「無い!」
「うるさいなぁ、どうしたのよ蛮奇。」
朝。いつも通り草の根妖怪組で集まって話そうとしたら、蛮奇が何やら騒いでいるのだ。
「落ち着いて蛮奇ちゃん。どーしたの?」
姫が慌ててる様子の蛮奇を宥めながら何があったかを問いただす。
蛮奇は一度大人しくなったか思うと大声で説明してくれた。
「私の!頭が!無いの!」
「「......えぇぇぇ!?」」
❇︎
「6つ、7つ、8つ......ホントだ1つ無い。」
「てか蛮奇の頭って無くなったりするんだ。」
私が冗談めかして言うと、
「いや、今まで1度も無いから。だから慌ててるんでしょうが。このままじゃ『ナインズヘッド』を『エイツヘッド』に変えないといけなくなっちゃう...」
心配してるのそこかよ。よりによってスペカの名前。そんなんどーでも良いわ。
「そんなことより頭の行き先分からないの?」
「うーん、私の頭は離れすぎると位置が分からなくなるんだよなぁ...」
「ほら、蛮奇ちゃん昨日どっか寄ったりした?」
お、姫ナイス助言。置き忘れの可能性もある。コイツ、クールな感じ装ってるけど意外におっちょこちょいだし。
「えー、昨日は里の甘味処と八百屋、後書店にも寄ったかな。あ、夜は居酒屋で呑んだわ。」
それだ。絶対それだ。どーせ酒飲んで忘れてったんだろ。
「はぁ...まぁ居酒屋説は濃厚だから先に居酒屋から行こう。」
「でも影狼ちゃん、こんな早朝に居酒屋が開店してる訳無いわよ?」
ありゃ、確かに。
「まぁ......他の所に手がかりがあるかもしれないからね。他の所から寄りましょっか。」
「...2人ともありがと。」
蛮奇が珍しく素直に感謝してくれた。ふふ、そんな事言われたら意地悪したくなっちゃうじゃない。
「じゃあ蛮奇には甘味の奢りって事で。」
「げっ。」
❇︎
初めに向かったのは八百屋。姫には悪いけど、人魚を隠す事も連れ出す事も出来ないのでお留守番してもらう事にした。
ちなみに私は帽子で上手いこと耳を隠してる。
「蛮奇って野菜も食べるのね。偉いわー」
「肉しか食べれない獣妖怪に言われてもな...」
「失礼な!食べようと思ったら食べれますぅー。」
「じゃあただの好き嫌いか。お子様だな。」
な、なんだとーっ、このろくろ首め......
そんな他愛も無い話をしていたら八百屋に辿り着いた。
「おう、蛮奇ちゃんじゃねぇか!お友達が一緒とは珍しいな!今日は何買ってくんだ?」
八百屋のおっちゃんが話しかけてくれた。元気があって良い接客をしてくれると評判の店主だ。
「あー、いや、実は今日は買い物じゃ無くてね......」
赤蛮奇は正邪の異変の際に正体が割れてるので、一部の人は彼女が妖怪だという事を知っている。勿論八百屋のおっちゃんも例外では無い。
それでも赤蛮奇が人里に頻繁に来ても問題無いのかは赤蛮奇自身に大きな実害と敵意が無いと見られたからである。
「ほう、すると『あっち』方面の話かね?」
おっちゃんが意地悪くニヤニヤと笑いかけて来る。
「いや、まぁそうなんだけどさ......実は頭を1つ失くしてしまったのよ...」
「え?蛮奇ちゃんの頭って失くしたりするのかい?」
「いや初めてよ......」
ふ〜む。 腕を組みながら店主が考えてくれている。うん、この人は良い人だな。
「あっ。」
急に思い出したかのように店主が顔色を明るくする。
「どうしたのおっちゃん?何か思い当たる節があったの?」
「そーいや、近くの同業者が昨日言ってたんだが、『書店の周囲で赤い生首が浮いてるのを見た』って言ってたぜ。もしかして蛮奇ちゃんのじゃないか?」
まさかの書店。居酒屋から随分離れているが、居酒屋説は無くなったのかな?
