Coolier - 新生・東方創想話

モラトリアムをいつまでも

2024/04/24 04:59:25
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「ああ・・・…そうか、電車旅行好きだもんね蓮子は」
うつらうつらとしていたメリーは今自分がどこにいるか、すぐにわからなかったが、ボックス席に座っている事からここは多分……電車の車内で合っているはずだ。
もっと言えば、今自分は夢を見ているのか、それとも現実なのかもメリーの中では非常に、あいまいな物であった。
車窓からの景色は穏やかその物であった、行楽日和とはこの事だろう、全くもって絵に描いたような行楽日和の風景が、メリーの見る車窓からは広がっていた。
おもむろにメリーは自分の手をさすってみたり、顔に手を当ててみる。
感覚はある、車窓を眺めるでもなくメリーは窓ガラスにも触れてみる、冷たい感触がメリーの神経に入ってきた。

次にメリーはぐるりと、辺りを見回してみた。
人の気配がなかった、全く何も、この車内には今のところメリーしかいなかった。
メリーの顔がやや歪むとともに、目じりには少しばかり涙が浮かんできた。
幸い恐怖はなかったが……この車内の人の気配のなさと言い、車窓から見える行楽日和を絵に描いたような景色と言い。
誰かさん……友人である宇佐見蓮子の好みが、あまりにも強く反映されたこの空間に対して。
そしてそれによって、メリーも蓮子に対して他や部外者に気を散らされる事も無く、相方である蓮子との会話に、そして一挙一動に注目と集中が続けられる。
とても理想的な世界だ、そこにメリーは罪悪感に近い物を覚えていた。
今日も明日もあさっても、宇佐見蓮子の好みと私の好みは、高い水準で私の目の前に映し出されるだろうと思うと、罪悪感は募る。
……結局私のせいなのだ、私は知覚できないけれども蓮子は私の事を考え続けてくれた。
その結果がこれだ、夢とも現実ともつかない世界と感覚。
そしてその夢とも現実ともつかない感覚に、それがいつまでも続けてくれる事への感謝よりも罪悪感がやはり勝る。
そもそもメリーは、自身がもう少し好奇心を制御できていればこんな事態に、蓮子をおかしくしてしまわなかったのでは。
その罪悪感はメリーは自身の命や魂もふわふわとしていくことを感ずると言うか、もういっそのこと――


「メリー」
メリーが自身の命や魂に付いても、極端な事を言えば自分から手放そうと言うような思考、それに近づいた時。
相方である蓮子の声が聞こえて、メリーの自我は強く引き戻された。
「お弁当食べよ」
姿も形も声もそして中身も相方の蓮子だ、間違いなく。
だけれども間違いなく、メリーが意識を覚醒させた時に蓮子は目の前にいなかった。
じゃあなんで今この瞬間においては、蓮子は二人分の駅弁をボックス席と言えばこれが無いと、と蓮子が表現した簡易テーブルの上に取り出しているのだろう。
「お酒も一瞬考えたんだけれども、観光前にへべれけはいくらなんでもと思ってね」
車内販売はない、停車時間も自販機で飲み物を買う時間すら怪しい程度。
だけれども目の前には、本物の蓮子がいて、であるのならば彼女が取り出してきた弁当類も。
「はいメリー、お茶。やっぱりペットボトルから直飲みするより、紙コップあった方が旅情感出るわよね」
蓮子は非常に手際よく、自分とメリーの分の駅弁を広げて行って、飲み物まで用意してくれたし紙コップに入れると言う部分までやってくれた。

メリーは大人しく蓮子の手から紙コップに入ったお茶を受け取るのみであった。
だけれどもやはり、蓮子の行動には、端々で違和感と言う物が拭えなかった。
メリーが紙コップを受け取るその瞬間所か、口を付けるまで、更には駅弁の封を開けて箸を持ち中身に口を付ける、あるいは車窓からの風景を眺める。
何もかもが普通の行為だ、少なくともメリーは『まだ』飲食を行わなければ、その生命を維持して長らえる事はできない。
「メリーを見ていると、色々思い出すわ。食事の楽しみとか」
メリーが、旺盛とは言い難い物の素直に食事をとっている場面を見て蓮子は、至極普通の行動をメリーとは取っていると言うのに。
なのに蓮子は全くもって感慨深そうに、身内だからひいき目に見ている節はあるけれども、蓮子はかなりの美人だけれども。
年齢に関しては、友人相手に小娘扱いなんてしたくはないが、そんなにも感慨深そうな雰囲気を出せるような物ではないはずだ。
はっきり言って矛盾が大きかった、大学生程度の見た目の女性が出せる雰囲気ではない、メリーはそうはっきりと思った。

