「アリスうううぅうっ!! でやああああああああああぅううっ!」
「何よ! 魔理沙! そんな何度でも、な・ん・ど・で・も蘇るヤツみたいな叫び声上げて?」
「私のキノコがない!!」
「アンタのキノコ……?」
「そうだ! 説明しよう! 私は冬になるとキノコ成分が不足して情緒が不安定になるんだ!」
「なんだ。そんなのいつものことじゃないの」
「すまんが、森に行ってキノコを取ってきてくれないか」
「人の話を聞けよ」
「そうしないと私は、暴走してこの家を壊しかねん!」
「ちょっと、私の家を壊さないでよ!?」
「いや、違うだろアリス。ここは二人の家だ」
「そうだったわね。ってそんなんどうでもいいから! とにかく! キノコ探してくるから!! それまで家を壊さないでよ!?」
「何一人で赤くなってんだオマエ」
「うっさい!」
バッターン! と、乱暴に扉を閉めてアリスは出て行った。
『キノコがない!』
「……というわけで、森に来たけど、マジでキノコなんてどこにもないわね」
冬はキノコも冬眠するのだ。探せという方が、どだい無理な話である。
「でも、探さないとあいつに家を壊されてしまうし……なんとかしないと」
それからしばらくの間、アリスは森の中を探し回った。しかしやっぱりキノコは見つからなかった。
「やっぱりないか」
疲れ果てたアリスは思わずその場にへたれ込んでしまう。その時、突然彼女にあるアイディアがピコーンと思い浮かんだ。
「そうだ! 魔法でキノコを作っちゃえばいいんだわ!」
そうと決まれば善は急げ、悪はゆっくり。アリスは早速魔法を使ってそれっぽいキノコを作り出した。
「うん! これならどこからどう見てもキノコだわ! さっそく魔理沙のところに行かなくちゃ!」
アリスは急いで家に帰った。家の中では魔理沙がちょうどテーブルを持ち上げて投げようとしていた。慌ててアリスは止めに入った。
「虚無なウェイトトレーニングはそこまでよ! さあ魔理沙! これを見なさい!」
アリスは高々とキノコを掲げる。
「うおあ!! そ、それは!?」
魔理沙はそのキノコを見るやいなや、驚いた様子で声を上げた。
「どう!魔理沙。探してきたわよ。キノコ!」
「こ、これは……。この白い柄に黄色い傘! そしてところどころにある赤くて丸い斑点! 間違いない! これはっ! これはスーパーキノコじゃないか!」
「そ、そうなの?」
(記憶の中にあったキノコを適当に具現化したんだけど、あれそう言うキノコだったの……)
アリスは自分で作ったキノコのくせに、何のキノコかわかっていなかった。
「そうだぜ! このキノコがあれば私は今より1.5倍(※当社比)巨大化できるんだ! さあ、よこせ!」
「そんなどこぞのカップラーメンじゃないんだから……っていうか今のアンタに巨大化されたら困るのよ! ダメ! これはあげられない!」
アリスは窓からスーパーキノコを「そぉい!」と放り投げた。
「うああああああああー! うぁたしのぉのキノコぐぁあああああっ!」
魔理沙は、この世の終わりかと思うような形相で窓の外に向かって泣き叫んだ。
うわぁああああああああああああああぁううううぅ!
