Coolier - 新生・東方創想話

私だけの〈1.5〉

2024/01/25 16:57:07
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「はぁ…そんなことがあったんですか。」

後日、人里の稗田亭。
血相を変えて飛び込んできた霊夢に対応した少女、稗田阿求はどこか気の抜けた返事を寄越した。
そんな彼女に霊夢が苛立ちを募らせたのは仕方のないことだが、曲がりなりにも阿礼乙女である阿求に手が出せないのもまた事実であった。
その彼女はいきなり体を乗り出し、文机を挟んで座っている霊夢に鼻のくっつきそうな距離まで接近した。

「ところで霊夢さん。この後お時間はありますか?」
「なんか唐突ね…。別に何もないからいいけど。あ、いや、紫にだけはバレたくないわね。まず話を聞こうかしら?」

阿求は良かった、と胸を撫で下ろす動作をする。

「じゃあ、ちょっと私のわがままに付き合ってください。」
「さらによく分かんなくなったけど…まああんたの頼みなら。で、わがままって?」

阿求は深呼吸を一つし、緊張しているのを誤魔化す。

「実は私──霊夢さんのことが、好きなんです。でも、小鈴やマミゾウさんにはバレたくなくて…。だから、嫌々やってるふうに見せて、でも、そばにいて欲しいんです。ごめんなさい、八雲様のこともあるのにこんなこと言って…。それでも、お願いします…!」

霊夢はふう、と息を吐いて頬杖をつく。
その顔には、いたずらっ子のような笑顔が浮かんでいた。

「いいじゃない。小鈴ちゃんにはちょっと悪いけど、マミゾウは紫並みに胡散臭いからね。少しくらい痛い目みてもいいと思うわ。それに…私も、悪い気はしないし。よろしくね、阿求。」
「あ、ありがとうございます…!霊夢さん!」
「もう、阿求ったら。敬語なんて使わないの。私は特別よ。」
「…うん。ありがとう、霊夢。」
「よくできました。なーんてね。慧音の真似は苦手だわ。」
「ふふ。やっぱり霊夢は…かわいいね。」

そっと、耳元に口を寄せて囁く。
ぴくっと体を震わせた霊夢は顔を真っ赤にして、ありがとう、と呟く。

「阿求だって、可愛いわよ。」
「あ、ありがとう…。」
「あれ、照れてる?全く、可愛すぎて困るじゃない。」

二人は、互いに頬を赤くして笑い合った。







油の表面に現れる不気味な模様によく似た濃い紫色の空間に、ギョロギョロと血走った目玉が浮かぶスキマの中。
少しだけ外界と繋ぎ阿求と霊夢の様子を眺めていた妖怪、八雲紫が急に悶え出す。

「ああぁぁ〜‼︎くそ…稗田阿求め!私の霊夢をいとも容易くオトすなんてぇっ…!あぁ、妬ましい妬ましい…。」

幻想郷の賢者としての威厳もくそもない、見る影すらもなくたった一人の人間──もとい妖怪に一喜一憂する自らの主に耐えられず、背後に控えていた妖狐、八雲藍が声をかける。

「…紫様。それでは忌々しい地底の橋姫と同じです。それに、たかだかお気に入りの妖怪の一人や二人に一喜一憂されるなど、幻想郷の賢者としての威光が疑われますよ。」
「五月蝿いわね、藍っ!これは幻想郷の未来を左右する重大なことなのよ!霊夢はただのお気に入りの妖怪じゃなくて博麗の巫女なんだからっ!」
「そう、ですか。私には紫様の真意は計りかねますが…。あまり入れ込みすぎますと、彼女にとってよくないことが起こるかもしれませんよ。流石に、自分の後継に、なんてことはないでしょうが…。あの、ちょっと…紫様?」

藍は半ば懇願するように呟くが、紫はそっと目を背ける。
もちろん、彼女だって最初からこうだったわけではない。
ここからは、八雲紫の、昔の話をしよう(本人談)。







「ん…ふわぁ…。」

朝。ひろひろと揺れるカーテンに遮られた優しい陽の光で脳を刺激され、目覚める。
一度知識として理解していたって、神秘的なことは神秘的なのだ。
もそもそと布団から起き上がり、朝食の準備のために部屋を出て階段を降りる。
八雲家のキッチンはシンプルで、一通りの食器と調理器具、一般的な調味料が置いてあるだけだった。