「この電車旅行を実現できるまでの間に、蓮子、あなたは……どれだけの時間を観測したの?」
車窓からの、いかにも旅情をかき立てるような景色にも、メリーはすぐに興味をなくしたように。
それよりも相方である蓮子の様子。
彼女がその内心で一体何を考えているのか、そちらの方がよっぽどメリーにとっては気になっていた。
興味では無くて、恐る恐ると言った様子で、良くも悪くも今も昔も蓮子の心理思考において、メリーの存在は大きな範囲と量を示しているのだから。
そして間違いなく、メリーが知覚できない範囲外において、その範囲と量をもはやバグとも表現して構わないほどの存在となったはずなのだ。
宇佐見蓮子にとって、メリーことマエリベリー・ハーンと言う存在はもはや取り除けないボトルネックだ。
それを取り除く事は、蓮子の行動の全てを強制停止させてしまい、再起動は恐らくあり得ないとまで言えた。
絶対に必要なくせに、それがある事で思考と決定と行動、全ての部分で蓮子はメリーを端々で絡ませて回り道や余計な時間の原因となる。
残念ながらメリーは自分自身の事を、そう評価せざるを得なかった。

「そもそも……比重があまりにもおかしすぎる。蓮子あなたは、私一人の為にどこまでの事を――
「言いっこなし」
メリーが蓮子に対して人差し指を口前に立てて、メリーがそれ以上の言葉を出さないようにと言ってきた。
「私に散々メリーは付き合ってくれたでしょ?遅刻しても待っててくれた、完全に善意で。だから私がメリーに何かしていてもそれは完全な善意、言いっこなしじゃない」
「この電車、どこに行くの?」
メリーの瞳を真っ直ぐと、言葉もそうだがいっさいブレずに朗々と蓮子からぶつけられて、メリーはやや以上に引き下がった形であった。
そこには間違いなく、圧力が存在していた。
先ほどの、食事の楽しみを思い出すと言い、たかだか大学生の小娘が出せる雰囲気では絶対に無かった。

「どこにでも。メリーが行きたい場所で良い、私はメリーと一緒ならどこへでも、と言うかメリーが行きたい場所が私の行きたい場所だから」
ややもすればこっぱずかしい言葉を、蓮子は一息で全くつまりもせずに伝える所か、まだ続きがあった。
「メリーの隣にいさせて」
駅弁の箸をおいて、蓮子は両手でメリーの肩を掴んだ。
「小難しい事や面倒な事は、私が対処するから、メリーの隣にいさせて」
多分その時の蓮子は泣いていた、顔がうつむいているから表情はしっかりとは見えないけれども、間違いなく泣いていた。

その後、蓮子はいくばくかその身体を震わせていた。
まだ涙は落ちていないけれども、うつむいて隠れている顔には涙があふれているはずだ。
蓮子はそれを拭いたくて、片手ではポケットの中身を取ろうと、さりとてもう片方の手はメリーの方をしっかりと握りしめていた。
いっそ痛いぐらいの握りしめ方であった、ここまでの力がメリーにかけられていてはそう簡単に、メリーはそう簡単に蓮子の前から去る事はできなかった。
蓮子の意思はメリーが自分の前からいなくならない事と、そして泣き顔を見られたくないからハンカチを取り出そうとしているの、ほぼほぼこの二つしかなかったが。
どちらの方が大きいかと言えば、メリーが蓮子の前から去らないようにと言う部分だ。
泣き顔をはっきりと見られないように、蓮子はチラチラとメリーの方を見ていた。
相変わらずその顔は、うつむき加減の上に愛用の帽子で上手く隠しているからはっきりとは見えないが……やっぱり彼女は、蓮子は泣いていた、それ以上に怯えていた。
「私の前から消えないで」
怯えているからチラチラと、泣き顔を見られたくないと思っていてそのために努力もしているのに、それよりもメリーが目の前にちゃんといるかの方が怖いのだ。
その怯えは先ほどは、貴女の隣にいさせてと穏やかだったのに、完全な命令口調になってしまうほど、感情的になっていた。
ここまでは蓮子は、大学生の娘二人組による、電車での旅行と言うのを間違いなく演出していたが。
その演出がほころび始めているのは明らかであったし……何であるなら、この場を用意しているはずの蓮子自身がそのほころびを助長していた。

