「紅魔館門番隊隊長・紅美鈴ーッ!」
「うわあぁぁん!」
「侵入者を許すこと数千回!貴様にはほとほと呆れ果てたわ!」
「御免なさい御免なさい御免なさい~!」
「光も無いッ!希望も無いッ!自由など勿論無いッ!貴様には門番より牢獄が相応しい!」
「そ、それだけは勘弁して下さい~!」
「希望無き部屋で眠れ!」
『がしゃーん』
そして扉は閉じられた。
◇
「ううう・・・・・・」
・・・・・・今日も侵入者を許してしまった。
奴は、私の繰り出すスペルカードをことごとくかわし、遂にはボムの一発すら使うことは無かった。
いえ、ですが善戦・・・・・・善戦したんです!
大体ここにやって来る客は、揃いも揃って選りすぐった奴ばかり!
お嬢様の手にも負えない相手を、私如きがどうしろと!?←禁句
・・・・・・も、もしかして、私が初めから勝てない設定になってるとか?
「うー、やだやだやだー!」
私はしくしくと大量の涙を流しながら、体育座りのまま天を仰いだ。
うわぁ、何か天井に大量の血がへばり付いてるよ・・・・・・。
「私、遂に処刑されるのかなぁ」
仏の顔も三度まで。
鬼と化したメイド長の顔が目に浮かぶ。
その手には大量のナイフが携えられており、悪魔の笑みを浮かべている。
「手足の腱をぶった切った後、舌を抜いて叫び声すら上げられなくするんだわ。そして爪を剥がし、全身の皮を引ん剥かれて・・・・・・」
最後には廃人と化した自分の姿が目に浮かんだ。
「いやー!」
まあ流石の咲夜さんも其処まではやらないだろうけども、身の危険が迫って事だけは確かだ。
・・・・・・こうなれば方法はただ一つ!
「脱走してやるんだから!」
脱走の方が余程罪が重いという事に、美鈴はこの時点で気付かなかったらしい。
◇
『美鈴に食事を届けてあげて』
咲夜さんの命により、何故か私子悪魔が美鈴さんの食事当番を承っております。
先程まであれほどご立腹だった咲夜さんも、大分落ち着かれた様で一安心。
この食事も咲夜さんの手作りらしく気合が入ってます。
え、手作り?
これ、罪人に与えるには勿体無い気がするのですが・・・・・・。
「そうか、これが愛というものなのですね!」
よしオチが付いた。
と、こんな事してる間に地獄の三丁目、紅魔館が誇る大牢獄へと到着~。
「美鈴さんの事だから、殺されると思って脱獄してたりしてー」
『こんこん♪』
「美鈴サーン、オショクジオモチシタアルヨー」
中国仲間が来たと思って安心させる作戦。
うーん、我ながら名案だなあ。ワタシ、ヤサシイ!
「・・・・・・返事が無いなあ。失礼しますよー」
『がちゃ』
「オショクジアルネー、って居ないぃぃぃ!?」
美鈴さんが居るはずの牢獄は、もぬけの殻であった。
私は青ざめ、急いで辺りを見回す。
「まずいまずいまずい!一体何処に消えたんだあの中国!!」
この際名前などどうでも良い。
早く捕まえなければ私が咲夜さんに
『イケナイ子ね。お仕置きの時間よ・・・・・・☆』
てな按配でリンチされてしまいます!
私がそれを許すのはパチュリー様だけであって、あんなロリコンメイドに(以下放送禁止用語入りました)
「そんな事じゃなくてー!」
私は急いで鍵を取り出し、牢の中を調べた。
するとなんと奥の床が抜けているではないか!
「なんてこったい!急いで追わないと!!」
私は小さな体を活かし、穴の中へとダイブする。
「・・・・・・はぐっ!?」
・・・・・・子悪魔の小さな悲鳴が牢獄に響いたのは、その直後の事であった。
◇
美鈴は、もそもそと穴から這いずり出る。
「ミッション成功、と」
その穴には入って直の所に、更なる横穴が空いていた。
美鈴は其処に身を潜め、子悪魔が飛び込んでくるのを待ち構えていたのだ。無念なり子悪魔。
「ふふ、鍵は開いてるわね」
ニヤニヤと邪な笑みを浮かべる美鈴は、子悪魔が目覚めぬ内にこの忌々しい牢獄から脱出──────
しようとした矢先
「撃つと動くわよ!」
「はうっ!?」
美鈴は背後から鋭利な何かを突きつけられた。
「馬鹿な、気配を全く感じなかった!」といった表情をしている。
「さ、さささささ咲夜さん?」
「そう、私は咲夜よ・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・このやたら妖絶で、
色気のある声を出す奴と言ったら、
幻想郷広しと言えども一人しか居ないッ!
