紅魔館では毎週パーティーが開かれている。
なぜ毎週パーティーを開いているのかと言えば、退屈しのぎに近くそこに大した理由などはないというのが、客観的に誰もが感じている事実に近いことと思う。
毎度、主人にして主催者のレミリアから「今日は紅魔館のパーティーに来てくれてありがとう」といった挨拶が行われ、そこにはパーティーのお題目も当然含まれる。
最初こそ「たまたま異変解決後の宴の主催を司ることになったパーティー」とか、「誰それの誕生日パーティー」とか、そこそこ妥当性のある時にしか開かれていなかったそれが、なんだか楽しいのでとなし崩し的に機会が増え、毎週開くようになってから暫くすると、「今日は妹のフランドールがピーマンを食べられるようになった記念パーティー(もう、お姉さま、他にもっと何かなかったの)(マジでもうないのよ)に来てくれてありがとう」といったような、形骸化まるだしの様相となっていった。
パーティーは今週も開かれる。レミリアは若干のマンネリを含んだ様子を見せつつも、それでもまだまだ楽しそうに「今日は美鈴の育てた苺が一杯採れたのでみんなで頂きましょうパーティーに来てくれてありがとう」と言った。
特に最近は、事前に何のパーティーであるかなどということは明かされたりしないので、ここ数回以内では一番楽しそうなそのお題目に参加者たちはサプライズを感じて喜んだ。
それは夜の屋外にて実施された。苺狩りという形で。
夜の苺狩り。夜目の利く連中ばかりが集まるので、少ない人族にはランタンが配られた。実に味の深いことだ。趣の。
レミリアが苺を口にして、そのおいしさに頬を苺色に染めていると、パーティーのドレスコードを満たしていないものが目に入った。レミリアはそれらを知っている。
よく遊びに来る氷の妖精と闇の妖怪。
一応、このパーティーに参加するような者たちは、ただその事実だけで見栄を張れるような人物が多い。
紅魔館の主催する催しに、いい恰好して羽振り良くするだけでも十二分に箔がつくということで、少しずつ少しずつ格式のような、暗黙の何かが積みあがって行ったのだ。
そうなると、小汚いガキがうろついているというのはあまり宜しいことではなかった。レミリア個人の趣味はさておいて。
そしてレミリアは公私をわきまえることのできる女だったので、メイド長を呼んでやんわりと立ち去っていただいた。手土産に苺を持たせて。
去り際闇の妖怪、名前をルーミアと言うが、ルーミアは苺を一口も食べずに、氷の妖精、チルノがそれを腕白に頬張っているのをしげしげ見ていた。
その時、ルーミアは苺に対して、近くで見ていたら具合が悪くなるような悪魔的な形状の植物だと漏らした。
レミリアはそれを聞いて、口に運ぶはずだった三個目の苺を、ルーミアがそうしたように観察してみた。
赤い果肉は人の生首か心臓のようであり、ツブツブツブツとひしめいている種は、それぞれを認識すると、そう、それはレミリアには具体的にそれと感ずることこそできないが、諸君に説明するならば、ふと人間が余りにも夥しく存在していることを認識して吐き気を催すような、そういった嫌悪感を齎さなくもなかった。
それによって苺をより一層好ましいと感じたレミリアは、ルーミアもきっとそういうところが気に入ったのだろうと合点した。
皆が夜な首をそろえて中腰になり、苺を摘んで口に運ぶ営みを、おそらく誰もが幸せとして享受しているのだと思って、胸がいっぱいになった。
妹のフランドールは、何があってもいっとう目立っていた。羽がしゃらしゃらとこすれ輝くために。
ただ何かを食べているというだけでも美しすぎるので、周囲が見惚れてしまっている。
尤もレミリアからすれば、斯様に吸血鬼の魅力を開け放って振舞うというのは、裸で恥じらいもなく歩き回るようなもので、慎みを教え切れない己の不徳だと自戒するものでしかない。
そういった調子で姉の傍まで寄ったフランドールは、いつも仲間はずれではあんまり可哀そうじゃありませんかと言って、レミリアの両手を握って手遊びした。
