※この作品の正式名称は「鐘の音響くは遠からず~続・蹴らずに回れ、愛の馬」です。
※それ故作品集20にある拙作「蹴らずに回れ、愛の馬」をお読みになっていないと不明な作品です。
※以上をご確認の上、本編にお入り下さい。
儚い細身に崩れて落ちる。
「パチュリー様ーばべら?!」
悲痛と苦痛が混在した小悪魔の叫びが、広大なるヴワル大図書館に響き渡った。
全治一ヶ月、並びに全治二週間。
それが医師の下した診断結果だった。
「このところとみにひどいんですぅ」
頭の羽と背中の羽と同様に、両腕をぱたぱたと上下させて訴えるのは、図書館司書こと小悪魔である。
それを聞くのは紅魔館の主、レミリア・スカーレットとその従者、十六夜咲夜であった。
忙しなくはあったが一通りの弁論を終え、小悪魔は二人を見る。
目の前の主従は、ただまじまじと彼女を見つめていた。
「? どうされました?」
小首を傾げてそう問う小悪魔に、二人ははっと我に返る。
「……あなた確か、全治二週間と聞いていたんだけど……」
言って咲夜は、改めて彼女の頭のてっぺんからつま先までを眺めた。絆創膏の一つもなく、怪我らしい怪我は見あたらない。
そんな彼女の問いかけに、小悪魔は自慢げに胸を張る。
彼女のある一部位を見据える咲夜の表情が、人相学的にかなり有り得ない造形となったが、レミリアはとりあえず気付かない振りをした。
「今でこそ図書館勤めなどをしておりますが、痩せても枯れてもこの身は悪魔! 生け贄の二、三も捧げれば、あの程度の損傷ものの五分で……!」
「ちょっと待って」
小悪魔の語りに待ったをかけたのは、今まで黙して語らなかったレミリアである。そのおかげでか、咲夜の表情もいつもの瀟洒なものに戻った。
「……生け贄?」
傍らの彼女に、レミリアはそう声をかける。
「……そういえば、図書館勤務のメイドが二人、戻っていないという報告を受けましたが……」
主従揃って小悪魔を見る。
それと同時に、彼女は不自然な挙動で視線を逸らした。
「ちょっと?!」
「じょ、冗談ですよ! そのお二人は今日非番だったものですから、私が報告に行く間パチュリー様についてもらっているだけです」
目を剥いた咲夜に小悪魔は慌てて言葉を紡いだ。
「で、結局生け贄っていうのは?」
あからさまにほっとしているメイド長をよそに、レミリアは改めて彼女に問うた。
「毛玉を使いました。あの子達ってばサクリファイスサークル展開すると、『小悪魔さんの血となり肉となれるならこの身の一つや二つー!』とか言いながら勝手に飛び込んでくるんですよー」
身は一つしかないのにアホですねー、と朗らかに言う小悪魔。
普段の言動から忘れがちだが、こういうところを見ると彼女はやっぱり悪魔なんだなあ、と咲夜は思った。
対して咲夜ほどには外に出ないレミリアは、毛玉が話すことに驚愕したようだ。
「……咲夜。毛玉って……しゃべるの?」
「はい、よくしゃべりますよ? 『母さん、僕、この戦いで生き残れたらああああああ?!』とか、『やめ、やめてくれ?! 俺には三人の子供と年老いた母がぎゃああああ!』とか、『約束したんだ! 次の誕生日に、あいつにこれを……ぐふっ!』とか」
ちなみにどれも断末魔じみているのは、咲夜がとどめを刺しているからである。
「そう、泣かせる話ね」
こんな話を平然とするあたり、この二人も比較的アレじゃないかなあ、と小悪魔は思ったが、今言うべきことでもないのでとりあえず黙っていた。
「まあそのあたりの考察はおいおいするとして」
レミリアが話と視線を戻す。小悪魔は頷き、
「はい。最近は魔理沙さんも大分行儀が良かったんですけど」
例の一件以来、魔理沙は図書館に来ても暴れない、本をきちんと返すという偉業を成し遂げていたのだが、ここ最近また騒ぎはじめた。
しかもこれまで以上に荒っぽくなりはじめたのである。
パチュリーの負傷もそのせいだ。魔理沙のアースライトレイをかわしている最中に、後で片付けようと、小悪魔がたまたま積み上げていた本の山に追突して埋もれたためである。
ちなみに小悪魔の怪我は、本雪崩に埋まったパチュリーを引っぱり出そうとして、再び崩れ去った本に巻き込まれるという二次災害によるものだった。
「こういうときこそ、知識人の出番ね」
レミリアの視線に、
「承知しました」
咲夜は恭しく応じた。
数瞬後。
レミリアの前に、二つの影が現れた。
「……性懲りもないな、貴様ら」
いらいらと踵を鳴らすのは半獣半人、上白沢慧音。
「はー。ほー。へー」
興味津々にきょろきょろと室内を見回すのは不老不死、藤原妹紅。
「……咲夜?」
そんな対称的な二人の様子は気にもせず、彼女は従者に問いかける。咲夜ははい、と頷き、
「上白沢様のお宅を拝見したところ、いらっしゃいませんでしたので、もしやと思い藤原様の居所に赴いたのですがこれがどんぴしゃりでして、なにやらお二人談笑をしていらしたものですから、上白沢様だけ連れていっても角が立ちそうでしたし、しかしこちらの都合もございましたのでお二人ともお連れした次第でございます」
「なるほど」
「納得するな、馬鹿者」
暢気な返事に、痛くもない頭を押さえる彼女。
「まあまあいいじゃん慧音、こういうのもたまには楽しいよ。サプライズあってこその生の実感、てね」
「そうは言うがな妹紅、そもそもこいつらに関わっているということ自体が悲劇惨劇裏街道、人生下り坂みたいなものだぞ。お前も知っているだろう、博麗の巫女のうざったがりようを」
「ひどい言われようね」
「仕方ありませんわ」
「……自覚しているなら改めようとしろ」
事実上の孤立無援を悟り、慧音は諦めたように溜息をつき、首を振る。
「それで? 結局何の用だ」
「例の件の続きよ」
「ほう?」
レミリアの言葉に、彼女の眼光がきらりと鋭くなった。
「なんの話?」
が、そんな妹紅の問いかけに、慧音の目の光はふいと消える。そして、先日の件をかくかくしかじかと説明した。
眉が上がり、ひそめられ、そして彼女の顔は、呆れたようにだれた表情となる。
「慧音にしちゃ随分悪趣味なことしてんのね」
「誰しも悪癖の一つや二つ、持ってしかるべきだろう。趣味の悪い罰ゲームとかな」
「趣味が悪いって何よ」
「なんで輝夜にどじょうすくいだ。イメージにあわなすぎだろう」
「そのギャップがいいんじゃない。慧音も近年まれにみるくらい爆笑してたくせに」
「まあそうだが……」
ちなみに永遠亭のその他の面子は笑うわけにもいかず、必死に息を止めていた。永琳を筆頭に、酸欠でぶっ倒れるものも多数あった。
「はいはい、あなた達が仲がいいのはわかったから」
