「メリぃ!! メリぃ!! メリぃいいいい!!」
「なによ、連呼!?」
「メリー! 幻想郷行くわよ!」
「は?」
「さあ、座標はもう完璧に滞りなく整えてあるわ! それこそサウナに行くような感覚でいつでも軽率に幻想郷へ行けるわよ!」
「ねえ、ちょっと待って! ちょっとまって!?」
「なによ?」
「幻想郷って……何?」
「えっ。最初に言い出したのはあなたの方でしょ? 幻想郷へ行きたいって」
「そうだっけ……?」
「そうよ!? 思い出して! あれは三ヶ月前のこと……」
_________
しとしとと冷たい雨が降る、古くも新しい古都の片隅の廃屋にて、メリーと蓮子は今にも怪しげな儀式を始めようとしているような、そんな雰囲気だし、実際そのつもりだった。それもこれも全てはメリーの一言から始まったのだが、肝心の彼女が忘れてしまっているんじゃ話にならない。
「――って感じよ。ほら、思い出した?」
「あぁ……そういえばそんなことあったような、なかったような」
「とにかく! 私はあなたのその言葉を聞いてからずっと幻想郷というものの存在について調べて考えて、自分なりの答えを導きだそうとしてたのよ!」
「で、答えは出たの? 天才さん」
「ええ! ズバリ幻想郷はあるわ!」
「どこに?」
「そりゃあ……ここではないどこかよ!」
「珍しく歯切れ悪いじゃない」
「確かにそうかもしれないけど、そうとしか言えないのよ。なんなら詳しく説明しましょうか? その代わり少し時間もらうけど」
メリーは即答する。
「遠慮するわ。こんなかび臭い廃墟で、物理の補講なんてまっぴらごめんだもの」
「まったく、ノリが悪いんだから」
「そもそも何でこんなかび臭いとこに私たちはいるのよ?」
「そんなことも忘れちゃったの? もしかしてメリー、若年健忘症?」
「失礼しちゃうわ! それくらい流石に覚えてるわよ。そんな簡単にシナプスが死んでたまりますかっての」
「ま、シナプス死んだとしても、また増やせば良いだけの話だけどね。じゃあ言ってみなさいよ」
「あなたが誘ったのよ。蓮子! 私はあなたに連行されたの!」
「……もしかして……今、ひょっとして蓮子と連行かけてた?」
「こんなとこに私を呼びだしていったい何する気なの?」
「人の話聞きなさいよ!?」
「そっちこそ聞きなさいよ!?」
二人の大声が廃屋中に響き渡り、思わずお互い我に返ったように黙り込む。
「あーあ。なんでこんなところであなたとデートなんてしなくちゃいけないの。どうせならもっとおしゃれなカフェとかの方が良かったわ」
「甘いわね。メリー、この建物は私たちにはうってつけの物件なのよ」
「どういうことよ!? まさかこれから二人でこの家に住むとか?」
「そんなわけないでしょ! あなたと住むなら二条城並の豪邸にするわよ! この家はこの世界のものじゃないのよ!」
「え、いまなんて?」
「あなたと住むなら二条城にするわよ!」
「いや、そっちじゃなくて!? ってか、城そのものに変わってない? それ」
「冗談よ。この家はこの世界の建物じゃないの」
「ああ、なるほどね。って、どうしてそんなことがわかるの?」
「よく見なさいメリー」
蓮子はどこからともなく虫眼鏡を取り出す。
「ほら、天井見て」
と、蓮子が指さした方向をメリーが見ると、そこには大きく幻想郷と墨で書かれていた。
「ほら、これは幻想郷ってところの建物なのよ」
「そう……なの? ってか、虫眼鏡取り出した意味ないでしょそれ」
「雰囲気作りよ。それに理由はこれだけじゃないわよ。メリー!」
「次は何よ?」
蓮子は自信満々に胸を張って答える。
「『ねじれ』よ」
「ああ……『ねじれ』。……って、まさかこの場が、そうとでも?」
「そのまさかよ」
「この建物が『ねじれ』ってこと?」
メリーの質問に蓮子は頷く。
「そう、この建物そのものが『ねじれ』なのよ!」
「じゃあ、もしかしてここが幻想郷なの? 蓮子」
「そうとも言えるし、そうとも言えないわね」
「凄いわ! 蓮子! 私たちは今、幻想郷にいるのね!」
メリーはよっぽど感動したのか、蓮子の手を握って目を輝かせている。
蓮子は、厳密にはどこにも属さない曖昧な空間で、ここから本当の幻想郷へと行くはずだったんだけどなぁと思いながらも、まあ、メリーが喜んでいるからいいか。と、彼女の手のぬくもりに思わずほっこりしながら、静かな二人きりの時間を味わうのだった。
「なによ、連呼!?」
