起こらなかったら平和だ。
それは(少なくとも幻想郷では)事実だった。
「ですが……、僕の居場所は果たして何処にあると思ったんです。
僕の居場所は………日本しかないんですよ」
慧音と妹紅は何も言えなかった。何も言えるはずが無かった。
理解しがたい現実と、祖国の未来に絶望した彼は、多分自分以上に悲しみを抱えている。
そんな彼がこのままいればどうなる。いずれは、何もかもがおかしくなってしまうかもしれない。
「……豊彦殿。お主の道はお主が決めるのであって、私が決めるわけではない。
お主には、立派な足があるじゃないか。自分で考えて、自分の居場所を見つけられるじゃないか」
慧音は屈託の無い笑顔で言った。
彼女自身、別れるのは確かに辛いが、自分にはわかっていた。
目を見ればわかる。彼はあまりに素直すぎた。
「慧音殿。……今までありがとうございました」
犬塚はそう言うと、深々と頭を下げた。
そして、何かを思ったように立ち上がった。
「……行くのか」
「………はい!」
犬塚は慧音の問いにきっぱりと答えた。
慧音と妹紅も立ち上がる。
「……達者でな」
「………はい」
慧音は、まるで戦地へ向かう家族を見送りに出す母親のような気分だと思った。
だったら妹紅は妹だろうかと、別にどうでも良い事も考えてしまった。
飛行帽を被った彼は、本当に『軍人』であった。
慧音は簡単な見送りをした後、そこに留まった。
玄関で見事な海式敬礼を行った犬塚は、自らの相棒の元へと進んでいった。
彼女は犬塚と共に歩く事はできなかった。何故ならば、行こうと思えば足がすくんでしまったからだった。
「……妹紅、今宵は満月だなぁ」
「あ……」
見れば、自分の親友は見事な変身を遂げていた。
衣服の色が青から緑に変化し、髪の毛も変色し、角が生え、しっぽが生える。
上白沢慧音は、満月には人間からハクタクへと変身する。
「ふふっ、私は何で悲しんでいるんだろうな。……頼むよ妹紅。教えてくれ」
「……慧音」
妹紅は何も言えなかった。
「妹紅、…雨が降ってきたな」
「え? 雨なんて降ってないよ」
今日の夜は雲が少しかかっているだけで、雨は降っていない。
それに、雨が降れば月など見えるはずが無い。
と、ここで妹紅はその理由がわかった。
「……いや、…雨だよ」
慧音はずっと月を見上げていた。
妹紅は、そんな親友を何と思えばいいのかわからなかった。
やはり、もっとも悲しみを抱えているのは慧音の方かもしれないという事はわかったけれど。
「ふっ、私らしくもない。……私らしくも」
そう言うと、慧音は両手で顔面を抑えた。そして、膝を付いた。
妹紅は、彼女に肩を叩いてやる事ぐらいしか出来なかった。
そして、一言付け加えた。
きっと、帰ってくるよ。
◆数分後 紅魔館周辺
「行くのね」
「…はい」
パチュリー・ノーレッジは犬塚豊彦に言った。
秋水は、昼間行った試験飛行に使用した滑走路に移動させてあった。
犬塚の風貌は見事な操縦士であった。
「…辛くは無い?」
「未練など、ありません」
「そう。…強いわね、貴方」
「そうでなくては、パイロットは務まりませんよ」
犬塚は笑みを浮かべて言った。
ああ、帰るんだ。自分はここを離れて、飛び立つんだ。
「でもいいの? 多分慧音には伝えたと思うけど…」
「こうやってすぐにいなくなった方が良いと思ったんです。フランドールさんには、悪いと思いますが」
「フランには私が伝えておくから―――」
パチュリーが言った途端、彼女は気配に気付いた。
そこには幻想郷の住人達が、ゾロゾロと集まっていた。
「…あなた達、…どうして?」
パチュリーは驚愕した表情を見せた。
見ればいるわいるわ、幻想郷に住む者達がいろいろと。
「水臭いぜ、犬塚さんよ」
魔理沙はにっこり笑ってそう言った。
「魔理沙、これは…」
パチュリーは言った。
今日犬塚が旅立つなんて、誰も知らないはずである。
それなのに、何故?
