「その調子よ~。妖夢、頑張ってね~。」
のほほんとした声で張り詰めた空気を和ませるのは、西行寺幽々子様。私――魂魄妖夢の仕える主だ。そしてあの方は幽霊で、時間というものに囚われないせいか、はたまた生来……もとい、亡来の気質故か、とても……マイペースな御方だ。
今日も今日とて、此処――白玉楼に永遠亭の薬屋を呼んだかと思えば、私との戦いが観たいとか言い出して、何ですか突然と困惑する薬屋や私を置き去りに、弾幕ごっこの開始を告げるのだった――。
「あのー、いきなり戦えって言われても困るんだけど……。」
そう零すのは、まったり主に呼び寄せられた哀れな被害者、鈴仙・優曇華院・イナバ。私とは接点が多い方ではないが、私も半分は人間なので、此処へ薬を卸してもらっており、その際にはよく会話をしている。
「まあ、良いじゃないですか。貴方も此処へ来るときはいつも、『仕事だるい~』とか、『師匠が厳しい~』とか、愚痴っているでしょう?気分転換にでも、いかがでしょうか。」
私としては別に反対するところも無かったので、幽々子様に倣って鈴仙を誘うことにした。
「うーん……」
悩んでいる鈴仙に、そういえば、と幽々子様が声をかける。
「この前、紫がおいしそうな春菊をたくさんくれたのよ~。どうかしら。戦いを見せてくれたら、妖夢に料理してもらった春菊を、一緒に食べましょう?」
「えっ、ほんとですか」
これは以前聞いたことなのだが、鈴仙は春菊や大葉のような、香りのいい葉野菜が好きなのだとか。その辺は兎だなと思う。
「だったら……やります!」
「うんうん。そう言ってくれて嬉しいわ~」
そうして、なんともほのぼのとした雰囲気で、決闘は始まるのだった。
「決闘の形式は、アレで良いわよね?」
「はい、構いません。」
鈴仙が訊く。アレとは、言うまでもない、スペルカードルールでの決闘だ。互いに「技」を持ち寄り、宣言と共に発動する。相手のスペルカードを自身のスペルカードで凌ぐか、設定された時間を耐えきれば、こちらが一本。
被弾したかどうかの判定は、衣のように身体に纏わせた霊力が教えてくれる。これに攻撃が当たると、霊力の衣が身体の代わりに傷ついたり揺らいだりする。そして本人に攻撃が「当たったことに」なり、被弾だ。どれだけスペルカードを持ち込むか、何本取れば勝利かはその時々だが、遊びで行う決闘では、三本先取で勝利とされることが多かった。今回は持ち込むスペルカードも三枚だ。
妖夢は刀に手を添え、抜刀の構えをする。対する鈴仙は準備運動をするように軽く跳ねた後、低姿勢でこちらを見据えた。
「……それじゃあ改めて、ふたりとも準備はいい?――はじめ~!」
「それじゃ、いくわよ!」
「いざ!」
幽々子が開始の合図をすると同時に、キンッという金属音が響く。鈴仙が指先から放った魔力弾を、妖夢が抜刀と共に斬った音だ。
初手から終わらせようとするかのような攻撃だが、妖夢には牽制にもならない。当然鈴仙もそれは解っているので、空中を跳ねるように飛び回りながら、様々な方向から弾幕を展開する。
妖夢も弾幕の隙間を縫うように空中へ飛び出し、魔力弾を躱すために体をひねった勢いそのままに刀を一閃し、反撃の弾幕を生み出した。
そして第一波を鈴仙が捌くのを確認しないまま、二振り、三振りと、身体を回転させるようにして連続で弾幕を放った。
妖夢の放った弾幕は青いオーラを纏うものと紅いオーラを纏うものに分かれている。それぞれが鈴仙を直接狙うもの、鈴仙の逃げ場を塞ぐものであり、牽制の弾幕としては妖夢の十八番だ。
鈴仙はそれをジグザグに跳ねて躱し、妖夢の姿が見えると同時、指先に霊力を収束させ、妖夢の目線が向かう先――妖夢が移動する先を――狙って放つ。
それは鈴仙の予想通り、空を蹴った妖夢の向かう先に吸い込まれるようにしてまっすぐ突き進む。
「っ、と!」
妖夢は弾幕を放つために霊力を練っていたのを咄嗟にやめ、下に向けていた刀を跳ね上げるようにして魔力弾を切り裂く。魔力弾は真っ二つに割れ、切り裂かれた勢いで妖夢の両脇を掠めるようにして飛んでいき霧散した。
「早速やってくれますね」
「まだ肩が温まってないんじゃない?」
互いに相手の弾幕を躱し、反撃を次々と打ち込みながら声を飛ばす。
「では勢いをつけるとしましょう!」
そう叫ぶや否や、妖夢は一枚目のスペルカードを宣言する――
――幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』――
「来なさいっ!」
妖夢は展開されていた魔力弾をまとめて切り裂くと、刀を後ろに引いて構え、霊力を練り上げる。そして鈴仙の目を射抜くように一瞬見据えると、大きく横に跳びながら横一文字に刀を振るった。
その速度はとても滞空状態から飛び出したとは思えないほどに速く、妖夢の姿は白く輝く霊力を纏い、一筋の銀閃となる。
妖夢が通った軌跡には鈴仙の方を向いた幾十もの楔型の弾幕が現れ、妖夢が止まると同時に解放されて、一斉に鈴仙の方へと押し寄せた。そしてそれらの行方を確認する間もなく、妖夢は再び飛び出して次の銀閃を作り出す。
押し寄せる弾幕を前にして鈴仙はニヤリと笑い、突き進んでくる弾幕に指先を向け次々と魔力弾で撃ち落とす。鈴仙を襲った弾幕は、彼女に当たる軌道にあるものだけが奇麗に撃ち落とされ、まるで彼女を避けるかのようにトンネルを形成し通り過ぎていった。
「一枚目とはいえ大したことは――ッ!?」
軽く煽ろうとした鈴仙の眼前に弾幕が迫り、慌てて半身になりそれを避ける。
「一発目を捌いた程度で、それ以降も防ぎきれると思わないでくださいね。本番は……二発目以降です!」
そうだ。一発目は弾幕が生み出された時点で見えていたから、弾道予測も容易だった。しかし、直前まで弾幕に視界が埋め尽くされる二発目以降は――
「ちぇっ、そう甘くはないか」
鈴仙は油断しちゃったと零しながら次なる弾幕を捌き始める。今度は撃ち落とすだけでは足りない。
弾が視えたと同時に回避か相殺かを選択し、弾幕の隙間を縫って迎撃。銀色の波の中に、自らが動くための道を切り開いていく。
やがて妖夢が動きを止め、ふうっと息をつく。スペルカードに設定された弾幕を撃ち切ったのだ。
鈴仙は凌ぎ切っただろうか。舞い散る楔の中、妖夢は最後の弾幕の波の行方を見守る。
そして――
楔弾の雲が晴れ、鈴仙が姿を現した。見ると、左肩の辺りの霊力がほつれて揺らいでいる。被弾だ。
「……まずは一本、ですね」
「まさか一枚目で被弾するとは思わなかったなぁ……」
ぼやく鈴仙。しかしそれも束の間、一転して表情を引き締めるとその鋭い赤目で妖夢の目を射抜き、反撃の符をかざす。
「さあ、今度は私の番よ!」
――波符「赤目催眠(マインドシェイカー)」――
鈴仙は光弾を拡がるように四つ放つと、自身の上下左右に一つずつ設置する。そして妖夢を射抜く瞳を紅く輝かせると、光弾を中心にして、弾幕が球殻状に拡がるようにして解き放たれた。
(スペルカードがこの程度の薄い弾幕なわけがない。警戒しないと……!)
