眼の前の自動販売機には、現代においてはほとんど使う人のいないであろう硬貨と紙幣を入れるスロットがあった。科学世紀人には馴染の無い百円玉一枚と数十円を握りしめながら六ツ谷サイダーのボタンを押す。その後スロット部に小銭を入れたが、果たして飲み物は出てこなかった。
「違うわよ蓮子。現金払いのときは、お金を入れてから欲しいもののボタンを押すのよ」
なるほどと頷きながら再度ボタンを押した。ガコンガコンと心地よい音を立てながらペットボトルが落ちてくる。釣り銭は……。
「横のレバーね」
マエリベリーは私のことを見透かすように言葉を掛ける。流石は気味の悪い相棒だ。して、言われるがままにレバーを下げるも特に反応はせず、では入れた金額とサイダーが同等だったのかというと、そうでもない。絶対に十円がお釣りとして出るはずなのだ。
「現金で買うとお釣りが無くなっている。確かに七不思議は事実なのね。入れた十円玉を、そのままお釣りとして出せば良いのだから、小銭が無いわけでもない。はぁー少し損した気分だわ」
お釣り泥棒妖怪か、はたまたただの故障か。現金で払う人がこの世に残っているなら今回のことは大問題だが、そんな人はいない。自販機の補充にきた人が、小銭が入っているのを見て驚くだろうなぁという感想と貧乏性な気持ちとをサイダーで飲み下す。お金が自販機に飲み込まれその対価として産み落とされた頃はキンキンに冷えていたはずのそれはものの数分で微温くなり、炭酸が喉を焼く感覚だけが不快であった。
「すごく、すごーく機嫌が悪いわ。私が汗水流して稼いだお金が、無駄に消えていく気分っていうのはものすっごく嫌ね」
隣りのマエリベリーはクスクスと上品に笑い、ムカついたのでペットボトルのせいで濡れた手をマエリベリーの背中にぶち込んだ。彼女はこれまた上品な声で驚き、一気に不機嫌な表情に変わった。私の腹の虫は治まった。
秘封倶楽部本来の活動という観点で今後のやるべきことを考えるならば、お釣り泥棒妖怪(仮称)の正体を暴かなければならないが、そんな時間も気力もない。さっさと次の七不思議を調査してレポートを助けに行かなければ。私とマエリベリーのモチベーションには大いに差があった。
「違うわよ蓮子。現金払いのときは、お金を入れてから欲しいもののボタンを押すのよ」
なるほどと頷きながら再度ボタンを押した。ガコンガコンと心地よい音を立てながらペットボトルが落ちてくる。釣り銭は……。
「横のレバーね」
マエリベリーは私のことを見透かすように言葉を掛ける。流石は気味の悪い相棒だ。して、言われるがままにレバーを下げるも特に反応はせず、では入れた金額とサイダーが同等だったのかというと、そうでもない。絶対に十円がお釣りとして出るはずなのだ。
「現金で買うとお釣りが無くなっている。確かに七不思議は事実なのね。入れた十円玉を、そのままお釣りとして出せば良いのだから、小銭が無いわけでもない。はぁー少し損した気分だわ」
お釣り泥棒妖怪か、はたまたただの故障か。現金で払う人がこの世に残っているなら今回のことは大問題だが、そんな人はいない。自販機の補充にきた人が、小銭が入っているのを見て驚くだろうなぁという感想と貧乏性な気持ちとをサイダーで飲み下す。お金が自販機に飲み込まれその対価として産み落とされた頃はキンキンに冷えていたはずのそれはものの数分で微温くなり、炭酸が喉を焼く感覚だけが不快であった。
「すごく、すごーく機嫌が悪いわ。私が汗水流して稼いだお金が、無駄に消えていく気分っていうのはものすっごく嫌ね」
隣りのマエリベリーはクスクスと上品に笑い、ムカついたのでペットボトルのせいで濡れた手をマエリベリーの背中にぶち込んだ。彼女はこれまた上品な声で驚き、一気に不機嫌な表情に変わった。私の腹の虫は治まった。
秘封倶楽部本来の活動という観点で今後のやるべきことを考えるならば、お釣り泥棒妖怪(仮称)の正体を暴かなければならないが、そんな時間も気力もない。さっさと次の七不思議を調査してレポートを助けに行かなければ。私とマエリベリーのモチベーションには大いに差があった。
現金で飲み物を買うことにてこずる蓮子の描写が素晴らしかったです
続きが気になりました