「悪いと思ったんですが、集めたのは私です」
「射命丸さん?」
「天狗の聴力をなめちゃいけませんよ。会話は風に流れてやってきますから」
ああ、そうか。彼女の存在を忘れていた。
という事は、全て筒抜けだという事だったか。
「おじさん……本当に行っちゃうの?」
そう言ったのはフランドールだった。
眼には涙をためているが、彼女は我慢していた。
「…ああ、僕は決めたんだ。ごめんな」
「ううん、いいの。……帰りを待ってくれる人がいるなら、その人の所に帰るべきだもんね」
それは誰の名言だろうかと犬塚は思った。
ああ、確かにその通りだな。僕の帰りを待ってくれる人は、果たしていればいいと思うけどね。
「…早く行きなさい。……本当に戻れなくなるわよ」
レミリアが言った。彼女が宇宙に興味を持っているのは、パチュリーから聴かされていた。
「じゃあ、皆―――」
「ちょっとまったーっ!!!」
誰もが皆、声の方向を向いた。
上空から舞い降りる2つの影。それは接近し、見事に着地する。
「まだ最後の仕上げが残ってるぜ」
そう言ったのは、藤原妹紅だった。
「も、妹紅殿!?」
「ほら、あんたをずっと慕っていたお姫様の挨拶がまだだぜ」
「おい妹紅、それはどういう事だ!」
「け、慧音殿?」
犬塚は言った。
それと同時、弾幕少女達はざわざわし始めた。
「って、そこ! 変な想像すんな! 私は決して豊彦殿とはやましい事は!」
上白沢慧音その人は叫んだ。
同時、ざわざわは更に広まった。
「…おお、慧音。お前、デキていたのか」
魔理沙が言った。
「だから違う!」
慧音はムキになって言った。ハクタク時の彼女は感情が高ぶっているのか、性格が普段の彼女とは違っていた。
「慧音殿。……立派な成長をなられて」
「ああ、豊彦殿には言っていなかったな。私は満月の夜にはこうなってしまうんだ」
慧音は苦笑しながら言った。おいおい、角が生えるのは成長なのか。確かにカブトムシはそうだけれど。
「はぁ…」
犬塚はハクタクの事を知らなかったので、慧音が変身する事も知らなかった。
「ほらほら、もっと近付けよ」
「も、妹紅!」
妹紅は慧音の背中を押し、犬塚との距離を縮めた。
2人は硬直したかのように固まっていたが、先に切り出したのは犬塚だった。
「まあ……何ですか。…いろいろお世話になりました」
「いや、礼を言うのは私の方かもしれん。……その……何だ。口で言うのは難しいな」
慧音の顔は真っ赤になっていた。
それに対し、幻想郷の住人は笑っていた。
「なら、行動で示します?」
「え?」
犬塚が言った同時、彼は自身の唇を慧音の唇に重ねた。
慧音の両目は見開いたままであった。
おおーっ、と歓声が上がる。
突然の行動に、霊夢は口を大きく開け、魔理沙は凄い顔をし、パチュリーはフランドールの両目を隠していた。
「と……豊彦殿」
「別れの挨拶ってヤツですよ」
パイロットの表情は、とても明るかった。
とても今から出発する人間には、とてもじゃないが見えなかった。
犬塚は相棒に乗り込む。エンジンが起動し、八卦炉は轟音を響かせた。
「それじゃあ、皆さん。……この幻想郷は、とても素晴らしい所でしたよ!」
ゴーグル越しに犬塚の表情が見えた。
ただ、フランドールと慧音は号泣しまくっていたので、その顔は見えないだろうが。
犬塚はハッチを閉じ、操縦桿を握った。
「豊彦殿――――っ!!!」
慧音は叫んだ。
犬塚はそれに対して、口を開いた。
慧音は何と言っているのかすぐにわかった。「ありがとうございました」と。
秋水は、凄まじい轟音を響かせながら、滑走路を駆け抜けた。
そして、緑色をし、独特のフォルムをした航空機は、夜の星空へと飛び立っていった。
元々小さな機体は一層小さくなっていき、月へと向かって消えていく。
「さよーならー」
誰かが手を振ってそう言った。
「でもさ、本当に行かせて良かったの?」
そう言ったのは霊夢だった。
「行かせるべきだろう。あの人には、帰る場所と、帰りを待ってくれる人がいるんだからな」
魔理沙が言った。
「慧音……」
「妹紅。…大丈夫だよ。豊彦殿はきっと帰ってくるさ」
涙を拭いて、満月を身ながら慧音は言った。
「あの人は、私の大切な人だから………」
20kb制限されたと思うのですが無駄な行間で一話に付き4kbは無駄にしているかと
この文量なら一つに纏めて公開でも問題無いかと思います
長いお話でしたが、それだけの価値があったと思います。
ただ、最後がいきなりナデシコになっちゃったのが残念ですね。
どうしてもルリの顔が頭に浮かんじゃいました。
出来れば、ご自身の言葉で締めて頂きたかったと思います。
(無論、作者様がナデシコをご存じ無かった場合は、この意見は無視なさって下さい)
文章の構成や言い回しが含みがあるようで好きで、個人的に感じ入りました。
残念なのは、ネタを詰め込みすぎに感じたこと。
ちょっと読みづらくて、置いてけぼりを喰った印象も少し。
紫-香のカップリングは珍しく興味深いネタですが、個人的には慧音のみに絞って欲しかったかな
『雨が~』のくだりはハガレンかな?
まぁ、パクリ(インスパイアって言うのかな?)は特にマイナスイメージも無く・・・
トータル80点マイナス残念の20点でこの点数に
うんちくを削って話の筋をもうちょっと整理したらより面白くなるかと
あと海軍の士官なら英語はできるのでは?
あと、重要なシーンで有名作品の台詞を使うのはどうかと。
「雨が~」のくだりでは、慧音じゃなくて大佐の姿が頭に浮かんでしまいます。
でも、お話全体を通しては面白かったです。
とりあえず、
ネ タ の 詰 め 過 ぎ イク(・A・)ナイ!
ってことだけは言っておきます。