ぱんぱんと手をならして、レミリアが話を戻す。
む、と慧音は一つ唸り、咳払い。
「それで? 結局どういう事態なんだ」
「……ふむ」
咲夜から一通りの話を聞くと、慧音は口元に手を当て息をつく。
「それは間違いなく、件の店主とのいざこざが原因だな」
「言い切ったわね」
「前回、彼への言付けで事態は一応収束しただろう? それがぶり返したんだ。そう見るのが妥当だろう」
彼女の言葉に、レミリアも頷いた。
「大方の予想としては、アプローチが上手くいっていないというところなのだろうが……」
口元の手をテーブルに置き、かつかつと中指を上下させる。
「魔理沙が原因というより、店主殿の方に問題がありそうだな」
「そうですわね」
慧音の分析に、咲夜は同意の声をあげた。
態度や振る舞いで勘違いされがちだが、魔理沙はあれでかなり乙女な性格をしている。前回のあれを思い返すだに、絆されない輩は極少数だろう。あるいは特殊な性癖の持ち主か、だ。
「で? 手はあるの?」
望み薄そうに、レミリアが訊く。
前回の件が解決するまでの紆余曲折を思い返すだに、無理もない。
じゃあなんのために呼び出したんだという意見もあるが。
自分もあれだけ悪のりしておいてなんだという意見もあるが。
だが、彼女の予想を裏切り、当の知識人は頷いた。
「実はある」
「へえ?」
意外そうに、レミリアが眉を上げる。
「あれ以来、暇があればあいつらのことを考えていたからな」
「世話好きね」
「まあね」
「……なんでお前が応える」
自分に代わって返事をした妹紅に、慧音はふいと視線をやる。
「よぉっく知ってるから」
悪戯っぽく、彼女は言った。
反論しようと口を開きかけ……思い直して顎をひく。
「そうだな。……よく、知られているな」
「はいはいはいはい、あなた達の仲の良さはよぉっくわかったから」
はにかむようにほほえみあう二人に、レミリアは手をぱんぱんと鳴らした。
「ああ、解決策の話だったな」
こほん、とごまかすように咳払いをし、慧音は咲夜を見る。
「小悪魔殿を借りたい。それとお前にも働いてもらうぞ、レミリア・スカーレット」
怪訝そうに見る彼女に、慧音は不敵に微笑んだ。
「呼ばれて飛び出て参上しました~」
「ご足労すまんな、小悪魔殿」
「いえ、これもパチュリー様のためですから」
「……ねえ」
和やかに言葉を交わす二人をちらりと見、妹紅がつつと咲夜による。
「慧音って、よくここに来んの?」
「例の件以来、それなりの頻度で足を運ばれておられますわ。主に図書館にですが」
「ふうん……」
「妬ける?」
横手からのレミリアの茶々に、彼女は肩をすくめた。
「ただ人間以外と慧音が親しくしてるってのが、珍しかっただけよ」
言って妹紅は再び二人に視線をやる。
ちょうど慧音が、小悪魔に小さな袋を手渡したところだった。それの中身を確認した小悪魔の目が、軽く見開かれる。ややあって彼女は、納得したように頷いた。
「それでは」
「ああ、頼む」
はい、と一礼し、小悪魔が退室する。
「……そういえば」
閉まる扉を見送っていた慧音が、振り向きつつ言った。
「勝手に彼女を送り出してしまったが、よかったのか?」
「あの子に対して、私は命令する権限を持っていないわ。それより彼女に何を言ったの?」
「何も。ただやることはもう把握しているはずだ。渡すものも渡したし」
「どういうこと?」
「後で解る。それよりもお前にやってもらいたいことだが」
レミリアが眉間に皺を寄せるのを無視して、彼女は話を進める。
「魔理沙を呼んでくれ」
「……ああ、そういうことね」
「どういうことよ」
首を傾げて、妹紅が隣の咲夜に問うた。彼女はそれに、首を振って答える。
視線をずらして、今度はレミリアに目で尋ねた。
「起こりうることなら操れる。そういうことよ」
「はあ?」
謎めいた返事に、妹紅は訝しげな声をあげる。
そんな彼女を構うことなく、レミリアは虚空に手を伸ばし、見えない何かをたぐり寄せるように引いた。
彼女からの説明を諦め、妹紅は慧音に向きなおる。
「霧雨魔理沙は別に礼儀知らずというわけではない、ということさ」
「はっきり言いなさい、はっきり」
立て続けての要領を得ない返答に、彼女はだんだんと床を踏みしめた。
「つまりだな、魔理沙は怪我をさせたパチュリーに、謝罪に来るということだ。それが明日か明後日か一週間後か……いつかはわからんが、いつかは来る。そして運命の操作は、レミリア・スカーレットの十八番だ」
故に彼女は、今日来る運命。
まあとりあえずお茶でも、と出された紅茶の最後の一滴を妹紅が飲み干したところで。
りーん、と澄んだ音が響いた。
全員の目がその発信源……来客を知らせる呼び鈴に向けられた、その瞬間。
っどん! という腹に響く衝撃音が紅魔館を揺るがす。
「何? 何?!」
「むう、サウンドバリアを突き破ったか」
「さすがは幻想郷で二番目に速い魔法使いね」
「ちなみに面と向かってそれを言うとキレますので要注意ですわ」
思わず立ち上がった妹紅も他三人の反応に、あああいつか、と座り直した。
「それで、どうフォローする気なの?」
「必要なかろう。細工は流々。あとはただ座して……」
レミリアの言葉に、慧音は言って指を翻す。
例の大鏡がテーブルに出現した。一秒前のことでも、過去は過去である。
「ご覧じるのみだ」
図書館の扉を開く魔理沙の姿が、映し出された。
「邪魔するぜー……」
控えめな口調で入ってきたのは魔理沙だ。彼女にしては丁寧に扉を開ける。
ヴワル大図書館にある私室の扉。中にいるのは当然、
「……………………何よ。また来たの」
いつもよりも溜めも長く、いつも通りの返事を返すパチュリー。魔理沙を射抜く彼女の右目は、いつにもまして剣呑だ。
左目には眼帯。そちこちにガーゼ、包帯。寝間着ではなく病院服。そしてベッドの上。
どう見ても入院中の怪我人である。
「……で、何の用。今日はあの子もいないし私もこんなだから、好きなだけ持っていっていいわよ」
ばつが悪そうに頭を掻いている彼女に、パチュリーは投げやりに言った。
「それは魅力的な提案……じゃなくて。なんか勘違いしてるだろパチュリー。私は別に、本を借りるためだけにここに来てるわけじゃないんだぜ?」
「本を借りる、ねぇ……。まあそのあたりは議論の余地がありそうだけど。なら、何をしに来たのよ」
「…………」
返事がない。
怪訝に思って本から顔をあげると、きょときょとと不自然なまでに視線を泳がせている魔理沙が映った。緊張しているようだ。心なしか、顔も赤い。
パチュリーは戦慄した。
まさか魔理沙にそっちのケがあるのか?