「・・・・・・何やってんだ隙間妖怪ーーーっ!」
美鈴の鋭い後方回し蹴りが炸裂。
しかしそれを奴は、持っていた傘で受け止めた。
「っ!?」
「あらあら、手荒いご挨拶ね」
「わ、私の蹴りをそんな傘で!?」
「オリハルコン製の特注よ。先端から色々出るわ。ほら」
『みょーん』
みょんな効果音と共に、先端から彼岸花が飛び出した。緑は大切に。
「・・・・・・私を馬鹿にするなーっ!」
「落ち着きなさいって中国」
「中国言うな!」
「あら、助けに来てあげたのにその態度?」
「何が助けに・・・・・・え?」
助けに来た。
この言葉を耳にした瞬間、美鈴の顔が緩んだ。
「あの、それってどういう?」
「簡単な話。この隙間に飛び込めば貴方は解放されるわ」
「・・・・・・」
間。
「・・・・・・怪しい、というか話が上手すぎるわ。大体侵入者である貴方が何故此処に居るのよ!」
そう、何を隠そう本日の侵入者は、目の前に居る八雲紫であった。
美鈴はこの紫の撃退に失敗したが為に、牢獄へぶち込まれる羽目になったのだ。
相手が悪かろうと、処罰に情け無用なのが門番隊の掟だったりする。
「・・・・・・だって」
「・・・・・・だって?」
「だって、門前でしくしく泣き崩れる清楚な乙女を見ても、誰一人声すら掛けてくれないのよ?そりゃ復讐の一つや二つしたくもなるわ」
「・・・・・・」
美鈴は『あんたみたいな年増、助けて良い事無いからよ』という本音が喉まで出かけた。
「・・・・・・まぁ良いわ。千歩譲って、貴方が復讐の為に此処へ訪れた事にしてあげる。で、何故私を助けようと?」
「・・・・・・哀れだから」
「ざけんなコノヤロウ」
今絶対素だった。
ものすっごい申し訳無さそうに紫は言った。
美鈴は「どいつもこいつも馬鹿にしやがってー!」といった表情で地団駄を踏んでいる。
「冗談はこれくらいにして、どうするの?私は結構本気で貴方を助けに来たんだけど」
「う・・・・・・」
言っておくと、美鈴は紫と特別親しい訳ではない。
精々時たま開かれる宴会の際、顔を合わせる程度である。
・・・・・・だが、この八雲紫という人物の危険性は十分理解しているつもりだ。
こんな噂も耳にする。
「・・・・・・曰く隙間妖怪。曰く神隠しの主犯。曰く足臭妖怪。曰く年増ようかイィーッ!?」
シ○ッカー。
ではなく、紫の傘より発射された鎮圧用ゴム弾(対スッパテンコー用)を喰らった美鈴の悲鳴である。
年増という言葉は、彼女のピュアでスウィ~トなハートを傷付けるらしい。お気を付け下さい。
「じゃあ、お呼びでないゆかりんは退散させて頂きま~す」
「ま、待ってくださひ紫様っ!」
悶絶しながらも、何とか紫を引き止めようとする美鈴。既に様付け。
美鈴にはこの光景がとても良く似合っていた。
◇
美鈴は気配を殺しつつ、紅魔館の迷路のような廊下を歩く。
『貴方の力に頼ったら、意味が無いんです!』
美鈴は紫の隙間作戦を却下した。
理由としては紫が信用ならないという事が大きい。が、それ以上に彼女のプライドがそれを許さなかった。
つまりがメイド長の鼻をへし折らんが為、自力で脱出しちゃる!という事なのだ。
して、問題の紫は隙間から優雅に観戦している。
何だかんだ言って美鈴は一人では寂しいらしい。
『わざわざ面倒な事をするのね』
『五月蝿い。これは私と咲夜さんの聖戦よ』
『それはどうかしらねぇ』
『・・・・・・?』
因みにこの会話は美鈴と紫以外には聞こえない。俗に言う念話だ。
脳となんちゃらの境界を弄ってどうとかこうとか・・・・・・何でも有りなのかこの隙間妖怪は。
「(・・・・・・うーん)」
紫はそんな美鈴の様子をしばし観察していたが、段々と暇になって来る。
そしてこう思うのだ。
「(何かイベントが欲しいわ)」
先程美鈴を痛めつけた事に関しては端からどうでも良いらしい。
