Coolier - 新生・東方創想話

時間通り

2022/12/28 17:40:58
最終更新
サイズ
2.23KB
ページ数
1
閲覧数
320
評価数
3/5
POINT
380
Rate
13.50

分類タグ

 その婦人は、時間通りに起床した。誰にも邪魔されず、予定した通りに。
 彼女は北欧の家に住んでいた。そこに住んで何年にもなるが、冬の早朝はやはり体に大変堪える。凍てつくような寒さが、彼女の体を震えさせる。
 その家に住んでいるのは、彼女一人だけだった。部屋はまだ薄暗くとても静かだった。この冷え切った部屋の中を動くのは、さすがにしんどいものだった。
 彼女は自身を奮い立たせて、寒さに耐えながら顔を洗った。ネグリジェを脱いで、防寒用のインナーに身を包む。そして彼女は、濃い紫色のドレスを着用した。豊かなブロンドの髪によく似合う、華やかなものだ。少々薄着になって心許ないが、今日の予定はこの衣装なのだ。

 その婦人は、時間通りに支度した。誰にも邪魔されず、予定した通りに。
 彼女は名前をハーンと言った。国際科学アカデミーの理事であった。今日は年に一度の授賞式に出席し、メダルを授与する役を任されていた。
 ハーン理事はかつて、相対性精神学分野で活躍した学者であった。それまでの科学では、世界を見る人間を自然から切り離していた。しかしハーンは、真実は主観の中にあるという標語のもと、主観的な価値認識と科学との融合を図り、相対性精神学の新たな地平を切り拓いた。
 この功績により、彼女は科学アカデミー理事に就任した。彼女は授賞式に備えて、アカデミーの紋章を身に着ける。耳にはイヤリングも着ける。予定通り、ドレスに似合ってくれる。

 その婦人はかつて、よく自分の時間を邪魔されていた。深夜に戸を叩く、変わり者のせいで。
 彼女は学生時代、倶楽部活動をしていた。その名は秘封倶楽部と言った。それはオカルトサークルであった。彼女には相棒がいて、二人で共に、結界と世界の謎を暴いて周っていた。
 ただその相棒は、とても気まぐれな少女だった。待ち合わせには十中八九遅刻していたし、唐突な思い付きでハーンを酉京都の街に連れ出していた。ハーンは自宅で寝ていても、深夜に叩き起こされることがしばしばだった。
 それでも二人はいつも一緒だった。ずっと離れることは無かった。しかしある時から、その相棒はハーンから離れて行ってしまった。彼女は「私も世界を見たいのよ」と、涙でくしゃくしゃになった顔で言ったっきり、ハーンの前から姿を消してしまった。

 その婦人は、時間通りに支度を終える。
 彼女は、机に置いていたタブレットをとる。今日会う人、受賞者の記事を集めておいたのだ。
  《Super-M理論、遂に観測。宇佐見博士の予言》
 彼女は思う。まったくこの人は、何年私を待たせるのよ、と。

 その婦人は、時間通りに出発する。絶対に遅刻しないよう、予定していた通りに。
 またあの少女に、待たされるとしても。
二人で授賞式抜け出してくれないかな
しらゆい
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.100簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
4.90名前が無い程度の能力削除
大人になっても絆が続くのはロマンですね
5.100南条削除
面白かったです
短い話に秘封倶楽部の情緒と郷愁とロマンが詰まっていました
素晴らしかったです