「......そう、分かった。ありがと、おっちゃん。」
「おう、速く見つけてやれよ!あまり放置すると怖い巫女様が殴り込みに来ちまうよ?」
「うわ、それ絶対ヤダわ...」
キツイ冗談はよしてくれ。なんて言いたそうにしながら蛮奇は八百屋を後にした。
❇︎
「とりあえず次は書店行く?」
「うん。でも、もしかしたら失くした首も勝手に動いてるのかもしれない。もしそうならマズイね。」
「どこにあるか分からないから?」
蛮奇は うん。と言って頷いたが、
「それよりも、離れすぎて私が制御出来ないなら、勝手に人里で暴れて問題を起こすかもしれない。その際裁かれるのは当然私だ。」
なるほど確かに。首を裁いてもしょうがない。じゃあ対象は本体に移る。
しかし書店か......
「ねぇ蛮奇。書店って、"どこの"書店だと思う?」
「え?そりゃあ......」
と言いかけてから、蛮奇も しまった と言う顔をした。
「八百屋はあそこ1つだけど、書店は2,3箇所あったはずよ?」
「え、と、ま、まぁ、書店なんてどーせ鈴奈庵でしょ......」
怪しいわねぇ。
はあっ。と、ため息を吐きながらも蛮奇に合わせる事にした。
❇︎
幸いにして、予想は当たってた。
「え?赤蛮奇さんの頭?うーん、そういや、水色の髪の毛のオッドアイの唐傘妖怪が、傘の上で頭転がしてるの見ましたよ。」
「は?」
赤蛮奇が絶句している。随分酷い状況だわ。と言うか、そんな事して追い出されないのかしら。
「それ絶対小傘だろ。アイツ何してんだよ......」
「あら、蛮奇知り合い?」
「あぁ、自称寺の唐傘妖怪だ。居候に近かった気がするけどな。」
なんじゃそりゃ、迷惑な話だ。
「仕方ない、寺に向かうか......」
少し落胆したようで、暗い表情で店から出ていく。
一切買う素振りを見せなかった私達に対しても、鈴奈庵の店主の少女は、「ご来店ありがとうございました〜!」と、元気な声で見送ってくれた。
❇︎
そーゆー訳で命蓮寺にやって来た。いつも墓石の近くにいるから__と、裏手の墓地に回った。
予想通り、小傘は墓石の上に乗っていた(!?)。 なんてバチ当たりな......
「いた!小傘ゴラァァァ!!」
蛮奇が小傘を見つけた瞬間、強烈なキャラ崩壊を気にする事も無く、鬼神の如き形相で小傘に詰め寄った。
「わぁっ!?な、なんだよ蛮奇ちゃん?」
「てめ、私の首返しやがって下さい!」
一応相手に主導権がある事を思い出したようで、丁寧な口調と荒っぽい口調がごっちゃになった意味分からん言葉で小傘に詰め寄った。
「え?蛮奇ちゃんの首がどうかしたの?」
「え?あなたが蛮奇の首持ってたって聞いたわよ?」
まさかこの傘、とぼける気なのか?蛮奇以外の飛頭蛮がそうそういるとは思えないし、この子は人を殺した事すら無さそうだ。別の人の生首って訳では無いだろう。
「あっ!そうだ!私昨日、喋るボールに出会ったんだよ!あれって蛮奇ちゃんの頭だったの?なんかいつもと違う感じがしたけど...」
「喋るボールぅ...?そんなのどうせ私の事だろうが。」
まぁ、蛮奇の事なんだろうな。暗がりでよく見えなかったとしても、顔をボールと見間違える小傘の感性は凄いものだ。ところで、〈いつも〉って言った?コイツ日常的に蛮奇の頭を傘の上で転がしてるの?
「で?そのボールどこにやったの?」
私が小傘に聞いてみると、
「えっと、家に帰らなくちゃ〜って言って行っちゃったよ?」
「はぁ?もー面倒くさいなぁ。」
どうやら入れ違いになったらしい。探しに行かなくて良かったな......
