Coolier - 新生・東方創想話

秘封倶楽部は怪獣の夢を見るか?

2023/05/27 19:07:49
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ビルの立ち並ぶ街に、<それ>が出現したのは穏やかな日差しが降り注ぐ午後のことだった。
 大通りに停まっている車よりも巨大なブーツがアスファルトを踏み抜いて土埃を巻き上げ、轟音を周囲に
響き渡らせる。
「うわー本当に巨大化しちゃった♪ 楽しいわね」
 <それ>の正体は、宇佐見蓮子だった。いつもの服装のままで身長五十メートル近くまで巨大化して、右
手を顎の下に当てていた。
 周囲に立ち並ぶビルは蓮子の腰ぐらいまでの高さしかなく、その存在感は周囲を圧倒していた。
「こんな大きくなると派手に暴れたくなるのよね~。だったらこんな事をしたりして」
 加虐的な笑みを浮かべるのと同時に、巨大化した蓮子は左手を軽く動かしてビルの屋上にあった看板を薙
ぎ払った。紙のように吹き飛んだ看板は別のビルに命中してガラスを砕いたが、すかさずブーツに包まれた
足で蹴り上げる。
その一撃だけでビルの正面は崩壊し、大量の瓦礫が道路に落下する。
「やっぱり楽しいわね。めちゃくちゃにしちゃうんだから」
 無邪気に笑って言い切ると、蓮子はケープを揺らしながら両腕を別のビルに振り下ろして両断する。さら
に瓦礫が増えたのを見ると、再びスカートを翻して蹴り上げる。複数のビルが倒壊したが、それをブーツに
包まれた足で踏み潰してポーズを決める。
「巨大怪獣・蓮子に壊せないものなんかないんだから!」
 高らかに宣言すると、さらに大暴れを続ける。
 周囲に立ち並ぶ建物が全て破壊されて、後には瓦礫の山しか残らなかったが、それを踏み越えるようにし
て複数の戦車が出現した。
「ちょっと……。何なのよ、これ!」
 戸惑う巨大蓮子に構わず、戦車は一斉に砲撃を浴びせかけてくる。両腕によるガードも実らず、蓮子の巨
体が大きく揺らぐ。
「そんな……馬鹿な……」
 二度目の一斉砲撃の後。
 心の底からの悔しそうな声と共に、怪獣となった少女は膝から崩れ落ちた。帽子が地面に落下し、轟音を
響かせながら瓦礫の上に転がる。
 それが巨大怪獣・蓮子の最期だった。

「なんなの? これ」
 古風なエンドマークが消えるの同時に、マエリベリー・ハーンは呆れたような声を上げた。
 物理学部の学舎の片隅にある小さな部屋……秘封倶楽部の部室にいるのは二人の部員だけだった。
「よく出来てるでしょう? 巨大怪獣・蓮子さんの大暴れ映像♪ 撮影だけでも一日近くかかったんだから」
パソコンのモニターから目を離して、蓮子は顔を輝かせて言い切った。
「ウチの大学の特撮研究会って本当凄いのよね~。わざわざ街のセット作って、壊させてくれたんだから。
 お陰でとっても楽しかったわ」
「もしかして、この前いなかったのそのせい?」
「御名答! ずっと撮影してたのよ。大変だったけど、楽しかったわよ」
「はあ……。特撮研究会も災難だったわね」
「ちょっと、何言ってるのよ!」
 頬杖をついて溜息を漏らしたメリーに、蓮子は慌てて反論した。
「別に私が無理やりやらせたわけじゃないわ。特撮研究会の知り合いが声をかけてきたから付き合った
 だけなの」
「え? なんで?」
「なんでって……蓮子さんが巨大化して怪獣になって暴れる場面を撮りたかったんでしょう?」
真顔で言い切られて、メリーは思わずその場に突っ伏した。ずり落ちてきた帽子を上げながら反論する。
「普通じゃないでしょう……。こんな凝った映像わざわざ撮るなんて。何か意図があるんじゃないの?」
「そう? 今度の学園祭で上映するって言ってたけど?」
「うーん……。それもあるかもしれないけど、ちょっと弱いわね。決めた!」
 突然、メリーが立ち上がった。きょとんとする蓮子の腕を掴んで断言する。
「今日の活動はこの映像の謎を解くわよ! 絶対に裏があるはずだから!」
「えー別にいいじゃない……。研究会の人たちもとっても楽しそうだったんだから」
「駄目。天が許してもメリーさんが許さないんだから! 
ほら立って立って」
「メリーってそういうキャラだっけ?」
 渋々椅子から立ち上がりながら、蓮子はぼやいた。
「気になることがあったらとことん調べる! それが秘封倶楽部でしょう。さ、行くわよ」
「行くってどこへ?」
「決まってるじゃない♪」
 ふわりと金色の髪を揺らしながら。メリーは笑った。
 特撮研究会の部室よ、と。

