Coolier - 新生・東方創想話

クソバカ東方妖々夢

2024/08/15 15:44:23
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 氷精には何の罪もなかった。ただ、マジ寒かったので、よっしゃあ!マジ寒くて最高だぜええってハイになっていたら、通りがかった情緒乱高下巫女にめちゃくちゃにされた。なんなんだよ意味わかんねえよってべそべそ泣いていると、私と同じかそれよりひどいくらいの怪我をした雪女が現れて慰めてくれた。

 彼女は冬が長すぎる異変を解決させないために巫女に向かっていったようなのだが、間接極められて腕が終わっただけだったらしい。氷精は話を聞いても意味がよくわからなかった。

 そもそも冬が長すぎるという観念が理解できなかった。ふつうくらいだろ、こんなもんじゃないのかと雪女に聞いてみたが、言われてみるとそうかもしれないと、わかったんだかわかってないんだかわからないことを言うだけだった。

 大体、冬っていうのは素晴らしい季節だ。雑草が生え放題にならないから門番が構ってくれる時間が増えるし、食べ物が腐りにくいからあまりものをくれる人が多いし、暑くて仕方がないから氷を出せってせっついてくる無礼な輩も少ない。

 河童のドブカス野郎が、機械のクールダウンに良いからとか抜かして、鉄の一室に閉じ込めてくるようなこともない。まったく、いいことづくめの季節だったのだ。

 雪女は、作物がそだたなくってみんなが困っちゃうわと言った。氷精はそこでお前が冷静になるくらいなら、初めから巫女になんか向かっていくなよと思った。そんな中途半端なところでお前は無意味にボコボコにされたんだぞと言ってやったら雪女は泣き始めた。正論は女を泣かせる目的でしか役に立たない。

 氷精はオロオロした。まああれよね。一面ボスが闇を操る強そうな感じなのにてんでザコだったり、冬が長引く異変の雪女なんてオイシイ役どころが雑に掃除されたり、よっぽど逆張りが好きなのねと意味不明なことを言うだけだった。あまりにも意味不明すぎて雪女は泣き止んだので結果オーライだった。

 とにかく、冬が長いなんて勘違いでこれからさらにボコられるやつらが可哀想でならなかったので、二人はうっかりさんの巫女をおっかけて教えてやることに決めた。

 先に教えておくと、二人はさらにボコられて終わる。



***



 猫かボロクズかで言ったら、まあギリギリボロクズだろうなと思って蹴っ飛ばしたら猫だった。やべってなった。猫をボコるものは世界中から排斥される。このミスを挽回するため、氷精は猫を抱き起してよしよしした。

 猫はうぐううと呻いた。氷精がよしよししたところは猫が骨折したところだったのだ。氷精はほとんど半べそになって、どうしよう、どうしようと雪女に尋ねた。こいつらはさっきから泣いてばかりいる。

 まてよ?泣いてばかりいるって、泣いて馬謖を斬ると韻が踏めるな。お前、メモ書きじゃねーんだよ、ここはよ。最低限の秩序すら守れねーのか。語り部舐めてっと潰すぞ卍

 雪女は氷精から猫を優しく受け取って、誰かに預けるしかないでしょう、私たちには聖なる旅の目的があるし、と言った。氷精は雪女のあまりといえばあまりの天才さにたまげた。

 でもそんなこといっても、こんな森の中にいて「誰か」って誰だよという問題があった。もしこんなところに都合よく家があったら、この猫が化かしているに違いなかったし、そうであったならばこの猫は殺さねばならないではないか!氷精はふるえた。

 戦々恐々していると、はたして、しばらく道なりに行くと家があった。それなりに手入れされている清潔感のある家で、明らかに誰かが住んでいると見えた。嘘だろ。そんなことあるか?氷精は猫を楽にしてやろうとした。雪女はこらっ!いけません!と氷精を叱った。

 家の前でしばらく騒いでいたので、なんだなんだと家の主人が出てきた。ふりふりした格好をした金髪だった。ふりふりした格好の金髪だったので、氷精はおそらくこいつは魔法使いだと思った。魔法使いには二種類いる。ふりふりした格好の金髪か、ふりふりした格好の紫髪だ。

