うだるような暑さに、吹き抜ける熱風。照り付ける太陽に手をかざし、眩しそうに手をかざす巫女がいた。
博麗神社。幻想郷の東端に位置するそこは、毎日賑やかだ。
友人の魔法使いにそこらの妖精や愉快な小物妖怪たち。用もないのに来ては酒を吞んでいる鬼に加え、日々ネタを求めて飛び回り、神社の住人――博麗霊夢――を揶揄い散らす天狗……。
人間がほとんどいなかったような気もするが、それが此処の日常だ。人間の味方でありながら、不思議と妖怪に好かれる。そんな霊夢が巫女を務めるのだから、妖怪神社と呼ばれるのも当然のことである。
「おーいれいむー!つぎのえんかいはいつにするんだ!?」
真夏を泳ぐ氷の妖精、チルノもそんな参拝客(・・・)の一人だ。彼女もまた、霊夢に好感を抱き、時折仲間とともに此処へ遊びに来ている。
「そうだ!このまえ大ちゃんが、あたいに花冠を作ってくれたんだ!へへーん、にあうだろっ!」
突然訪れて捲し立てるチルノに、あー?とおざなりな返事を返す霊夢。しかし眩しい太陽を手で遮って目の前の妖精を見、零れたように微笑みを浮かべた。
霊夢が花冠を悪くは思っていないことが伝わり、チルノはその場で満足げに一回転してみせる。
しゃららん――そんな音が聞こえそうだ。透明感のあるピンク色の花でできた花冠が青を主体とする服に鮮やかさを持たせ、元気印のチルノに可憐さを与えている。
「こんどれいむにも作ってやるからな、花冠!今日は大ちゃんに、作り方を教えてもらうんだ~!」
『ちょ、私は別に欲しいだなんて言ってないわよ。ただ、馬子にも衣装的な、そんな感じに微笑ましく思っただけ。』
「まごにもいしょう、ってなんだ?」
初めて聞いたような言葉に首を傾げるが、隣の大妖精に「花冠を付けたチルノちゃんが可愛いって意味だよ」と教えられ、再び得意げな表情になる。
「あたいが可愛い?――まあ当然だなっ!なんてったって、あたいはサイキョ―なんだから!」
「……そうだ、えんかい!次のえんかいはいつなんだっ!?最近ぜんぜんやってないからつまんないよぅ」
此処へ来た目的――宴会の予定を訊くこと――を思い出し、霊夢に尋ねる。
しかし、今年の夏は普段に比べて暑さが酷かった。そのため、いかに霊夢や体の強い妖怪たちとて集まって呑む気が起こらず、ここしばらくは全く宴会が行われていないのだった。
その旨を霊夢が話すと、チルノはぷくーっと頬を膨らませる。
「むぅ……。こんな暑さくらい、あたいがまとめて冷やしてやるのに~。」
「――しょーがない。大ちゃん!みんなをさそって湖で遊ぼ!」
チルノはそれまでの会話を忘れたかのように表情をぱっと入れ替えると、大妖精を伴って勢いよく神社から飛び出していった。
鳥居をくぐったあたりで霊夢の「どうせなら氷創っていってよ、暑いのよ~」という声が聞こえた気がしたが、それを気にすることなくチルノは地を蹴るのだった。
チルノは霧の湖を目指して、蒼白い世界を飛ぶ。駆けまわって遊ぶ子供や畑仕事をする大人たちの彫像(・・)の間を縫って、脳裏に響く蝉の声に挨拶をしながら。
周囲のあらゆる物体は熱運動を許されず、その様相をいつかの夏のままに保ちながら、そこに在り続ける。
「いつもの景色」をまっすぐに見つめるチルノの頭には、何かを包む、どこまでも透き通った円環状の氷が乗っていた。彼女はそれを重いと感じながらも、それを外すことはなかった。それはきっと、おそらく、自分にとって大切なものだから。
大気や雲のない空から、小さいくせに眩しい太陽が紫外線の雨を降らせる。でもチルノはそれを気にも留めない。なぜなら、彼女はサイキョ―だから。
それに、みんなも大丈夫。だって、あたいがみんなを護っているから。大丈夫、ずっと一緒。みんな、ずっと、ずっと、変わらないまま。
チルノはもう何度目かも分からない「あの夏」を、透明な仲間たちとともに、今年も泳ぐ。