❇︎
「姫ー!私の頭見なかったー?戻ってきたらしいんだけど!」
「あら、2人ともお帰りなさい。頭なら、私が人里に行っちゃったよって言ったら行ったっきりだけど。」
「姫ー‼︎!なんてことをー!!」
その言葉を聞いた途端蛮奇が、最早悲鳴にも聞こえるような甲高い声で姫を非難した。
「仕方ないよ蛮奇。また人里を歩こ。」
蛮奇は「うっうっ.......」とか言って嘆きながらも、しっかり付いて来た。
❇︎
「さて隊長、次の作戦は?」
「誰が隊長だよ。誰が。もう追いかけるのはやめだ。人里の入り口で待ち伏せする。」
「あら随分消極的。それで良いのかしら。」
「良いんだよ。私の首も思考回路は私自身と大して変わらん。今頃適当にほっつき歩いてて、いずれ帰ってくるさ。」
そうやって人里の門前でどっかりと座り込む。
待つ事一時間...
「ねぇ蛮奇、やめにしない?流石に退屈よー」
「無理だ。頭は何としても回収しないと...」
「そこに私は必要無くない?」
「いや、退屈だからさ...」
「おいコラ。」
待つ事二時間...
「蛮奇、やっぱりこれ意味無いわよ。そもそも人里の門だって1つじゃ無いじゃない。」
「これが1番早く見つかって確実な方法なんだから仕方ないだろ。大丈夫、見つかるから。」
待つ事三時間...
待つ事四時間...
待つ事五時間...
「蛮奇ちゃん??もう夜なんですケド??」
「うっ......」
かれこれ5時間も、成果が無いまま待ち。マジで私の時間返せ。
「もういいや、私帰るわよ?」
「うー......仕方ないな、また明日にするよ...」
蛮奇も仕方なく、今日の捜索を終わりにする事にしたらしい。それで良いよ。5時間も暇するのは苦行よ?
「あーあ、これが終わったら酒奢って貰わないとねぇ?」
「ちょっと待ってくれよ私今月金欠なんだって......」
❇︎
仕方なく、私は自分の家に戻っている。私の家は影狼の道中にあるから別れる事は無い。
しかし、私の家の間近で、真なる事件は起こったのだ。
「やっと帰って来た〜!」
物凄い速度と声量で、丸い物体が前からぶつかって来たのだ。
「おふっ......」
それは、キレイに私の鳩尾にクリーンヒットした。クッソ痛い。
「な、何すんだよ...」
「それはこっちのセリフだよ!一体いつまで待たせてんのさ!」
蛮奇が抗議しようしたら、球体に遮られて文句を浴びさせられた。
「あれ...?もしかして、無くなってた蛮奇の顔?」
その球体は、よく見ると赤い髪に紺色の大きなリボンをしていた。近くで見れば蛮奇の頭だとよく分かる。
「そーだよ!本体とはぐれたら家の前で待っとけって言われてたからずっと待ってたのに!一日中やってこなかったじゃないか!」
これにはびっくり。なんと一日中家の前で待っていたと言う。
「ま、まさか...でも家中探したのにいなかったよ...?」
「屋根上探した?疲れてたから屋根上で寝てたんだけど。」
「さ、探したよ」「嘘ね。」
影狼が即座に否定する。ゆ、許してくれよぉ。草の根のよしみだろ。
「......蛮奇、私と自分の頭に言う事があるんじゃない?」
影狼が鬼のような形相で私に迫る。目が笑ってない。
普段はプライドが高くて意地っ張りな私も、これだけはプライドよりも命を大事にした。
「......すいませんでしたぁぁ!」
夜の竹林に、私の大きな謝罪が響き渡った。
「うるさいなぁ、どうしたのよ蛮奇。」
朝。いつも通り草の根妖怪組で集まって話そうとしたら、蛮奇が何やら騒いでいるのだ。
