Coolier - 新生・東方創想話

一人のヒトの死

2022/10/17 21:41:09
最終更新
サイズ
3.75KB
ページ数
1
閲覧数
1063
評価数
2/4
POINT
270
Rate
11.80

分類タグ

 はっ、と目が覚めた。
 ここはどこだ。
 目の前は木、木、木だらけ。
「どこ、どこなの……?」
 私の服装はよくあるスカートタイプのスーツ。パンプスのせいで上手く歩けない。
 木があるということは森なのか?
 今の時間は分からないが、少し日が沈みかけている。ここの森から家に帰らなければ。
「だ、誰かいませんかー!」
 少し声を上げてみる。しん……と何も返ってこない。
「どうすればいいの……」
 途方に暮れたその時。後ろからガサガサと音が聞こえてきた。
「ああ、外来人……外来人がいるゾォ」
「殺していい?殺していい?」
「あの足たべたらうまいんだろうナァ」

 ……え。今なんて。

「あらあら動かないそうよ、よっぽど食べて欲しいのね」
「追い付いたやつが独り占めなァ」

 まって。私。

 たべられるの?

 悲鳴にならない声を上げて私は走り出した。
 いやだ、いやだ!!私はたべられたくなんかない!
 死にたくなんかない!

「外来人が逃げたぞ!ほらほら追いかけよう!」
「ひひひ……いい夜になりそうねぇ」

 後ろからナニカの気配を感じる。
 絶対に振り向かない。振り向けない。
 
 パンプスを脱ぎ捨てた。
 ストッキングが足裏から断線した。
 スーツの上着は脱ぎ捨てた。
 ただひたすら走る。
 ボコボコ突起した石、走りにくい土壌。
 痛くても痛くても走る足は止められない。止めた瞬間に殺されてしまう!
 運動不足だった体は10分も走っていると息が上がる。

「うわぁっ!」
 石に躓いて転んでしまう。
 後ろから声がする。
「おやおや、これで追いかけっこは終わりかい?」
「転んだ!転んだ!」
 
 瞬間。
 私の左手が無くなっていた。

「ア、ああああ……!!」
 血が吹きでる。痛い。痛い。イタイ!
 ばり、ばりと音が聞こえる。
 私は何も聞いてない。聞いてない。
「う、ううう」
 痛いけど立ち上がらないと。私は死にたくなんかない!
 ふらふらと立ち上がって駆けていく。
 ぼたぼたと血を流しながら。

 まだ黒い世界。月だって見ていない世界。私には恐怖でしかないせかい。
 なによここ。
 どこよここ。
 いやだ、嫌。死にたくない。

 ただその気持ちだけで森を走っている。
 血はただ垂れ流したまま。
 後ろの惨状なんて目を背けたまま。

 どれだけ走っただろうか。
 なにか開けた場所に来る。広場だろうか。
 日が、あける。
 私はぐらり、そのまま倒れ込んで気を失った。

~~~

 人里の朝は早い。
 日が開けだした頃には目が覚めて動き始める。
 今日は朝餉を作ろうか、と水を組みに外に出た。
 広場で誰か倒れているのが見えた。
 おびただしいほどの赤色が見える。
 俺以外にも近所の住人たちが目を覚まし、同じように遠目に倒れている人を見ている。
 異物でしかない、自分たちの生活のノイズをただ黙って見ていた。

「う、ううう……」

 血溜まりの中の呻き声は女。
 奇天烈な服装をした女は血に塗れた顔で助けを求めてきた。

「た、助けてください!な、なにかに襲われて!」

 しん……と広場は静かになる。
 ざっと10人ほどいただろうか。誰も声を上げない。
 ああ、コイツは外来人か。
 俺を含む10人は女に興味を失った。
 コイツを助けても意味は無い。
 むしろ生活を圧迫する要因にしかならない。そんなやつを誰が助ける?助けるわけが無い。
 無言で眺めていた人々は背を向けた。
 
「さー仕事始めるかな」
「俺も水汲み行かねぇとな」
「朝餉をつくるとするかね」

 がやがや、声は女から離れていく。
 資源を食い潰す虫けらは俺たちの生活に要らないのだ。


 ~~~


 私は助けを求めたのに。
 誰も助けてくれない。
 なんで。なんで。
 10人ぐらいいた人たちとは目が合ったはず。
 それなのに。なにか気づいた瞬間に興味を失った無表情になってどこかに行ってしまった。

 私はどこでもダメなのか?私は生きたいだけ。
 助けてくれないのか!?

「うあああ……ああああ……!!」

「うるさい」
 後ろからドゴッと音が聞こえたかと思うと視界が暗くなった。


 ~~~


 気絶した女を麻布を顔に巻き、縄で縛り付け捨てた。
 外来人は要らないのだ。妖怪たちに食べてもらうことにしよう。
 崖下に投げ捨てる。
 もうコイツは死んでいるのと同じなのだ。
 下の方からドンッと音が聞こえた。死んでいるだろう。それでいい。そのほうがいい。

 さようなら、名も無き女。
 誰にも助けて貰えなかった女。


END
彼女はどこに行ってしまったんでしょうね?
じゅり朱色
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.90簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
良かったです
4.90南条削除
ままならないお話でした