紫は既に、自分の欲求を満たす事だけを考えていた。
「(・・・・・・よーし、じゃあここらでエンカウントー)」
紫は美鈴が丁度通りかかった扉を、隙間を使い気付かれない様ゆっくりと開く。
部屋の中には戦闘用メイド服に身を包んだ、一人の少女が佇んでいた。
「・・・・・・門番長?」
「!?」
『(ふふふふ)』
美鈴は扉が開かれた事に気付く筈も無く、怪しさ全開の脱走劇を発見されてしまった。
『み、見つかった・・・・・・』
『きゃー、美鈴ちゃん大ピンチよ!』
『五月蝿い!で、でもこの子は可愛い後輩よ。きっと話せば分かってくれる──────』
「者共出会えぇぇい!脱走兵発見だー!!」
「嘘でしょぉぉぉっ!?」
『・・・・・・ほんと、可愛い後輩だこと』
メイド兵Aの号令に反応したメイド兵BとCが、増援で駆けつけた。
そして美鈴はあっという間に囲まれてしまう。
「あ、貴方達正気!?本気で私を捕まえるつもりなの!?」
「勿論です」
「当たり前です」
「任務ですから」
仲が良いらしいメイド兵トリオは、一様に返事を返す。
「十六夜メイド長の名の下に、貴方を成敗致します」
「メイド長の顔に、泥を塗る輩は許しませんっ」
「御免なさい門番長。これから私は咲夜さんに付いて行きます(ぽっ)」
門番長、威厳無し。
「・・・・・・咲夜、咲夜、咲夜。どいつもこいつも咲夜!何故、何故咲夜さんを認めて、この私を認めないの!?」
「そういう門番長は、何故其処まで十六夜メイド長を憎むのです?」
「さ、咲夜さんは、咲夜さんは私を牢獄にぶち込むのが好きなのよ!」
「そんな事ある訳無いじゃないですか~」
「嘘だッ!」
「・・・・・・そんなんだから、部下に慕われないんですよ」
『グサッ』
クリティカルヒット。
今の一言は効いた。そして嫌な記憶が蘇る。
『門番長、頑張っているのは分かるんですけど・・・・・・』
『最近八つ当たりが酷いわね』
『昔はとっても優しかったんです・・・・・・』
『あーあ、早く異動にならないかなぁ』
「うわらば!」
美鈴は目に見えないダメージを受け、膝をついた。
『あら、秘孔でも突かれた?』
『うううううううううう・・・・・・』
「「「お覚悟を」」」
メイド兵トリオに慈悲は無い。
膝をついたままの美鈴を、そのまま取り押さえようとする。
「・・・・・・フハハハハハ!」
「「「!?」」」
「捕まって堪りますか!」
門番長、逃亡。
奇声に一瞬たじろいだメイド兵トリオは、反応が遅れた。
「「「逃がすか!」」」
逃げ足にだけは定評の有る美鈴は、メイド兵トリオをあっという間に引き離す。
「どんなもんですか!」
『逃げ足の速い門番もどうかと思うわー』
何か聞こえるが美鈴はお構い無し。
直線を駆け抜け、突き当たりを曲がり、そのまま階段を駆け上がろうとした矢先──────
目の前の空間が歪んだ。
「!?」
・・・・・・そして気付けば、美鈴の目の前には何も無い壁が立ちはだかっていた。
空間弄りの好きな咲夜のトラップである。
「う、嘘でしょー!?」
罠に嵌った美鈴は後ろを振り返る。
・・・・・・其処にはナイフを構えたメイド兵トリオが、笑いながら待ち構えていた。
「はぁー、危ない所でした」
「其処はなんと行き止まりなのでーす」
「メイド長から託された、トラップ型スペルカードが役に立ちました」
美鈴は構える。
部下にまで怪我をさせたくないが、こうなってしまっては仕方が無い。
「さ、大人しくお縄に付いて下さい」
「手荒な真似はしたくありません」
「縛りプレイも悪くはありませんよ」
「・・・・・・わ、私は捕まらないわ!」
美鈴は背中を壁に当て、唇を噛む。
──────そして両者は激突した。
◇
「・・・・・・」
美鈴は、再び牢獄へと投げ込まれた。
メイド兵トリオは思いの他手強く、咲夜さん仕込みのナイフ捌きは凄まじい物だった。