博麗神社。幻想郷の東端に位置するそこは、毎日賑やかだ。
友人の魔法使いにそこらの妖精や愉快な小物妖怪たち。用もないのに来ては酒を吞んでいる鬼に加え、日々ネタを求めて飛び回り、神社の住人――博麗霊夢――を揶揄い散らす天狗……。
人間がほとんどいなかったような気もするが、それが此処の日常だ。人間の味方でありながら、不思議と妖怪に好かれる。そんな霊夢が巫女を務めるのだから、妖怪神社と呼ばれるのも当然のことである。
「おーいれいむー!つぎのえんかいはいつにするんだ!?」
真夏を泳ぐ氷の妖精、チルノもそんな参拝客(・・・)の一人だ。彼女もまた、霊夢に好感を抱き、時折仲間とともに此処へ遊びに来ている。
「そうだ!このまえ大ちゃんが、あたいに花冠を作ってくれたんだ!へへーん、にあうだろっ!」
突然訪れて捲し立てるチルノに、あー?とおざなりな返事を返す霊夢。しかし眩しい太陽を手で遮って目の前の妖精を見、零れたように微笑みを浮かべた。
霊夢が花冠を悪くは思っていないことが伝わり、チルノはその場で満足げに一回転してみせる。
しゃららん――そんな音が聞こえそうだ。透明感のあるピンク色の花でできた花冠が青を主体とする服に鮮やかさを持たせ、元気印のチルノに可憐さを与えている。
「こんどれいむにも作ってやるからな、花冠!今日は大ちゃんに、作り方を教えてもらうんだ~!」
『ちょ、私は別に欲しいだなんて言ってないわよ。ただ、馬子にも衣装的な、そんな感じに微笑ましく思っただけ。』
「まごにもいしょう、ってなんだ?」
初めて聞いたような言葉に首を傾げるが、隣の大妖精に「花冠を付けたチルノちゃんが可愛いって意味だよ」と教えられ、再び得意げな表情になる。
「あたいが可愛い?――まあ当然だなっ!なんてったって、あたいはサイキョ―なんだから!」
「……そうだ、えんかい!次のえんかいはいつなんだっ!?最近ぜんぜんやってないからつまんないよぅ」
此処へ来た目的――宴会の予定を訊くこと――を思い出し、霊夢に尋ねる。
しかし、今年の夏は普段に比べて暑さが酷かった。そのため、いかに霊夢や体の強い妖怪たちとて集まって呑む気が起こらず、ここしばらくは全く宴会が行われていないのだった。
その旨を霊夢が話すと、チルノはぷくーっと頬を膨らませる。
「むぅ……。こんな暑さくらい、あたいがまとめて冷やしてやるのに~。」
「――しょーがない。大ちゃん!みんなをさそって湖で遊ぼ!」
チルノはそれまでの会話を忘れたかのように表情をぱっと入れ替えると、大妖精を伴って勢いよく神社から飛び出していった。
鳥居をくぐったあたりで霊夢の「どうせなら氷創っていってよ、暑いのよ~」という声が聞こえた気がしたが、それを気にすることなくチルノは地を蹴るのだった。
チルノは霧の湖を目指して、蒼白い世界を飛ぶ。駆けまわって遊ぶ子供や畑仕事をする大人たちの彫像(・・)の間を縫って、脳裏に響く蝉の声に挨拶をしながら。
周囲のあらゆる物体は熱運動を許されず、その様相をいつかの夏のままに保ちながら、そこに在り続ける。
「いつもの景色」をまっすぐに見つめるチルノの頭には、何かを包む、どこまでも透き通った円環状の氷が乗っていた。彼女はそれを重いと感じながらも、それを外すことはなかった。それはきっと、おそらく、自分にとって大切なものだから。
大気や雲のない空から、小さいくせに眩しい太陽が紫外線の雨を降らせる。でもチルノはそれを気にも留めない。なぜなら、彼女はサイキョ―だから。
それに、みんなも大丈夫。だって、あたいがみんなを護っているから。大丈夫、ずっと一緒。みんな、ずっと、ずっと、変わらないまま。
チルノはもう何度目かも分からない「あの夏」を、透明な仲間たちとともに、今年も泳ぐ。
最後に急に不穏になって驚きました