「パチェの魔法、なんで『天王星』と『海王星』の魔法が無いの?」
ある夏の日の朝、レミリアが食後の紅茶を飲んでいたパチュリーに突然尋ねられた。パチュリーは「はあ」と答えると、ティーカップをテーブルに置き、「あのねレミィ、私の魔法は五行思想に基づくものだから、『天王星』と『海王星』どころか木星も火星も関係ないわ」と続けた。普段のレミリアなら理由をしっかり伝えれば「そ、そうなのね」と納得する。パチュリーはそれ以外の理由もないので、答えるや否や視線をレミリアから外し、再びティーカップに手を伸ばした。
「んー、それはカリスマじゃないわね」
レミリアの口から飛び出したのは、パチュリーが予想してもいなかった言葉であった。
「カ、カリスマじゃないって何よ」
今日のレミリアはいつもと違うようだ、カリスマではないという意味不明な返答に、パチュリーは再びレミリアに視線を戻し、呆れ気味に尋ね返す。
「カリスマじゃないってことよ。五行なのかハコベラなのか知らないけど、もっと魔法を増やさないとダメよ」
レミリアからのあまりにも理不尽な言いがかりに「だから、私の魔法に、『天王星』も『海王星』も関係ないのよ!」と苛立ちながら言い返せば、レミリアは「ほらそうやって怒る……悲しいねえ、そんなんだから白黒の魔法使いに本を盗られ続けられるのよ」と嘆かれる。
(そういえばこの前貸した小説、やたらオーバーリアクションで嘆く奴がいたわね……)
パチュリーは貸す本を間違えたと渋い表情を浮かべれば、「はあ、しょうがない、ちゃんと言わないと分からないようねえ」と、レミリアは大げさに立ち上がり、「これは当主命令よ、パチェ、『天王星』と『海王星』のスペルカードを作って頂戴」と、無理難題を言って大げさに立ち去っていった。
「……次は赤ずきんを貸そっ」
パチュリーは友人のあまりの幼さを嘆いた。
◆
「……ってことがあったのよ」
ティーカップと皿をトレーに乗せ、キッチンへとやって来たパチュリーは、咲夜にぼやいた。咲夜は「そうなのね……まったくあの娘ったら」とこちらもぼやき、パチュリーから食器を預かり、流水で洗い流す。レミリアは流水が苦手と、絶対にキッチンへはやって来ないので、意味ここはレミリアが絶対にやってこない。そんなこともあり、ここは喫煙所会議室のような役割を果たしているのである。
「いっそのこと作ったら?天王星と海王星のスペルカード」
咲夜は他の食器を洗いながらパチュリーに尋ねる。
「それがね、無理なのよ。昔、天王星と海王星のスペルカードは作れないかしらって資料を集めたことがあるの。そしたら、どの本も同じ内容で断念したのよ。何でも、天王星と海王星の直接観測は、外の世界で三○年ほど前にやったきりらしくて、それも探査機は二〇年ぐらいかけてやっとたどり着いたとかどうとか。分からないことの方が多いみたいなのよ」
手持ち無沙汰なパチュリーは、咲夜が洗った食器を布巾で拭き上げながら、スペルカードを作れない理由をつらつらと説明する。
「一応、惑星の大きさとかは分かるんだけどもね」
パチュリーが続けると、「それなら、太陽系のミニチュアを作れば再現実験ができるかもしれないってこと?」と、咲夜が尋ねる。
「……それはそうかもしれないけど」
パチュリーの頭の中の曇りに少し光が差したようだ。
「そういえばこの前霊夢から聞いたんだけど、月で起こった異変で変なTシャツを着た奴と戦ったらしくて、そいつが頭に地球を乗せてるとか乗せていないとか言ってたわ。その地球をベースに太陽系のミニチュアを作ったら、何か分かるんじゃない?」
そして咲夜は、「それに、地底にいる太陽の八咫烏が太陽を作り出せば、完璧じゃないかしら? 他の惑星は……そうね、美鈴が育ててるスイカを使うとか」と続ける。一見荒唐無稽だが、やってみるだけの価値はあるのかもしれない。
「そうね、やってみようじゃないの」
レミリアにぎゃふんと言わせてやろうじゃないの、パチュリーの頭の中は、夏の青空のように晴れ上がった。
◆
パチュリーは咲夜には地獄の八咫烏を誘うのを任せ、早速人里へと出かけ、『変なTシャツを着た奴』を探し始めた。確か普段は赤いボウリングの球のようなものを乗せていて、地上では中々見かけない顔だ聞いているが、なかなか見つからない。
