博麗神社では今日も宴会である。
ただでさえ賑やかな面々が大人数で一箇所に集まり飲み食いしているためまさに不夜城。昼も夜もあったものではなく参加者の大半が酔いつぶれたのは丑三つ時であった。
宴会会場である客間で酔いつぶれた面々が呑気に眠る中、忙しく後片付けに勤しむ二人がいた。博麗の巫女・博麗 霊夢と白玉楼庭師・魂魄 妖夢である。
いつもならここに咲夜と鈴仙が加わるのだが生憎咲夜は珍しく来ていた美鈴のアルコールハラスメントで撃沈、鈴仙も同じようにほんの少し、とてゐに騙され割らずに置いてあった焼酎を飲まされ撃沈していた。
てゐはともかく美鈴の次の日の安否が気がかりではあるがそれはまた別の話だ。
人数が人数なので二人だけでは食器を片付けるのも大仕事になり、加えて酔いつぶれている連中を放っておくわけにもいかず全員に布団をかけてやったりと二人は動きに動き回った。その様子はさながら彼女たちのいう「弾幕ごっこ」を思わせるものがあった。
洗い場では妖夢が次々と皿を洗い半霊がそれを飛ばすように置いていく、妖夢の洗うスピードもさることながら半霊も一枚も割ることなく妖夢にあわせて食器を置いていくのであった。
客間では霊夢が惰眠を貪っている集団を起こさない程度に引きずったり、卓を部屋の隅に移動させて寝る場所を確保したりと室内を掃除していた。寝ている連中は十分に騒いだらしく多少動かしたところでもぞもぞと動いたりもせずに呑気に眠りこけている。それを見て霊夢は溜息をつきながらも布団をかけてやるのだった。
結局二人がほろ酔いのまま全ての仕事を終え茶の間で茶を啜り一服したのは丑四つ、つまり三時半ごろであった。
「はぁ…疲れた。今日は咲夜と鈴仙が潰れたせいで仕事二倍だったわ…」
どこから取り出したのか最中をちゃぶ台の上におき霊夢がぼやくように言う。
「お疲れ様、いつも使わせてもらってすまないわね。」
ペコリと一礼して妖夢が差し出された湯のみの中の茶を啜った。
「そういう事を言うならたまにはあなた達のところも会場にしなさい。幽々子が来ると大きい食器皿が何枚あっても足りないんだからね。」
「はは…申し訳ないとしか言いようがないな、幽々子様は良く食べるから。」
「あれはよく食べるとかそういう領域じゃないと思うけどね…それにしても本当に惚けているのかそれとも脳ある鷹はなんとやら…って言葉のように惚けている振りをしているのか解らないけどあの傍若無人っぷりにあなたもよくついて行くわね。」
ぼやく霊夢の後ろの障子越しからはその傍若無人の幽々子の寝息が聞こえてくる。
「もう慣れっこだからしかたないじゃない。これでも一応先代妖忌から受け継いで何十年も白玉楼庭師をやらせていただいているのだから。」
「そっか、妖夢も一応幽霊なんだっけ。ねぇ、前前から聞きたかったんだけど昔の幽々子ってどんな感じだったの?やっぱり今みたいな感じ?」
「突然どうしたの?まぁ、幽々子様は昔からあんな感じだったと記憶しているけど…。」
「ふぅん、そうなんだ…ねぇせっかくだから幽々子と妖夢の会った頃の話を聞かせてくれない?宴会の場所賃として。」
納得したように頷いたと思ったら再び興味津々の顔つきで言い出す霊夢、この話の急な持ってきかたには妖夢も酔いが一瞬覚めるほど驚く。
「い、いきなり何を言い出すかと思えば…。そうだな、まぁ…場所代と思えばいいかな。ただ口外禁止だけは約束してもらわないと困る、私の大切な思い出なのだから。」
疲れているせいか、眠いせいなのか、きっと酔っているのが大きいのだろう、妖夢は霊夢が思っていたよりもあっさりと口を開いた。霊夢がこんな時にそんな思い出話を聞くのは別に深い意味もなく単なる暇つぶしである。暇つぶしに悪用も有益な利用もないので当然霊夢は
「ええ、口外しないことを誓うわ。」
と答えるだけであった。それを聞くと妖夢はすっかり信頼、満足したらしく一つ大きく頷き言葉を放ち始める。
「そうだな…あれはもう何十年も前の話…」
数十年前の白玉楼。そこは今と変わらない、桜が咲き誇り庭師により綺麗に揃えられた木々、幽雅というに相応しい場所だった。
そこに私が師である妖忌に初めて連れて来られたのは私がやっと字の読み書きができるようになった時だった。まだ剣を習い始め間もない頃で持っていたのも今の二本ではなく一本の竹刀だけだったかな。私はその前の日から師・妖忌に
「明日お前に会わせたい方がいる、その方にいずれお前も仕える事になるであろう。粗相のないようにするのだぞ。」
と言われていたので今から会う人物がどのような身分の者かは幼い私でもわかっていた。が、どんな人物かは聞かされていなかったため明日のことを聞かされた晩からずっと布団の中で考えていた。
「明日会う方というのはどんな人なんだろう、怖い人でなければいいけど…話しやすいお姉さんかお母さんみたいな人が…」
