「やぁ、メリー。意外と早かったじゃん」
「緊急招集っていうから、何かあったんじゃないかと思って、急いできたのに、最初に言う台詞が、それ?」
メリーは額に汗を滲ませ、息も絶え絶えに言い放った。相棒の呼び出し方が唐突で意味深だったから、何かあったに違いないと心配し、慌てて駆けつけたのだ。
しかし、部室――大学構内のサークル棟の一角に位置する、秘封倶楽部が占拠している部屋――のドアを蹴破る勢いで開け、急いで室内へと入った彼女の目に飛び込んできた光景は、ソファで呑気に寛ぐ蓮子の姿で。メリーは若干顔を引き攣らせていたが、しかし、その表情には安堵の色も見える。
「はぁー……。で、用件は?」
文句や罵詈雑言等、吹っ掛けたい諸々を溜め息と共に吐き出して――こういう蓮子の態度を怒っても詮無いし、馬鹿正直にのってしまった自分を責めて――、メリーは床に多数転がっているオカルトグッズを避けつつ歩き、蓮子の隣に腰掛けた。
「これよ、これ」
「封筒……手紙?」
蓮子がどこからともなく取り出した物をメリーが受け取る。白色の洋形封筒。蓋は青い蝋で固められている。封蝋だ。両面ともそれ以外に特徴は無く、宛先や送り主の名前は書かれていない。封筒は少し膨らみを有しており、横書きの文章が書かれている紙がうっすら透けて見えた。
このご時世に物理媒体の手紙を出すのは、紙媒体を偏愛している好事家くらいだ。蓮子は紙の本を多く所有しているし、メモも紙にしている。彼女も物好きと言って差し支えないので、突然、物理媒体の封筒に目覚めても、違和感は無い。だが、急に呼び出されたことを考えると……当然、逆なのだろう、とメリーは当たりを付ける。
「ひょっとして、この部室に届いてた?」
「正解。郵便受けが機能してるところ、京都に来てから初めて見たわ」
呑気に感心している蓮子に対し、メリーは焦りの色を滲ませながら口を開く。
「そんなこと言ってる場合じゃ無いでしょ。誰が送ってきた物なの? レイテンシーの厄介ファン? 燕石博物誌にここの住所なんて載せてないのに、特定されたのかしら……」
見知らぬ何者かに居場所が割れており、あまつさえそれを匂わせるような素振りを見せてきたら、誰だって警戒するに決まっている。その点、蓮子の緊急招集という連絡は筋が通っていた。当の本人は普段通り落ち着き払っているのが気になるが……。
犯人に繋がる手掛かりが、中身に書かれているかもしれない。メリーは早速封蝋を剥がそうとして……指の所作が止まり、目をしばたたかせた。
指先に力を入れて剥がそうとするも、まるで手応えがない。鉄のように堅いわけでもなく、ガッチリ貼り付いているわけでもない、見た目も感触もただの封筒と封蝋なのに、何故か剥がすための力が封蝋に伝わらず、開封できない。
押してダメなら……と、部室に転がっていた鋏を掴み、封筒の上部に当て、中身を傷つけないよう慎重に持ち手に力を加えるが……切れない。幾ら力を込めても、裁断されない。刃に何かが挟まっているかのように、閉じないのだ。
「色々試してみたんだけどね、開けられないのよ、その封筒」
蓮子が口を挟む。そんなまさか、と思いつつ他の手段――端を手で破ろうとしてみたり、鋏の刃を突き立てて切れ込みを入れようとしてみたり――を実施してみたものの、やはり状況は変わらなかった。仕方なく諦め、シーリングスタンプに注意深く触れる。歪な形に凝固し、花柄のような格子状のような、形容しがたい形が押された部分を指でなぞり、瞳を閉じて――感じたままを口にする。
「……これ、オカルトの類いなんだけど」
触れた当初から雰囲気こそ感知していたけれど、部室に多数保管されているオカルトグッズの影響だろうと受け流していた。しかし、改めて観察し、彼女は確信する。メリー自身の霊感が囁き、瞳がその揺らぐ境界を捉える。明らかに、この世ならざる作用が働いていた。
メリーが呟いた瞬間、蓮子の目が爛々と輝く。