「んー、今日はいないのかしら」
パチュリーは差している日傘をくるっと回して長屋の曲がり角を曲がると、正面にそれらしき変なTシャツを着ている、赤いボールのようなものを頭に乗せた少女が、こちらに歩いているのを見つけた。
「そこの変T! 私の実験を手伝いなさい!」
パチュリーは早速、大声で呼び止めた。
「実験? 変T?」
突然変なTシャツ呼ばわりされたヘカーティアは「私のこと?」と怪訝な表情を浮かべて立ち止まる。
「そうよ、変なTシャツを着てるのはあんたぐらいしかいないでしょ! 確か地球のミニチュアを持って『マダガスカル! そーれ!』って言ってるって聞いてるわ。ちょっと私の実験を手伝いなさい!」
初対面で酷い言われようである。ヘカーティアはこみ上げる怒りを抑えながら、「オーケーオーケー、相手してあげる」と穏やかに笑った。
「……ところで、あんた、名前は何?」
一方のパチュリーは、あっさりと誘えたことに驚きを隠せない中、ジト目になりヘカーティアに名前を尋ねる。
「そういうのは、あなたが先に自己紹介をするべきじゃないかしら?」
おおよそ人を誘う態度で無いパチュリーの言動にヘカーティアは顔を引き攣らせながら、「私の名前はヘカーティア・ラピスラズリ。自分から名乗らないわ、変なTシャツって言われるわ、ちょっと心外よ」と自分の名を名乗る。
「私の名前はパチュリー・ノーレッジ。他の人からはパチュリーだったりパチェだったりで呼ばれてるわ……ごめんなさいね、ちょっと友人から無理難題を突きつけられていて少し乱暴になっちゃったわ。よろしく」
パチュリーは一方的に手を突き出す。ヘカーティアは、嘆息すると、「大変そうね、まあ付き合ってあげるわ」と、極めて淑女的に、しっかりと握手をした。
◆
パチュリー、ヘカーティア、スイカを食べないかなどと誘われやって来たお空と誘った咲夜、そしてスイカを複数抱えた美鈴と、溶けるような暑さの紅魔館の屋上に役者が揃った。
「まず、私が『サブタレイニアンサン』を宣言するのね?」
お空が、「手加減しないわよ!」と制御棒をぶんぶん振り回すので、「弾幕は出さないでね」とパチュリーが釘を刺す。
「次に、私が月と地球を『サブタレイニアンサン』を周回するように放り投げる……」
ヘカーティアは「私のこれは遊び道具じゃないわよん」と少し不満そうだが、「さっきTシャツを四枚も買ったんだから、我慢なさい」とパチュリーが制する。ここにいる五人は、暑さ対策のため、ヘカーティアからあのTシャツを買い、なんと全員が同じあのTシャツを着ているのである。
「その後に、私と咲夜で他の惑星の軌道にスイカを放り投げるってことね」
美鈴は「育てた甲斐がありました!」と、取れたてのスイカを叩けば、「これが終わったら、約束通りスイカでおやつよ」と咲夜が続ける。
「それじゃ、始めましょ」
パチュリーは魔方陣を展開し、
「おりゃ!『サブタレイニアンサン』!」
お空が早速スペルカードを宣言、紅魔館の屋上に巨大な太陽の弾幕が出現し、気温が一気に上がる。
「暑いわね……早く終わらせましょ!」
ヘカーティアは自分の持っているバスケットボール大の地球を投げ、『サブタレイニアンサン』を周回させる。
「それじゃ、順番に投げますよ!」
美鈴と咲夜は交互に、水星・金星・火星・木星・土星とスイカを器用に投げる。そして肝心の天王星。咲夜が地球と『サブタレイニアンサン』の距離を二〇倍にした位置に縦回転をかけたスイカを放り投げ、最後に美鈴が同じく三〇倍にした位置に今度は横回転をかけたスイカを放り投げる。
紅魔館上空に、即席の太陽系が完成した瞬間であった。『サブタレイニアンサン』が放つ重力に乗っかり、秩序を持って周回し始めた。
「どう? 何か分かった?」
空がパチュリーに尋ねる。「うーんそうね……」とパチュリーが口を開くと、「うぎゃあ! 助けてくれ!」と新しい声がする。声の方角には箒に乗った霧雨魔理沙、図書館にいつものように本を借りに来た魔法使いは、『サブタレイニアンサン』を中心に弧を描くように弾き飛ばされてしまい飛んで行ってしまった。
「これが本当の帚星?」
