この物語は、 凋叶棕様の曲『噓と慟哭』をお話にしたものです。なんか気に入らんなぁ、と思った方は、すぐにブラウザバックをしてください。男オリ主の名は『蔵吉(くらきち)』。名前の由来は…特にありません。「」は現在進行形、『』は過去、【】は物の名前とかだったりします。ま、暇つぶし程度にはなると思います。
この話ははるか昔、もはや、話し手の記憶がすだれるほどの大昔
嘘を嫌う鬼の少女【伊吹萃香】ととある男【蔵吉】の物語。
お互いを愛し合い、疑うことを知らないといわれた二人の恋物語である。
萃香「よぉ、蔵吉ぃ!」
そういって俺の家の縁側から入ってきたのは、俺の彼女【伊吹萃香】だ。彼女は鬼という種族で、見た目とは反してすごく生きている。頭に2本の角があり、腕、腹に鎖がついており、その先にはそれぞれ球、三角柱、立方体の飾りがついている。そして、鬼というのは大層酒が好きなようで、手には方から肘ぐらいまでの大きさの瓢箪を持っている。ずっと酒が出るらしく、前に理由を聞いてみたんだが、【酒虫(しゅちゅう)】が酒を造っているだとかなんとか…まぁ、それはいったん置いといておこう。…それで、付き合った理由なんだが、まずは出会いから。家の縁側で一人で月見酒をしているとき、いきなり横から声をかけられたんだ。声のしたほうを向くと、そこには萃香がいた。ま、俺的には酒を飲む仲間が増えただけだから、どうでもよかった。だが、驚かなかったことが気にいらなかったのか、それからしばらくウチに入り浸るようになった。
そしてとある日、萃香が俺にこう言ってきたんだ。
『な、なぁ…私と、恋仲になってくれないか?』
そんときゃ、すんごい驚いた。なんせ、まさか俺が告白される時が来るとは思わなかったからな。勢いで承諾しちまったが、今となれば幸せだよ。
萃香「ん、どうした?私の顔をずっと見つめて…」
蔵吉「いや、告白された時のことを思い出してな」
萃香「…忘れろ」
蔵吉「どうだかなぁ」
萃香「くッ…!な、殴るぞ!」
蔵吉「やってみてよ」
萃香「…卑怯だぞ!」
蔵吉「卑怯で結構だ。それでお前のかわいい顔が見れるならな」
とまぁ、こんなやり取りを数年続けてるわけで。人里で鬼は危険だと恐れられてるんだが、幸い、ウチは人里からほんの少し離れた場所にある。昔から危機感がないとかは言われることがあったが、萃香を見ているとあまり危険を感じない。たまに、とても酔った状態でウチに来ることがある。
萃香「うぇーい、くらきちぃ~」
蔵吉「どうした…ってすげー酔ってるじゃねーか」
萃香「くらきちぃ~」
蔵吉「おうおう、どした」
そいうときは、まるで本性が現れたかのように俺に甘えるようになる。今は、胡坐をかいて座っている俺の足に座り、俺の胸に頭をすりすりさせている。めっちゃ可愛い。
萃香「頭をなでてくれぇ」
蔵吉「はいはい」
萃香「…はふぃ…」
そんなこんなで数か月後くらいたったある日、萃香にこんなことを言われた。
萃香「なぁ、約束をしないか?」
蔵吉「約束?」
萃香「あぁ。私とお前の愛を確かめ合う約束だ。別にお前のことを疑ってるわけじゃないぞ?ただ、お前と一緒にいるって実感したいだけなんだよ」
慌てて俺に説明する萃香を見て、俺は少し面白く感じてしまった。俺が笑ったことに対して、萃香は突っかかってくる。だが、俺がいいよと言ったとたん、目を輝かせた。
萃香「じ、じゃあ…私と一緒にいてくれ!…ずっとだ!」
蔵吉「じゃあ俺の望みは、お前の泣き顔を見たくない…一生だ。」
俺がそういい終えると、萃香が小指を俺に向けてきた。俺は少しの間首をかしげていたが、すぐに気づき、俺の小指できゅっとむすぶ。