「どうしようかな…。」

何か閃いた様子の紫はぶら下げてあるフライパンに手を伸ばすが、身長が足りず届かない。
というのも、この時の彼女の身長は現在で言う小学二年生ほどしかなかったのだ。

「ふんっ。このっ。…届かないよ〜。」

紫がフライパンと格闘している真っ最中に、トントントン、と誰かが階段を降りてくる音がした。
綺麗な黒髪に、真紅の眼をした女性。真っ白な寝巻も相まって儚げな雰囲気を漂わせていた。

「あ、紫。またそんなことして。怪我はしてないでしょうね。」
「うっ。ご、ごめんなさ〜い…。」

バツが悪そうに顔を背けながら、紫は袖を引っ張って腕にできた擦り傷を隠す。
女性──八雲蝶霊はそれに気づいたが言及せず、紫の頭を撫でてリビングへと歩いていった。
蝶霊の気配が遠ざかると、紫はへたり込むように床に座る。

「…こわ。」

紫は妖怪だが孤児だった。
いつの間にか両親はいなくなっていて、そんな彼女を拾ったのが蝶霊である。
彼女は一番近い村からも3、4日はかかる山の中に住んでいた。
本人曰くかつては妖怪退治を生業としていて、これまでに殺した妖怪の数は万を超えているらしい。
しかし妖怪と関わりすぎて自らも人ではなくなり、神霊の多いこの場所へと移ったのだという。
元は眼も黒かったらしいが、ある時から紅くなってしまったらしい。
正直にいうと紫は蝶霊が怖かった。
妖怪退治をしているからではない。
今はもうやっていないし、自分を殺そうとしたこともないから。
なら、一体彼女の何が怖いのか。
それは、至極簡単なことだった。少なくとも、認識して、理解するだけなら。
蝶霊は時々、ゾッとするほど綺麗な顔で私に向かって私じゃない人の名前を呟く。その時の彼女は、妖怪である私にも“勝てない”という根本的な恐怖を感じさせるくらい、人間離れ、と言ったらおかしいが、それほどまでに、そうとしか言い表せないくらいに、“神懸かっていた”。
ふとした時にその身体の向こうが透けて見えそうな、そんな力だった。
そんなことを考えていると、ふいに前に気配を感じた。

「……っ。」

嫌な予感が的中した。
こちらを向く蝶霊の瞳は“私”を見ていなかった。
静かな泉を想起させる輝きを湛えた真紅に、背筋が凍るような霊力が感じられた。
彼女はおもむろに私の頬に手を伸ばし、そっと触れる。

「……□□□?ねぇ、□□□でしょう?」
「あぁ、ぁ、あぁぁ…。蝶、霊?っ私は、ゆ、紫だよ?それ、誰なの?やめてよ…。私は私なのに…。」

必死に言っても、蝶霊の眼は“私”を捉えない。

「どうして?どうして私に殺させたの?あなたを殺したから私は人間でいられなくなった。教えて、□□□…。ねぇ、“魔沙音”…。私だけ、こんな目に合わせないで…。」
「いやっ…!」
「──紫?」

自分の名前を呼ばれ、パッと顔をあげる。
見上げた蝶霊には先ほどまでの恐ろしい霊力は見当たらず、人当たりの良い柔らかな笑みが浮かんでいた。

「どうしたの?」
「う、ううん。なんでもない。虫が飛んでたから、ちょっとびっくりしただけ。」
「…そう。」

しどろもどろに答えると、特に何も聞かずに彼女は去っていく。
今は、その小さな気遣いが恐ろしかった。

──だから紫は、妖怪たちや忘れられてしまったものたちだけの楽園を作ろうと思った。自分が忘れられないために。
その具現、彼女の夢の結晶が、『幻想郷』。
最も忘れられた、八雲紫の描いた幻想。
それを守るのが、彼女の生きる意味だった。







「いや、涙ながらにそんな話をしてもダメですよ。紫様が悪いのはわかりきったことじゃないですか。」

再び、スキマの中。
紫の過去を聞いた藍はキッパリと宣言する。

「えぇ!?ひどいわ藍ひどいわ。私は悪くないのよぅ〜。」
「……。」

懇願する主を冷やかな眼で見る藍は話題を変える。

「ところで、その蝶霊という方は今はどうしているんですか?」
「蝶霊は…死んだわ。いいえ、正確には私が死なせた。」
「えぇと、それは…その、申し訳ありません…。」
「いいのよ。彼女は幻想郷を作り上げるための尊い犠牲だった。あまりもう気にしていないわ。」
「そう、ですか…。」