なんてことをな。
そんなことを考えていたこともあって白玉楼の階段を上るとき緊張というよりも不安で私は一杯だった。師は私の様子に気づいていたのか時折
「どうした?」
と聞いてくれるが、今から会う人が怖くないか心配です、とあの頃の私はなぜかいえなかった。今思い返すと師に怒られるのも怖かったかもしれないな。
そんな不安を抱えながら結局一番上まで登って目の前に広がる風景を見た時、私は不安を忘れるほどに息を飲んだ。
とにかく見たことも無いような桜の多さ、師が育てたであろう草木、綺麗に敷き詰められた庭石。完成された空間と言うべきか、静かな、広がる風景全体に幼かった私は言い表す言葉が浮かばず、ただ見惚れるだけであった。ふいに髪の上に師の手が乗る。師は私に何か言っていたがあの時の私はずっと空気を感じていた。そして自然と心が引き締まる感じがした、きっとこの先にいる方は怖いモノではなく仕えるに相応しい方。そう自然と思わせてくれたのだった。
「…もう満足しただろう。さぁ、いくぞ。」
師が私の背を軽く叩き歩き始めた。私は、はっと気づき師の背中を追いかけた。
しばらく歩いてやっと白玉楼の屋敷に着いた時、私は主となるべき人を見るのに不安も何も無かった。
「幽々子様、本日は昨日申し上げたとおり弟子の妖夢を連れてまいりました。」
師が閉じた障子に声をかける、光の加減か残念ながらその時人の影が見えなかった。もうここまで来ると恐怖心は好奇心に変わっていた。障子の奥から声が返ってきた。
「あ、はいはい。ちょっと待ってて妖忌。すぐ行くから~。」
私は声が聞こえてた時思い切りこけそうになった。幼い私が思い描いていた主人像と全く違っていたからだ。たぶんあの時の私はもっと大人が主人だと思っていたのだろうな…、それなのに聞こえてきた声は自分よりも少し年上か、それとも同じ年頃の声。驚くしかなく目を白黒させるという表現がぴったりだったと思う。驚いている私を尻目に障子がゆっくりと開き私はもう一度驚かされた。
そこに立っていたのは桜の木を連想させるような綺麗な着物を纏っている自分より少し年上の女の子。でもそれだけじゃなかった、私はもっと別の、女の子の存在感と言うべきものに見惚れていた。今まで見てきたモノとは一つ上というべきか、とにかく他とは違っていたのだ。…ああ、カリスマというやつなのかもしれないな。
「これが不肖の弟子、魂魄 妖夢です。さ、挨拶をしないか。」
ぼーっと見ている私の背中をゆっくり曲げて師が急かす。私は慌てて言葉を出した。
「あっ、す、すいません。えっと、お初にお目にかかります。え、えーと…妖忌の弟子こ、魂魄 妖夢と申しますっ」
拙い挨拶ながらうまく言えたと思い私はもう一度深深と頭を下げる。緊張をしてなかなか顔を上げれない私の耳に、くすくす…、と笑い声が聞こえた気がしてハっと頭を上げた。顔を上げた私の目には笑っている女の子の姿が見えた。無邪気な笑顔で女の子が口を開いた。
「はじめまして、私は西行寺 幽々子。一応この家の主人なの。よろしくね。」
とんとん、と縁側を歩いて女の子は私に微笑み手を差し出した。思わず私もその手を握る。ほんの少し冷たい手だったけどほんの少し温もりがあった…それはよく覚えている。
当時の幽々子様も私と同じく幼かった、亡霊に年齢もへったくれもないように思うかもしれないが亡霊の年齢とは言い換えれば精神年齢のようなものだな。私よりそれなりに年を重ねてるとはいえ幽々子様も所々幼い部分はあった。
そのため私と幽々子様は今のような関係ではなくもっと純粋に仲のいい友達同士のように毎日一緒に遊んでいた。時折悪戯や、やんちゃが過ぎて師に叱られることもあったがそれでも楽しかった。
そんなある日私と幽々子様は二人で白玉楼の外に遠出することにした、理由は無い。ただその日の「あそぶこと」がそれだったのだ。
最初に白玉楼の長い階段を下りて師と私の暮らす…最もこの頃は私も時折白玉楼に泊まったりしていたが…小さな小屋を通り過ぎて川に沿って歩き続けてみた。
お互いに外に出たことは殆どなく見るものすべてが新鮮だった。
「ねぇ、よーむ、この魚食べられるのかなぁ?」
「魚は食べられると思うけど…幽々子様さっきおにぎり食べたばっかり…」
ぴちゃぴちゃと音をたて川を横切っていく時幽々子様は魚ばかりに興味を持っていた気がする。
「よーむ、よーむ、どう思う?」
とんとん、と肩をたたく感覚、なぜだかぬるっとしている。振り返るとそこには魚の目があった。
「わぁっ、ゆ、幽々子様何持ってるの!?」
「魚だよ?」
「早く水に返してあげてよ、さ、魚が可哀想でしょう」
「あはは、妖夢おもしろい」
魚と目が合ったとたん私は数メートル、今までは出せなかった速さでその場から離れた。きっとその時の私の顔は驚きで表情が無茶苦茶な顔だったのだろう、幽々子様は私の顔を見て笑っていた。