蔵吉「ゆーびきーりげーんまーん。…これでいいか?」
萃香「あぁ、鬼はうそをつかないからな!」
さらにこの後、ちょっとしたニュースができた。それは、俺と萃香が結婚したことだ。もちろん、人里では公にしてない。だが、一応ということで人里の守護者、上白沢慧音には伝えておいた。あきれ顔をされたが、あんまり気にすることではないだろう。今日もまた萃香はウチにやってきた。
萃香「なぁ」
蔵吉「ん~?」
萃香「私たち、結婚したじゃんか」
蔵吉「うん」
萃香「ここからどーなるんだろうって」
萃香のその質問に、俺は笑顔で答える。
蔵吉「お前、そんなの幸せに向かうに決まってんじゃねーか。
萃香「…そっか。そーだな!あっはっは!」
俺と萃香は夜が明けるまで、将来のことについて笑い合いなっがら語っていた。
~数年後~
萃香サイド
あの時から、数年がたった。彼__蔵吉は、仕事で出てったきり、なかなか帰ってこない。だが、彼は言ったのだ。
蔵吉『ちょっと離れへ仕事に出ることになった』
萃香『…そうか』
蔵吉『大丈夫だ!数か月で戻れるだろう。だが、寂しいからと言って、能力とやらでこっちに来るなよぉ?』
萃香『なっ…そんぐらいまてらぁ!鬼舐めんなよ!』
蔵吉『そうか!なら心配はいらないな!』
私にできるのは信じて待つのみ。鬼はうそをつかない。…だが、どんなに待っても蔵吉が帰ってくる気配がしない。行き場のない寂しさを紛らわせるため、手に持っている瓢箪を口につけ、ゴクゴクと喉を鳴らす。いつもならこれでまぎれるはずの疼きがなぜかやまない。
萃香「…散歩に、行くか」
まぁ、ちょっとくらいの外出なら、蔵吉は許してくれるだろう。
そう思っていたのだが、なぜか足が止まらない。まるで、自分の向かっている場所に求めるものがあるかのように。その不安な気持ちと少しのワクワクを胸に、森の奥へと入っていく。
萃香「はぁ、はぁ…」
鬼の体力は少なくないはずなのに、動機が鳴りやまず、息切れが絶えない。足が止まるまで歩き続けてみようと思い、無心で歩みを進める。しばらく歩いていると、ぴたっと足が止まった。目の前に広がっていたのは、小さな集落だったようなものだ。だった、というのは、もはや使い物にならなそうな家だったり、力つきて倒れている者が何人もいた。私は関係ないと思いながらも、もう帰りたいと思いながらも、さらに足が動く。真実を知るために歩け、と…そういわんばかりに足が止まらなかった。
どんどん動悸が激しくなる。
萃香「はぁ…はぁ…」
さらに歩いていく。小さな集落だからか、すぐに家が少なくなった。集落の終わりに見えたのは、一軒のぼろぼろになった家だった。私は何の疑いもなくその家に入ると、そこには見覚えのある服を着ている遺体があった。もしやと思い、部屋の隅にあった遺体の私物と思われるものが集まったものがあった。それを確認してみると、見覚えのあるものがあった。
萃香「これは…私が蔵吉に渡した襟巻き…」
そう。これは蔵吉と付き合い始めてしばらくたった、ある彼の誕生日の時に私が彼に渡したもので、私のお手製で、友人の元鬼に教えてもらいながら作った、紛れもない蔵吉に贈り物として渡した裾巻きだ。
(裾巻きとは今で言うマフラーである)
萃香『おーい、蔵吉!』
蔵吉『ん?どうした』
萃香『今日は確か、お前の誕生日だろ?』
蔵吉『そーいやそうだな』
蔵吉は頬を指かきながらそう答える。それでどうした、と彼が私に尋ねる。私は、隠し持っていた蔵吉の祝いのために作った裾巻きを蔵吉に見せる。
蔵吉『これは…裾巻き?」