善戦する美鈴は、最後の詰めを誤り、取り押さえられた。
「・・・・・・馬鹿だなぁ、私」
・・・・・・脇腹を骨折した子悪魔は、パチュリーに手当てを受けているらしい。
そして脱走の事実を知ったメイド長・咲夜は、美鈴に今後の処遇について言い渡しに来るとの事だ。
美鈴の覚悟は既に決まっていた。
『コンコン』
その時入り口の扉がノックされた。
遂に、紅魔館の閻魔大王の御出ましだ。
「・・・・・・美鈴」
「咲夜さん・・・・・・」
十六夜咲夜の表情は、一見普段と変わらぬ様子であった。
しかし、爆発しそうな感情を押し殺しているのは見て取れた。
「美鈴、無駄話をするつもりは無いから良く聞きなさい」
「はい」
「美鈴、貴方は・・・・・・貴方はクビよ」
「・・・・・・はい」
「脱走だけならば兎も角、子悪魔に大怪我を負わせ、愛すべき部下達に手を掛けた罪は余りにも重い」
「・・・・・・・・・・・・はい」
「話はそれだけよ。もうすぐここから出られるから、それまで大人しくしてなさい」
「・・・・・・咲夜さん」
「何かしら?」
「何故、怒らないのですか」
「・・・・・・答える義務は無いわ。貴方は既に紅魔館の住人ではない」
咲夜は質問に答えるのが辛いのか、急ぎ足で牢獄を去った。
そして一人になった美鈴は
「う・・・・・・」
遂に耐え切れなくなり・・・・・・
「う、うう・・・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
再び滝の様な涙を流すのであった。
>続く?
*おまけ天国*
「・・・・・・紫様」
「な、なぁ~に、藍?」
「今回のは、幾ら何でもやり過ぎです」
「ゆ、ゆかりん何の事だかさっぱり分からないな・・・・・・へぶし!?」
「もう少し大人しくしとれオバサン!」
「誰がオバサンよ!!」
「うわあぁぁん!」
「侵入者を許すこと数千回!貴様にはほとほと呆れ果てたわ!」
「御免なさい御免なさい御免なさい~!」
「光も無いッ!希望も無いッ!自由など勿論無いッ!貴様には門番より牢獄が相応しい!」
「そ、それだけは勘弁して下さい~!」
「希望無き部屋で眠れ!」
『がしゃーん』
そして扉は閉じられた。
◇
「ううう・・・・・・」
・・・・・・今日も侵入者を許してしまった。
奴は、私の繰り出すスペルカードをことごとくかわし、遂にはボムの一発すら使うことは無かった。
いえ、ですが善戦・・・・・・善戦したんです!
大体ここにやって来る客は、揃いも揃って選りすぐった奴ばかり!
お嬢様の手にも負えない相手を、私如きがどうしろと!?←禁句
・・・・・・も、もしかして、私が初めから勝てない設定になってるとか?
「うー、やだやだやだー!」
私はしくしくと大量の涙を流しながら、体育座りのまま天を仰いだ。
うわぁ、何か天井に大量の血がへばり付いてるよ・・・・・・。
「私、遂に処刑されるのかなぁ」
仏の顔も三度まで。
鬼と化したメイド長の顔が目に浮かぶ。
その手には大量のナイフが携えられており、悪魔の笑みを浮かべている。
「手足の腱をぶった切った後、舌を抜いて叫び声すら上げられなくするんだわ。そして爪を剥がし、全身の皮を引ん剥かれて・・・・・・」
最後には廃人と化した自分の姿が目に浮かんだ。
「いやー!」
まあ流石の咲夜さんも其処まではやらないだろうけども、身の危険が迫って事だけは確かだ。
・・・・・・こうなれば方法はただ一つ!
「脱走してやるんだから!」
脱走の方が余程罪が重いという事に、美鈴はこの時点で気付かなかったらしい。
◇
『美鈴に食事を届けてあげて』
咲夜さんの命により、何故か私子悪魔が美鈴さんの食事当番を承っております。
先程まであれほどご立腹だった咲夜さんも、大分落ち着かれた様で一安心。
この食事も咲夜さんの手作りらしく気合が入ってます。
え、手作り?
