人里で風邪が流行し、永遠亭に薬の発注が大量に舞い込んだ。八意永琳が風邪の特効薬を作り、鈴仙・優曇華院・イナバが出来たての薬を人里で売る。その甲斐あって、流行病は2週間ほどで下火になった。
しかし非常事態が2週間も続けば、皺寄せが発生する。仕事の疲れは鈴仙ご自慢の紫髪を痛めつけ、大きな耳をシワシワにした。
「もうやだ……」
今日も人里へと向かうべく姿見で身なりを確認した鈴仙は、自身の痛々しい姿を見て辛そうに零し、さらに耳をシワシワにさせた。
「でも、もう一踏ん張り……もう少しで、収まるはず……」
行商服姿の鈴仙は気力のかけらも無い声で気を引き締めると、髪をまとめ、笠の中へ耳と共にしまい込んだ。
「師匠ー、行ってきますねー……」
「気をつけていってらっしゃい」
鈴仙は、2週間薬を作り続けているにも関わらず疲れのつの字も無さそうな永琳に声をかけて、人里へと向かった。
「……落ち着いたらあの子には休暇を与えないとね」
疲れが隠せていない鈴仙を見た永琳はそう呟きながら戸棚からドリンク剤を取り出すと、一息に飲み干した。
人里。風邪が流行り始めた頃にロックダウンがあったものの、下火になりつつあることから経済活動は再び始まっており、買い物する人間や甘味処でお茶をする人妖など、活気を取り戻しつつある。
「あっ鈴仙!」
「ウドンゲ、お仕事大変そうね」
甘味処の横を通りがかったところで、鈴仙は魂魄妖夢と十六夜咲夜に声をかけられた。
「あっ二人とも……」
鈴仙は少しにこりと口角をあげることで精一杯だ。
「大変そうですね……」
「落ち着いたら、紅魔館(うち)で紅茶でも飲みましょ」
鈴仙の表情を見た二人は申し訳なさそうに声をかける。鈴仙は「ううん、気にしないで。私にとっての生きがいみたいなものだし……」と元気なさそうに答える。
「じゃあ、みんなが待ってるから……」
鈴仙は笠を外して一礼すると、手を振りながら甘味処を後にし、民家へと向かっていった。
「鈴仙さん、髪の毛が……」「あんなに綺麗だったのに……」
笠を外したとき、妖夢と咲夜の目には痛みでボロボロになった鈴仙の髪の毛が目に入った。
「……そうだ! 咲夜、こういうのはどう?」
何かを思いついた妖夢は、咲夜に相談する。咲夜は「賛成!」と答えると、二人は人里の雑貨屋・スーパーマーケット・電気屋へと順に入っていった。
日もすっかり暮れた幻想郷。ようやく薬を配り終え、くたくたになった鈴仙が永遠亭へと戻ってきた。
「ただいま…… あれ? これは妖夢と咲夜の靴?」
「おう、お帰り。なんかあんたの友達が来てるんだけど」
鈴仙がここにあるはずのない靴を見て困惑していると、中から現れたのは因幡てゐ。
「二人はキッチンにいるよ」
てゐに告げられた鈴仙は、キッチンへと向かい、てゐは「じゃあ私はイナバたちのご飯用意するから」と、永遠亭の庭にいるイナバたちの元へ向かった。
「お帰り鈴仙さん」「お疲れ様、ウドンゲさん」
てゐに促されてキッチンに行くと、そこには妖夢と咲夜の姿があった。ダイニングには、美味しそうな品々が数え切れないほどに並んでいた。
「どうしたの? 二人とも。それにこれは……?」
鈴仙は驚きの声を上げた。
「鈴仙が疲れてるのを見てね。少しでも力になれたらって」
「ウドンゲは毎日ご飯も作ってるらしいじゃない。ゆっくりしていってね」
妖夢と咲夜は揚げ物を作りながら、さらりと答えた。
「妖夢……咲夜……!」
