」
小悪魔は嘆息し、主の声に耳を澄ませた。
「いえ、聞こえませんが……」
「」
「神社でセミの声を聞きすぎて、図書館の隙間風までそう聞こえるんじゃないですか」
「」
「確かに神社のあたりは、セミが多いですからね。よくこんな暑い日に出たものです」
「」
「ただの散歩だけでよくもまあここまで詩的になれるものです。妹様の前で言わないほうがいいですよ」
「」
「そうですよ。もう。最初は一緒に喜べましたが疲れちゃいます」
「」
「本当ですか?もう知りませんからね。おやすみなさい」
「」
それから、しばらくはパチュリーは元通り、読書生活に戻った。
そしてある朝小悪魔が目覚めると、パチュリー・ノーレッジは巨大なセミになっていたのである。
いつもパチュリーが座ってる椅子にはまるで空洞の焼いたエビみたいなパチュリーが、モナリザに似たアルカイックスマイルで透明に鎮座していた。
そして傍らの見上げるほど大きな棚に巨大なセミが止まっていた。
駆け寄った小悪魔が唖然として見上げる。
セミはその大きさに見合う大音量で鳴き出した。
「」
それはソネットであった。
であるから、紅魔館のすべてにかくあるべしかのように響いて、全員を呼び寄せた。
妖精メイドは館の危険を察知して全員湖に飛び込んでしまった。レミングスである。溺死するけど、数日後には全員復活する。
とりあえず、最初に当主で親友のレミリアが口を開かざるを得ない。
「小悪魔、あのうるさいのはなにで、パチェはなにしてはります」
思わず関西っぽくなった。最近越してきた住人にそういう方言がいて、うつってしまったのだ。
「パチュリーさまです」
「質問を変えるわ。あれは何よ」
小悪魔はあえて指示語を使った理由を汲み取り、ただ事実を述べることにした。
「パチュリーさまの抜け殻で、もはや亡骸でしょう」
「寿命だったのかしら」
案外、最初はそんなことしか言えないのである。
妹のフランドールはようやくあんぐりとした口から声を出した。
もう寛解した狂気が見せる幻覚かと思ったのであるけど、全員同じらしいからだ。
「とにかく、抜け殻はガラスケースに入れてエントランスに飾らないと。だってありえないほどきれいだもの」
「そうね。それに、この唄はどうしたらいいのかしら」
美鈴は疑問を感じた。
「何も聞こえないじゃないですか。あのセミ――失礼、パチュリー様らしき転生体?は何かをしてるんです?」
「ああ、あなたはソネットを知らないから、行間が聴こえないものね」
実は咲夜も同じなのを隠していたが、その説明でわからないことを得心した。
「」
「パチュリー様の研究に関係があります」
「あいつまた何か……」
またって何だこれに匹敵することが過去にあったということか。
恐ろしい話だと静かに立つ咲夜はかぶりをふるった。
小悪魔は続ける。
「パチュリー様は、言葉を詰めすぎてしまったのです。あまりにも多くの言葉を四六時中貪っていたので、うちから沸き立つすべての言葉が記憶からの引用に思えてしまったに違いありません」
「そういう風になって、虫になる魔法使いは絶えないのです。捨虫が羽化をしてしまいました。私達はもう彼女の世界へ届きません」
「咲夜、こいつなに言ってるの」
レミリアが咲夜を小突くと、もう切り替えた咲夜は思慮深げに手を頬にあてていた。
「パチュリーさま、こんなにたくましくなって……お召し物はどうしましょう」
レミリアは、どこか心細げに美鈴に視線を向けた。
美鈴は腕を組んでパチュリーを眺めていた。
「私の国ではセミも食べますが、ここまで大きいと、いささか抵抗がありますねえ」
「だ、誰か……」
館じゅうに文章を大音量でひびかせるので、次第に音と言葉のちがいがわからなくなった。
食器は「」と鳴り、衣擦れは「」となった。古びた扉は「」と鳴り、窓の外でセミは「」などと鳴いていた。
次第に私達の内側にも言葉が満ちた、耳のなかで、言葉がぐわんぐわんとなる。
ただ最近わかったこともある。
それは、パチュリーはついにこの世の全ての読破したということ。
そして、彼女はこの世で最初に呪いじみた夢を達成した魔女なのだ。
だから、捨てるものも得るものもないし、ただ存在が順接と逆説のなかにあって。
弔辞を歌う。
三日後にパチュリーは自分が飾られるエントランスで逆羽化をした。
