月の騒動から、どれくらい経ったのか。
元々時間の感覚など薄れて擦れきって無くなってしまっていると自負する私には、そう考えることに大した意味は無かった。
ただ、あまり歓迎しない事態ではあったにせよ、あれは久し振りに退屈が紛れた時間だったことに変わりはない、とも思う。
そんな益体もないことを考えていると、静かに部屋の襖が開いた。
永琳だ。
「こちらにおいででしたか。」
「ええ、どうかした?」
「ウドンゲに締め出されてしまいまして。」
「また着せ替え人形にでもして拗ねられでもした?」
「この前本気で泣かれそうになりまして、当分自粛です。」
「二度とやらない、とは言わないのね。」
「私の生き甲斐ですから。」
そう言って永琳は笑った。
私も笑う。
生き甲斐だという言葉は、決して冗談ではないのだろう。
永琳は自分を弟子だと慕うあのイナバを、あらゆる意味で可愛がっている。
可愛がられるイナバにとっては、泣かされたりもしているので複雑だろう。
しかしこの目の前にいる従者にとっては、それも喜びの内なのだから性質が悪い。
「それと比べると、私の生き甲斐は寂しいわねぇ。」
「アレを生き甲斐と言うのですか?」
そう言って、永琳はまた笑う。
どうやら今日は妙に機嫌がいいらしい。
私も笑顔のまま永琳に答えを返す。
私にとっては笑顔が普通であり、別に機嫌が良いわけではないが。
「アイツにとっては紛れもなく生き甲斐でしょうけど、私にとってはどうかしらね。」
「精々退屈凌ぎ、と言ったところですか?」
「その言い方だと少し酷いような気がするけれど―――。」
そう言って、私はしばし黙る。
しかし決して、否定はしなかった。
「ところで、最初の質問に答えてないわね。結局どうして締め出されたの?」
「正確なところは、分かりませんね。師匠はちょっと姫の部屋で待っていてください、とだけ。」
「想像はつくんでしょう?」
「何かのお祝い、宴会の準備というのは想像がつくのですが。祝う理由に心当たりが全く。」
「新しい因幡でも生まれたんじゃないかしら。」
「それこそ、私が呼ばれていますよ。」
「それもそうねぇ。」
とはいえ、ここでの祝い事といえばそれくらいしかないのだけれど。
私は暫くその理由を考えていたが、永琳がその思考を遮った。
「まあでも。」
「なに?」
「わからない、というのもそれはそれで楽しみではないですか?」
「…あの騒動以来、少し変わったわね貴方。」
「私が変わったというよりは、環境のせいでしょう。」
「環境?」
「もう、ここに居ることに何の問題もありませんからね。」
「………。」
そういって、永琳は笑う。
ああ、そうか。
機嫌がいいのは、あの騒動が終わって以来、ずっとだ。
他の誰でもない、月から来たあのイナバが連れ戻されることを一番恐れていたのは―――。
「師匠ー。姫ー。もういいですよー。」
その素直な言葉を、あのイナバに言ってあげればいいのに。
そう言おうとした私の言葉は、突然襖を開いた主の声によって音にはならなかった。
「ああ、来たわねウドンゲ。それで今日は一体何のお祝いなのかしら?」
永琳が笑顔から普通の表情へ戻る。
先程まで笑顔だった永琳を知っている私としては、声を出して笑いたいところだ。
しかしそんな永琳の笑顔の元は、尋ねられた途端慌てたような表情になった。
「え、あー、お祝いだってこと、バレてました?」
「それくらいはね。でも何のお祝いなのかはさっぱりよ。」
「あー、それはですね…。」
そして。
私は次に聞いた言葉で、ここ数百年は間違いなくなかった驚きを隠すのに必死だった。
―――――師匠と姫の、誕生日祝いなんですけど―――――
はじめは、聞いた言葉が頭から頭を通り抜け。
次に、言葉の意味を頭の中で探り出し。
最後に、思わず尋ねてしまった。
「何を、馬鹿なことを言っているの?」
「ウドンゲ、一体どうしたの?」
どうやら隣の従者も考えていることは同じだったようで。
