「れみちょん、れみちょん」
「あー?」
昼下がりの紅魔館。
門番の美鈴と仲良く手を繋いでやってきたのは、宵闇の妖怪ルーミアだった。美鈴にばいばいと両手を振って挨拶すると、ルーミアはレミリアが就いているテーブルにちょこちょこ歩いてきた。
「あんた、今日は何しに来たの?」
「えっとねー」
ルーミアは上着の中をごそごそやって、小さな包みを取り出した。赤い包装紙でラッピングされた包みには、かわいらしいリボンが付いている。
「あげるー」
鼻先に包みを突きつけられたレミリアは困惑顔だが、ルーミアはいつものにこにこのほほん顔。包みからは、ほのかに甘い香りがする。
「な、なによこれ」
「ちょこれーとー」
「チョコレートぉ? 食いしん坊のあんたが食べ物プレゼントって珍しい話もあったもんだわ」
「だってー、今日はばれんたいんでーでしょー?」
「そうだっけ」
「そーだよー。だから、あげるー」
「あーもう近い近い近い」
ずいっと突き出されたチョコレートの包みを、レミリアは困惑しながら受け取る。バレンタインデーという風習は知っていたが、別に人間の風習に付き合う必要もないので、思えばバレンタインデーにチョコレートをもらうなんて500年生きてきてはじめての経験かもしれない。
「あけてみてー」
「あーもうわかったから! わかったからいちいち距離近いのよあんたは!」
ねーねーと鼻と鼻がくっつくくらいの至近距離に迫られて顔を赤くしつつ、レミリアはリボンを解いて受け取った包みを開ける。
中から出てきたのは、明らかに既製品ではないなんだか不格好なチョコレートだった。よく見るとなんとなくコウモリの形に見えないこともない。
「……これ、あんたが作ったの? 自分で?」
そう聞くと、ルーミアはうれしそうに頷いた。
「そーだよー。お店のとかみたいにうまくいかなかったけどー、がんばったのー」
「あんた、意外にけっこういろいろやってるのね。いっつもふにゃふにゃした顔してるのに」
「えへへー、ほめられたー」
「別に褒めてないっての……」
大げさにため息を付いて見せておでこをつついてやると、ルーミアはなにがそんなにうれしいのかふにゃふにゃーと笑っている。
そんなふたりを広間の入り口で眺めていた美鈴と、いつものように控えている咲夜。ややあって、美鈴が小声で咲夜に話しかけた。
「……ねー、咲夜さん」
「何よ」
「バレンタインデーですって」
「それが何よ」
「……」
「……なによその捨てられた子犬みたいな目」
「だからぁ……」
「だからなに」
「咲夜さんのチョコ、ほしいなーって……」
「……」
「……」
「……ホワイトデーには相応のお返しを期待していいのよね?」
「わーい咲夜さんだいすきー!!」
「いだだだだ本気で抱きつくなバカ!! あんた力強いんだから加減しなさい!! 折れる折れる折れる!!」
「相変わらず仲良しよねアンタら……」
「なかよしなのかー」
とかやっていると、不意にルーミアが手を伸ばし、包みの中のチョコをひょいと取り上げた。
「ねーねー、れみちょん」
「なによ」
「あーんして、あーん」
「はあっ!?」
予想外の角度からの攻撃にのけぞるレミリア。対するルーミアは相変わらずののほほーん顔。
「だからー、あーんして」
「えぇ……」
幻想郷随一のわがままお嬢様として名を馳せるレミリアだが、この宵闇の妖怪のマイペースさにはどうもたじたじとなってしまう。ルーミアは、そんなレミリアの困惑なんかぜんぜんわかっていない顔でチョコを突きつけてきた。逃げ場なし。
「ううう……わかったわよぅ……」
珍しく観念して、レミリアは鼻先に差し出されたチョコレートをぱくり。異常に気恥ずかしいがルーミアの方はレミリアのそんな気も知らずににこにこほにゃほにゃしている。
「おいしいー?」
「ま、まあまあね」
「やったー」
うれしそうにふにゃふにゃ笑っているルーミアの笑顔を見ていると、レミリアもなんだかちょっとだけうれしい気持ちになってきた。人間の風習にはあんまり興味がなかったけれど、たまにはこういうのも悪くない。
「まあ手作りにしちゃなかなかじゃないの。ほめてつかわす」
「わーい、ほめられたー」
なでなでしてやると、ルーミアは目を細めてくすぐったそうにしている。小動物っぽくてかわいい。
「ほれ、あーんしなさいあーん」
気を良くしたレミリアは手にしたチョコを割って、今度はルーミアに差し出してやった。
「わーい、あーん」
ん?と思ったときには遅かった。
「ぱっくん」
「ぎょわー!! だーれが腕ごと食べろって言ったのよ!? あっこらもぐもぐすんじゃないわよ! 咲夜ー!! 美鈴ー!! 笑ってないで助けなさーい!!」
「もっちゃもっちゃ」
「咀嚼されている!?」
ようやくのことでルーミアの口からすっぽーんと腕を引っこ抜いたレミリアは青ざめた顔でぜーはー言っている。
「ゆ……油断してたわ……こいつはこういうやつだった……!」
「えへへー、ごめーん。れみちょんがあーんってしてくれたのがうれしかったのー」
「まったくもぉ……」
無邪気な顔でそんなことを言われては、怒る気力も失せてしまう。
ふにゃふにゃ笑っているルーミアのぷにぷにほっぺをつっつきながら、レミリアは初めてのホワイトデーのプレゼントについて考えていた。
