Coolier - 新生・東方創想話

空隠しの妖怪

2024/02/18 01:21:38
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私には奇妙な記憶がある。
話をした思い出もなく、会ったかさえ確かでない女性の姿だ。

それはときおり、夢に出て。気が付けば忘れているような、そんな些細な存在。

「『隠し』にとられなくて、ほんによかったねぇ」

数年ぶりに東北に住む祖父母の郷里へと出向いたとき、祖母がポツリと溢した。
なんでも、私は神隠しに遭ったことがあるらしい。

伝聞形式なのは、当時の私は今よりもずっと幼かったのでその記憶がないためだ。
そしてそれは小学校を出たばかりの、そんな私の好奇心を掻き立てるには充分だった。
 
祖母の話を頼りに、私は歩き続けた。もうすぐだと、そう思った。

あたりを見まわすと、かすかに体が震えてきた。気温は低いが、そうではない。
知っている。自分はこの道を、この竹藪を。いつか来たことがある、そんな気がした。

「抱えていると、突然お前が重くなって」

「びっくりして見ると、お前の顔と両腕がとけるように消えてしまってた」

「あれは誰かがお前を引っ張って連れて行こうとしたんだよ」

自意識などない赤子だった時分の不思議な体験。すっかり何処かに忘れていたものが、少しだけ掘り起こされたようだった。
私は見えない何かに別の何処かへと引き込まれそうになっていた。ゆっくりと思い出すように、祖母はそう語ってみせた。

わたしはその犯人と、顔を合わせたはずなのだ。

やがて道を進むと、遠くからなにか見えた。道の彼方から、歩く女性の姿を見て、私は立ち止った。
幼いながらにその服装からは、時代錯誤を感じた。なんとなく、珍しい日傘を携えたその人を見て、目をそらした。
なぜだか僅かに残る、奇妙な既視感がそうさせたのである。

紫色の女性は、まっすぐに私とすれ違い、そのまま歩いて行った。
私は決心して振り向き、彼女に声をかけた。

「あの、何処かで会いませんでしたか?」

女性は少し歩いてから立ち止まり、此方へと振り返った。
ときおり夢に出てくる女性と、そっくりに美しい顔だった。

私は、終始震えていた。

「さあね、あなたのことは知らないわ」

けれど彼女は、私の瞳を覗き込んで首をかしげた。

「ひょっとしたら、貴女が空になっていたのかも」

少し会話の脈絡が掴めず、口が回らなかった。空とは青空のことだろうか。

「ただ。忘れっぽいから、それも分からない」

誰かを思い出すような仕草を見せ、女性は背を向けた。

「そろそろ日没よ、子供は家に帰るべきじゃないかしら」

「……すみません、さようなら」

僅かばかりに知っていた礼儀に従い、別れを告げた。なぜだか、そうしなければいけない気がした。
そうして私とその不思議な女性は、それぞれ反対に道を歩き始めた。

そのとき、竹藪がざわッと揺れ、竹の葉が擦れ合う音が一斉に鳴った。

「あ」

その勢いは恐ろしく、思わずマフラーが飛ばされてしまった。
女性も立ち止まり、私に振り向いて言った。

「あら。風が出てきたわね」
あくまで候補だったかもしれないってだけの話です。
霊夢の出生は明かされてない部分が多いので、完全な独自解釈です。
拙い文章でしたが、お読みいただきありがとうございました。
Rothko
https://twitter.com/Rothko7716
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コメント



0.250簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
台詞と空気感が素敵でした。
5.90夏後冬前削除
これこの長さで色々と考えさせられる含みをたっぷり持たせているの凄いの一言です
7.90名前が無い程度の能力削除
良かったです。話の懐の深さを感じました。
8.100のくた削除
こういう世界観大好きです
9.100あよ削除
凄い、なんかこう、自分にはできないなって感じさせる文章でした。すごく好きです。