これ、罪人に与えるには勿体無い気がするのですが・・・・・・。
「そうか、これが愛というものなのですね!」
よしオチが付いた。
と、こんな事してる間に地獄の三丁目、紅魔館が誇る大牢獄へと到着~。
「美鈴さんの事だから、殺されると思って脱獄してたりしてー」
『こんこん♪』
「美鈴サーン、オショクジオモチシタアルヨー」
中国仲間が来たと思って安心させる作戦。
うーん、我ながら名案だなあ。ワタシ、ヤサシイ!
「・・・・・・返事が無いなあ。失礼しますよー」
『がちゃ』
「オショクジアルネー、って居ないぃぃぃ!?」
美鈴さんが居るはずの牢獄は、もぬけの殻であった。
私は青ざめ、急いで辺りを見回す。
「まずいまずいまずい!一体何処に消えたんだあの中国!!」
この際名前などどうでも良い。
早く捕まえなければ私が咲夜さんに
『イケナイ子ね。お仕置きの時間よ・・・・・・☆』
てな按配でリンチされてしまいます!
私がそれを許すのはパチュリー様だけであって、あんなロリコンメイドに(以下放送禁止用語入りました)
「そんな事じゃなくてー!」
私は急いで鍵を取り出し、牢の中を調べた。
するとなんと奥の床が抜けているではないか!
「なんてこったい!急いで追わないと!!」
私は小さな体を活かし、穴の中へとダイブする。
「・・・・・・はぐっ!?」
・・・・・・子悪魔の小さな悲鳴が牢獄に響いたのは、その直後の事であった。
◇
美鈴は、もそもそと穴から這いずり出る。
「ミッション成功、と」
その穴には入って直の所に、更なる横穴が空いていた。
美鈴は其処に身を潜め、子悪魔が飛び込んでくるのを待ち構えていたのだ。無念なり子悪魔。
「ふふ、鍵は開いてるわね」
ニヤニヤと邪な笑みを浮かべる美鈴は、子悪魔が目覚めぬ内にこの忌々しい牢獄から脱出──────
しようとした矢先
「撃つと動くわよ!」
「はうっ!?」
美鈴は背後から鋭利な何かを突きつけられた。
「馬鹿な、気配を全く感じなかった!」といった表情をしている。
「さ、さささささ咲夜さん?」
「そう、私は咲夜よ・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・このやたら妖絶で、
色気のある声を出す奴と言ったら、
幻想郷広しと言えども一人しか居ないッ!
「・・・・・・何やってんだ隙間妖怪ーーーっ!」
美鈴の鋭い後方回し蹴りが炸裂。
しかしそれを奴は、持っていた傘で受け止めた。
「っ!?」
「あらあら、手荒いご挨拶ね」
「わ、私の蹴りをそんな傘で!?」
「オリハルコン製の特注よ。先端から色々出るわ。ほら」
『みょーん』
みょんな効果音と共に、先端から彼岸花が飛び出した。緑は大切に。
「・・・・・・私を馬鹿にするなーっ!」
「落ち着きなさいって中国」
「中国言うな!」
「あら、助けに来てあげたのにその態度?」
「何が助けに・・・・・・え?」
助けに来た。
この言葉を耳にした瞬間、美鈴の顔が緩んだ。
「あの、それってどういう?」
「簡単な話。この隙間に飛び込めば貴方は解放されるわ」
「・・・・・・」
間。
「・・・・・・怪しい、というか話が上手すぎるわ。大体侵入者である貴方が何故此処に居るのよ!」
そう、何を隠そう本日の侵入者は、目の前に居る八雲紫であった。
美鈴はこの紫の撃退に失敗したが為に、牢獄へぶち込まれる羽目になったのだ。
相手が悪かろうと、処罰に情け無用なのが門番隊の掟だったりする。
「・・・・・・だって」
「・・・・・・だって?」
「だって、門前でしくしく泣き崩れる清楚な乙女を見ても、誰一人声すら掛けてくれないのよ?そりゃ復讐の一つや二つしたくもなるわ」
「・・・・・・」
美鈴は『あんたみたいな年増、助けて良い事無いからよ』という本音が喉まで出かけた。
「・・・・・・まぁ良いわ。千歩譲って、貴方が復讐の為に此処へ訪れた事にしてあげる。で、何故私を助けようと?」
「・・・・・・哀れだから」