「落ち着いて蛮奇ちゃん。どーしたの?」
姫が慌ててる様子の蛮奇を宥めながら何があったかを問いただす。
蛮奇は一度大人しくなったか思うと大声で説明してくれた。
「私の!頭が!無いの!」
「「......えぇぇぇ!?」」
❇︎
「6つ、7つ、8つ......ホントだ1つ無い。」
「てか蛮奇の頭って無くなったりするんだ。」
私が冗談めかして言うと、
「いや、今まで1度も無いから。だから慌ててるんでしょうが。このままじゃ『ナインズヘッド』を『エイツヘッド』に変えないといけなくなっちゃう...」
心配してるのそこかよ。よりによってスペカの名前。そんなんどーでも良いわ。
「そんなことより頭の行き先分からないの?」
「うーん、私の頭は離れすぎると位置が分からなくなるんだよなぁ...」
「ほら、蛮奇ちゃん昨日どっか寄ったりした?」
お、姫ナイス助言。置き忘れの可能性もある。コイツ、クールな感じ装ってるけど意外におっちょこちょいだし。
「えー、昨日は里の甘味処と八百屋、後書店にも寄ったかな。あ、夜は居酒屋で呑んだわ。」
それだ。絶対それだ。どーせ酒飲んで忘れてったんだろ。
「はぁ...まぁ居酒屋説は濃厚だから先に居酒屋から行こう。」
「でも影狼ちゃん、こんな早朝に居酒屋が開店してる訳無いわよ?」
ありゃ、確かに。
「まぁ......他の所に手がかりがあるかもしれないからね。他の所から寄りましょっか。」
「...2人ともありがと。」
蛮奇が珍しく素直に感謝してくれた。ふふ、そんな事言われたら意地悪したくなっちゃうじゃない。
「じゃあ蛮奇には甘味の奢りって事で。」
「げっ。」
❇︎
初めに向かったのは八百屋。姫には悪いけど、人魚を隠す事も連れ出す事も出来ないのでお留守番してもらう事にした。
ちなみに私は帽子で上手いこと耳を隠してる。
「蛮奇って野菜も食べるのね。偉いわー」
「肉しか食べれない獣妖怪に言われてもな...」
「失礼な!食べようと思ったら食べれますぅー。」
「じゃあただの好き嫌いか。お子様だな。」
な、なんだとーっ、このろくろ首め......
そんな他愛も無い話をしていたら八百屋に辿り着いた。
「おう、蛮奇ちゃんじゃねぇか!お友達が一緒とは珍しいな!今日は何買ってくんだ?」
八百屋のおっちゃんが話しかけてくれた。元気があって良い接客をしてくれると評判の店主だ。
「あー、いや、実は今日は買い物じゃ無くてね......」
赤蛮奇は正邪の異変の際に正体が割れてるので、一部の人は彼女が妖怪だという事を知っている。勿論八百屋のおっちゃんも例外では無い。
それでも赤蛮奇が人里に頻繁に来ても問題無いのかは赤蛮奇自身に大きな実害と敵意が無いと見られたからである。
「ほう、すると『あっち』方面の話かね?」
おっちゃんが意地悪くニヤニヤと笑いかけて来る。
「いや、まぁそうなんだけどさ......実は頭を1つ失くしてしまったのよ...」
「え?蛮奇ちゃんの頭って失くしたりするのかい?」
「いや初めてよ......」
ふ〜む。 腕を組みながら店主が考えてくれている。うん、この人は良い人だな。
「あっ。」
急に思い出したかのように店主が顔色を明るくする。
「どうしたのおっちゃん?何か思い当たる節があったの?」
「そーいや、近くの同業者が昨日言ってたんだが、『書店の周囲で赤い生首が浮いてるのを見た』って言ってたぜ。もしかして蛮奇ちゃんのじゃないか?」
まさかの書店。居酒屋から随分離れているが、居酒屋説は無くなったのかな?