それはレミリアも常々思っていることだった。
しかし、これは紅魔館の者たちの共通認識でもあり、実際的を射ていたのだが、ルーミアとチルノは特に己らの処遇に関して不満を抱いては居なかった。
彼女らは単に少しの非日常とおやつを求めて寄り付いただけであり、それは彼女ら自身にとっても、周囲にとっても明らかなことだったのだ。
つまり、それでもこの姉妹が可哀そうと思っているのは、このパーティに出られるだけの何かを手に入れてやるという熱を持っていないということだった。
そして、それが誇り高い一族の持つ一方的な"驕り"に過ぎないことも、姉妹たちは自覚していた。
来週も再来週も、きっとパーティーは開くだろう。紅魔館ではパーティーが開かれているだろう。しかし、あの二人が品を身に着け、己の力で着飾ってこのパーティに参加することはきっとない。彼女らは単に、いつまでも愚かな愛すべき幼女たちでしかない。
それでも、とレミリアとフランドールは思う。チルノが聞いてきたことがあるからだ。
スプーンの使い方を教えろと。それはチルノからすれば、単に手で食べるよりフードロスが少ないという意地汚さから来るものだったかもしれない。
それに、ここでの静けさを楽しむ心を理解しているように思うことだ。意外なことに、彼女たちは催しの最中不躾に騒いだりしたことがない。
だからそれでも、と思う。
フランドールは姉の固い対応をなじって、レミリアは妹の奔放な様子にため息を付く。
この退屈しのぎのパーティーに、先の楽しみという花を添えるために。
その内、昇ろうという熱を楽しむ己たちにも、近頃は退屈を潰すことばかりでその熱が無いと気付く日が来るかもしれない。
しかしそれまでは。少なくともそうなるまでの暫しの間は。
紅魔館ではパーティーが開かれている。
なぜ毎週パーティーを開いているのかと言えば、退屈しのぎに近くそこに大した理由などはないというのが、客観的に誰もが感じている事実に近いことと思う。
毎度、主人にして主催者のレミリアから「今日は紅魔館のパーティーに来てくれてありがとう」といった挨拶が行われ、そこにはパーティーのお題目も当然含まれる。
最初こそ「たまたま異変解決後の宴の主催を司ることになったパーティー」とか、「誰それの誕生日パーティー」とか、そこそこ妥当性のある時にしか開かれていなかったそれが、なんだか楽しいのでとなし崩し的に機会が増え、毎週開くようになってから暫くすると、「今日は妹のフランドールがピーマンを食べられるようになった記念パーティー(もう、お姉さま、他にもっと何かなかったの)(マジでもうないのよ)に来てくれてありがとう」といったような、形骸化まるだしの様相となっていった。
パーティーは今週も開かれる。レミリアは若干のマンネリを含んだ様子を見せつつも、それでもまだまだ楽しそうに「今日は美鈴の育てた苺が一杯採れたのでみんなで頂きましょうパーティーに来てくれてありがとう」と言った。
特に最近は、事前に何のパーティーであるかなどということは明かされたりしないので、ここ数回以内では一番楽しそうなそのお題目に参加者たちはサプライズを感じて喜んだ。
それは夜の屋外にて実施された。苺狩りという形で。
夜の苺狩り。夜目の利く連中ばかりが集まるので、少ない人族にはランタンが配られた。実に味の深いことだ。趣の。
レミリアが苺を口にして、そのおいしさに頬を苺色に染めていると、パーティーのドレスコードを満たしていないものが目に入った。レミリアはそれらを知っている。
よく遊びに来る氷の妖精と闇の妖怪。
一応、このパーティーに参加するような者たちは、ただその事実だけで見栄を張れるような人物が多い。
紅魔館の主催する催しに、いい恰好して羽振り良くするだけでも十二分に箔がつくということで、少しずつ少しずつ格式のような、暗黙の何かが積みあがって行ったのだ。
