Coolier - 新生・東方創想話

恠竒骨董音樂匣

2025/07/13 12:01:40
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 真っ暗な廊下の突き当たりに、ぼんやり光がともった。灯かりを手にしている夜警のメイド妖精は、ホイッスルを口に加えてぴいぴい(明らかに息切れして)鳴らしながら、廊下を駆けてくる。しかし、その後ろにぴったりついてやってきて、ブリキのメガホンにヒッコリーの警棒をがんがん打ち鳴らしている同僚の方がうるさい。
「ああ、本当にうるさい。――どうしたのよ」
 自室でごろごろと漫画を読んでいた館の主人がぼやくのも、当然だった。
「賊です」
 と、いつの間にか傍らにいて説明してくれるメイド長。
「更に人種を特定するなら霧雨魔理沙です」
「人種を越えて個人まで特定してくるじゃない。……で、こんなに大騒ぎしているときたら、狙われたのは図書館じゃないみたいね」
 自分の友人に対しては残酷な話だが、それくらいの判断はできる。今宵のメイド妖精たちの狼狽は、ちょっと意外なくらいだった。
「……あいつがなにを盗りに来たか、こっちにも多少の心当たりがありますわ」
「ふうん、どんな?」
 咲夜がぽつりと呟いたのに、レミリアは興味を持つ。
「こないだ、香霖堂でエレキをもらったって、自慢していたのを聞いたんです。なので、奴の標的はたぶんギターアンプになるんでしょうね」
「なるほど」
 咲夜にしてはこれ以上ないくらい明快で筋の通った推理だった。

 被害は最小限だった――というより、これくらいしか持ってゆけなかったのだろう。
 盗難に遭ったのは、楽器用のシールドケーブルやストラップといった小物をのぞけば、ギターアンプ一つだけ。フェンダー・ベースマン――真空管をはじめとした電子部品、4発の10インチスピーカー、外装のパイン材やツイードカバーから構成される、重量25キロ近くになる怪奇骨董音楽箱。これをえっちらおっちら運ぶだけでも少女の細腕には大仕事だったろうし、それだけにこれ以上の蛮行を諦めさせるには充分だったように思われる。
 しかし、その他の楽器が今後も盗難被害を受けないとは限らない。紅魔館のみなが所蔵している、ささやかな音楽機材や楽器たちは、その内訳を目録化して、現状を整理する必要に迫られた。
(誰か、そういう仕事をやってくれる暇人が――)
 十六夜咲夜はそんなことを思案して、まっさきに思い浮かんだ人物を目録の作成係に指名した。

 集められつつある楽器たちはステージからゆうにはみ出していて、あやうく大広間からもあふれようとしていた。
「マジかこれ」
 マジである。
 紅美鈴はこの館の住人の楽器の所蔵量に若干引きながら、それらをいちいちリストアップしていくという行為への予感に気圧されつつあった。少し頭を左右に振って見渡すだけでも、なにか得体の知れない電子機器、古楽器、壁のようなスピーカー群といったものが目につく。
 しかし、あのあたりはまだまだ運び込みの最中なのだし、後回しにしておこう。もちろんのこと、そうしたものものしい楽器ばかりではないのだ――リコーダーとか、鍵盤ハーモニカといったものもある。そうした楽器は多くがメイド妖精の持ち物だ。

 この館が週二時限ほど――四十五分から一時間程度を一時限として――音楽の時間を導入したのは、数年前の事だ。使用人の福利厚生と統率の強化を兼ねていたはずの当初の目的はほぼ破綻し、結局は騒がしいチンドン屋ができあがっただけだった。
 妖精たち個々人に支給されたはずのリコーダーや鍵盤ハーモニカさえ、今となっては個々人の所有物といった感じではない。口をつけた後の貸し回しが当然のそれらは、パーツの紛失、破損、汚損(汚損……?)等も当然のように発生しているようで、たとえばリコーダーでは頭部管・中部管・足部管を紛失したもの同士によるニコイチもしくはサンコイチといった補填が横行していた。これではしっかりとした目録が作成できないが、美鈴はこの方面の集計について、はなから諦める事にしていた。
 もっとも、メイド妖精の中にも多少は音楽におぼえのある連中がいる。つまり、箒やはたきといった適当なものを与えると、それをギターやヴァイオリン、フルート、ウクレレ等に擬して、実に真に迫ってその楽器の上手のように振る舞える――ようするにエアギター、エアヴァイオリン、エアフルート、エアウクレレといった事を、非常に上手くやれる妖精も、いない事はない。こうした連中はバックグラウンドに適当な音楽をかけておけば、雰囲気を作ることだけは一流だった。
 こんな調子のメイド妖精とは別に、近頃興味深い音楽文化を見せているのが、何年か前に大量に雇われてきたホフゴブリンたちだった。彼らの中の洗濯場で働く者たちが給金を出しあって中古のギター(そこまでしゃんとしたものではない。ハーモニーのパーラーギター)を一本買い、そこに鉄弦を三本張って、他には葉巻の空き箱(人里の道具屋かどこかから譲り受けてきたらしい)で作ったギター、茶箱のベースやカホン、洗濯板などを使って、がちゃがちゃやっていたりする。
(あれも別に盗まれるようなものではないしなぁ)
 と、美鈴はいいかげんに集計した。
 結局、彼女が本格的に立ち向かわなければならないのは、なにか得体の知れない電子機器、古楽器、壁のようなスピーカー群といった「ものものしい楽器」たちだった。

 そこにひょっこりと手伝いが現れる。小悪魔ちゃんだ。なんでも彼女の説明によれば、パチュリー・ノーレッジが所有している大層な電子楽器群は、コード(電子的なものではなく魔術的コード)による管理化が既に完了しており、紙に出力するまでもないのだという。
「……でも、できれば紙に書きだして欲しいなー、なんて言ったら?」
 その時には自分がワードプロセッサになるしかないでしょう、と美鈴に対して答える小悪魔。
「ふーん。じゃ、ちょっとやってきてよ」
 少し待つと、小悪魔はぶっきらぼうにパチュリーの所蔵楽器リストを突きつけてきた、そのローマン体で記された書字の綺麗さを見て、ああ見えて官僚的な子なのね、と美鈴は思った。中華圏を故地とする彼女にとって、極言してしまえば官僚とは、膨大な先例に照らし合わせつつ書体から文書様式や決裁印に至るまで、端整な公文書を作成する作業に特化した人間ワードプロセッサであって、あの帝国の大仰な官僚試験制度は、そうした人間ワードプロセッサを量産する制度だったのだろう。
 といったあやしい東洋文明論はともかく、美鈴は提出されたリストに目を通すと、ややあって小悪魔を呼び止めようと声をかけた。
「……あの、ちょっとよかですか?」
 既に二歩三歩と離れかけていた小悪魔は、ぎくしゃくと手足を空振りさせながら振り返った。意外と愉快なリアクションをする子なのだな、と思う美鈴。
「なんです?」
「このリストのこの部分、名前の重複する楽器がいくつかあるんですけど……」
「……ああ、そのアープ・オデッセイはたくさんあるんですよ」
「たくさん」
「うちには九台ありますね」
「バカの買い物じゃないですか」
 どう見ても年代物の、骨董物の、お高そうなアナログシンセサイザーがそんなにあると聞いて、美鈴はあきれかえった。
「でもね、細かく仕様が違うんですよ。うちにあるのはモデル2800、モデル2810、モデル2811、モデル2812、モデル2813、モデル2820、モデル2821、モデル2822、モデル2823……」
「いやまあそういうものだろうとは思ったんだけどね」
「特に後期型のローパスフィルターは、初期のモデルや、そこにCVゲートを設けた中期型と違ったものが搭載されているので、出音のニュアンスがまったく違うらしいんですよ」
「その説明でも二台、多くても三台あれば充分に聞こえるんだけど……」
「私もパチュリー様の受け売りはここまでなので、弁護ができるのもここまでです」
 どうやら、同じ疑問をぶつけた事が、彼女にもあったらしい。
「……少なくとも、外装はけっこう変化していますよ……ほら、これなんか。黒と金の操作パネルがかっこいい!」
 まあ見た目は大事よね、うん。と美鈴も同感はする。
 でもその理屈だと、ますます気に入った見た目の一台で充分じゃない?