ひとまず図書館に戻ると、全部の本が消えていた。
「え、パチェ戻れたんだ」
パチュリーが座っていた安楽椅子ではレミリアが机に足を乗っけてリラックスしていた。
実を言うと、パチュリーを最初に招いたときは兎に角住んでほしかったし、なんでも貢いでいたような感じであったし、その中で暗くて冷たくて埃っぽくて一番居心地がいいところを気前よく親友に渡していたし、さてこれからは書斎にでもしようかな。それとも新しく別の魔女でも呼ぼうかなと切り替えたところである。
本当に後ろめたかった。
「まあびっくりされるわよね。数百年かけてようやく積読も終わったから嬉しかったのよ」
「おいおいパチェ勘弁してくれ。葬式まで開いたし、魔理沙には全ての本をあげてしまったぞ」
「よく入ったものね」
「収納の魔導書に収納の魔導書を入れて無限収納したんだって。でも取り出しに無限時間かかるって愚痴ってた」
パチュリーは笑った。
「ありえる文字列は本の魔導の仕組みで有限なのに、どうしてそれ以外を数えるのかしら。だから無限なんてものを探すのよ」
「そりゃあ、その記述をその中におっことしたからだろうさ」
レミリアは調子に乗ってるときのパチュリーはどう接したらいいのかと調子がわからない。
それに葬式で100kb作品くらい泣いたから不条理にバツが悪かった。
今思うと記述でわかるべきだったのだ。あまりに飛躍が適当だろう。
運命を読む能力とはそういうことで、そうであることはわかっていたのに流されて、関西弁を使うことも忘れていたし、物語を進められなかった。
「レミィ、あなたは正しいわ」
「そういえば、全て読んだって中には私達の根源もあったわね」
「ええ、だから嬉しくて行間で歌ってしまったし、つい飛躍してしまったの」
因果を乱しておいて悪びれずに言うものだ。
「わたしも落っことしてしまいましょう」
「ああ、この因果は閉じて整理するのね」
「穏当でしょう」
「まあね」
それにたまには悪魔らしくパラドクスの手助けをしてもいい。
「じゃあ「でいきましょう。聞こえる?
小悪魔は嘆息し、主の声に耳を澄ませた。
「いえ、聞こえませんが……」
「」
「神社でセミの声を聞きすぎて、図書館の隙間風までそう聞こえるんじゃないですか」
「」
「確かに神社のあたりは、セミが多いですからね。よくこんな暑い日に出たものです」
「」
「ただの散歩だけでよくもまあここまで詩的になれるものです。妹様の前で言わないほうがいいですよ」
「」
「そうですよ。もう。最初は一緒に喜べましたが疲れちゃいます」
「」
「本当ですか?もう知りませんからね。おやすみなさい」
「」
それから、しばらくはパチュリーは元通り、読書生活に戻った。
そしてある朝小悪魔が目覚めると、パチュリー・ノーレッジは巨大なセミになっていたのである。
いつもパチュリーが座ってる椅子にはまるで空洞の焼いたエビみたいなパチュリーが、モナリザに似たアルカイックスマイルで透明に鎮座していた。
そして傍らの見上げるほど大きな棚に巨大なセミが止まっていた。
駆け寄った小悪魔が唖然として見上げる。
セミはその大きさに見合う大音量で鳴き出した。
「」
それはソネットであった。
であるから、紅魔館のすべてにかくあるべしかのように響いて、全員を呼び寄せた。
妖精メイドは館の危険を察知して全員湖に飛び込んでしまった。レミングスである。溺死するけど、数日後には全員復活する。
とりあえず、最初に当主で親友のレミリアが口を開かざるを得ない。
「小悪魔、あのうるさいのはなにで、パチェはなにしてはります」
思わず関西っぽくなった。最近越してきた住人にそういう方言がいて、うつってしまったのだ。
「パチュリーさまです」
「質問を変えるわ。あれは何よ」
小悪魔はあえて指示語を使った理由を汲み取り、ただ事実を述べることにした。
「パチュリーさまの抜け殻で、もはや亡骸でしょう」
「寿命だったのかしら」
案外、最初はそんなことしか言えないのである。
妹のフランドールはようやくあんぐりとした口から声を出した。
もう寛解した狂気が見せる幻覚かと思ったのであるけど、全員同じらしいからだ。
「とにかく、抜け殻はガラスケースに入れてエントランスに飾らないと。だってありえないほどきれいだもの」
