ある秋の日の朝のこと。
「ねぇーさーん」
穣子の呼ぶ声に呼ばれて静葉が部屋の前にやってくる。
「どうしたの」
「助けてー」
静葉が再度「どうしたの」と、聞き返すも穣子は情けない声で「助けてー」というだけである。このままではらちがあかないので静葉は、部屋に入って直接確かめることにした。
「入るわよ」
静葉が一声かけて彼女の部屋に入ると中は薄暗い。静葉が障子戸を開けると、朝日に照らされ彼女の目に飛び込んできたのは、はち切れんばかりの肉の塊となった穣子だった。
頬はお多福のようにまんまるに膨れ上がり、腹は布袋様も羨むような見事な太鼓腹。そのためかいつもより手足が小さく見える。
「いったいなにごとなの」
思わず唖然とした静葉が尋ねると、穣子は煮え切らない様子で答える。
「えーと。なんていうかその」
ふと静葉が彼女の周りを見渡すと、食べかけのきのこやクルミなど、秋の味覚が畳に転がっている。それを見て静葉は察した。
「さては秋度を吸収し過ぎたわね?」
「え、それはその」
「正直に言いなさい」
静葉の圧に、観念したように穣子は「うん」と、小さく頷く。静葉は思わずため息をつく。
「まったく。そんな体になっちゃって。神様としてあるまじき姿よ」
「そう言われても」
と、穣子は思わず頭をかく。頭をかくたびに全身の肉がふよんふよんとリズミカルに踊る。
「とりあえず、まず部屋から出なさい」
「へーい」
穣子はその巨体を揺らしながら部屋の外へ出ようとするが、入り口に腹がつっかえてしまう。
「あ、出られない」
「もう、何やってるのよ」
呆れた様子で静葉は彼女を押す。
「いたいいたいいたい。ちょっと痛いってば」
静葉は彼女の言葉を無視して平手でぎゅうぎゅう押し続けたが、一向に出られる気配はない。
仕方ないので今度は彼女を引っ張るも、どうやら入り口に、はさまってしまったようで抜けなくなってしまった。
「ちょっと、私も閉じ込められてしまったじゃないの」
「姉さんが無理矢理押したからでしょ。私のせいじゃないもん」
どう考えてもそんな体になってしまったあなたのせいでしょ。と、静葉は思うが、あえて口に出すのはやめた。
こんな姿になってしまったとはいえ、彼女は妹。ここは姉の自分が一肌脱いでやらねばという使命感に彼女は駆られていた。彼女を救い出す方法は何か無いかと静葉は考え始める。
「ねぇーさん。もう私ここから出られないのかな。一生入り口に挟まったままなのかなぁ。……そんなのやだよぉー」
悲しそうな声で姉に訴える穣子。体型のせいかその声はいつもより若干野太い。良い相撲甚句が歌えそうな声ではある。
そんなことを思いながら、静葉は思考を張り巡らせていたが、やがて思いついたのか手をポンッとたたく。
「私にいい考えがあるわ」
「いい考え? 大丈夫なのそれ」
穣子が不安そうに尋ねると、静葉はふっと笑みを浮かべる。
「大丈夫よ。姉さんに任せなさい」
「ちなみに、どんな方法なの」
「こうするのよ」
と、言いながら彼女はじりじりと後ろに下がっていく。
「な、何する気よ」
いよいよ嫌な予感がした穣子が尋ねると、静葉は軽く屈伸をしながら答える。
「あなたがそんな体になった理由は秋度を取り過ぎたため。それならその秋度を追い出せばいいのよ」
「追い出すってどうやって」
「こうやってよ」
静葉は勢いをつけて穣子に向かっていくと、飛び上がって蹴りを放つ。
「静葉きりもみ反転きーっく」
華麗な二段蹴りが穣子に炸裂する。
「イヤァーーーーー!!?」
彼女は断末魔とともにどーんと爆発し、その爆発で家が半壊する。
その跡には、がれきに混じって元の姿に戻った穣子が倒れていた。
それを見た静葉は満足そうに笑みを浮かべる。
彼女は穣子から余分な秋度を追い出すために、自分の蹴りを利用した。
自分の蹴りには紅葉を散らす効果がある。紅葉を散らすということは、秋度を散らす効果もあるのではないかと考えたのだ。
彼女の予想は的中し、穣子から秋度を追い出し、元の姿に戻すことが出来たというわけだ。
「一件落着ね」
静葉はそう言って、倒れている穣子をバックに勝利のポーズを決めるのだった。
――次の日
壊れた家の修復をしていた二人はある異変に気づく。
家のあちこちからキノコが生えているのを見つけたのだ。しかもキノコだけではなく、クルミや栗までもが家の天井やら床やらに生えていた。これはいったいどういうことかと思わず目を白黒させる二人。
実は穣子から飛び散った秋度が家中に広がり、そこから秋の味覚が生じてしまったのだ。
「こんなこともあるのね」
と、思わず唖然とする静葉の横で穣子は、おもむろに床に生えてるキノコを食べ始める。
すかさず静葉が彼女に言う。
「また太っても知らないわよ」
すかさず穣子は彼女に言い返す。
「いやあ、それはわかってるけど。秋度がたっぷり染みついた家から生えた食べ物が美味しくないわけないじゃない。食べなきゃ損よ。それに」
「それに?」
「このままにしておいたら今度は姉さんが、食べ過ぎで太ってしまうかもしれないでしょ? だからそうなる前に処理しなきゃね」
と言って再び食べ始める穣子。静葉は思わず天を仰いで呆れたように呟いた。
「……そりゃ、馬も肥えるわけだわ」
「ねぇーさーん」