 その他にも、異星人との交信実験にでも使うのかと見まがうばかりの、同じくアープ社製のモデル2500やらブルーのコンソールが清新なモデル2600、また木製家具のような趣のブックラのモジュラーシンセサイザー、誰もがなんらかの形でその音色を聞いた事があるであろうモーグ・シンセサイザー、独特のマトリクス方式によるパッチ機構を有するEMSのシンセサイザー……といったものに美鈴は目を白黒させた。
 問題は、パチュリーが所有している楽器がこうしたシンセサイザーのみに限らないという事だ。ギターやヴィオラといった弦楽器も所有していたし、エレクトリックオルガン、エレクトリックピアノ、メロトロン、クラヴィネット、ハープシコード、オンド・マルトノ、オムニコードといったものなども大量に流れ込んできた。
「おっすやってるかーい」
 電子発振器やリール式録音機といったものを楽器に分類すべきなのかという問題に首をひねっているところに、レミリア・スカーレットがやってきた。
「私の楽器も見といてちょうだいよ」
 とメイドを引き連れて気軽に持ってきたものたちが、意外にごく少数の楽器や機材だけだったのが、なんだか安心させられる。それと同時に、やはりパチュリー・ノーレッジの買い物はバカの買い物なのだろうとも思った。
「あともうちょっと、自室にアンプなんかあるんだけど、運ぶのに時間がかかってるね」
「別にわざわざ、こっちまで運んでくる必要無いんですけどね?」
 など言っているうちに、なにか重いものが複数人数の力を合わせて運ばれてくる、そんな騒ぎが聞こえてきた。紅魔館には重量物を上階に搬出入できるような巨大な窓が無いので、吊り下げ作業を行うわけにはいかない。かわりに廊下に簡易のレールを敷いていた。階段の急坂にもこれを敷設して、アンプヘッドとスピーカーキャビネットを括りつけた架台を滑り落としていた。もちろんそのまま重力に従って滑落させるわけにはゆかず、上からは括りつけたロープを少しずつゆるめて徐々に下ろしていき、下でも何人かが架台を支えて、大階段を一段ずつ降りているようだ。
「大丈夫なんですかね」
「まあ……ホフゴブリンにやらせてるしたぶん大丈夫でしょ」
 やはりメイド妖精はあてにならないらしい。
 やがて、大広間の外で達成感のある歓声と拍手が湧いて、レールに載ってアンプが運び込まれてきた。割と不思議な活気と盛り上がりなのだが、そういう空気感もけっこう嫌いではないレミリアと美鈴は、無事二階から運び下ろす事ができた70キロ超のアンプを、上品な笑みと拍手で出迎えた。

 その後レミリアの楽器コレクションを集計しながら、美鈴はぼそっと言う。
「それにしてもこのお屋敷、もっとこう、変なものとかないんです?」
「変なものってなにさ」
 と言うこの屋敷の主人は、この場に安楽椅子を持ち込ませて、エレキギターはこれ一本しか持っていないという真っ赤なSGジュニアを、生音でぴんぴん爪弾いていた。
「なんかこう、悪魔の館らしく、呪われた楽器とか……」
「なんで楽器が呪われていると悪魔の館らしいのか、因果関係がわかんないんだけど」
 レミリアは言いながらギターを傍らの従者に渡し、代わりにフルートを持って来させた。
「結局のところ、呪われているのはモノではなくコトでしょ」と、黄金色のきらびやかにたたずむフルートを手にする。「こいつは総金よ。ふつう銀や、銀の含有量が多い合金でまかなっているパーツに至るまで、できる限り全部金製」
「やっぱり銀器とかだめなんです?」
「まあ別に言うほど無理ってことないんだけど……いやちょっと唇がヒリヒリするかな……」
「ただの金属アレルギーみたいですね」
「あのね、銀は一般にアレルギー症状が出にくい金属なのよ……いや、なんで吸血鬼の私が銀について弁護してるのよ……ともかく、それよ」
「どれよ?」
「フルートそのものよりも“あんた銀製の楽器が吹けるとか吸血鬼としてどうなんだ”とか、そういう難癖付けてくる奴らにかけられた呪いの方がひどいって話」
 あー……と美鈴も納得しかけたが、一応思ったことを言ってやる。
「日頃の行いのせいじゃないですかね」
「まあ、世間に悪名を欲した時期が無いとは言えないからね。報いではあるのかも」
 その後、少しの間、作業だけに徹する時間が流れて、主人に構う事をしなかったら、唐突に別の話題を振ってこられた。
「……そういえばあんた、私があげたギターは大事にしてる?」
「あ?……あぁ、してますよぉ」
 恩着せがましい言い方をされたが、話題に上がったレスポール・デラックスは、単に流れ流れて美鈴の部屋の隅に居座る羽目になっただけだ。このパンケーキボディの、メイプルの木目がうっすら透ける濃いワインレッドのギターは、お嬢様のお気に入りになりそうなものだったのだけれど、残念ながらそうはならなかった。しかし、それもしょうがない――めちゃくちゃ重いのだ。なんと5.5キログラム(!)。こんなものを肩に担いで一、二時間も演奏したら、肺気腫にでもなっちゃうかもね。お嬢様はならないはずなんだけど(ちなみにお嬢様のSGジュニアは2.5キログラム)。
 というわけで、この5キロ超のレスポール・デラックスは館の中を巡り巡って、最終的に美鈴が手遊びに爪弾くのに使っている。アンプに繋いだ事すらほとんどない。
 こんな調子で流れてきた楽器が、美鈴の部屋には他にもいくつかある。誰が弾くでもないのになぜか購入してしまった高級バンジョーとか、安物のチェロや、サックスといったもの。美鈴の部屋はそういったものがなんとなく行き着く場所らしい。
 かわりに、自分の楽器――少なくとも自分のルーツ、中華的なるものに連なるようなものが、意外に希薄だという事にも気づかされる。二胡くらいは持っているけれど、あれも上海の観光客向け土産物店で売っているような、安物だ。結局、美鈴はおおざっぱで、こだわらない女だ。自分が何者であるかに悩んだことはあまりなく、その証明にしたところで身一つあれば充分表現できるというような女だった。
「たまにはアンプから音出してあげなよ。ほんといいギターなんだよあれ」
「アンプ取られちゃったんですよ、妹様に」
「あいつもっとちゃんとしたアンプ持ってるでしょ」
 といった会話を主従で交わしていると、話題のフランドール・スカーレットがやってくる。彼女はなぜか運搬用の架台に乗っていて、レールに沿ってスライドしながら大広間にやってきた。フランドールはなぜか(今この場で行われている作業を考えれば、別になぜかでもないのだが)愛機の一つであるグレッチ・ホワイトペンギンを肩にかけていて、架台の上には他にヴォックスの巨大なコンボアンプが載っている。ギターはもちろんそこにプラグインされており、アンプの真空管にも電源が入って熱々に光っていた。
 そんなふうに大広間に突入した彼女がやった事はといえば、明白なCコードを、明快なダウンストロークで、じゃーんと鳴らす事だった。
「なに考えてるのあの子……」
 とフランドールの姉が言い、フランドール当人が自慢げに言い返す。
「なに考えてるのって、超かっこいい妹様の登場よ」
 フランドールの姉は開いた口が塞がらなかったが、美鈴はできるだけ「バカなんじゃないですかね」といった率直な言及は避けるようにして、珍しく実務的な指摘をした。
「……妖精たちが遊びに使っちゃいそうですし、レールは早いところ撤去させた方がいいですよ」
 言うが早いか、大広間の外で、脱線事故の発生する音がした。