いやしかしそれなら香霖堂の店主とのことはどうなる?
は! まさか両刀?!
まずい、今の私の状態では……!
「パチュリー」
意を決したのか、魔理沙がパチュリーに向きなおる。
「何?」
そのいつにない真剣な表情に、彼女の心の警鐘は鳴りっぱなしだ。平静を装いつつも、パチュリーは懐のスペルカードを握りしめた。
「ごめんなさい」
「……え?」
深々と頭を下げる彼女に、パチュリーは間抜けな声をあげる。
「いやだから、怪我させてしまって、ごめんなさい」
「…………」
返事がない。
不思議に思って顔をあげると、硬直している彼女の姿。
「……パチュリー?」
その呼びかけに呼応するように。
ぐらりとパチュリーの体が横に倒れた。
「ちょっと待てぇぇぇぇ?!」
先ほどまでのしおらしさは何処へやら、痙攣すらしだした彼女に魔理沙は叫んで立ち上がる。
「まあ大抵そんな反応だとは思ってたけど、震えがくるほどおかしいのか?! わたしがあやまるのって?!」
「……おかしいというか……福音の逆位置というか……滅びの言葉というか……ぐふっ、ごめんなさいレミィ……あなたとの約束、守れそうもない……命運尽き果てたわ……もう眼も見えない……」
「それはただの疲れ目だろ! 片目で本なんて読むからだ」
「……その原因を作ったのは誰だったかしら」
「だからその事を謝罪しに来たんじゃないか……って痙攣するな! 怖いから!」
結局二人がまともに会話を交わすことができたのは、三度の痙攣を超えてからのことだった。
「それで、一体何の用?」
「……いや、だから謝りに」
言いかけてはっと口を噤む。また倒れられては話が進まない。
「それだけじゃないんでしょ」
含みを持たせて言う。
「どういう意味だよ」
今さら余裕っぽさを醸し出してもあれだけの奇態を見せた後じゃ意味無いよな、と思いつつも魔理沙は聞き返した。
「あなたが謝罪のためだけに来るなんて思えないもの」
「……わたしを何だと思ってるんだ」
「合理的な人間」
「…………」
そういわれると否定できない。
観念したように溜息をつき、両手を揚げる彼女。
「あたり?」
「……実は相談したいことがあってな」
頷き、ようようと言う。
「ああ、例の店主の件ね」
こともなげに言うパチュリーに、魔理沙は勝手に淹れた紅茶を思いっきり吹き出した。
「な、な、な」
「何で知っているのかって? さる筋からのたれ込みだけど。女の変わるきっかけは、男と相場が決まっているとも言っていたし。魔理沙がこんな相談を持ちかけてくるようになったんだから、頷ける話よね」
「……魔法の相談に来たのかもしれないだろ」
何とか持ち直した魔理沙がそう反論する。
「しないでしょ? あなた、魔法に関しては随分秘密主義みたいだし。ノンディレクショナルレーザーも、私に理論も訊かずにコピーしたし。……ああ、でも符にしているあたり、私の方が地力があるってことかしら」
「待て、それは聞き捨てならな……いやまあいいや」
……重傷ね。
パチュリーは内心呟いた。
魔理沙がこうもあっさりと折れるとは思わなかった。女は男で変わるというのは、本当に本当のようだ。逆もまた然りなのだろうが。
ふ、と、何となく感慨深く息をつく。
「経験談でもしましょうか」
「男と女のか?」
「人間とそれ以外の、よ」
本を閉じ、目を閉じる。
「私はここで相談役をしている……まあ実質的には居候だけどね。だからレミィの相談にはのるし、意見を求められれば意見も言う。私は彼女の決定を助するだけ。彼女の決定に反対したことはない。……一度しか」
「一度はあるんだな」
「ええ」
「何を?」
魔理沙の問いに、パチュリーは右目を開いた。
「咲夜を雇うこと」
「なんで」
意外な答えに魔理沙は一瞬目を丸くし、次に眉をひそめて尋ねる。
「彼女が人間だから」
「……それはあれか? 妖怪が跳梁跋扈してるこの館じゃ、人間なんて生きていけないっていう」
思いの外単純な返答に、彼女はやや拍子抜けしたように言った。
パチュリーは首を振り、
「この館には、咲夜の他にも人間はいるわ。勿論多くはないけれど。ここで重要なのは人間なのか、妖怪なのか、じゃないわ。有能なのか、無能なのか」
ならば何の問題もないのではないか。
今や彼女はメイド長。レミリアに代わる紅魔館の顔にして、彼女の一番の側近でもある。
「そうね。咲夜はとても優秀。それは誰もが認めてる。でも今重要なのは有能なのか、無能なのかか、じゃない。彼女が人間なのだという事実」
「……言ってることが」
無茶苦茶だ。
そう続けようとする魔理沙に構わず、彼女は言う。
「レミィが自ら、招き入れた人間であるという事実」
それはつまり、彼女が特別であるという事実。
「特別な存在が消えるのは、悲しい。まして」
「まして?」
彼女の疑問符に、パチュリーは言い淀み、天井を見上げた。
そしてまるで、誰かと目があったかのように、少しだけ困ったように、少しだけすまなそうに、笑った。
「それが自ら名を与えた存在であるなら、尚の事」
殊更何でもないことのように、さらりと言う。魔理沙が何かを言いだす前に、更に続ける。
「人間と吸血鬼。共にあり続けることなど、できはしない。人間が先に逝く。咲夜が先に逝く。避けられない悲しみ。でもあの時なら、避けられた悲しみ」
魔理沙も見ずに、ただ語る。
「無論それで、レミィが潰れてしまうとは、思っていない。でもだからといって、いらぬ悲しみを背負う必要はない。あの時私はそう思った。だから私は反対した」
流れるようにそこまで言うと、彼女は口を噤んだ。
「……余計なお節介だろ、それは。レミリアにとって」
しばしの沈黙の後、魔理沙は言う。