ヘカーティアが汗を拭いながら呟けば、「もしかして、天王星と海王星よりも、太陽の方が強い?」と美鈴がパチュリーに尋ねる。太陽の二〇倍、三〇倍の軌道を回転する天王星と海王星のスイカを観察していたパチュリーも「何にも分からなかったわ、日符『ロイヤルフレア』を強化した方が手っ取り早そう」と呟くと、「みんなありがとう、実験は終了にしましょ」と、手を大きく振った。
お空の「よいしょっと」という声と共に、『サブタレイニアンサン』が消滅する。
するとヘカーティアの地球と美鈴・咲夜が放り投げたスイカはハンマー投げの要領で、あっちこっちへと飛んで行ってしまった。
「私の地球が!」「キャー! スイカが大変なことに!」
ヘカーティアと美鈴が大急ぎで追いかけようとした次の瞬間、咲夜が地球を抱えてヘカーティアの前に現れ、紅魔館の屋上には日よけパラソルとガーデンテーブル、テーブルの上には切られたスイカにいろんなフルーツが並んでいた。
「みんなお疲れ様、おやつタイムにしましょ」
時を止め、全てを準備した咲夜がニッコリと笑った。
◆
実験が終わった紅魔館の屋上では、フルーツビュッフェが始まった。
「みんなありがとう、お陰で、太陽が最強って分かったわ」
パチュリーが礼を言いながらスイカを口にする。
「おいしー、これ地底に持って帰ってもいい?」
お空がスイカに舌鼓を打ちながら美鈴に尋ねると、「良いですよ!」とニッコリと笑う。
「色々言われたけど、今回は許してあげるわ」
ヘカーティアはゆっくりと頷きながら、キンキンに冷えた紅茶に口を付けた。
「それじゃ、紅茶のお代わりを持ってくるわね」
咲夜が紅魔館へと戻る扉を開けると、そこにはPアイテムと点符をまき散らし、「なんなのよこれ……屋上で楽しそうな声が聞こえて開けてみたら太陽が二つあるってどういうことよ……」と、しおしおになったレミリアが、頭を抱え、うずくまっているのであった。
「お嬢様の無理難題のために、パチュリー様がが実験をしたんですよ」
咲夜は落ちていたPアイテムと点符を拾うと、ポケットにしまってそのまま中へと消えてしまった。
「うー」
無理なことを言うんじゃ無かった、レミリアは自身の軽率な発言に、一人嘆くのであった。
ある夏の日の朝、レミリアが食後の紅茶を飲んでいたパチュリーに突然尋ねられた。パチュリーは「はあ」と答えると、ティーカップをテーブルに置き、「あのねレミィ、私の魔法は五行思想に基づくものだから、『天王星』と『海王星』どころか木星も火星も関係ないわ」と続けた。普段のレミリアなら理由をしっかり伝えれば「そ、そうなのね」と納得する。パチュリーはそれ以外の理由もないので、答えるや否や視線をレミリアから外し、再びティーカップに手を伸ばした。
「んー、それはカリスマじゃないわね」
レミリアの口から飛び出したのは、パチュリーが予想してもいなかった言葉であった。
「カ、カリスマじゃないって何よ」
今日のレミリアはいつもと違うようだ、カリスマではないという意味不明な返答に、パチュリーは再びレミリアに視線を戻し、呆れ気味に尋ね返す。
「カリスマじゃないってことよ。五行なのかハコベラなのか知らないけど、もっと魔法を増やさないとダメよ」
レミリアからのあまりにも理不尽な言いがかりに「だから、私の魔法に、『天王星』も『海王星』も関係ないのよ!」と苛立ちながら言い返せば、レミリアは「ほらそうやって怒る……悲しいねえ、そんなんだから白黒の魔法使いに本を盗られ続けられるのよ」と嘆かれる。
(そういえばこの前貸した小説、やたらオーバーリアクションで嘆く奴がいたわね……)
パチュリーは貸す本を間違えたと渋い表情を浮かべれば、「はあ、しょうがない、ちゃんと言わないと分からないようねえ」と、レミリアは大げさに立ち上がり、「これは当主命令よ、パチェ、『天王星』と『海王星』のスペルカードを作って頂戴」と、無理難題を言って大げさに立ち去っていった。
「……次は赤ずきんを貸そっ」
パチュリーは友人のあまりの幼さを嘆いた。
◆
「……ってことがあったのよ」
ティーカップと皿をトレーに乗せ、キッチンへとやって来たパチュリーは、咲夜にぼやいた。咲夜は「そうなのね……まったくあの娘ったら」とこちらもぼやき、パチュリーから食器を預かり、流水で洗い流す。レミリアは流水が苦手と、絶対にキッチンへはやって来ないので、意味ここはレミリアが絶対にやってこない。そんなこともあり、ここは喫煙所会議室のような役割を果たしているのである。
