Coolier - 新生・東方創想話

魔界の旅 第一話

2024/09/07 23:30:16
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魔界の観光会社であるツアープログラムが勃興した。
魔界人たちはこれまでに目にしたことのなかった人間界に心躍らせ勢いよく飛び出していった。
その旅行先はゲートを通じた人間界だけではなく「外の世界」も含まれていた。

そしてその外の世界―――――――――――――――

生活基盤の整った都市を発生源とした、空前の経済景気。
資本やれを源にする経済活動は沸騰する湯水に起こった対流の如く目まぐるしく回り、あらゆるものが富の頂に立たんとすべくその源泉に辿り着くべく必死に藻掻いた。
その豊潤な経済によって勃発した前代未聞の景気の狂乱がしんと収まった暫く後の事——————
中臣興産に努める男、尾田 由木尾は、周囲からは忌まわしき異端とされそうなほどひねくれた性格ではあったものの、日々の業務を淡々とながらも勤しんでいた。

多くの同世代の若者が富を欲さんとばかりに賭けに出る中、それに敗れ破綻してゆく者も少なくなかった。
ある男は
「おっしゃ、バンバン稼いでステーキ食いたい放題だ!」
とか
またある男は
「六本木の高級マンションで美女とウハウハだ!」
等と欲と行動原理が一体化し更には自分の人生まで賭けて出る始末。
男は予測がつかない状況で一念発起したところで、身を滅ぼしかねないマネも同然だと慎重に警戒していた。

そして突如に執り行われた中央銀行の怒涛の利上げ施策。

地価は暴落したまま再高騰の気配を見せる事も無く、殆どの個人と企業が担保にしていた資産価値は激減。
企業は融資の難化により資金繰りの悪化、銀行は不良債権を抱え、幻のような輝きを見せた景気は終焉を迎えた。

男はさも、自分はそれを知っていたからなのだとなのだと縮こまった性格の情けない口実として自負した。
ほとぼりが冷め、その拙い所業をたしなめるかのように不況や社会不安が世間を襲う渦中に立たされた今、男は尚も胸を張って力強い決心をする事に躊躇いと疑いをきっぱりと断つことが出来なくなった。


男は心配性だった。
そしてそれに矛盾するかのように、体制や一部の常識をこっ酷く馬鹿にする邪悪ともいえる程の天邪鬼でもあった。
地価で博打に打って出るも敗者になった者に理由を知ろうとも聞こうともせず、男はただ沸騰する湧けば弾けを繰り返すその泡を、一獲千金を手にする足掛かりにしようとする者達を下手な運試しだとばかりに心中で嘲笑した。
それは何も私情に限った事ではなく、同僚や上司から飲み会に誘われても
「いや、こんな見た目も性格もパッとしない情けない野郎を華の宴会席に呼ぶのは少々勿体ないと思しきところなのであります」
などと下手な言い訳を口上でもして
“スーツ着てビール飲んだくれる宴会なんてのは気狂いだ!”
とか
男は根性、死ぬまで働け!などと不意に喝を入れられようものなら
“そんな時代遅れの古くっさいさびっさびの精神論をさ、他人に押し付けるとかバカじゃねぇーの?”
等とその胸中は見よう見まねの下手な実直さからはおおよそ想像し得ない程狡猾に歪んでいた

同僚や上司が男のその消極性にもめげずに、積極的に声をかけたりしないのは空虚で、薄っぺらいその外面から何か感づいたようである為なのだ。
ただ、仕事の要領はよく、そこそこのキレ者ではあった。
同時期にパソコンの普及が急速に拡大し、その技術を持つ者が求め始められた中で
“今はパソコンの時代さ!”
等と気持ちを躍らせつつプログラミング知識も学び始めていた。
ただ他人と話す時の口調は「~であります」「~なのです」等の語尾を使ったりと、生真面目さを強く意識過ぎて、もはや片言になったまででもあるが。
それでも経理と事務を転々としながらも着実に実績を上げてきた彼は
「由木尾さん、頼りにしてるわ!」
とか
「今度、ウチに来て二人だけで飲まない?」
なんて社内にも、道を歩く見知らぬ女性からももてはやされたりと寧ろ人気者の面も持ち合わせていた。
ただ男は決まってそうチヤホヤされた日の帰り道では間もなく倒れそうな、左右の足を変則的に変わる軸にして回転する駒の様に、フラフラとのぼせ上がってしまう。
性格が気弱な事もあってか女には弱いのである。