穣子の呼ぶ声に呼ばれて静葉が部屋の前にやってくる。
「どうしたの」
「助けてー」
静葉が再度「どうしたの」と、聞き返すも穣子は情けない声で「助けてー」というだけである。このままではらちがあかないので静葉は、部屋に入って直接確かめることにした。
「入るわよ」
静葉が一声かけて彼女の部屋に入ると中は薄暗い。静葉が障子戸を開けると、朝日に照らされ彼女の目に飛び込んできたのは、はち切れんばかりの肉の塊となった穣子だった。
頬はお多福のようにまんまるに膨れ上がり、腹は布袋様も羨むような見事な太鼓腹。そのためかいつもより手足が小さく見える。
「いったいなにごとなの」
思わず唖然とした静葉が尋ねると、穣子は煮え切らない様子で答える。
「えーと。なんていうかその」
ふと静葉が彼女の周りを見渡すと、食べかけのきのこやクルミなど、秋の味覚が畳に転がっている。それを見て静葉は察した。
「さては秋度を吸収し過ぎたわね?」
「え、それはその」
「正直に言いなさい」
静葉の圧に、観念したように穣子は「うん」と、小さく頷く。静葉は思わずため息をつく。
「まったく。そんな体になっちゃって。神様としてあるまじき姿よ」
「そう言われても」
と、穣子は思わず頭をかく。頭をかくたびに全身の肉がふよんふよんとリズミカルに踊る。
「とりあえず、まず部屋から出なさい」
「へーい」
穣子はその巨体を揺らしながら部屋の外へ出ようとするが、入り口に腹がつっかえてしまう。
「あ、出られない」
「もう、何やってるのよ」
呆れた様子で静葉は彼女を押す。
「いたいいたいいたい。ちょっと痛いってば」
静葉は彼女の言葉を無視して平手でぎゅうぎゅう押し続けたが、一向に出られる気配はない。
仕方ないので今度は彼女を引っ張るも、どうやら入り口に、はさまってしまったようで抜けなくなってしまった。
「ちょっと、私も閉じ込められてしまったじゃないの」
「姉さんが無理矢理押したからでしょ。私のせいじゃないもん」
どう考えてもそんな体になってしまったあなたのせいでしょ。と、静葉は思うが、あえて口に出すのはやめた。
こんな姿になってしまったとはいえ、彼女は妹。ここは姉の自分が一肌脱いでやらねばという使命感に彼女は駆られていた。彼女を救い出す方法は何か無いかと静葉は考え始める。
「ねぇーさん。もう私ここから出られないのかな。一生入り口に挟まったままなのかなぁ。……そんなのやだよぉー」
悲しそうな声で姉に訴える穣子。体型のせいかその声はいつもより若干野太い。良い相撲甚句が歌えそうな声ではある。
そんなことを思いながら、静葉は思考を張り巡らせていたが、やがて思いついたのか手をポンッとたたく。
「私にいい考えがあるわ」
「いい考え? 大丈夫なのそれ」
穣子が不安そうに尋ねると、静葉はふっと笑みを浮かべる。
「大丈夫よ。姉さんに任せなさい」
「ちなみに、どんな方法なの」
「こうするのよ」
と、言いながら彼女はじりじりと後ろに下がっていく。
「な、何する気よ」
いよいよ嫌な予感がした穣子が尋ねると、静葉は軽く屈伸をしながら答える。
「あなたがそんな体になった理由は秋度を取り過ぎたため。それならその秋度を追い出せばいいのよ」
「追い出すってどうやって」
「こうやってよ」
静葉は勢いをつけて穣子に向かっていくと、飛び上がって蹴りを放つ。
「静葉きりもみ反転きーっく」
華麗な二段蹴りが穣子に炸裂する。
「イヤァーーーーー!!?」
彼女は断末魔とともにどーんと爆発し、その爆発で家が半壊する。
その跡には、がれきに混じって元の姿に戻った穣子が倒れていた。
それを見た静葉は満足そうに笑みを浮かべる。
彼女は穣子から余分な秋度を追い出すために、自分の蹴りを利用した。
自分の蹴りには紅葉を散らす効果がある。紅葉を散らすということは、秋度を散らす効果もあるのではないかと考えたのだ。
彼女の予想は的中し、穣子から秋度を追い出し、元の姿に戻すことが出来たというわけだ。
「一件落着ね」
静葉はそう言って、倒れている穣子をバックに勝利のポーズを決めるのだった。
――次の日
壊れた家の修復をしていた二人はある異変に気づく。
家のあちこちからキノコが生えているのを見つけたのだ。しかもキノコだけではなく、クルミや栗までもが家の天井やら床やらに生えていた。これはいったいどういうことかと思わず目を白黒させる二人。
実は穣子から飛び散った秋度が家中に広がり、そこから秋の味覚が生じてしまったのだ。
「こんなこともあるのね」
と、思わず唖然とする静葉の横で穣子は、おもむろに床に生えてるキノコを食べ始める。
すかさず静葉が彼女に言う。
「また太っても知らないわよ」
すかさず穣子は彼女に言い返す。
「いやあ、それはわかってるけど。秋度がたっぷり染みついた家から生えた食べ物が美味しくないわけないじゃない。食べなきゃ損よ。それに」
「それに?」
「このままにしておいたら今度は姉さんが、食べ過ぎで太ってしまうかもしれないでしょ? だからそうなる前に処理しなきゃね」
と言って再び食べ始める穣子。静葉は思わず天を仰いで呆れたように呟いた。
「……そりゃ、馬も肥えるわけだわ」
デブりこ様が丸まってて愛らしかったです
これは信仰もうなぎ上り