意味は同じでも出てくる言葉が呆れと心配なのは、性格の差が良く出ていると思う。
しかし、目の前のイナバは質問には答えず、経緯を説明し始めた。
「発案者は私で、てゐに言って皆に協力してもらったんです。」
「ウドンゲ、そんなことは聞いていないわ。」
永琳が鋭い眼でイナバを睨みつける。
私といえばまだ驚きが抜けず、何とか表面上平静を保っている。
おそらくいつもの笑顔のままではないだろう。それくらいしかわからなかった。
イナバはその永琳の視線にかなり怯みつつも、言葉を紡ぎだした。
「それで、師匠に姫と師匠の生まれた日を尋ねたはいいのですが、お二人とも覚えてないなんて言って下さったもので私とてゐはいきなり困りました。」
「……。」
永琳は視線はそのまま、何も言おうとはしない。
側にいる私ですら少し怖いと思うのだから、イナバの内心は震えっぱなしだろう。
というか膝が震えている。
私はとりあえず、最後まで言い終わるのを待つことにする。
「なので、誠に勝手ながらお二人の誕生日を勝手に今日に決めさせていただきました!」
「はぁ……。」
ここで永琳は溜息、眼だけで人が殺せそうな視線は下を向いた。
イナバの方もどうやら言いたいことは終わったようなのでここからは私が永琳の後を継ぐ。
いつもの笑顔も、なんとか戻ってきて幾分か心も落ち着いた。
「言いたいことはそれで終わりかしら?」
「えっと、まだ最後に一つだけ…。」
「構わないわ、全て言ってしまいなさいな。」
私がそういうと、イナバはすぅーっと大きく深呼吸をした。
そして、心なしか先程よりも大きな声でこう叫んだ。
「…もし、もし、よろしければ毎年この日に師匠と姫のお祝いをさせていただけないでしょうか!!」
そう言い切った所で、力が抜けたのかへなへなとその場に座り込むイナバ。
さっきは動揺しすぎて気付かなかったが、その後ろの襖から無数の目が、一部始終を見守っている。
この気弱なイナバは、私達の説得役に無理矢理担ぎ上げられたのだろう。
そして、お願いされた私達――永琳は何を考えているのかさっきから下を向いたまま。
そして、私はここ数百年無かった程に頭の中で悩んでいた。
心中としては、何を馬鹿なことを。
まさに、その一言に尽きる。
このイナバが相当怖がって言いに来ている事から、分かっているのだろう。
それは私達にとっては何も嬉しいことではなく、下手すれば迷惑だと言われてしまうことを。
誕生日。そんなものが自分達に関わりの無い言葉になってから、もう何百年、いや千年は経っているのだろうか。
と、思考はそこで止めた。
目の前のイナバに真意を聞いてみればいい。
「貴方―いえ、貴方達、私達にとってそれが意味の無いものだということはわかっているのかしら?」
「………え、えっと…。」
「別に怒りはしないわ。ただ聞いてみたいだけよ。」
「………意味が無い、なんてことはないと思います。」
「へえ?」
弱々しく。しかし、それはちゃんと私の耳に届いた。
そしてそれを聞いて、私は永琳を制した。
「永琳、貴方もそんな目で睨まない。イナバが正直に言えないじゃない。」
「……ええ、そうですね。」
言葉には従うが、それは今にも自分の弟子に対して言いたい事が山ほどあるという顔だった。
私はそれを意図的に無視して、イナバに続きを促す。
「で、ほら。続き続き。」
「……誕生日というのは、別に生まれた日が大切なんじゃなくて。」
「……。」
「……。」
今度は、私たちも口を挟まない。
「それは、多分、生まれて来てくれたこと自体を喜んでくれる皆がいるという事が大切で!
だから、師匠と姫が生まれてきたことを喜ぶ皆がいれば、誕生日を祝ったっていいと思うんです!!」
「……。」
「……。」
「何より、師匠も姫も新しい兎が生まれた時に一緒に祝ってくれるじゃないですか!!」
「……。」
「……。」
口は挟まない。
いや、挟めない。
そんなことを言われてしまっては、何もできない。
「勿論、師匠と姫にとっては嬉しいことじゃないかもしれないです!