「もういいや」
何かを諦めた蓮子は、ハンカチを探しているはずの手をひざ元に置いた。
メリーの位置を確認しながら、肩に手をかけながら、残った片手でしかも何も見ずにハンカチを取り出すのをあきらめたようだ。
ただし諦めたのはあくまでも、蓮子が身に着けているハンカチを使わないと言う意味でしか無かった。

急に、蓮子は腕を真横の方にやった。
奇妙な行動だ、奇行と受け取られてもおかしくないけれども、蓮子の行動には意味があった。
メリーの視界の端で、空間がぱっくりと開いた。
その開いた空間の先に、蓮子は手を突っ込んでそしてその中からハンカチを取り出した。
取り出したハンカチで蓮子は目元をゴシゴシと涙を拭きとるが、その間にも最低でも片目はメリーをとらえ続けるため、両方の目をふさぐような拭き方はしていなかった。
蓮子の目には確固たる意志があった、メリーの事を逃さないと、観測し続けると、目を離さないと言う。
そこには多分、メリーに向いていないだけで怒りの感情もあった、あくまでもその怒りは蓮子自身に対する、自らを不甲斐ないとする考えからの物だとは分かっているが。
分かってはいても、力が強まり過ぎている蓮子から、ほとんどニラむように視線を注がれてはメリーは身がすくんでしまうし。
「……ごめんなさい、私は好奇心をもっと抑える努力をするべきだった」
思わずメリーは、謝罪の言葉を出してしまった。
だが出してから思った、悪手だと、またやってしまったと。

「謝らないで!」
やっぱり、蓮子は怒声を放った。
結局泣き顔は、あんなに見られないように隠していたのに、メリーに見せてしまう事になった。
大学生風の女の子が二人、片方は謝罪らしき言葉を紡ぎ、もう片方はそれに対して謝るなと泣きながら詰める。
小娘二人の痴話ゲンカ、何とも耳目を引きそうで、興味本位で視線も注がれそうな場面だけれども。
この車両に他の乗客はいない、他の車両にもいない、別に今、蓮子とメリーが乗っている路線が廃線間近のローカル線と言うわけではない。

「乗車券を」
近付いてきた女性、服装から車掌の役割……ケンカの仲裁に来たわけでも無し、事務的な言葉しか出さなかった、そうすること以外の役割を求められていないかのごとくだ。
その車掌は、随分と派手な車掌だった。
狐のような金色の毛並みは確かに美しい、顔だちも整い……すぎていると言っても構わなかった。
整い過ぎていて人外のそれ、メリーは彼女に対していつだかの折に、そのような率直ながらも失礼な印象を抱いた。
「乗車券を」
再びその車掌の役割を担っている女性が声を出した、全く先ほどと同じ調子、感情の揺れと言う物が見えなかった。
普通、こんな場面に出くわせば揉め事の仲裁とは言え、何か言葉に困る物のはずなのに。
そして蓮子も、車掌からの乗車券をと言う声を、聞こえているはずなのにメリーの横に移動して、その手を握りしめた。
肩を掴まれている時よりはマシだが、やっぱり少し痛い。
「メリー、謝らないで」
だけれども蓮子からの言葉は、優しかったのでしかたがないと割り切ってしまった。
そもそもで蓮子をおかしくしてしまったのは、自分のせいなのだから。

「メリー、私はあなたを探し当てるために色々やったのは、やりたくてやったからに過ぎないの、私の遅刻を善意で毎回待っていたのと同じ」
果たして同じだろうか、そう思ったが蓮子の感情をこれ以上揺らすのは得策ではないし。
目の前で待ち続けている、車掌の服を着た女性をこれ以上待たせる事に対しても、メリーは罪悪感が沸く。