二人の言葉を聞いた鈴仙は、赤い瞳をじわっと潤ませた。
久々の豪華な食事は、鈴仙・永琳・てゐ・蓬莱山輝夜の胃袋を至福で満たした。
「仕方の無いことだけど、風邪が流行りはじめてからまともな食事を食べれてなかったの。今日は本当にありがとう」
食後の永遠亭の客室で、輝夜は妖夢と咲夜に深々とお辞儀をした。横に控える鈴仙もさらに深々とお辞儀した。
「気にしないで下さい、料理は好きですし」
「我が家はこの二倍なので、これぐらい平気です」
妖夢と咲夜が輝夜に答えると、二人はそれぞれ隣に置いていた紙袋を鈴仙の前に置いた。
「あと鈴仙、これ、もらってくれる?」
「何ですか? これは」
「もしかしたら合わないかもしれないけど、中を見てくれる?」
鈴仙は紙袋を開ける。そこに入っていたのは、高級なトリートメントとヘアアイロンであった。
「これは……?」
「鈴仙の髪が傷んでるのを見てね。少しでも綺麗になったらなあって思ったの」
「ヘアアイロンもね、綺麗にはなるはずよ」
鈴仙の再び驚いたので、妖夢と咲夜がそれぞれ説明する。
「良いお友達ね、イナバ」
輝夜が鈴仙の頭をそっと撫でる。
「二人とも……ありがとう……!」
鈴仙は大粒の涙を零した。
妖夢と咲夜の食事に加え、高級トリートメントで癒やされた翌日。鈴仙の紫髪は相変わらず痛んでいた。耳もシワシワが少し改善した程度であった。
「2週間の疲れが1日で治るわけ無いよね……」
鈴仙は乾いた笑いを零し、ヘアアイロンを髪に当てた。ヘアアイロンに通された癖のある髪は、一気にストレートになった。
「すごい……! あんなに癖だらけだったのに!」
髪がストレートになったのを見た鈴仙は少しだけ喜ぶと、順にヘアアイロンを髪に当てる。鈴仙はストレートになり纏めやすくなった髪と相変わらずシワシワな耳を笠へとしまい、再び薬を配るべく永遠亭を後にした。
人里へ行くと、買い出し中の妖夢と咲夜がいた。
「二人とも! 昨日はありがとう!」
鈴仙は二人の側へ行くと、笠を外す。笠からは綺麗になった紫髪とシワシワな耳が現れた。
「……髪の毛、綺麗になったね!」
妖夢が声をかける。鈴仙は「トリートメントとヘアアイロンのおかげです!」と、数週間ぶりの笑顔で答えた。
「まだ忙しそう?」
咲夜が尋ねると鈴仙は「峠は越えたけど、もう少しかかりそうかな」と返し、再び笠を被った。
「じゃあ、行ってくるね!」
鈴仙は二人と別れ、民家へと向かっていった。
「鈴仙の耳、まだシワシワでしたね」
「ストレスらしいから、仕方ないわ」
「そうですけど……」
妖夢はシワシワな耳が気になったが、咲夜の言葉の通り、こればかりはどうしようもない。妖夢は一つため息をついた。
翌朝。鈴仙のダメージが癒えた髪の毛に、再びヘアアイロンをかける。
「熱い!!!!!!」
永遠亭に鈴仙の叫び声が響いた。
「何が熱いの?!」
永琳が鈴仙の部屋に氷嚢を持ってすっ飛んでくると、そこにはヘアアイロンを耳に当てる鈴仙の姿があった。
「何やってるの!」
永琳が慌ててコンセントを抜くと、「何バカなことしてるのよ!」と怒号を飛ばした。
「耳のシワシワ、アイロンで取れるかなって思ったんですけど……」
鈴仙は恥ずかしそうに頬を掻くと、「ストレスはどうしようも無いですね……」と諦め混じりに呟いた。
「……暫くはてゐに仕事を任せようと思うから、休んでくれる?」
鈴仙はもはや正常な判断ができていない。そう判断した永琳は一つため息をつきながら提案する。鈴仙は「ありがとうございます……」と呟くと、痛めた耳に氷嚢で冷やした。
