年が明けても秋姉妹は、あいも変わらず、のんべんだらりと過ごし続けていた。
別に二人にとって新年だからと言って、何か特別なことがあるわけでもない。おせち料理を食べるでもなく、正月遊びに興じるわけでもなく、年が明けたことをなんとなく肌で感じつつも、特段、いつもと変わらず過ごしていた。というのも、秋の神である二人にとって正月など別に大した行事でもなく、それこそ穣子曰く「秋以外の行事なんて、冷めてカチカチになった焼きイモくらい価値のないものよ」と、宣うほどであった。
そんなこともあり、二人は、家の中でぐだぐだと気の抜けた炭酸のような時間を無為に過ごし続け、気づけばもう二十日正月も過ぎ去ろうとしている有様であった。
そんなある日のこと、いつものように暇を持て余した二人が、いつものように好き勝手に暇を潰していると、突如、玄関の引き戸が豪快に開けられるや否や、調子っぱずれな大声が家中に響き渡った。
「れでぃーすあんどじぇんとるまーん! 穣子さん! 静葉さん! はっぴーにゅーいやー! こんぐれっちゅれいしょーん!」
一丁前に大層な横文字なんか並べてくれちゃって一体全体何事か。と、穣子が面倒そうに玄関に顔を出すとそこに居たのは、にまにまとした笑みを浮かべた河城にとり。何やら大きな風呂敷を携えており、見るからに面倒な予感で満載だ。
「悪いけど、うちは押し売りと河童はお断りよ。さあ、帰った帰った!」
「いきなり門前払いかよ!?」
「だって、あんたいつも面倒事ばっか引っ張ってくるでしょ」
「大丈夫、大丈夫! 今日は違うからさ」
「本当に?」
「本当、本当。ま、とりあえず上がらせてもらうよ。まず、家に入らないことには始まらないからね」
などと言いながら彼女は風呂敷を持ったまま、家の中に土足で、ずかずかと上がっていく。
ああもう。家になんか入らなくていいから、むしろこのまま終わってくれないものかと、穣子はため息をつくが、残念ながら既に話は始まってしまっているらしい。穣子は仕方なく彼女を追いかけた。
「あら、にとり。いらっしゃい」
囲炉裏の側で寝っ転がって頬杖ついて、焼きイモを眺めていた静葉は、にとりに気づくと、にこりと微笑んで迎える。
「やっほー! こんにちぐれっちれーしょーん! 静葉さん!」
「相変わらず元気なことね」
「ところで、何してんのさ?」
「見ての通りよ」
「見ての通りって……。焼きイモを眺めているようにしか見えないけど」
「そうよ。焼き芋を眺めているのよ」
「へ?」
「焼き芋が冷めるまで見守ってるのよ」
「……どういうこと?」
「焼き芋が冷めてカチカチになるまでじっと見守ってるのよ」
「……いや、それはわかったけど、冷めたあとはどうするのさ?」
「また元の熱々の焼き芋に戻すのよ」
「戻すって、どうやって」
「神の力よ。神の力を使って出来たてに戻すの」
「わざわざ? そんなことに神の力を?」
「そうよ。焼き芋が冷めるまで見守って、冷めて固くなったら出来たてに戻して、また冷めるまで見守る。その繰り返しよ」
「……なんでそんな苦行を。もしかして修行か何か?」
不思議そうに尋ねるにとりに、静葉はふっと笑みを浮かべながら答える。
「ただの暇つぶしよ」
「は?」
「他にやることなくて」
新年そうそう、何、虚無やってんだと、にとりがつっこもうとした瞬間、穣子が割り込んでくる。
「まーったく。昨日から何やってるのかと思ったら、いくら暇つぶしったって焼きイモ眺めたりなんかしても仕方ないでしょ! これだから姉さんは根暗で枯葉で大明神なのよ! 少しは私の暇の潰し方を見習いなさいよね!」
と、腕を組んで自信満々そうに言う穣子。にとりは嫌な予感を感じつつも、どんな方法なのか一応尋ねてみると、穣子は胸を張って「こうよ!」と、言いながら、そばに落ちていた紅葉を串に刺して囲炉裏の火に近づける。
やがて紅葉に火が付いたと思うと、またたく間に炎に包まれ、紅葉は跡形なく消えてしまう。
