月まで届け、秋水の炎
<プロローグ> 『幻を想う郷 ~ Phantom Village』
幻想郷が世界地図から消えて、早何年が経過しただろうか。
もともと、東方のある国家の人里離れた辺境の地である事を知っている者すらいなくなったらしいのだから、その時間は計り知れない。
時の流れは自然なものであり、絶対に逆らう事はできないが、何か哀しく、何か虚しい。
このように空虚に感じるのは、何かを失っていったのかもしれない。
維新によって約260年間の江戸時代が終わり、欧米の進んだ文化を取り入れ、日本が新たな時代に突入した時、そこは完全隔離された。
そしてかなりの年月は流れたが、幻想郷は現実世界とは異なり、独自の世界を築き上げていった。
幻想郷。そこは、妖怪と人間が共存する世界であり、もうひとつの世界でもある。
「すべて良き書物を読むことは、過去の最もすぐれた人々と会話をかわすようなものである」
ルネ・デカルト
<第一章> 『秋水、彼方より ~ From Across Another the Earth』
<1> 『七夕 ~ the Star Festival』
◆第百二十季 文月之七(7月7日)昼 人里 上白沢慧音の家
幻想郷は、夏である。
元の世界から完全隔離され、もはや緯度や経度すらどの位置にあるのかわからない幻想郷でも、季節は存在する。
その証拠に、春は桜の季節であり、夏は太陽が一番元気な季節であり、秋は幻想郷一体が紅葉の季節となり、冬は春を迎える季節となる。
幻想郷は元々日本の人里離れた辺境の地にあったと言われるが(これはあくまで幻想郷在住の歴史学者の説である)、
この仮定が本当ならば、強ち間違いではない。
幻想郷の住人は皆、日本語を話すからだ。
世界には数多くの言葉があるが、日本語を公用語とする民族は日本人しかいない。
故に、日本語が普通に話されている幻想郷は、元々は日本にあったのではないかとする説が現在では有力である。
理由は他にもある。
幻想郷で行われる風習に、日本でも古来から行われる風習があるからだ。
そして、今日はその風習の日であった。
幻想郷は、古来から妖怪が住んでいる。
人々はその妖怪に恐怖したが、時には妖怪退治を行う勇敢な人間達が現れた。
彼らは妖怪退治を行う一方で、妖怪が人里に来ないように見張るため、そのまま幻想郷に土着する者が現れた。
現在、幻想郷に暮らす人間は、そんな勇敢な人間達の子孫である。
その子孫達に歴史を伝え、幻想郷に暮らす妖怪から守護する者がいた。
名前を上白沢慧音というその人物は、幻想郷唯一の集落(勇敢な人間達の子孫達が暮らす場所の集まり)に暮らし、彼らを守護している。
人間達もまた、守護する存在である慧音を良き生き字引として慕っている。慧音は、殆どの事を知っているのである。
曰く、台風によって損害を受けた人家や畑が一瞬で再生したり、子供の面倒を見てくれたり、畑仕事を手伝ってくれたりと。
上白沢慧音の存在は、人里には無くてはならない存在となっていた。
「天の川の両岸にある彦星と織姫が、今日の夕方に会う……か。なんともロマンチックな話だねぇ」
慧音の自宅でそんな事を呟いたのは、彼女の無二の親友である藤原妹紅であった。
藤原氏隆盛の基礎を築いたとされる藤原不比等の娘(あくまで通説)で、不老不死となって人間世界から追放された彼女は、ここに辿り着いた。
そんな彼女を暖かく迎えてくれたのが上白沢慧音であり、以後妹紅は彼女の家に暮らしている。
妹紅も勇敢な人間達の子孫達に迎え入れられ、子供達の良き遊び相手となっている。
「まあ、おとぎ話みたいなものだからな…」
上白沢慧音は、いつものように歴史編纂活動をしていた。
先日、ヴワル魔法図書館から英和辞典を貸借する事ができたので、これで英語で書かれた歴史書の英訳が出来る事となった。