 そして魔法使いならばきっと心優しいはずだとも、氷精は思った。事情を話すと、魔法使いは快く猫を引き受けた。

 しかし、旅の目的を聞いたところでは難色を示した。ボコられて終わるからやめておきなさいというのである。曰く、今はもう桜が咲いて散って、梅雨に入ってないとおかしいくらいの季節だから、あんたの言っていることはおかしいということだ。

 雪女の方を見ると、だから何度もそう言ってるじゃんかという顔をしたので、氷精は、お前、一度は流されておきながらその態度はなんだと思って、めちゃくちゃ憤慨した。二人がガチに喧嘩を始めたので辺りは一気に氷点下まで冷え込んだ。

 魔法使いはお菓子を持ってきて、猫の体調に障るからやめなさいと二人を止めた。氷精と雪女は憎悪に染まった顔を一瞬で緩ませてお菓子を食べた。魔法使いはというのは何かにつけてお菓子をくれるものだ。

 しかし、家に招かれてお茶をしばかせてもらって落ち着いてからよくよく考えると、二人はこれからどこへ行っていいのかとんとわからなかった。あと、家のことはほとんど人形がやっていた。魔法使いは人形遣いだった。実は人形遣いは巫女がどこへ向かっていったのか知っていたが、みすみすボコられ女を二人増やすだけの無謀な旅に手を貸す義理は当然なかったので黙っていた。

 これで破滅へ向かう旅路も挫けたかと思いきや、猫が人間態に変わった。猫は介抱してくれたお礼にと、冬が終わらない異変の心当たりを二人に教えた。なんだか昔話みたいな展開に氷精は心躍っていたが、隣にいた人形遣いは余計なことしやがってという顔をした。

 旅は終わらなかった。きっと運命を操る吸血鬼とかがそうしたのに違いない。だって、旅が終わらない方が面白いから。そうか?もうそろそろ終わっとけよって気もするよね。



***



 途中で騒霊と和やかに挨拶をかわしつつ、何らかの大きな結界を超えてしばらく行ったところで、白い大きな饅頭に乗せられて、ふらふらと力なく飛んでいる剣士が居た。あんな調子では今に落っこちるだろうと思って、肩を貸そうかと声をかけると、お礼を言われた。

 どうせ巫女にボコられたのだろうと尋ねると、あなたもそのようですねと言われた。言い飽きたが、本当にもう目に入れるだけで憐れな気持ちがいっぱいに湧いてくるほど、ボコボコにボコられていた。

 剣士は直ちに帰らねばならぬと言うので、家までおぶってやることにした。饅頭は雪女が抱いてやっていた。剣士はなんどもなんども謝ったりお礼を言ったりした。

 しかし、話を聞いていると、この剣士こそが春を奪って冬を長引かせた実行犯その人だったことがわかり、氷精はハアアア!貴様がそうかぶっ殺してやると息巻いた。

 雪女は、いや、違うわよ。冬が長くなるんだから味方じゃないのと止めた。

 氷精は、なんだそうだったそうだった、まことに申し訳ないと思った。

 雪女は、でも、間接的に彼女のせいで私たちは巫女にボコられたのよねと言った。

 氷精は、ハアアア!そうだったそうだった、やはり貴様めちゃくちゃぶっ殺してやると息巻いた。

 雪女は、もう巫女にボコられてるんだから許してあげなさいよと言った。

 氷精は、まあそれもそうかと思って剣士を許してやった。

 しかしなんでまた春なんて奪っておるのか。ずっと花見をしたいのか。剣士は、敷地にある大きな桜を咲かせたいと主人が言っていたので、多分花見がしたいんだと思いますと言った。

 雑談もそこそこなところで、視界の奥に大きな桜と扇が見えた。桜は咲いていた。氷精は、なんだ、咲いているじゃないかと思った。情け容赦のなさそうで、それでいて可憐な弾幕が飛び交っていた。剣士は幽々子様、成したのですねと興奮していたが、なぜか次の瞬間にぎゃあと声を上げて痛がった。耳の近くで叫ばれた氷精はムカついたので剣士に後ろ頭で頭突きをした。