「やっぱりそうだったか! だから私が色々試してみても、手も足も出なかった訳ね。納得。スッキリしたー」
そういうことはもっと早く言ってよ、とメリーはジロリと蓮子を睨み付ける。ひょっとしたら、それを確かめたいがために、彼女は急かすような連絡のしたのかもしれない。なんて身勝手な人だろう、と思いつつ、メリーは再び封筒と向き合う。
「……拒絶感。読まれることを求めていない。呪われているというより、中身そのものが自己を呪い続けている、という方が正しそう」
「ふぅん、宛先以外の人に読まれないようにするための対策なのかな」
「秘封倶楽部宛てなのだとしたら、私達が開けられないのはおかしいでしょ。それに、そんな安全対策では無さそう。結界が閉じてる。一部の隙間も無い。万人を拒んでいる証拠だわ」
メリーによって訥々と語られるオカルトの特徴に耳を傾けていた蓮子が、思わず吹き出す。
「書いて送りつける、でも読んで欲しくない。自己中心的すぎて笑えてくるね。今頃犯人は満足してほくそ笑んでたりして」
「……単なる悪戯? 或いは秘封倶楽部への挑戦状?」
それだけにしては、凝りすぎている。オカルトは普通の人が扱える代物でも無いし……。何か大いなる意味があるのではないか、とメリーは怪しむ。
対して、蓮子は何処か楽しそうだ。
「ひょっとしたら、単に共感して欲しかっただけなのかも。伝えたいけど伝えたくない、アンビバレントを、誰かに。私達の部室に届いたのは偶然で、隣のサブカル研や演劇部の郵便受けに突っ込まれていた可能性もあったりして」
「蓮子にしては珍しく同情的ね」
「私達に危害を加えるつもりなら、こんな回りくどいことなんてせずに、直接殴り込んでくればいいからね。それか、開かない手紙より、もっと不快な物を送りつけるとか。私だったらもっとおぞましいネタを仕掛けるわ。
そういう意味でいうと、この手紙そのものから悪意は感じられない。メリーみたいな霊感じゃ無くて、ただの勘だけど」
思いついたことを吐き出したくて堪らない、そんな調子で蓮子は弾かれるように立ち上がり、言葉を続ける。
「……何か衝動を伝えたいという思いに突き動かされると同時に、相手を傷つけたり誤解されたりしないように閉じ籠もりたいとも思ってしまう。私にだって、メリーにだって、きっと他の人にだって、思い当たる節があるはず。二律背反、矛盾の同居は人間の本質だからね」
「他者に想いを伝える行為は、受け手の捉え方次第で、ネガティブにもポジティブにもなる。そして、結果がどうであろうとも、否応なしに相手を変化させる事には変わりない。知らない状態には戻れないのだから。それはつまり――世界を書き換えることと同義」
相対性精神学を学んでいるメリーの考えらしいなと蓮子は思う。主観が真実であるなら、主観と世界は同義語だから。部室内をぐるぐると歩き回りながら、蓮子は語る。
「矛盾を乗り越えた先には、大いなる責任が待ち受けている。ひょっとしたら痛みも。巡り巡って、自身の苦痛に繋がるかもしれない。それを避けたいなら、自分という存在に蓋をして、内側に引き籠もり、一切の交流を絶つしかない。自分の世界は保たれるけれど、変化は生まれない。その手紙のように」
「つまらない選択ね」
相棒が一蹴したことに、蓮子は微笑んだ。
「じゃあ、もう一つの選択肢。積極的に自分から世界に働きかけ、同時に世界からの働きかけを受容し、共に変化していく……。
他人から受け取ったものは価値あるモノとなるか、他者からの言い伝えは害となるか――。究極的には、触れてみないと分からない。手紙やコミュニケーションだけじゃない。自分以外の誰かが創造したもの、全てに当て嵌まる。私達人間は、何かに接触するに付けて、無意識に価値や意味を見出そうとしているのよ。表層から……その内側に秘められた、真意まで」
ふっとメリーが口元に笑みを浮かべる。
「私達がやっている境界暴きも同様……むしろ、更に残虐的でエゴイスティックなのかも。
