湖が「泳げ」と言っている。
夏の日差しを全身に浴び、湖のほとりに立つあたいを呼んでいた。隣のミスティアも聞こえただろう。向こう岸を指さし、あたいは高らかに宣言した。
「あそこまで泳ぐ!」
「えぇ!私泳げないよ」
こっそり逃げ出そうとするミスティアの背中を叩く。手加減したのだが一メートルほど吹っ飛び、地面に倒れた。涙目でこちらを見てくるがスルーだ。あたいには秘策がある。これを教えたら夜雀でも泳げるはず。
「さぁ、着替えよう」
「ひぃ……」
スク水に着替えた。準備体操を終え、万全の体調だ。これからすることを考えると胸が弾む。震えているミスティアを置いてきぼりにして、あたいは湖に向かって走り、大の字でダイブした。水中は薄暗く、深くなるにつれより暗くなっていく。身体のあちこちが痛いが気分がいい。冷たいと思っていたが、夏の太陽に温められた湖は温水プールと化していた。これなら大丈夫だ。浮上してミスティアを呼ぶ。
「大丈夫、入ろう」
「チルノちゃん、やっぱりやめない?深いよこの湖」
俯いてぶつぶつと文句を言う夜雀。
こんなだから、あたい達はなめられるんだ!
あの日の屈辱を忘れたのか。湖の近くに住む妖精達が「チルノ自分のこと『最強』って言ってるけど、凄いことしたわけじゃないよね」「よね。あとミス……誰だったっけ」と噂していたのを耳にした日のことを。思い出すだけで腹が立つ。隠れてあたい達を見ている妖精たちに泳ぎ切るところを見せて、ぎゃふんと言わせるんだ。その為にミスティアには泳ぎ方を覚えてもらう。
「手を貸すから入って」
岸まで近づき、手を差し伸べる。ミスティアが握ったその時。
「えい」
手を引っ張った。油断していたのか、水しぶきを上げ無抵抗で水の中へ。溺れまいと水面を叩いて暴れる姿は新鮮だ。浮かんだかと思いきや沈んでいく。死なれても困るので腕を掴み、抱き寄せた。ミスティアの震えが身体に伝わってくる。水で焦る友達を見るのは恥ずかしい。あたいが泳ぎ方を教えなければいけない。ミスティアの目を見て言い放った。
「あたいの泳ぎ方を教えよう」
「え?」
この泳法を思いついたのは数日前のこと。その日、あたい達は寺子屋で慧音の授業を受けていた。水泳の授業であっても、慧音は座学で行う。頭の固いワーハクタクだ。
「えー水泳の歴史は……」
眠気に耐えながらつまらない授業を聞いていた。意識が飛ぶせいで断片しかわからないが、慧音が好きそうなことを教えているのだろう。いいから泳がせてよ、と内心思ったが声には出さない。大人だから。
「これは応用だが、クイックターンというテクニックがあって」
かっこいい言葉を聞いて眠気が吹っ飛んだ。応用、クイックターン、テクニック。そういうのを早く教えてほしい。
「折り返しのとき、壁の近くで回転して壁を蹴ることによって、手でタッチするより速くなる」
回転して壁を蹴ったら速くなるのか。今すぐ、水着に着替えて確かめてみたい。
「これは競泳のテクニックだから重要じゃない。忘れてくれてもいい」
慧音が何か言っていたが、妄想にふけっていたので聞き取れなかった。
「それから数日練習して仕上げてきた」
「チルノちゃん、嫌な予感がするのは気のせい?」
怯えた顔でそう言うミスティア。
友達を信じられないのか、薄情な奴だ。
「言葉で説明するより見せた方が早いよね」