彼女は慟哭の声を上げる。その声で家中が小刻みに揺れた。
「もういいわよ! わかったから! 新しいキノコ探してきてやるから そんな一晩中泣いて泣いて 気がつかなくてもいいから! 家壊さないでよ! まったくもう!」
つうわけでアリスは、プリプリ怒りながら再び森へやってきた。
「さてと、今度はうまくやらないとね」
アリスは念のため周りを探す。しかしやはりキノコは見つからない。つまり、またキノコをでっち上げなければいけないのである。
「でっち上げるなんて人聞き悪いわね。模倣品をつくるだけよ」
同じである。
「それはそうと、中途半端な知識でキノコ作っても変なのしか出来なそうだし、どうしたものかしら」
彼女の知識の中のキノコは、甘い息を吐いて眠らせようとしたり、パタパタと胞子をばらまいたり、タマミちゃんだったり「ゴンタマ!」と元気に挨拶をするヤツだったりなど、ようするにロクなキノコがなかった。普段いかにキノコに興味がないかを如実に表しているとも言える。仮にも魔理沙のバディとしてそんなんでいいいのか。
「でも、そんなことは言ってらんないわ。なんとかしないと家が壊れてしまうし……」
戸惑う彼女に、ここで再びアイデアがピコンとひらめいた。
「そうだ! あいつに頼もう!」
彼女が向かった先は矢田寺成美の住処だった。彼女はアリスにとって近所にいる何でも話せるお地蔵さんだ。彼女は決して友達0ではないのである。(ただし変人が2だが)
「あ、アリス。どうしたの?」
成美は家の中で他の地蔵仲間と一緒に、こたつに入っていた。冬になればお地蔵さんもこたつに入るのだ。何も不思議なことはない。
「成美。お願いがあるんだけど、ちょっと耳貸して?」
「いいよー?」
「ゴニョゴニョゴニョ……」
「えぇ……? 魔理沙がキノコ不足で暴れているから適当なキノコないかって!?」
「……内緒で言った意味ないわね」
「そんな急に言われてもなー」
「そこをなんとかできない? 私、キノコの知識がなくて」
「うーん。ちょっと待っててね?」
成美は、こたつの中にいる他のお地蔵さんたちと会話をし始める。お地蔵語で話しているため、アリスには話の内容はわからなかった。やがて話が終わったらしい。
「おまたせー。話ついたよ」
成美はウインクをすると、アリスに言った。
「地蔵会議の結果、キノコにそっくりなもので代用したらどうかってなったわ」
「そっくりなものってったって例えば何?」
「え。うーん。ちょっと待っててね?」
再び成美はお地蔵さんたちと話し合いを始める。
(あーもう。じれったい)
アリスは自分も地蔵語がわかれば、この会話に参加できるのにと思ったが、あいにく彼女は地蔵語は専門外だった。
(こんなんだったら魔界にいるとき、地蔵語習っておけばよかったわ)
彼女が思わず後悔していると、成美が上機嫌そうに話しかけてきた。
「話終わったよー」
「で、なんだって?」
「うん。笠をかぶったお地蔵さんがキノコそっくりじゃないかって」
「その発想はなかったわ!?」
たしかに蓑笠をかぶったお地蔵さんは遠くから見れば、ほんの一瞬だけキノコに見えないこともない。ほんの一瞬だけならば。
「ま、私のアイデアなんだけどねー。私てんさーい」
エッヘンとばかりに胸を張る成美にアリスが一言。
「でも、ということは、この中の誰かが犠牲になるってことよね?」
アリスの一言でその場の空気が一気に凍り付いた。そして一瞬の静寂のあと、地蔵たちはなにやらかにやら、わーわーきゃきゃー喧喧囂囂と騒ぎ始める。地蔵語のわからないアリスでも、誰がキノコ役やるかで揉めてる事がわかった。しかもどうやら譲り合っている様子だ。当たり前だ。地蔵にもプライドはある。
ふと、一人の地蔵がビラを掲げる。そのビラにはこう書かれていた。
言い出しっぺの法則
それを見た他の地蔵たちは一斉に成美の方を見る。どうやら役は決まったらしい。