妖夢は刀を構え、どんな弾幕であろうとも斬り飛ばせるよう、神経を研ぎ澄ます。
そしてゆっくりと迫る波紋のような弾幕は、妖夢の眼前で――垂直にズレた。
「ッ!」
今まさに斬ろうとしていた弾が目の前で自ら逸れ、動転する。
咄嗟に後ろに飛びずさり、目を見開いて弾幕の動きを追う。
(どこ?どこから飛んでくる……!?)
半透明になって変則的に揺らぐ弾幕の波紋。妖夢は本能的に「今は斬れない」と感じていたため、再び実体化し飛来するのを待つ。
「近接戦が得意な貴方なら、目の前で軌道を変える弾幕も凌げるわよね?」
鈴仙の煽るような声が響くとともに、不規則に動いていた弾幕が実体化し、先程まで見えていた弾道とは全く違う方向から襲来する。
(きた!けど、実体化した今なら斬れるはず……!)
刀を支える手首に力を込め、跳ね上げるようにして一気に振り抜く。霊力を纏った刀は、至近距離に迫っていた弾幕をまとめて斬り飛ばした。
しかし視界が開けた頃には、次なる弾幕の波紋が展開されており、妖夢は再び来るであろう「ズレ」に備える。
波紋はやはり妖夢の眼前で動きを不規則にし、半透明の状態で位置を変えてから飛来した。
一歩下がっては認識するための時間を確保し、全身の感覚で危険な位置の弾を察知して、実体化したのを視ては斬る。反射神経をフルに働かせて、乱れ揺れる弾丸の悉(ことごと)くを切り伏せ生存領域を確保し続ける。
弾速は遅いながらも精神をガリガリと削るような攻撃が止んだ頃には、妖夢は少しずつ後退を強いられたことで距離を離されていた。しかし纏う霊力に揺らぎはなく、全ての弾幕を被弾することなく凌いだことが見て取れる。
「耐え切りましたよ。これで二本です!」
「ダメか。――それなら次よ!」
休ませる暇は与えないとばかりに、鈴仙は二枚目のスペルカードを宣言する。
――懶惰「精神停止(マインドストッパー)」――
刹那、妖夢の視界の端に光弾が映った。チラリと見ると、今度は一点につき三つの光弾が配置されている。
先程と同じように、四点から弾幕を展開するのだろうか。一瞬そう考えた妖夢だが、背筋がザワついてその考えを否定した。
――目の前だけじゃない。このままでは危ないと、本能が警鐘を打ち鳴らしている。
「――後ろ、ですかッ!」
展開されていた光弾は、十二ではなく、二十四。妖夢を取り囲むようにして、光弾たちは妖夢を睥睨していた。
そして――
「精神と肉体を同時に揺さぶられる気分はどう?この物量に、貴方の精神と剣筋は追いつけるのかしら!?」
鈴仙が叫び、全ての光弾が弾けた。
弾幕の形自体は、最初のスペルカードと同じく、それぞれの中心点から球殻状に弾幕が張られている。しかし、一気に六倍になった弾幕。その量は先程の比ではないーー!
最早「弾」と呼ぶのも憚られるほどの超密度の攻撃。全方向から、隙間などほとんど無い光の瀑布が襲ってくる。
(――避けるにはもう遅い。そしてこんな弾幕、「普通には」斬れるわけがない)
「――それなら私も、『使う』までです!」
――人符「現世斬」――
視界を埋め尽くす弾幕球が妖夢を押しつぶすかと思われた瞬間、妖夢はスペルカードを宣言した。
刹那、彼女の全身から白銀の霊力が噴き上がり、それが彼女の握る刀に収束する。
そして、スペルカードに設定された霊力をありったけ込めた一閃を、円を描くようにして――振り払った。
その斬撃は一振りの刀によって生み出されたものとは思えない程に大きく、広かった。刃や纏う霊力に当たった弾幕はおろか、刃の軌道上になかった弾幕までもが、その余波によって消し飛ばされる。
「やああああああッ!!」
妖夢は軸足で空を強く踏み、振り抜いた斬撃の勢いを殺さず身体を翻して周囲を斬りつけた。
そしてそのまま体を独楽のように縦横に回転させながら、斬る、斬る、斬る。
己を閉じ込める光の密閉空間を切り裂き、活路を見出さんと白銀の剣閃を描き続ける
少しずつ、少しずつ、弾幕が妖夢に届かなくなっていく。
刀を一振りする度に、視界を塗り潰していた彩光が、薄くなっていく。
歯を食いしばっていた妖夢の口角が上がる。僅かに、余裕が出てきた。
(この調子なら、いける!)