ミスティアを湖から上がらせた後、水中に潜り込む。壁の近くにより、あたいは鼻で息を吐きながら回転した。
「まだまだ!」
スピードを上げて回転し続ける。あたいを中心にした渦巻きができた。そろそろだ。
「は!」
思いっきり壁を蹴る。水が爆発した音とともに、ロケットのように発射。気を付けの姿勢で泳いでいく。回転エネルギーを一気に放出することによって驚異的なスピードを出せるのだ。原理はわからないが前進すれば何でもいい。水の抵抗で目があけられないから、どこに行っているのかわからないのが欠点だけどね。けど、大丈夫。あたいの辞書に間違いの文字はない。
景気づけにスペルカードを使おう。芸術性も大事だし。
「凍符『パーフェクトフぼぼぼ!」
開けた口に水が入ってくる。このままだと溺れてしまう。酸素を求めて急浮上し、空中へ飛びだした。その時、どうやったら止まるのかわからないことに気づいた。いや、問題ない。向こう岸に着けば止まる。水中へ戻り加速していく。もうすぐ向こう岸だ、と直感した。ラストをどう飾るか。壁にタッチしてゴールするのが普通だろう。ただ、止まらないのでこのままだと壁に刺さる。なら空を飛ぼう!スピードが落ちたあと着地すればいい。
「ぶは」
波を立てて浮かび上がり、勢いそのままに空へと躍り出る。辺りを確認するために目を開けるとそこにあったのは、紅魔館だった。いつの間にか別の方向に行ってしまったのか。
想定外だが最高のフィナーレだ。頭で門を突き破り建物に激突した。
翌日、幻想郷中に激震が走った。妖精が紅魔館に宣戦布告した、と新聞に取り上げられたのだ。里ではこの話題で持ち切り。名だたる妖怪たちが事態に混乱している。この混乱は湖に住む妖精たちにも及んだ。湖にあたいが来ると、あっという間に妖精たちに囲まれた。
「まさか、チルノがそんなことをするなんて」
「チルノは最強、いや最恐の妖精だよ」
「チルノ万歳、チルノ万歳」
尊敬と恐れが混じった妖精たちの目。心地よい声援。あたいの力を見せつけることに成功したみたいだ。そういえば他にも目的があったような。考えていると、後ろからミスティアの声が聞こえた。
「置いていかないでよー」
ああ。思い出した。あたいは振り向き、走ってこちらへと向かってくるミスティアに大声で言った。
「泳ぎ方覚えよう!」
「嫌!」
夏の日差しを全身に浴び、湖のほとりに立つあたいを呼んでいた。隣のミスティアも聞こえただろう。向こう岸を指さし、あたいは高らかに宣言した。
「あそこまで泳ぐ!」
「えぇ!私泳げないよ」
こっそり逃げ出そうとするミスティアの背中を叩く。手加減したのだが一メートルほど吹っ飛び、地面に倒れた。涙目でこちらを見てくるがスルーだ。あたいには秘策がある。これを教えたら夜雀でも泳げるはず。
「さぁ、着替えよう」
「ひぃ……」
スク水に着替えた。準備体操を終え、万全の体調だ。これからすることを考えると胸が弾む。震えているミスティアを置いてきぼりにして、あたいは湖に向かって走り、大の字でダイブした。水中は薄暗く、深くなるにつれより暗くなっていく。身体のあちこちが痛いが気分がいい。冷たいと思っていたが、夏の太陽に温められた湖は温水プールと化していた。これなら大丈夫だ。浮上してミスティアを呼ぶ。
「大丈夫、入ろう」
「チルノちゃん、やっぱりやめない?深いよこの湖」
俯いてぶつぶつと文句を言う夜雀。
こんなだから、あたい達はなめられるんだ!