終わりに考えが及ばぬほどに、運命の担い手の眼は曇っていない。
曇っていたのはむしろ。
「そうね。今は私もそう思う。あの二人を見ていると、ね」
でも、と彼女は言う。
「悲しみたくない。悲しませたくない。これは本当。今でも私はそう思ってる」
「だから図書館引きこもり、か?」
「かもね。なのに悲しみ増すばかり。蔵書がどんどん減っていく」
からかうような彼女の言葉に、パチュリーは澄ましてそう答えた。
「……そ、それはともかくとして、お前はどうなんだよ、パチュリー」
雲行きの怪しくなってきた話題を変更する。
「魔女と吸血鬼だって、同じ様なもんだろ」
共にあり続けることはできない。
どこか寂しげに、そう言った。
お前は、余計な悲しみなのかと。
そう訊いた。
だがその言葉に、パチュリーは微笑みを返す。
「彼女をおいて、私はゆかない」
愛しげに、彼女は本の背をなぞる。
「私は私の終わりを、彼女の悲しみにはしない。私は彼女を悲しませない」
七色の翼を幻視する。
彼女は十分、悲しんだ。
「彼女だけは」
「……パチュリー」
「私はそう決めた。私がそう決めた。だから私はそう誓った。だから私は、彼女の隣にあり続ける」
気負うでもなく、ただ当たり前のことを告げるように、彼女は言う。
「咲夜は後ろをついてゆく。いつか倒れるその日まで。私は隣に並んで歩く。共に倒れるその日まで。あなたはどう? 霧雨魔理沙。咲夜のように? 私のように?」
パチュリーの、どこか挑むような問いかけに魔理沙は。
ゆっくりと。
口の端を上げてみせた。
そんな彼女の様子に、安堵の吐息をつく。そこにはいつもの魔理沙がいた。
「参考になった?」
「ああ。この借りは必ず返すぜ」
「借りはいいから本を返して」
「じゃあな! 養生しろよ!」
聞いていない振りをして彼女は勢いよく立ち上がると、しゅたと手をあげ逃げるように部屋を飛び出していく。
サンキューなー、という言葉はあっというまに遠ざかっていった。
乱暴に閉じられた扉をしばし見つめ、パチュリーはぽふっとベッドに倒れ込んだ。
天井を見上げ、楽しげに笑う。
なんとまあ、七曜の魔女、稀代の錬金術師たるこのパチュリー・ノーレッジが、言うに事欠きよりにもよって、こんな事の、相談相手となろうとは。
声が零れる。
でもきっと、本当は。
こうなりたかったのだ。
友人のために知識を披露す、動かぬ大きな図書館に。
過ぎた読書は誰のため。
自分のため。
そして何より友のため。
まさに本望ではないか。
「……でもね」
瞳を閉じて、も一度開く。
「私はあなたが一番好きよ、レミィ」
鏡の向こうの、あなたに向けて。
がたぴし。
奇妙な音をたて、鏡がその機能を一時停止する。
そわそわとした様子で、自らの姿を映さぬそれから、レミリアは視線を逸らした。
慧音のそれとぶつかる。
彼女は何とも愉しそうに笑っていた。
更に視線を逸らす。
咲夜が見えた。
彼女もレミリアと同じように、落ち着かない様子でこちらを見ていたようだ。
目が合う。
熱した石にでも触ってしまったかのように、二人はぱっと視線を逸らした。
「『どうして俺は死んでしまうんだろう』」
突然の呟きに、紅魔の主従は我に返って声の主を見た。
当の本人、妹紅は軽く俯き、薄く笑っている。
「なんて言われた日にゃあ、枯れた涙もまた零るってもんよね」
顔をあげ、皮肉げに、しかし懐かしげに。
「……経験談?」
「まーね。これでもあんたの倍以上は生きてるし」
躊躇いがちに尋ねるレミリアに、彼女は最早いつものように、肩をすくめる。
「悲しみたくないってのは、よくわかるわ」
「……彼女は」
何事かを言いかけて、咲夜は中途に口を閉ざした。
視線の先には。
「最期に私の歴史を幻想郷から消せば、無問題だな」
「ンなことしたら、私の生き肝ねじ込むからね」
「……だ、そうだ」
私の将来は安泰だな、と笑う。
二人して。
少しだけ息苦しかった空気が、軽くなる。
「それにお前達が私を何だと思っているのかは知らないが」
「出歯亀」
「準隙間妖怪」
「知らないが!」
軽くなりすぎたようだ。
主従の突っ込みを、大音声でなかったことにする。
「これでも半分は神の……まあ限りなく風上に近い風下に名を列する存在だ。不死とは言えんがこの身は不老。殺されるまで、死にはしない」
「……だって」
私の将来は安泰ね、と笑う。
二人して。
……この二人を見ていると。
漠然と、レミリアは思う。
年季が入っている、とは思う。
でも敵わないとは思わない。
もう、叶っているから。
今さらながらに自覚する。
「……それでこれは、結局なんだったの? これで解決なの?」
そんな彼女の問いかけに、慧音は否と首を振るった。
「これは魔理沙への最後の一押しだ」
餞別といってもいいかもしれん、と彼女は言う。
「あとは小悪魔殿次第だな」
「あの子次第って……」
不思議そうに、妹紅が首を傾げた。
「別に伝言頼んだわけじゃないんでしょ? 荷物運びならそこのメイドにやらせたほうが手っ取り早かったんじゃない?」
慧音が咲夜を見る。妹紅の失礼と言えば失礼な言葉にも、彼女の様子は変わらない。
「伝言を頼んだわけではないが、あれを見てやることを察してくれるのは彼女しかいないからな」
意味深な言葉に妹紅は眉をひそめるが、彼女は少し笑うだけ。
そして、これが答えとばかりに再び大鏡をつま弾いた。
軽やかな鈴の音と共に、扉が開かれる。
「いらっしゃい」
読んでいた新聞を脇に置き、霖之助は来店客に目を向けた。
赤い髪。ブレザー姿。そして何より特徴的なのは、頭と背から伸びる、蝙蝠の如き羽。
初めて見る顔だった。