「ざけんなコノヤロウ」
今絶対素だった。
ものすっごい申し訳無さそうに紫は言った。
美鈴は「どいつもこいつも馬鹿にしやがってー!」といった表情で地団駄を踏んでいる。
「冗談はこれくらいにして、どうするの?私は結構本気で貴方を助けに来たんだけど」
「う・・・・・・」
言っておくと、美鈴は紫と特別親しい訳ではない。
精々時たま開かれる宴会の際、顔を合わせる程度である。
・・・・・・だが、この八雲紫という人物の危険性は十分理解しているつもりだ。
こんな噂も耳にする。
「・・・・・・曰く隙間妖怪。曰く神隠しの主犯。曰く足臭妖怪。曰く年増ようかイィーッ!?」
シ○ッカー。
ではなく、紫の傘より発射された鎮圧用ゴム弾(対スッパテンコー用)を喰らった美鈴の悲鳴である。
年増という言葉は、彼女のピュアでスウィ~トなハートを傷付けるらしい。お気を付け下さい。
「じゃあ、お呼びでないゆかりんは退散させて頂きま~す」
「ま、待ってくださひ紫様っ!」
悶絶しながらも、何とか紫を引き止めようとする美鈴。既に様付け。
美鈴にはこの光景がとても良く似合っていた。
◇
美鈴は気配を殺しつつ、紅魔館の迷路のような廊下を歩く。
『貴方の力に頼ったら、意味が無いんです!』
美鈴は紫の隙間作戦を却下した。
理由としては紫が信用ならないという事が大きい。が、それ以上に彼女のプライドがそれを許さなかった。
つまりがメイド長の鼻をへし折らんが為、自力で脱出しちゃる!という事なのだ。
して、問題の紫は隙間から優雅に観戦している。
何だかんだ言って美鈴は一人では寂しいらしい。
『わざわざ面倒な事をするのね』
『五月蝿い。これは私と咲夜さんの聖戦よ』
『それはどうかしらねぇ』
『・・・・・・?』
因みにこの会話は美鈴と紫以外には聞こえない。俗に言う念話だ。
脳となんちゃらの境界を弄ってどうとかこうとか・・・・・・何でも有りなのかこの隙間妖怪は。
「(・・・・・・うーん)」
紫はそんな美鈴の様子をしばし観察していたが、段々と暇になって来る。
そしてこう思うのだ。
「(何かイベントが欲しいわ)」
先程美鈴を痛めつけた事に関しては端からどうでも良いらしい。
紫は既に、自分の欲求を満たす事だけを考えていた。
「(・・・・・・よーし、じゃあここらでエンカウントー)」
紫は美鈴が丁度通りかかった扉を、隙間を使い気付かれない様ゆっくりと開く。
部屋の中には戦闘用メイド服に身を包んだ、一人の少女が佇んでいた。
「・・・・・・門番長?」
「!?」
『(ふふふふ)』
美鈴は扉が開かれた事に気付く筈も無く、怪しさ全開の脱走劇を発見されてしまった。
『み、見つかった・・・・・・』
『きゃー、美鈴ちゃん大ピンチよ!』
『五月蝿い!で、でもこの子は可愛い後輩よ。きっと話せば分かってくれる──────』
「者共出会えぇぇい!脱走兵発見だー!!」
「嘘でしょぉぉぉっ!?」
『・・・・・・ほんと、可愛い後輩だこと』
メイド兵Aの号令に反応したメイド兵BとCが、増援で駆けつけた。
そして美鈴はあっという間に囲まれてしまう。
「あ、貴方達正気!?本気で私を捕まえるつもりなの!?」
「勿論です」
「当たり前です」
「任務ですから」
仲が良いらしいメイド兵トリオは、一様に返事を返す。
「十六夜メイド長の名の下に、貴方を成敗致します」
「メイド長の顔に、泥を塗る輩は許しませんっ」
「御免なさい門番長。これから私は咲夜さんに付いて行きます(ぽっ)」
門番長、威厳無し。
「・・・・・・咲夜、咲夜、咲夜。どいつもこいつも咲夜!何故、何故咲夜さんを認めて、この私を認めないの!?」
「そういう門番長は、何故其処まで十六夜メイド長を憎むのです?」
「さ、咲夜さんは、咲夜さんは私を牢獄にぶち込むのが好きなのよ!」
「そんな事ある訳無いじゃないですか~」
「嘘だッ!」
「・・・・・・そんなんだから、部下に慕われないんですよ」
『グサッ』
