紅魔館の地下、フランドール・スカーレットは「咲夜の作ったご飯は美味しいなあ」と、黙々と食事を取っていた。生まれてこの方495年、彼女はずっと暗い暗い地下室で何の刺激も無い毎日を送っている。今日も野菜からデザートまで残さず食べたフランは、メインディッシュだった骨付きフライドチキンの骨を宙に放り投げると、掌を「きゅっ」と握る。すると骨は「ドカーン」と爆発し、消滅した。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』の危険さ故に地下室へ幽閉されたフランにとって、これが唯一の娯楽となっているのである。
「面白くないなあ、もっと楽しい毎日を過ごしたいのに……」
食器をドア横に片付けたフランはベッドにどっしりと腰を下ろし、じっと扉を見ると、再び掌を「きゅっ」と握る。しかし扉は砕けない。小さい物体は爆縮できるのだが、大きい物体には効果が無いのだ。
「……もう一回」
フランがもう一度掌を「きゅっ」と握る。
「ドンドンドンドン!」
すると扉がいきなり、拳で力ずくで叩いているような音が鳴った。
「えっ……」
フランがもう一度、掌を「きゅっ」と握る。「ドンドンドンドンドンドン!」とさらに強く扉が揺れた。そして「霧雨や! はよ開けんかいゴラァ!」と怒号が続き、次は扉を蹴る音。
「えぅ……?」
突然の出来事に、フランの拍数が急上昇した。
「隠岐奈開けんかい!」「ちょっと待って今開けるから……そう、私は解錠の神でもあるんだ」「やかましいはよ開けい!」
どうやら外には二人いるようだ。フランはベッドから立ち上がると部屋に立てかけていた刺股を手に取ると、身体を震わせながら構えた。同時に、ドアが「バン!」と勢いよく開き、「はよ開けんかい!」と霧雨魔理沙が部屋に入る。続けて、「邪魔するよ~、そう私は新○劇の神でもあるよ」と、摩多羅隠岐奈も続けて足を踏み入れた。
「だ、誰……挨拶もせずに」
フランは警戒しながら、刺股を前に突き出す。
「おお、私は霧雨魔理沙だ、魔理沙で良いぜ」
魔理沙はおどけたように自己紹介すると、「私は摩多羅隠岐奈、紅魔館の神でもあるよ」と隠岐奈が続けた。
「驚かせちゃったみたいだな。この前、アンタの姉貴が幻想郷にとんでもない迷惑を掛けて懲らしめた所なんだけど、そんなこんなしているうちに、ここの地下室に荒くれ者の妹がいるって聞いてな。どんな顔なのか見に来てみたってわけさ。ただ、私だけじゃ扉を開けれないかもしれないと思って、隠岐奈にも協力して貰ったってわけさ」
魔理沙が「へへっ」と説明すると、「今『隠岐奈は紅魔郷の頃にはいなかっただろ!』って思っただろ? 私は幻想郷の賢者の一人だ、少しぐらい過去に出てきても怒られやしないよ」と隠岐奈が続けた。
「……私に何の用?」
フランが刺股を更に前に突き出す。
「腕が伸びきってるぜ、それじゃ戦えないよ」
魔理沙はミニ八卦炉を防止の中にしまうと、フランドールの後ろに素早く回り込み、抱きかかえる。フランは「きゃん」と声を上げてばたつくが、幽閉され続けた彼女のか弱い腕力は魔理沙の前では無力であった。
「私をどうするつもりなの……」
フランは恐怖におびえながら、魔理沙の目を見る。
「弾幕ごっこしようぜ」
魔理沙はニッコリと笑うと、隠岐奈がピンク色の一枚の扉を用意し、「さあ、遊んできな」と扉を開ける。そして魔理沙はフランを抱えたまま扉の中へと消えていった。
「さて、次はアイツの番だな」
隠岐奈は再びピンク色の一枚扉を開けると、こちらもまた、扉の中へと消えていった。
◆