そう思った、次の瞬間。
「あ、ッ!?」
弾幕が、ズレた。
起こった現象は、先程と同じ。しかし今度は――
振り下ろした刀が魔力弾をすり抜け、空を切った。動揺で、流れるように動いていた身体のバランスが崩れる。
(しまった!忘れて――いや、この姿勢じゃ、対応できな――)
死に体になった妖夢の背中に、魔力弾が直撃した。
「ぐぅっ……!」
妖夢の被弾と同時に、迫っていた弾幕はパッと掻き消え、恒星の中にいるかのように照らされていた周囲に、本来の自然光が戻ってくる。
妖夢の身体にダメージは無かったが、霊力の衣の上から衝撃は伝わっていた。必死に体勢を立て直そうとする妖夢だが、衝撃を打ち消しきれず、下方へ吹っ飛ばされる。
しかし、流石というべきか。器用にも空中で身を翻すと下方に霊力を集中させて、地面に叩きつけられる前に衝撃を緩和し着地してみせた。
「はあっ、はあっ、対応……できません、でした……っ」
「ふふん。これで私も一本、ね」
肩で息をする妖夢から少し離れた地面に鈴仙が降り立ち、得意げな表情を浮かべる。
「……既に私は、二本取っていますから……優勢なのは、変わらない、ですよ」
妖夢がのたまうが、策が成功したことで勢いづいている鈴仙は意に介さない。
「問題ないわ。疲れてるあんたのスペルカードを一枚避けきって、あとは私のラストスペルで押し切ればいいだけだもの。」
「そう上手くいくと、思わないでください、ね」
息を整えた妖夢はそう言い返し、再び刀を後ろに引いて姿勢を落とし、瞳を光らせる。寸刻前の激しさとは一転、水面のように静かな、そして鋭い構えだ。
その視線を受けた鈴仙もまた、指で形作った銃口をまっすぐ妖夢に向け、余裕の笑みは絶やさないままに対峙する。
二人は互いに目を逸らすことなく、出方を窺う。そして同時に弾幕を展開するための霊力を練り上げると――
「あら、このお酒美味しい~」
いつの間にか酒瓶とお猪口を持ってきて吞み始めていた幽々子の声に、せっかく固めた霊力を霧散させてしまうのだった。
「ちょっと幽々子様、お酒を呑むのはいいですけど、そういうことはもっと小さな声で言ってくださいよぉ」
(ああ、人の決闘を肴にお酒を飲むこと自体はいいんだ)
どこかズレた文句を言う妖夢に、鈴仙もまた気が抜けて言う。
「そうですよ、少なくとも配慮はしてください」
「あら、邪魔しちゃった?ごめんなさいねぇ。でも、最初からこれは『余興として』お願いしたことだし、あんまり張り詰めないで、楽しくやりましょう?」
どこまでものほほんとした様子の幽々子に、二人とも苦笑いを浮かべてしまう。
どうします?と妖夢が目線で訊いてくる。「どうします?」とはおそらく、本気で続けるか、それとも余興と割り切って遊びとして続けるか、ということだろう。
鈴仙はしばし悩んで、こう声を発する。
「私、最近屋内の仕事ばかりで体がなまってるのよね」
それを聞いた妖夢は、一瞬きょとんとするも直ぐに鈴仙の考えを察して言葉を返した。
「そういえば私も、激しい戦闘というのは久しぶりかもしれません」
どうやら私たちは、同じことを想っているらしい。
幽々子はああ言っていたけど、折角の機会だ。存分に楽しむのも、良いんじゃないかしら。
「「どうせなら――」」
「全力で撃ち抜いてあげるわよ」
「全力で斬り伏せてあげますよ」
そうして紅い銃弾と銀の斬撃が飛ぶのを合図に、銃士と剣士の遊戯(けっとう)は再開されるのだった。
「あらあら、二人ともムキになっちゃって。」
ひとり置いて行かれてしまった幽々子はひとりごちる。
予想していたのはもっと和気あいあいとした弾幕ごっこだったのだが、思いがけず真剣勝負になってしまった。
「これなら、もう少し辛いお酒の方が合ったかしら。」
しかし、そう言いながら幽々子は、弾幕の雨の中を舞う二人の表情を見て。
「……いや。やっぱり、この甘いお酒がちょうど良いわね」
と、満足そうにお猪口を傾けた。
「わわ!――っとぉ」
鈴仙の長い耳を掠めるようにして、赤青の斬撃が走り抜けた。
「あっぶない……妖夢貴方、突然狙いがえげつないんだけど……さっきまで真剣じゃなかったの!?」
普段緩やかに折れている耳をピンと立てて、大きく飛びずさった鈴仙が叫ぶ。
「そんなことは無いですよ。牽制が攻撃に変わっただけです」
「それは十分真剣って言うのよ!」
やはり抜けたことを言う妖夢に、お返しとばかりに両目と心臓を狙った精密射撃を行う。が、妖夢は心身共に消耗しているとは思えない剣捌きでそれらを切り捨てると、遠距離を保とうとする鈴仙に迫った。
至近距離から放たれる斬撃を全力の身のこなしで回避しながら、鈴仙は自棄とも思えるような大量の魔力弾を狙いもつけずにばら撒く。
「さっきまでの自信はどうしたんですか?私が3枚目――ラストワードを発動する前に被弾しちゃいそうですよ!?」
それらを叩き落としながら、尚も妖夢は鈴仙に無数の斬撃を飛ばす。
「うっさいわねぇ!それなら、さっさと発動せざるを得ない状況にしてやるわよ!」
そう返しながらも、鈴仙は無理な態勢で回避をしようとしたためバランスを崩す。
しかし、その隙を逃さず、妖夢が大きく刀を振ってそれを狩り取ろうとした瞬間、
「なっ!?」
空中で仰向けに投げ出され身動きの取れないはずの鈴仙が、まるで最初からそこにはいなかったかのように姿が掻き消え、何歩も離れた位置に出現した。自身の存在位置の波長をズラしたのだ。
「引っかかったわね」
そして妖夢が再び動き出す前に、鈴仙がパチンとフィンガースナップをする。
すると「先程ばら撒いておいた」大量の弾幕が、鈴仙と同じように突然妖夢の周囲に現れ、妖夢に向けて一斉に放たれた。
妖夢がスペルカードを切らなければいけなかった、全方位からの高密度弾幕。それを、波長を操ることで、スペルカード無しに再現された。
もちろん、弾幕の量はスペルカードには言うに及ばず少ない。しかし妖夢も、激しい猛攻を押し付けて誤魔化してはいるが中身は大きく消耗している。
それが意味することは、妖夢はまたもスペルカードの力に頼らねば、これを凌げる可能性は低いということ。
――いや、それだけではない。鈴仙はスペルカードを「使わずに」この攻撃を行っている。
つまり、妖夢の反撃のスペルカードで攻撃を凌ぐだけでなく、鈴仙の被弾にまで持ち込まなければ、妖夢が被弾するまで全方位弾幕を展開され続けて詰みだ。
「――ここが勝負どころですね……!」
妖夢は刀を握る腕で汗を拭うと、刹那の間に精神を研ぎ澄ませ、「その符」を左手に握る。
「この攻撃を正面から打ち破って、決めてみせる!!!」
そして妖夢の口から、全身全霊を込めた符――ラストワードが――唱えられた。
――「待宵反射衛星斬」――
妖夢の瞳が、紅く輝いた。
全身の霊力が滲むように瞳と同じ紅に染まっていき、静かに纏っていたそれがゆらゆらと暴れ始める。そして――彼女の姿が消えた。
月の狂気の力を帯びたその剣閃は、彼女が剣を振る動作すらも見えないまま。自身を取り囲む弾幕を意にも介さず、鈴仙と自身の間を阻む物全てを斬り刻みながら稲妻の如く突き進む。
その軌道には無数の紅い楔型弾が残され、まるで流星のように彼女を追随した。
あまりの高速突進に、時間すらも流れが追い付かない。光が彼女の紅に吸われてしまったかのように、周囲の物体が色褪せて見える。
しかし。
その刃が鈴仙に届くと思われた瞬間、
「『その』狂気じゃあ、私には届かないわ」