都市部の人だかりは正に物に目を輝かせそれを追い求め互いに衝突する人間たちの人流だった。
若年層が都市の歩道を覆いつくす中、辺りを見渡せば踊り騒ぎの繰り返しを求める者で満ちていた。

間もなく不況の影響は勤務先にも及んだ。

そんな時、取引先の鉄鋼会社の秘書の妻が、男に強い興味を抱きその女の家に来る提案を持ちかけてきたのである

女は知る人ぞ知る、大富豪となった投資家の箱入り娘だった。
当然それなりの品格を持ち合わせるように育てられてきたのだが、年収や地位によって差別をするような悪辣さは持たないが、一度好奇心のスイッチが入ると際限なく考えてしまう癖を持ってしまったのだ。

二十歳を過ぎてそろそろ世俗に触れてもいいだろうと一人暮らしが認められ、定期的に投資の配当金を受け取ることで生活をしていた。

そして、大手鉄鋼会社の秘書と晴れて結婚。

だがそれから10年経ち、女は若い男との会話を求め街を徘徊していた。
その若者の口から出るその言葉はあまりにも冷徹だった。

ある若者からは

「あんた行き遅れのオバハンでしょ?」

と杜撰に一蹴され、

ある若者からは
「失せろ、おばん!あたしのメッシーに手ェ掛けてんじゃないわよ!」
等とまるで縄張り意識が強いだけの獣のような動物みたく威嚇され

そのあしらいは容易に耐え忍べるものではなかった。

あまりに不遇な要因の一つとして、女も結局は似ても似つかなくとも男と同じ変人であったのだ。

その一番の異常な印象を醸し出す要素として、その年に見合わぬ髪型が何といっても第一に挙げられる
左右の高い位置で結ばれた黒髪は、腰の長さにまで垂れる“ツインテール”のヘアスタイルで服だけは、年齢相応に濃い色合いの紺と緑とその組み合わせはミスマッチを遥かに超越した全体的に奇怪な存在であるという印象を強く残す。
女の相手は鉄鋼業の中において歴史に残る成功を収めた業界屈指の鉄鋼会社の秘書。
結婚のきっかけは、相手の男性の懸命なる働きぶりも勿論心に強くときめかせたものではあったが、男が就くべきではないとされた秘書になる事を強く望んでいたという事である。

細やかで確実な仕事のこなし方と、物腰柔らかい対応が出来るコミュニケーション能力が求められる、際立った知性が無ければ到底与えられられないであろうその役職をどんな気持ちで熱望したのだろうか

と男性の真意を若干知った上で興味と恋心が沸き立ったのである。
だが、夫の仕事が多忙を極め、夫婦同士の会話も疎遠なものになりつつある中、女の中で孤独感は増していった。
結婚当初から夫は職業癖ともいうべき几帳面な性格によって、夫婦だけが出来る深く入り込んだ話をする機会が極めて少なくなったのである。
そしてやはり何といっても女のそのオーバーシンキングともいうべき勘繰りと、好奇心のセンサーがあまりにも特異なもので

君、ちょっとクレイジーすぎる...

と夫から敬遠されがちになってしまった。
とは言え、女もただ他と異なる秀でた優秀さを持ちながらも、それに享受するかのように華々しい職業を求めたりしないその夫の性格を面白そうだと思った理由だけで結婚したわけではない
女はカルチャーショックに近い程の刺激を与えてくれる若い男を求めカフェや町中を行ったり来たりをし始めた
夫も持ち前の察知能力で何となく渋り気味な答え方をする妻を、淋しさ晴らしに他の人と付き合ってるんだな、と黙認した。

