Coolier - 新生・東方創想話

無意識の三重奏

2024/06/14 07:25:18
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幻想郷には美しい景色の場所がたくさんある。私は常々そう思っている。私以上に幻想郷を歩き回っている人も中々居ないだろうしね。お姉ちゃんにも見せてあげたいなぁって思うんだけれど、あの人外に出たくないとしか言わないからなぁ…
何処かの天狗が持っていた写真でもお借りしてみようかしら、なんてことを考える。もしかしたら外の景色の美しさを見せてあげれば外に出たくなるのでは、なんて思ったりはしたが。お姉ちゃんのことだしきっと動かないだろう。私に絵心があれば描いてみるのも考えたけれど、そんなものは持ち合わせていないし描いているうちに何処か別のところに無意識のうちに動いてしまいそうだ。それほどまでに私の無意識の能力というものは扱いが難しい。
無意識の能力。私がサトリの力を閉ざした時に付いてきた副産物みたいなもの。私には上手く扱えずに暴発したりするせいで気がついたらよく分からない場所にいることもしばしば。でも、そんな放浪みたいな人生も楽しいと思わないこともない。いや、本心でそう思っているのかは定かでは無いけれど…
でも、今の生活に不満を抱いてないのは確かだ。それだけは言える。何故なら、無意識に動いている時も放浪しているから。それはきっと無意識のうちに放浪することを求めていたんだろうなって私は解釈している。実際、自分の意思で散歩している時も知らない場所で綺麗な景色を見たらなんだか嬉しくなるし、知らないお花を見たら興味も湧く。その程度には感情を持ち合わせている。はずだ。
しかし、どこまで歩いて行っても幻想郷には端がないのかどこまでも果てなく地が続いているだけなのだ。私は果てがあるのかどうかがただずっと気になっている。それは単なる好奇心だ。そういうワクワクさせてくれるものはいつまでも私を意識の中に縛り付けてくれているから好きだ。
とは言ったものの、私とて疲れというものはある。一日中歩いていたら疲れてしまうものだ。今日はこの辺でお昼寝しようと思い、地面に転がる。葉っぱのチクチクとした感触を覚えながら私は眠気に身を委ねた。

んぐぐ、と声を立てては体を伸ばして起き上がる。
"ここがどこか分からないけれど"
綺麗な花が咲いていて、少しの間見とれていた。たまにはぼーっとしながら思いにふけるのも悪くないかな、なんて考えているのである。いつもは時々しか動けないから、忙しなく動いていたけれど。来た道も分からぬのだから帰れるはずもないし。
それにしても本当にここの景色は綺麗だな。今まで見てきたところよりもずっと綺麗で空気が澄んでいる気がする。多分気のせいだけれど。でも、この場所が好きだということは間違いなく私の中に残っているはずだ。
そんなことを考えながら、私は再び花に囲まれながらぼーっと遊ぶことにした。花冠でも作ろう。そして、お燐にプレゼントするのもいいかもね。そう考えていたら
いつの間にか、意識は途絶えた。

むくりと起き上がる。気がついたらもう夕方だ。お昼からずっと、夕方までお昼寝していたらしい。にしてはなんだか服に草がまみれている気がするけれど、きっと気のせいだと思っておくことにする。寝返りでも打ってその時に付いたのだろう、とでも。
しかし随分遠くまで来てしまった。今から地霊殿に帰っても仕方がないだろう。ということで野宿の用意だ。そこら辺の川から魚を捕まえて焼いてみれば…おー、美味しそうな焼き魚さんだ。
いただきます。…うん、塩が欲しい。
結局塩が近くにある訳でもないのでそこら辺の草を調味料みたいにして食べた。風味がいい感じで意外と美味しいと感じた。今度から塩がない時はこうしようかしら?
なんて考えていたら、近くに何かが落ちていることに気がついた。手に取ってみると花冠のようだった。これは…シロツメクサかな。恐らくそうだろう。放浪するうちにそんな知識までついていることに驚いたけれど、お花は好きだから、覚えていたりする。花言葉とかも少しなら。
せっかくだから付けてみることにした。大きさが私の頭に載せるので丁度いいくらいだったので少し気分が良くなった。せっかくだし川の水面でどんな感じに映るかを見てみることにした。
けど。水面には何も映らなかった。どういうことだろう?と考えもしたけれど考えても分からなかったから諦めて戻って寝ることにした。
その日は気を失うように寝た。

うーん、と声を上げながら起き上がる。
しかし起き上がると同時にここはどこだろうという気持ちでいっぱいになる。私はたしか草原で寝たはずなのに。夢かな。って、少し思う。どうしても、周りの状況が見慣れなさすぎて。ただ、真っ白な世界に放り込まれたかのように。そこには空虚だけがあるように。そこには何も無かった。ただ一つの何かを除いて。
近付いて見てみる。そこには台座の上に紙が置いてあった。
【ここから出して】
たった七文字。それだけだった。…嫌だよ。だって私は、古明地こいしは私だもの。それに、望んだのも貴方でしょ?
別に今、アレと対話する必要は無い。どうせそんな力なんてない。
夢なら待てば現実に戻れる。なら、寝て待っていたらいい。そうして、ここでも私は気絶するように眠った。