慧音は多少は英語の知識はあるが、それでもわからない、或いはあやふやな言葉は辞書を引くという基本姿勢は崩さなかった。
しかし、借り物であるので線を引いたりベタベタと
彼女は日本語辞典や中国語辞典は多数所持しているが、西洋の文献については一冊も所持していなかった。
2日前、3ヶ月かけてようやく西夏文字で書かれた仏典の全訳に成功したが、慧音は「もう二度とやるもんか」と呟いていた。
しかし、それでも歴史編纂活動を続けるのは、上白沢慧音の生きがいであり、仕事であり、使命であり、ポリシーであった。
「でもさー、けーねー。何で『七夕』っていうんだ?」
「七夕? ああ、それはな、中国伝来の
盆前に穢れを祓う「たなばたつめ」という信仰が習合したという説が有力だ。
だから、漢字を当てて「七夕」と読むようになったらしいが。まあ、他にもいろんな説はあるけどね。」
「乞巧奠って?」
「陰暦7月7日の夜、供え物をして
後に日本に伝わって、「七夕」という名に年中行事化したんだ。それは何故だか知らないけど」
「ふーん。そういえば、七夕って五節句のひとつだよな?」
「良く知ってるじゃないか、妹紅」
慧音は湯飲みに口を付け、中に入っている緑茶を飲んで言った。
この周辺一体は、冬は確かに厳しいが、夏は驚くほどに涼しい。軽く見積もっても、例年23℃前後が夏の平均気温だった。
故に、夏に熱い緑茶を飲んでも、暑さが増す訳ではない。外からはひんやりとすきま風が入ってくる。
「1月7日は七草粥を食べる。3月3日は桃の節句。5月5日は端午の節句。7月7日は七夕。9月9日は菊の節句。
こう考えれば、稲作のリズムに上手く一致しているな。
3月は土を作って田植えを初め、5月と7月は農繁期の中休み、9月が収穫の時期。
ルーツは中国だけど、日本の風土や生活に溶け込んで、日本人の生活リズムを作ってきたわけだ」
「へぇー、詳しいね」
「こっちは農業やってんだぞ。自然と詳しくなるさ…」
慧音は苦笑いを浮かべて言った。
妹紅は窓から見える景色を見、何かを思った。
そういえば、七夕は短冊に願い事を書いて飾り付けるんだっけ。
……願い事か。そんなもの、ありはしないのに。
「そういえば、七夕って短冊に願い事を書くよな? あれって何で?」
「元々は五色の短冊に歌や字を書いて飾りつけ、書道や裁縫の上達を祈るのが最初だ。
それが、いつしかありとあらゆる願い事を書くようになったらしいな」
「ふーん」
妹紅は無味乾燥な返答を行ったが、知ってしまった以上そうであるしかなかった。
「願い事かぁ…」
「妹紅の年にもなると、もうそんな事は考えられなくなるか?」
「まあな。…ああ、強いて言えば、輝夜のヤローをギタギタにぶっ倒す、ぐらいかな?」
「ははは…。相変わらず物騒だな、お前は」
「だって、それくらいしか無いじゃないか」
妹紅の意見も、至極もっともだろうと慧音は思った。
この余りにもあきれるほど平和な幻想郷においては、願い事すらどうでも良くなってくる環境だった。
外の世界と違い、高度な文明を追い求めるわけでもなく、ただひたすら、今を生きる事に精一杯なのだから。
それならば、願い事を考える暇も無い。別にこの民家集落の住人が貧困なわけではないが。
前に八雲紫に聞いたが、現在の外の世界は大変な状況にあるらしい。
長らく続く景気の停滞で、経済は深刻な状況を迎えている。加えて民族同士の対立に、それに介入する他国。
埋蔵資源や版図を巡り、国家と国家による戦争。最近では、中東付近で一方的な戦いが発生したらしいが。
なるほど、ならば争いが滅多に起こらないこの幻想郷は確かに理想郷だ。
偶然ここに迷い込んだ人間が、ここから出たがらないのも良くわかる。
人は安息の地を求め、ここにやってくるのだろうか。それが出来るのは、全てはあのスキマ妖怪の気まぐれだが。
「笹の葉さらさら 軒端に揺れる おーほしさーまきーらきら 金銀 砂子」
