12:本当にあった怖い名無し[sage]:2025/07/27(月) 21:15:31 ID:TrkW29n
大学の物理学部棟から出てきた宇佐見蓮子は、いつものように夜空を見上げた。
「午後11時47分…メリー、例の廃病院の調査に行きましょう」
隣にいるマエリベリー・ハーンは眠そうな目をこすりながら答えた。
「蓮子、今日はもう疲れたわ。それにその病院で霊の目撃情報が多すぎて不安よ」
「だからこそ秘封倶楽部の出番じゃない! 境界に関する貴重な研究材料かもしれないわよ」
二人は京都の外れにある廃病院へ向かった。地元では「出る」と有名な心霊スポットだった。
懐中電灯の光だけを頼りに、二人は病院内部に侵入した。
「うう……、やっぱり嫌な気配がするわ」
メリーが震え声で言った。
「大丈夫、科学的に調査すれば……」
その時、廊下の奥から不気味な笑い声が響いてきた。
「きゃあああああ!」二人は堪らず叫び声を上げた。
振り返ると、白い影達がゆらゆらと現れた。それは明らかに人間ではない何かだった。
「メリー、逃げましょう!」
しかし逃げ道は既に他の霊的存在に塞がれていた。病院中の霊が一斉に現れ、二人を取り囲んでいる。
「やばい、完全に包囲されたわ」蓮子が青ざめた。
霊たちは不気味な声で何かを呟きながら、じわじわと距離を詰めてくる。
「うぅ境界が見える能力なんて、こんな時には役に立たないわ」
メリーが泣きそうな声で言った。
霊たちの気配はどんどん強くなり、二人は体温が急激に下がっていくのを感じた。
「このままじゃ本当にまずいかも」
蓮子も震え声になった。
白い影の一体が手を伸ばしてメリーに触れようとした瞬間……。
「おやおや、後輩たちがお困りのようだな」
突然、病院の入り口から落ち着いた声が響いた。
「Tさん!?」二人が同時に叫んだ。
廃病院の入り口から、寺生まれで霊感の強い大学の先輩であるTさんが現れた。なぜかこんな夜中に僧衣に身を包んでいる。
「なぜここに……」蓮子が驚いた。
「修行の帰りさ。たまたま通りがかったこの辺りから強い霊気を感じたんだ。まさか後輩たちが巻き込まれているとはな」
霊たちはTさんの存在に気づくと、威嚇するように唸り声を上げた。
「Tさん、危険です!早く逃げて!」メリーが叫んだ。
しかしTさんは全く動じることなく、静かに数珠を握りしめた。
「やれやれ、最近の霊は礼儀というものを知らないんだな」
Tさんは溜息をつくと、霊を睨みつけながらそう言った。
「成仏できずにこの世を彷徨っているのは分かるが……」
霊たちが一瞬ひるんだように見えた。
「俺の後輩達に手を出すのは……、いただけねぇなあ!」
袈裟から数珠を取り出した次の瞬間、Tさんは大声で叫んだ。
「破ぁぁぁぁああああ!!!」
Tさんの気合い一発で、病院内の霊たちが一斉に浄化されていく。
「うわあああああ」
「まぶしいいいい」
「成仏するうううう」
霊たちの断末魔の声が響く中、病院内は神々しい光に包まれた。
「え……えぇ?」
蓮子とメリーは呆然とその光景を見つめていた。
光が収まると、病院内は嘘のように静かになっていた。先ほどまでの恐ろしい気配は完全に消え去っている。
「まったく、迷惑な奴らだ」
Tさんが数珠をしまいながら呟いた。
「Tさん、今のは一体?」
蓮子が震え声で尋ねた。
「ああ、除霊だよ。基本的な仏教の修行の一つだ」と、Tさんがあっけらかんと答えた。
「基本って……。あんな大勢の霊を一瞬で」
メリーが驚愕している。
「まあ、幼い頃から寺で修行してるからな。これくらいは朝飯前だ」
Tさんは懐中電灯で辺りを照らしながら続けた。
「それより、なぜこんな危険な場所に二人だけで来たんだ?」
「秘封倶楽部の活動で、境界現象の調査を」
蓮子が小声で答えた。
「境界ねえ……」Tさんは苦笑いした。
「宇佐見、マエリベリー」
Tさんが二人を見つめた。
「はい……」
二人が神妙に答える。
「学問的探究心は素晴らしいことだが、準備もなしに霊の巣窟に突撃するのは、オカルトに携わる人間として無責任だと思わないか?」
「す、すみません」
「まあ、無事だったから良いが。次回からは事前に相談してくれ。一応、こういうことに関しては専門家だからな」
Tさんは僧衣の袖をひらりと翻した。
「それに境界を研究するのも結構だが、たまには『信仰』という境界も越えてみてはどうだ? 案外、答えは身近なところにあるかもしれないぞ」
そう言って、Tさんは夜の闇に消えていった。まるで最初からそこにいなかったかのように。
「……結局、Tさんって何者なのよ」と蓮子が呟いた。
「でも助かったわ。あの霊たち、本当に危険だった」メリーがほっと息をついた。
「そうね、やっぱり寺生まれってすごいわ」
二人は顔を見合わせて苦笑いした。
翌日、大学でTさんを探したが、なぜか「そんな先輩いましたっけ?」と皆に首をかしげられるのだった。
しかし物理学部の資料室には、確かに「T」という名前だけが記載された古い在籍記録が残っていた。