 フランドールは、楽器といえるものをエレキギターしか所有していない。いや、正確には二世紀ほど前、姉レミリアと仲良く工房に発注したヴァイオリン――これが姉と同様の木材を分けあって作らせたものなので、正しく“姉妹品”なのだ――なんてものもあるにはあるのだが、逆にいえばその程度しか楽器というものに触れた事がなかったようだ。
 他の楽器には興味も持たなかった彼女が、どうしてエレキギターには惹かれたのか。様々な発言から想像するしかないのだが、結局のところは以下の三要素によるのだろう。「優れたデザイン性、おもちゃ的なカスタマイズができる拡張性……そしてなにより、ものすごく大きな音が鳴らせる!」

「この子たちキズモノにしたら殺すから」
 やらかしたら本当に殺されそうな感じでにこやかに言われて、美鈴はおそるおそるリスト化の作業に移った。
 が、彼女とて別に十とか二十も棹を持っているわけではない。姉もそうだが、収集欲という点では、意外につつましいところがあった(ここに自制心が働かない、働かせるつもりもない人種は多い。パチュリーのように)。
 数点のアンプやエフェクター、ギターストラップ――バラ柄のパターンが織り込まれているジャカード織りのストラップを、その日の気分の洋服のように着せ替えるのが好みらしく、これはやや数が多い――などを除いてしまえば、楽器といえば先にも述べたヴァイオリンに加えて、エレキギターが四棹。
 ホワイトペンギンは、フランドールのような女の子が構えて、ようやくギター本体のきらびやかさに負けないのではないかというくらいゴージャス。
 チェリーレッドのフライングVは「はっきり言って音はカッスカス(本人談)」らしいが、そうは言いつつも見た目が気に入って購入したので、なんだかんだと思い入れがあるらしい。
 それより以前、初めて手にしたのは、悪魔みたいに真っ赤なシルバートーンの安物ビザールギターで、レミリアのお下がりだったそうな。
 で、もう一つのギターは、おそらくフェンダー社製のテレキャスターか、少なくともそのコピーモデルなのだろうと思われる。“おそらく、少なくとも、思われる”など微妙に自信なさげなのは、素人目にも常軌を逸しているとしか言いようのない改造が繰り返されていたからだ。
 塗装は、返り血をべっとり浴びたようだけれど、杢目を潰さない繊細な朱漆塗り。トーンコントロールは自作のトレブルブースターにとって代わり、それとは別にスイッチを入れただけでノイズを垂れ流す発振ファズまで搭載しているが、その操作機構はジョイスティックによるX軸とY軸の遷移で賄われている。そうしたコントロールのそばにある、いくつかのミニボタンを押すと、どういうわけかスペースインベーダーやピンボールの各種効果音が鳴った。このあわれなギターをそこまで改造し倒しても、フランドールという暴君は満足できなかったらしく、更には弁当箱のようなディストーションエフェクターが、ダクトテープで乱暴にボディに縛りつけられている。

 フランドールがこのギターを過剰なまでに改造していくより以前、このテレキャスター(おそらく、少なくともそのコピーモデルではある、と思われるギター)の一枚板のボディは、ネックが取り除けられて塗装も完全に剥がされた、丸裸の存在として打ち捨てられていた。
 パチュリーが知ったような口で解説するところによると、「昔のことだけれど、エレキギターの塗装を剥がして、こういうナチュラルフィニッシュにするのが一時期流行っていたのは確かね。木材が呼吸しやすくなって、音が良くなるだとか、当時のヒッピー的自然主義思想も相まってね」という事らしい……また、この知識人はボディ材をヌカセンかサッサフラスだろうと推理もした。エレキギターの材としてはわりあい珍しいものだ。
 しかし、どんな説明を受けようが、こんなもの呼吸するまでもなく死んだ木でしょ……としかフランドールは思わなかった。それでも、この、載せるべきものを失ったステーキ皿のような死んだ木の、なにを気に入ったのか偏執的に改造し始めたのもまた確かだった。

 そうしたギターたちの他に、フランドールは消耗品まで提出していた。弦やピックといったものだ。
(これくらいの小物の管理は自分でやって欲しいものだけれど……)と美鈴は思いながら、それらがを収納している、飾りつきの小箱を開けた。中には付け爪のようなサムピックとフィンガーピックがいくつかに区切り分けされて入っていて、またギターの弦セットも整頓して並べられているが、なぜか弦のセットが三種類ある。
 この弦も、妙なこだわりというか、おそろしく込み入った使い回しが発生していた……三種類の弦のセットを組み替えて、自分独自のカスタムゲージを作っているらしい。
どういう事かというと、まずは小箱の中から出てきた暗号メモを、以下に参照する。

「A1-A2-A3-B4-C5-B6」

 美鈴も最初は首を傾げたが、たぶんABCは三種類のセット弦それぞれを暗号しているのだろうと気がつく……元々のセット弦の組み合わせは以下の通り(数字の単位はすべてインチ)。

Super Slinky (.009、.011、.016、.024、.032、.042)…これをAとする。
Regular Slinky (.010、.013、.017、.026、.036、.046)…これをBとする。
Power Slinky (.011、.014、.018、.028、.038、.048)…これをCとする。

 これらのセットに先の暗号を対応させると、次のようになる……

「A1-A2-A3-B4-C5-B6 (.009、.011、.016、.026、.038、.046)」

 もちろんのこと、よほどの凝り性でもなければ、こうしてギターのセット弦をあちらこちら組み変えるという事はやらない。
「というか、好きな太さのバラ弦をそれぞれ買っておけばよくない?」という、台無しな感想を漏らす美鈴だった。
 しかしながら、そこで別の疑問がふと生まれる――こうして自分のお気に入りのセットを作っておいて、そこからあぶれたものたちはどうなっているのだろうか。

「B1-B2-B3-A4-A5-A6 (.010、.013、.017、.024、.032、.042)」
「C1-C2-C3-C4-B5-C6 (.011、.014、.018、.028、.036、.048)」

 残っているのは、こうした二つの組み合わせだと考えられる。それらはいったいどこに……
「そういえばお姉様、ギターの弦欲しくない?」
「んー? うん、いるいる」
 ……のんきな姉妹のやりとりが聞こえてきて、今しがた持ち上がった謎は一瞬で解決してしまった。まあ、妹様はそういういたずらっぽさがあるし、お嬢様もそういうところにこだわらない。それでこの館の物の流れができあがっているのなら、それでもいいではないか。
「ねえ門番」
 フランドールが今度は美鈴に声をかけた。
「ギターの弦、ちょっと余ってるんだけど、いる?」
「あ、いいんですか? いつもありがとうございます」