「いっそのこと作ったら?天王星と海王星のスペルカード」
咲夜は他の食器を洗いながらパチュリーに尋ねる。
「それがね、無理なのよ。昔、天王星と海王星のスペルカードは作れないかしらって資料を集めたことがあるの。そしたら、どの本も同じ内容で断念したのよ。何でも、天王星と海王星の直接観測は、外の世界で三○年ほど前にやったきりらしくて、それも探査機は二〇年ぐらいかけてやっとたどり着いたとかどうとか。分からないことの方が多いみたいなのよ」
手持ち無沙汰なパチュリーは、咲夜が洗った食器を布巾で拭き上げながら、スペルカードを作れない理由をつらつらと説明する。
「一応、惑星の大きさとかは分かるんだけどもね」
パチュリーが続けると、「それなら、太陽系のミニチュアを作れば再現実験ができるかもしれないってこと?」と、咲夜が尋ねる。
「……それはそうかもしれないけど」
パチュリーの頭の中の曇りに少し光が差したようだ。
「そういえばこの前霊夢から聞いたんだけど、月で起こった異変で変なTシャツを着た奴と戦ったらしくて、そいつが頭に地球を乗せてるとか乗せていないとか言ってたわ。その地球をベースに太陽系のミニチュアを作ったら、何か分かるんじゃない?」
そして咲夜は、「それに、地底にいる太陽の八咫烏が太陽を作り出せば、完璧じゃないかしら? 他の惑星は……そうね、美鈴が育ててるスイカを使うとか」と続ける。一見荒唐無稽だが、やってみるだけの価値はあるのかもしれない。
「そうね、やってみようじゃないの」
レミリアにぎゃふんと言わせてやろうじゃないの、パチュリーの頭の中は、夏の青空のように晴れ上がった。
◆
パチュリーは咲夜には地獄の八咫烏を誘うのを任せ、早速人里へと出かけ、『変なTシャツを着た奴』を探し始めた。確か普段は赤いボウリングの球のようなものを乗せていて、地上では中々見かけない顔だ聞いているが、なかなか見つからない。
「んー、今日はいないのかしら」
パチュリーは差している日傘をくるっと回して長屋の曲がり角を曲がると、正面にそれらしき変なTシャツを着ている、赤いボールのようなものを頭に乗せた少女が、こちらに歩いているのを見つけた。
「そこの変T! 私の実験を手伝いなさい!」
パチュリーは早速、大声で呼び止めた。
「実験? 変T?」
突然変なTシャツ呼ばわりされたヘカーティアは「私のこと?」と怪訝な表情を浮かべて立ち止まる。
「そうよ、変なTシャツを着てるのはあんたぐらいしかいないでしょ! 確か地球のミニチュアを持って『マダガスカル! そーれ!』って言ってるって聞いてるわ。ちょっと私の実験を手伝いなさい!」
初対面で酷い言われようである。ヘカーティアはこみ上げる怒りを抑えながら、「オーケーオーケー、相手してあげる」と穏やかに笑った。
「……ところで、あんた、名前は何?」
一方のパチュリーは、あっさりと誘えたことに驚きを隠せない中、ジト目になりヘカーティアに名前を尋ねる。
「そういうのは、あなたが先に自己紹介をするべきじゃないかしら?」
おおよそ人を誘う態度で無いパチュリーの言動にヘカーティアは顔を引き攣らせながら、「私の名前はヘカーティア・ラピスラズリ。自分から名乗らないわ、変なTシャツって言われるわ、ちょっと心外よ」と自分の名を名乗る。
「私の名前はパチュリー・ノーレッジ。他の人からはパチュリーだったりパチェだったりで呼ばれてるわ……ごめんなさいね、ちょっと友人から無理難題を突きつけられていて少し乱暴になっちゃったわ。よろしく」
パチュリーは一方的に手を突き出す。ヘカーティアは、嘆息すると、「大変そうね、まあ付き合ってあげるわ」と、極めて淑女的に、しっかりと握手をした。
◆
パチュリー、ヘカーティア、スイカを食べないかなどと誘われやって来たお空と誘った咲夜、そしてスイカを複数抱えた美鈴と、溶けるような暑さの紅魔館の屋上に役者が揃った。
「まず、私が『サブタレイニアンサン』を宣言するのね?」
お空が、「手加減しないわよ!」と制御棒をぶんぶん振り回すので、「弾幕は出さないでね」とパチュリーが釘を刺す。