「そうね。それに、この唄はどうしたらいいのかしら」
美鈴は疑問を感じた。
「何も聞こえないじゃないですか。あのセミ――失礼、パチュリー様らしき転生体?は何かをしてるんです?」
「ああ、あなたはソネットを知らないから、行間が聴こえないものね」
実は咲夜も同じなのを隠していたが、その説明でわからないことを得心した。
「」
「パチュリー様の研究に関係があります」
「あいつまた何か……」
またって何だこれに匹敵することが過去にあったということか。
恐ろしい話だと静かに立つ咲夜はかぶりをふるった。
小悪魔は続ける。
「パチュリー様は、言葉を詰めすぎてしまったのです。あまりにも多くの言葉を四六時中貪っていたので、うちから沸き立つすべての言葉が記憶からの引用に思えてしまったに違いありません」
「そういう風になって、虫になる魔法使いは絶えないのです。捨虫が羽化をしてしまいました。私達はもう彼女の世界へ届きません」
「咲夜、こいつなに言ってるの」
レミリアが咲夜を小突くと、もう切り替えた咲夜は思慮深げに手を頬にあてていた。
「パチュリーさま、こんなにたくましくなって……お召し物はどうしましょう」
レミリアは、どこか心細げに美鈴に視線を向けた。
美鈴は腕を組んでパチュリーを眺めていた。
「私の国ではセミも食べますが、ここまで大きいと、いささか抵抗がありますねえ」
「だ、誰か……」
館じゅうに文章を大音量でひびかせるので、次第に音と言葉のちがいがわからなくなった。
食器は「」と鳴り、衣擦れは「」となった。古びた扉は「」と鳴り、窓の外でセミは「」などと鳴いていた。
次第に私達の内側にも言葉が満ちた、耳のなかで、言葉がぐわんぐわんとなる。
ただ最近わかったこともある。
それは、パチュリーはついにこの世の全ての読破したということ。
そして、彼女はこの世で最初に呪いじみた夢を達成した魔女なのだ。
だから、捨てるものも得るものもないし、ただ存在が順接と逆説のなかにあって。
弔辞を歌う。
三日後にパチュリーは自分が飾られるエントランスで逆羽化をした。
ひとまず図書館に戻ると、全部の本が消えていた。
「え、パチェ戻れたんだ」
パチュリーが座っていた安楽椅子ではレミリアが机に足を乗っけてリラックスしていた。
実を言うと、パチュリーを最初に招いたときは兎に角住んでほしかったし、なんでも貢いでいたような感じであったし、その中で暗くて冷たくて埃っぽくて一番居心地がいいところを気前よく親友に渡していたし、さてこれからは書斎にでもしようかな。それとも新しく別の魔女でも呼ぼうかなと切り替えたところである。
本当に後ろめたかった。
「まあびっくりされるわよね。数百年かけてようやく積読も終わったから嬉しかったのよ」
「おいおいパチェ勘弁してくれ。葬式まで開いたし、魔理沙には全ての本をあげてしまったぞ」
「よく入ったものね」
「収納の魔導書に収納の魔導書を入れて無限収納したんだって。でも取り出しに無限時間かかるって愚痴ってた」
パチュリーは笑った。
「ありえる文字列は本の魔導の仕組みで有限なのに、どうしてそれ以外を数えるのかしら。だから無限なんてものを探すのよ」
「そりゃあ、その記述をその中におっことしたからだろうさ」
レミリアは調子に乗ってるときのパチュリーはどう接したらいいのかと調子がわからない。
それに葬式で100kb作品くらい泣いたから不条理にバツが悪かった。
今思うと記述でわかるべきだったのだ。あまりに飛躍が適当だろう。
運命を読む能力とはそういうことで、そうであることはわかっていたのに流されて、関西弁を使うことも忘れていたし、物語を進められなかった。
「レミィ、あなたは正しいわ」
「そういえば、全て読んだって中には私達の根源もあったわね」
「ええ、だから嬉しくて行間で歌ってしまったし、つい飛躍してしまったの」
因果を乱しておいて悪びれずに言うものだ。
「わたしも落っことしてしまいましょう」
「ああ、この因果は閉じて整理するのね」
「穏当でしょう」
「まあね」
それにたまには悪魔らしくパラドクスの手助けをしてもいい。
「じゃあ「でいきましょう。聞こえる?
出オチと見せかけて畳みかけてくる言葉のセンスが素晴らしかったです
それにしてもテムズ川もなんも出てこなかった