Coolier - 新生・東方創想話

私の居場所

2025/08/10 20:09:30
最終更新
サイズ
6.68KB
ページ数
1
閲覧数
347
評価数
11/11
POINT
1030
Rate
17.58

分類タグ

 妖怪の山の山腹に、のろのろと歩く青い髪の河童の姿。
 言うまでもなく河城にとりだ。
 彼女は秋姉妹の家に行く途中だった。

 さて、今日はどうやってあの家でヒマをつぶそうか。どうやって二人をからかおうか。彼女がニヤニヤしながらそんなことを考えていると、上空から聞き覚えのある声。

「あ、ヒマそうな河童みーっけ!」
「うげっ!」

 にとりはその人物を見るなり、あからさまに顔をしかめる。

「そう邪険にしなくてもいいじゃないの」

 そう言いながら、その声の主――射名丸文はさっそうとにとりの前に降り立つ。

「別に邪険にはしてないさ。ただ、面倒だなって思っただけだよ」
「……それってやっぱり邪険にしてるじゃない」
「……うるさいな。そんなことより何の用?」
「いえ、特に?」
「は……?」
「あなたの姿を見かけたから声かけただけよ」

 しれっと言い切る文に、むっとしながらにとりは言い放つ。

「……なーんて言っちゃってさ。本当はそれだけじゃないんだろ?」
「ええ、もちろん! あなたがヒマそうにしてたからちょっと相手してやろうかと」

 そう言うと文はニッと笑みを見せる。にとりは、思わず、はぁとため息をつく。

「……私はこれから穣子さんちに行くとこなんだけど……」
「あら、いいわね。ぜひお供するわ」
「あー……。そう言うと思った」
「あら、もしかして嫌だった?」
「ま、別にどっちでも?」
「そ。じゃ、遠慮なく」

 二人は山道をのろのろ歩き始める。

「ところでさー。文」
「なによ」
「今日は、どうやってあの家でヒマ潰そうかって考えてんだけど……」
「そんなの、穣子さんに美味しいものでも作ってもらったら?」
「あーダメダメ。あいつ、きゅうり料理作ってくんねーし」
「ああ、そういえば、ほぼイモ専門だったわね……。ま、私はイモでもいいけど」
「ったく。河童はきゅうり以外食べないんだよ!」

 そう吐き捨てたあと、ぼそりと「……ま、基本的には」と付け加えたので思わず文は吹き出してしまう。

「……じゃ、静葉さんとお話とか?」
「あーダメダメ。私、あの人と話合わないんだよ! なんか小難しいじゃん?」
「まぁ、確かに……。抽象的な話題が多いものね。私は話してて楽しいけど」
「文はいいよ。だって小難しい話とか得意でしょ?」
「まあ、新聞書いてるくらいだし……」
「よくもまぁ、くだらないゴシップ話なんかかで花が咲かせられるよね。私には到底理解できないよ」

 思わず文は、むっとして言い返す。

「あら、私には、あなたのその得体の知れない機械いじり好きが理解できませんけどねえ?」
「おっ? 言ってくれるじゃないか」
「ええ。言うわよ。言われっぱなしは癪だもの」
「言っておくけどな。私の機械の性能は幻想郷一だぞ?」
「はい。性能のことはよくわかりませんけど、必ず一度は故障するのだけは知ってますよ? このあいだも……なんでしたっけ。全自動センターキー……」
「……もしかして洗濯機?」
「そうそう、それが暴走してたわよね? 辺り一面水びたしになるわ洗濯物が吹き飛ぶわ。しまいにゃ機械自体爆発するわ……」
「え。何でそれ知ってんだよ? それ私の研究所での話だぞ? ……あ、まさか!?」
「ええ。ぐうぜん近くに居合わせたので♪」

 そう言って文は、にこっと笑ってカメラを取り出し、写真を撮るマネを見せる。

「はぁ。まったく油断もスキもないヤツ……」
「安心して。新聞の記事にはしないから」
「あ、そうなの? さすがは盟……」
「だって、あなたの機械の暴走事故なんて需要ないもの。あまりにも日常茶飯事で」
「少しでも盟友と思った私がバカだったよ!」

 思わず吐き捨てるにとりに、文はにこりと笑みを浮かべる。
 その後も二人はのろのろと山道を歩く。

「……ところでにとり」
「なにさ」
「どうして空飛ばないのよ? 飛べばすぐ着くじゃない」
「……あー。別に深い意味はないよ。歩いて行った方が時間潰せるし」
「……本当、ヒマなのね」
「うるさいなー。そういう文こそ、天狗なんだから空飛んで行けばあっという間だろ? 天狗なんだから」
「せっかくだからあなたに合わせてるのよ」
「ヒマなやつ……」
「どの口が言いますか」

 そのままのろのろ歩き続けると、やがて秋姉妹の家が見えてくる。

「あら、もう着いちゃったみたいよ。にとり」
「あーあ。まだやること決まってないのに……」
「別に決めなくてもいいんじゃない?」
「なんでさ」
「あの家にいれば何かしらヒマは潰せるでしょ」
「そうかな?」
「そうよ。だって穣子さんが、死んだような顔してイモの数数えてる姿見るだけで面白いし」
「……あー確かに。あの独特の物侘しさは見てて飽きないかも」
「それに静葉さんも真面目な顔して実は変な本読んでたりするし」
「……あー確かに。こないだも、かいだん話読んでるなんていうから、ちらっと見てみたら、怪談じゃなくて階段の本だったし」
「まったく、そんな本があること自体怪談だわ」
「いや、まったくだね」