鈴仙の口が、三日月に裂けた。
……この決闘の間だけで、一体何度彼女に騙されただろう。
ただのスペルカードだけじゃない。ラストワード――己の持てる力と技術の、極限を込めた符。月の狂気の魔力という、大きな大きな力。それを借りて放つ、自分の力以上の技だ。そんな技が――
――こんなにも易々と、打ち消されてしまうなんて。
華奢な手が、刃先をつまんでいた。たったそれだけのことなのに、まるで刀が動くことを拒否しているようだ。どれだけ力を込めても、刀を握る手に狂気の力を収束させても、ピクリとも動かすことができなかった。
焦る私に反して余裕の表情を浮かべている鈴仙が訊いてくる。
「忘れたの?」
「……何を」
「私は、『狂気の月の兎』なのよ?」
――ああ、そうか。
「月の波動を、狂気の魔力を操るのは、私の特権」
目の前で嗤うその少女の瞳は、私以上に妖しい紅に輝いていて。
思わず、あまりにも相性の悪過ぎた自分のラストワードを呪う。
「なら……自分の力だけで、勝つのみです……!」
そう叫び剣を引き剥がそうとするも、「遅い」という声とともに、私の胸に1発の魔力弾が当たって弾けるのだった。
被弾したことで符の効果が切れ、纏う霊力から紅が抜けていき本来の白銀へと戻っていく。
「これでお互いに二本。そして貴方はスペルカードを使い切って、私は一枚残してる。」
「……」
妖夢は鈴仙との距離を保ち、無言のまま彼女を睨む。
「今優勢なのは、どっちかしら?」
……言うまでもなく、鈴仙だ。
普通のスペルカードだって、今の疲弊した妖夢には防ぎ切れるか分からないのに、目の前の少女が放ってくるのはラストワード。そんな圧倒的な弾幕を前に、己の技量のみで立ち向かわねばならないのだ。
妖夢はそれを考えて苦々しい顔をする。
自分の剣は、これから展開されるであろう弾幕についていけるのかと、不安だった。不安だったが、しかし――
「例え劣勢であろうとも、真剣勝負の最中に剣を降ろすことは、ありませんよ。」
諦めたわけでは、ない。
「ほんとは、さっきみたいに弾幕球で閉じ込めてやれば私の勝ちなんだけどねぇ……」
「情けでもかけるつもりですか?そんなことは――」
「違うわよ。どうせなら、全力を示した上で勝ちたいから――」
どこまでも余裕を崩さないまま、鈴仙は告げる。
それと共に、周囲の景色がグニャリと歪み、降り注ぐ陽光が赤黒く濁り始めた。
「私も必勝の符――ラストワードを、魅せてあげる」
――「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)」――
世界が、紅く染まった。
歪む視界の中、鈴仙は、妖夢の使った月の狂気が児戯に思える程のオーラを放ちながら腕を伸ばし、指先に霊力を集中させる。
そして次の瞬間、赫灼たる弾幕の薔薇が、鮮血の散るが如く狂い咲いた。その薔薇はまるで万華鏡でも覗いているかのように姿を二重にも三重にもブレさせ、残像を引き連れながら拡がり迫る。
「これは……さすがに……」
妖夢は直後の迎撃のために刀を握り直すが、その表情は苦渋に満ちている。
だって、どこに弾幕の実体があるのか、全く把握できないのだから。それどころか、弾幕以外の物――自分の刀ですらもはっきりと認識できないでいた。この狂気の荒波(ラストワード)は、それほどまでに妖夢の意識をぐちゃぐちゃに掻き乱していたのだ。
赤黒く、どこかスローモーションのように映る視界の中で、弾幕を何とかして認識しようと目を眇(すが)める。しかしまっすぐに飛翔しているはずの弾幕は極小の転移でも繰り返しているかのようにジグザグに動き、刀はしっかりと握る感触とは裏腹に刀身が震えている。
範囲攻撃をあまり用いない妖夢にとって、技の精度が落とされることは致命的だ。現に彼女はどうしても弾幕を斬るビジョンが見えず、迂闊に身動きが取れずにいる。
しかし、妖夢はそのことに強い焦燥を感じながらも、今にも狂気に飲まれ零れ落ちそうな僅かな理性で、必死に弾幕を見極めようと観察に徹していた。
迫る、迫る。
弾幕でできた薔薇は、目を見開き、歯を食いしばりながら凝視し続ける妖夢を飲み込まんとして拡がり続ける。
探す、探す。弾幕の中に必ずあるはずの、ルールに則った欠陥――避けるための方法を。
そして、ついに薔薇の花弁に、妖夢が飲み込まれた。
まるで炎の中にいるかのような弾幕の内部。妖夢はほとんど勘と本能だけで弾の実体をなんとか避けながら、尚もその狂気を視続ける。
探して、避けて、探して。
「――見つけた――」
心というのは、たくさんの思いが複雑に絡み合ってできている。別々の場所にある数多の意識が適切な距離と角度で同時に物事を見据えることで、人間はそれを立体的に、一つのモノとして見ることができる。
それが狂気に侵されるとどうなるか。その心は乱雑に、無遠慮に、秩序無く掻き乱され切り離されてしまう。視界がブレて何重にも見えるのはそのせいだ。離れた意識同士が適切な距離を保てなくなり、別々に認識しようとしてしまうから、モノを一つに捉えられない。
――ならば。切り離されて何重にも視界に物体を映す意識を――どれが実体か判らない、そんな迷いを、「正しく斬れば」?
斬ったことで新たにできた意識同士の距離。それによって、意識が見せる景色のピントを合わせることが、出来はしないだろうか?
常人なら即座に切り捨てるであろうその考えを、妖夢はふと信じてみようと思った。目を閉じ、納刀した楼観剣の代わりに白楼剣を抜いて、自分の中のバラバラになった意識を眼前にイメージする。
脈打ち、揺れている。その振幅の乱れや位相のズレを観察し、「正しく斬る」ための間合いを計る。
そして一瞬の後、妖夢は目を開き、袈裟懸けに白楼剣を――振り下ろした。
弾幕が、すべて斬られていた。
周囲を光の瀑布が覆うその向こうに、動揺している鈴仙の姿を確認する。そしてそれをまっすぐに見ると、白楼剣を握っているのとは反対の手で楼観剣を抜きざまに振り払って、その刀身に込められた霊力を撃ち放った。
「信じられないんだけど……」
鈴仙が愚痴ってくる。
「と言われても、本当のことなんだから仕方がないじゃないですか……」
弾幕ごっこは、私の勝利に終わった。ラストワードを突破された上、その動揺で、私の撃った霊力弾を避けられなかったのだ。
私が鈴仙のラストワードの突破口に気づけたのは、正直勘だった。
視界に映る弾幕は、意識の数だけブレ方のパターンがある、とは考えていた。それは正しかったのだが、運が良かったのは、そのパターンが私の場合、二種類しかなかったことだ。
おそらく、私が半人半妖だからなのだろう。人間の部分に「思い」が集まり、霊体の部分に「意志」が集まっている。そうして最初から意識が二つにまとまっていたから、狂気に乱された際も、二つの大枠から外れなかったのだろう。
……まあ、これは私の予想に過ぎないのだけれど……。
「あーあ、敗けた敗けた。そんな風に私の狂気を突破されるとは思わなかったわ。……憂鬱だわー、春菊料理は手に入らないし、結構時間を喰っちゃったからお師匠様に怒られそうだし。」
地上に降り立ち、二人並んで幽々子の下へ歩きながら話す。
「でも鈴仙さん、結構楽しそうでしたよ?私も楽しかったですし。」
「……まあ、楽しいは、楽しかった」
「楽しかったなら、良かったわ~。二人ともお疲れ様。」
幽々子がいつの間に用意したのかお茶を飲みながら、そう出迎えてくれた。