萃香『そう!こういうのはあまり得意じゃなかったから、友人…鬼?…ま、まぁ、そいつに教えてもらいながら作ったんだ。…うまくは作れなかったが…どうだ?』
正直私は不安だった。本当にうまくはできていない。ところどころほつれていたりする。蔵吉が文句を言うようなやつとは思えないが、どうしても不安になってしまう。蔵吉はじっと裾巻きを見続けている。
萃香『な、なぁ。気に入らなかったのなら…』
蔵吉『ありがとう!いや~、これから冬の季節に入るから防寒具はどうしようかと悩んでいたんだ!』
萃香『え!?い、いや、お世辞にもうまいとは言えないけど…』
蔵吉『確かにところどころほつれているが、この淡いあずき色…俺は気に入ったし、彼女からもらった贈り物だ。文句なんて言いようがないし、感謝しかないよ』
蔵吉は満面の笑みで笑っていた。それから、彼は数分の間ありがたい、ありがたいとつぶやいていた。時折、私に関しての誉め言葉を混ぜてくるため、段々と羞恥心がこみ上げ、無理矢理に止めた。
萃香『恥ずかしいからやめろ!それより、今日はお祝いだ!酒を飲もう!』
蔵吉『そうだな!』
その日は、夜が更け、朝方になるまでめでたいと祝いの言葉を騒ぎながら酒を飲んだ。
萃香「蔵吉…」
私はその裾巻きを拾い、蔵吉の目の前に立つ。元の淡いあずき色の裾巻きには、赤黒くなった血がべっとりとついている。集団の盗人か、はたまたは妖怪の仕業か。そんな不確定要素に思いを寄せつつ、目の間で起きている光景が今だ信じられない私は、ずっと名前を呼び続ける。
萃香「蔵吉、蔵吉…」
そう、壊れたようにつぶやいていると、蔵吉の手に紙が握られていることに気づいた。そのくしゃくしゃになっている紙を手に持ち、開く。それは血で少し汚れており、少し見えにくかったが、確かに蔵吉の字でこう書かれていた。
【ごめんな、ありがとう】
それを見た瞬間、私は叫び始める。嫌でも【蔵吉の死】という文字が情報として頭に入ってくる。周りの大地が揺れるほどの声を出し続ける。
萃香「うわぁぁぁぁぁあ‼なんでだ、なんでだよぉ!どうして約束を破っちまうんだよぉ!この嘘つきめぇ!裏切り者めぇ!お前は…ッそんなことも守れない弱虫だ!…だから、私がっ、そばにいて、やりたかったのにぃ!」
ずっと叫び続ける。喉が張り裂けるほど、途中で咳き込み、血が出ようと、叫び続けた。蔵吉に対しての非難の声は、あたりに、寂しく響くのみになる。やがて叫び果て、疲れ果てた私は、か細い声しか出せなくなる。
萃香「なんでだよぉ…うぅ…」
もはや立ち尽くすだけとなった私の顔には、一筋の光が流れ落ちた。
私も、約束を破ってしまった。
~博麗霊夢(現代)~
霊夢「萃香!アンタ酒飲んでるの?少しは手伝いなさいよ!」
季節は春。屋根で桜が舞い落ちる幻想的な風景を肴にし、瓢箪に口をつける。中に入っている酒をぐびぐびと飲み、ばぁーっと寝そべる。心地よい酔いに浸っていると、霊夢が私に手伝いを求める声が聞こえてくる。私は、めんどくさそうに起き上がり、返事を返す。
萃香「いいじゃないか、こんな時くらい。うまい酒を飲んでいるんだ。」
霊夢「アンタはいつも飲んでるでしょ!」
萃香「酒を飲んでるといやな気分を紛らわすことができるんだよ!…過去にあったことを、ね」
霊夢「え?最後何か言ったー?」
萃香「何にも。霊夢も大きくなれば分かるようになるよ。」
霊夢「ったく、何よそれ…ちゃんと後で手伝いなさいよー!」
萃香「わかってるよー!…ここは桜が咲いてるよ。そっちはどうだい?」
蔵吉。