 誰の所有物というわけでもないが、この大広間のステージの上で備品と化しているものもある。魔理沙が盗んでいったアンプも、元々はここにあったものだった。
「こんなスペースあったんだ」
 フランドールがそんなふうに言ったのは、普段から中割幕が閉じられていて、なかば物置のようになっていた、ステージの後ろ半分の事だ。
「魔理沙のやつがこの空間に気がついたのはどうしてかしら、やっぱり部屋の奥行きとかに違和感をおぼえたのかしらねえ」
「私らが鈍感なだけかもしれないよ。なんせこのお屋敷、空間が色々とでたらめだから」
「既に意外と広いもんね」
 姉妹が言い合っているところに、パチュリーがふらりと加わってきた。
「ああ門番、もう私の楽器のリストアップは終わった?……って聞きに来たんだけど、ちょうどいいスペースがあるじゃない。私のシンセサイザーなんかもここに置いちゃっといて」
 自分の楽器を大事にしているのか、していないのか、いまいちよくわからないが、パチュリーの指示通りにシンセサイザーをステージ上に運び込ませた。
「私らのアンプもここに置いておけばよくない?」
 主人たちもそう言い出して、そのようになった。
 その間も美鈴はもともとステージ上にあった機材を、特に厳密でもなく、彼女らしいいいかげんな割り切りでリスト化していく。
 積み上げられた専用ケースの中に、ドラムセットの一式があった。メンテナンス用品らと共にメーカーのカタログも見つけたが、どうやらそのカタログ通りのものを購入したと思しい。セットは極めてシンプルな四点もので、シンバルに関しても最低限の数しかないのに、なぜかカウベルのオプションだけがあるのもカタログの通りだった。
 このセットは、あまり叩かれた様子がないどころか、ケースから取り出された形跡すらほとんどなかった。まあこの館の住人、みんな体動かしてドラム叩くのが好きって感じではないかもなぁ、と美鈴は思う。
 そうしたドラムセットの他にもいくつかある大きなスピーカーやアンプをかき分けた先、ステージの隅に佇む鏡の反射がきらめいた。そこにあるのは、十六夜咲夜が所有する、いくつかのエレクトリックベースや、エレクトリックギターだ。

 十六夜咲夜がそれらの楽器を入手したのは一ヶ月ほど前、香霖堂での事だった。
「……近頃なんだか店の様子が変わりましたわね」
 彼女は来店して、いの一番にそう呟いた。店内には、胸下あたりくらいまでの高さのギターやベースが、にょきにょきと林立していたからだ。
「最近、無縁塚で楽器の出物が多いんだって」
 と言ったのは、店主不在の椅子の上にふんぞり返って、バタースコッチブロンドのテレキャスターの指板に指を走らせていた魔理沙ではない。彼女と一緒にこの道具屋に遊びに来ている宇佐見菫子だった。
「楽器屋みたいになってるでしょ」
「正確に言うなら、中古の楽器屋ですわね」
 と、ギタースタンドなども足りない状態で壁に立てかけられたりさえしている楽器たちを、じろじろと見下すように眺めた。
「ちゃんと鳴るの?」
「たいていは大丈夫みたい」と、ようやっと魔理沙も会話に加わってきた。「最近は天気が良かったからね。土埃とかで通電不良を起こしているやつはあるみたいだけど、お掃除すればいい話。霊夢なんかはちょっと心配して、香霖の仕入れについていったけどな。別に、結界とかそういうところに問題があるわけではないと思うよ……これは私の勝手な読みだけど、ちょっとした楽器の蒐集家が亡くなって、そのコレクションが一気にこっちに流れてきているのかもしれない」
「趣味用品の中古市場ってそういう事あるわね」
「まあなんでもいいけどさ」
 と、魔理沙は、ギターをプラグインしていたピグノーズのミニアンプのスイッチを切った。
「香霖だって別に楽器屋を開きたいわけじゃないんだ。持っていってくれる奴がいなきゃ、あいつも困るだけ。好きに持って帰っていいよ」
「“好きに持って帰っていい”とまでは言ってなかったと思うけどね」
「解釈の問題だよ」
 菫子の指摘に対して魔理沙はそう返すと、先のテレキャスターやミニアンプに加えて、更に拝借したギグケースの中に、ケーブルやストラップまで詰め込んで、さっさと帰ってしまった。
「……少なくとも東深見のハードオフよりは品揃えがいいわ、ここ」菫子は咲夜に言い添えると、自分も店を出ていった。ハードオフ東深見店の楽器事情などは知ったこっちゃないが、咲夜は物珍しそうに店内をぐるりと眺めると、やがて気に入った棹物を、二本、三本と手に取り始めた。
 香霖堂がこうむった被害はエレクトリックギター一本、エレクトリックベース二本、ギタースタンドやストラップ等も三本ぶん、エフェクターは十二個に及んだ。
 共犯者がいる。もちろん美鈴だった。
「ちょっと、持って帰らなきゃいけない大荷物ができちゃったから。手伝って」
 紅魔館の庭で美鈴が園丁仕事をしていると、咲夜が突然現れて、それ以上の説明はなされないまま香霖堂まで手を引いていったので、ついていく羽目になる。やらされたのは窃盗の片棒担ぎだった。
「店主の人がいつ戻ってくるかもわかんないから、手早くやりましょ」
「ええ……どういうこと……なんでそんなことするの……」
 こういったやりとりの末、彼女たちは紅魔館に戦利品を担いで戻ってきたのだった。

 一応身元を隠すために、盗品のオリジナル・プレシジョンベースは、元々の色の上から真っ黒に塗り替えられて、ピックガードもぴかぴかに光を反射するアクリルミラーに取り替えられた。ついでに、咲夜の不思議な美的センスによって、手のひらほどの直径の丸鏡が、他にも何枚かボディに貼りつけられている。
 その鏡面にレミリアたちがさっぱり映らない事にふと気がつきながら、美鈴は咲夜の楽器一覧をリストに上げていく。
 他にはサンダーバードベースのコピーモデルと、フェンダージャパンの白いストラトキャスター。エフェクターは、なぜか十二個も同じモデル(そして個体差によってどれも音色が少しずつ違う、アーミーグリーンのロシア製ビッグマフ)なので、マスキングテープを切り貼りしたローマ数字で、I~XIIのナンバリングがそれぞれ割り振られていた……ところで、これらのリストって、仮に窃盗で御縄についたら押収物一覧にもなるよね。
「あの子、いいもの持ってるのね」
「最近入手したらしいですよ」
 美鈴は、できるかぎり経緯をぼかして説明した。咲夜が盗みを働いた事を、レミリアやフランドールは知らない(知ったとして、いっそ痛快に思ってくれるかもしれないが)。言っても余計な事にしかならないだろう。
 言っても余計な事にしかならない話といえば、もうひとつあった。

「なんというか、そう、バンドやりたいな、って思ったわけよ」
 一月前、盗んできた楽器をこのステージの隅に隠すように安置した時、咲夜は傍らにいる共犯者に言った。ほとんど告白に近いような口調だったのだが、共犯者の美鈴はそれに気がつかない。
「バンドですか、いいんじゃないですか?」
 美鈴は特に深く考えるわけでもなく肯定した。自分が誘われているとは思いもしていないようだ。
(マジそういうところよあんた)
 と思いはしたが言うわけではなく、咲夜は自分の見立てを喋った。お嬢様と妹様はギターを持っている。たまに弾いて楽しんでいるところを見かけたりもする。だから、バンドを組んだら楽しいかもしれない。私がベースを弾く。パチュリー様は……そういう事に乗り気になってくれる方かわからないけれど、仲間に入れて欲しそうなら入れてあげましょう。
 素朴と言ってしまえばあまりに素朴な企図だったが、美鈴はそういうのもいいと思った。なんせ、お前がドラマーをやれなどとは、まだ言われていないのだから。
「……あ、美鈴はドラム叩いてね」
 言われた。
「え、なんで?」
 美鈴は言い返してしまった。しかも露骨にイヤそうに。
「マジそういうところよあんた」