「私も綺麗な弾幕をたくさん見られて楽しかったし、鈴仙ちゃんにも春菊料理は振舞ってあげるわ。」
「良いんですか?やった!」
「永遠亭にも、お土産に少し持ち帰ったらどうかしら。貴方のお師匠様も、お説教は勘弁してくれるかもしれないじゃない?」
それだ!と喜ぶ鈴仙。私はそんな彼女に持たせる料理を作るため、追加の春菊を取りに行くのだった。
のほほんとした声で張り詰めた空気を和ませるのは、西行寺幽々子様。私――魂魄妖夢の仕える主だ。そしてあの方は幽霊で、時間というものに囚われないせいか、はたまた生来……もとい、亡来の気質故か、とても……マイペースな御方だ。
今日も今日とて、此処――白玉楼に永遠亭の薬屋を呼んだかと思えば、私との戦いが観たいとか言い出して、何ですか突然と困惑する薬屋や私を置き去りに、弾幕ごっこの開始を告げるのだった――。
「あのー、いきなり戦えって言われても困るんだけど……。」
そう零すのは、まったり主に呼び寄せられた哀れな被害者、鈴仙・優曇華院・イナバ。私とは接点が多い方ではないが、私も半分は人間なので、此処へ薬を卸してもらっており、その際にはよく会話をしている。
「まあ、良いじゃないですか。貴方も此処へ来るときはいつも、『仕事だるい~』とか、『師匠が厳しい~』とか、愚痴っているでしょう?気分転換にでも、いかがでしょうか。」
私としては別に反対するところも無かったので、幽々子様に倣って鈴仙を誘うことにした。
「うーん……」
悩んでいる鈴仙に、そういえば、と幽々子様が声をかける。
「この前、紫がおいしそうな春菊をたくさんくれたのよ~。どうかしら。戦いを見せてくれたら、妖夢に料理してもらった春菊を、一緒に食べましょう?」
「えっ、ほんとですか」
これは以前聞いたことなのだが、鈴仙は春菊や大葉のような、香りのいい葉野菜が好きなのだとか。その辺は兎だなと思う。
「だったら……やります!」
「うんうん。そう言ってくれて嬉しいわ~」
そうして、なんともほのぼのとした雰囲気で、決闘は始まるのだった。
「決闘の形式は、アレで良いわよね?」
「はい、構いません。」
鈴仙が訊く。アレとは、言うまでもない、スペルカードルールでの決闘だ。互いに「技」を持ち寄り、宣言と共に発動する。相手のスペルカードを自身のスペルカードで凌ぐか、設定された時間を耐えきれば、こちらが一本。
被弾したかどうかの判定は、衣のように身体に纏わせた霊力が教えてくれる。これに攻撃が当たると、霊力の衣が身体の代わりに傷ついたり揺らいだりする。そして本人に攻撃が「当たったことに」なり、被弾だ。どれだけスペルカードを持ち込むか、何本取れば勝利かはその時々だが、遊びで行う決闘では、三本先取で勝利とされることが多かった。今回は持ち込むスペルカードも三枚だ。
妖夢は刀に手を添え、抜刀の構えをする。対する鈴仙は準備運動をするように軽く跳ねた後、低姿勢でこちらを見据えた。
「……それじゃあ改めて、ふたりとも準備はいい?――はじめ~!」
「それじゃ、いくわよ!」
「いざ!」
幽々子が開始の合図をすると同時に、キンッという金属音が響く。鈴仙が指先から放った魔力弾を、妖夢が抜刀と共に斬った音だ。
初手から終わらせようとするかのような攻撃だが、妖夢には牽制にもならない。当然鈴仙もそれは解っているので、空中を跳ねるように飛び回りながら、様々な方向から弾幕を展開する。
妖夢も弾幕の隙間を縫うように空中へ飛び出し、魔力弾を躱すために体をひねった勢いそのままに刀を一閃し、反撃の弾幕を生み出した。
そして第一波を鈴仙が捌くのを確認しないまま、二振り、三振りと、身体を回転させるようにして連続で弾幕を放った。
妖夢の放った弾幕は青いオーラを纏うものと紅いオーラを纏うものに分かれている。それぞれが鈴仙を直接狙うもの、鈴仙の逃げ場を塞ぐものであり、牽制の弾幕としては妖夢の十八番だ。
鈴仙はそれをジグザグに跳ねて躱し、妖夢の姿が見えると同時、指先に霊力を収束させ、妖夢の目線が向かう先――妖夢が移動する先を――狙って放つ。
それは鈴仙の予想通り、空を蹴った妖夢の向かう先に吸い込まれるようにしてまっすぐ突き進む。
「っ、と!」
妖夢は弾幕を放つために霊力を練っていたのを咄嗟にやめ、下に向けていた刀を跳ね上げるようにして魔力弾を切り裂く。魔力弾は真っ二つに割れ、切り裂かれた勢いで妖夢の両脇を掠めるようにして飛んでいき霧散した。
「早速やってくれますね」
「まだ肩が温まってないんじゃない?」
互いに相手の弾幕を躱し、反撃を次々と打ち込みながら声を飛ばす。
「では勢いをつけるとしましょう!」
そう叫ぶや否や、妖夢は一枚目のスペルカードを宣言する――
――幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』――
「来なさいっ!」
妖夢は展開されていた魔力弾をまとめて切り裂くと、刀を後ろに引いて構え、霊力を練り上げる。そして鈴仙の目を射抜くように一瞬見据えると、大きく横に跳びながら横一文字に刀を振るった。
その速度はとても滞空状態から飛び出したとは思えないほどに速く、妖夢の姿は白く輝く霊力を纏い、一筋の銀閃となる。
妖夢が通った軌跡には鈴仙の方を向いた幾十もの楔型の弾幕が現れ、妖夢が止まると同時に解放されて、一斉に鈴仙の方へと押し寄せた。そしてそれらの行方を確認する間もなく、妖夢は再び飛び出して次の銀閃を作り出す。
押し寄せる弾幕を前にして鈴仙はニヤリと笑い、突き進んでくる弾幕に指先を向け次々と魔力弾で撃ち落とす。鈴仙を襲った弾幕は、彼女に当たる軌道にあるものだけが奇麗に撃ち落とされ、まるで彼女を避けるかのようにトンネルを形成し通り過ぎていった。
「一枚目とはいえ大したことは――ッ!?」
軽く煽ろうとした鈴仙の眼前に弾幕が迫り、慌てて半身になりそれを避ける。
「一発目を捌いた程度で、それ以降も防ぎきれると思わないでくださいね。本番は……二発目以降です!」
そうだ。一発目は弾幕が生み出された時点で見えていたから、弾道予測も容易だった。しかし、直前まで弾幕に視界が埋め尽くされる二発目以降は――
「ちぇっ、そう甘くはないか」
鈴仙は油断しちゃったと零しながら次なる弾幕を捌き始める。今度は撃ち落とすだけでは足りない。
弾が視えたと同時に回避か相殺かを選択し、弾幕の隙間を縫って迎撃。銀色の波の中に、自らが動くための道を切り開いていく。
やがて妖夢が動きを止め、ふうっと息をつく。スペルカードに設定された弾幕を撃ち切ったのだ。
鈴仙は凌ぎ切っただろうか。舞い散る楔の中、妖夢は最後の弾幕の波の行方を見守る。
そして――
楔弾の雲が晴れ、鈴仙が姿を現した。見ると、左肩の辺りの霊力がほつれて揺らいでいる。被弾だ。
「……まずは一本、ですね」
「まさか一枚目で被弾するとは思わなかったなぁ……」
ぼやく鈴仙。しかしそれも束の間、一転して表情を引き締めるとその鋭い赤目で妖夢の目を射抜き、反撃の符をかざす。
「さあ、今度は私の番よ!」
――波符「赤目催眠(マインドシェイカー)」――
鈴仙は光弾を拡がるように四つ放つと、自身の上下左右に一つずつ設置する。そして妖夢を射抜く瞳を紅く輝かせると、光弾を中心にして、弾幕が球殻状に拡がるようにして解き放たれた。
(スペルカードがこの程度の薄い弾幕なわけがない。警戒しないと……!)
