紅魔館の小悪魔がキッチンからくすねてきた招興酒をチロチロ舐めていると、思案顔の妖怪がひとりブラブラ歩いてきた。
「やぁ門番さん! 退屈そうだねぇ……」
「なんだ居候の小悪魔じゃないの。あんたにトヤコウ言われる筋合いはなくてよ」
「へへぇ! そりゃ失敬……どうよ一杯」
「どうよってあんた、また盗んできたんじゃないでしょうね!」
「さぁどうでしょう? こちとら三歩も飛ぶとすっかり忘れちまうン」
「鳥頭ぶって!」
ぼやきながらも、紅美鈴はお猪口を受け取りグビリひとくち。
「やれやれ。これで私も共犯じゃあないの」
「そりゃそう! 嫌なら呑まなければいいのにねぇ」
「どっちでもいいのよ。同じことよ」
「ずいぶん投げやりだねぇ? 前向きなだけがとりえのくせして!」
「余計なお世話なんだけど。……まぁ、私だって、気が滅入ることは、そりゃあるってことよ」
ふぅん、と小悪魔、頭の羽根ぱたつかせ。「中華妖怪には悩みなんてありはしないありっこない、って本の虫な物知りさんが言ってたけどなぁ! ぞんがい当てにならないのかしらん」
「ま、何ともいえないけど……私は繊細なのよ」
「へぇ? 繊細! 年がら年じゅう、不法侵入者どもに痛めつけられてボロボロのくせして、繊細、な、わけ?」
「それとこれとは関係ないでしょうよ!」
「おや、おや、酔ってきたのかなぁ? そんな大声出さなくっても、聞こえるんだから。ぜんたい、どういったわけで気が滅入ってるというの?」
「……あんたに言ったってしょうがない」
「そりゃ、まぁそうだね」
酌。グビリ。
返杯。チビリ。
また酌。チビチビ。
「それにしても……」
「ンン?」
「招興酒なんて、誰が飲むのかしらねぇ……」
「さぁね! でもいかにも大事そうに置いてあったから、下っ端メイドへの差し入れとかじゃないのは間違いないね」
「よけい不味いじゃないの! いや、招興酒じたいは美味しいんだけどさ」
「お酒にまで気を使うことないのにねぇ……」
ひとしきり呑んだあと、フト美鈴がいった。
「あんたさぁ……」
「はいなぁ?」
「何なの?」
「そりゃ、また、根底的な問いだね! えぇ……まぁなかなか一口では言い表せない。けども」
「ふーん……じゃあさ。あんた、何のために生きてるの?」
「それもなかなか難しいねぇ……そもそも、べつに生きるのに理由なんてないんだもの」
「はぁん……目的とかないの? 将来こうしたい、こうなりたい、こうなったら嬉しい……とか。まぁ、そういうのは?」
「かくべつにはないなぁー。どだい小物だからしてねぇ」
「ふぅん……お気楽で結構だこと」
「そういう門番さんも似たようなもんでしょ?」
「私は……違う」
「どうかなぁ?」
「…………」
「…………」
「違わないか。……さほど」
「そうそう。大差ないって」
「そうね。……私が気負ったって、仕方は無いか」
「たぶんね」
その後、美鈴は招興酒を戻しに行き、厨房でメイド長にこっぴどく搾られた。いろいろと。
しかし、門に戻る彼女の足取りは、わりあいと軽快であるように、小悪魔には見えた。
『身軽に、なったのかもねぇ』
いろいろと。
「やぁ門番さん! 退屈そうだねぇ……」
「なんだ居候の小悪魔じゃないの。あんたにトヤコウ言われる筋合いはなくてよ」
「へへぇ! そりゃ失敬……どうよ一杯」
「どうよってあんた、また盗んできたんじゃないでしょうね!」
「さぁどうでしょう? こちとら三歩も飛ぶとすっかり忘れちまうン」
「鳥頭ぶって!」
ぼやきながらも、紅美鈴はお猪口を受け取りグビリひとくち。
「やれやれ。これで私も共犯じゃあないの」
「そりゃそう! 嫌なら呑まなければいいのにねぇ」
「どっちでもいいのよ。同じことよ」
「ずいぶん投げやりだねぇ? 前向きなだけがとりえのくせして!」
「余計なお世話なんだけど。……まぁ、私だって、気が滅入ることは、そりゃあるってことよ」
ふぅん、と小悪魔、頭の羽根ぱたつかせ。「中華妖怪には悩みなんてありはしないありっこない、って本の虫な物知りさんが言ってたけどなぁ! ぞんがい当てにならないのかしらん」
「ま、何ともいえないけど……私は繊細なのよ」
「へぇ? 繊細! 年がら年じゅう、不法侵入者どもに痛めつけられてボロボロのくせして、繊細、な、わけ?」
「それとこれとは関係ないでしょうよ!」
「おや、おや、酔ってきたのかなぁ? そんな大声出さなくっても、聞こえるんだから。ぜんたい、どういったわけで気が滅入ってるというの?」
「……あんたに言ったってしょうがない」
「そりゃ、まぁそうだね」
酌。グビリ。
返杯。チビリ。
また酌。チビチビ。
「それにしても……」
「ンン?」
「招興酒なんて、誰が飲むのかしらねぇ……」
「さぁね! でもいかにも大事そうに置いてあったから、下っ端メイドへの差し入れとかじゃないのは間違いないね」
「よけい不味いじゃないの! いや、招興酒じたいは美味しいんだけどさ」
「お酒にまで気を使うことないのにねぇ……」
ひとしきり呑んだあと、フト美鈴がいった。
「あんたさぁ……」
「はいなぁ?」
「何なの?」
「そりゃ、また、根底的な問いだね! えぇ……まぁなかなか一口では言い表せない。けども」
「ふーん……じゃあさ。あんた、何のために生きてるの?」
「それもなかなか難しいねぇ……そもそも、べつに生きるのに理由なんてないんだもの」
「はぁん……目的とかないの? 将来こうしたい、こうなりたい、こうなったら嬉しい……とか。まぁ、そういうのは?」
「かくべつにはないなぁー。どだい小物だからしてねぇ」
「ふぅん……お気楽で結構だこと」
「そういう門番さんも似たようなもんでしょ?」
「私は……違う」
「どうかなぁ?」
「…………」
「…………」
「違わないか。……さほど」
「そうそう。大差ないって」
「そうね。……私が気負ったって、仕方は無いか」
「たぶんね」
その後、美鈴は招興酒を戻しに行き、厨房でメイド長にこっぴどく搾られた。いろいろと。
しかし、門に戻る彼女の足取りは、わりあいと軽快であるように、小悪魔には見えた。
『身軽に、なったのかもねぇ』
いろいろと。
ところでお話を作ることとはいわば語り部たるものが語り部であり続けるための行為とも言えるのかもしれないですねぇ。
なぜならそれが、本質だから。望みでも、使命でもない。それが、書き手というものなのかも。呼吸をするように自然に、物語を紡ぎ続ける。それが、語り部。後書きを見てそんなことを思いました。
でもこさえて貰う方としちゃ、こさえて貰うってだけで嬉しいってもんです。
これからもぬぅっとこさえて下さい。ぬぅっと。
勤め人には、きっと色々とあるのだろう
そんな時、この小悪魔のような何者にも縛られない存在に焦がれ
それでもやっぱり自分にしかなれないのだろう。
偶に酒を酌み交わして。
そんな事を思いながら。