「……藍さん」
そのまま蓮子に手を握られ続けて時間が経った、無言のままで電車が揺れ動く音しか聞こえない事に、メリーの方が根負けして。
声を出すだけならまだ良かった、役割を逸脱するようなことを口走ってしまった。
どこも見ないようにしていた車掌の役割をしていた、メリーから藍さんと呼ばれた女性も、顔を歪ませてメリーの方を見る。
「役割に徹しろ、マエリベリー・ハーン」
「……はい」
イライラとしている彼女、藍さんの表情は獣のそれであった。
狐や犬が、昂っている時の顔その物であった。
「お前が努力してくれないと、仕事が回らない、紫様のご機嫌が悪いままだと――
紫様。その言葉が藍さんの口から出てきた時、蓮子は途端に怒りの感情を全く隠さずに、藍さんを突き飛ばした。
「今の私は宇佐見蓮子!!八雲紫何て存在、宇佐見蓮子は知らないの!!」
藍さんを突き飛ばした蓮子は、うめく彼女の事なんて気にせずに、自らのパーソナリティに対するこだわりを叫ぶ。
「今の私は、親友のマエリベリー・ハーン、メリーと一緒にレトロな電車旅行を楽しんでいる、一回の大学生の女の子、宇佐見蓮子よ!八雲紫に戻さないで!!」
ヨロヨロと立ち上がる藍さんを前に、なおも蓮子はこだわりを叫び続ける。
藍さんも下手な謝罪は不味いと感じたのか、痛みに顔を歪ませつつも服を整えたりして、呼吸を整えた後。
「乗車券を、拝見いたします」
完璧に取り繕って、車掌と言う役割に戻った。

そのまま何秒か、蓮子は藍さんの顔を見詰めたまま。
ストンと座席に戻り、カバンの中から二枚の乗車券を車掌の役に戻った藍さんに渡した。
「……はい、拝見いたしました」
そう言って足早に、車両を後にした。


また藍さんに嫌われる原因を積み上げてしまった。
そう思いながらもメリーは、それを甘んじて受け入れるのが、自身に課せられた事だとあきらめている感情が強かった。


メリーの認識では、1時間も無い出来事のうちに蓮子は変わってしまった、いやメリーの不注意で蓮子を変えてしまったのだ。
メリーが蓮子を、変えてしまったのだ。

『メリー、藪が深すぎるは。遭難は無いと思うけれども、滑落とかはあり得るし』
あの時、蓮子はメリーに対して珍しく好奇心を抑制するように忠告した。
普段好奇心が強い人間が下がろうとする、その意味をメリーは考えるべきだった、もう後の祭りだけれども。
『ここ、座標がはっきりしない……私の能力でもここの座標がよく分かんない。気持ち悪い』
蓮子が不安と苛立ちでメリーを追いかけるのも、忠告するのも聞かずに、メリーは先走っていた。
蓮子の座標を正確に把握する能力、メリーはそれに絶対の信頼を置いている。
その能力に狂いを生じさせるほどのスキマ、ほころび、あるいは境目があると言う事だ。

最も中に入る気はなかった、ただ出入り口を確認してそこから目視で、何が見えるかだけを確認したら戻るつもりだった。
『やっぱりここ気持ち悪い、メリー、メリー?メリー!?』
蓮子はこの場所に対する気持ち悪さを吐露しながら、不安だからだろうとその時は思った、メリーの名前を呼び続けるのを。
だけれども、蓮子が詳しく教えてくれないから分からないが、あの時には蓮子の目に映るメリーの姿は、きっとひどい目に合っていたのだろう。

『あれー?』
蓮子のメリーを呼び続ける声が聞こえなくなったのとほぼ同時に、メリーが見えていたはずのほころび、スキマ、あるいは境目は見えなくなった。
その時にはもう手遅れだったと言う事だ、一線をメリーは踏み越えてしまった。
『ここら辺に何かあるはずなのに』
思い出すだけでメリーは、あの時の自分を殴ってやりたい気分になる、その時には蓮子は泣きわめいたり必死で解決策を探していたはずだから。
『不味い……』
ようやくメリーが危機感を覚えたのは――その時ですらまだ低かった――スマートフォンが全ての通信から遮断されているのに気づいた時だ。
それでもまだ、元来た道を戻ればと言う感覚しか無かった。

10分20分、歩き続けた。
『メリー!!』
蓮子の声が聞こえた、助かったと思った。
実際は異なる世界に吹っ飛ばされたのだけれども。
『蓮子!?』
『メリー!?やった!やった!やった!!私の演算は間違っていなかった、何年もかけて計算したんだから!!』
その時の蓮子の声はほとんど泣きわめくような声で、喜びを現わしていた。
大きな違和感にようやく気付いたのはその時だ、蓮子の声が尋常でない感情の昂ぶりを、メリーの感覚は観測してしまったからだ。