しかし非常事態が2週間も続けば、皺寄せが発生する。仕事の疲れは鈴仙ご自慢の紫髪を痛めつけ、大きな耳をシワシワにした。
「もうやだ……」
今日も人里へと向かうべく姿見で身なりを確認した鈴仙は、自身の痛々しい姿を見て辛そうに零し、さらに耳をシワシワにさせた。
「でも、もう一踏ん張り……もう少しで、収まるはず……」
行商服姿の鈴仙は気力のかけらも無い声で気を引き締めると、髪をまとめ、笠の中へ耳と共にしまい込んだ。
「師匠ー、行ってきますねー……」
「気をつけていってらっしゃい」
鈴仙は、2週間薬を作り続けているにも関わらず疲れのつの字も無さそうな永琳に声をかけて、人里へと向かった。
「……落ち着いたらあの子には休暇を与えないとね」
疲れが隠せていない鈴仙を見た永琳はそう呟きながら戸棚からドリンク剤を取り出すと、一息に飲み干した。
人里。風邪が流行り始めた頃にロックダウンがあったものの、下火になりつつあることから経済活動は再び始まっており、買い物する人間や甘味処でお茶をする人妖など、活気を取り戻しつつある。
「あっ鈴仙!」
「ウドンゲ、お仕事大変そうね」
甘味処の横を通りがかったところで、鈴仙は魂魄妖夢と十六夜咲夜に声をかけられた。
「あっ二人とも……」
鈴仙は少しにこりと口角をあげることで精一杯だ。
「大変そうですね……」
「落ち着いたら、紅魔館(うち)で紅茶でも飲みましょ」
鈴仙の表情を見た二人は申し訳なさそうに声をかける。鈴仙は「ううん、気にしないで。私にとっての生きがいみたいなものだし……」と元気なさそうに答える。
「じゃあ、みんなが待ってるから……」
鈴仙は笠を外して一礼すると、手を振りながら甘味処を後にし、民家へと向かっていった。
「鈴仙さん、髪の毛が……」「あんなに綺麗だったのに……」
笠を外したとき、妖夢と咲夜の目には痛みでボロボロになった鈴仙の髪の毛が目に入った。
「……そうだ! 咲夜、こういうのはどう?」
何かを思いついた妖夢は、咲夜に相談する。咲夜は「賛成!」と答えると、二人は人里の雑貨屋・スーパーマーケット・電気屋へと順に入っていった。
日もすっかり暮れた幻想郷。ようやく薬を配り終え、くたくたになった鈴仙が永遠亭へと戻ってきた。
「ただいま…… あれ? これは妖夢と咲夜の靴?」
「おう、お帰り。なんかあんたの友達が来てるんだけど」
鈴仙がここにあるはずのない靴を見て困惑していると、中から現れたのは因幡てゐ。
「二人はキッチンにいるよ」
てゐに告げられた鈴仙は、キッチンへと向かい、てゐは「じゃあ私はイナバたちのご飯用意するから」と、永遠亭の庭にいるイナバたちの元へ向かった。
「お帰り鈴仙さん」「お疲れ様、ウドンゲさん」
てゐに促されてキッチンに行くと、そこには妖夢と咲夜の姿があった。ダイニングには、美味しそうな品々が数え切れないほどに並んでいた。
「どうしたの? 二人とも。それにこれは……?」
鈴仙は驚きの声を上げた。
「鈴仙が疲れてるのを見てね。少しでも力になれたらって」
「ウドンゲは毎日ご飯も作ってるらしいじゃない。ゆっくりしていってね」
妖夢と咲夜は揚げ物を作りながら、さらりと答えた。
「妖夢……咲夜……!」
二人の言葉を聞いた鈴仙は、赤い瞳をじわっと潤ませた。
久々の豪華な食事は、鈴仙・永琳・てゐ・蓬莱山輝夜の胃袋を至福で満たした。