「ふええええ!? そんなぁー!?」
口は災いの門、後悔なんて役立たず。アリスは笑顔で、泣き顔のマリーならぬ成美の肩をポンッと叩くと告げた。
「まっ、頑張ってね?」
かくして成美は、アリスの手によってキノコへと姿を変えられてしまった。彼女はアリスが魔法で作ったキノコ型の衣装の中に入っている。ようするにキノコの着ぐるみの中に入っている状態だ。彼女のアイデアまったく無意味である。しかも自分じゃ動けないので、大量の人形たちに抱えられている。
それはまるで棺桶を担いでいるようにも見えた。そんな今にも奇妙な音楽でくるくる踊り出しそうな行列とともにアリスは、魔理沙の待つ家に凱旋するのだった。
「魔理沙ー! キノコ見つけてきたわよー!」
アリスが意気揚々と家に中に入ると、天井に穴が開いていた。どうやら魔理沙が天井に穴を開けたらしい。
「ちょっと魔理沙! なんで天井に穴なんて開いてるのよ!?」
屋根の上から降りてきた魔理沙が得意げに答える。
「それはなアリス。天井に穴を開けたかったからさ!」
「そんな、山登りする人が、山登りするのはそこに山があるからって答えるみたいな言い方しないで!?」
「そんなことより、キノコ見つかったんだって?」
「だから人の話を聞け!」
「どこだキノコは? どくどくもりもりは?」
アリスが、ハア……と、ため息つきながら玄関の扉を開けると、巨大なキノコ(正体は成美)が人形たちに抱えられながら入ってきた。
「うわぁ! なんだこれは!?」
びっくり仰天した魔理沙は思わず尻餅をついてしまう。
「ほら、これだけあればキノコ成分補充できるでしょ?」
「ああ、もちろんだ! よし、さっそく調理しようか!!」
「え……?」
思わずアリスはキノコを見る。心なしかキノコも動揺しているように見えた。いや、実際動揺していた。彼女には見えた。着ぐるみの中で泣き顔でガタガタ震えている成美の姿が。
「ま、待って魔理沙! 調理する前にちょっと提案があるんだけど」
魔理沙はチェンソーを持ち出してキノコを解体しようとしていた所をアリスに止められたので不機嫌そうに答えた。
「何だよ! いいところだったのに」
「調理もいいんだけど、どうせなら一晩ともに過ごしてみたら? ほら、こんなに大きなキノコなんだから一緒にいるだけでもキノコ成分補充できるんじゃないかなって。プロの魔女としての観点からでも、養分を摂取するときは経口摂取するより、長時間肌に触れることでその栄養素を皮膚から吸収するのが効率いいっていう研究結果が過去にまとめられていたのを、遙か昔に見た記憶があるような気がするわ。それにこんな大きなキノコと一晩過ごすなんてめったに出来ないわよ。一夏の経験ならぬ、一冬の経験よ。アンタはその貴重な体験チャンスを無碍にしようとしてるのよ。これはプロの魔女の観点としても愚の骨頂と言わざるを得ないわ。ここまで言ってもアンタはまだ、このキノコを今すぐ切り刻んで煮込んで食べるって言うのかしら?」
我ながら口八丁手八丁と思いながらアリスは早口でまくし立てる。アリスの気迫にやられたのか。流石の魔理沙もやや引き気味に苦笑いを浮かべるしかできなかった。そしてこう呟いた。
「ああ、わかったよ。アリス。キノコと一晩寝てみることにするよ」
その後、魔理沙はキノコ(成美)と一緒に風呂に入り、一緒の布団で寝ることになった。
アリスは、魔理沙と一緒にお風呂に入って、更に一緒の布団で一晩明かすことになっていまい、ドギマギしまくって真っ赤になっている成美の様子をニヤニヤしながら物陰から見つめていた。
そんでもって次の日
「うぉおおおい! アリスぅ!」
「なによ。魔理沙……」
魔理沙の一声で目がさめたアリスは、眠そうにしながら聞き返す。
「見てくれ! 私のキノコ成分がばっちし補充されたんだ。どうだ! この髪のつや! 肌の血色! このたくましい力こぶ! 私は今、青春まっただ中の絶好調だぜ!」