妖夢は刀を構え、どんな弾幕であろうとも斬り飛ばせるよう、神経を研ぎ澄ます。
そしてゆっくりと迫る波紋のような弾幕は、妖夢の眼前で――垂直にズレた。
「ッ!」
今まさに斬ろうとしていた弾が目の前で自ら逸れ、動転する。
咄嗟に後ろに飛びずさり、目を見開いて弾幕の動きを追う。
(どこ?どこから飛んでくる……!?)
半透明になって変則的に揺らぐ弾幕の波紋。妖夢は本能的に「今は斬れない」と感じていたため、再び実体化し飛来するのを待つ。
「近接戦が得意な貴方なら、目の前で軌道を変える弾幕も凌げるわよね?」
鈴仙の煽るような声が響くとともに、不規則に動いていた弾幕が実体化し、先程まで見えていた弾道とは全く違う方向から襲来する。
(きた!けど、実体化した今なら斬れるはず……!)
刀を支える手首に力を込め、跳ね上げるようにして一気に振り抜く。霊力を纏った刀は、至近距離に迫っていた弾幕をまとめて斬り飛ばした。
しかし視界が開けた頃には、次なる弾幕の波紋が展開されており、妖夢は再び来るであろう「ズレ」に備える。
波紋はやはり妖夢の眼前で動きを不規則にし、半透明の状態で位置を変えてから飛来した。
一歩下がっては認識するための時間を確保し、全身の感覚で危険な位置の弾を察知して、実体化したのを視ては斬る。反射神経をフルに働かせて、乱れ揺れる弾丸の悉(ことごと)くを切り伏せ生存領域を確保し続ける。
弾速は遅いながらも精神をガリガリと削るような攻撃が止んだ頃には、妖夢は少しずつ後退を強いられたことで距離を離されていた。しかし纏う霊力に揺らぎはなく、全ての弾幕を被弾することなく凌いだことが見て取れる。
「耐え切りましたよ。これで二本です!」
「ダメか。――それなら次よ!」
休ませる暇は与えないとばかりに、鈴仙は二枚目のスペルカードを宣言する。
――懶惰「精神停止(マインドストッパー)」――
刹那、妖夢の視界の端に光弾が映った。チラリと見ると、今度は一点につき三つの光弾が配置されている。
先程と同じように、四点から弾幕を展開するのだろうか。一瞬そう考えた妖夢だが、背筋がザワついてその考えを否定した。
――目の前だけじゃない。このままでは危ないと、本能が警鐘を打ち鳴らしている。
「――後ろ、ですかッ!」
展開されていた光弾は、十二ではなく、二十四。妖夢を取り囲むようにして、光弾たちは妖夢を睥睨していた。
そして――
「精神と肉体を同時に揺さぶられる気分はどう?この物量に、貴方の精神と剣筋は追いつけるのかしら!?」
鈴仙が叫び、全ての光弾が弾けた。
弾幕の形自体は、最初のスペルカードと同じく、それぞれの中心点から球殻状に弾幕が張られている。しかし、一気に六倍になった弾幕。その量は先程の比ではないーー!
最早「弾」と呼ぶのも憚られるほどの超密度の攻撃。全方向から、隙間などほとんど無い光の瀑布が襲ってくる。
(――避けるにはもう遅い。そしてこんな弾幕、「普通には」斬れるわけがない)
「――それなら私も、『使う』までです!」
――人符「現世斬」――
視界を埋め尽くす弾幕球が妖夢を押しつぶすかと思われた瞬間、妖夢はスペルカードを宣言した。
刹那、彼女の全身から白銀の霊力が噴き上がり、それが彼女の握る刀に収束する。
そして、スペルカードに設定された霊力をありったけ込めた一閃を、円を描くようにして――振り払った。
その斬撃は一振りの刀によって生み出されたものとは思えない程に大きく、広かった。刃や纏う霊力に当たった弾幕はおろか、刃の軌道上になかった弾幕までもが、その余波によって消し飛ばされる。
「やああああああッ!!」
妖夢は軸足で空を強く踏み、振り抜いた斬撃の勢いを殺さず身体を翻して周囲を斬りつけた。
そしてそのまま体を独楽のように縦横に回転させながら、斬る、斬る、斬る。
己を閉じ込める光の密閉空間を切り裂き、活路を見出さんと白銀の剣閃を描き続ける
少しずつ、少しずつ、弾幕が妖夢に届かなくなっていく。
刀を一振りする度に、視界を塗り潰していた彩光が、薄くなっていく。
歯を食いしばっていた妖夢の口角が上がる。僅かに、余裕が出てきた。
(この調子なら、いける!)
そう思った、次の瞬間。
「あ、ッ!?」
弾幕が、ズレた。
起こった現象は、先程と同じ。しかし今度は――
振り下ろした刀が魔力弾をすり抜け、空を切った。動揺で、流れるように動いていた身体のバランスが崩れる。
(しまった!忘れて――いや、この姿勢じゃ、対応できな――)
死に体になった妖夢の背中に、魔力弾が直撃した。
「ぐぅっ……!」
妖夢の被弾と同時に、迫っていた弾幕はパッと掻き消え、恒星の中にいるかのように照らされていた周囲に、本来の自然光が戻ってくる。
妖夢の身体にダメージは無かったが、霊力の衣の上から衝撃は伝わっていた。必死に体勢を立て直そうとする妖夢だが、衝撃を打ち消しきれず、下方へ吹っ飛ばされる。
しかし、流石というべきか。器用にも空中で身を翻すと下方に霊力を集中させて、地面に叩きつけられる前に衝撃を緩和し着地してみせた。
「はあっ、はあっ、対応……できません、でした……っ」
「ふふん。これで私も一本、ね」
肩で息をする妖夢から少し離れた地面に鈴仙が降り立ち、得意げな表情を浮かべる。
「……既に私は、二本取っていますから……優勢なのは、変わらない、ですよ」
妖夢がのたまうが、策が成功したことで勢いづいている鈴仙は意に介さない。
「問題ないわ。疲れてるあんたのスペルカードを一枚避けきって、あとは私のラストスペルで押し切ればいいだけだもの。」
「そう上手くいくと、思わないでください、ね」
息を整えた妖夢はそう言い返し、再び刀を後ろに引いて姿勢を落とし、瞳を光らせる。寸刻前の激しさとは一転、水面のように静かな、そして鋭い構えだ。
その視線を受けた鈴仙もまた、指で形作った銃口をまっすぐ妖夢に向け、余裕の笑みは絶やさないままに対峙する。
二人は互いに目を逸らすことなく、出方を窺う。そして同時に弾幕を展開するための霊力を練り上げると――
「あら、このお酒美味しい~」
いつの間にか酒瓶とお猪口を持ってきて吞み始めていた幽々子の声に、せっかく固めた霊力を霧散させてしまうのだった。
「ちょっと幽々子様、お酒を呑むのはいいですけど、そういうことはもっと小さな声で言ってくださいよぉ」
(ああ、人の決闘を肴にお酒を飲むこと自体はいいんだ)
どこかズレた文句を言う妖夢に、鈴仙もまた気が抜けて言う。
「そうですよ、少なくとも配慮はしてください」