あの日の屈辱を忘れたのか。湖の近くに住む妖精達が「チルノ自分のこと『最強』って言ってるけど、凄いことしたわけじゃないよね」「よね。あとミス……誰だったっけ」と噂していたのを耳にした日のことを。思い出すだけで腹が立つ。隠れてあたい達を見ている妖精たちに泳ぎ切るところを見せて、ぎゃふんと言わせるんだ。その為にミスティアには泳ぎ方を覚えてもらう。
「手を貸すから入って」
岸まで近づき、手を差し伸べる。ミスティアが握ったその時。
「えい」
手を引っ張った。油断していたのか、水しぶきを上げ無抵抗で水の中へ。溺れまいと水面を叩いて暴れる姿は新鮮だ。浮かんだかと思いきや沈んでいく。死なれても困るので腕を掴み、抱き寄せた。ミスティアの震えが身体に伝わってくる。水で焦る友達を見るのは恥ずかしい。あたいが泳ぎ方を教えなければいけない。ミスティアの目を見て言い放った。
「あたいの泳ぎ方を教えよう」
「え?」
この泳法を思いついたのは数日前のこと。その日、あたい達は寺子屋で慧音の授業を受けていた。水泳の授業であっても、慧音は座学で行う。頭の固いワーハクタクだ。
「えー水泳の歴史は……」
眠気に耐えながらつまらない授業を聞いていた。意識が飛ぶせいで断片しかわからないが、慧音が好きそうなことを教えているのだろう。いいから泳がせてよ、と内心思ったが声には出さない。大人だから。
「これは応用だが、クイックターンというテクニックがあって」
かっこいい言葉を聞いて眠気が吹っ飛んだ。応用、クイックターン、テクニック。そういうのを早く教えてほしい。
「折り返しのとき、壁の近くで回転して壁を蹴ることによって、手でタッチするより速くなる」
回転して壁を蹴ったら速くなるのか。今すぐ、水着に着替えて確かめてみたい。
「これは競泳のテクニックだから重要じゃない。忘れてくれてもいい」
慧音が何か言っていたが、妄想にふけっていたので聞き取れなかった。
「それから数日練習して仕上げてきた」
「チルノちゃん、嫌な予感がするのは気のせい?」
怯えた顔でそう言うミスティア。
友達を信じられないのか、薄情な奴だ。
「言葉で説明するより見せた方が早いよね」
ミスティアを湖から上がらせた後、水中に潜り込む。壁の近くにより、あたいは鼻で息を吐きながら回転した。
「まだまだ!」
スピードを上げて回転し続ける。あたいを中心にした渦巻きができた。そろそろだ。
「は!」
思いっきり壁を蹴る。水が爆発した音とともに、ロケットのように発射。気を付けの姿勢で泳いでいく。回転エネルギーを一気に放出することによって驚異的なスピードを出せるのだ。原理はわからないが前進すれば何でもいい。水の抵抗で目があけられないから、どこに行っているのかわからないのが欠点だけどね。けど、大丈夫。あたいの辞書に間違いの文字はない。
景気づけにスペルカードを使おう。芸術性も大事だし。
「凍符『パーフェクトフぼぼぼ!」
開けた口に水が入ってくる。このままだと溺れてしまう。酸素を求めて急浮上し、空中へ飛びだした。その時、どうやったら止まるのかわからないことに気づいた。いや、問題ない。向こう岸に着けば止まる。水中へ戻り加速していく。もうすぐ向こう岸だ、と直感した。ラストをどう飾るか。壁にタッチしてゴールするのが普通だろう。ただ、止まらないのでこのままだと壁に刺さる。なら空を飛ぼう!スピードが落ちたあと着地すればいい。
「ぶは」
波を立てて浮かび上がり、勢いそのままに空へと躍り出る。辺りを確認するために目を開けるとそこにあったのは、紅魔館だった。いつの間にか別の方向に行ってしまったのか。
想定外だが最高のフィナーレだ。頭で門を突き破り建物に激突した。
翌日、幻想郷中に激震が走った。妖精が紅魔館に宣戦布告した、と新聞に取り上げられたのだ。里ではこの話題で持ち切り。名だたる妖怪たちが事態に混乱している。この混乱は湖に住む妖精たちにも及んだ。湖にあたいが来ると、あっという間に妖精たちに囲まれた。
「まさか、チルノがそんなことをするなんて」
「チルノは最強、いや最恐の妖精だよ」
「チルノ万歳、チルノ万歳」
尊敬と恐れが混じった妖精たちの目。心地よい声援。あたいの力を見せつけることに成功したみたいだ。そういえば他にも目的があったような。考えていると、後ろからミスティアの声が聞こえた。
「置いていかないでよー」
ああ。思い出した。あたいは振り向き、走ってこちらへと向かってくるミスティアに大声で言った。
「泳ぎ方覚えよう!」
「嫌!」
1行目からパワーがあふれていてそのまま一気に最後まで読んでしまいました
最後まで勢いがあってよかったです