だから、これは一方的な親切の押し売りで、お二人にとっては迷惑かもしれませんが!」
「イナバ、もういいわ。」
「――――――。」
元々赤い目から、涙が零れているのを見て、私はイナバを止めた。
何も泣くことはなかろうにと思いつつも、そんなことを口に出しはしない。
見ると永琳は何とも言えない表情で、イナバを見つめていた。
さっきまでの刺すような視線は、どこにもない。
私はそんな永琳に、いつものように声を掛けた。
「…永琳、どうする?」
「…私は姫に従います。部下からの主への申し出ですから、決定権は姫にあります。」
「物凄く嫌な言い方するわねぇ。それにこれは『家族から私達二人への申し出』よ。無関係を装うつもり?」
「……。」
「それに、私が聞いてるのはそんなことじゃないわ。」
「……?」
――――――今日は何歳の誕生日にしましょうか、と聞いてるのよ―――――――
それを聞いた途端、後ろで見ていた無数の目は歓声に変わり。
イナバは泣いていた顔を上げてこちらを見て。
尋ねられた従者は――――。
「ぷっ…。くくく…。」
肩を震わせて、笑いを堪えていた。
私自身が既に声を出して笑っているのは、おそらく気のせいだ。
私はいつも笑顔なのだから。
「…それは難しい問題ですね。私達もまだまだ若いですし、外見だけなら二十歳から二十五歳あたりでも通用しますから。」
「ええっ!?そ、そんなに誤魔化すんですか師匠!?」
「へえ。ならウドンゲ、私の年齢は貴方に決めてもらおうかしら?」
「ひっ!!!」
正直なイナバはあっさり地雷を踏んでしまう。
…まったく、素直で可愛いことこの上ない。
永琳から奪ってあげようかしら。
いえ、そんな事をしたら明日から出てくるお茶は毒の有無を確認しなければいけないわね。
「さあ、ウドンゲ。何歳でもいいわ、私は貴方の言う年齢から生まれかわるのよ。」
「え、えっと…。し、師匠なら見た目お若いですから全然十代でも――。」
「なるほど、若いのは見た目だけなのね?」
「あ、ああだから――――!!!」
どうやら永琳は生き甲斐の弟子泣かせに入ったらしい。
まあ、あれはあれで放っておこう、邪魔すると馬どころか象に踏まれそうだ。
あとイナバ、流石に十代は無理があると思うわ。
さて、私の年齢は誰に決めてもらおうか。
決めてもらえそうな人間に一人心当たりがあるのだが、とんでもない年齢にされてしまうような気がするのであまり気乗りはしない。
何より、そんな事を尋ねたら逆上されて火の鳥に焼かれそうだ。
「まあ、幾つでもいいのだけれどね…。」
イナバの言葉を借りるなら、年齢自体にも意味は無いのだろう。
生まれたことを祝ってくれる人が居るのなら、そんなことは考えなくていい。
誰だって、本当に自分が生まれた時など分かりはしない。
ただ、祝ってくれる人の言葉を信じればいいのだから。
私と永琳の誕生日は今日だ。
生憎時を気にするような生活ではないので、今日が何日なのか知りはしないけれど。
気にしなくていい、また来年になれば祝いの宴が始まるのだから。
「さあウドンゲ、早く決めてくれないと祝えないでしょう?」
「し、師匠分かってて楽しんでませんか!?」
私は、未だじゃれ合っている師弟を無視して、宴の準備が出来ているであろう襖を開けた。
そこからは、中々に楽しい時間だった。
イナバ達の隠し芸。
いつもより豪華な料理。
永琳の生き甲斐イナバと長生きイナバの唄。
大量のお酒。
誕生日の贈り物であろう大量の人参。
酔い潰れる永琳。
特に最後の酔い潰れる永琳などは、長い付き合いの中でもしかしたら初めてではないかと思う程の珍しい出来事だった。
結局、主役の一人が酔い潰れたところで宴はお開きになり、散り散りに解散していった。
私はというと、永琳程でなくともかなり酔っていたので、実はまともに歩ける自信がない。
介抱役の永琳は酔い潰れてイナバに連れられて部屋に戻ってしまったし。
そんなわけで、酔いが醒めるまでここで休んでいようと思い、今に至る。
あと、この贈り物の大量の人参、どうしよう。
そんな事を考えていると、誰も居なくなった宴の場にイナバがやってきた。
今日という日を楽しませてくれた、永琳の生き甲斐イナバだ。
「あれ、まだお部屋に戻ってなかったんですか、姫。」
「なんとなくね。そっちこそどうしたの?」
「いえ、後片付けをしようかなと。」
「…そんなの明日でいいわ、折角だしこっちにいらっしゃい。」
「え…?」
私がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。
驚いた顔をしてこっちを見つめていたが、やがて笑顔になり―――。