「......そう、分かった。ありがと、おっちゃん。」
「おう、速く見つけてやれよ!あまり放置すると怖い巫女様が殴り込みに来ちまうよ?」
「うわ、それ絶対ヤダわ...」
キツイ冗談はよしてくれ。なんて言いたそうにしながら蛮奇は八百屋を後にした。
❇︎
「とりあえず次は書店行く?」
「うん。でも、もしかしたら失くした首も勝手に動いてるのかもしれない。もしそうならマズイね。」
「どこにあるか分からないから?」
蛮奇は うん。と言って頷いたが、
「それよりも、離れすぎて私が制御出来ないなら、勝手に人里で暴れて問題を起こすかもしれない。その際裁かれるのは当然私だ。」
なるほど確かに。首を裁いてもしょうがない。じゃあ対象は本体に移る。
しかし書店か......
「ねぇ蛮奇。書店って、"どこの"書店だと思う?」
「え?そりゃあ......」
と言いかけてから、蛮奇も しまった と言う顔をした。
「八百屋はあそこ1つだけど、書店は2,3箇所あったはずよ?」
「え、と、ま、まぁ、書店なんてどーせ鈴奈庵でしょ......」
怪しいわねぇ。
はあっ。と、ため息を吐きながらも蛮奇に合わせる事にした。
❇︎
幸いにして、予想は当たってた。
「え?赤蛮奇さんの頭?うーん、そういや、水色の髪の毛のオッドアイの唐傘妖怪が、傘の上で頭転がしてるの見ましたよ。」
「は?」
赤蛮奇が絶句している。随分酷い状況だわ。と言うか、そんな事して追い出されないのかしら。
「それ絶対小傘だろ。アイツ何してんだよ......」
「あら、蛮奇知り合い?」
「あぁ、自称寺の唐傘妖怪だ。居候に近かった気がするけどな。」
なんじゃそりゃ、迷惑な話だ。
「仕方ない、寺に向かうか......」
少し落胆したようで、暗い表情で店から出ていく。
一切買う素振りを見せなかった私達に対しても、鈴奈庵の店主の少女は、「ご来店ありがとうございました〜!」と、元気な声で見送ってくれた。
❇︎
そーゆー訳で命蓮寺にやって来た。いつも墓石の近くにいるから__と、裏手の墓地に回った。
予想通り、小傘は墓石の上に乗っていた(!?)。 なんてバチ当たりな......
「いた!小傘ゴラァァァ!!」
蛮奇が小傘を見つけた瞬間、強烈なキャラ崩壊を気にする事も無く、鬼神の如き形相で小傘に詰め寄った。
「わぁっ!?な、なんだよ蛮奇ちゃん?」
「てめ、私の首返しやがって下さい!」
一応相手に主導権がある事を思い出したようで、丁寧な口調と荒っぽい口調がごっちゃになった意味分からん言葉で小傘に詰め寄った。
「え?蛮奇ちゃんの首がどうかしたの?」
「え?あなたが蛮奇の首持ってたって聞いたわよ?」
まさかこの傘、とぼける気なのか?蛮奇以外の飛頭蛮がそうそういるとは思えないし、この子は人を殺した事すら無さそうだ。別の人の生首って訳では無いだろう。
「あっ!そうだ!私昨日、喋るボールに出会ったんだよ!あれって蛮奇ちゃんの頭だったの?なんかいつもと違う感じがしたけど...」
「喋るボールぅ...?そんなのどうせ私の事だろうが。」
まぁ、蛮奇の事なんだろうな。暗がりでよく見えなかったとしても、顔をボールと見間違える小傘の感性は凄いものだ。ところで、〈いつも〉って言った?コイツ日常的に蛮奇の頭を傘の上で転がしてるの?
「で?そのボールどこにやったの?」
私が小傘に聞いてみると、
「えっと、家に帰らなくちゃ〜って言って行っちゃったよ?」
「はぁ?もー面倒くさいなぁ。」
どうやら入れ違いになったらしい。探しに行かなくて良かったな......