立ちすくむメリーの下に、足音は、藪を強引にかき分ける音はどんどん近づいてくる。
知らない女が出てきた。
藪の中には似つかわしくない、紫を基調としたフリルの大げさな衣装を着て、日傘も紫色でフリルが多かった。
そんな女がボロボロに泣きながらメリーの下に駆け寄ってくる。
『メリー』
だけれども声は、知っていた、秘封俱楽部に欠かす事の出来ない自身の相方、宇佐見蓮子だ。

『メリー、何とも無い?お腹とか空いてない?喉は乾いてない?待たせちゃってごめんなさい、メリーはあれからどれだけ時間が経ったの?』
目の前で知らない女が蓮子の声で、そしてメリーを心配する雰囲気も蓮子のそれだと断言できた。
『蓮子?』
何とも失礼な言葉をメリーはつぶやいた、自分を助けに来てくれたのに。

『ああ……』
蓮子の声をした知らない女は、気恥ずかしそうに自身の姿形を、服装を見やった。
遅刻してきた時の蓮子も、急いできたのは分かるがと服装の乱れを指摘したら、こんな顔で恥ずかしそうにしていた。
『メリーの事だけは絶対に忘れたくないから、何年かしたらメリーっぽい顔と服を何とか再現したのだけれども……ごめんなさい、あんまり似ていなかったね』
何年かしたら。
蓮子――この時には目の前の女性を、ちゃんと宇佐見蓮子だと認識できた――のこの言葉で、メリーは全身がひどく震えだした。
『私、いったい、どれだけの時間ここで迷っていたの?』
ようやくメリーは理解が追いついてきた、メリーが迷っていた時間は彼女の認識では一時間も無いはずだが。
宇佐見蓮子の認識では、メリーを探し続けた時間は……いったい……。
『私、人間のままじゃメリーを探せなかった』
少なくともただの人間の寿命ぐらいはゆうに超えている、メリーにショックを出来るだけ与えたくないように、遠回しな表現を蓮子は使ってくれた。

『藍、メリーと一緒にいる時の私は八雲紫じゃなくて、宇佐見蓮子だから。頭に叩きこんどいてね』
その後、蓮子に抱かれながら藪の外に出た先では、狐の尻尾が九本もある何とも美しい女性からの出迎えを受けた。
彼女は藍と呼ばれていた、それがメリーにとっては彼女との初対面であったが、彼女からの印象ははっきり言って悪かった。
あ、この女、先々でずっとめんどくさいな。
藍さんの視線と表情から、この女、マエリベリー・ハーンことメリー、つまり自分は。
八雲紫と付き合う者たちにとって、何ともめんどくさい存在であると、この先ずっとそうなのだと、メリーは理解をしなければならなかった。

『マエリベリー・ハーン、愛称はメリー。紫様の大切な――
その理解は、急速に深まった。
藍さんは、メリーの事を自らの主人である紫様の大切な存在だと、言葉の上ではんすうしようとしたら、藍は紫から、いや宇佐見蓮子からビンタを受けた。
『メリーと一緒にいる時の私は、宇佐見蓮子よ、八雲紫なんて存在、宇佐見蓮子は知らない』
蓮子は確かに凛とした、芯の強い女性だ。
だけれども、藍さんにビンタをしてメリーと一緒にいる時は八雲紫じゃないと、藍さんに言いつけたその時の場面は。
自身の感情を最優先する、暴君と言ってよかった。
だけれども蓮子を暴君としてしまったのは、メリーの不注意だ。
メリーにできる事は宇佐見蓮子と付き合い、そして八雲紫と言うもう一つの蓮子を破綻させない事だ。
それしか思いつかなかった。

「ねえ、メリー。どこに行きたい?」
車掌の役割を全うした藍さんの事など、蓮子は一切気にせずに、電車旅行の続きを始めた。
蓮子がメリーとやりたかった、人の寿命以上メリーを探し続けて、ようやく実現した秘封俱楽部っぽいイベント。
でも蓮子はとても楽しそうだ、じゃあこれで良いのだ、メリーはあの時のように蓮子と会話をする。
「地酒が飲みたいわ、画一化されてない、作った年によってブレがある味ってのを体験したい」
秘封新作が出てきた後、決定的な矛盾に襲われる前に
頭に浮かんでいたままの物を出力しました
個人的に紫様の能力は座標固定と把握が重要だから、蓮子の能力の方が基礎能力になりそうだと前々から思っています
塩化
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
ドラマティックな秘封の関係が素敵でした。
3.100南条削除
面白かったです
何もかもをかなぐり捨ててでも手に入れたひと時であることが伝わってきました