 大学内の特撮愛好家たちが集うその部屋に足を踏み入れると、小さな工場や整備場のような匂いが鼻を
刺激した。
 色々な撮影機材、ビルやら家やら船の模型、紙の本が密集する本棚がそれ程広くない室内に詰め込まれ、
メリーは魔窟に足を踏み入れたような気分になる。
「この部屋も凄いわね。ウチの部室といい勝負じゃない」
 周囲を見回しながら、メリーは呆れたようにつぶやいた。
「一緒にしないでよ。ちゃんと整頓してるじゃない」
「九割九分、誰かさんの私物でしょう? 部室を物置にし
ないであれ程言ってるのに」
「別に今それを言わなくてもいいでしょう?」
「だって言わないと絶対に片付けないんだから」
「ん? 蓮子来たの?」
 部屋の奥から声が聞こえてきたかと思うと、ラフな私服姿の少女が歩み寄ってきた。メリーもいること
に気づくと小さく頭を下げる。
「この前は悪かったわね。勝手に蓮子借りたりして」
「五体満足で返してもらえれば問題ないわ♪」
「蓮子は丈夫だから平気。あんなに派手に戦車で攻撃されたに無事だっんだから」
「まさかあそこまで派手に演出するなんて思わなかったわよ。あれじゃ完全に怪獣じゃない」
「あれでいいのよ。派手にやりたかったから」
 言い切って少女は笑ったが、メリーはその言葉にわずかな含みを感じた。意を決して問いかける。
「ところで、なんであんな映像を撮ったの? 学園祭に合わせる為にしてはやけに派手だったじゃない」
一瞬だけ、少女は蓮子の方を見た。何かを躊躇うような表情を浮かべると、「会長に見てもらいたかった
というのもあるわ」と小さな声で答える。
「会長? って誰?」
「この研究会の会長のことよ。三度の飯より昔の特撮が大好きで、自分でも撮ってしまう人なの。でも、
 この前の撮影の時はいなかったわね」
蓮子の言葉に、特撮研究会の少女は小さく肩を震わせた。
観念したように答える。
「あの映像は学園祭用に合わせたものだけど、会長にも見てもらいたかったの。いつも我儘ばかり言って
 私たちを振り回す怪獣みたいな人なんだから」
「それで……倒してしまったのね」
「そういうこと。あれを見れば気づくはずだから」
「……ごめんなさい。そういう話があったなんて」
「いいのいいの。メリーさんに何も言わずに蓮子さんを借りたのはこっちだから」
 そう言って少女が笑ったので、メリーは申し訳無くなって小さく頭を下げた。
 隠されていた謎に対する答えは、あまりに意外なものだった。