そうなると、小汚いガキがうろついているというのはあまり宜しいことではなかった。レミリア個人の趣味はさておいて。
そしてレミリアは公私をわきまえることのできる女だったので、メイド長を呼んでやんわりと立ち去っていただいた。手土産に苺を持たせて。
去り際闇の妖怪、名前をルーミアと言うが、ルーミアは苺を一口も食べずに、氷の妖精、チルノがそれを腕白に頬張っているのをしげしげ見ていた。
その時、ルーミアは苺に対して、近くで見ていたら具合が悪くなるような悪魔的な形状の植物だと漏らした。
レミリアはそれを聞いて、口に運ぶはずだった三個目の苺を、ルーミアがそうしたように観察してみた。
赤い果肉は人の生首か心臓のようであり、ツブツブツブツとひしめいている種は、それぞれを認識すると、そう、それはレミリアには具体的にそれと感ずることこそできないが、諸君に説明するならば、ふと人間が余りにも夥しく存在していることを認識して吐き気を催すような、そういった嫌悪感を齎さなくもなかった。
それによって苺をより一層好ましいと感じたレミリアは、ルーミアもきっとそういうところが気に入ったのだろうと合点した。
皆が夜な首をそろえて中腰になり、苺を摘んで口に運ぶ営みを、おそらく誰もが幸せとして享受しているのだと思って、胸がいっぱいになった。
妹のフランドールは、何があってもいっとう目立っていた。羽がしゃらしゃらとこすれ輝くために。
ただ何かを食べているというだけでも美しすぎるので、周囲が見惚れてしまっている。
尤もレミリアからすれば、斯様に吸血鬼の魅力を開け放って振舞うというのは、裸で恥じらいもなく歩き回るようなもので、慎みを教え切れない己の不徳だと自戒するものでしかない。
そういった調子で姉の傍まで寄ったフランドールは、いつも仲間はずれではあんまり可哀そうじゃありませんかと言って、レミリアの両手を握って手遊びした。
それはレミリアも常々思っていることだった。
しかし、これは紅魔館の者たちの共通認識でもあり、実際的を射ていたのだが、ルーミアとチルノは特に己らの処遇に関して不満を抱いては居なかった。
彼女らは単に少しの非日常とおやつを求めて寄り付いただけであり、それは彼女ら自身にとっても、周囲にとっても明らかなことだったのだ。
つまり、それでもこの姉妹が可哀そうと思っているのは、このパーティに出られるだけの何かを手に入れてやるという熱を持っていないということだった。
そして、それが誇り高い一族の持つ一方的な"驕り"に過ぎないことも、姉妹たちは自覚していた。
来週も再来週も、きっとパーティーは開くだろう。紅魔館ではパーティーが開かれているだろう。しかし、あの二人が品を身に着け、己の力で着飾ってこのパーティに参加することはきっとない。彼女らは単に、いつまでも愚かな愛すべき幼女たちでしかない。
それでも、とレミリアとフランドールは思う。チルノが聞いてきたことがあるからだ。
スプーンの使い方を教えろと。それはチルノからすれば、単に手で食べるよりフードロスが少ないという意地汚さから来るものだったかもしれない。
それに、ここでの静けさを楽しむ心を理解しているように思うことだ。意外なことに、彼女たちは催しの最中不躾に騒いだりしたことがない。
だからそれでも、と思う。
フランドールは姉の固い対応をなじって、レミリアは妹の奔放な様子にため息を付く。
この退屈しのぎのパーティーに、先の楽しみという花を添えるために。
その内、昇ろうという熱を楽しむ己たちにも、近頃は退屈を潰すことばかりでその熱が無いと気付く日が来るかもしれない。
しかしそれまでは。少なくともそうなるまでの暫しの間は。
紅魔館ではパーティーが開かれている。
面白かったです
苺ってそういう見方もあるのか
惰性で続けているパーティーに刺激をもたらすのが、パーティーに参加もできないチルノたちだったというところに情緒を感じました
いかにも夜に運動会するような妖怪的なヒマな集まりに焦点を当てたような(まんま)筆致が良いですね