「次に、私が月と地球を『サブタレイニアンサン』を周回するように放り投げる……」
ヘカーティアは「私のこれは遊び道具じゃないわよん」と少し不満そうだが、「さっきTシャツを四枚も買ったんだから、我慢なさい」とパチュリーが制する。ここにいる五人は、暑さ対策のため、ヘカーティアからあのTシャツを買い、なんと全員が同じあのTシャツを着ているのである。
「その後に、私と咲夜で他の惑星の軌道にスイカを放り投げるってことね」
美鈴は「育てた甲斐がありました!」と、取れたてのスイカを叩けば、「これが終わったら、約束通りスイカでおやつよ」と咲夜が続ける。
「それじゃ、始めましょ」
パチュリーは魔方陣を展開し、
「おりゃ!『サブタレイニアンサン』!」
お空が早速スペルカードを宣言、紅魔館の屋上に巨大な太陽の弾幕が出現し、気温が一気に上がる。
「暑いわね……早く終わらせましょ!」
ヘカーティアは自分の持っているバスケットボール大の地球を投げ、『サブタレイニアンサン』を周回させる。
「それじゃ、順番に投げますよ!」
美鈴と咲夜は交互に、水星・金星・火星・木星・土星とスイカを器用に投げる。そして肝心の天王星。咲夜が地球と『サブタレイニアンサン』の距離を二〇倍にした位置に縦回転をかけたスイカを放り投げ、最後に美鈴が同じく三〇倍にした位置に今度は横回転をかけたスイカを放り投げる。
紅魔館上空に、即席の太陽系が完成した瞬間であった。『サブタレイニアンサン』が放つ重力に乗っかり、秩序を持って周回し始めた。
「どう? 何か分かった?」
空がパチュリーに尋ねる。「うーんそうね……」とパチュリーが口を開くと、「うぎゃあ! 助けてくれ!」と新しい声がする。声の方角には箒に乗った霧雨魔理沙、図書館にいつものように本を借りに来た魔法使いは、『サブタレイニアンサン』を中心に弧を描くように弾き飛ばされてしまい飛んで行ってしまった。
「これが本当の帚星?」
ヘカーティアが汗を拭いながら呟けば、「もしかして、天王星と海王星よりも、太陽の方が強い?」と美鈴がパチュリーに尋ねる。太陽の二〇倍、三〇倍の軌道を回転する天王星と海王星のスイカを観察していたパチュリーも「何にも分からなかったわ、日符『ロイヤルフレア』を強化した方が手っ取り早そう」と呟くと、「みんなありがとう、実験は終了にしましょ」と、手を大きく振った。
お空の「よいしょっと」という声と共に、『サブタレイニアンサン』が消滅する。
するとヘカーティアの地球と美鈴・咲夜が放り投げたスイカはハンマー投げの要領で、あっちこっちへと飛んで行ってしまった。
「私の地球が!」「キャー! スイカが大変なことに!」
ヘカーティアと美鈴が大急ぎで追いかけようとした次の瞬間、咲夜が地球を抱えてヘカーティアの前に現れ、紅魔館の屋上には日よけパラソルとガーデンテーブル、テーブルの上には切られたスイカにいろんなフルーツが並んでいた。
「みんなお疲れ様、おやつタイムにしましょ」
時を止め、全てを準備した咲夜がニッコリと笑った。
◆
実験が終わった紅魔館の屋上では、フルーツビュッフェが始まった。
「みんなありがとう、お陰で、太陽が最強って分かったわ」
パチュリーが礼を言いながらスイカを口にする。
「おいしー、これ地底に持って帰ってもいい?」
お空がスイカに舌鼓を打ちながら美鈴に尋ねると、「良いですよ!」とニッコリと笑う。
「色々言われたけど、今回は許してあげるわ」
ヘカーティアはゆっくりと頷きながら、キンキンに冷えた紅茶に口を付けた。
「それじゃ、紅茶のお代わりを持ってくるわね」
咲夜が紅魔館へと戻る扉を開けると、そこにはPアイテムと点符をまき散らし、「なんなのよこれ……屋上で楽しそうな声が聞こえて開けてみたら太陽が二つあるってどういうことよ……」と、しおしおになったレミリアが、頭を抱え、うずくまっているのであった。
「お嬢様の無理難題のために、パチュリー様がが実験をしたんですよ」
咲夜は落ちていたPアイテムと点符を拾うと、ポケットにしまってそのまま中へと消えてしまった。
「うー」
無理なことを言うんじゃ無かった、レミリアは自身の軽率な発言に、一人嘆くのであった。