秘密のままでは居られない。暴かずには居られない。謎というヴェールの奥底に、煌めく真実があると信じて。それが……価値あるモノであろうとなかろうと」
「その通り。……まぁ、私のエゴは他にもあるけどね」
「何?」
予想外の応答に対し、メリーは首を傾げる。心外だなと言わんばかりに蓮子はわざとらしく肩を竦めて見せてから口を開いた。
「相棒と楽しい時間を過ごすため、よ。鬼が出ようが蛇が出ようが、この瞬間そのものは、間違いなく、掛け替えのない意味や価値があり、愛おしい。そう、私達の間には、何かあるだけで、意味が自然と生まれてくる。その何かさえ、私達が新しい意味や価値を、与えられる」
「そんなエゴイストとしては、この手紙の中身がどうなってるか気になって仕方が無いわよね」
メリーは自然な手付きで封筒を持ち直し、指先に力を入れると、ごく当たり前かのように、封蝋が剥がれた。
「呪われてるんじゃなかったの?」
「結界に隙間がないのなら、結界そのものを遊離させれば良いのよ。この眼でその取っ掛かりを見つければ、あとは簡単」
蓮子は急いでソファに戻り、メリーの隣に勢いよく腰掛けた。忙しない相棒を余所に、メリーは封筒の中身を少し引き抜く。中には目算通り手紙が入っていた。丁寧に二つに折られた紙の束。オカルトの雰囲気を除けば、材質はごく一般的な物だった。
完全に取り出す前に、メリーは言った。
「読んだら呪われるかも」
「急に弱腰」
「いずれにせよ、認識したら元には戻れないからね」
「後悔はしないよ。メリーと一緒なら。責任だって取るし」
蓮子は体重を預けるようにメリーの方に体を寄せ、手元を覗き込む。そんな様子を見て、メリーも覚悟を決めたようだ。
封筒から出して、丁寧に折り畳まれた手紙を開き、文章を目で追う。
秘封倶楽部の活動が、秘密を暴くことが、意味を与える行為が、始まった。
「緊急招集っていうから、何かあったんじゃないかと思って、急いできたのに、最初に言う台詞が、それ?」
メリーは額に汗を滲ませ、息も絶え絶えに言い放った。相棒の呼び出し方が唐突で意味深だったから、何かあったに違いないと心配し、慌てて駆けつけたのだ。
しかし、部室――大学構内のサークル棟の一角に位置する、秘封倶楽部が占拠している部屋――のドアを蹴破る勢いで開け、急いで室内へと入った彼女の目に飛び込んできた光景は、ソファで呑気に寛ぐ蓮子の姿で。メリーは若干顔を引き攣らせていたが、しかし、その表情には安堵の色も見える。
「はぁー……。で、用件は?」
文句や罵詈雑言等、吹っ掛けたい諸々を溜め息と共に吐き出して――こういう蓮子の態度を怒っても詮無いし、馬鹿正直にのってしまった自分を責めて――、メリーは床に多数転がっているオカルトグッズを避けつつ歩き、蓮子の隣に腰掛けた。
「これよ、これ」
「封筒……手紙?」
蓮子がどこからともなく取り出した物をメリーが受け取る。白色の洋形封筒。蓋は青い蝋で固められている。封蝋だ。両面ともそれ以外に特徴は無く、宛先や送り主の名前は書かれていない。封筒は少し膨らみを有しており、横書きの文章が書かれている紙がうっすら透けて見えた。
このご時世に物理媒体の手紙を出すのは、紙媒体を偏愛している好事家くらいだ。蓮子は紙の本を多く所有しているし、メモも紙にしている。彼女も物好きと言って差し支えないので、突然、物理媒体の封筒に目覚めても、違和感は無い。だが、急に呼び出されたことを考えると……当然、逆なのだろう、とメリーは当たりを付ける。
「ひょっとして、この部室に届いてた?」
「正解。郵便受けが機能してるところ、京都に来てから初めて見たわ」
呑気に感心している蓮子に対し、メリーは焦りの色を滲ませながら口を開く。
「そんなこと言ってる場合じゃ無いでしょ。誰が送ってきた物なの? レイテンシーの厄介ファン? 燕石博物誌にここの住所なんて載せてないのに、特定されたのかしら……」