 レミリアとフランドールは、ステージ上に引き上げたそれぞれのアンプに電源を入れて、それぞれのエレキギターを(羽根を器用にくぐらせつつ)担いだ。姉はへそあたりの高さにSGジュニアを構え、フランドールはもう少しギターの位置が下がって、骨盤の位置で腰だめに弾く感じだが、ゴールドパーツやラメやジュエルといったものできらびやかなホワイトペンギンは、ギターというより高級でモダンなファッションバッグといった趣だ。
「そのコードの端子、こっちに持ってきてよ」
 伸縮式のマイクスタンドをするすると伸ばして自分の身長の高さに調整させながら、レミリアは美鈴に声をかけた。ステージ上のPA機器のリストアップをやりかけていた美鈴は、まず主人の要求に応じるしかなく、そのためにこのあたりの機材の把握はいいかげんになってしまった。
 いつの間にかそこには咲夜もいて、ハイワットのスタックアンプに自分のベースをプラグインして、真空管の暖機用のスタンバイスイッチをぱちぱちと下ろしている。
「……楽しそうですね」
「またお嬢様のわがままよ」咲夜は自分の勝ちだと言わんばかりに、ニヤッと笑った。「でもこのまま、なにも起こらないかもしれないし。なんせドラマーがいない。私はこの人なら案外うまくこなしてくれるんじゃないかと、見立てている人がいるんだけど、なぜかその人、こういう時に限って乗り気じゃない」
「……パチュリー様がリズムマシンを持っていましたよ」
「けっこうな代替案だけれども、それでバンドが面白くなるかどうかは別でしょ。たぶんだけど私たち、もっとフィジカルなものを求めているのよ」
「フィジカルな」……直訳すると肉体的な。
「……そういえばちょっと前、あなた宴会芸でサックスを吹いた事あったじゃない」
「うぁ? あ、あぁ、ありましたね……」
 それは、気楽な内輪の宴会で披露した隠し芸だった。隠し芸なので意外性を追究してやったつもりが「いやいやいやいやおまえ中国全然関係ないやないか。なんでサックスやねん」という空気の中で滑り倒した、本人的には恥ずべき過去でもある(同じ宴会に参加していた魔理沙からは「意外性で笑いをとるのって難しいよな」となぜか深く同情を買った)のだが、なぜ咲夜はそんな話を掘り返してきたのか。
「あなたがサックスを吹くのって、だいぶわいせつだからよした方がいいわよ」
「わいせつ?」
「前腕の筋肉の盛り上がり方が、いやらしすぎるわ」
 話はそれで終わったらしい。咲夜はそのままアンプのマスターボリュームをひねり上げて、開放弦のAの音を大音量でぶんぶん鳴らし始めた。ステージ上の備品にあったハイワットのアンプ――エレキギターだけでなく、エレクトリックベースやキーボードその他を含むあらゆる電気楽器を、規格外の大音量で使用できる最高の汎用アンプ――は、素晴らしいコンディションを維持したまま紅魔館のステージの奥に眠っていたのだ。純正のスピーカーキャビネットとの組み合わせから飛び出す低音は、その場にいた全員の肌をびりびり痺れさせた。
 要するに、なんだかもう、そういう雰囲気になってしまったのだ。こんな状況で「オマエ ドラム ヤレ」などとお嬢様あたりに言われたら「ハイ ワタシ ドラム ヤリマス」としか答えようがない。
「……そうだ、門番」
 美鈴がレミリアにマイク用ケーブルの片端を渡した時、主人は言った。
「なんでしょう……?」
「オマエ ドラム ヤレ」
「ハイ ワタシ ドラム ヤリマス」

 初めてケースから取り出すようなドラムたちを、カタログ写真の様子とつき合わせて、どうにかこうにか正しいらしい配置に組み上げられたところで、
「別に難しい事をして欲しいわけじゃないよ」
 とフランドールがタムに寄りかかりながら声をかけてきた。
「それでこっちが楽しくないのも嫌だし。だから、ハイハットはひたすら八分で刻んで、スネアを叩く左手は、四拍子の二拍四拍にアクセントを置くの。それだけでいい。バスドラムもさっき教えた感じでキックして、それをずっとキープしていてちょうだい……お姉様はともかく、私は、ずぶの素人が上手くやれなくたって、別にことさら責めたりはしないわ」
「できました」
 ドラムセットを前に椅子に座った美鈴は、フランドールの指示を聞きながら、基本的なエイトビートをなんなく叩いてのけてしまった(もっとも、ろくにチューニングもされていないので、その点では調子外れのひどい音だったが)。なんだかんだと長らく功夫を積んでいた身なのもあって、こうした動作の分離と統合を同時にやらねばならない身体操作は、格別に得意だったわけだ。
「もっと色々、無茶を要求してやればよかった」
 妹様はなんともキュートな苦笑いを残して、自分のコンボアンプの方に向かう。彼女のアンプは音の拡がりを稼ごうとして、運搬用ハードケースの上に置かれていた。その向こうでは、パチュリーがしれっとした顔でキーボードを準備しようとしてもたついている。
 ともかく、なるようになってしまったものの、美鈴は別に今の境遇に納得しているわけではない。だいたい自分は、お庭でのんびりと芝刈り機でも押して、私が好きなものを私は知っているよ、などのんきに歌っているのがちょうどいい奴だ。……もちろん、ちょっとした功名心や、英雄願望もあったりはする。ちょっとどころではなく、むしろ多量に持っているし、なにかのヒーローになって目立ちたい気持ちもあるが、それはあくまで枕の上で夢見るだけの、怠惰な願望でしかないのだ。
 確かに、なにか面白い事になりそうな気はある。あるのだが、同時に苦労しそうな類いのむちゃくちゃに巻き込まれかけている予感もあった。紅美鈴には目立ちたがりな一面もなくはないが、面倒になってまで人気者になりたいわけではないのだ。そういう女だった。

 その後、この音合わせはなんにも決まっていなかったにもかかわらず、なんだかんだいい感じにバンドの形になってしまった。
 当初はレミリアがボーカルを取るような(幼いくせにこぶしのきいた、これはこれで悪くない歌声)雰囲気だったのが、徐々に咲夜が図々しくなって、最終的にマイクを奪う格好になった。咲夜の歌声は、少女のくせに酒焼け気味の、やけっぱちだが夢見る幻想郷みたいな、つっかかる感じのいい声だった。館の主人はギターを担いだ肩をすくめて、のっぽのベース弾きの女の子用に、マイクスタンドを高く調節させた。
 フランドールはどうやら“腰でギターを弾く”タイプらしく、演奏がノってくると小刻みに腰をくねらせた。彼女のこういう子供っぽく無自覚ななまめかしさは、これまで様々な人々を色々な意味で勘違いさせてきたが、もちろんこれからもそうなっていくのだろう。
 なかなか準備が完了しないままほったらかしにされたパチュリーは、結局恐ろしくこんがらがったパッチケーブルと膨大なシンセサイザーのコレクションを使う企てをやむなく放棄して、軽便なコンボオルガンとローズピアノの組み合わせだけでセッションに途中参加してきた。
(……あんたあれだけ色々持っといて結局それかいっ)という顔をレミリアがする。やっぱりみんなそう思うよなぁ。
 目録の作成という当初の目的は完全に忘れ去られた。