紫は本当に気にしていない様子だが藍の方は気が気ではなかった。
歴代の博麗の巫女の死因、それは彼女の能力暴走。
毎回吹き飛ばされて気を失っている間に全てが終わっているため、藍が事の全貌を知るに至ったことはないが、巫女とともに戦った妖怪からは何度か伝え聞いたことがある。
しかしいまだにそのトリガーはわかっていない。
だから彼女としては紫を刺激するのは極力避けたいことの一つだった。

「──あぁ、そうだったわ。」
「ッ!?」

紫の声のトーンが変わる。
人に畏怖を抱かせる絶対的な声音に変わり、藍は本能で飛びずさる。
空気が、揺れていた。
世界が、壊れていった。
全てが、終焉に向かっていった。

「紫様…?」
「ワタシは□□□だったわ!あーっはっはっはっはっは!」
「っ紫様!気を確かに!」

ゆるりと、“誰か”の視線が藍に向かう。
じろりと、睨めつけるように、絡みつくように、絶対的な“存在”がそこにはあった。

「ゆかり…?誰かしらそれは。ワタシはそんな奴じゃないわ。もっと超越的で、絶対的で、神秘的で、神がかったモノなのよ。或いは、何者でもない、何者にもなれないモノ。全ての境界。」
「っ…。」

背中を、嫌な汗が伝った。
──来る。
歴史に名を残す大妖の一つ、九尾の狐たる藍の勘が告げていた。
またあの悲劇が、繰り返されてしまうと。

「また博麗の巫女が、“境界へ堕ちる”…!もう、やめてくれ…!」
「ーーなんのつもりだか知らないけど、目障りだわ。消えなさい。」

不可視の妖力が藍の身体を数メートル余り吹き飛ばす。
彼女はしばらく痙攣し脱力した。
そちらに背を向け、□□□はその場から立ち去った。







紫が抜けたスキマの先は守矢神社の裏手、その時ちょうど神奈子、諏訪子、早苗の3人が弾幕ごっこをしていたところだった。
突如現れた彼女に対応する暇もなく、スキマによって二神の体が引き裂かれる。
何の前触れもなく。
圧倒的な力で。
抵抗することすら叶わず。
一方的に、何もかもを奪われた。

「……え…。え…?か、神奈子様…諏訪子様…。ど、どうし、て…かっ…身体、が…。なんで……?」

二人の亡骸の前に跪き呆然とする早苗に紫が歩み寄る。
今までには無かった、明確な殺意。
対抗手段のないそれに彼女は戦慄を覚えた。

「東風谷早苗。」
「ッ!八雲…紫…!」
「みんなそう言うのね。私は□□□。貴方達の言葉では確か…『魔沙音』…とかだったかしら?」
「…なんの、つもりなんですか。」
「あら、貴方はヒトの子でしょう?だから私が守らなくては。」
「守る…?」

早苗の瞳に、仄暗い憎悪の光が宿った。
そこに普段の明るく朗らかな少女の面影はない。

「ふざけないで。神奈子様と諏訪子様を殺しておいて、私を守る…?頭がおかしいんですか。とち狂ってるんですか。どうして私の肉親を殺して守るだなんて宣えるんですか。あなたは…どうして…私を……私の家族を…どうして殺したの…。」

“魔沙音”は諦めを多分に含んだため息をつく。
わざとらしい所作だけがかろうじて妖怪の賢者だった時の彼女の姿を残していると言える唯一のものだった。

「あぁ…もう貴方はダメだわ。その神様たちに可哀想なほど狂わされている。…こっちにいらっしゃい、私がちゃんと人間として育ててあげる。悲しませたりなんかしないと誓うわ。だから、その穢れに塗れた俗神を跡形もなくなるように消し去ってちょうだい。それが条件よ。」

彼女は死体にまとわりつく蝿と蛆を嫌がるように、半歩後ずさる。
それによって開いた距離を取り戻すように早苗は数歩つんのめるほどに踏み出す。
これ以上ないほど大きく見開かれた双眸に困惑と動揺の色が滲み出し、甘美なまでの憂鬱が我が物顔で領地を広げていた。

「……は…?なん…。消し…て…?ば、バカなんですか?この方達は、私をここまで育ててくれた、家族なんですよ。その二人を、この手で、消せと?私に何の恨みがあるんですか。私はあなたを知らないのに、何でこんな目に遭わされなきゃいけないんですか。なんで…なんで、あなたはそんなこと言えるんですか…!」