見知らぬ何者かに居場所が割れており、あまつさえそれを匂わせるような素振りを見せてきたら、誰だって警戒するに決まっている。その点、蓮子の緊急招集という連絡は筋が通っていた。当の本人は普段通り落ち着き払っているのが気になるが……。
犯人に繋がる手掛かりが、中身に書かれているかもしれない。メリーは早速封蝋を剥がそうとして……指の所作が止まり、目をしばたたかせた。
指先に力を入れて剥がそうとするも、まるで手応えがない。鉄のように堅いわけでもなく、ガッチリ貼り付いているわけでもない、見た目も感触もただの封筒と封蝋なのに、何故か剥がすための力が封蝋に伝わらず、開封できない。
押してダメなら……と、部室に転がっていた鋏を掴み、封筒の上部に当て、中身を傷つけないよう慎重に持ち手に力を加えるが……切れない。幾ら力を込めても、裁断されない。刃に何かが挟まっているかのように、閉じないのだ。
「色々試してみたんだけどね、開けられないのよ、その封筒」
蓮子が口を挟む。そんなまさか、と思いつつ他の手段――端を手で破ろうとしてみたり、鋏の刃を突き立てて切れ込みを入れようとしてみたり――を実施してみたものの、やはり状況は変わらなかった。仕方なく諦め、シーリングスタンプに注意深く触れる。歪な形に凝固し、花柄のような格子状のような、形容しがたい形が押された部分を指でなぞり、瞳を閉じて――感じたままを口にする。
「……これ、オカルトの類いなんだけど」
触れた当初から雰囲気こそ感知していたけれど、部室に多数保管されているオカルトグッズの影響だろうと受け流していた。しかし、改めて観察し、彼女は確信する。メリー自身の霊感が囁き、瞳がその揺らぐ境界を捉える。明らかに、この世ならざる作用が働いていた。
メリーが呟いた瞬間、蓮子の目が爛々と輝く。
「やっぱりそうだったか! だから私が色々試してみても、手も足も出なかった訳ね。納得。スッキリしたー」
そういうことはもっと早く言ってよ、とメリーはジロリと蓮子を睨み付ける。ひょっとしたら、それを確かめたいがために、彼女は急かすような連絡のしたのかもしれない。なんて身勝手な人だろう、と思いつつ、メリーは再び封筒と向き合う。
「……拒絶感。読まれることを求めていない。呪われているというより、中身そのものが自己を呪い続けている、という方が正しそう」
「ふぅん、宛先以外の人に読まれないようにするための対策なのかな」
「秘封倶楽部宛てなのだとしたら、私達が開けられないのはおかしいでしょ。それに、そんな安全対策では無さそう。結界が閉じてる。一部の隙間も無い。万人を拒んでいる証拠だわ」
メリーによって訥々と語られるオカルトの特徴に耳を傾けていた蓮子が、思わず吹き出す。
「書いて送りつける、でも読んで欲しくない。自己中心的すぎて笑えてくるね。今頃犯人は満足してほくそ笑んでたりして」
「……単なる悪戯? 或いは秘封倶楽部への挑戦状?」
それだけにしては、凝りすぎている。オカルトは普通の人が扱える代物でも無いし……。何か大いなる意味があるのではないか、とメリーは怪しむ。
対して、蓮子は何処か楽しそうだ。
「ひょっとしたら、単に共感して欲しかっただけなのかも。伝えたいけど伝えたくない、アンビバレントを、誰かに。私達の部室に届いたのは偶然で、隣のサブカル研や演劇部の郵便受けに突っ込まれていた可能性もあったりして」
「蓮子にしては珍しく同情的ね」
「私達に危害を加えるつもりなら、こんな回りくどいことなんてせずに、直接殴り込んでくればいいからね。それか、開かない手紙より、もっと不快な物を送りつけるとか。私だったらもっとおぞましいネタを仕掛けるわ。
そういう意味でいうと、この手紙そのものから悪意は感じられない。メリーみたいな霊感じゃ無くて、ただの勘だけど」
思いついたことを吐き出したくて堪らない、そんな調子で蓮子は弾かれるように立ち上がり、言葉を続ける。