その一連の流れを満足そうに見つめている穣子に、怪訝そうな表情でにとりが尋ねる。
「……何やってんの」
「焼き紅葉よ!」
「焼き紅葉」
「そうよ! 焼き紅葉。焼きイモがあるんだから焼き紅葉があってもいいでしょ」
「いや、焼き紅葉って……。食えないじゃんそれ」
「食えなくてもいいのよ!」
「なんでさ?」
「だって暇つぶしだもん」
すかさず静葉が割り込んでくる。
「もう、穣子ったら何してるのよ。せっかくの紅葉を焼いたって意味ないでしょ。紅葉は見て愛でるものよ」
穣子が言い返す。
「そう言う姉さんだって、せっかくの焼き芋をただ眺めたりなんかしてどうするのよ! 焼き芋は食べて味わうものよ! 暇すぎてとうとう気でも違えちゃった?」
「あら、その言葉そっくりそのまま返してあげるわね。暇すぎて頭まで焼き芋になってしまったの。おめでとう。あなたは芋神への第一歩を踏み出したわ」
「誰が芋神よ! 枯葉神の分際で! この!」
と、二人はその場で、わーわーぎゃーぎゃーと、いがみ合いを始めてしまう。
そろいもそろって一体何やっているんだと、にとりは、ほとほと呆れてため息をつくと、二人に告げる。
「……あのさぁ。二人ともさぁ、せっかく年あけたんだからもっとなんか、こうさ。……もうちょっとこの時期らしいことしようよ?」
「この時期らしい事って何よ? 冬妖怪とドンパチでもしてこいっての?」
「そんなことしてもどうせ負けるでしょ?」
「余計なおせわよ!?」
「そうじゃなくてさ。……ほら、今まだ一応正月だし。餅焼いたりとか、雑煮食べたりとかさ。駒回したりすごろくしたりとか」
「あら、そんなの興味ないわよねー? 姉さん!」
「ええ。ないわね。穣子」
そう言って顔を合わせて頷く二人。思わず「えっ」っと、あっけにとられるにとりに穣子が言い放つ。
「考えてみなさい。私たちは秋の神様なのよ? 秋の神様が秋以外の季節の行事なんて興味あるわけないでしょ!」
静葉も続く。
「そうね。冬は身も心も寒くなるし、春は頭が春になるし、夏は夏って響きが嫌だし。やっぱり秋が一番よ」
「さすが姉さん! わかってるわ!」
「当たり前でしょう。秋神だもの」
「そうそう! やっぱ秋神はこうでなくちゃね! 姉さん!」
「ええ、そうね。穣子」
さっきまでのいがみ合いは何だったのか。と、ばかりにすっかり意気投合する二人の様子に、にとりは再びため息をつく。
「……まったくもう。よし、せっかくだから今日はさ。そんな、うら寂しい二人に正月の過ごし方ってのを教えてやろうじゃないの!」
そう言いながらにとりが例の風呂敷を開けると、中に入っていたのは駒やら、すごろくやらの正月遊びの数々。思わず穣子は目を丸くして尋ねる。
「……何これ」
「何って、見ての通り正月遊びだよ」
「そりゃ見りゃわかるけど……。これで何をしろと?」
「そりゃ遊ぶんだよ」
そう言いながらにとりは、何やら机のようなものを組み立て始める。
「よし、出来たっと」
程なくして完成したのは、四本足の机に電熱器具を取り付けたもの――いわゆるこたつだった。それを見た穣子がすかさず言う。
「こたつなんかいらないわよ。うちには囲炉裏あるし」
間髪入れずにとりが口をとがらせて言い返す。
「なーに言ってんだよ。冬と言えばこたつだろ? こたつに入ってくつろぎながらキュウリを食べるんだよ」
「そこはみかんでしょ!?」
穣子のツッコミを意にも介せず、にとりはこたつに入り、鞄からキュウリを取り出したかと思うと、おもむろにボリボリとかじり始める。
「あー…………。ごくらくごくらく」
――なにが極楽よ。人んちで勝手にくつろぎやがってこの腐れ河童。生のきゅうりなんてかじってんじゃないわよ! 部屋が青臭くなっちゃうでしょ。と、穣子は心の中で毒づきながらにとりに半眼を向けるが、完全くつろぎモードに入った彼女はキュウリをボリボリかじりながら、恍惚の表情を浮かべている。こうなった彼女は、もはや無敵だ。雨が降ろうが芋が降ろうが動きそうもない。