「こんにちは。お届け物です」
そういって彼女は、手にした袋を勘定台の上に置く。
奇妙な展開に彼は眉をひそめた。
しかし当の、赤い髪の少女は、にこにこと笑ったまま。
いぶかしみつつも、霖之助はそれを手に取り、中身を確かめる。
瞬間。
今までどうしても回らなかった歯車が、ぴったりとかみあったかのような奇妙な感覚に襲われた。
「これは……」
彼の呟きにも、少女の様子は変わらない。
では、と頭を下げ、踵を返す。
「待ってくれ」
呼び止められ、彼女は振り向いた。素直に笑顔とは評せないような、そんな表情で。
「何でしょう」
「どうしてこれを?」
「とある方からお預かりしまして。これをあなたに渡せば、問題は大方解決するだろうと。あ、申し遅れました。私は紅魔館の小悪魔と申します。咲夜がいつもお世話になっております」
「紅魔館……すると君が、図書館の小悪魔か」
再び頭を垂れる彼女に、霖之助は思い出したように呟いた。
「あら、ご存じでしたか」
「うちの常連がたまに話していたからね」
「ならば、何が問題なのかも把握してらっしゃいますよね?」
「…………」
押し黙る。
「ここのところ、どーにも機嫌が悪いみたいなんですよねぇ」
黙考する彼の様子に目を細めつつ、小悪魔は白々しく言った。
苦笑する。何が何でも、彼の口からその名を言わせたいらしい。
ならば。
「君は」
伝わるだろう。
「魔理沙の友人かい?」
「そうですねぇ。強弁すれば、そういえるかもしれません」
そうか、と霖之助は頷き、
「他に、彼女の友人を知っているかな」
「他の友人、ですか」
んー、と顎に指をあて考え込む。
幾人もの名前と顔が、浮かんでは消え……
ややあって彼女は、苦笑を浮かべた。
「なるほど。確かにいませんね、あなたしか」
賑やかしの祭り好き、霧雨魔理沙。
しかしその実、それほどに社交的なわけではない。
小悪魔の脳裏に浮かんだ人妖の、そのほとんどが何らかの事件解決の過程で出会った者達だ。知り合うべくして知り合ったのではない。
例外はたったの二人。
すなわち博麗霊夢。
すなわち……森近霖之助。
そして彼こそが異彩。
霊夢には代わりがいる。誤解を招きかねない言い方だが。
例えばパチュリー・ノーレッジ。あるいはアリス・マーガトロイド。知り合うべくして知り合ったのではない。しかし友には変わりない。
しかし彼女に、彼の代わりはない。
彼しかいない。それ故番う。
「これでは彼女は、籠の中の鳥だ」
「……わからないではありませんが」
こめかみに指をあてる。
「あなたは魔理沙さんが嫌いなのですか」
「……だったらとっくに出入り禁止にしているよ」
「それを棚上げしておいて、彼女を籠の中の鳥と評すのはずるいですよ」
目つきが少し、きつくなる。
「想いというのは、言葉にしないと伝わらないものです。よしんば伝わったとしても言葉がほしい。こと、こういう事に関しては」
ふと、視線を遠のかせ。
「それに彼女は、おとなしく籠におさまっているような鳥じゃないですよ。そんな籠なんて吹き飛ばして、悠々空を飛ぶような鳥です。なのにそこにいるとしたら。籠の中にいるとしたら。それはどういう事でしょう」
彼女に代わりが何故いない? 彼の代わりが何故いない?
「魔理沙さんに、比較対照なんて必要ないんです。彼女の選んだ全てのものが、それが彼女の最適解」
博麗霊夢の代わりはいない。
パチュリー・ノーレッジの代わりはいない。
アリス・マーガトロイドの代わりはいない。
彼女に答えは一つしかない。
彼女に代わりは一つとしてない。
いつも的確に貴重な本を持っていきますし、とげっそりして言う。
「空を飛べる、籠にいる鳥、なんですよ」
つまりはそういうことだった。
空を飛ばずともそこにある。答えは自分の前にある。だから飛ばずに籠の中。成る程全く合理的。
「優しいというよりも、過保護に過ぎるのではないですか? あなたは魔理沙さんの育ての親と聞いています。でも彼女はもう、あなたをそうとは見ていない。彼女はもう、子供じゃない。はぐらかされて後回されて、それで納得できるはずもない」
言葉なしには、もう進めない。
「あなたは、どうなのですか? 彼女はあなたの子供ですか? それがあなたの本当ですか? あなたは――!」
彼の手が、続きを留める。
柄にもなく、熱くなりかけていたようだ。ふ、と息をつく。
「彼女が何なのか、わかりましたか」
彼女はあなたの子供ですか。
それは結局ごまかしだった。
だからもう、通じない。
目の前の少女にも。
目の前にいない彼女にも。
そして自分の心にも。
「……わかっていたさ。とっくに」
わかっていたことを言葉にした。成る程、重くて染み渡る。
「君は何故、こんな事を?」
「こんなこととは?」
「失礼だが、僕は君を善意の輩とは思っていない。何故なら君は」
「悪魔だから」
彼の言葉を受け、にやりと笑う。
「確かに。常ならぬ今の魔理沙さんなら、籠絡するのは赤子の手を捻るようなもの。堕として送れば故郷に錦か金剛石か、てなもんですが」
降参、とばかりに両手をあげる。
「私はパチュリー様をお慕い申し上げているのですよ。誠実に。悪魔の身にして誠実に。ああ、何たる堕落!」
芝居がかった仕草で胸の前で腕を交差させ、よよと俯く。
「そんな魔理沙さんなど、パチュリー様は望まれません。パチュリー様の悲しみは私の悲しみ。パチュリー様の楽しみは私の楽しみ。パチュリー様の怒りは私の怒り。パチュリー様の喜びは私の喜び。目の前に美味しい餌がぶら下がっているのにカナしいかな、お預けです」
ちっとも悲しそうでなく、小悪魔は嘯く。