「あー?」
昼下がりの紅魔館。
門番の美鈴と仲良く手を繋いでやってきたのは、宵闇の妖怪ルーミアだった。美鈴にばいばいと両手を振って挨拶すると、ルーミアはレミリアが就いているテーブルにちょこちょこ歩いてきた。
「あんた、今日は何しに来たの?」
「えっとねー」
ルーミアは上着の中をごそごそやって、小さな包みを取り出した。赤い包装紙でラッピングされた包みには、かわいらしいリボンが付いている。
「あげるー」
鼻先に包みを突きつけられたレミリアは困惑顔だが、ルーミアはいつものにこにこのほほん顔。包みからは、ほのかに甘い香りがする。
「な、なによこれ」
「ちょこれーとー」
「チョコレートぉ? 食いしん坊のあんたが食べ物プレゼントって珍しい話もあったもんだわ」
「だってー、今日はばれんたいんでーでしょー?」
「そうだっけ」
「そーだよー。だから、あげるー」
「あーもう近い近い近い」
ずいっと突き出されたチョコレートの包みを、レミリアは困惑しながら受け取る。バレンタインデーという風習は知っていたが、別に人間の風習に付き合う必要もないので、思えばバレンタインデーにチョコレートをもらうなんて500年生きてきてはじめての経験かもしれない。
「あけてみてー」
「あーもうわかったから! わかったからいちいち距離近いのよあんたは!」
ねーねーと鼻と鼻がくっつくくらいの至近距離に迫られて顔を赤くしつつ、レミリアはリボンを解いて受け取った包みを開ける。
中から出てきたのは、明らかに既製品ではないなんだか不格好なチョコレートだった。よく見るとなんとなくコウモリの形に見えないこともない。
「……これ、あんたが作ったの? 自分で?」
そう聞くと、ルーミアはうれしそうに頷いた。
「そーだよー。お店のとかみたいにうまくいかなかったけどー、がんばったのー」
「あんた、意外にけっこういろいろやってるのね。いっつもふにゃふにゃした顔してるのに」
「えへへー、ほめられたー」
「別に褒めてないっての……」
大げさにため息を付いて見せておでこをつついてやると、ルーミアはなにがそんなにうれしいのかふにゃふにゃーと笑っている。
そんなふたりを広間の入り口で眺めていた美鈴と、いつものように控えている咲夜。ややあって、美鈴が小声で咲夜に話しかけた。
「……ねー、咲夜さん」
「何よ」
「バレンタインデーですって」
「それが何よ」
「……」
「……なによその捨てられた子犬みたいな目」
「だからぁ……」
「だからなに」
「咲夜さんのチョコ、ほしいなーって……」
「……」
「……」
「……ホワイトデーには相応のお返しを期待していいのよね?」
「わーい咲夜さんだいすきー!!」
「いだだだだ本気で抱きつくなバカ!! あんた力強いんだから加減しなさい!! 折れる折れる折れる!!」
「相変わらず仲良しよねアンタら……」
「なかよしなのかー」
とかやっていると、不意にルーミアが手を伸ばし、包みの中のチョコをひょいと取り上げた。
「ねーねー、れみちょん」
「なによ」
「あーんして、あーん」
「はあっ!?」
予想外の角度からの攻撃にのけぞるレミリア。対するルーミアは相変わらずののほほーん顔。
「だからー、あーんして」
「えぇ……」
幻想郷随一のわがままお嬢様として名を馳せるレミリアだが、この宵闇の妖怪のマイペースさにはどうもたじたじとなってしまう。ルーミアは、そんなレミリアの困惑なんかぜんぜんわかっていない顔でチョコを突きつけてきた。逃げ場なし。
「ううう……わかったわよぅ……」
珍しく観念して、レミリアは鼻先に差し出されたチョコレートをぱくり。異常に気恥ずかしいがルーミアの方はレミリアのそんな気も知らずににこにこほにゃほにゃしている。
「おいしいー?」
「ま、まあまあね」
「やったー」
うれしそうにふにゃふにゃ笑っているルーミアの笑顔を見ていると、レミリアもなんだかちょっとだけうれしい気持ちになってきた。人間の風習にはあんまり興味がなかったけれど、たまにはこういうのも悪くない。
「まあ手作りにしちゃなかなかじゃないの。ほめてつかわす」
「わーい、ほめられたー」
なでなでしてやると、ルーミアは目を細めてくすぐったそうにしている。小動物っぽくてかわいい。
「ほれ、あーんしなさいあーん」
気を良くしたレミリアは手にしたチョコを割って、今度はルーミアに差し出してやった。
「わーい、あーん」
ん?と思ったときには遅かった。
「ぱっくん」
「ぎょわー!! だーれが腕ごと食べろって言ったのよ!? あっこらもぐもぐすんじゃないわよ! 咲夜ー!! 美鈴ー!! 笑ってないで助けなさーい!!」
「もっちゃもっちゃ」
「咀嚼されている!?」
ようやくのことでルーミアの口からすっぽーんと腕を引っこ抜いたレミリアは青ざめた顔でぜーはー言っている。
「ゆ……油断してたわ……こいつはこういうやつだった……!」
「えへへー、ごめーん。れみちょんがあーんってしてくれたのがうれしかったのー」
「まったくもぉ……」
無邪気な顔でそんなことを言われては、怒る気力も失せてしまう。
ふにゃふにゃ笑っているルーミアのぷにぷにほっぺをつっつきながら、レミリアは初めてのホワイトデーのプレゼントについて考えていた。