「あら、邪魔しちゃった?ごめんなさいねぇ。でも、最初からこれは『余興として』お願いしたことだし、あんまり張り詰めないで、楽しくやりましょう?」
どこまでものほほんとした様子の幽々子に、二人とも苦笑いを浮かべてしまう。
どうします?と妖夢が目線で訊いてくる。「どうします?」とはおそらく、本気で続けるか、それとも余興と割り切って遊びとして続けるか、ということだろう。
鈴仙はしばし悩んで、こう声を発する。
「私、最近屋内の仕事ばかりで体がなまってるのよね」
それを聞いた妖夢は、一瞬きょとんとするも直ぐに鈴仙の考えを察して言葉を返した。
「そういえば私も、激しい戦闘というのは久しぶりかもしれません」
どうやら私たちは、同じことを想っているらしい。
幽々子はああ言っていたけど、折角の機会だ。存分に楽しむのも、良いんじゃないかしら。
「「どうせなら――」」
「全力で撃ち抜いてあげるわよ」
「全力で斬り伏せてあげますよ」
そうして紅い銃弾と銀の斬撃が飛ぶのを合図に、銃士と剣士の遊戯(けっとう)は再開されるのだった。
「あらあら、二人ともムキになっちゃって。」
ひとり置いて行かれてしまった幽々子はひとりごちる。
予想していたのはもっと和気あいあいとした弾幕ごっこだったのだが、思いがけず真剣勝負になってしまった。
「これなら、もう少し辛いお酒の方が合ったかしら。」
しかし、そう言いながら幽々子は、弾幕の雨の中を舞う二人の表情を見て。
「……いや。やっぱり、この甘いお酒がちょうど良いわね」
と、満足そうにお猪口を傾けた。
「わわ!――っとぉ」
鈴仙の長い耳を掠めるようにして、赤青の斬撃が走り抜けた。
「あっぶない……妖夢貴方、突然狙いがえげつないんだけど……さっきまで真剣じゃなかったの!?」
普段緩やかに折れている耳をピンと立てて、大きく飛びずさった鈴仙が叫ぶ。
「そんなことは無いですよ。牽制が攻撃に変わっただけです」
「それは十分真剣って言うのよ!」
やはり抜けたことを言う妖夢に、お返しとばかりに両目と心臓を狙った精密射撃を行う。が、妖夢は心身共に消耗しているとは思えない剣捌きでそれらを切り捨てると、遠距離を保とうとする鈴仙に迫った。
至近距離から放たれる斬撃を全力の身のこなしで回避しながら、鈴仙は自棄とも思えるような大量の魔力弾を狙いもつけずにばら撒く。
「さっきまでの自信はどうしたんですか?私が3枚目――ラストワードを発動する前に被弾しちゃいそうですよ!?」
それらを叩き落としながら、尚も妖夢は鈴仙に無数の斬撃を飛ばす。
「うっさいわねぇ!それなら、さっさと発動せざるを得ない状況にしてやるわよ!」
そう返しながらも、鈴仙は無理な態勢で回避をしようとしたためバランスを崩す。
しかし、その隙を逃さず、妖夢が大きく刀を振ってそれを狩り取ろうとした瞬間、
「なっ!?」
空中で仰向けに投げ出され身動きの取れないはずの鈴仙が、まるで最初からそこにはいなかったかのように姿が掻き消え、何歩も離れた位置に出現した。自身の存在位置の波長をズラしたのだ。
「引っかかったわね」
そして妖夢が再び動き出す前に、鈴仙がパチンとフィンガースナップをする。
すると「先程ばら撒いておいた」大量の弾幕が、鈴仙と同じように突然妖夢の周囲に現れ、妖夢に向けて一斉に放たれた。
妖夢がスペルカードを切らなければいけなかった、全方位からの高密度弾幕。それを、波長を操ることで、スペルカード無しに再現された。
もちろん、弾幕の量はスペルカードには言うに及ばず少ない。しかし妖夢も、激しい猛攻を押し付けて誤魔化してはいるが中身は大きく消耗している。
それが意味することは、妖夢はまたもスペルカードの力に頼らねば、これを凌げる可能性は低いということ。
――いや、それだけではない。鈴仙はスペルカードを「使わずに」この攻撃を行っている。
つまり、妖夢の反撃のスペルカードで攻撃を凌ぐだけでなく、鈴仙の被弾にまで持ち込まなければ、妖夢が被弾するまで全方位弾幕を展開され続けて詰みだ。
「――ここが勝負どころですね……!」
妖夢は刀を握る腕で汗を拭うと、刹那の間に精神を研ぎ澄ませ、「その符」を左手に握る。
「この攻撃を正面から打ち破って、決めてみせる!!!」
そして妖夢の口から、全身全霊を込めた符――ラストワードが――唱えられた。
――「待宵反射衛星斬」――
妖夢の瞳が、紅く輝いた。
全身の霊力が滲むように瞳と同じ紅に染まっていき、静かに纏っていたそれがゆらゆらと暴れ始める。そして――彼女の姿が消えた。
月の狂気の力を帯びたその剣閃は、彼女が剣を振る動作すらも見えないまま。自身を取り囲む弾幕を意にも介さず、鈴仙と自身の間を阻む物全てを斬り刻みながら稲妻の如く突き進む。
その軌道には無数の紅い楔型弾が残され、まるで流星のように彼女を追随した。
あまりの高速突進に、時間すらも流れが追い付かない。光が彼女の紅に吸われてしまったかのように、周囲の物体が色褪せて見える。
しかし。
その刃が鈴仙に届くと思われた瞬間、
「『その』狂気じゃあ、私には届かないわ」
鈴仙の口が、三日月に裂けた。
……この決闘の間だけで、一体何度彼女に騙されただろう。
ただのスペルカードだけじゃない。ラストワード――己の持てる力と技術の、極限を込めた符。月の狂気の魔力という、大きな大きな力。それを借りて放つ、自分の力以上の技だ。そんな技が――
――こんなにも易々と、打ち消されてしまうなんて。
華奢な手が、刃先をつまんでいた。たったそれだけのことなのに、まるで刀が動くことを拒否しているようだ。どれだけ力を込めても、刀を握る手に狂気の力を収束させても、ピクリとも動かすことができなかった。
焦る私に反して余裕の表情を浮かべている鈴仙が訊いてくる。
「忘れたの?」
「……何を」
「私は、『狂気の月の兎』なのよ?」
――ああ、そうか。
「月の波動を、狂気の魔力を操るのは、私の特権」
目の前で嗤うその少女の瞳は、私以上に妖しい紅に輝いていて。
思わず、あまりにも相性の悪過ぎた自分のラストワードを呪う。
「なら……自分の力だけで、勝つのみです……!」
そう叫び剣を引き剥がそうとするも、「遅い」という声とともに、私の胸に1発の魔力弾が当たって弾けるのだった。
被弾したことで符の効果が切れ、纏う霊力から紅が抜けていき本来の白銀へと戻っていく。
「これでお互いに二本。そして貴方はスペルカードを使い切って、私は一枚残してる。」
「……」
妖夢は鈴仙との距離を保ち、無言のまま彼女を睨む。
「今優勢なのは、どっちかしら?」
……言うまでもなく、鈴仙だ。