「ここにきて以来、私はケチがつきっぱなしです。何故でしょうね?」
「惚れた弱みだろう」
「違いないです。願わくば、魔理沙さんの口から惚気話が垂れ流されますように」
「……それはそれで、うっとおしいだろう」
「かもしれませんね。しかし森近魔理沙、何とも結構な響きじゃございませんか」
では、と大仰な礼をして、彼女の姿は消えた。
「なるほど、確かにこれは、咲夜には無理ね」
先の件での反応を考えるだに、こんな事が出来るのは、こんな事を言えるのは、彼女だけだった。
「……お嬢様」
こくこくと一人頷くレミリアに、咲夜は情けない声をあげる。忘れて下さいと言わんばかりに。
「私が行ってもよかったんだが……それでも彼女ほどには上手くいかなかっただろうしな」
さすがは悪魔、とレミリアと同じく頷く。
「さて、では次がフィナーレか?」
「ハッピーエンドに私の人生かける」
そんな妹紅の言葉に。
全員が、苦笑した。
いつもの席には座らずに、霖之助は棚に寄りかかっていた。
勘定台の袋を手に取る。
予感があった。
操られているかのような感覚すらある。
しかしそれに乗らぬほどに、彼も少年ではなかった。
軽やかな呼び鈴の音をかき消すように、けたたましい音を背負って彼女が来る。いつものように。
「香霖」
いつものような挨拶はない。
しかし、それでいいのだと思う。
今はいつもと違うから。
「二度は訊かない」
す、と右手を伸ばして、言う。
「わたしに引かれるつもりがあるなら」
手を取って。
後を追う。隣を歩く。
そんなのは趣味じゃない、らしくない。
相手を掴んで引っ張って、引っ張り回して振り回す。思うがままに、我が儘に。
前を行く。
彼の。
それが彼女の答え。
そして答えは。
「魔理沙」
ついに、応えた。
「左手を、出してくれないか」
いぶかしみつつも言われるままに、彼女は左の手を翳す。
霖之助は、手にした袋をひっくり返した。転がりでたのは銀色の指輪。
彼は魔理沙の左手を取り。
そしてそれを、彼女の薬指に填めた。
どういうわけかその指輪は、おさまるべくしておさまったかのように、魔理沙の指にぴたりと馴染む。
「……香霖?」
不思議そうに、彼女はそれを見つめた。
それには応えず、霖之助は懐から何かを取り出す。
開いた掌には、いつぞやに見た指輪が一つ。
魔理沙のそれと、対なる指輪。
「魔理沙」
言って彼は、それを右手の人差し指と親指とでつまみ上げる。
「これは呪いの指輪なんだ」
「は?」
思いもよらない霖之助の言葉に、彼女は思わず声をあげる。
「どんな呪いなのかというとね」
それにかまわず、彼は指輪を自らの左手の薬指に填めた。
「対の指輪を填めた二人が、一生一緒にいる呪い」
「…………え?」
呆けたように、魔理沙は霖之助を見上げる。
「魔理沙」
常ならぬ、何処か緊張した面もちで、彼はすうと、息を吸い込む。
「僕は君が好きだ」
静寂。時が止まったかのように。
声は震えていなかったか?
まっすぐ彼女を見ていたか?
そんなことを思う。
そんなことばかり、思う。
柄にもなく、緊張している。
らしくもなく、動揺している。
目の前の少女が、胸に飛び込んでくる瞬間に気付かぬほどに。
衝撃。
重み。
ぬくもり。
脱げ落ちたとんがり帽子が、ころころと床を転がる。
日溜まりのような、金色の髪。
顔は、見えない。
ひっく、ひっくと、しゃっくりをあげ、彼女の肩が揺れる。
「どうして泣くんだ」
「……馬鹿…………っ」
くぐもった声で言う彼女の頭を、肩を、かき抱く。
硬直は、一瞬。
そこが彼女の全てであるかのように、魔理沙は彼の胸に、身を委ねた。
「……嬉しいのなら、笑ってほしい」
抱擁の最中、耳元に囁く彼の言葉に、彼女はその身を震わせる。
ややあってあがる、魔理沙の顔。
拭われぬ頬には、幾本もの光の筋。
両の瞳いっぱいに、揺蕩う涙。
細められた双眸から、光の滴が零れて落ちる。
この上なく美しい。
限りなく愛おしい。
何よりもきれいな。
笑顔。
どれほどの間、見つめ合っていただろうか。
沈黙すらも、心地いい。
「……魔理沙」
それ故に、気恥ずかしげに、それを破る。
その口調にあてられたのか、頬を赤く染め、ん、と言葉少なく返事をする、彼女。
「……目を瞑ってくれると、嬉しいんだが」
何を言おうとしていたわけでもない。ただ名前が呼びたかっただけだった、のだが。
彼女の仕草に、様子に、表情に。
思わず。
そんな言葉が、突いて出た。
「…………え…………?」
彼の意図を察した彼女の顔色が、熟れた林檎のようになる。
羞恥に。
そして何より、彼の想いが嬉しくて。
す、と、つま先立つ。少しだけ、縮まる距離。
彼女の可憐な顎が、軽く上がる。頬の熱が、増す。
そっと閉じられる、つぶらな瞳。もう、涙は零れない。
唇は、重なり合うためにできている。
誰の言葉だっただろうか。
ゆっくりと無くなっていく、彼女との距離。
二人は、一人に。
一なる距離は、零になる――――
鏡は彼らを映すのをやめた。
誰も文句は言わなかった。
ただ得も言えぬ充足感があった。
「いや、いいものを見た。これであと五十年はいける」
「なにがよ」
「そんなことより、それとなく祝いの品でも贈ったほうがいいかしら」
「そうですわね。赤飯でも届けて参りましょうか」
「それはいくらなんでもあからさますぎない?」
「別の祝いと勘違いされるかもしれんしな」
「いや、それはさすがにないでしょ」
「別の祝い?」
「吸血鬼には関係ない事よ」
「あら、蓬莱人にも縁のないことではありませんか?」
「ざーんねーん。私は人間だもん、ねー?」
「ねー」
「……似合いませんわね」