魚を水に返してやり、私たちはまた歩を進める。
今度は森に着いた、日の光も少し遮られ薄暗かったが好奇心溢れた私たちには関係無かった。ただひたすら歩く。幽々子様はきのこに興味を示したりしていた。毒にしか見えなかった私は必死で止めて食べなかったが今思うと亡霊には毒は関係無かったかもしれない。
ずっと歩いていくと木いちごが生っていたので二人で採って食べることにした。少し高い位置にあったので私が竹刀で下げ、幽々子様がそれを採る、ということにしたがなかなか私が木いちごに届かない。
「ごっ、ごめんね、幽々子様。もうちょっとだからもう少し待って。」
「よーむ、大丈夫…?」
心配そうに幽々子様が背伸びして少し顔を赤くした私を見る。友達の役に立てないことは悔しいことだった。どうにも届かない。ぐっとつま先に力を入れて竹刀を引っ掛けようとしても届かない。諦めようにも諦められない私にとんとん、と幽々子様が肩を叩く。
「ねぇ、よーむ、竹刀貸して」
「え?う、うん…」
言われたままについ竹刀を渡してしまう。何をするのかと成り行きをボーっと見ていると幽々子様は私が先ほどやっていた行動をとりはじめた。つまり、竹刀を枝に引っ掛けようとしだした。その頃…今もそうだが幽々子様のほうが私より背は高く高いところに手を伸ばすには幽々子様のほうが都合が良かった。そのことに私はまったく気づかずや幽々子様が何がしたいのかわかったのは
「よーむ、早くとってー!」
と、私に声をかけてからだった。
急いで木いちごを摘み採り幽々子様に半分渡すが私はどうも食べる気が出なかった。散々頑張って出来なかったことをあっさりやられてしまったのだ、それになんだか迷惑をかけたような気がして申し訳なかった。木いちごを片手に持って突っ立っていると幽々子様は私に声をかけてくれた。
「よーむ、食べないの?」
私の沈んだ気持ちをまったく考えて無さそうな笑顔でこっちを見ている、
「ほら、おいしいから食べてみて。食べないなら私が食べちゃうよ?」
ぱっと私の手から取り上げいちごを私の口元に持ってきて、楽しそうにつんつん、といちごで私の口元を突付く。その様子がなんだかおかしくて思わず私は口を開けてしまった。そこを逃さず幽々子様はいちごを私の口に入れ、私も、思わずぱく、と口を閉じていちごを食べた。ほんの少しすっぱかったが少し甘くて幽々子様に
「私も食べるから返してっ」
といちごを取り返していた、今では考えられないな…。でももうその時には先ほどの沈んだ気分はすっかり忘れていた。
二人でいちごを食べて休憩をして再び歩を進める、すでに日は落ち始めていたが私たちは気にもしなかった。
もう日が山の向こうに落ちようとしていたときには私たちは竹林の真中にいた。
竹林は殺風景ではないのだが子供の私たちにはあまり変わらない風景がただ続いているだけであまり面白いものではなかった。それでも足を前に出せばまた新しいところにいける、そう思いずっと進みつづけた結果がそんな状況である。
気づいたら来た方向がわからない。前も後ろも右も左もすべて同じに見えてどうしようもなくなった。
「ねぇ、よーむ、どうしよう…」
「とりあえず、歩いてみよう。きっとそのうち…」
一度立ち止まったところでお互い顔を見ずにそんな会話をした。顔を見なかった理由はたぶん不安だったからだろう。顔を見合ってしまえば泣いてしまうかもしれないから。少なくとも私はそうだった。
道もわからないところを歩いて目的地にたどり着けることは早々無い。私たちにもそれは言えた。もう日が落ちて空には丸い月が昇るころになっても私たちは竹林をさまよっていた。幽々子様はわからなかったが私の足はもう棒になって少しでも立ち止まればずっと止まってしまいそうだった。
「なかなか帰れないね、よーむ…」
「うん、きっともうちょっとだと思うから…」
こんな会話ともいえない会話を何十回と繰り返して私たちはずっと歩き回った、が、次第にそんな言葉も出なくなってただ歩き回るだけになっていた。
「もう歩けないよ…幽々子様は飛んで帰って…私朝まで待つから。」
先に根を上げたのは私だった。歩く体力はとっくに無くなり、真っ暗闇の中でゆっくり気力もそがれてそのまま座りこんで呟いた。
「そんなことできないわ、もう少し頑張りましょう…でないと私も…」
聞いた事も無い弱気な声で幽々子様が言った。前も見たくなかった私には幽々子様の顔は見えなかったがだいたい予想はついた。泣きそうな声だった。
「それにまだあまりうまく飛べないから、帰ることも出来ないの。」
そう言うと幽々子様も座り込んでしまった。顔はお互いに見合わせなかった。不安でたまらないからこそ顔は見れない。見たら泣いてしまう。先にどちらかが泣いたら残ったほうも泣いてしまうことは感覚で解ったからみれなかったのだ。
少ししてから私は呟いた、