その時、興味深そうに駒やらすごろくやらを眺めていた静葉が、ふと穣子に言う。
「ねえ、穣子。せっかくだからこの正月遊びやってみましょうか」
「えっ? 正気なの、姉さん」
「いいじゃない。せっかくの機会だし……ね」
「ま、まぁいいけどさ……」
と、いうことで二人は暇つぶしに正月遊びをすることにした。しかし案の定、すぐ飽きてしまった。
「やっぱりすぐ飽きちゃったわね。穣子」
「そりゃそーよ。すごろくやってても姉さん、運命操作! とか言って神の力使って好きな目を出すんだもん。そんなのつまんないに決まってるじゃん!」
「目的のためなら手段を選ばないのが私よ。そう言う穣子だって駒回ししたら私の駒を自分の駒で吹き飛ばしたでしょ。おかげで壁に穴が開いちゃったじゃないの。これじゃ鏡開きじゃなくて壁穴開きよ」
「ふーんだ。すごろくのおかえしよ!」
「たかがすごろくで負けたことくらいで、家を壊されてちゃ、たまったもんじゃないわね」
「いいでしょ。風穴ってやつを開けてやったのよ」
と、どや顔で言いのけた穣子に、冷めた眼差しで静葉が言う。
「全然うまくないわね。それこそカチカチになった焼き芋並に」
「もう冷めた芋はいいから、素直に出来たてを食べなさいよ! ……そういえば、にとりの奴は?」
と、穣子が見回すと、コタツに体を突っ込んでよだれ垂らして、気持ちよさそうに眠りこけている河童の姿があった。
「もう、なんなのよこいつは! 正月の過ごし方教えるなんて言っておきながらキュウリかじってのうのうと眠りやがって!」
と、思わず声を荒げる穣子。すると静葉がふと呟くように言う。
「……あら、にとりったら、ちゃんと正月の過ごし方教えてくれているじゃない」
「え?」
不思議そうな表情の穣子に静葉は、ふっと笑みを浮かべて告げた。
「ほら、見なさい。あれが寝正月ってやつよ」
別に二人にとって新年だからと言って、何か特別なことがあるわけでもない。おせち料理を食べるでもなく、正月遊びに興じるわけでもなく、年が明けたことをなんとなく肌で感じつつも、特段、いつもと変わらず過ごしていた。というのも、秋の神である二人にとって正月など別に大した行事でもなく、それこそ穣子曰く「秋以外の行事なんて、冷めてカチカチになった焼きイモくらい価値のないものよ」と、宣うほどであった。
そんなこともあり、二人は、家の中でぐだぐだと気の抜けた炭酸のような時間を無為に過ごし続け、気づけばもう二十日正月も過ぎ去ろうとしている有様であった。
そんなある日のこと、いつものように暇を持て余した二人が、いつものように好き勝手に暇を潰していると、突如、玄関の引き戸が豪快に開けられるや否や、調子っぱずれな大声が家中に響き渡った。
「れでぃーすあんどじぇんとるまーん! 穣子さん! 静葉さん! はっぴーにゅーいやー! こんぐれっちゅれいしょーん!」
一丁前に大層な横文字なんか並べてくれちゃって一体全体何事か。と、穣子が面倒そうに玄関に顔を出すとそこに居たのは、にまにまとした笑みを浮かべた河城にとり。何やら大きな風呂敷を携えており、見るからに面倒な予感で満載だ。
「悪いけど、うちは押し売りと河童はお断りよ。さあ、帰った帰った!」
「いきなり門前払いかよ!?」
「だって、あんたいつも面倒事ばっか引っ張ってくるでしょ」
「大丈夫、大丈夫! 今日は違うからさ」
「本当に?」
「本当、本当。ま、とりあえず上がらせてもらうよ。まず、家に入らないことには始まらないからね」
などと言いながら彼女は風呂敷を持ったまま、家の中に土足で、ずかずかと上がっていく。
ああもう。家になんか入らなくていいから、むしろこのまま終わってくれないものかと、穣子はため息をつくが、残念ながら既に話は始まってしまっているらしい。穣子は仕方なく彼女を追いかけた。
「あら、にとり。いらっしゃい」