「そ……よかったわね」
アリスは目をこすりながら「はいはい、プラセボプラセボ」と心の中で呟きながら頷いた。
「よし、じゃああのキノコを頂くとしようか!」
魔理沙がそういった瞬間、キノコが寝室から飛び出してきたかと思うとそのまま逃げるように飛び跳ねながら外へ飛び出して行ってしまった。
「うわ! おい! ちょっ待てよ! 私のキノコ!」
慌てて魔理沙はキノコを追いかける。その様子を呆然と見ているアリス。やがて思い出したように手をポンと叩いた。
(……そういや使った魔法の期限一晩限りだったような)
と、思ったその時だ。
「うわぁああああああああああ!? なんだこれはぁあああ!」
魔理沙の絶叫が聞こえてくる。アリスが慌てて外に出るとそこには身の丈4メートルほどの大きなキノコの姿があった。
「なんじゃこりゃー!?」
アリスも思わず困惑の表情で声を上げてしまった。
「こ、こんなん、いくらなんでもデカすぎる。……私では無理だ」
あまりのキノコの大きさにド肝を抜かれたのか、呻くように言いながら魔理沙はそのまま倒れてしまった。
アリスもどうしていいかわからずにいると、キノコから「ふええええん」という声が聞こえてくる。
「あ! その情けない声。成美ね?」
「ふえぇええん。アリスさーん! 外に飛び出したら何か踏んじゃって、そしたら大きくなっちゃいましたー助けて下さいー」
「……あー。そういうこと」
彼女は家を飛び出したときに偶然、昨日アリスが外に放り投げたスーパーキノコを踏んでしまったのだ。それで巨大化してしまったのだ。
「ま、大丈夫よ。そのうち元に戻るから」
「そのうちっていつですかー?」
「そのうちはそのうちよ。じゃあね。私、もう疲れたわ……」
アリスは思わず頭を抑えながら家の中に帰ろうとする。
「あ、待って! 見捨てないで……って、あっ!?」
彼女を追いかけようとしたキノコ(成美)だったがつまづいてしまう。そしてバランス崩してそのまま……
「え!? ちょっと!? こっちに来ないでよ!? ウソでしょ!? いやあああああああ!!?」
アリスの抗議むなしく、家はアリスごと成美の下敷きとなり、あっけなく潰れてしまった。
ちなみに倒れた衝撃で、成美は元の大きさに戻れた。
「何よ! 魔理沙! そんな何度でも、な・ん・ど・で・も蘇るヤツみたいな叫び声上げて?」
「私のキノコがない!!」
「アンタのキノコ……?」
「そうだ! 説明しよう! 私は冬になるとキノコ成分が不足して情緒が不安定になるんだ!」
「なんだ。そんなのいつものことじゃないの」
「すまんが、森に行ってキノコを取ってきてくれないか」
「人の話を聞けよ」
「そうしないと私は、暴走してこの家を壊しかねん!」
「ちょっと、私の家を壊さないでよ!?」
「いや、違うだろアリス。ここは二人の家だ」
「そうだったわね。ってそんなんどうでもいいから! とにかく! キノコ探してくるから!! それまで家を壊さないでよ!?」
「何一人で赤くなってんだオマエ」
「うっさい!」
バッターン! と、乱暴に扉を閉めてアリスは出て行った。
『キノコがない!』
「……というわけで、森に来たけど、マジでキノコなんてどこにもないわね」
冬はキノコも冬眠するのだ。探せという方が、どだい無理な話である。
「でも、探さないとあいつに家を壊されてしまうし……なんとかしないと」
それからしばらくの間、アリスは森の中を探し回った。しかしやっぱりキノコは見つからなかった。
「やっぱりないか」
疲れ果てたアリスは思わずその場にへたれ込んでしまう。その時、突然彼女にあるアイディアがピコーンと思い浮かんだ。
「そうだ! 魔法でキノコを作っちゃえばいいんだわ!」
そうと決まれば善は急げ、悪はゆっくり。アリスは早速魔法を使ってそれっぽいキノコを作り出した。