その名をつぶやくと、春風がびゅう、と吹く。たくさんの桜の花びらが一つの花吹雪として天高く舞ってゆく。その光景を見届けながら、私はまた瓢箪に口をつけ、ぐびっと酒を飲んだ。
___終わり___
この話ははるか昔、もはや、話し手の記憶がすだれるほどの大昔
嘘を嫌う鬼の少女【伊吹萃香】ととある男【蔵吉】の物語。
お互いを愛し合い、疑うことを知らないといわれた二人の恋物語である。
萃香「よぉ、蔵吉ぃ!」
そういって俺の家の縁側から入ってきたのは、俺の彼女【伊吹萃香】だ。彼女は鬼という種族で、見た目とは反してすごく生きている。頭に2本の角があり、腕、腹に鎖がついており、その先にはそれぞれ球、三角柱、立方体の飾りがついている。そして、鬼というのは大層酒が好きなようで、手には方から肘ぐらいまでの大きさの瓢箪を持っている。ずっと酒が出るらしく、前に理由を聞いてみたんだが、【酒虫(しゅちゅう)】が酒を造っているだとかなんとか…まぁ、それはいったん置いといておこう。…それで、付き合った理由なんだが、まずは出会いから。家の縁側で一人で月見酒をしているとき、いきなり横から声をかけられたんだ。声のしたほうを向くと、そこには萃香がいた。ま、俺的には酒を飲む仲間が増えただけだから、どうでもよかった。だが、驚かなかったことが気にいらなかったのか、それからしばらくウチに入り浸るようになった。
そしてとある日、萃香が俺にこう言ってきたんだ。
『な、なぁ…私と、恋仲になってくれないか?』
そんときゃ、すんごい驚いた。なんせ、まさか俺が告白される時が来るとは思わなかったからな。勢いで承諾しちまったが、今となれば幸せだよ。
萃香「ん、どうした?私の顔をずっと見つめて…」
蔵吉「いや、告白された時のことを思い出してな」
萃香「…忘れろ」
蔵吉「どうだかなぁ」
萃香「くッ…!な、殴るぞ!」
蔵吉「やってみてよ」
萃香「…卑怯だぞ!」
蔵吉「卑怯で結構だ。それでお前のかわいい顔が見れるならな」
とまぁ、こんなやり取りを数年続けてるわけで。人里で鬼は危険だと恐れられてるんだが、幸い、ウチは人里からほんの少し離れた場所にある。昔から危機感がないとかは言われることがあったが、萃香を見ているとあまり危険を感じない。たまに、とても酔った状態でウチに来ることがある。
萃香「うぇーい、くらきちぃ~」
蔵吉「どうした…ってすげー酔ってるじゃねーか」
萃香「くらきちぃ~」
蔵吉「おうおう、どした」
そいうときは、まるで本性が現れたかのように俺に甘えるようになる。今は、胡坐をかいて座っている俺の足に座り、俺の胸に頭をすりすりさせている。めっちゃ可愛い。
萃香「頭をなでてくれぇ」
蔵吉「はいはい」
萃香「…はふぃ…」
そんなこんなで数か月後くらいたったある日、萃香にこんなことを言われた。
萃香「なぁ、約束をしないか?」
蔵吉「約束?」
萃香「あぁ。私とお前の愛を確かめ合う約束だ。別にお前のことを疑ってるわけじゃないぞ?ただ、お前と一緒にいるって実感したいだけなんだよ」
慌てて俺に説明する萃香を見て、俺は少し面白く感じてしまった。俺が笑ったことに対して、萃香は突っかかってくる。だが、俺がいいよと言ったとたん、目を輝かせた。
萃香「じ、じゃあ…私と一緒にいてくれ!…ずっとだ!」
蔵吉「じゃあ俺の望みは、お前の泣き顔を見たくない…一生だ。」
俺がそういい終えると、萃香が小指を俺に向けてきた。俺は少しの間首をかしげていたが、すぐに気づき、俺の小指できゅっとむすぶ。
蔵吉「ゆーびきーりげーんまーん。…これでいいか?」
萃香「あぁ、鬼はうそをつかないからな!」