 それから数年経ち、彼女たちはふたたび目録を作成する必要に迫られた。バンドが――相変わらずプロではないし、そうなるつもりもないぬるいアマチュアバンドだったが、当人らがそういう調子でも、世に出る羽目になる事はある――初めて幻想郷の外へとツアーに出かける事になったからだ。
「行き先はあの、治安に関して悪名高い畜生界よ」
「盗みという点では幻想郷も大概治安悪いですけどね……」
 美鈴は咲夜に対してぼそりと皮肉ったが、ともかくツアーに持ち出す楽器や機材だけでも動産保険に加入させなければいけない。保険業者に査定を依頼するに先立って、リストアップが必要だった。
「じゃあ美鈴、やっといて」
「えぇ、結局私なんです?」
 そのような経緯で作業に従事させられている時、ふと、ステージ袖の隅っこから、以前作りかけた目録の草稿が出てきた。過去の(やや不完全で、大づかみで、中途半端な)リストには、不思議なことに誰かの所感も追記されていた。

レミリア・スカーレット
Ginson:Les Paul Junior SG(ものすごくどうでもいい話だが、SGジュニアという表記は厳密には間違い。年式的にSGモデルからレスポールモデルへの移行の過渡期といえるもので、ヘッドストックには「Les Paul」のロゴがある)
Ginson:EB-1(ヴァイオリンベース。ライブでもたびたび使われていて、咲夜がベースを弾かない曲などで使われる)
Martin:0-15(レミリアは基本的に機材に手を加えるのを嫌っているが、このギターには同社製のピエゾピックアップが搭載されている)
René Lacôte:Acoustic Guitar(百年以上前にビルダーに特注した、5サイズほどの寸法のミニギター。サウンドホールのロゼッタ等、凝った意匠はどことなく東洋風)
Charles Boullangier:Violin(百年以上前にビルダーに特注したヴァイオリン。同じ材木を使用してフランドールのヴァイオリンも作られた)
V.Q.Powell:Flute(全金製の特注品)
John Hornby Skewes:Shatterbox(トレブルブースターとファズディストーションが2in1されている歪みエフェクター。彼女たちがバンド活動を始めた後は↓)
Binson:Echorec 2°(商機を見込んだ河童が、これら古臭いエフェクターに取って代わる新機軸の製品を売り込みに来た事もあるが↓)
Thomas Organ:Crybaby(レミリア自身は、これら三つの時代がかったペダルにわりあい愛着があるのか、結局こればかりを使い続けている)
Laney:LA30BL(古臭いからといって本当に古い機材ばかりではない。このレイニーのアンプヘッドは最近購入したもの)
Laney:LA212(スピーカーキャビネットも同様)
製作者不明:Leather Strap(本革製らしいが詳細は不明。人皮が使われているとの噂も)

フランドール・スカーレット
Gretsch:White Penguin(このギターはピックガードにペンギンの図柄が描かれているが、フランドールはそこにサインペンで派手な落書きを行っており、図柄のペンギンはサイボーグ怪獣と化している)
Fender(?):Telecaster(!)(結局素性はよくわかっていない。近年はストリングベンダーやドロップチューナーが増設された。このギターのゆく末はどうなってしまうのだろう)
Gibson:Flying V(一時期は音がスカスカのカスカスなどと敬遠されていたが、近年は枯れたサウンドがブルース系の渋い曲調等に使いどころがあるなど再評価が進んでいる。よかったね)
Silvertone:1488(ステージに登場する事はまずないが、そのぶんプライベートでは気安く弾かれている。気安く寝落ちされた末に、ネックをへし折られかけた事は数知れず)
Charles Boullangier:Violin(姉の項を参照)
Sola Sound:Tone Bender MK3(メインの歪みエフェクター。ファズ。筐体表面に記された社名の横に“R”が落書きされて“SOLAR SOUND”と洒落られている。吸血鬼ジョーク。)
Boss:FV-50H(ボリュームペダル。アンプの音をファズペダルで歪ませた状態でエレキギター側のボリュームを操作すると、出力インピーダンスの変調がサウンドキャラクターに↓)
Boss:FV-50L(顕著な変化をもたらす事はつとに知られているが、それを利用して、インピーダンスの違う二つのボリュームペダルでサウンドのバリエーションを増やしている)
Roland:RE-201 Space Echo(テープエコー。フランドールは演奏中ろくにギターを弾かず、アンプの上に積み上げたこのエフェクターの各種ダイヤルをいじってぬるぬるした発振遊びをしている事がたびたびある)
Guild:Foxey Lady(テレキャスターに縛りつけられて、そのままギターと接続されっぱなしの、弁当箱のようなディストーション)
Fender:Blender(アッパーオクターブファズ。ライブ中客席に投げつけて失くしたが最近香霖堂で売られているのが発見された。その後は誰かに買い取られた模様)
Acetone:FM-2(ファズ。なにか色々壊れたような音が出るのでなにか色々壊れたような曲で使っていたらやがて音が出なくなって単純に壊れていただけなのが判明)
新映電気:Superfuzz(どこかが壊れているのではないかという音が出るが詳細に調べてみても別に壊れていなかった。最初から壊れていたタイプ)
新映電気:WF-8(ファズとワウの2in1ペダルだが、意外にワウペダルとしての使用が多い。ファズ部分は例によって壊れた音をしている)
自作:エフェクター(音が出ない)
自作:エフェクター(ギターとアンプに繋ぐとノイズが出る)
自作:エフェクター(アンプに繋いでスイッチを入れただけでノイズが出て各ツマミの操作で音色が変わる。ギターの意味が無い。ジョイスティックでコントロールできるようノイズマシーンに改良?した上でテレキャスターに組み込まれる)
自作:エフェクター(トレブルブースター。ごく単純な回路で成り立っている。フランドールの自作エフェクターの中でも唯一の成功作と言えるもので最終的にテレキャスターに組み込まれた)
Honey:Psychedelic Machine(シルバートーンのギターと共に、フランドールのベッドルームミュージックのお供)
Sony:TC-D5M(デンスケ。フランドールはこれを二台所有していて、ギターの音を録音しては再生した上に更に音を重ねて録音するという異様にローファイなオーバーダビングで何十年も遊んでいた)
TEAC:A-3340(4チャンネルのオープンリールデッキマルチトラックレコーダー。これを導入した事で上記の遊びの機材がやや発展した。やっている事はあまり変わらない気がする)
Revox:A77(テープレコーダー。用途としては上のものと組み合わせて使う。二台持ち)
Shure:SM57(マイクはなんでもこれで充分というのがフランドールのポリシーらしい)
紅美鈴:マイクスタンド(使用人に作らせたストレートタイプのマイクスタンド。フランドールはバンドの演奏でもしばしばコーラス――というより念仏もしくは叫び――を入れる事があるが、低く直立させたマイクに向かって、完全にうつむいた不自然な体勢で声を入れる事が多い)
Vox:AC30(アンプ。外装の色はブリティッシュレーシンググリーン。おしゃれ)
Gibson:EH-150(部屋でだらだら弾いたり録音する用の小型アンプ。本来はラップスティールギターとセット販売されていたものだが、アンプだけ美鈴から奪った)

