雪が降っている。雨よりも少し小さめで、フラフラとゆっくり落ちる白く冷たい結晶。昨日までは秋晴れだった空も、今は白と灰色の混ざった雲が覆っていた。もう秋が終わったなんて信じない。右手を少し前に伸ばし、掌を上に向かって広げる。私の期待とは裏腹に、数秒すると冷たい感覚が一個二個乗っかった。それが雪だとは言うまでも無い。
「もう秋も終わりかしら」
そんな独り言を零し、自然に上がる肩を下げて足元を見る。暖色の落葉が所狭しと散らばっている地面は、まだ秋だと訴えている様に見えた。寒色だらけの世界と似合っていない異彩な鮮やかさが、より一層それを引き立てている。
しかし唯一の鮮やかな赤一色の紅葉が私にはある。少し大きな、特別派手という訳でも無い髪飾り。妹と区別を付ける為でもある。頭を手繰り、手こずりながらも取り外す。握り拳より一回り大きいそれは所々白くなっていたものの、私の目に癒しを与えてくれた。やはり秋が一番である。
今となってはあの愉快な天狗の妖怪も可愛い河童も姿を現さない。赤と黄色に包まれた、賑やかで静かなあの山が懐かしい。雪が積もった山も綺麗なのだが、秋の神様としては少し寂しい。自分の季節が過ぎると、何かが物足りなく感じる。
季節のサイクルには逆らえない。春夏秋冬の順に過ぎていき、変わることは無い。でも文句はある。暖かい秋の次をどうして寒い冬にしたのかって。春にでもしてくれればまだ暖かいのに。どこぞの冬の妖怪に聞いてみたい。なんで葉っぱを落とすのか、葉っぱを茶色に染めちゃうのか、余りにも勿体ない。全く、季節の神様は一体どんな奴なんだろう?…私か。
そもそも季節の変わり目とはいつからいつなんだろう?暑くなったら夏?涼しくなったら秋?寒くなったら冬?なんだかんだ曖昧すぎる。もしかしたらまだ秋なのかもしれない。苦し紛れなのは私でも分かっている。でもその分秋が終わって欲しくないという思いの現れでもあった。
でもそれも完全に主観である。一人の意見で物事を決めるのは良くない。周りの意見もあってこそである。さて、誰に聞こうか?
「…お姉ちゃん、大丈夫?風邪引くよ?」
…あ、丁度良い。狙ったようなタイミング。声で分かる。大切な妹の声で間違いない。この機会に聞いてみよう。
「大丈夫よ。それより穣子、少し聞きたいのだけれど大丈夫かしら?」
「ごめん、お姉ちゃん髪飾り無いから違和感が…」
…え?まだ外してたっけ?ふと手元に視線を落とす。…大切そうに持ってた。急いで手を上に移し、いつもの所に付ける。我ながらとても早いスピードだった。
「あ、いつものになった」
「…コホン、話戻すわ。ねえ穣子、いつまでが秋だと思う?」
「雪が降るまで…じゃない?」
「もう終わってるじゃないのそれ」
流石に予想外だった。だって今日振り始めたんだよ?今日で終わりってことじゃん。
「…じゃあ今日で私達はお仕事終わりなの?」
「ちょっと待ってお姉ちゃん、『今日』終わるってだけ。」
遂に穣子が壊れたのかと思った。同じ事連呼してるんだもん。仕方ない。
「え?どういう事?」
「いい?『今』終わったんじゃない。まだ時計の短針は12を周っていない。あと数十時間は秋なのよ!」
「じゃああと少しの時間はどうする?」
「後悔しないように遊ぶのみ!ほら、遊ぶよ!お姉ちゃん!」
すると突然雪を丸めて投げてきた。…たまにはこういう遊びも悪く無い。それなら対抗するのみ。雪を丸め、穣子の体めがけて投げる。
「そうね!まだ秋は終わらないわ!」
まだ色が残る落葉の上に雪が乗っかったその光景は、まるで季節が変わった様に見え、あと少しの秋を象徴した様な美しさだった。
「もう秋も終わりかしら」
そんな独り言を零し、自然に上がる肩を下げて足元を見る。暖色の落葉が所狭しと散らばっている地面は、まだ秋だと訴えている様に見えた。寒色だらけの世界と似合っていない異彩な鮮やかさが、より一層それを引き立てている。
しかし唯一の鮮やかな赤一色の紅葉が私にはある。少し大きな、特別派手という訳でも無い髪飾り。妹と区別を付ける為でもある。頭を手繰り、手こずりながらも取り外す。握り拳より一回り大きいそれは所々白くなっていたものの、私の目に癒しを与えてくれた。やはり秋が一番である。
今となってはあの愉快な天狗の妖怪も可愛い河童も姿を現さない。赤と黄色に包まれた、賑やかで静かなあの山が懐かしい。雪が積もった山も綺麗なのだが、秋の神様としては少し寂しい。自分の季節が過ぎると、何かが物足りなく感じる。
季節のサイクルには逆らえない。春夏秋冬の順に過ぎていき、変わることは無い。でも文句はある。暖かい秋の次をどうして寒い冬にしたのかって。春にでもしてくれればまだ暖かいのに。どこぞの冬の妖怪に聞いてみたい。なんで葉っぱを落とすのか、葉っぱを茶色に染めちゃうのか、余りにも勿体ない。全く、季節の神様は一体どんな奴なんだろう?…私か。
そもそも季節の変わり目とはいつからいつなんだろう?暑くなったら夏?涼しくなったら秋?寒くなったら冬?なんだかんだ曖昧すぎる。もしかしたらまだ秋なのかもしれない。苦し紛れなのは私でも分かっている。でもその分秋が終わって欲しくないという思いの現れでもあった。
でもそれも完全に主観である。一人の意見で物事を決めるのは良くない。周りの意見もあってこそである。さて、誰に聞こうか?
「…お姉ちゃん、大丈夫?風邪引くよ?」
…あ、丁度良い。狙ったようなタイミング。声で分かる。大切な妹の声で間違いない。この機会に聞いてみよう。
「大丈夫よ。それより穣子、少し聞きたいのだけれど大丈夫かしら?」
「ごめん、お姉ちゃん髪飾り無いから違和感が…」
…え?まだ外してたっけ?ふと手元に視線を落とす。…大切そうに持ってた。急いで手を上に移し、いつもの所に付ける。我ながらとても早いスピードだった。
「あ、いつものになった」
「…コホン、話戻すわ。ねえ穣子、いつまでが秋だと思う?」
「雪が降るまで…じゃない?」
「もう終わってるじゃないのそれ」
流石に予想外だった。だって今日振り始めたんだよ?今日で終わりってことじゃん。
「…じゃあ今日で私達はお仕事終わりなの?」
「ちょっと待ってお姉ちゃん、『今日』終わるってだけ。」
遂に穣子が壊れたのかと思った。同じ事連呼してるんだもん。仕方ない。
「え?どういう事?」
「いい?『今』終わったんじゃない。まだ時計の短針は12を周っていない。あと数十時間は秋なのよ!」
「じゃああと少しの時間はどうする?」
「後悔しないように遊ぶのみ!ほら、遊ぶよ!お姉ちゃん!」
すると突然雪を丸めて投げてきた。…たまにはこういう遊びも悪く無い。それなら対抗するのみ。雪を丸め、穣子の体めがけて投げる。
「そうね!まだ秋は終わらないわ!」
まだ色が残る落葉の上に雪が乗っかったその光景は、まるで季節が変わった様に見え、あと少しの秋を象徴した様な美しさだった。
面白かったです。
秋はもう終わったんだ
もう終わったんだよ