さらにこの後、ちょっとしたニュースができた。それは、俺と萃香が結婚したことだ。もちろん、人里では公にしてない。だが、一応ということで人里の守護者、上白沢慧音には伝えておいた。あきれ顔をされたが、あんまり気にすることではないだろう。今日もまた萃香はウチにやってきた。
萃香「なぁ」
蔵吉「ん~?」
萃香「私たち、結婚したじゃんか」
蔵吉「うん」
萃香「ここからどーなるんだろうって」
萃香のその質問に、俺は笑顔で答える。
蔵吉「お前、そんなの幸せに向かうに決まってんじゃねーか。
萃香「…そっか。そーだな!あっはっは!」
俺と萃香は夜が明けるまで、将来のことについて笑い合いなっがら語っていた。
~数年後~
萃香サイド
あの時から、数年がたった。彼__蔵吉は、仕事で出てったきり、なかなか帰ってこない。だが、彼は言ったのだ。
蔵吉『ちょっと離れへ仕事に出ることになった』
萃香『…そうか』
蔵吉『大丈夫だ!数か月で戻れるだろう。だが、寂しいからと言って、能力とやらでこっちに来るなよぉ?』
萃香『なっ…そんぐらいまてらぁ!鬼舐めんなよ!』
蔵吉『そうか!なら心配はいらないな!』
私にできるのは信じて待つのみ。鬼はうそをつかない。…だが、どんなに待っても蔵吉が帰ってくる気配がしない。行き場のない寂しさを紛らわせるため、手に持っている瓢箪を口につけ、ゴクゴクと喉を鳴らす。いつもならこれでまぎれるはずの疼きがなぜかやまない。
萃香「…散歩に、行くか」
まぁ、ちょっとくらいの外出なら、蔵吉は許してくれるだろう。
そう思っていたのだが、なぜか足が止まらない。まるで、自分の向かっている場所に求めるものがあるかのように。その不安な気持ちと少しのワクワクを胸に、森の奥へと入っていく。
萃香「はぁ、はぁ…」
鬼の体力は少なくないはずなのに、動機が鳴りやまず、息切れが絶えない。足が止まるまで歩き続けてみようと思い、無心で歩みを進める。しばらく歩いていると、ぴたっと足が止まった。目の前に広がっていたのは、小さな集落だったようなものだ。だった、というのは、もはや使い物にならなそうな家だったり、力つきて倒れている者が何人もいた。私は関係ないと思いながらも、もう帰りたいと思いながらも、さらに足が動く。真実を知るために歩け、と…そういわんばかりに足が止まらなかった。
どんどん動悸が激しくなる。
萃香「はぁ…はぁ…」
さらに歩いていく。小さな集落だからか、すぐに家が少なくなった。集落の終わりに見えたのは、一軒のぼろぼろになった家だった。私は何の疑いもなくその家に入ると、そこには見覚えのある服を着ている遺体があった。もしやと思い、部屋の隅にあった遺体の私物と思われるものが集まったものがあった。それを確認してみると、見覚えのあるものがあった。
萃香「これは…私が蔵吉に渡した襟巻き…」
そう。これは蔵吉と付き合い始めてしばらくたった、ある彼の誕生日の時に私が彼に渡したもので、私のお手製で、友人の元鬼に教えてもらいながら作った、紛れもない蔵吉に贈り物として渡した裾巻きだ。
(裾巻きとは今で言うマフラーである)
萃香『おーい、蔵吉!』
蔵吉『ん?どうした』
萃香『今日は確か、お前の誕生日だろ?』
蔵吉『そーいやそうだな』
蔵吉は頬を指かきながらそう答える。それでどうした、と彼が私に尋ねる。私は、隠し持っていた蔵吉の祝いのために作った裾巻きを蔵吉に見せる。
蔵吉『これは…裾巻き?」
萃香『そう!こういうのはあまり得意じゃなかったから、友人…鬼?…ま、まぁ、そいつに教えてもらいながら作ったんだ。…うまくは作れなかったが…どうだ?』