「蓮子、知ってたでしょう?」
 部室に戻って窓際のテーブルに向かい合って座るのと同時に、メリーは棘のある口調で相方に問いかけた。
「へ? 何のこと?」
「あの映像、本当は研究会の会長に見せる為に作られたものだって。知ってたから引き受けたんでしょう?」
「頼まれたから仕方ないじゃない♪ どうしても私じゃないと駄目だって言われたの。有名人は辛いわね」
「もう……。知ってたら止めてよ」
「私は一応止めたわよ。でもメリーは別にいいじゃないって言ってたじゃない」
「だったわね。あーもう。私の独り相撲じゃない」
 そう言ってメリーはテーブルに突っ伏した。ふわりと豊かな金髪が広がる。
「別に気にすることないわ。研究会の人たちだって覚悟の上なんだから。そういえば、あの映像って会長は
 観たのかしらね……」
ぽつりと蓮子がつぶやいた時だった。
入口の扉がノックされた。
珍しいことなので秘封倶楽部のふたりは思わず顔を見わせたが、すぐに蓮子が「どうぞ」と声をかける。
入ってきたのはタンクトップにハーフパンツ、ジェットキャップという姿かよく目立つ少女だった。
「え? 中城さん? どうしてここに?」
「頼みがあって来たのよ。秘封倶楽部のふたりで私の作る作品に出てくれない?」
「……。そうきたのね。ま、私はいいけど、メリーはどうする? こんな機会、滅多にないけど?」
「待って待って。話が見えないんだけど」
 相方が勝手に話を進めそうな気がして、メリーは抗議の声を上げた。
「ごめん。メリーは初対面だったわね。この人は特撮研究会の会長の中城あとりさんよ。変な人だけどとっ
 ても面白い人なんだから♪」
「蓮子に言われたくないわ。まったく、私に黙って出演するなんて。私にも手伝わせて欲しかったのに」
 てっきりあとりが文句を言うと思っていたので、メリーは呆気に取られた。それを見たのか蓮子が我が意
を得たりと言わんばかりに続ける。
「ね、変わった人でしょう? 自分に対する抗議の映像作りを手伝うなんて言い出すんだから」
「それとこれは話が別。あんなに面白い企画に私を入れないなんてどうかしてるじゃない。で、どうするの?
 手伝ってくれるの?」
「もちろん私はいいわよ。メリーは?」
「私も手伝うわ」
「了解! だったらまた連絡するから! さーすぐに準備に取り掛かないと。今夜は徹夜ね~」
嬉々とした表情で言い切って、あとりは風のような勢いで去って行った。
「……。で、私たちは何をさせられるの?」
 しばらくの沈黙の後、メリーが恐る恐る口を開いた。
「決まってるじゃない♪」
 伝説の秘宝を目の前にした探索者のような笑みと共に、蓮子は断言した。
 私たちは巨大な怪獣になるのよ、と。

 広大なキャンバスの片隅にあるブロックの敷かれた無機質な広場。
 そこには小さな街ができていた。
 交差点を中心にしてビルが立ち並び、手前には鉄道の高架線があり、アスファルトの道路には車が何台も並
べられて賑わいを演出していた。
「これを一人で準備するんだから凄いわね~」
 心の底から感心したように蓮子がつぶやく。
「ねえ、本当に全部壊していいの? この前と同じぐらいの規模があるんだけど」
「平気平気。ここにあるのは私が個人で作ったものだから。こういう時の為に準備してたのよ」
 カメラのセッティングをしながら、あとりが答える。
「とにかく躊躇わずに全部壊して。演技指導も特にしないから。任せたわ」
「本当に大丈夫なの?」
「この前の映像見て分かったわ。蓮子たちは怪獣に向いてるって。だから大丈夫」
 不安そうな面持ちでメリーは蓮子の顔を見た。当の本人は片目を閉じて得意げに笑ってみせる。
「だったらいいけど……。それより、一人で撮影するの?」
「当たり前じゃない。この映像は私が一人で作らないと意味がないの」
顔を向けることなく、特撮を愛する少女は答えた。
「あんな映像見せられたら私もやるしかないじゃない。私にだって意地はあるんだから」
「本当に素直じゃないのね」
 町並みのセットの中に足を踏み入れながら、蓮子が言った。あとりが顔を上げると、ビルの屋上に手をかけな
がら言葉を続ける。
「心の何処かでは他のメンバーに申し訳ないって思ってるんでしょう? だったらそう言えばいいじゃない」
「う、うるさい! それが出来たら苦労しないわ」
「まあ、そうよね。だから私たちを巻き込んだんでしょう? 幾らでも手伝うけど、ちゃんとやることはやって
 ね。それが条件よ」
「……分かったわ。さ、メリーさんもセットの中にに入って。アングル確認したいから」
 セットの横でやり取りに耳を傾けていたメリーだったが、あとりの指示に小さく肩を震わせた。足場を選ぶよう
に三十分の一サイズの街へと足を踏み入れる。
「やっぱり二人並ぶと絵になるわね。蓮子さんたちを選びたくなるのも分かるわね」
「ありがと♪ で、ここからどうするの?」
「まずはその交差点に立ち並ぶ建物を全部壊して。それから二人で並んでカメラの方向に歩いてきて。足元なんか
 気にしなくてもいいから」
 周囲に目線を向けて、メリーは鼓動が高まるのを感じた。
 立ち並ぶビルや商店、道路上の車を全て壊していいと思うと、少しだけ楽しくなってくる。
「どう? 楽しそうでしょう?」
 相方の心の中を見抜いたかのように蓮子がつぶやく。
「本当はみんな、怪獣のように好きなように暴れたいのよ。
こんな機会滅多にないから派手にやるわよ」
「蓮子……。もちろん♪」
「覚悟を決めたメリーさんは凄いから期待してるわ」
 全てを見透かしたような笑みに、メリーは大きく頷いた。
 それからしばらくして。
 なとりの合図をきっかけに、撮影は始まった。