「五月蠅い。たまには私だって茶目っ気を見せてもいいだろう」
「それはここ最近嫌と言うほど見させていただきましたが」
「ねえ咲夜、別の祝いって何?」
「……さて私はパチュリーと小悪魔殿にも結果を見せに行かねば」
「あ、私も行く」
「ちょっと逃げる気……?!」
「ねえ咲夜ー?」
「お、お嬢様は知らなくてもよいことですわ」
「そんなこと言ってごまかし……」
「いえ決してそんな……」
「では失礼して……」
「同じく……」
「ちょっと待っ……」
「…………」
「……」
「へへー」
フライパンの上のバターのような笑い声が、ヴワル大図書館に響く。
声の主は、なにやら黒いものを弄くっている霧雨魔理沙。
その対面に座るのはパチュリー・ノーレッジ……ではなく、彼女の忠実なる僕、小悪魔だった。
「これ、霖之助が『似合ってる』って褒めてくれたんだー」
手の中のもの……黒いリボンをくるくると巻き、魔理沙はストーブにおいた雪だるまのような声でそんなことを言う。
本日十二回目の台詞であった。一言一句、違わない。
「そうなんですか」
小悪魔はにこにこと晴れやかに笑う。その内心は、おおいに土砂降りであったが。
「えへへー」
そんな顔で笑って心で泣いてな彼女の心中を、今の魔理沙が見抜けるはずもない。
そのリボンを再び帽子にくくりつける。
黒い帽子に黒いリボンってどういうセンスしてるんだとか、それを褒める古道具屋の鑑識眼って間違ってないかとか、恋は盲目だとか、そんな感じの感想が渦を巻く。
だがこんなことを、フレンチトーストのように笑う彼女に言えるはずもない。
魔理沙が帽子をかぶった。
帰るのか! と小悪魔は内心で喝采する。
が、彼女は再び帽子を脱ぐと、付けたリボンをしゅるしゅるとほどく。
「これ、霖之助が『似合ってる』って褒めてくれたんだー」
自重で潰れたプリンのような声で、恋の魔法使い改め愛の魔法使いはふやけてテーブルに転った。
……お恨み申し上げます、パチュリー様……!
虚空を見上げ、未だ療養中とでまかせを打っている自らの主に、彼女はせめてもの悪態をついた。
かくして。
幻想郷の一部を揺るがした一連の騒動は幕を閉じた。
……ちょっとだけ、悲哀を残して。
どうせ前にしか歩いていけない生き物だから。
だから、前へ歩いていくしかないんですね。
素敵な終わり方に、ただ拍手を捧げたい。お見事でした。
パチェじゃないけど痙攣しそうです。いや、してます。
参りました。
キャラの心情の描写も素敵でした。君には感謝しているの70点で!
コア熊がいい小悪魔がいいコアク馬ァァァァ
なんとも甘い、よい話でした。
でも前作の勢いが、ちょっと減っている感じがして残念かも
次回作も期待しています
それ以外に言う言葉はありません。はい。
「さすがは幻想郷で二番目に速い魔法使いね」
「ちなみに面と向かってそれを言うとキレますので要注意ですわ」
ここは爆笑でした。
あと、こーりんと話している時の小悪魔に惚れた。小悪魔イイよ小悪魔。
もはや言葉は要らないです。あなたは最高だッ!!
うへへへへへへへぇ(画面の前で身もだえながら
しかし甘いなぁ。人生って、甘いなぁ。
甘い人生に縁のない自分は甘いプリンでも食べて来まさぁ。
手加減抜きの素敵な甘さ、御馳走さまでしたー!最高っす!
誤字を二つ見付けましたので、下に置いときます。
魔理沙は勝手に煎れた紅茶を思いっきり吹き出した。 煎れた→淹れた
軽やかな呼び鈴の根をかき消すように、けたたましい音を~ 根→音
あぁあもうかわいいよコンチクショー!1!!11
……さて読み直すか。
お見事でした。
平伏するしかございません orz
(注:笑い声)
まあああああ理いい言いいさああああああああ!!!!!!!!(注:不気味な身もだえ)
メインディッシュの魔理沙については……無理、ムリ、コメントなんてむり。
いいモン読ましてもらいましたとしか言えないのであった。
愛だろ、愛!(古
この二人の幸せを願った祝砲ぐらい撃たせろぉ!!
素バラしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!
もういい!もう大丈夫!俺も50年はいけるよっ!!
ご馳走様っす!!
が、どうしても香霖の違和感が消えませんでした
他のキャラからはまったく感じませんでしたが、これは違うなぁ、と
こーりんとの会話は素敵だと思います。
甘さを差っぴいても各人の相方に対する見解や「この後」に対する考えなど
細かい部分で唸らされました。
最後に、魔理沙、お幸せに。
なんとなく駄目人間化してるような気がするけどお幸せに。
ありがとう!
こういうお話は好きです。
小悪魔がいい役してる。
ところで毛玉ってしゃべるんですね……
あとはまあ、「鐘の音」って言うからには洋式な訳で、するってーと最後は普通の魔法使い改め普通の花嫁さんがブーケをぶん投げるわけで。
争奪戦がえらい事になりそうです。
心の底から拍手喝采を送りたい。
橋渡し役の小悪魔もいい味出していました。
このけー姉と紅魔館メンバーの話は読みたいッ!
アンタいつも最高だよ。
糖分がっ!!糖分が限界値突っ切ったーーーーーーーーー!!!
いや、マヂでご馳走様でした。
あと小悪魔の口上大好きです
ぎゃあああああああああ(思考停止
しかし魔理沙とこーりんがくっつくなんてわたしはああああああああああああああああ!!!!!!!!!!(壊
顔がニヤニヤしすぎてゆがみそうだぜ
改まってないよ!
それはともかく。
ご馳走様でした。
さて。
小悪魔の胸囲について、ちょっと話し合おうじゃあないか…
「(36回目・・・泣)」
がんばれ! 小悪魔!