「うん! これならどこからどう見てもキノコだわ! さっそく魔理沙のところに行かなくちゃ!」
アリスは急いで家に帰った。家の中では魔理沙がちょうどテーブルを持ち上げて投げようとしていた。慌ててアリスは止めに入った。
「虚無なウェイトトレーニングはそこまでよ! さあ魔理沙! これを見なさい!」
アリスは高々とキノコを掲げる。
「うおあ!! そ、それは!?」
魔理沙はそのキノコを見るやいなや、驚いた様子で声を上げた。
「どう!魔理沙。探してきたわよ。キノコ!」
「こ、これは……。この白い柄に黄色い傘! そしてところどころにある赤くて丸い斑点! 間違いない! これはっ! これはスーパーキノコじゃないか!」
「そ、そうなの?」
(記憶の中にあったキノコを適当に具現化したんだけど、あれそう言うキノコだったの……)
アリスは自分で作ったキノコのくせに、何のキノコかわかっていなかった。
「そうだぜ! このキノコがあれば私は今より1.5倍(※当社比)巨大化できるんだ! さあ、よこせ!」
「そんなどこぞのカップラーメンじゃないんだから……っていうか今のアンタに巨大化されたら困るのよ! ダメ! これはあげられない!」
アリスは窓からスーパーキノコを「そぉい!」と放り投げた。
「うああああああああー! うぁたしのぉのキノコぐぁあああああっ!」
魔理沙は、この世の終わりかと思うような形相で窓の外に向かって泣き叫んだ。
うわぁああああああああああああああぁううううぅ!
彼女は慟哭の声を上げる。その声で家中が小刻みに揺れた。
「もういいわよ! わかったから! 新しいキノコ探してきてやるから そんな一晩中泣いて泣いて 気がつかなくてもいいから! 家壊さないでよ! まったくもう!」
つうわけでアリスは、プリプリ怒りながら再び森へやってきた。
「さてと、今度はうまくやらないとね」
アリスは念のため周りを探す。しかしやはりキノコは見つからない。つまり、またキノコをでっち上げなければいけないのである。
「でっち上げるなんて人聞き悪いわね。模倣品をつくるだけよ」
同じである。
「それはそうと、中途半端な知識でキノコ作っても変なのしか出来なそうだし、どうしたものかしら」
彼女の知識の中のキノコは、甘い息を吐いて眠らせようとしたり、パタパタと胞子をばらまいたり、タマミちゃんだったり「ゴンタマ!」と元気に挨拶をするヤツだったりなど、ようするにロクなキノコがなかった。普段いかにキノコに興味がないかを如実に表しているとも言える。仮にも魔理沙のバディとしてそんなんでいいいのか。
「でも、そんなことは言ってらんないわ。なんとかしないと家が壊れてしまうし……」
戸惑う彼女に、ここで再びアイデアがピコンとひらめいた。
「そうだ! あいつに頼もう!」
彼女が向かった先は矢田寺成美の住処だった。彼女はアリスにとって近所にいる何でも話せるお地蔵さんだ。彼女は決して友達0ではないのである。(ただし変人が2だが)
「あ、アリス。どうしたの?」
成美は家の中で他の地蔵仲間と一緒に、こたつに入っていた。冬になればお地蔵さんもこたつに入るのだ。何も不思議なことはない。
「成美。お願いがあるんだけど、ちょっと耳貸して?」
「いいよー?」
「ゴニョゴニョゴニョ……」
「えぇ……? 魔理沙がキノコ不足で暴れているから適当なキノコないかって!?」
「……内緒で言った意味ないわね」
「そんな急に言われてもなー」
「そこをなんとかできない? 私、キノコの知識がなくて」
「うーん。ちょっと待っててね?」
成美は、こたつの中にいる他のお地蔵さんたちと会話をし始める。お地蔵語で話しているため、アリスには話の内容はわからなかった。やがて話が終わったらしい。
「おまたせー。話ついたよ」
成美はウインクをすると、アリスに言った。
「地蔵会議の結果、キノコにそっくりなもので代用したらどうかってなったわ」