 剣士がキッと雪女を見ると、雪女は饅頭をかじって、ちょっと小腹がすいたのよと照れていた。それは食べ物ではないのです、半霊と言って私の身体の一部なのですよと剣士が説明して、ようやく雪女は納得してかじるのをやめた。

 氷精がさっきお菓子食べたじゃんと指摘すると、あんなちょっとだけ食べちゃったから、むしろお腹すいたのよと雪女は弁明した。雪女は腹ペコキャラだった。

 二人が騒ぎ終わって桜の方をもう一度見ると、もう桜は花を散らしていた。花弁が舞い上がり、上へ上へと昇って消えていった。見間違いかと思うような美しい景色だったので、初めから見られなかったことを氷精は抗議したくなったが、そんなのも馬鹿馬鹿しくなるような幻想的な様相にそれもやめた。

 もう少しで敷地に入るというところで、ボロボロになった巫女が飛んできた。こちらに気づくと巫女はあんた、こんなところで何してんのよと驚いていた。

 マジで何しに来たんだろう、全然意味わからんと氷精は思った。



***



 亡霊主人の提案で、神社で花見をした。五月なのに花見とかウケる。春告精とかマジでうるさかった。多分鬱憤がたまってたんだと思う。氷精は桜が超好きになった。どのくらい好きになったかというと、次の異変ではきっとピンク色になって出てくるだろうってくらい。

 雪女は氷精のはしゃぎっぷりを見て下賤さに辟易していた。冬は多少上機嫌でこそあるが、基本的には高慢ちきでいやな女なのである。とはいえ、不適格な環境でもやさしく在れる者が一体どれほど居るんだよという話ではある。

 あと春になったからって次の冬までお別れとか、消えたりとかそういうことはない。マジで全然ない。誰、そんなん言い始めたの。そんなん可哀想じゃん。やめてね。

 半霊は歯ごたえ強めのわらび餅みたいな食感で、ほんのり甘くてひんやり冷たくて悪くなかったという話を、雪女が方々触れ回ったことが影響してか、花見では人形遣いが作ったわらび餅が振舞われた。もう、それはめっちゃうまくて全員中毒になった。やばすぎて行列できる。ほんとに。

 人形遣いと一緒に来た白黒は、最初は仲良さそうに喋ってたのにすぐ喧嘩してて、食べ物がひっくり返ったりしたので、そんな怒らなくてもいいじゃんってくらい怒った巫女に二人ともめちゃくちゃ怒られた。でもホラ、食べ物を粗末にするとか一番良くないから。ここまで散々ラリっておきながら、急に普通のこと言うなよ。

 遅れてきた剣士と亡霊主人が豪華目な料理を持ってきたのでなんかうやむやになった。うやむやになった空気の隙をついて、白黒は氷精にめちゃくちゃお菓子をあげた。やっぱり魔法使いってお菓子をくれるものなんだなと氷精は思った。みんな超ハッピーだった。

 あのさ、最初の方で、二人はボコられて終わるって言ったじゃんか。あれどうなったの?何言ってんのばかだねお前は本当にばかだね。そんなん可哀想じゃん。
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
猫がかわいそうだと思いました。みんなぼこられたのでかわいそうだと思いました。でもハッピーエンドで良かったです。
3.100せんとらた削除
よかったです
5.100南条削除
面白かったです
みんな哀れでした
6.100東ノ目削除
大体ボコボコにされてる中で挨拶して終わった騒霊は実は勝ち組か?と思いました。面白かったです。次も期待してます
8.100めそふ削除
チルノが本当に面白くて良かったです
9.80名前が無い程度の能力削除
くすくす笑って読みました。語り手が全方位に対してシニカルすぎて面白かったです。
11.50名前が無い程度の能力削除
面白いのかもしれないが、残念ながら自分には合わなかった。この面白さを味わえない自分がすごく恨めしいと思った。