扉の先は、紅魔館の屋上、夜空には満月が浮かぶ。魔理沙はようやくフランを降ろすと、「そういえば名前を聞いてなかったな、なんだっけ、チェコかスロバキアだったかって聞いたんだが。弾幕ごっこは知ってるか?」と尋ねる。
「私の名前はフランドールよ、フランスでもないわ」
フランは呆れたように名前を口にすると、「私と弾幕ごっこするなんて、貴女変人?」と尋ね、そのまま掌を握る。フランが握りつぶしたのは空気。握りつぶしたところを中心に、米粒の弾幕が広がった。月明かりに照らされた弾幕は七色に輝く。
「すごい……地下室じゃ何にも光らなかったのに……」
フランは目を輝かせると、立て続けに掌を握り、米粒の弾幕がどんどん広がった。
「私は普通の人間だぜ」
魔理沙は箒にまたがると、弾幕をガリガリとグレイズし始めた。
「次は……こっちね!」
フランは左手に持っていた刺股を両手で握ると、一気にフルスイング。禁忌『レーヴァテイン』だ。フランは魔理沙を追いかけるように刺股を振り回すtと、周りに大量の米粒弾が広がる。魔理沙は刺股から逃げながら、「どう、楽しいか?」とフランに尋ねる。そして帽子から八卦炉を取り出すと、魔空『アステロイドベルト』を宣言。魔理沙を中心に大量の星弾が広がり、紅魔館の屋上を明るくする。
「すごい綺麗……」
フランが見とれていると、「こうしたら、もっと綺麗になるのかな?」と、掌を握る。すると魔理沙が撃った星が爆発し、無秩序な弾幕の嵐へ様変わりした。魔理沙は「うひい、超新星爆発も良いところだぜ」と驚嘆すると、八卦路の発射口を絞り、身体を回転させながらレーザーを射出した。レーザーは弾幕の嵐と衝突し、弾幕をどんどんとかき消した。
「やった! 恋符『ノンディレクショナルレーザー』の完成だ!」
魔理沙が「パチュリーに感謝しないとな」とガッツポーズをすると、空中にミニ八卦炉を放り投げる。
ミニ八卦炉は空中で浮遊すると、懐中電灯のような色で、屋上を照らし始めた。
「さあ、撃ってみな!」
「うん!」
初めての弾幕勝負、フランは笑顔でQED『495年の波紋』を宣言、米粒弾が四方八方から魔理沙を襲う。魔理沙は小刻みにステップを刻み、弾幕を交わしていく。
「まだまだ……!」
フランが出力を上げ、徐々に弾幕が濃くなる。
「うおっ危なっ!」
魔理沙は必死に、だが楽しそうに弾幕を避け続け、「そろそろかな……?」と、ミニ八卦炉をちらっと見ると、続いてフランの方へ視線を向ける。フランは「楽しい……」と呟きながら弾幕を広げるが、だんだんと息が荒くなり、ついには「疲れた……」と、弾幕を撃つのを辞め、その場にへたり込んだ。
「ふう、なかなかしぶといもんだぜ」
魔理沙は一呼吸置くと、ミニ八卦炉を手元に引き寄せ、電源を切る。恋符『マスタースパークのような懐中電灯』でフランの体力切れを狙っていたのであった。魔理沙はフランの方にやって来て腰をかがめると、「どうだった?」と尋ねる。フランは「凄い楽しかった……」とつぶやき、屋上に寝転んだ。空には一面の星が広がり、「もっと遊びたいなあ」と、涙を一つ零した。そして、「帰りたくないよぉ」と、大粒の涙へと変わった。
「大丈夫、お前は、自由だ」
魔理沙はフランを優しく撫でた。
◆
「どうだ? 妹さん、少しぐらい外に出しても良いじゃないんか?」
レミリア・スカーレットの自室、来客用のソファに尊大そうに腰掛けた隠岐奈がレミリアに尋ねる。フランと魔理沙の弾幕ごっこの一部始終を見ていたレミリアは、「ほんと楽しそうね……」と呟いた。「でもあの子の能力、本当に危ないわよ」と尋ねる。隠岐奈は「幻想郷(この世界)にはもっと手強い少女が沢山いるさ。それよりも、貴女の妹には暗い地下室よりも、幻想郷を楽しんだ方が良いんじゃ無いか?」と答える。