大学の物理学部棟から出てきた宇佐見蓮子は、いつものように夜空を見上げた。
「午後11時47分…メリー、例の廃病院の調査に行きましょう」
隣にいるマエリベリー・ハーンは眠そうな目をこすりながら答えた。
「蓮子、今日はもう疲れたわ。それにその病院で霊の目撃情報が多すぎて不安よ」
「だからこそ秘封倶楽部の出番じゃない! 境界に関する貴重な研究材料かもしれないわよ」
二人は京都の外れにある廃病院へ向かった。地元では「出る」と有名な心霊スポットだった。
懐中電灯の光だけを頼りに、二人は病院内部に侵入した。
「うう……、やっぱり嫌な気配がするわ」
メリーが震え声で言った。
「大丈夫、科学的に調査すれば……」
その時、廊下の奥から不気味な笑い声が響いてきた。
「きゃあああああ!」二人は堪らず叫び声を上げた。
振り返ると、白い影達がゆらゆらと現れた。それは明らかに人間ではない何かだった。
「メリー、逃げましょう!」
しかし逃げ道は既に他の霊的存在に塞がれていた。病院中の霊が一斉に現れ、二人を取り囲んでいる。
「やばい、完全に包囲されたわ」蓮子が青ざめた。
霊たちは不気味な声で何かを呟きながら、じわじわと距離を詰めてくる。
「うぅ境界が見える能力なんて、こんな時には役に立たないわ」
メリーが泣きそうな声で言った。
霊たちの気配はどんどん強くなり、二人は体温が急激に下がっていくのを感じた。
「このままじゃ本当にまずいかも」
蓮子も震え声になった。
白い影の一体が手を伸ばしてメリーに触れようとした瞬間……。
「おやおや、後輩たちがお困りのようだな」
突然、病院の入り口から落ち着いた声が響いた。
「Tさん!?」二人が同時に叫んだ。
廃病院の入り口から、寺生まれで霊感の強い大学の先輩であるTさんが現れた。なぜかこんな夜中に僧衣に身を包んでいる。
「なぜここに……」蓮子が驚いた。
「修行の帰りさ。たまたま通りがかったこの辺りから強い霊気を感じたんだ。まさか後輩たちが巻き込まれているとはな」
霊たちはTさんの存在に気づくと、威嚇するように唸り声を上げた。
「Tさん、危険です!早く逃げて!」メリーが叫んだ。
しかしTさんは全く動じることなく、静かに数珠を握りしめた。
「やれやれ、最近の霊は礼儀というものを知らないんだな」
Tさんは溜息をつくと、霊を睨みつけながらそう言った。
「成仏できずにこの世を彷徨っているのは分かるが……」
霊たちが一瞬ひるんだように見えた。
「俺の後輩達に手を出すのは……、いただけねぇなあ!」
袈裟から数珠を取り出した次の瞬間、Tさんは大声で叫んだ。
「破ぁぁぁぁああああ!!!」
Tさんの気合い一発で、病院内の霊たちが一斉に浄化されていく。
「うわあああああ」
「まぶしいいいい」
「成仏するうううう」
霊たちの断末魔の声が響く中、病院内は神々しい光に包まれた。
「え……えぇ?」
蓮子とメリーは呆然とその光景を見つめていた。
光が収まると、病院内は嘘のように静かになっていた。先ほどまでの恐ろしい気配は完全に消え去っている。
「まったく、迷惑な奴らだ」
Tさんが数珠をしまいながら呟いた。
「Tさん、今のは一体?」
蓮子が震え声で尋ねた。
「ああ、除霊だよ。基本的な仏教の修行の一つだ」と、Tさんがあっけらかんと答えた。
「基本って……。あんな大勢の霊を一瞬で」
メリーが驚愕している。
「まあ、幼い頃から寺で修行してるからな。これくらいは朝飯前だ」
Tさんは懐中電灯で辺りを照らしながら続けた。
「それより、なぜこんな危険な場所に二人だけで来たんだ?」
「秘封倶楽部の活動で、境界現象の調査を」
蓮子が小声で答えた。
「境界ねえ……」Tさんは苦笑いした。
「宇佐見、マエリベリー」
Tさんが二人を見つめた。
「はい……」
二人が神妙に答える。
「学問的探究心は素晴らしいことだが、準備もなしに霊の巣窟に突撃するのは、オカルトに携わる人間として無責任だと思わないか?」
「す、すみません」
「まあ、無事だったから良いが。次回からは事前に相談してくれ。一応、こういうことに関しては専門家だからな」
Tさんは僧衣の袖をひらりと翻した。
「それに境界を研究するのも結構だが、たまには『信仰』という境界も越えてみてはどうだ? 案外、答えは身近なところにあるかもしれないぞ」
そう言って、Tさんは夜の闇に消えていった。まるで最初からそこにいなかったかのように。
「……結局、Tさんって何者なのよ」と蓮子が呟いた。
「でも助かったわ。あの霊たち、本当に危険だった」メリーがほっと息をついた。
「そうね、やっぱり寺生まれってすごいわ」
二人は顔を見合わせて苦笑いした。
翌日、大学でTさんを探したが、なぜか「そんな先輩いましたっけ?」と皆に首をかしげられるのだった。
しかし物理学部の資料室には、確かに「T」という名前だけが記載された古い在籍記録が残っていた。
破あぁぁああ!
改めてそう思いました