受験の合間に良いもの読ませていただきました。
GJ!
読めて嬉しい。
一つだけ気になったのは、物語が流れている気がしないこと。
もしかして僕には素直な気持ちがかけてるのかも。そりゃこーりんに嫉妬するわwラストのアマアマにはホントやられました。いいなぁ。
ごちそうさまでした!
こういうお話を待っていTAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!111!!
GJ!!
蜂蜜以上の甘い匂いがプンプンするぜぇーーーッ!!
こんな萌える話には会った事もねえほどになぁーーーッ!!
女の子らしい魔理沙に萌えるだと?違うねッ!!
魔理沙は生まれついての乙女だッ!!
SHOCK.Sさん、早えこと続編を書いちまいなッ!!(図々しい)
ちくしょう!!w
無謀編6巻吹きました。
顔のニヤつきが止まりません。
責任とってください。
個人的に今一番気になるのは………10000越えなるか!ですな。
イメージとしては優しいお兄さん的な物を抱いている自分としては。
小悪魔も良いですねぇ…。霖之助との掛け合いのシーンはお見事。
…というか、全体ひっくるめてお見事にございます。
うっとおしい→うっとうしい では無いかと思ってみたり。
味に目覚めたぁぁぁぁぁぁぁああぁぁっっっ!!!!!!
けどいい
・・・準隙間妖怪とかいうと本人(本妖怪?)が出てきますよ?
「こーりんは魔理沙を(子供では無いと思っていながら)子供扱いしていて、魔理沙はそれが不満」という事ですが、皆はどうしてそれを知ったのでしょうか?
レミィ達はこーりんが怪しい、としかわかっておらず、具体的な事は知らないはず。
魔理沙とこーりんの間に何があり、それぞれどう思っているのかがはっきりと分からない状況で、レミィ達が二人をくっつける行為にでるのは、僕は不自然に感じました。
レミィとパチェ咲夜、けーねと妹紅の対比はばっさり削っても良かったと思います。詰め込みすぎな印象を受けました。
小悪魔に言われて決意をするこーりんという図もどうかと思います。
こーりんが情けないというのもありますが、魔理沙の時と同じ手段(他人が説得)というのは読んでいてつまらないです。
片方を説得にするなら、もう片方は別の方法をとってほしかったです。
そもそも、レミィ達が何かする必要もなければ、その必然性も感じられませんでした。
パチェに怪我までさせてしまった魔理沙が今後また暴れるとは考えにくいですし、そうなれば魔理沙とこーりんの二人の問題で、他人が干渉する事ではないでしょう。
レミィ達を行動させる為には、もっと深刻な状況である必要があると思います。
今回の状況では、放っておいても問題なかったのでは?
「これは呪いの指輪なんだ」あたりのこーりんは良かったです。
よい乙女魔理沙でした(=人=)ゴチソウサマデス
ちょっ、まてまて!!何か恥ずかしくなってくるじゃねーかっ!!w
うおーすげー動揺してるよぉぉ!!
GJ!!
( * ´ ω ` * )
嘘偽りのない(多少クサイですが、そのくらいがちょうどいいのかも)真正面からの告白なので、もうおまえら好きにしてくださいという感じなのですけれども、前作「蹴ら(略)馬」を引き継いだ形だとしても霖之助の心情が足りません。甘い、もっと悶々とせい! というのが正直なところです。
小悪魔によっていきなり解答が与えられたので、前作では問題すら不明瞭だったのに、問題と解答を同時に突き付けられても……と、ちんぷんかんぷんになってしまう可能性も決して少なくないと思います。
魔理沙と霖之助に焦点を絞るのなら、出歯亀のくだりをある程度切るなりまとめるなりして、二人のギクシャクした現状を描写したり、あくまで出歯亀にこだわるのなら、告白以下のくだりは第三者の視点で魅せたりするのも、ひとつの手ではあったのかなと偉そうに感じています。
とまあ言っておりますが、いちばん引っ掛かった点は、前作がギャグで今作がギャグっぽい展開からシリアスなラヴに移行するタイプだったため、いつどんでんがえしが起こるんだろう(わくわく)という天邪鬼な期待がなきにしもあらずだった、という誠に個人的な願望によるものだったりします。霖之助が盛り上がってきたところで、もうギャグにはならないんだなと悟りましたけれども。
各カップルの結び付きも、単純な惚れた腫れたの関係に留まらない裏打ちがあって非常に興味深かったのですが、冷めた見方をすれば、おのおの誰かを大切に想う気持ちはあっても、それが友情なのか慕情なのか愛情なのか崇拝なのかを決めるのは、書き手の恣意的かつ一方的な願望なんじゃないのかと思えなくもないのです。でもそれはある程度仕方のないことで、好きなら好きでいいじゃない、根拠もあるんだし、と言われるとぐうの音も出ないのですが。むう。カップリングの甘ったるさが見え隠れしているのは筆者様の情熱が多分に注ぎ込まれた結果、と考えることも出来ますし、それに足るだけの完成度も誇っているとは思うのですが。
感情的な意見で申し訳ありません。
うーん。分からん。
愛って何ですか。
でも、ずっと出歯亀視点(笑)だったので、
別視点の魔理沙ドキドキ感バージョンも読んでみたいような。
でも、出馬亀班の妹紅がいい味で、かなりグッジョブです。
良い
出歯亀チームも良い感じを出していて素敵でした。
愛ですなっ!
やばいっす、もう最高です!!
二人にはごちそうさまとしか。
そして小悪魔嬢の素敵過ぎること!!!
けど…こーりんがらしくない~
私は何時の間に「月九」世界に・・・・・・
純愛ラヴストーリーに乾杯。
いーちゃった、いーちゃった
スゥウィイイイイイイイイイイイイイトォォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!
期待しながら読み進んだら……200%応えてくれる作品でしたッ!GJ!
こーりん死ね(褒め言葉)とでも言うおうと思ったけど、今なら香霖と魔理沙のためなら命も惜しくない気がするぜ…
…なんかこういうとケチつけているような希ガス。
最後魔理沙のこーりんに対する呼び方が香霖から霖之助に変わってるのがさらに甘いw
ニヤケが止まらないww
全キャラいい感じだし、甘いし最高だぜえええええええええ!!!!
魔理沙かわいいよ魔理沙