「大変なことになっても知らないわよ」
レミリアが睨むと、「大丈夫大丈夫、その時はその時さ」と、隠岐奈は笑って答えた。
地下に幽閉されて495年目、フランの楽しい幻想郷生活は思いも寄らぬ形で始まったのである。
(了)
「面白くないなあ、もっと楽しい毎日を過ごしたいのに……」
食器をドア横に片付けたフランはベッドにどっしりと腰を下ろし、じっと扉を見ると、再び掌を「きゅっ」と握る。しかし扉は砕けない。小さい物体は爆縮できるのだが、大きい物体には効果が無いのだ。
「……もう一回」
フランがもう一度掌を「きゅっ」と握る。
「ドンドンドンドン!」
すると扉がいきなり、拳で力ずくで叩いているような音が鳴った。
「えっ……」
フランがもう一度、掌を「きゅっ」と握る。「ドンドンドンドンドンドン!」とさらに強く扉が揺れた。そして「霧雨や! はよ開けんかいゴラァ!」と怒号が続き、次は扉を蹴る音。
「えぅ……?」
突然の出来事に、フランの拍数が急上昇した。
「隠岐奈開けんかい!」「ちょっと待って今開けるから……そう、私は解錠の神でもあるんだ」「やかましいはよ開けい!」
どうやら外には二人いるようだ。フランはベッドから立ち上がると部屋に立てかけていた刺股を手に取ると、身体を震わせながら構えた。同時に、ドアが「バン!」と勢いよく開き、「はよ開けんかい!」と霧雨魔理沙が部屋に入る。続けて、「邪魔するよ~、そう私は新○劇の神でもあるよ」と、摩多羅隠岐奈も続けて足を踏み入れた。
「だ、誰……挨拶もせずに」
フランは警戒しながら、刺股を前に突き出す。
「おお、私は霧雨魔理沙だ、魔理沙で良いぜ」
魔理沙はおどけたように自己紹介すると、「私は摩多羅隠岐奈、紅魔館の神でもあるよ」と隠岐奈が続けた。
「驚かせちゃったみたいだな。この前、アンタの姉貴が幻想郷にとんでもない迷惑を掛けて懲らしめた所なんだけど、そんなこんなしているうちに、ここの地下室に荒くれ者の妹がいるって聞いてな。どんな顔なのか見に来てみたってわけさ。ただ、私だけじゃ扉を開けれないかもしれないと思って、隠岐奈にも協力して貰ったってわけさ」
魔理沙が「へへっ」と説明すると、「今『隠岐奈は紅魔郷の頃にはいなかっただろ!』って思っただろ? 私は幻想郷の賢者の一人だ、少しぐらい過去に出てきても怒られやしないよ」と隠岐奈が続けた。
「……私に何の用?」
フランが刺股を更に前に突き出す。
「腕が伸びきってるぜ、それじゃ戦えないよ」
魔理沙はミニ八卦炉を防止の中にしまうと、フランドールの後ろに素早く回り込み、抱きかかえる。フランは「きゃん」と声を上げてばたつくが、幽閉され続けた彼女のか弱い腕力は魔理沙の前では無力であった。
「私をどうするつもりなの……」
フランは恐怖におびえながら、魔理沙の目を見る。
「弾幕ごっこしようぜ」
魔理沙はニッコリと笑うと、隠岐奈がピンク色の一枚の扉を用意し、「さあ、遊んできな」と扉を開ける。そして魔理沙はフランを抱えたまま扉の中へと消えていった。
「さて、次はアイツの番だな」
隠岐奈は再びピンク色の一枚扉を開けると、こちらもまた、扉の中へと消えていった。
◆
扉の先は、紅魔館の屋上、夜空には満月が浮かぶ。魔理沙はようやくフランを降ろすと、「そういえば名前を聞いてなかったな、なんだっけ、チェコかスロバキアだったかって聞いたんだが。弾幕ごっこは知ってるか?」と尋ねる。
「私の名前はフランドールよ、フランスでもないわ」