❇︎
「姫ー!私の頭見なかったー?戻ってきたらしいんだけど!」
「あら、2人ともお帰りなさい。頭なら、私が人里に行っちゃったよって言ったら行ったっきりだけど。」
「姫ー‼︎!なんてことをー!!」
その言葉を聞いた途端蛮奇が、最早悲鳴にも聞こえるような甲高い声で姫を非難した。
「仕方ないよ蛮奇。また人里を歩こ。」
蛮奇は「うっうっ.......」とか言って嘆きながらも、しっかり付いて来た。
❇︎
「さて隊長、次の作戦は?」
「誰が隊長だよ。誰が。もう追いかけるのはやめだ。人里の入り口で待ち伏せする。」
「あら随分消極的。それで良いのかしら。」
「良いんだよ。私の首も思考回路は私自身と大して変わらん。今頃適当にほっつき歩いてて、いずれ帰ってくるさ。」
そうやって人里の門前でどっかりと座り込む。
待つ事一時間...
「ねぇ蛮奇、やめにしない?流石に退屈よー」
「無理だ。頭は何としても回収しないと...」
「そこに私は必要無くない?」
「いや、退屈だからさ...」
「おいコラ。」
待つ事二時間...
「蛮奇、やっぱりこれ意味無いわよ。そもそも人里の門だって1つじゃ無いじゃない。」
「これが1番早く見つかって確実な方法なんだから仕方ないだろ。大丈夫、見つかるから。」
待つ事三時間...
待つ事四時間...
待つ事五時間...
「蛮奇ちゃん??もう夜なんですケド??」
「うっ......」
かれこれ5時間も、成果が無いまま待ち。マジで私の時間返せ。
「もういいや、私帰るわよ?」
「うー......仕方ないな、また明日にするよ...」
蛮奇も仕方なく、今日の捜索を終わりにする事にしたらしい。それで良いよ。5時間も暇するのは苦行よ?
「あーあ、これが終わったら酒奢って貰わないとねぇ?」
「ちょっと待ってくれよ私今月金欠なんだって......」
❇︎
仕方なく、私は自分の家に戻っている。私の家は影狼の道中にあるから別れる事は無い。
しかし、私の家の間近で、真なる事件は起こったのだ。
「やっと帰って来た〜!」
物凄い速度と声量で、丸い物体が前からぶつかって来たのだ。
「おふっ......」
それは、キレイに私の鳩尾にクリーンヒットした。クッソ痛い。
「な、何すんだよ...」
「それはこっちのセリフだよ!一体いつまで待たせてんのさ!」
蛮奇が抗議しようしたら、球体に遮られて文句を浴びさせられた。
「あれ...?もしかして、無くなってた蛮奇の顔?」
その球体は、よく見ると赤い髪に紺色の大きなリボンをしていた。近くで見れば蛮奇の頭だとよく分かる。
「そーだよ!本体とはぐれたら家の前で待っとけって言われてたからずっと待ってたのに!一日中やってこなかったじゃないか!」
これにはびっくり。なんと一日中家の前で待っていたと言う。
「ま、まさか...でも家中探したのにいなかったよ...?」
「屋根上探した?疲れてたから屋根上で寝てたんだけど。」
「さ、探したよ」「嘘ね。」
影狼が即座に否定する。ゆ、許してくれよぉ。草の根のよしみだろ。
「......蛮奇、私と自分の頭に言う事があるんじゃない?」
影狼が鬼のような形相で私に迫る。目が笑ってない。
普段はプライドが高くて意地っ張りな私も、これだけはプライドよりも命を大事にした。
「......すいませんでしたぁぁ!」
夜の竹林に、私の大きな謝罪が響き渡った。
細かいところですが赤蛮奇と蛮奇で表記ゆれありますが彼女は苗字なしの赤蛮奇が名前なので、地の文は赤蛮奇で統一した方が良いですね(会話文のはあだ名的に蛮奇呼びするという解釈もあり得るのでお好みで)
幸せの赤い頭は家にいたってことですね
かわいらしくてとてもよかったです
私の作品も読んでみて下さい
名前は幻想大決戦〜悲劇の始まり〜です
是非みてみてね〜
ちなみに、メアみょんさんと、名前が無い程度の能力さんも見てくれた