「ごめんね幽々子様…私はいつか幽々子様をお守りしないといけないのに…こんなとこで迷っちゃって…」
毎日鍛錬でさえも鍛錬とは思わずただ新しいことと思ってのんびりやっていた子供の私だったがその時は真剣にそう思っていた。あの頃の私にとって幽々子様を守らせてもらう、ということは今思い返せば人間で言うところの「将来の夢」のようなものだったのだろう。
その夢の始まりがあっけなく崩れようとしていたため出た言葉だった。もう泣く寸前で、涙を零すために鼻をぐすっとすすろうとしたところにぱん、と幽々子様の力の抜けた手が、私の頭に降ってきた。何がなんだかわからなくなった私に幽々子様は言ってくれた。
「何言ってるの、妖夢。今あなたは私の傍にいるでしょう、それで十分よ。」
初めて出会ったときの不思議な温度の手だった。亡霊だから冷たいのになぜかほんの少し温かく感じられた。
その手と言葉に不思議と勇気づけられ目を拭い再び立ち上がる、ふと幽々子様の方を見れば先ほどの言葉を言った方とは思えない疲れきってだらけた表情をしていた。どうも先ほどまで泣きそうになっていたのは私だけだったようだ。幽々子様の弱気な声は弱気になったと言うわけではなく単に疲れてはっきり言葉を出していないだけだったようだ。
そんな幽々子様に私は溜息一つつきながらも元気をもらうことができた。主となる人がこんな風なのに一人で弱気になって何が変わろうか。
「幽々子様、もう少し歩いてみよう。きっと出れるから。」
私は幽々子様の手を握り前を向く。と、そこで目の前の異変に気づいた。暗闇から黒い点がゆっくり私たちの前に迫ってきている。角が二本あることだけは確認できた、点の形から人型であるようだ。
目の前に迫っているものは私なんかよりずっと強大なものだというのはすぐにわかった。迫ってきているだけで大きなプレッシャーが私にかかってきていたのだ。だが私は退かず竹刀一本を私は前に出して構えた。あの時の私はなぜだが絶対的な自信が持てた。後ろに初めて「お守りする人」を感じることが出来たからだと思う。
いつでもかかって来い、迎え撃ってみせる──無謀な覚悟をして竹刀を構えると上方から突然声が聞こえた。
「幽々子様ー!妖夢ー!」
師の声だ、私は突然の声に気をとられ空を見上げたがすぐに正面に向き直った。が、もうその時には黒い点はいなくなっていた。
心配半分怒り半分と表現するのがぴったりな顔をした師が降りてきて幽々子様が
「妖忌~ごめんねぇ~。」
などとのんきな声をだして飛びついたのを見たとたん安心からか私はふっ、と力が抜けて倒れてしまった。
次に気づいた時は私は布団の中にいた、横には幽々子様が寝ていた。反対側には座ったまま寝ている師がいた。どうも私・・というか幽々子様が寝るまで待ったらそのまま自分も寝てしまったようである。
ぼうっとした頭で昨晩の事を思い出し手のひらを見てみる、力を込めて握りすぎたのかうっすらと竹刀の後がついていた。
「私、…幽々子様を守れたんだ。」
ポツリと一人で呟いていた、実際守ったかどうかはともかくその時私はそう思うことができた。
「…その後当然師から幽々子様と怒られたのわけなんだけど…って聞いているの?霊夢?」
長々と話をしとっくに空になった茶碗を片手に持ちながら霊夢を見る妖夢。いつのまにか霊夢は寝息を立てていた。
「…まったく、そっちから話して欲しいといったのに…。まぁ、いいか。久しぶりに昔のことを思い出した気がするし。」
一人で話しつづけすっかり目が冴えてしまったのか妖夢は眠たげな素振り一つせず立ち上がり霊夢に上着をかけてやる。そして酔いつぶれた連中の布団をかけなおしてやった。
ふと幽々子に目が止まる。幽々子の顔はあの時と変わらない、のんきな、だがどこか強烈な存在を感じさせるものである。それが妖夢だけにとってか全てのモノにとってかは妖夢にはわからなかったがそれでも妖夢にはこの、のんきな寝顔の妖怪が自分の守るため仕えている主と言うのだけはわかっている。それだけはあの時と変わっていないので十分だった。
「さて朝の鍛錬でもしようかなっ…」
昇ってくる朝日を見て楼観剣と白楼剣を手にとり白玉楼庭師、魂魄 妖夢は日課を始めるのであった。
ただでさえ賑やかな面々が大人数で一箇所に集まり飲み食いしているためまさに不夜城。昼も夜もあったものではなく参加者の大半が酔いつぶれたのは丑三つ時であった。
宴会会場である客間で酔いつぶれた面々が呑気に眠る中、忙しく後片付けに勤しむ二人がいた。博麗の巫女・博麗 霊夢と白玉楼庭師・魂魄 妖夢である。
いつもならここに咲夜と鈴仙が加わるのだが生憎咲夜は珍しく来ていた美鈴のアルコールハラスメントで撃沈、鈴仙も同じようにほんの少し、とてゐに騙され割らずに置いてあった焼酎を飲まされ撃沈していた。
てゐはともかく美鈴の次の日の安否が気がかりではあるがそれはまた別の話だ。