早苗が膝から崩れ落ち、顔を伏せる。
“魔沙音”は穏やかに子供を諭すような声色で早苗を追い詰める。

「おかしいのは貴方の方よ。私が教えてあげるわ。」
「──うるさい!」

秘術『グレイソーマタージ』
開海『海が割れる日』
奇跡『客星の明るすぎる夜』

弾かれたように飛び上がった現人神はやたらめったらに弾を撃ち、どれか一つでも目の前の化物に当ててやろうと狙いもロクに定まっていない弾幕を“魔沙音”は舞うように躱していく。

「ダメよ、そんなことしちゃ。危ないでしょう?」
「っ…!どうして…殺してしまうんですか……。なんで……私はおかしくなんかないんですよ…?おかしいのは…妖怪のくせに神様を殺して私を救うなんて言っている…あなたの方です…!」
「……残念。分かってもらえないのね。じゃ、無理やり助けるわ。」

早苗は構えた。
しかしそれは意味をなさなかった。
神速であり不可視の弾が、直接彼女の意識を殴りつけたからだ。

「──奇跡っ…。」
「……教えてあげればよかったかな。私のこと。」

何かを言いかけて意識を手放した少女を前に、“魔沙音”はぼやいた。
そこには“戦い”などというものは存在せず、一方的で完全な神の御技、“蹂躙”、もしくは“暴虐”のみが赦されていた。
敗者は勝者にひれ伏し平伏する。
それを当たり前のものとした惨劇であった。
あよです。ご無沙汰してると思ってるのは私だけかな。そんなことはないと信じていいですか。

ここのスペース近況報告とお知らせに使おうと思ったけど何書こうかな〜どうしようかな〜。
↑ちょっと不真面目だなぁ。

えーつい数日前ですね、人生初のインフルエンザで死にかけました。B型なのに。
もうずっと39度のまんまなの!辛いの!
あ、今はもう大丈夫です喉以外は。喉は良くないかなぁ…。
あと百合話書きたいと思ってるけど上手くできない…。レイマリとかレイアリとかアリマリとかパチュマリとかもうその他いっぱい書きたいのに!!修行だぁ…修行だぁ…。

近況はこのくらい、お知らせは特にないかな。
それでは、次回お楽しみに〜。
あ、コメントください〜。ついでに点数も〜(強欲)。
読んでくれてありがとうございました!
あよ
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コメント



0.簡易評価なし
1.100ゆっくりA削除
あよ様、ご無沙汰しております。ゆっくりAです。
感想は…何と言えば良いのでしょうか?…グロ表現がやはり一気に来ていて、最初の方で告知はしているものの、…かもしれないと描かれているので、『グロ注意』と書き直した方が良いと思いましたね
今現在「この世は残酷だ」を製作中ですので、今後とも宜しくお願いします。
2.無評価ゆっくりA削除
幻想神社の公式ホームページが出来上がりました‼
Googleサイト内の検索エンジンで、「幻想神社」と検索して下さい‼
3.無評価あよ削除
ゆっくりA様ありがとうございますご無沙汰です〜。
早急に修正します!すみません!
ホームページ見てきます。
4.無評価ゆっくりA削除
え〜、大変申し上げにくいのですが…「この世は残酷だ」のデータが消し飛びました(泣)
制作していたら、フリーズしてしまい、電源が落ちて、飛びました(泣)
ちなみに、ホームページはどうでしたか?変更点があり、今更新しますので、更新した物を開いて見て、感想をお聞かせ下さると、とても光栄です。
by,ゆっくりA
5.100⑨なす削除
えっと、素晴らしいです!
グロは別に構わないです。だって、2次創作だもの。
あと、他人の作品のコメントに何か返信するのはダメなんですが、
ゆっくりAさん、ブログは自分の作品でアレするようにしてください。
コメントは一つにまとめましょう。ブログのURL貼ってください。
最後に、これからも頑張ってください!
腹出して寝たら、アイシクルフォールしますから。
6.無評価あよ削除
⑨なす様ありがとうございます!!
そうですよね、そうですよね!…まぁそうは言いましても…気にする人はきっと凄く気にすると思うので、どうしようかなというところです。
正直に言っちゃうと作者様や作品によっても違うのでね、なんとも言えないんですが、そこがこういうサイトの特徴ということにしておきましょう。
なんだかただのコメ返信なのに長くなっちゃった。
あ、ごめんなさい遅くなりましたけど読んでくれてありがとうございます!