「仕方の無いことだけど、風邪が流行りはじめてからまともな食事を食べれてなかったの。今日は本当にありがとう」
食後の永遠亭の客室で、輝夜は妖夢と咲夜に深々とお辞儀をした。横に控える鈴仙もさらに深々とお辞儀した。
「気にしないで下さい、料理は好きですし」
「我が家はこの二倍なので、これぐらい平気です」
妖夢と咲夜が輝夜に答えると、二人はそれぞれ隣に置いていた紙袋を鈴仙の前に置いた。
「あと鈴仙、これ、もらってくれる?」
「何ですか? これは」
「もしかしたら合わないかもしれないけど、中を見てくれる?」
鈴仙は紙袋を開ける。そこに入っていたのは、高級なトリートメントとヘアアイロンであった。
「これは……?」
「鈴仙の髪が傷んでるのを見てね。少しでも綺麗になったらなあって思ったの」
「ヘアアイロンもね、綺麗にはなるはずよ」
鈴仙の再び驚いたので、妖夢と咲夜がそれぞれ説明する。
「良いお友達ね、イナバ」
輝夜が鈴仙の頭をそっと撫でる。
「二人とも……ありがとう……!」
鈴仙は大粒の涙を零した。
妖夢と咲夜の食事に加え、高級トリートメントで癒やされた翌日。鈴仙の紫髪は相変わらず痛んでいた。耳もシワシワが少し改善した程度であった。
「2週間の疲れが1日で治るわけ無いよね……」
鈴仙は乾いた笑いを零し、ヘアアイロンを髪に当てた。ヘアアイロンに通された癖のある髪は、一気にストレートになった。
「すごい……! あんなに癖だらけだったのに!」
髪がストレートになったのを見た鈴仙は少しだけ喜ぶと、順にヘアアイロンを髪に当てる。鈴仙はストレートになり纏めやすくなった髪と相変わらずシワシワな耳を笠へとしまい、再び薬を配るべく永遠亭を後にした。
人里へ行くと、買い出し中の妖夢と咲夜がいた。
「二人とも! 昨日はありがとう!」
鈴仙は二人の側へ行くと、笠を外す。笠からは綺麗になった紫髪とシワシワな耳が現れた。
「……髪の毛、綺麗になったね!」
妖夢が声をかける。鈴仙は「トリートメントとヘアアイロンのおかげです!」と、数週間ぶりの笑顔で答えた。
「まだ忙しそう?」
咲夜が尋ねると鈴仙は「峠は越えたけど、もう少しかかりそうかな」と返し、再び笠を被った。
「じゃあ、行ってくるね!」
鈴仙は二人と別れ、民家へと向かっていった。
「鈴仙の耳、まだシワシワでしたね」
「ストレスらしいから、仕方ないわ」
「そうですけど……」
妖夢はシワシワな耳が気になったが、咲夜の言葉の通り、こればかりはどうしようもない。妖夢は一つため息をついた。
翌朝。鈴仙のダメージが癒えた髪の毛に、再びヘアアイロンをかける。
「熱い!!!!!!」
永遠亭に鈴仙の叫び声が響いた。
「何が熱いの?!」
永琳が鈴仙の部屋に氷嚢を持ってすっ飛んでくると、そこにはヘアアイロンを耳に当てる鈴仙の姿があった。
「何やってるの!」
永琳が慌ててコンセントを抜くと、「何バカなことしてるのよ!」と怒号を飛ばした。
「耳のシワシワ、アイロンで取れるかなって思ったんですけど……」
鈴仙は恥ずかしそうに頬を掻くと、「ストレスはどうしようも無いですね……」と諦め混じりに呟いた。
「……暫くはてゐに仕事を任せようと思うから、休んでくれる?」
鈴仙はもはや正常な判断ができていない。そう判断した永琳は一つため息をつきながら提案する。鈴仙は「ありがとうございます……」と呟くと、痛めた耳に氷嚢で冷やした。
ストレス溜まると耳がしわしわになる鈴仙いいですよね