人数が人数なので二人だけでは食器を片付けるのも大仕事になり、加えて酔いつぶれている連中を放っておくわけにもいかず全員に布団をかけてやったりと二人は動きに動き回った。その様子はさながら彼女たちのいう「弾幕ごっこ」を思わせるものがあった。
洗い場では妖夢が次々と皿を洗い半霊がそれを飛ばすように置いていく、妖夢の洗うスピードもさることながら半霊も一枚も割ることなく妖夢にあわせて食器を置いていくのであった。
客間では霊夢が惰眠を貪っている集団を起こさない程度に引きずったり、卓を部屋の隅に移動させて寝る場所を確保したりと室内を掃除していた。寝ている連中は十分に騒いだらしく多少動かしたところでもぞもぞと動いたりもせずに呑気に眠りこけている。それを見て霊夢は溜息をつきながらも布団をかけてやるのだった。
結局二人がほろ酔いのまま全ての仕事を終え茶の間で茶を啜り一服したのは丑四つ、つまり三時半ごろであった。
「はぁ…疲れた。今日は咲夜と鈴仙が潰れたせいで仕事二倍だったわ…」
どこから取り出したのか最中をちゃぶ台の上におき霊夢がぼやくように言う。
「お疲れ様、いつも使わせてもらってすまないわね。」
ペコリと一礼して妖夢が差し出された湯のみの中の茶を啜った。
「そういう事を言うならたまにはあなた達のところも会場にしなさい。幽々子が来ると大きい食器皿が何枚あっても足りないんだからね。」
「はは…申し訳ないとしか言いようがないな、幽々子様は良く食べるから。」
「あれはよく食べるとかそういう領域じゃないと思うけどね…それにしても本当に惚けているのかそれとも脳ある鷹はなんとやら…って言葉のように惚けている振りをしているのか解らないけどあの傍若無人っぷりにあなたもよくついて行くわね。」
ぼやく霊夢の後ろの障子越しからはその傍若無人の幽々子の寝息が聞こえてくる。
「もう慣れっこだからしかたないじゃない。これでも一応先代妖忌から受け継いで何十年も白玉楼庭師をやらせていただいているのだから。」
「そっか、妖夢も一応幽霊なんだっけ。ねぇ、前前から聞きたかったんだけど昔の幽々子ってどんな感じだったの?やっぱり今みたいな感じ?」
「突然どうしたの?まぁ、幽々子様は昔からあんな感じだったと記憶しているけど…。」
「ふぅん、そうなんだ…ねぇせっかくだから幽々子と妖夢の会った頃の話を聞かせてくれない?宴会の場所賃として。」
納得したように頷いたと思ったら再び興味津々の顔つきで言い出す霊夢、この話の急な持ってきかたには妖夢も酔いが一瞬覚めるほど驚く。
「い、いきなり何を言い出すかと思えば…。そうだな、まぁ…場所代と思えばいいかな。ただ口外禁止だけは約束してもらわないと困る、私の大切な思い出なのだから。」
疲れているせいか、眠いせいなのか、きっと酔っているのが大きいのだろう、妖夢は霊夢が思っていたよりもあっさりと口を開いた。霊夢がこんな時にそんな思い出話を聞くのは別に深い意味もなく単なる暇つぶしである。暇つぶしに悪用も有益な利用もないので当然霊夢は
「ええ、口外しないことを誓うわ。」
と答えるだけであった。それを聞くと妖夢はすっかり信頼、満足したらしく一つ大きく頷き言葉を放ち始める。
「そうだな…あれはもう何十年も前の話…」
数十年前の白玉楼。そこは今と変わらない、桜が咲き誇り庭師により綺麗に揃えられた木々、幽雅というに相応しい場所だった。
そこに私が師である妖忌に初めて連れて来られたのは私がやっと字の読み書きができるようになった時だった。まだ剣を習い始め間もない頃で持っていたのも今の二本ではなく一本の竹刀だけだったかな。私はその前の日から師・妖忌に
「明日お前に会わせたい方がいる、その方にいずれお前も仕える事になるであろう。粗相のないようにするのだぞ。」
と言われていたので今から会う人物がどのような身分の者かは幼い私でもわかっていた。が、どんな人物かは聞かされていなかったため明日のことを聞かされた晩からずっと布団の中で考えていた。
「明日会う方というのはどんな人なんだろう、怖い人でなければいいけど…話しやすいお姉さんかお母さんみたいな人が…」
なんてことをな。
そんなことを考えていたこともあって白玉楼の階段を上るとき緊張というよりも不安で私は一杯だった。師は私の様子に気づいていたのか時折
「どうした?」
と聞いてくれるが、今から会う人が怖くないか心配です、とあの頃の私はなぜかいえなかった。今思い返すと師に怒られるのも怖かったかもしれないな。
そんな不安を抱えながら結局一番上まで登って目の前に広がる風景を見た時、私は不安を忘れるほどに息を飲んだ。