「そっくりなものってったって例えば何?」
「え。うーん。ちょっと待っててね?」
再び成美はお地蔵さんたちと話し合いを始める。
(あーもう。じれったい)
アリスは自分も地蔵語がわかれば、この会話に参加できるのにと思ったが、あいにく彼女は地蔵語は専門外だった。
(こんなんだったら魔界にいるとき、地蔵語習っておけばよかったわ)
彼女が思わず後悔していると、成美が上機嫌そうに話しかけてきた。
「話終わったよー」
「で、なんだって?」
「うん。笠をかぶったお地蔵さんがキノコそっくりじゃないかって」
「その発想はなかったわ!?」
たしかに蓑笠をかぶったお地蔵さんは遠くから見れば、ほんの一瞬だけキノコに見えないこともない。ほんの一瞬だけならば。
「ま、私のアイデアなんだけどねー。私てんさーい」
エッヘンとばかりに胸を張る成美にアリスが一言。
「でも、ということは、この中の誰かが犠牲になるってことよね?」
アリスの一言でその場の空気が一気に凍り付いた。そして一瞬の静寂のあと、地蔵たちはなにやらかにやら、わーわーきゃきゃー喧喧囂囂と騒ぎ始める。地蔵語のわからないアリスでも、誰がキノコ役やるかで揉めてる事がわかった。しかもどうやら譲り合っている様子だ。当たり前だ。地蔵にもプライドはある。
ふと、一人の地蔵がビラを掲げる。そのビラにはこう書かれていた。
言い出しっぺの法則
それを見た他の地蔵たちは一斉に成美の方を見る。どうやら役は決まったらしい。
「ふええええ!? そんなぁー!?」
口は災いの門、後悔なんて役立たず。アリスは笑顔で、泣き顔のマリーならぬ成美の肩をポンッと叩くと告げた。
「まっ、頑張ってね?」
かくして成美は、アリスの手によってキノコへと姿を変えられてしまった。彼女はアリスが魔法で作ったキノコ型の衣装の中に入っている。ようするにキノコの着ぐるみの中に入っている状態だ。彼女のアイデアまったく無意味である。しかも自分じゃ動けないので、大量の人形たちに抱えられている。
それはまるで棺桶を担いでいるようにも見えた。そんな今にも奇妙な音楽でくるくる踊り出しそうな行列とともにアリスは、魔理沙の待つ家に凱旋するのだった。
「魔理沙ー! キノコ見つけてきたわよー!」
アリスが意気揚々と家に中に入ると、天井に穴が開いていた。どうやら魔理沙が天井に穴を開けたらしい。
「ちょっと魔理沙! なんで天井に穴なんて開いてるのよ!?」
屋根の上から降りてきた魔理沙が得意げに答える。
「それはなアリス。天井に穴を開けたかったからさ!」
「そんな、山登りする人が、山登りするのはそこに山があるからって答えるみたいな言い方しないで!?」
「そんなことより、キノコ見つかったんだって?」
「だから人の話を聞け!」
「どこだキノコは? どくどくもりもりは?」
アリスが、ハア……と、ため息つきながら玄関の扉を開けると、巨大なキノコ(正体は成美)が人形たちに抱えられながら入ってきた。
「うわぁ! なんだこれは!?」
びっくり仰天した魔理沙は思わず尻餅をついてしまう。
「ほら、これだけあればキノコ成分補充できるでしょ?」
「ああ、もちろんだ! よし、さっそく調理しようか!!」
「え……?」
思わずアリスはキノコを見る。心なしかキノコも動揺しているように見えた。いや、実際動揺していた。彼女には見えた。着ぐるみの中で泣き顔でガタガタ震えている成美の姿が。
「ま、待って魔理沙! 調理する前にちょっと提案があるんだけど」
魔理沙はチェンソーを持ち出してキノコを解体しようとしていた所をアリスに止められたので不機嫌そうに答えた。
「何だよ! いいところだったのに」