囲炉裏の側で寝っ転がって頬杖ついて、焼きイモを眺めていた静葉は、にとりに気づくと、にこりと微笑んで迎える。
「やっほー! こんにちぐれっちれーしょーん! 静葉さん!」
「相変わらず元気なことね」
「ところで、何してんのさ?」
「見ての通りよ」
「見ての通りって……。焼きイモを眺めているようにしか見えないけど」
「そうよ。焼き芋を眺めているのよ」
「へ?」
「焼き芋が冷めるまで見守ってるのよ」
「……どういうこと?」
「焼き芋が冷めてカチカチになるまでじっと見守ってるのよ」
「……いや、それはわかったけど、冷めたあとはどうするのさ?」
「また元の熱々の焼き芋に戻すのよ」
「戻すって、どうやって」
「神の力よ。神の力を使って出来たてに戻すの」
「わざわざ? そんなことに神の力を?」
「そうよ。焼き芋が冷めるまで見守って、冷めて固くなったら出来たてに戻して、また冷めるまで見守る。その繰り返しよ」
「……なんでそんな苦行を。もしかして修行か何か?」
不思議そうに尋ねるにとりに、静葉はふっと笑みを浮かべながら答える。
「ただの暇つぶしよ」
「は?」
「他にやることなくて」
新年そうそう、何、虚無やってんだと、にとりがつっこもうとした瞬間、穣子が割り込んでくる。
「まーったく。昨日から何やってるのかと思ったら、いくら暇つぶしったって焼きイモ眺めたりなんかしても仕方ないでしょ! これだから姉さんは根暗で枯葉で大明神なのよ! 少しは私の暇の潰し方を見習いなさいよね!」
と、腕を組んで自信満々そうに言う穣子。にとりは嫌な予感を感じつつも、どんな方法なのか一応尋ねてみると、穣子は胸を張って「こうよ!」と、言いながら、そばに落ちていた紅葉を串に刺して囲炉裏の火に近づける。
やがて紅葉に火が付いたと思うと、またたく間に炎に包まれ、紅葉は跡形なく消えてしまう。
その一連の流れを満足そうに見つめている穣子に、怪訝そうな表情でにとりが尋ねる。
「……何やってんの」
「焼き紅葉よ!」
「焼き紅葉」
「そうよ! 焼き紅葉。焼きイモがあるんだから焼き紅葉があってもいいでしょ」
「いや、焼き紅葉って……。食えないじゃんそれ」
「食えなくてもいいのよ!」
「なんでさ?」
「だって暇つぶしだもん」
すかさず静葉が割り込んでくる。
「もう、穣子ったら何してるのよ。せっかくの紅葉を焼いたって意味ないでしょ。紅葉は見て愛でるものよ」
穣子が言い返す。
「そう言う姉さんだって、せっかくの焼き芋をただ眺めたりなんかしてどうするのよ! 焼き芋は食べて味わうものよ! 暇すぎてとうとう気でも違えちゃった?」
「あら、その言葉そっくりそのまま返してあげるわね。暇すぎて頭まで焼き芋になってしまったの。おめでとう。あなたは芋神への第一歩を踏み出したわ」
「誰が芋神よ! 枯葉神の分際で! この!」
と、二人はその場で、わーわーぎゃーぎゃーと、いがみ合いを始めてしまう。
そろいもそろって一体何やっているんだと、にとりは、ほとほと呆れてため息をつくと、二人に告げる。
「……あのさぁ。二人ともさぁ、せっかく年あけたんだからもっとなんか、こうさ。……もうちょっとこの時期らしいことしようよ?」
「この時期らしい事って何よ? 冬妖怪とドンパチでもしてこいっての?」
「そんなことしてもどうせ負けるでしょ?」
「余計なおせわよ!?」
「そうじゃなくてさ。……ほら、今まだ一応正月だし。餅焼いたりとか、雑煮食べたりとかさ。駒回したりすごろくしたりとか」
「あら、そんなの興味ないわよねー? 姉さん!」
「ええ。ないわね。穣子」
そう言って顔を合わせて頷く二人。思わず「えっ」っと、あっけにとられるにとりに穣子が言い放つ。
「考えてみなさい。私たちは秋の神様なのよ? 秋の神様が秋以外の季節の行事なんて興味あるわけないでしょ!」
静葉も続く。
「そうね。冬は身も心も寒くなるし、春は頭が春になるし、夏は夏って響きが嫌だし。やっぱり秋が一番よ」