フランは呆れたように名前を口にすると、「私と弾幕ごっこするなんて、貴女変人?」と尋ね、そのまま掌を握る。フランが握りつぶしたのは空気。握りつぶしたところを中心に、米粒の弾幕が広がった。月明かりに照らされた弾幕は七色に輝く。
「すごい……地下室じゃ何にも光らなかったのに……」
フランは目を輝かせると、立て続けに掌を握り、米粒の弾幕がどんどん広がった。
「私は普通の人間だぜ」
魔理沙は箒にまたがると、弾幕をガリガリとグレイズし始めた。
「次は……こっちね!」
フランは左手に持っていた刺股を両手で握ると、一気にフルスイング。禁忌『レーヴァテイン』だ。フランは魔理沙を追いかけるように刺股を振り回すtと、周りに大量の米粒弾が広がる。魔理沙は刺股から逃げながら、「どう、楽しいか?」とフランに尋ねる。そして帽子から八卦炉を取り出すと、魔空『アステロイドベルト』を宣言。魔理沙を中心に大量の星弾が広がり、紅魔館の屋上を明るくする。
「すごい綺麗……」
フランが見とれていると、「こうしたら、もっと綺麗になるのかな?」と、掌を握る。すると魔理沙が撃った星が爆発し、無秩序な弾幕の嵐へ様変わりした。魔理沙は「うひい、超新星爆発も良いところだぜ」と驚嘆すると、八卦路の発射口を絞り、身体を回転させながらレーザーを射出した。レーザーは弾幕の嵐と衝突し、弾幕をどんどんとかき消した。
「やった! 恋符『ノンディレクショナルレーザー』の完成だ!」
魔理沙が「パチュリーに感謝しないとな」とガッツポーズをすると、空中にミニ八卦炉を放り投げる。
ミニ八卦炉は空中で浮遊すると、懐中電灯のような色で、屋上を照らし始めた。
「さあ、撃ってみな!」
「うん!」
初めての弾幕勝負、フランは笑顔でQED『495年の波紋』を宣言、米粒弾が四方八方から魔理沙を襲う。魔理沙は小刻みにステップを刻み、弾幕を交わしていく。
「まだまだ……!」
フランが出力を上げ、徐々に弾幕が濃くなる。
「うおっ危なっ!」
魔理沙は必死に、だが楽しそうに弾幕を避け続け、「そろそろかな……?」と、ミニ八卦炉をちらっと見ると、続いてフランの方へ視線を向ける。フランは「楽しい……」と呟きながら弾幕を広げるが、だんだんと息が荒くなり、ついには「疲れた……」と、弾幕を撃つのを辞め、その場にへたり込んだ。
「ふう、なかなかしぶといもんだぜ」
魔理沙は一呼吸置くと、ミニ八卦炉を手元に引き寄せ、電源を切る。恋符『マスタースパークのような懐中電灯』でフランの体力切れを狙っていたのであった。魔理沙はフランの方にやって来て腰をかがめると、「どうだった?」と尋ねる。フランは「凄い楽しかった……」とつぶやき、屋上に寝転んだ。空には一面の星が広がり、「もっと遊びたいなあ」と、涙を一つ零した。そして、「帰りたくないよぉ」と、大粒の涙へと変わった。
「大丈夫、お前は、自由だ」
魔理沙はフランを優しく撫でた。
◆
「どうだ? 妹さん、少しぐらい外に出しても良いじゃないんか?」
レミリア・スカーレットの自室、来客用のソファに尊大そうに腰掛けた隠岐奈がレミリアに尋ねる。フランと魔理沙の弾幕ごっこの一部始終を見ていたレミリアは、「ほんと楽しそうね……」と呟いた。「でもあの子の能力、本当に危ないわよ」と尋ねる。隠岐奈は「幻想郷(この世界)にはもっと手強い少女が沢山いるさ。それよりも、貴女の妹には暗い地下室よりも、幻想郷を楽しんだ方が良いんじゃ無いか?」と答える。
「大変なことになっても知らないわよ」
レミリアが睨むと、「大丈夫大丈夫、その時はその時さ」と、隠岐奈は笑って答えた。
地下に幽閉されて495年目、フランの楽しい幻想郷生活は思いも寄らぬ形で始まったのである。
(了)