とにかく見たことも無いような桜の多さ、師が育てたであろう草木、綺麗に敷き詰められた庭石。完成された空間と言うべきか、静かな、広がる風景全体に幼かった私は言い表す言葉が浮かばず、ただ見惚れるだけであった。ふいに髪の上に師の手が乗る。師は私に何か言っていたがあの時の私はずっと空気を感じていた。そして自然と心が引き締まる感じがした、きっとこの先にいる方は怖いモノではなく仕えるに相応しい方。そう自然と思わせてくれたのだった。
「…もう満足しただろう。さぁ、いくぞ。」
師が私の背を軽く叩き歩き始めた。私は、はっと気づき師の背中を追いかけた。
しばらく歩いてやっと白玉楼の屋敷に着いた時、私は主となるべき人を見るのに不安も何も無かった。
「幽々子様、本日は昨日申し上げたとおり弟子の妖夢を連れてまいりました。」
師が閉じた障子に声をかける、光の加減か残念ながらその時人の影が見えなかった。もうここまで来ると恐怖心は好奇心に変わっていた。障子の奥から声が返ってきた。
「あ、はいはい。ちょっと待ってて妖忌。すぐ行くから~。」
私は声が聞こえてた時思い切りこけそうになった。幼い私が思い描いていた主人像と全く違っていたからだ。たぶんあの時の私はもっと大人が主人だと思っていたのだろうな…、それなのに聞こえてきた声は自分よりも少し年上か、それとも同じ年頃の声。驚くしかなく目を白黒させるという表現がぴったりだったと思う。驚いている私を尻目に障子がゆっくりと開き私はもう一度驚かされた。
そこに立っていたのは桜の木を連想させるような綺麗な着物を纏っている自分より少し年上の女の子。でもそれだけじゃなかった、私はもっと別の、女の子の存在感と言うべきものに見惚れていた。今まで見てきたモノとは一つ上というべきか、とにかく他とは違っていたのだ。…ああ、カリスマというやつなのかもしれないな。
「これが不肖の弟子、魂魄 妖夢です。さ、挨拶をしないか。」
ぼーっと見ている私の背中をゆっくり曲げて師が急かす。私は慌てて言葉を出した。
「あっ、す、すいません。えっと、お初にお目にかかります。え、えーと…妖忌の弟子こ、魂魄 妖夢と申しますっ」
拙い挨拶ながらうまく言えたと思い私はもう一度深深と頭を下げる。緊張をしてなかなか顔を上げれない私の耳に、くすくす…、と笑い声が聞こえた気がしてハっと頭を上げた。顔を上げた私の目には笑っている女の子の姿が見えた。無邪気な笑顔で女の子が口を開いた。
「はじめまして、私は西行寺 幽々子。一応この家の主人なの。よろしくね。」
とんとん、と縁側を歩いて女の子は私に微笑み手を差し出した。思わず私もその手を握る。ほんの少し冷たい手だったけどほんの少し温もりがあった…それはよく覚えている。
当時の幽々子様も私と同じく幼かった、亡霊に年齢もへったくれもないように思うかもしれないが亡霊の年齢とは言い換えれば精神年齢のようなものだな。私よりそれなりに年を重ねてるとはいえ幽々子様も所々幼い部分はあった。
そのため私と幽々子様は今のような関係ではなくもっと純粋に仲のいい友達同士のように毎日一緒に遊んでいた。時折悪戯や、やんちゃが過ぎて師に叱られることもあったがそれでも楽しかった。
そんなある日私と幽々子様は二人で白玉楼の外に遠出することにした、理由は無い。ただその日の「あそぶこと」がそれだったのだ。
最初に白玉楼の長い階段を下りて師と私の暮らす…最もこの頃は私も時折白玉楼に泊まったりしていたが…小さな小屋を通り過ぎて川に沿って歩き続けてみた。
お互いに外に出たことは殆どなく見るものすべてが新鮮だった。
「ねぇ、よーむ、この魚食べられるのかなぁ?」
「魚は食べられると思うけど…幽々子様さっきおにぎり食べたばっかり…」
ぴちゃぴちゃと音をたて川を横切っていく時幽々子様は魚ばかりに興味を持っていた気がする。
「よーむ、よーむ、どう思う?」
とんとん、と肩をたたく感覚、なぜだかぬるっとしている。振り返るとそこには魚の目があった。
「わぁっ、ゆ、幽々子様何持ってるの!?」
「魚だよ?」
「早く水に返してあげてよ、さ、魚が可哀想でしょう」
「あはは、妖夢おもしろい」
魚と目が合ったとたん私は数メートル、今までは出せなかった速さでその場から離れた。きっとその時の私の顔は驚きで表情が無茶苦茶な顔だったのだろう、幽々子様は私の顔を見て笑っていた。
魚を水に返してやり、私たちはまた歩を進める。
今度は森に着いた、日の光も少し遮られ薄暗かったが好奇心溢れた私たちには関係無かった。ただひたすら歩く。幽々子様はきのこに興味を示したりしていた。毒にしか見えなかった私は必死で止めて食べなかったが今思うと亡霊には毒は関係無かったかもしれない。
ずっと歩いていくと木いちごが生っていたので二人で採って食べることにした。少し高い位置にあったので私が竹刀で下げ、幽々子様がそれを採る、ということにしたがなかなか私が木いちごに届かない。
「ごっ、ごめんね、幽々子様。もうちょっとだからもう少し待って。」
「よーむ、大丈夫…?」