「さすが姉さん! わかってるわ!」
「当たり前でしょう。秋神だもの」
「そうそう! やっぱ秋神はこうでなくちゃね! 姉さん!」
「ええ、そうね。穣子」
さっきまでのいがみ合いは何だったのか。と、ばかりにすっかり意気投合する二人の様子に、にとりは再びため息をつく。
「……まったくもう。よし、せっかくだから今日はさ。そんな、うら寂しい二人に正月の過ごし方ってのを教えてやろうじゃないの!」
そう言いながらにとりが例の風呂敷を開けると、中に入っていたのは駒やら、すごろくやらの正月遊びの数々。思わず穣子は目を丸くして尋ねる。
「……何これ」
「何って、見ての通り正月遊びだよ」
「そりゃ見りゃわかるけど……。これで何をしろと?」
「そりゃ遊ぶんだよ」
そう言いながらにとりは、何やら机のようなものを組み立て始める。
「よし、出来たっと」
程なくして完成したのは、四本足の机に電熱器具を取り付けたもの――いわゆるこたつだった。それを見た穣子がすかさず言う。
「こたつなんかいらないわよ。うちには囲炉裏あるし」
間髪入れずにとりが口をとがらせて言い返す。
「なーに言ってんだよ。冬と言えばこたつだろ? こたつに入ってくつろぎながらキュウリを食べるんだよ」
「そこはみかんでしょ!?」
穣子のツッコミを意にも介せず、にとりはこたつに入り、鞄からキュウリを取り出したかと思うと、おもむろにボリボリとかじり始める。
「あー…………。ごくらくごくらく」
――なにが極楽よ。人んちで勝手にくつろぎやがってこの腐れ河童。生のきゅうりなんてかじってんじゃないわよ! 部屋が青臭くなっちゃうでしょ。と、穣子は心の中で毒づきながらにとりに半眼を向けるが、完全くつろぎモードに入った彼女はキュウリをボリボリかじりながら、恍惚の表情を浮かべている。こうなった彼女は、もはや無敵だ。雨が降ろうが芋が降ろうが動きそうもない。
その時、興味深そうに駒やらすごろくやらを眺めていた静葉が、ふと穣子に言う。
「ねえ、穣子。せっかくだからこの正月遊びやってみましょうか」
「えっ? 正気なの、姉さん」
「いいじゃない。せっかくの機会だし……ね」
「ま、まぁいいけどさ……」
と、いうことで二人は暇つぶしに正月遊びをすることにした。しかし案の定、すぐ飽きてしまった。
「やっぱりすぐ飽きちゃったわね。穣子」
「そりゃそーよ。すごろくやってても姉さん、運命操作! とか言って神の力使って好きな目を出すんだもん。そんなのつまんないに決まってるじゃん!」
「目的のためなら手段を選ばないのが私よ。そう言う穣子だって駒回ししたら私の駒を自分の駒で吹き飛ばしたでしょ。おかげで壁に穴が開いちゃったじゃないの。これじゃ鏡開きじゃなくて壁穴開きよ」
「ふーんだ。すごろくのおかえしよ!」
「たかがすごろくで負けたことくらいで、家を壊されてちゃ、たまったもんじゃないわね」
「いいでしょ。風穴ってやつを開けてやったのよ」
と、どや顔で言いのけた穣子に、冷めた眼差しで静葉が言う。
「全然うまくないわね。それこそカチカチになった焼き芋並に」
「もう冷めた芋はいいから、素直に出来たてを食べなさいよ! ……そういえば、にとりの奴は?」
と、穣子が見回すと、コタツに体を突っ込んでよだれ垂らして、気持ちよさそうに眠りこけている河童の姿があった。
「もう、なんなのよこいつは! 正月の過ごし方教えるなんて言っておきながらキュウリかじってのうのうと眠りやがって!」
と、思わず声を荒げる穣子。すると静葉がふと呟くように言う。
「……あら、にとりったら、ちゃんと正月の過ごし方教えてくれているじゃない」
「え?」
不思議そうな表情の穣子に静葉は、ふっと笑みを浮かべて告げた。
「ほら、見なさい。あれが寝正月ってやつよ」
にとりがあまりにも河童でした
にとりさん寝てるだけやんけ!
面白かったです。
いつも通りの空気感でした。
にとりはこたつ組み立ててきゅうり食べて寝ただけなのか……