「……何か衝動を伝えたいという思いに突き動かされると同時に、相手を傷つけたり誤解されたりしないように閉じ籠もりたいとも思ってしまう。私にだって、メリーにだって、きっと他の人にだって、思い当たる節があるはず。二律背反、矛盾の同居は人間の本質だからね」
「他者に想いを伝える行為は、受け手の捉え方次第で、ネガティブにもポジティブにもなる。そして、結果がどうであろうとも、否応なしに相手を変化させる事には変わりない。知らない状態には戻れないのだから。それはつまり――世界を書き換えることと同義」
相対性精神学を学んでいるメリーの考えらしいなと蓮子は思う。主観が真実であるなら、主観と世界は同義語だから。部室内をぐるぐると歩き回りながら、蓮子は語る。
「矛盾を乗り越えた先には、大いなる責任が待ち受けている。ひょっとしたら痛みも。巡り巡って、自身の苦痛に繋がるかもしれない。それを避けたいなら、自分という存在に蓋をして、内側に引き籠もり、一切の交流を絶つしかない。自分の世界は保たれるけれど、変化は生まれない。その手紙のように」
「つまらない選択ね」
相棒が一蹴したことに、蓮子は微笑んだ。
「じゃあ、もう一つの選択肢。積極的に自分から世界に働きかけ、同時に世界からの働きかけを受容し、共に変化していく……。
他人から受け取ったものは価値あるモノとなるか、他者からの言い伝えは害となるか――。究極的には、触れてみないと分からない。手紙やコミュニケーションだけじゃない。自分以外の誰かが創造したもの、全てに当て嵌まる。私達人間は、何かに接触するに付けて、無意識に価値や意味を見出そうとしているのよ。表層から……その内側に秘められた、真意まで」
ふっとメリーが口元に笑みを浮かべる。
「私達がやっている境界暴きも同様……むしろ、更に残虐的でエゴイスティックなのかも。
秘密のままでは居られない。暴かずには居られない。謎というヴェールの奥底に、煌めく真実があると信じて。それが……価値あるモノであろうとなかろうと」
「その通り。……まぁ、私のエゴは他にもあるけどね」
「何?」
予想外の応答に対し、メリーは首を傾げる。心外だなと言わんばかりに蓮子はわざとらしく肩を竦めて見せてから口を開いた。
「相棒と楽しい時間を過ごすため、よ。鬼が出ようが蛇が出ようが、この瞬間そのものは、間違いなく、掛け替えのない意味や価値があり、愛おしい。そう、私達の間には、何かあるだけで、意味が自然と生まれてくる。その何かさえ、私達が新しい意味や価値を、与えられる」
「そんなエゴイストとしては、この手紙の中身がどうなってるか気になって仕方が無いわよね」
メリーは自然な手付きで封筒を持ち直し、指先に力を入れると、ごく当たり前かのように、封蝋が剥がれた。
「呪われてるんじゃなかったの?」
「結界に隙間がないのなら、結界そのものを遊離させれば良いのよ。この眼でその取っ掛かりを見つければ、あとは簡単」
蓮子は急いでソファに戻り、メリーの隣に勢いよく腰掛けた。忙しない相棒を余所に、メリーは封筒の中身を少し引き抜く。中には目算通り手紙が入っていた。丁寧に二つに折られた紙の束。オカルトの雰囲気を除けば、材質はごく一般的な物だった。
完全に取り出す前に、メリーは言った。
「読んだら呪われるかも」
「急に弱腰」
「いずれにせよ、認識したら元には戻れないからね」
「後悔はしないよ。メリーと一緒なら。責任だって取るし」
蓮子は体重を預けるようにメリーの方に体を寄せ、手元を覗き込む。そんな様子を見て、メリーも覚悟を決めたようだ。
封筒から出して、丁寧に折り畳まれた手紙を開き、文章を目で追う。
秘封倶楽部の活動が、秘密を暴くことが、意味を与える行為が、始まった。
んー中身が気になるのは人間の本質か。私も気になります。見るなの禁忌みたい
それまでのお話としてはおもしろかったです