「…では、お言葉に甘えます。」
「まだいくらかお酒も残ってることだし、付き合いなさい。」
宴の第二幕が、思いもよらぬ所で始まった。
「あ、そうだ。」
「……?」
イナバは私の隣に来ると、なにやら自分の懐を漁りだした。
それを見て、私は苦笑しながら呟く。
「贈り物は嬉しいのだけれど、もうこれ以上人参は…。」
「いえいえ、渡そうと思ってたんですけど師匠が酔い潰れちゃったんで。
これ、私とてゐからです。」
「あら。」
それは人参ではなく、綺麗な櫛だった。
「何を渡そうかと思って悩んだんですけど、中々思いつかなくて。」
「永琳には何を?」
「枕元に同じ櫛を置いてきました。色違いですけど。」
「そう、ありがとう鈴仙。」
「…………え?」
「大切にするわ。」
「あ、はい!え、えっとそれはとっても嬉しいんですけど姫、今何て言いました?」
「大切にするわ。」
「いえ、その前その前!!」
「さあ?忘れたわね。」
「わ、忘れた訳無いじゃないですか!」
「ねえイナバ。」
「あう、イナバに戻った…。」
顔と一緒に耳まで下がるのが少し面白かった。
その落ち込んだイナバに、私はこう言った。
「家族の名前を覚えていないような主は主失格だと思わない?」
「…………え?」
「さあ、貴方も飲みなさい。」
「いやだったら普段から名前で呼んでくださいよ!!」
「わかったわ、イナバ。」
「ううーーーー!!!」
何かイナバが騒いでいるが気にしない。
元々、私と会話をするイナバなんて貴方かあの詐欺師で長生きなイナバしかいない。
だからイナバと呼んでいるだけのことだ。
ここで生まれた兎の名前も、ここで生きていた兎の名前も。
忘れている、わけがない。
ただ、名前を呼んでしまうと情が移ってしまいそうで。
いずれ来る別れに対する悲しみが、あまり大きくならないように。
永琳以外の家族は、皆イナバなのだ。
勿論、そんな事はイナバどころか永琳にすら言ったことはない。
これからも、言うつもりはない。
私は唸るイナバが落ち着く(諦める)のを待って軽く語りかけた。
「それにしても、最近は騒がしかったわね。」
「…満月の時の騒動ですか?」
「アレは結局無駄骨だったけれどね。」
元々閉ざされたこの幻想郷に、月の使者が来れる筈はないのだと。
妙な妖怪と巫女はそう言っていた。
あの時、私と永琳の隠居生活は終わりを告げたのだ。
「それでも、退屈凌ぎには丁度良かったわ。」
「退屈…ですか。」
「私と永琳、後アイツもそうなのでしょうけど。一番の敵は退屈なのよ。
長く生きれば生きるだけ、心の動きは鈍くなり段々擦り切れてなくなってしまう。
痛みに慣れ、悲しみに慣れ、苦しみに慣れ、ゆっくりと麻痺していく。」
「……。」
「…ごめんなさい、詰まらないことを言ったわね。」
黙ったイナバに対して、私は謝罪した。
しかし、イナバはやがて私を真っ直ぐに見つめ、ぽつりと呟いた。
「…本当に、そうでしょうか。」
「…本当のところなんて誰にも分からないわ。要は本人にとって世界がどう見えるかの問題なのよ。」
「……。」
「貴方にとってはどうかしら?折角の二人きりのお酒の席ですもの、何を言ったところで私しか聞いていないわ。」
「そう、ですね―――。」
そう言ってイナバはお酒を飲み干し、師匠には内緒にしてくださいねと宣言した上で、語りだした。
「悲しいことがあって、心の痛みが麻痺するなら幾分か気は楽になると思いますけど。
何回嬉しいことがあってもそれは同じように嬉しくて。
何回悲しいことがあってもそれは同じように悲しくて。
身体の傷は治って、傷口も大抵は消えますけど、心の傷って消えないと思うんです。
何か嬉しいことがあって、血は止まるかもしれないけれど。
この傷は痛くないって、もう過去の事だって笑い飛ばせるかもしれないけれど。
その傷自体は決して消えないんじゃないかな、って。」
そう言って、イナバは私に悲しげに微笑んだ。
それは――イナバ自身のことなのか。
月を捨ててここへ巡り着いたイナバの、決して消えない傷なのだろうか。
「弟子だからといって、考え方まで似るわけではないのねぇ。」
「…師匠はちょっと、悲観的な人ですから。」
それは同感。
私は心の中で同意しつつ、このイナバの例えにもう少し踏み込んでみることにした。
「貴方の考えだと、他人に出来るのは止血までってことなのかしら?」
「……そうですね、言われてみればそういう意味です。」
「なら――――。」
そこで私はいったん言葉を切って、軽くイナバの首筋に手を触れながら―――。
――――鈴仙、貴方の血は、止まったのかしら?