「調理もいいんだけど、どうせなら一晩ともに過ごしてみたら? ほら、こんなに大きなキノコなんだから一緒にいるだけでもキノコ成分補充できるんじゃないかなって。プロの魔女としての観点からでも、養分を摂取するときは経口摂取するより、長時間肌に触れることでその栄養素を皮膚から吸収するのが効率いいっていう研究結果が過去にまとめられていたのを、遙か昔に見た記憶があるような気がするわ。それにこんな大きなキノコと一晩過ごすなんてめったに出来ないわよ。一夏の経験ならぬ、一冬の経験よ。アンタはその貴重な体験チャンスを無碍にしようとしてるのよ。これはプロの魔女の観点としても愚の骨頂と言わざるを得ないわ。ここまで言ってもアンタはまだ、このキノコを今すぐ切り刻んで煮込んで食べるって言うのかしら?」
我ながら口八丁手八丁と思いながらアリスは早口でまくし立てる。アリスの気迫にやられたのか。流石の魔理沙もやや引き気味に苦笑いを浮かべるしかできなかった。そしてこう呟いた。
「ああ、わかったよ。アリス。キノコと一晩寝てみることにするよ」
その後、魔理沙はキノコ(成美)と一緒に風呂に入り、一緒の布団で寝ることになった。
アリスは、魔理沙と一緒にお風呂に入って、更に一緒の布団で一晩明かすことになっていまい、ドギマギしまくって真っ赤になっている成美の様子をニヤニヤしながら物陰から見つめていた。
そんでもって次の日
「うぉおおおい! アリスぅ!」
「なによ。魔理沙……」
魔理沙の一声で目がさめたアリスは、眠そうにしながら聞き返す。
「見てくれ! 私のキノコ成分がばっちし補充されたんだ。どうだ! この髪のつや! 肌の血色! このたくましい力こぶ! 私は今、青春まっただ中の絶好調だぜ!」
「そ……よかったわね」
アリスは目をこすりながら「はいはい、プラセボプラセボ」と心の中で呟きながら頷いた。
「よし、じゃああのキノコを頂くとしようか!」
魔理沙がそういった瞬間、キノコが寝室から飛び出してきたかと思うとそのまま逃げるように飛び跳ねながら外へ飛び出して行ってしまった。
「うわ! おい! ちょっ待てよ! 私のキノコ!」
慌てて魔理沙はキノコを追いかける。その様子を呆然と見ているアリス。やがて思い出したように手をポンと叩いた。
(……そういや使った魔法の期限一晩限りだったような)
と、思ったその時だ。
「うわぁああああああああああ!? なんだこれはぁあああ!」
魔理沙の絶叫が聞こえてくる。アリスが慌てて外に出るとそこには身の丈4メートルほどの大きなキノコの姿があった。
「なんじゃこりゃー!?」
アリスも思わず困惑の表情で声を上げてしまった。
「こ、こんなん、いくらなんでもデカすぎる。……私では無理だ」
あまりのキノコの大きさにド肝を抜かれたのか、呻くように言いながら魔理沙はそのまま倒れてしまった。
アリスもどうしていいかわからずにいると、キノコから「ふええええん」という声が聞こえてくる。
「あ! その情けない声。成美ね?」
「ふえぇええん。アリスさーん! 外に飛び出したら何か踏んじゃって、そしたら大きくなっちゃいましたー助けて下さいー」
「……あー。そういうこと」
彼女は家を飛び出したときに偶然、昨日アリスが外に放り投げたスーパーキノコを踏んでしまったのだ。それで巨大化してしまったのだ。
「ま、大丈夫よ。そのうち元に戻るから」
「そのうちっていつですかー?」
「そのうちはそのうちよ。じゃあね。私、もう疲れたわ……」
アリスは思わず頭を抑えながら家の中に帰ろうとする。
「あ、待って! 見捨てないで……って、あっ!?」
彼女を追いかけようとしたキノコ(成美)だったがつまづいてしまう。そしてバランス崩してそのまま……
「え!? ちょっと!? こっちに来ないでよ!? ウソでしょ!? いやあああああああ!!?」
アリスの抗議むなしく、家はアリスごと成美の下敷きとなり、あっけなく潰れてしまった。
ちなみに倒れた衝撃で、成美は元の大きさに戻れた。
すばらしい勢いでした
勢いも相まってとても良かったと思います!