「メリー! 幻想郷行くわよ!」
「は?」
「さあ、座標はもう完璧に滞りなく整えてあるわ! それこそサウナに行くような感覚でいつでも軽率に幻想郷へ行けるわよ!」
「ねえ、ちょっと待って! ちょっとまって!?」
「なによ?」
「幻想郷って……何?」
「えっ。最初に言い出したのはあなたの方でしょ? 幻想郷へ行きたいって」
「そうだっけ……?」
「そうよ!? 思い出して! あれは三ヶ月前のこと……」
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しとしとと冷たい雨が降る、古くも新しい古都の片隅の廃屋にて、メリーと蓮子は今にも怪しげな儀式を始めようとしているような、そんな雰囲気だし、実際そのつもりだった。それもこれも全てはメリーの一言から始まったのだが、肝心の彼女が忘れてしまっているんじゃ話にならない。
「――って感じよ。ほら、思い出した?」
「あぁ……そういえばそんなことあったような、なかったような」
「とにかく! 私はあなたのその言葉を聞いてからずっと幻想郷というものの存在について調べて考えて、自分なりの答えを導きだそうとしてたのよ!」
「で、答えは出たの? 天才さん」
「ええ! ズバリ幻想郷はあるわ!」
「どこに?」
「そりゃあ……ここではないどこかよ!」
「珍しく歯切れ悪いじゃない」
「確かにそうかもしれないけど、そうとしか言えないのよ。なんなら詳しく説明しましょうか? その代わり少し時間もらうけど」
メリーは即答する。
「遠慮するわ。こんなかび臭い廃墟で、物理の補講なんてまっぴらごめんだもの」
「まったく、ノリが悪いんだから」
「そもそも何でこんなかび臭いとこに私たちはいるのよ?」
「そんなことも忘れちゃったの? もしかしてメリー、若年健忘症?」
「失礼しちゃうわ! それくらい流石に覚えてるわよ。そんな簡単にシナプスが死んでたまりますかっての」
「ま、シナプス死んだとしても、また増やせば良いだけの話だけどね。じゃあ言ってみなさいよ」
「あなたが誘ったのよ。蓮子! 私はあなたに連行されたの!」
「……もしかして……今、ひょっとして蓮子と連行かけてた?」
「こんなとこに私を呼びだしていったい何する気なの?」
「人の話聞きなさいよ!?」
「そっちこそ聞きなさいよ!?」
二人の大声が廃屋中に響き渡り、思わずお互い我に返ったように黙り込む。
「あーあ。なんでこんなところであなたとデートなんてしなくちゃいけないの。どうせならもっとおしゃれなカフェとかの方が良かったわ」
「甘いわね。メリー、この建物は私たちにはうってつけの物件なのよ」
「どういうことよ!? まさかこれから二人でこの家に住むとか?」
「そんなわけないでしょ! あなたと住むなら二条城並の豪邸にするわよ! この家はこの世界のものじゃないのよ!」
「え、いまなんて?」
「あなたと住むなら二条城にするわよ!」
「いや、そっちじゃなくて!? ってか、城そのものに変わってない? それ」
「冗談よ。この家はこの世界の建物じゃないの」
「ああ、なるほどね。って、どうしてそんなことがわかるの?」
「よく見なさいメリー」
蓮子はどこからともなく虫眼鏡を取り出す。
「ほら、天井見て」
と、蓮子が指さした方向をメリーが見ると、そこには大きく幻想郷と墨で書かれていた。
「ほら、これは幻想郷ってところの建物なのよ」
「そう……なの? ってか、虫眼鏡取り出した意味ないでしょそれ」
「雰囲気作りよ。それに理由はこれだけじゃないわよ。メリー!」
「次は何よ?」
蓮子は自信満々に胸を張って答える。
「『ねじれ』よ」
「ああ……『ねじれ』。……って、まさかこの場が、そうとでも?」
「そのまさかよ」
「この建物が『ねじれ』ってこと?」
メリーの質問に蓮子は頷く。
「そう、この建物そのものが『ねじれ』なのよ!」
「じゃあ、もしかしてここが幻想郷なの? 蓮子」
「そうとも言えるし、そうとも言えないわね」
「凄いわ! 蓮子! 私たちは今、幻想郷にいるのね!」
メリーはよっぽど感動したのか、蓮子の手を握って目を輝かせている。
蓮子は、厳密にはどこにも属さない曖昧な空間で、ここから本当の幻想郷へと行くはずだったんだけどなぁと思いながらも、まあ、メリーが喜んでいるからいいか。と、彼女の手のぬくもりに思わずほっこりしながら、静かな二人きりの時間を味わうのだった。