普通のスペルカードだって、今の疲弊した妖夢には防ぎ切れるか分からないのに、目の前の少女が放ってくるのはラストワード。そんな圧倒的な弾幕を前に、己の技量のみで立ち向かわねばならないのだ。
妖夢はそれを考えて苦々しい顔をする。
自分の剣は、これから展開されるであろう弾幕についていけるのかと、不安だった。不安だったが、しかし――
「例え劣勢であろうとも、真剣勝負の最中に剣を降ろすことは、ありませんよ。」
諦めたわけでは、ない。
「ほんとは、さっきみたいに弾幕球で閉じ込めてやれば私の勝ちなんだけどねぇ……」
「情けでもかけるつもりですか?そんなことは――」
「違うわよ。どうせなら、全力を示した上で勝ちたいから――」
どこまでも余裕を崩さないまま、鈴仙は告げる。
それと共に、周囲の景色がグニャリと歪み、降り注ぐ陽光が赤黒く濁り始めた。
「私も必勝の符――ラストワードを、魅せてあげる」
――「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)」――
世界が、紅く染まった。
歪む視界の中、鈴仙は、妖夢の使った月の狂気が児戯に思える程のオーラを放ちながら腕を伸ばし、指先に霊力を集中させる。
そして次の瞬間、赫灼たる弾幕の薔薇が、鮮血の散るが如く狂い咲いた。その薔薇はまるで万華鏡でも覗いているかのように姿を二重にも三重にもブレさせ、残像を引き連れながら拡がり迫る。
「これは……さすがに……」
妖夢は直後の迎撃のために刀を握り直すが、その表情は苦渋に満ちている。
だって、どこに弾幕の実体があるのか、全く把握できないのだから。それどころか、弾幕以外の物――自分の刀ですらもはっきりと認識できないでいた。この狂気の荒波(ラストワード)は、それほどまでに妖夢の意識をぐちゃぐちゃに掻き乱していたのだ。
赤黒く、どこかスローモーションのように映る視界の中で、弾幕を何とかして認識しようと目を眇(すが)める。しかしまっすぐに飛翔しているはずの弾幕は極小の転移でも繰り返しているかのようにジグザグに動き、刀はしっかりと握る感触とは裏腹に刀身が震えている。
範囲攻撃をあまり用いない妖夢にとって、技の精度が落とされることは致命的だ。現に彼女はどうしても弾幕を斬るビジョンが見えず、迂闊に身動きが取れずにいる。
しかし、妖夢はそのことに強い焦燥を感じながらも、今にも狂気に飲まれ零れ落ちそうな僅かな理性で、必死に弾幕を見極めようと観察に徹していた。
迫る、迫る。
弾幕でできた薔薇は、目を見開き、歯を食いしばりながら凝視し続ける妖夢を飲み込まんとして拡がり続ける。
探す、探す。弾幕の中に必ずあるはずの、ルールに則った欠陥――避けるための方法を。
そして、ついに薔薇の花弁に、妖夢が飲み込まれた。
まるで炎の中にいるかのような弾幕の内部。妖夢はほとんど勘と本能だけで弾の実体をなんとか避けながら、尚もその狂気を視続ける。
探して、避けて、探して。
「――見つけた――」
心というのは、たくさんの思いが複雑に絡み合ってできている。別々の場所にある数多の意識が適切な距離と角度で同時に物事を見据えることで、人間はそれを立体的に、一つのモノとして見ることができる。
それが狂気に侵されるとどうなるか。その心は乱雑に、無遠慮に、秩序無く掻き乱され切り離されてしまう。視界がブレて何重にも見えるのはそのせいだ。離れた意識同士が適切な距離を保てなくなり、別々に認識しようとしてしまうから、モノを一つに捉えられない。
――ならば。切り離されて何重にも視界に物体を映す意識を――どれが実体か判らない、そんな迷いを、「正しく斬れば」?
斬ったことで新たにできた意識同士の距離。それによって、意識が見せる景色のピントを合わせることが、出来はしないだろうか?
常人なら即座に切り捨てるであろうその考えを、妖夢はふと信じてみようと思った。目を閉じ、納刀した楼観剣の代わりに白楼剣を抜いて、自分の中のバラバラになった意識を眼前にイメージする。
脈打ち、揺れている。その振幅の乱れや位相のズレを観察し、「正しく斬る」ための間合いを計る。
そして一瞬の後、妖夢は目を開き、袈裟懸けに白楼剣を――振り下ろした。
弾幕が、すべて斬られていた。
周囲を光の瀑布が覆うその向こうに、動揺している鈴仙の姿を確認する。そしてそれをまっすぐに見ると、白楼剣を握っているのとは反対の手で楼観剣を抜きざまに振り払って、その刀身に込められた霊力を撃ち放った。
「信じられないんだけど……」
鈴仙が愚痴ってくる。
「と言われても、本当のことなんだから仕方がないじゃないですか……」
弾幕ごっこは、私の勝利に終わった。ラストワードを突破された上、その動揺で、私の撃った霊力弾を避けられなかったのだ。
私が鈴仙のラストワードの突破口に気づけたのは、正直勘だった。
視界に映る弾幕は、意識の数だけブレ方のパターンがある、とは考えていた。それは正しかったのだが、運が良かったのは、そのパターンが私の場合、二種類しかなかったことだ。
おそらく、私が半人半妖だからなのだろう。人間の部分に「思い」が集まり、霊体の部分に「意志」が集まっている。そうして最初から意識が二つにまとまっていたから、狂気に乱された際も、二つの大枠から外れなかったのだろう。
……まあ、これは私の予想に過ぎないのだけれど……。
「あーあ、敗けた敗けた。そんな風に私の狂気を突破されるとは思わなかったわ。……憂鬱だわー、春菊料理は手に入らないし、結構時間を喰っちゃったからお師匠様に怒られそうだし。」
地上に降り立ち、二人並んで幽々子の下へ歩きながら話す。
「でも鈴仙さん、結構楽しそうでしたよ?私も楽しかったですし。」
「……まあ、楽しいは、楽しかった」
「楽しかったなら、良かったわ~。二人ともお疲れ様。」
幽々子がいつの間に用意したのかお茶を飲みながら、そう出迎えてくれた。
「私も綺麗な弾幕をたくさん見られて楽しかったし、鈴仙ちゃんにも春菊料理は振舞ってあげるわ。」
「良いんですか?やった!」
「永遠亭にも、お土産に少し持ち帰ったらどうかしら。貴方のお師匠様も、お説教は勘弁してくれるかもしれないじゃない?」
それだ!と喜ぶ鈴仙。私はそんな彼女に持たせる料理を作るため、追加の春菊を取りに行くのだった。
酒の肴に弾幕ごっこをやらされて、余興の遊びにマジになって、大団円……東方プロジェクトの原液の部分を飲まされた感じがしてすごくよい
かなり好きです
戦いの中でお互いへの理解を深めたような妖夢たちがとてもよかったです