最近大穴に死体が投げ込まれると、土蜘蛛と話していた。
「病死した人間の処分に困って捨てていくんだろうね」
「埋めればいいのに」
「駄目だよ。それだと伝染る」
「じゃあ、焼いて砕いて灰にすれば?」
「それが出来ないから捨てていくんだよ」
「……? どうして出来ないの?」
「死体なんて焼いたらばれるからね」
「何が?」
「病に冒された人間がいるって」
「それの何がいけないの? 病気に罹ったら医者に診てもらうんだから、ばれるも何もないじゃない」
「それがそういう訳にもいかないんだよ。だってこの病は──」
グチャリと、上から人間が降ってきた。血に塗れ肉塊と化した死体の皮膚には、・・・・が浮き出ていた。
「……ぐ、ぅ……」
死体が苦痛に呻いて、私達は目を丸くした。
「えっ、生きてるの!?」
「そうみたい……ねえ、ひょっとして……今までも生きてる人間が落とされてたんじゃない?」
「……この人、この高さ落ちてよく生きてたね」
土蜘蛛が光を見上げて驚嘆する。
「運が悪いにも程があるわよ……」
虫の息で苦しみ悶える死……人間を見ていると、落ちた衝撃で死ねなかった事に同情した。
しばらく苦しんだ後、人間は息絶えた。死体は例によって猫が嬉々として運んで行った。血溜まりと猫が拾い損ねた肉片が地面に散らばっている。
辺りには同じような乾いた血の跡が無数に残っていた。
「……地上はどうなってるのかしらね」
「さあ。そんなの関係ないよ、私らの居場所は地上にはないんだから」
「……それもそうね」
私達は天を仰いで小さな光を見上げた。
土蜘蛛が言うには、じき病は終息して死体が投げ込まれる事はなくなるそうだ。その言葉通り、いつの間にか死体が落ちてくる事もなくなって、冷たい風が湿った大穴に吹くばかりで、地上からの来訪者も絶えた。
「………」
いつしか地上へ赴く者も絶え、私は誰も通らない大穴の番を続けている。地上で何が起こったのか、それが今も続いているのか……確かめに行きたいけれど、誰一人として帰って来ない場所へ赴く程無謀になれなかった。
心強いと思える鬼は地上に行ったきり帰って来ない。こんな事なら制止を振り切って一緒に行けばよかったとずっと後悔している。覚も妹の姿を長い事見かけないと参っているようだ。
暗く湿っぽい地底世界は以前の活気を失い、暗く湿っぽい空気感に息が詰まりそうになる。誰も彼もが陰鬱で、妬ましいと口にする気にもならない。
私達はゆっくり蝕まれていく世界に在り続けるしかなく、終わりはもうすぐそこまで訪れていた。
「病死した人間の処分に困って捨てていくんだろうね」
「埋めればいいのに」
「駄目だよ。それだと伝染る」
「じゃあ、焼いて砕いて灰にすれば?」
「それが出来ないから捨てていくんだよ」
「……? どうして出来ないの?」
「死体なんて焼いたらばれるからね」
「何が?」
「病に冒された人間がいるって」
「それの何がいけないの? 病気に罹ったら医者に診てもらうんだから、ばれるも何もないじゃない」
「それがそういう訳にもいかないんだよ。だってこの病は──」
グチャリと、上から人間が降ってきた。血に塗れ肉塊と化した死体の皮膚には、・・・・が浮き出ていた。
「……ぐ、ぅ……」
死体が苦痛に呻いて、私達は目を丸くした。
「えっ、生きてるの!?」
「そうみたい……ねえ、ひょっとして……今までも生きてる人間が落とされてたんじゃない?」
「……この人、この高さ落ちてよく生きてたね」
土蜘蛛が光を見上げて驚嘆する。
「運が悪いにも程があるわよ……」
虫の息で苦しみ悶える死……人間を見ていると、落ちた衝撃で死ねなかった事に同情した。
しばらく苦しんだ後、人間は息絶えた。死体は例によって猫が嬉々として運んで行った。血溜まりと猫が拾い損ねた肉片が地面に散らばっている。
辺りには同じような乾いた血の跡が無数に残っていた。
「……地上はどうなってるのかしらね」
「さあ。そんなの関係ないよ、私らの居場所は地上にはないんだから」
「……それもそうね」
私達は天を仰いで小さな光を見上げた。
土蜘蛛が言うには、じき病は終息して死体が投げ込まれる事はなくなるそうだ。その言葉通り、いつの間にか死体が落ちてくる事もなくなって、冷たい風が湿った大穴に吹くばかりで、地上からの来訪者も絶えた。
「………」
いつしか地上へ赴く者も絶え、私は誰も通らない大穴の番を続けている。地上で何が起こったのか、それが今も続いているのか……確かめに行きたいけれど、誰一人として帰って来ない場所へ赴く程無謀になれなかった。
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