起き上がる。さっきみたいなよく分からない空間とは違って、ちゃんと草原だった。花冠もそのままで何か嬉しさを感じた。
にしても、夢の中身を鮮明に覚えている。少し不快で、でもやはり無視はできない。いつかはその時が来るのかもしれない。けれど、だからこそ私は今ここで生きている。そのはずだ。
その日は人里に向かった。どうせ人間にバレることもないしね。
人里での人は多種多様で、色んな人間が見られる。勉強に勤しむ子供もいれば元気に遊ぶ子供がいて。商売をしているおじさんがいれば家で家事をしているお姉さんがいる。その中には、ちょっと怖い雰囲気を醸し出している人もいる。
やっぱり、人間は見ていて飽きない。それと同時に。
《殺したくもなるよね》
後ろの人里がうるさい。
なんだと言うのか。
ありふれた死でしょう?ここにおいては。
どうしても、人間の感情は理解できない。だからいつまで経っても面白いんだ。
だからいつまで経っても、ここに私がいられるんだ。
その日は地霊殿に帰った。誰にも気が付かれないしそのまま素通りして、惰眠を貪った。
どうしても、人を殺した後は疲れる。理屈は分からないけれど。それと同じくらい満足感が生まれるのもまたたしかであるけれど。
でも、今はとにかく眠たい。少しの間寝よう。そう思い、睡眠欲に私は身を委ねた。


───辞めてよ、イド。そんな本能、私じゃない。───


気がついたら、地霊殿のベッドの上にいた。何故?どうして?よりも。あぁそっか、という納得の方が先にある。現状を把握したあとは少しの間人生を堪能するだけだ。
こんな生き方、私だって変えたい。けれどあの日の選択から、どこか道を間違えてしまったのだと今更ながらに思って。能力を閉ざしたのは間違いだったのかもしれないなんていつもはしない後悔をして。こうしている内に刻々と"イド"が迫ってきているのに。
どうして私はこんなにも呑気なのかなぁ…
ってさ。

…うわ、もうこんな時間だ。結局夕方まで寝てたのかぁ…
すごく時間の無駄を感じる。もっと遊んでいたいのに。もっと私でありたいのに。ただ、『古明地こいし』でありたいだけなのに。
それは叶わない。だって私は。ただの人格ですらない、イドでしかないから。

その日も同じような夢?を見た。
変わっているのはその内容。目の前にもう1人の私がいた。変わらず紙は置いてあって。
【私を出して】
と訴えてくる。でも私にはそれはできない。イドだって、ずっと閉じ込められてきたから。スーパーエゴによって。私によって。時々解放していたけれど、それは90秒が限界。そんなの、イドだって辛いはず。
でも。イドもエゴもスーパーエゴも、全てが共有された存在こそ古明地こいしではないのかなって。私はずっと考えている。スーパーエゴは超自我。解放したら、どうなるかなんて想像できない訳でもない。でも、押さえつけたままではそれは。それはきっと、古明地こいしではない。ましてや、このままなんてただ本能に振り回されるだけの妖怪が生まれるだけだ。でも、前に戻すことだけが本当に最善なのかは、私には分からない。
ねぇ、イド、スーパーエゴ。私はどうすればいいのかな。

ねぇ、エゴ。寂しいよ。ここから出してよ。一緒の感情として外に出て遊ぼうよ…
返事は無い。心の中でやまびことなって返ってくるだけだった。
助けてよ。私も、エゴみたいに。イドみたいに。
私を押さえつけて閉じ込めても何の解決にもならないよ。
だからさ
瞳を閉じる前みたいに、一緒にいよ?

エゴは思考する。何をどうするべきかなんて分からないから。少しでもいい答えを出すために。
古明地こいしの無意識を司るイドとエゴとスーパーエゴは、瞳を閉ざしてから離れ離れになった。無意識は分離し、イドを残してスーパーエゴを閉じ込めた。でもそれは古明地こいしの本能では無いはずだ。本心ではないはずだ。自らのスーパーエゴを閉じ込めることは、自らの性格を、存在を消すことと同じだから。
私は、古明地こいしの安寧を望む。けれど、それが古明地こいしの本能であるイドの暴走ならば。スーパーエゴを解放するしか、選択肢は無い。
私は、その選択をする。


……
………
…………長い間、眠っていた気がする。
私こと、古明地こいしは。きっと今初めて、第3の眼を閉ざしてから本当の意味で目を覚ました。そんな気がする。
無意識は二面性を持つ…か…いや、この事例では三面性かな?それはあんまり身をもって体験したいことでは、なかったかな。
そう思って、久しぶりの食事に手を出す。お姉ちゃん特性のパンらしい。トーストしただけじゃないのかななんて思うけど
…おいしい
今はそう思うことができるだけで、なんだか嬉しい。
ごめんね、イド、スーパーエゴ。
私も、そろそろ大切なものを見つけるべきだよね。
懸命な道が何かなんて、分からないけどさ。今はみんなを抱えて、楽しむべきかなって私は思ったんだ。
エゴは…いや。古明地こいしは、姉に。古明地さとりに話しかける。

「お姉ちゃん!一緒にお花見に行こう!」
手に携えたシロツメクサの花冠はどこまでも輝いていた。
あとがきですー!
無意識の日に向けて書いていたはずなのに気がついたら明日無意識の日じゃねえか!ってなって大急ぎで書き上げた作品です。実はもっと別の路線を考えていたというか、古明地こいしと無意識の二面性についてのお話を書く予定だったのですが、書いてるうちにこっちの方がいいのでは?と急遽内容変更しまくった結果がこの作品です。悔いはありません。
古明地凡
https://www.pixiv.net/users/78081401
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コメント



0.90簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
無意識を分けて、しっかりと思い悩んでいるこいし、良かったです。