心配そうに幽々子様が背伸びして少し顔を赤くした私を見る。友達の役に立てないことは悔しいことだった。どうにも届かない。ぐっとつま先に力を入れて竹刀を引っ掛けようとしても届かない。諦めようにも諦められない私にとんとん、と幽々子様が肩を叩く。
「ねぇ、よーむ、竹刀貸して」
「え?う、うん…」
言われたままについ竹刀を渡してしまう。何をするのかと成り行きをボーっと見ていると幽々子様は私が先ほどやっていた行動をとりはじめた。つまり、竹刀を枝に引っ掛けようとしだした。その頃…今もそうだが幽々子様のほうが私より背は高く高いところに手を伸ばすには幽々子様のほうが都合が良かった。そのことに私はまったく気づかずや幽々子様が何がしたいのかわかったのは
「よーむ、早くとってー!」
と、私に声をかけてからだった。
急いで木いちごを摘み採り幽々子様に半分渡すが私はどうも食べる気が出なかった。散々頑張って出来なかったことをあっさりやられてしまったのだ、それになんだか迷惑をかけたような気がして申し訳なかった。木いちごを片手に持って突っ立っていると幽々子様は私に声をかけてくれた。
「よーむ、食べないの?」
私の沈んだ気持ちをまったく考えて無さそうな笑顔でこっちを見ている、
「ほら、おいしいから食べてみて。食べないなら私が食べちゃうよ?」
ぱっと私の手から取り上げいちごを私の口元に持ってきて、楽しそうにつんつん、といちごで私の口元を突付く。その様子がなんだかおかしくて思わず私は口を開けてしまった。そこを逃さず幽々子様はいちごを私の口に入れ、私も、思わずぱく、と口を閉じていちごを食べた。ほんの少しすっぱかったが少し甘くて幽々子様に
「私も食べるから返してっ」
といちごを取り返していた、今では考えられないな…。でももうその時には先ほどの沈んだ気分はすっかり忘れていた。
二人でいちごを食べて休憩をして再び歩を進める、すでに日は落ち始めていたが私たちは気にもしなかった。
もう日が山の向こうに落ちようとしていたときには私たちは竹林の真中にいた。
竹林は殺風景ではないのだが子供の私たちにはあまり変わらない風景がただ続いているだけであまり面白いものではなかった。それでも足を前に出せばまた新しいところにいける、そう思いずっと進みつづけた結果がそんな状況である。
気づいたら来た方向がわからない。前も後ろも右も左もすべて同じに見えてどうしようもなくなった。
「ねぇ、よーむ、どうしよう…」
「とりあえず、歩いてみよう。きっとそのうち…」
一度立ち止まったところでお互い顔を見ずにそんな会話をした。顔を見なかった理由はたぶん不安だったからだろう。顔を見合ってしまえば泣いてしまうかもしれないから。少なくとも私はそうだった。
道もわからないところを歩いて目的地にたどり着けることは早々無い。私たちにもそれは言えた。もう日が落ちて空には丸い月が昇るころになっても私たちは竹林をさまよっていた。幽々子様はわからなかったが私の足はもう棒になって少しでも立ち止まればずっと止まってしまいそうだった。
「なかなか帰れないね、よーむ…」
「うん、きっともうちょっとだと思うから…」
こんな会話ともいえない会話を何十回と繰り返して私たちはずっと歩き回った、が、次第にそんな言葉も出なくなってただ歩き回るだけになっていた。
「もう歩けないよ…幽々子様は飛んで帰って…私朝まで待つから。」
先に根を上げたのは私だった。歩く体力はとっくに無くなり、真っ暗闇の中でゆっくり気力もそがれてそのまま座りこんで呟いた。
「そんなことできないわ、もう少し頑張りましょう…でないと私も…」
聞いた事も無い弱気な声で幽々子様が言った。前も見たくなかった私には幽々子様の顔は見えなかったがだいたい予想はついた。泣きそうな声だった。
「それにまだあまりうまく飛べないから、帰ることも出来ないの。」
そう言うと幽々子様も座り込んでしまった。顔はお互いに見合わせなかった。不安でたまらないからこそ顔は見れない。見たら泣いてしまう。先にどちらかが泣いたら残ったほうも泣いてしまうことは感覚で解ったからみれなかったのだ。
少ししてから私は呟いた、
「ごめんね幽々子様…私はいつか幽々子様をお守りしないといけないのに…こんなとこで迷っちゃって…」
毎日鍛錬でさえも鍛錬とは思わずただ新しいことと思ってのんびりやっていた子供の私だったがその時は真剣にそう思っていた。あの頃の私にとって幽々子様を守らせてもらう、ということは今思い返せば人間で言うところの「将来の夢」のようなものだったのだろう。
その夢の始まりがあっけなく崩れようとしていたため出た言葉だった。もう泣く寸前で、涙を零すために鼻をぐすっとすすろうとしたところにぱん、と幽々子様の力の抜けた手が、私の頭に降ってきた。何がなんだかわからなくなった私に幽々子様は言ってくれた。