十六夜咲夜
Fender Japan:Stratocaster(真っ白なボディにもかかわらず“Red Magic”と赤ペンでサインされている。ピックアップがネック・センター・ブリッジでそれぞれレースセンサーの青・銀・赤に交換されている)
Fender:Original Presision Bass(ピックガードとボディとの隙間にピックを何枚か挟んでいるので、ピックのロゴになっている亀さんが、ぎらつく鏡面ピックガードの丘で列を作って歩いている様子になっている)
Greco:TB-1100(サンダーバードシェイプの国産コピーモデル。使用頻度としては上のベースと半々。こちらもピック弾きが多い)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「I」と記されている。個体差が激しく「XII」より音量が大きい)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「II」と記されている。個体差が激しく「I」より低音域が強い)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「III」と記されている。個体差が激しく「II」に比べてコンプレッションのかかったスムースな歪み方をする)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「IIII」と記されている。個体差が激しく「III」とは違い中音域のプレゼンスに富んでいる)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「V」と記されている。個体差が激しく「IIII」と比べるとボリュームレベルが低く引っ込みがちだがバンドサウンドへの馴染みはいい)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「VI」と記されている。個体差が激しく「V」に比べると低音のニュアンスが出しやすくベース向き)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「VII」と記されている。個体差が激しく「VI」とは対照的にギターの音域向きの個体)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「VIII」と記されている。個体差が激しく「VII」と比べるといわゆるドンシャリの傾向)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green) (「IX」と記されている。個体差が激しく「VIII」以上にファズ的な歪み方をする)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「X」と記されている。個体差が激しく「IX」と比べると音響に飽和感のある空間的な歪み)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「XI」と記されている。個体差が激しく「X」より倍音を多く拾ってピッキングハーモニクス等のニュアンスが出しやすい)
Electro Harmonix/Sovtek:Big Muff Pi(Army Green)(「XII」と記されている。個体差が激しく「XI」に比べてスイッチ等の接続不良が少ない)
Vox:VCC-90(赤いカールコード。ハイファイな機材とは言い難いが咲夜的にはいい感じに音が劣化するくらいがちょうどいいらしい)
AUDIX:OM5(バンド結成後に購入。マイマイク)

ノーレッジ:パチュリー(種族:魔女。能力:火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力。職業:知識人。近年「ホンモノの蒐集家になってしまったら同じ製品を何台も買い揃えたりするんだから、一台ずつなんてつつましい方でしょ」など恐ろしい事をインタビューで語っている)
ARP:Model 2500(シンセサイザー)
ARP:Model 2600(シンセサイザー)
ARP:Model 2601(シンセサイザー)
ARP:Odyssey Model2800(シンセサイザー)
ARP:Odyssey Model2810(シンセサイザー)
ARP:Odyssey Model2811(シンセサイザー)
ARP:Odyssey Model2812(シンセサイザー)
ARP:Odyssey Model2813(シンセサイザー)
ARP:Odyssey Model2820(シンセサイザー)
ARP:Odyssey Model2821(シンセサイザー)
ARP:Odyssey Model2822(シンセサイザー)
ARP:Odyssey Model2823(シンセサイザー)
ARP:Pro Soloist(シンセサイザー)
ARP:String Ensemble(シンセサイザー)
ARP:Omni 2(シンセサイザー)
ARP:Model 3620(シンセサイザー用キーボード)
Atari:1040ST(コンピューター)
Boss:BE-5(マルチエフェクター)
Boss:ME-6(マルチエフェクター)
Buchla:101(キャビネット)
Buchla:102(デュアルステレオロケーター)
Buchla:106(ミキサー)
Buchla:107(電圧制御ミキサー)
Buchla:110(デュアル電圧制御ゲート)
Buchla:111(デュアルリングモジュレーター)
Buchla:112(タッチ制御電圧源)
Buchla:113(タッチ制御電圧源)
Buchla:114(タッチ制御電圧源)
Buchla:115(電源)
Buchla:117(デュアル近接検出器)
Buchla:120(ディストリビューター)
Buchla:123(シーケンシャル電圧源)
Buchla:124(パッチボード)
Buchla:130(デュアルエンベロープ検出器)
Buchla:132(波形シンセサイザー)
Buchla:140(タイミングパルスジェネレーター)
Buchla:144(デュアル矩形波発振器)
Buchla:146(シーケンシャル電圧源)
Buchla:148(高調波発生器)
Buchla:150(周波数カウンター)
Buchla:155(デュアルインテグレーター)
Buchla:156(デュアル制御電圧プロセッサー)
Buchla:157(制御電圧インバーター)
Buchla:158(デュアルサイン波-ノコギリ波発振器)
Buchla:160(ホワイトノイズジェネレーター)
Buchla:165(デュアルランダム電圧源)
Buchla:170(デュアルマイクプリアンプ)
Buchla:171(デュアル楽器プリアンプ)
Buchla:172(デュアルシグナルレベラー)
Buchla:175(デュアルイコライザー-ラインドライバー)
Buchla:176(デュアルヒスカッター)
Buchla:180(デュアルアタックジェネレーター)
Buchla:185(周波数シフター)
Buchla:190(デュアル残響ユニット)
Buchla:191(シャープカットオフフィルター)
Buchla:192(デュアルローパスフィルター)
Buchla:194(バンドパスフィルター)
Buchla:195(オクターブ形式フィルター)
Buchla:196(位相シフター)
Coral:Electric Sitar(エレクトリックシタール)
Eko:Computerhythm(リズムマシン)
EMS:VCS3(シンセサイザー)
EMS:Synthi A(シンセサイザー)
E-mu Systems:Emulator(サンプラー)
Fender:Rhodes(エレクトリックピアノ)
Ferrograph:4A(テープレコーダー)
Ferrograph:RTS2(レコーダーテストセット)
Ferrograph:ATU1(補助テストユニット)
Gibson:L-Century(アコースティックギター)
Gibson:Style U(ハープギター)
Hammond:A-102(オルガン)
Hammond:C-3(オルガン)
Hohner:Pianet(エレクトリックピアノ)
Hohner:Electra Piano(エレクトリックピアノ)
Hohner:Clavinet Duo(クラヴィネット)
Hornby:RecorderHD300(リコーダー)
Korg:Donca Matic(リズムマシン)
Leland Instruments Ltd:Beat Frequency Electronic Oscillator(オシレーター)
Leslie:Model 122(レスリースピーカー)
Linn Electronics:LinnDrum(リズムマシン)
Maestro:FZ-1 Fuzz-Tone(ファズ)
Maestro:Stage Phaser(フェイザー)
Maxon:DM-1000(ディレイ)
Mellotron:M400(メロトロン)
Moog:Etherwave(テルミン)
Moog:Minimoog(シンセサイザー)
Moog:Source(シンセサイザー)
Moog:Theremini(シンセサイザー)
Oberheim:DMX(リズムマシン)
Rose Morris:1993 330/12(12弦ギター)
Roland:MC-303(グルーヴボックス)
Roland:SK-88Pro(サウンドキャンパス)
Roland:CR-5000 CompuRhythm(リズムマシン)
Sequential Circuits inc:Prophet-5(シンセサイザー)
Steinberg:Cubase SL2.0(MIDIシーケンスソフト)
Suzuki:OM-84(オムニコード)
Vox:Continental(オルガン)
Watkins:Copicat Mk.2(テープエコー)
Wurlitzer:Electric Piano 200(エレクトリックピアノ)
Yamaha:CP-80(エレクトリックピアノ)
Yamaha:SVV200(サイレントヴィオラ)
Yamaha:CS-80(シンセサイザー)
Yamaha:SPX90(マルチエフェクター)
製作者不明:Harpsichord (ハープシコード)
製作者不明:Ondes Martenot(オンド・マルトノ)