もう二度と月には帰ることはないであろう、その消えようのない傷口から。
未だに血は流れ続けているのかと。
狂気を操るその赤い目に映る世界の風景を、問いかけた。
イナバは暫くまた驚いた顔をしていたが、やがて―――。
「止まってるに決まってるじゃないですか。」
そう、笑顔で答えた。
―――だから私も、新しい傷を作らずにすんだ。
「それ、永琳にも言ってあげたらどうかしら?」
「師匠には、少し前、あの騒動が終わってすぐに聞かれました。」
「永琳、なんて言ってたの?」
「本当に、これで良かったのかって。」
「…何て答えたかは、聞かなくてもいいわね。」
「そうですね。」
宴会前、永琳はなんと言っていたのだったか。
―――私が変わったというよりは、環境のせいでしょう。
―――もう、ここに居ることに、何の問題もありませんからね。
なるほど、機嫌が良いという程度の話ではないだろう。
永琳が酔い潰れた訳が、分かった気がした。
「止血してくれる人間が居るということは、幸せね。」
「まるで自分にはいないような言い方しないで下さいよ、私達が居るじゃないですか。」
「いやいや、そういうつもりじゃないわ。ごめんなさいね。」
「それに……。」
「それに?」
――――姫と殺しあってるあの人も、きっとそうですよ。
「…止血どころか、流血させられているような気がするのだけど。」
「随分乱暴な治療法ですよね、でも自称麻痺している姫にとっては、それくらいじゃないと効かないんじゃないですか?」
「…ふふ、随分言ってくれるじゃない。」
「折角二人きりのお酒の席ですから。」
「お酒が入ると貴方は正直になるのね、覚えておくわ。」
「……うう、本当に師匠には内緒ですよ?」
「言わないわよ。二人きりで飲んでたなんて永琳にバレたら、妬かれてしまうわ。」
「そんな大げさな……。」
大げさでもなんでもないのだけれどね、と心の中で思いながら私は杯を呷った。
丁度イナバの杯も空になっていたので、ついでに酌をする。
「あ、す、すいません!」
「何をこれくらいの事で畏まっているの?今日は朝まで益体もないことを話しましょうよ。」
「私、そんなにお酒強くないんですけど…。」
「途中で潰れることは許さないわ。頑張りなさい。」
「お、お許しを…。」
「嫌よ。」
「うう……。」
さて、今度はどんなことを話そうか。
そう考えながら、私はさっきの自分の発言を心の中で撤回していた。
私もまだ、麻痺はしていないらしい。
それを確かめる為にも、明日は乱暴な止血処置をしに行くとしよう。
懐には小さな櫛。
目の前には大量の人参。
そして、何時からか家族になった月からの可愛いイナバ。
私は喜びに酔い潰れないように、手に持った杯を飲み干した。
・・・いくつになっても!(笑)
ハッピーバースデイ!
良いお話でした
師匠は23歳のお姉様ってすぐ出るんですが、てるよはわかんないってかどーでもいいや。
えーりんえーりん。
あとうどんは17歳、てゐは11歳くらいで。
誕生日物は多くありますが、でも、だからこそ読んでいてほっとさせられます。
鈴仙が強い。よかったです。
実際、あんまし永遠亭の面子の年齢を考えていたわけではありませんが…。
そもそも幻想卿って年齢3桁4桁の人多いでs(射殺音)
感想ありがとうございますー。
やっぱり鈴仙は真っ直ぐな娘です。理由は若○でしょうねえ。
良いお話でした。
※幻想卿→幻想郷です。
細かいこと言うようで申し訳ないのですが、
それだけでマイナスつける人も居るようなので一応。