慧音は突然歌い始めた。毎年七夕になると、里の子供達が歌う童謡であった。
「五色のたーんざく 私が書いた おーほしさーまきーらきら 空から 見てる」
何故だかわからないが、慧音は歌い出した。
多分、歌いたかったからかもしれない。たまには童心に返るのも悪くは無い。
「慧音、その歌は何だ?」
「ああ、毎年七夕になると歌う歌さ。誰が作ったのか、それはわからないけどね」
◆同日 昼 博麗神社
博麗神社の周辺は、本格的な夏であった。
梅雨が終わり、夏期を迎える事となるこの季節。
外は驚くべきほど暑く。特に昼間となると太陽が容赦無く照りつける。
こんな状態なのだから、湖は干上がってしまうのではないかと思う人間もいるが、幻想郷でそのような事が発生した事は無かった。
とにかく、幻想郷の夏である。
上白沢慧音が暮らす人間の里はかなり涼しいが、博麗神社周辺は、かなり暑かった。
「今日は七夕。彦星と織姫が一年に一度だけ会うことの許される日。まあ、何て素敵なお話だこと」
博麗神社の縁側には、ひとりの女性がいた。
何て表現すればいいのか良くわからない帽子を装着し、腰の辺りまである長い金髪を所々でリボンで留めている。
肌は恐ろしいほどに白く、端正の取れたその顔つきは、恐らく世の男性全てを魅了するほどの美しさを誇っていた。
白い素肌を覆う導師服は、この季節には少し似合わないものの、当の本人は汗ひとつかいていなかった。
その絶世の美女。名前を八雲紫という。
ありとあらゆる境界を操る能力を持つ彼女は、その外見に似合わず、強大な力を持っている。
その力を執行するのも自由。執行しないのも自由だが、下手をすると幻想郷そのものを崩壊するほどの力は、今の所発動させた事は無い。
しかし、彼女は妖怪であるが、まるで人間のように胡散臭い性格であるため、ただの気まぐれで発動させるかもしれない。
もっとも、その力を使用した事は無いが。
それは、彼女とて、この幻想郷を気に入っているのだろう。でなければ崩壊させる必要は無いのだ。
つまり、幻想郷は八雲紫というICBMを抱えているのである。何とも物騒な話だ。
「そして願いを書いた短冊を笹にくくりつけると、彦星と織姫の力によって、その願いが叶えられるという」
辺りに誰もいない事を理由に、紫は言葉を発する。
彼女の口から放たれるのは美声。その透き通る声は、まるで詩を朗読するかのような響きがあった。
「だからと言って、毎年この日に宴会するのはどうかと思うけど」
そう言ったのは、博麗神社の巫女、博麗霊夢であった。
紅白の巫女装束に身を包んでいる霊夢は、紫の隣に座って呟いた。
「まあ、そう言わないの」
紫はそれだけ言うと、扇子をパタパタと扇いだ。
彼女とて妖怪であり、生きているのであるので、暑い事は暑い。それでも、汗は一滴もかいていない。
だったらそんな服は脱げと言いたいが、
「七夕はある意味お祭りよ。そんなお祭りの日は宴会に決まってるわ」
「まあ、萃香が勝手に皆を集めるしね。はいお茶」
「ありがと」
霊夢は持ってきた湯のみを紫に手渡した。
大抵は緑茶を飲んでくつろぐのが霊夢の日課であるが、こんな暑い日は緑茶など飲む気になれなかった。
しかし、緑茶は熱いのに限る。それでは何を飲めば良いとなると、紅魔館から貰ってくる紅茶を飲むのであった。
紅茶であれば、冷たくても美味しい。ちなみに霊夢はアッサムを好んでいた。
霊夢は、こんな暑い中熱い緑茶を美味しそうに飲む事のできる紫が、正直羨ましいように感じた。
「できるのならば毎日宴会やってるわよ。少なくとも、ここならね」
ここ、つまり紫は幻想郷の事を言っているのであった。
幻想郷は、ある意味では理想郷である。外の世界の事情に詳しい彼女ならば、その気持ちはわからないでもなかった。
「理解できるかしら? 外の世界は毎日が忙しいなんて」