 ある日の午後。
 その街に身長約五十メートルに巨大化したふたりの少女たちが降り立った。
「さあ、思い切り暴れてめちゃくちゃにするわよ~」
 黒いケープを羽織った巨大少女……蓮子がスカートを思い切り翻して交差点に面したビルを蹴りの一撃で薙ぎ倒し、
瓦礫をショートブーツで思い切り踏み潰す。
 紫色のワンピース姿の巨大少女……メリーが腕を振り下ろして建物を両断し、道路上の車を片っ端から踏み潰す。
「楽しいわね。こうやって壊してしまうのって」
 屋上から引き抜いた看板を片手にメリーが笑う。
「怪獣は暴れるのが基本だから当然じゃない。こっちも壊すわよ~」
 そう言いながら蓮子は、足元の小さなビルを次々に破壊していく。街は少しずつ瓦礫だらけになっていたが、当の
本人は無邪気に笑っていた。
「だったら私も負けないから!」
 蓮子の大暴れに刺激されて、メリーもまた破壊活動を続けた。鉄道の高架線を見つけると、ローファーに包まれた
足で簡単に両断すると、さらに蹴飛ばして瓦礫を増やす。
「この程度は済まさないわよ♪」
 楽しそうに言い切ると、壊した部分に手をかけて持ち上げる。自分の破壊力を確かめるように眺め回していたが、
やがて足元に叩きつけて完全に破壊してしまった。
「メリーもえげつないわね」
 瓦礫の中央でポーズを決めて、蓮子がからかうように声をかけてくる。
「蓮子だって酷いじゃない。そのあたり全部壊したんでしょう? お互い様じゃない」
「まあね。なんたって私たちは怪獣なんだから」
「そうそう。人はみんな好き勝手にやりたいものなの。たまには怪獣になるのも悪くないわね」
「メリーも分かってきたじゃない♪」
 口では言いながらも、蓮子は残っていた住宅も簡単に踏み潰してしまった。メリーはビルを蹴り壊してさらに瓦礫
を増やす。
 こうして、大きな街は巨大化したふたりの少女によって完全に破壊されたのだった。

 画面上に最後のメッセージが表示されると、試写会の会場である室内に小さなどよめきが起こった。その余韻が消
え去るよりも早く、明かりが灯ってプロジェクターの横に立つなとりの姿を浮かび上がらせる。
「私の言いたいことはこれで全てよ。今言いたいのはそれ
だけ。文句があるなら個別に受け付けるわ」
感情のこもらない声で言い切ると、なとりはプロジェクターを片付け始めた。それを確かめたかのように、蓮子は席
を立つ。
「もう行くの?」
「後は研究会の人たちの問題でしょう?」
「……そうね」
 その場に漂う空気が予想以上に静かな事に安心しながら、メリーもまた席を立った。蓮子と並んで試写会の会場と
なった特撮研究会の部室を後にする。
「まさか最後の最後にメッセージを入れてるなんて思わなかったわね~。撮影の時は何も言わなかったのに」
廊下を歩きながら、蓮子は両手を頭の後ろに組んだ。
「しかもたった一言、画面いっぱいに<ごめん>なんだから。どれだけ不器用なのかしらね」
「でも気持ちは伝わってきたじゃない」
 笑いながらメリーは言い切った。蓮子の問いかけるような視線に気づくと、静かに言葉を続ける。
「あれならきっと、研究会の人たちも納得するわ。お互い同じ方向を向いてたんだから」
「そーゆーこと。さすがはメリー。共に怪獣になってよかったわね。派手に暴れてたし」
「蓮子だって凄かったじゃない♪」
「またやりたいわね。今度はもっと大きなセット組んでもらって暴れまくりたいわね」
メリーは何も言わずに大きく頷いた。
怪獣になるという夢は、まだまだ満たされそうになかった。
初投稿です。うちの秘封倶楽部はいつもこんな感じで日常を過ごしています。
上杉蒼太
https://twitter.com/ogasawara_tomo
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
2.80東ノ目削除
題材が秘封俱楽部とのことなので怪獣秘封俱楽部が現実世界に何らかの影響を及ぼす、みたいな不思議要素があればなお良かったのかなと思います。それはそれとして二人とも楽しそうで何よりでした
3.90名前が無い程度の能力削除
良かったです。特撮秘封アリすね
5.80夏後冬前削除
2人とも楽しそうで良かったです