「何言ってるの、妖夢。今あなたは私の傍にいるでしょう、それで十分よ。」
初めて出会ったときの不思議な温度の手だった。亡霊だから冷たいのになぜかほんの少し温かく感じられた。
その手と言葉に不思議と勇気づけられ目を拭い再び立ち上がる、ふと幽々子様の方を見れば先ほどの言葉を言った方とは思えない疲れきってだらけた表情をしていた。どうも先ほどまで泣きそうになっていたのは私だけだったようだ。幽々子様の弱気な声は弱気になったと言うわけではなく単に疲れてはっきり言葉を出していないだけだったようだ。
そんな幽々子様に私は溜息一つつきながらも元気をもらうことができた。主となる人がこんな風なのに一人で弱気になって何が変わろうか。
「幽々子様、もう少し歩いてみよう。きっと出れるから。」
私は幽々子様の手を握り前を向く。と、そこで目の前の異変に気づいた。暗闇から黒い点がゆっくり私たちの前に迫ってきている。角が二本あることだけは確認できた、点の形から人型であるようだ。
目の前に迫っているものは私なんかよりずっと強大なものだというのはすぐにわかった。迫ってきているだけで大きなプレッシャーが私にかかってきていたのだ。だが私は退かず竹刀一本を私は前に出して構えた。あの時の私はなぜだが絶対的な自信が持てた。後ろに初めて「お守りする人」を感じることが出来たからだと思う。
いつでもかかって来い、迎え撃ってみせる──無謀な覚悟をして竹刀を構えると上方から突然声が聞こえた。
「幽々子様ー!妖夢ー!」
師の声だ、私は突然の声に気をとられ空を見上げたがすぐに正面に向き直った。が、もうその時には黒い点はいなくなっていた。
心配半分怒り半分と表現するのがぴったりな顔をした師が降りてきて幽々子様が
「妖忌~ごめんねぇ~。」
などとのんきな声をだして飛びついたのを見たとたん安心からか私はふっ、と力が抜けて倒れてしまった。
次に気づいた時は私は布団の中にいた、横には幽々子様が寝ていた。反対側には座ったまま寝ている師がいた。どうも私・・というか幽々子様が寝るまで待ったらそのまま自分も寝てしまったようである。
ぼうっとした頭で昨晩の事を思い出し手のひらを見てみる、力を込めて握りすぎたのかうっすらと竹刀の後がついていた。
「私、…幽々子様を守れたんだ。」
ポツリと一人で呟いていた、実際守ったかどうかはともかくその時私はそう思うことができた。
「…その後当然師から幽々子様と怒られたのわけなんだけど…って聞いているの?霊夢?」
長々と話をしとっくに空になった茶碗を片手に持ちながら霊夢を見る妖夢。いつのまにか霊夢は寝息を立てていた。
「…まったく、そっちから話して欲しいといったのに…。まぁ、いいか。久しぶりに昔のことを思い出した気がするし。」
一人で話しつづけすっかり目が冴えてしまったのか妖夢は眠たげな素振り一つせず立ち上がり霊夢に上着をかけてやる。そして酔いつぶれた連中の布団をかけなおしてやった。
ふと幽々子に目が止まる。幽々子の顔はあの時と変わらない、のんきな、だがどこか強烈な存在を感じさせるものである。それが妖夢だけにとってか全てのモノにとってかは妖夢にはわからなかったがそれでも妖夢にはこの、のんきな寝顔の妖怪が自分の守るため仕えている主と言うのだけはわかっている。それだけはあの時と変わっていないので十分だった。
「さて朝の鍛錬でもしようかなっ…」
昇ってくる朝日を見て楼観剣と白楼剣を手にとり白玉楼庭師、魂魄 妖夢は日課を始めるのであった。
>私は慌てて言葉を出し亜t。
悩ある鷹はなんとやら…
私は慌てて言葉を出し亜t。
妖忌が来るのがもう少し遅かったら、ゆゆようむはその幼い心と尻に大きな傷を負っていたことでしょう。
ただ身の上話にしては臨場感がある描写がいくつかあったので違和感が拭えませんでした。
それでも温かく締めくくれる氏の筆力はすごいです。
あとこれは誤字でしょうか?
>き目の前に迫っているものは
手間をかけさせてしまい申し訳ありません、今後は推敲にもう少し気を使うようにします。
>幼い頃のゆゆ妖夢もいいものですね、頬が緩みました
この話を書くに当たって二人の幼さが出ているか不安でしたがそう言って頂けると幸いです
>妖忌が来るのがもう少し遅かったら、ゆゆようむはその幼い心と尻に大きな傷を負っていたことでしょう
黒い点については「ご想像にお任せ~」のつもりで投げてみましたが零宮のなかではそれのことです。
>なかなか雰囲気のあるお話。こっちがとろけてしまいそう。
ただ身の上話にしては臨場感がある描写がいくつかあったので違和感が拭えませんでした。
それでも温かく締めくくれる氏の筆力はすごいです。
褒めていただいてありがとうございます、臨場感については一人称の文章で一番悩んだ点でした。三人称よりは感情を書ける分もう少し素の言葉で表せれば、と思います。精進させていただきます。