 腕を組んで、うんうんとうなずくにとりに文が言う。

「……と、まぁそんな感じ」
「どんな感じだよ」
「別に普通にしていても楽しいでしょって」
「んー。……まあ、そうだね。……どうやら私が真面目すぎたようだな。もっとざっくばらんにいかないと」

 そう言って、思わず背筋を伸ばすにとりに文が告げる。

「悪いけど、私はあなたを真面目だと思ったことは一度もないけどね」
「おお!? 言ってくれるじゃないか? そんじゃ、ここはひとつ穣子さんたちに聞いてみようじゃないか。私が真面目かどうか」
「あら、いいわよ。なんなら何かかけましょうか?」
「お、いいね! じゃあ、かけに勝った方が穣子さんのメシ食えるってのはどう?」
「いいじゃない。頂くわよ。猪鍋」
「なにをー! 今日こそきゅうり田楽作ってもらうからな! 穣子さんに!」
「なにそれ。不味そう」
「何を言うか!? きゅうりに田楽味噌付けて、こんがり焼いた絶品料理だぞ? 文もだまされたと思って食べてみなよ!」
「だまされたとしか思えないわ」
「なにをー!?」

 などと、言い合いながら二人は秋姉妹の家の前にたどり着く。ふと、にとりは立ち止まる。

「……どうしたのよ。急に止まっちゃったりして」
「いや、うん。なんかさ。ふと思ったんだよね」
「何を」
「いや、なんていうかさ。今更なんだけどさ。私ってここに来ること多いなって」
「ほーんと、今更ねぇ」

 呆れた様子の文ににとりは告げる。

「いやいやいや確かに、今更かもしんないけどさ。なんかさ。ここが私の居場所の一つなんだなって、ふと思って」
「へえ……?」
「なんだよ? その変なモノを見るような目は」
「いや、らしくないこと考えてるなーって」
「うっさいな。私だってそういうコト考えるときあるんだよ! 別に年がら年中きゅうりのこと考えてるわけじゃないんだよ。そう言う文はどうなんだよ? お前だって、なんだかんだここに来てること多いだろ?」
「ええ。いいヒマ潰しになるもの。タダメシにもありつけるし、話が合う人もいるし」
「なんだよ。文だってここが居場所なんじゃないか」
「居場所……。……ま、そうかもね?」
「なんだよそれ」
「だってそんなのあんまり意識したことないし……」
「もういいよ。とにかく早く、入ろ!」
「……ふふっ。……ええ、そうね。それじゃ、にとりお願い」
「え、私なの? ……ったく」

 にとりは、やたらニヤニヤと笑みを浮かべている文を不思議そうに見やりながら、戸を叩くと、中に向かって笑顔で言い放った。

「おーい! 穣子さーん! 静葉さーん! 私だよー! ヒマだから遊びに来たよー! なんかオマケで鴉天狗もいるよー! いや、なんだまた来たの? って、鬱陶しく思うかもしんないけど、ふと、思ったんだ。私はこの家が好きなんだって! この家ののんびりとして質素でしみったれた感じがさ! 私のフィーリングにベストマッチしてるのさ! そう! つまり、ここが私の居場所の一つなんだよ! だからどうか悪く思わないでくれよ! それじゃ入るよ!」

 にとりは、勢いよく家の戸を開けて中へと入った。


 留守だった。
にとり「なんでこーなるのっ!?」
文「日頃の行いじゃない?」
バームクーヘン
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
2.100みやび削除
のろのろと歩きながら会話する二人が楽しそうに感じ、到着して元気よく挨拶するにとりが印象的でした。
3.90ひょうすべ削除
シンプルにオチに笑いました
4.100名前が無い程度の能力削除
良かったです。いつもの場所、そういうところに向かう時って足取りもなんか軽やかですよね。オチでくすっとしました。
5.80めそふ削除
無意識のうちに居座っていた空間を、ふと、ここは自分の居場所なのだなと分かってしまうあの感覚は何となく美しいものだと思います。
6.100南条削除
面白かったです
並んで歩いて駄弁ってるだけなのになんか楽しいという素敵な話でした
いないのに秋姉妹の存在がそこかしこに感じられるのはさすがだと思いました
7.100名前が無い程度の能力削除
おもしろーい!
8.90ローファル削除
にとりが最後の台詞を言い終えた直後に狙ったように帰ってくる家主を幻視)
面白かったです。
9.90福哭傀のクロ削除
のんびり読んでたけどオチで笑ったので私の負けです。
10.90東ノ目削除
ポテトサラダにキュウリを入れてもらえないのかとか、キュウリに味噌をつけて食べるのがアリなのだからキュウリ田楽は実は美味いじゃないかとか、そんなことを考えてたら留守で笑いました

というか留守なのに鍵かけてないのセキュリティが貧弱すぎる
11.100竹内凛削除
オチが最高でしたwww