「ああ、前にあんたから聴いたわね」
八雲紫はありとあらゆる境界を操る能力を持っている。
それは、幻想郷と外の世界の境界をも操る事ができるのである。
彼女が幻想郷の境界を操る事により、外の世界から幻想郷へ人間が紛れ込む事があったりする。
外の世界の人間が、幻想郷へ行く事を、外の世界では「神隠し」と読んでいる。
元々、神隠しというのは子供などが急に消息不明になることで、古来は天狗や山の神の仕業と伝えられていた。
しかし、本当は全てこのスキマ妖怪の仕業なのである。もっとも、外の世界の人間は、その事実を知らないが。
「外の世界は毎日が大変よ。まあ、毎日せっせと働いて、今日を生きる分の食料を得るのはここと同じだけれど。
それでも、外の世界には「義務教育」なる制度があって、子供は一定年齢になるまで学校に行かなければいけないのよ」
「学校? 慧音が開いているみたいなものかしら?」
「まあそのようなものね。でも、私達はロクに教育を受けていないのに、こうやって物事を考え、互いの意思を伝える事ができる。
じゃあ霊夢。何で幻想郷には義務教育なるものが存在しないかわかるかしら?」
そこまで喋ると、紫は湯のみに口をつけて緑茶を飲んだ。そして、霊夢が持ってきたどら焼きをぱくりと一口。
うーん、
そして甘い物には緑茶が最高に合う。何なのかしらね。最高の贅沢だわ。ああ、今日も美味しい物を食べさせてくれて、ありがとう。
「…必要無いから?」
「
何故ならば、毎日せっせと働いて、今日を生きる分の食料を得なければならないからよ」
「って、さっき同じ事言ったわね」
「理論的にはこの世界も外の世界も変わらないわね。人間は、何かを食べないと死んでしまうのだから」
「うーん、…確かにそうよね」
紫が言う事は本当である。人間は、毎日食べていかないと死んでしまう。それは動物や植物とて同じだ。
幸い、紫の能力によって外の世界から食べ物を調達して貰っているので、毎年金欠とされているこの博麗神社の食糧事情は安定している。
紫が外の世界から運んでくる食べ物は、それはそれは素晴らしい物であった。
外の世界の人間は、毎日こんな美味い物を喰っているのかと思えた。
実はこのどら焼きも、紫が外の世界からかっさらってきた物であった。
確か、茜丸の五色どら焼きとかいったような。それは別にどうでも良いが。
「外の世界は、文明が非常に発達しすぎてしまった。その代償が教育よ。外の世界の人間は、目下の利潤のみを追求する。
周りにたくさん『国』という人間の集合体がありすぎるのも理由のひとつね。利潤を求めて国家同士の競争が行われるから。
更に、人間というかこの場合は大衆だけど、大衆は常に感情で動くから。大衆は常に利潤を求める。それは国家を動かす力となる。
卑近な例だけど、あれほど日本政府が消極的だった日露戦争へ踏み切れと大衆が言ったのもそれが理由。
大衆は、常に冒険を求めているのかもしれないわね」
何とも難しい話だ。それは、紫が外の世界の事情を一番理解しているからであろう。
それは、紫が境界を操る能力の持ち主故でもあるからだろう。
ある意味でインターナショナルである彼女は、全てを知っていると言っても過言ではない。
「利潤を追求するにはどうしても知識が必要となる。人間は、知識を次の世代へと伝えていく。
だから学校ができ、義務教育という制度ができたのかもしれないわね。それに、教育は道徳を教える場でもあるし」
「道徳?」
「人として行うべき道、踏み外してはならない道の事よ。
信じられないだろうけど、外の世界では人の物を盗んだら逮捕されるのよ」
「た、逮捕って、捕まるの?」
「そうよ。捕まって自由を奪われてしまうのよ」
霊夢は言葉を失った。……となると、自分の親友であるあの白黒の魔法使いは、幻想郷にいて正解なのかもしれない。
彼女は「逮捕」という言葉の意味を知らないわけではない。