そして決して些細なものではない罪悪感を感じつつも何とかデートの相手を探し続け、遂にその時がやってきた。

嵐に襲われた様に一網打尽にボロクソに罵られながらも挫折せずに尽力した先に、漸く話が合いそうな自分と同じ程度の変人に出逢えたのである

男は当然とも言うべきかはいざ知らず、服のファッションセンスなんざ人の好みだと気にも留めなく、自分の装いについてどう思うかと一般的な質問をしても無味乾燥な返事しか返ってこなかったのは少し寂しい所ではあるが。


なるべく会社の人間に気づかれないように二人だけの待ち合わせ方法を決めた。

男の待ち合わせ方法は用意周到だった。
ポケットベルをコンビニの、如何わしい本の置いてあるコーナーで隠すようにニヤついた顔でそういう類の雑誌を読みながらちまちまと打つ。欠かさずそこで酒を買い送った待ち合わせ場所で「やぁ、こんばんは。御機嫌いかが?」と挨拶をする代わりに、相手も同様にして買った酒を見せ合い女の自宅へと二人して共に向かう。

そこまでは、まあ大目に見ればちょっと情けないで済まされるのだが、玄関を入るなり直ぐ様子供のように女の体を抱きしめるのは最早大人どころか、人の精神を持つかどうかも怪しく。

だが、「じゃあ、これお願いね」と頼まれれもさえすれば、男は文句の一つも言わず手伝いをやってのけるのだ。
ある時は数枚程ある厚手布団を干したり、エアコンをメンテナンスしたり、あまり汚れてはいないが女の部屋を雑巾がけしたり・・・
それは身に堪えようが、手間がかかろうが男はすぐに返事も寄越さずに取り掛かる。
時には不意にキッチンに立つ女に
「あ、作る作る!」
とひょうきんな甲高い声を出すなりせっせと作り始め、手料理を振舞う事さえあるのだ

だが所詮、発端は女に声をかけられ情けにほだされた事に他ならず、それを待ちわびる気分で女の手助けとなる様行動するのは確たる事実ではある。
矢張りとして執拗さの否めない男の付きまといの如く女の家に出向く習慣は、風の噂で女の夫に探りを入れられたとしても、無くなることはなかった。
食事を終えたあと、女はソファへと座り、すかさず男はその目前で正座をしその口から漏れるあらゆる愚痴のゴマをする。
しかもその振る舞いは正に前時代の太鼓持ちも甚だしく、女に物乞いの仕草みたく腰をへこへこと下げて手もみで懐柔するかの様に媚にへつらいを延々と垂れ流すばかりと専ら下っ端染みていた。
「あの男、巨大コンツェルンの女狐とねんごろになりやがって...!」


へえ、それはとんでも無え野郎で御座えやすな


なんて貧相な見た目通りの細り切った受け答えでもすれば

女は敢えて態とらしくもむっとした顔で、視線を男に向ける

流石にそこはその男でもその顛末の最たる要因は自分に他ならぬと自負した様ではある。
女も男に絞め殺される鴨のマネだとか、しまいには裸でドジョウ掬いをやれという始末と、なかなかに非常識な注文を男にする体たらくであった。
どんな事情があるにせよ、自分の男癖が正せずに夫が不倫をしてしまった以上、彼と付き合っていくしかないと女は腹を括ったのだ。

果てに男は女のチョモランマにダイブして

「ももぉーまぁーん」

と甘え尽くしたり互いの距離の見境もなくった態度に出始め、遂にお互いの快楽を求め合うようになったのである。
もちろん、つけるものはつけてるが。

最早見るに堪えかねる無気力の象徴の表れとなる迄に悪化した男の女癖は回復不能になった。
一人の女だけに求めるという点が、辛うじて男を悪人になるかならないかの瀬戸際に留まらせていた。
もちろんそれが世間に知れ渡れば、罰当たりも甚だしいしみったれ野郎として叩き潰されるのだろうが。


ダラダラと、互いの事情はあれど快楽を貪りあうそれや下卑た茶番をのべつ幕なしに、かと言ってお互いの生活に差し障る事は無く情事に塗れる日常。
そんな中、不況の影響は男の会社に徐々に浸透していった........。
石油加工製品を取り扱う男の会社は原油価格高騰に伴い、商品に影響を抑える為の処置として最終的に一部社員を対象に減給する事が決まった。
社員へ福利厚生や年給についてまだまちまちな見方が大半を占めた時代でも、男の勤務先は待遇の良い方だった。
給料引き下げの通告が舞い込んだ男の心境は危機意識を持ち始めた。

金融システムを下支えする重役の一端を担う地方銀行は次々と倒産。
まぁ、預金先は国内最大の民間銀行だから気を揉む事等あるまいと高を括っていたその矢先。
屈指のメガバンクたる岳兆信用銀行が同じ不良債権をきっかけとして破綻したのである。
日々貯蓄し引き下ろしていた自分の全財産はすべて消失した。

あぁ、もう、全部パーだ!