正直私は不安だった。本当にうまくはできていない。ところどころほつれていたりする。蔵吉が文句を言うようなやつとは思えないが、どうしても不安になってしまう。蔵吉はじっと裾巻きを見続けている。
萃香『な、なぁ。気に入らなかったのなら…』
蔵吉『ありがとう!いや~、これから冬の季節に入るから防寒具はどうしようかと悩んでいたんだ!』
萃香『え!?い、いや、お世辞にもうまいとは言えないけど…』
蔵吉『確かにところどころほつれているが、この淡いあずき色…俺は気に入ったし、彼女からもらった贈り物だ。文句なんて言いようがないし、感謝しかないよ』
蔵吉は満面の笑みで笑っていた。それから、彼は数分の間ありがたい、ありがたいとつぶやいていた。時折、私に関しての誉め言葉を混ぜてくるため、段々と羞恥心がこみ上げ、無理矢理に止めた。
萃香『恥ずかしいからやめろ!それより、今日はお祝いだ!酒を飲もう!』
蔵吉『そうだな!』
その日は、夜が更け、朝方になるまでめでたいと祝いの言葉を騒ぎながら酒を飲んだ。
萃香「蔵吉…」
私はその裾巻きを拾い、蔵吉の目の前に立つ。元の淡いあずき色の裾巻きには、赤黒くなった血がべっとりとついている。集団の盗人か、はたまたは妖怪の仕業か。そんな不確定要素に思いを寄せつつ、目の間で起きている光景が今だ信じられない私は、ずっと名前を呼び続ける。
萃香「蔵吉、蔵吉…」
そう、壊れたようにつぶやいていると、蔵吉の手に紙が握られていることに気づいた。そのくしゃくしゃになっている紙を手に持ち、開く。それは血で少し汚れており、少し見えにくかったが、確かに蔵吉の字でこう書かれていた。
【ごめんな、ありがとう】
それを見た瞬間、私は叫び始める。嫌でも【蔵吉の死】という文字が情報として頭に入ってくる。周りの大地が揺れるほどの声を出し続ける。
萃香「うわぁぁぁぁぁあ‼なんでだ、なんでだよぉ!どうして約束を破っちまうんだよぉ!この嘘つきめぇ!裏切り者めぇ!お前は…ッそんなことも守れない弱虫だ!…だから、私がっ、そばにいて、やりたかったのにぃ!」
ずっと叫び続ける。喉が張り裂けるほど、途中で咳き込み、血が出ようと、叫び続けた。蔵吉に対しての非難の声は、あたりに、寂しく響くのみになる。やがて叫び果て、疲れ果てた私は、か細い声しか出せなくなる。
萃香「なんでだよぉ…うぅ…」
もはや立ち尽くすだけとなった私の顔には、一筋の光が流れ落ちた。
私も、約束を破ってしまった。
~博麗霊夢(現代)~
霊夢「萃香!アンタ酒飲んでるの?少しは手伝いなさいよ!」
季節は春。屋根で桜が舞い落ちる幻想的な風景を肴にし、瓢箪に口をつける。中に入っている酒をぐびぐびと飲み、ばぁーっと寝そべる。心地よい酔いに浸っていると、霊夢が私に手伝いを求める声が聞こえてくる。私は、めんどくさそうに起き上がり、返事を返す。
萃香「いいじゃないか、こんな時くらい。うまい酒を飲んでいるんだ。」
霊夢「アンタはいつも飲んでるでしょ!」
萃香「酒を飲んでるといやな気分を紛らわすことができるんだよ!…過去にあったことを、ね」
霊夢「え?最後何か言ったー?」
萃香「何にも。霊夢も大きくなれば分かるようになるよ。」
霊夢「ったく、何よそれ…ちゃんと後で手伝いなさいよー!」
萃香「わかってるよー!…ここは桜が咲いてるよ。そっちはどうだい?」
蔵吉。
その名をつぶやくと、春風がびゅう、と吹く。たくさんの桜の花びらが一つの花吹雪として天高く舞ってゆく。その光景を見届けながら、私はまた瓢箪に口をつけ、ぐびっと酒を飲んだ。
___終わり___