クリティカルヒット。
今の一言は効いた。そして嫌な記憶が蘇る。
『門番長、頑張っているのは分かるんですけど・・・・・・』
『最近八つ当たりが酷いわね』
『昔はとっても優しかったんです・・・・・・』
『あーあ、早く異動にならないかなぁ』
「うわらば!」
美鈴は目に見えないダメージを受け、膝をついた。
『あら、秘孔でも突かれた?』
『うううううううううう・・・・・・』
「「「お覚悟を」」」
メイド兵トリオに慈悲は無い。
膝をついたままの美鈴を、そのまま取り押さえようとする。
「・・・・・・フハハハハハ!」
「「「!?」」」
「捕まって堪りますか!」
門番長、逃亡。
奇声に一瞬たじろいだメイド兵トリオは、反応が遅れた。
「「「逃がすか!」」」
逃げ足にだけは定評の有る美鈴は、メイド兵トリオをあっという間に引き離す。
「どんなもんですか!」
『逃げ足の速い門番もどうかと思うわー』
何か聞こえるが美鈴はお構い無し。
直線を駆け抜け、突き当たりを曲がり、そのまま階段を駆け上がろうとした矢先──────
目の前の空間が歪んだ。
「!?」
・・・・・・そして気付けば、美鈴の目の前には何も無い壁が立ちはだかっていた。
空間弄りの好きな咲夜のトラップである。
「う、嘘でしょー!?」
罠に嵌った美鈴は後ろを振り返る。
・・・・・・其処にはナイフを構えたメイド兵トリオが、笑いながら待ち構えていた。
「はぁー、危ない所でした」
「其処はなんと行き止まりなのでーす」
「メイド長から託された、トラップ型スペルカードが役に立ちました」
美鈴は構える。
部下にまで怪我をさせたくないが、こうなってしまっては仕方が無い。
「さ、大人しくお縄に付いて下さい」
「手荒な真似はしたくありません」
「縛りプレイも悪くはありませんよ」
「・・・・・・わ、私は捕まらないわ!」
美鈴は背中を壁に当て、唇を噛む。
──────そして両者は激突した。
◇
「・・・・・・」
美鈴は、再び牢獄へと投げ込まれた。
メイド兵トリオは思いの他手強く、咲夜さん仕込みのナイフ捌きは凄まじい物だった。
善戦する美鈴は、最後の詰めを誤り、取り押さえられた。
「・・・・・・馬鹿だなぁ、私」
・・・・・・脇腹を骨折した子悪魔は、パチュリーに手当てを受けているらしい。
そして脱走の事実を知ったメイド長・咲夜は、美鈴に今後の処遇について言い渡しに来るとの事だ。
美鈴の覚悟は既に決まっていた。
『コンコン』
その時入り口の扉がノックされた。
遂に、紅魔館の閻魔大王の御出ましだ。
「・・・・・・美鈴」
「咲夜さん・・・・・・」
十六夜咲夜の表情は、一見普段と変わらぬ様子であった。
しかし、爆発しそうな感情を押し殺しているのは見て取れた。
「美鈴、無駄話をするつもりは無いから良く聞きなさい」
「はい」
「美鈴、貴方は・・・・・・貴方はクビよ」
「・・・・・・はい」
「脱走だけならば兎も角、子悪魔に大怪我を負わせ、愛すべき部下達に手を掛けた罪は余りにも重い」
「・・・・・・・・・・・・はい」
「話はそれだけよ。もうすぐここから出られるから、それまで大人しくしてなさい」
「・・・・・・咲夜さん」
「何かしら?」
「何故、怒らないのですか」
「・・・・・・答える義務は無いわ。貴方は既に紅魔館の住人ではない」
咲夜は質問に答えるのが辛いのか、急ぎ足で牢獄を去った。
そして一人になった美鈴は
「う・・・・・・」
遂に耐え切れなくなり・・・・・・
「う、うう・・・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
再び滝の様な涙を流すのであった。
>続く?
*おまけ天国*
「・・・・・・紫様」
「な、なぁ~に、藍?」
「今回のは、幾ら何でもやり過ぎです」
「ゆ、ゆかりん何の事だかさっぱり分からないな・・・・・・へぶし!?」
「もう少し大人しくしとれオバサン!」
「誰がオバサンよ!!」