男の頭には何一つ打開策が見つからなかった。

取り敢えずびた一文も無くなった今、飯も帰る家もあったモンじゃねえ。
男はさびれた公園のベンチで新聞紙を上から落とされたかのように被せ、一夜をそこで過ごすことにした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その3か月ほど前―――――
「新鮮だわぁ~」と帽子をそっと押さえて風に服をたなびかせた少女が都市のある公園にいた。
所持金は約十万円ほど。
ツアー会社の計らいで自由に旅行先の銀行に口座を作れるようになっているので、そこで資金を貯蓄して好きなところに何時でも行けるというワケだ。

少女は真っ先に預金を済ませ、投資先を探し株を購入した。

少女は自ら、最初に日夜問わず高原で自然を体感し、適宜貯まったところでその金を使って観光をするというプランを立てた

次に本屋へ寄って、観光地の情報をチェック。
基本的に彼女は観光地名の詳細を全部“知ってる”
本を見て探す内容は、その知識に欠けてる詳細やリニューアル情報と新しく出現したスポット。
そこで調べるのは新しくリニューアルした場所や新しく誕生したスポット等の今の知識にない情報である
観光ガイドブックを手に取った彼女は早速その情報を探すことにした。
「嬢ちゃん、立ち読みは禁物だよ?買うかここを後にするかのどっちかにしてくれないかい?」
と、そこへ埃取りを持ってやって来た本屋の店主に払うように手を振って注意をされる。
パラパラ―っとページを探す時でもそこに書かれたる文字や写真はすべて把握出来る。 
「あらあら、たったの4ページですのよ?」
「買わないんだったら早く店を出な」
「あら、それは迷惑を掛けましたわ。」
と少女は颯爽とそこを去った。

店主はその異様な風貌と口調に内心疑う事しかできなかった。

少女はホテルは勿論、グルメスポットや歴史名所を無駄のない回り方をして観光した。
そしてすべてを満喫して帰ろうとした時

「もぉ~~」

とベンチで新聞紙を汚く被せて寝る男に遭遇した。
一目見れば、それは普通の浮浪者に見えるが、少女はその他とは違う雰囲気に惹かれ腰を掛けた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

不安を隠すようにわざわざ公園のベンチで一夜を過ごすだなんて大胆な真似に出でみた訳だが、当然その不安は確実に現実に起こる。
無意識ながらも男は眠りながらそれに悩まされていた。
人間は極限レベルの不安に襲われると眠りにつくのは難しくなる。
男が目を開けるとそこに、変わった様子の少女が座っていた。
ペタトス帽を被った二つ分けの金髪、紫のスヌードを首に巻き上下が一つになったスカートのような服
少女はルイズと名乗った。
彼女は魔界という場所からツアーでやって来たというのである。
どうやらそろそろ帰ろうとしてる様子だが。

どう、貴方も一緒に魔界へ来ないかしら?

と誘う彼女

あれなんか聞いたこともねえ場所だな

とか寝ぼけながら男はフラフラと少女についていった。

だんだんと暗さを増し空の色が見たこともない色に変わった。

「では、案内しましょうか―――――」
ルイズはそう言うと男を脇の下から抱え空を飛び始めた。
男は半ば夢見心地の気分だった。

だが、見たこともないスピードで飛んでいく中、男の意識は次第に集中していった。
今までの全てと今が走馬灯のように頭の中で流れ続けた。
そして両脇の神殿程に太い柱が左右に並び、奥に限りなく続く場所へと辿り着いた。
けっこう男が情けない(おい
かなり努力の面が感じられにくいというか…うーん。
k
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