紅 美鈴
Gibson:Les Paul Deluxe(重さはともかく見た目は良いので、雑誌のインタビュー記事等に掲載されるアーティスト写真でちょくちょく存在が確認できる。後世に彼女たちの研究者なんてものがいたら「このギターはステージで使用された様子がないけどなんなんだろう」と思う事だろう)
Gibson:EH-150(同モデル名の小型アンプとセット販売されたラップスティールギター。)
Epiphone:Recording Art Deluxe(テナーバンジョー。誰かが弾けるというわけでもなく「ヘッドのドラゴンロゴがかっこいい」という理由でレミリアが購入。そのまま美鈴の部屋に流れ着いた)
Yanagisawa:Saxophone(メーカー名以外の詳細不明。テナーサックス。サックスといえば美鈴が恥をかいた隠し芸には後日談があり、またしてもあったある宴会の余興で咲夜が↓)
Yamaha:Saxophone(このメーカー名以外詳細不明のアルトサックスとの二つ持ちでの演奏を披露して、見事な響きを聴かせた。ウケた)
R. G. Hardie:Bagpipes(次はバグパイプで隠し芸に勝負してみようと思う美鈴だった。基本的に凝りていないのである)
製作者不明:Cello(おそらく安物)
製作者不明:二胡(確実に安物)
Ludwig:LM402(バンド結成後「あんたドラムやるなら自分のスネアくらい持っときなさい」と言われて中古品を購入。自腹)
Paiste:Formula 602 Thin Crash 20(もともとのドラムセットのクラッシュシンバル一枚だけではさすがに心もとないので購入。自腹)
Paiste:2002-18 Novo China(ついでにチャイナという響きに惹かれてよくわからないが購入。自腹)

備品(ここからリストの内容があやしくなってくる。たとえばアンプやいくつかのスピーカーキャビネット、マイクなどは複数所有しているはずだが、その数量などが記載されていない。ドラムセットの記載が詳細なのはカタログを丸写ししたからだろう。細かな音響機器等の遺漏は多数ある)
Ludwig:No. 400
Ludwig:No. 922P
Ludwig:No. 944P
Ludwig:No. 950P
Ludwig:No. 782C
Ludwig:No. 1123
Ludwig:No. 1363
Ludwig:No. 1400
Ludwig:No. 1372
Ludwig:No. 201
Ludwig:No. 1305C
Ludwig:No. 129
Ludwig:No. 133
Paiste:Formula 602 Hi-Hat 14 Set
Paiste:Formula 602 Thin Crash 18
Paiste:Formula 602 Medium Ride 20
Gretsch:G-5412
Acme:AC147
Steinway&Sons:B-211
Steinway&Sons:C-227
Hiwatt:DR103
Hiwatt:SE4122
H/H:IC100 212Combo
WEM:Twin 15 Reflex Bass
WEM:Starfinder
WEM:Reverbmaster
WEM:Dominator 50 Combo Lead
WEM:Dominator 50 Combo Keybord
Shure:SUPER 55
Shure:SM57
Shure:SM58
Shure:520
Sennheiser:MD409
AKG:D12
Guild:F-312
Selmer:Zodiac Twin 30
Fender:Bassman(この、魔理沙が盗んでいったアンプには後日談がある。霊夢は今回の件で霖之助を多少手伝ったお礼に、チェリーレッドのES-335を譲ってもらった――どう考えても店を圧迫しそうな在庫を押しつけられた形だし「しかも簡単なケースとストラップ、コード以外はなにひとつおまけしてくれないというけち臭さ」だったが――ともかくクリーニングまでしてもらったので楽器の受け渡しにも少し期間がかかったが、受け取ったその足で、霊夢はギグバッグを担いで霧雨魔法店に向かった。魔理沙がでかいギターアンプを所有している――というより盗んできたという噂は、その頃にはもう多少の事情通なら誰もが知るところになっていたのだ。霊夢は霧雨魔法店の戸口に立って言う。「こんこんこん。おーい魔理沙のアンプ……じゃなかった、魔理沙―?」「……今開けるよ」すぐさま応えがあったが、なかなか本人が出てこない。「どうしたのよ」と霊夢が尋ねたのは、ようやく戸を開けてくれた友人が、へっぴり腰以下の様子で店の戸にすがって挨拶をしてきたからだった。魔理沙は少し恥じらうような様子を見せながら、結局は端的に、正直に事の経緯を語るほかなかった。「アンプ持ち上げたらぎっくり腰になった……」)

“魔女の一撃”はそういう意味じゃなーい!(汗) とほほ(泣)
紅魔館組が原作の画面外でバンド活動をしていてツアーもこなしているといった報告は当方受け取っておりません。
かはつるみ
https://twitter.com/kahatsurumi
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コメント



0.50簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.90福哭傀のクロ削除
なんというか、小説をRPGとするならこれは説明書や攻略本みたいな……厳密な定義とかそのあたりは私はよくわからないけど、物語を描いてるというよりは世界観とか設定の説明をしてる……作品?なんですか……?という感想。
それはそれとして駄目とか言ってるわけでは決してなく、むしろ楽器?さっぱりわかんね!!っていう立場で読んでましたがなんとなーく楽しそうな紅魔館に割と満足できましたので、そのあたり詳しければもっと楽しめるのだろうなと。作者様の趣味全開で楽しんで書いてるんだろうなーというのが一番の感想でした。
よく知らないんですけど木でも金属でも電子機器でも、湿気の多そうな魔法の森に楽器を持っていかれるのって大丈夫なんですか……?
4.100ローファル削除
館のメンバーの気軽なやり取りが読んでいて楽しかったです。
楽器を一番多く持っているのに実際はほとんど使わないパチュリーも期待通りでした。面白かったです。
5.80名前が無い程度の能力削除
文章が少し回りくどくて読むのが大変だったけどなんとか最後まで読めました!
自分は音楽や楽器のことは良くわからないけど、作者さんが音楽や楽器がすごく好きで知識もあって、きっとこれを書いててすごく楽しかったんだろうなってすごく伝わりました!
でも、せっかく音楽の話だったのでプリズムリバー三姉妹も出して欲しかったと思いました。
とても面白かったけど、100点じゃないのは文章が回りくどくて読みにくかったからです!
6.100東ノ目削除
音楽的素養さっぱりな人間なもので楽器の製品名とか言われてもまるで分からないんですが、なぜかこいつは確かにそういう楽器持ってそうだし使いそう(あるいは死蔵してそう)になる不思議。幻覚を納得させる書き方が上手い
7.90のくた削除
楽器のことはわかりませんが、熱気と紅魔館の楽しさは伝わってきました
あと、サイボーグ怪獣のガイガンも
8.100名前が無い程度の能力削除
後半部分の圧がすごい。楽器わからないのになんかわかるなぁとなりました。
9.100南条削除
面白かったです
目録作ってたのにやっぱり演奏し始めてて笑いました
そして最後の怒涛の目録にまた笑わせられました
楽しい紅魔館でした
10.80名前が無い程度の能力削除
固有名詞の乱打が「ぜんぜん知らない分野のギークが楽しそうにしゃべってるところを見てなんか幸せだなあと思う」あの感覚を呼び起こす、不思議な作品でした。
東深見のハードオフ行ってみたい。