これも紫がもたらしたのであるが、辞書なる物によって霊夢は言葉の意味を正しく理解していた。
「とは言っても、幻想郷には義務教育は必要無いわね。治安も良いし、魔理沙限定だけど物を盗んだりする連中はいないし。
もしも妖怪が人間を襲ったとしても、小規模な小競り合いで終結するしね」
この場合、霊夢は非常に例外である。
何故ならば、博麗霊夢は人間であり、八雲紫は妖怪であるからだ。
霊夢は、何故か知らないが普通は敵対関係にある妖怪多数と異常なまでの親交を築き上げている。
そのため、人里に住む人間は、「神社は妖怪に乗っ取られた」とまで言っていた。
だが、幻想郷に住む妖怪の中で、人間を襲う妖怪はかなり少数派となってきた。
外の世界の文化を持ち込む妖怪(例、紫)や、自然と流れ着いた文献や物品によって外の世界の文化が流れ着いてきた。
これらが次第に幻想郷中に広まり定着し、嗜好品や常食という形となった。
それらは妖怪が普段食べている屍肉よりよっぽど美味いのか、最近は人間そのものを襲う妖怪自体が珍しい物と化した。
かくいう八雲紫は多数派の方であった。
彼女は古くから幻想郷に暮らしている妖怪であるが、恐らく初めから外の文化の物を食べていただろう。
この、恐れ多いほど美しく端正の取れた顔付きをしている絶世の妖怪美女が、屍肉を喰らう姿は想像し難い。
「それに、明治時代は学制に対して反乱を起こしているしね。もし幻想郷でも学制が発布されれば、間違いなく起こるわね」
「反乱なんて起こったの?」
「国家が学校に行きなさいって命令してみなさいな。貴重な働き手である子供達が学校に行かなければならないでしょう?
それに、学校に通うにはお金がかかるわ。だからそれを嫌って農民は反乱を起こしたのよ。
慧音に訊けばわかると思うけど、血税一揆や学制反対一揆を起こしているわ。
まあ、元々農村地帯は東北の寒村が殆どだからね。明治時代、東北地方はロクに文明開化していなかったし」
喋り続けて喉がかわいたのか、紫はズズズと緑茶をすすった。
「そうなの?」
「洋服や煉瓦造りの家なんて首都周辺や一部の大都市ぐらいよ。
暦法も確かに新暦(太陽暦)になったけど、農村は農業を行う都合上、旧暦(太陰太陽暦)を使用していたって話だし。
それに、農村があまりに貧窮だったために、軍隊が国家にクーデター起こしたしね」
「…そんな事件あったっけ?」
「甘いわね、霊夢。二・二六事件よ」
「え? あれって農村関係あったっけ?」
ある程度日本史は紫による話と、慧音の講義(霊夢は興味本位で受けた事があった)で一応は理解できている。
それでも、霊夢はまだ歴史の裏の話を知らなかった。
「ニ・ニ六事件は陸軍の皇道派の青年将校が中心なんだけど、彼らは主に極貧の東北農村の出身だったのよ。
姉や妹達は売春宿に売り飛ばされるという、とても悲惨な経験をした人達ばかりなの。
そんな彼らが、この国はおかしい、どうかしてるって思うのは当然よね。
それでは天皇陛下はこの事を知っているのか? 当然知っているはずだ。
それじゃあ何で天皇陛下は俺達を救ってくれないんだ? それは、陛下と俺達の間にいる連中が、陛下を邪魔しているからだ。
青年将校達はこう考えて、天皇の側近を葬り去る事こそ、この国のためになると考えたのよ。
でも、他ならぬ天皇自体が激怒したから、彼らは反乱軍として討伐されちゃったけどね」
「…そうだったのね」
「なんとも皮肉な事かしらねぇ…」
紫は呟き、緑茶を口に含んだ。そして既にひとつ平らげてしまったため、2個目のどら焼きに手を伸ばして食べ始めた。
「紫様、宴会の準備が整いました」
「御苦労様」
そう伝えたのは、紫の式神である八雲藍であった。
藍は自らの式神である
×キャノン
↓
○キヤノン
あと、石原莞爾が戦争の天才というのはファンタジー・・・ですよね?
すみません、えらそうにして・・・