秋だ! 秋だ!! 秋だ!!! 秋だ!!!!
ついに私の時代がやってきた! 冬の寒さを生き抜いて、春のうららかさをやり過ごし、夏の暑さを耐えしのぎ、ついに今年も秋がやってきたのよ!
秋が来たからにはもう大丈夫! 秋が来たからにはもう安心! 秋は素敵! 秋は無敵! 飽きない秋に酔いしれろ!
さあ、秋度をたくさん採って、来年の秋を迎えられるようにしていかないとね! 冬とか春とか夏とかいう、くっだらない季節のせいで無駄にたくさん消耗しちゃったから。
秋は米に、きのこに、くるみに、ぶどうに、梨に、栗に、柿や、焼き芋などなど、美味しい味覚がたくさん! まさに夢いっぱい、希望いっぱい、腹もいっぱい!
それじゃあ、今年もがんがん稔っていくわよ!
というわけで、私は今、秋爛漫の妖怪の山にて、きのこ狩りの真っ最中!
見渡す限りに、きのこがたーくさん生えてるわ! どれもこれも美味しいのばかりだけど、特に私のお気に入りは、真っ白くて大きなササモダシ。
大きくて食いでがあるし、煮てよし、焼いてよし、味もよし、色もよし! 白くてきれいだし、それに一個見つかれば絶対近くに一杯生えているし、とにかくとても優秀な食菌なのよ!
しかも、このササモダシ、実は他の人たちにはほぼ食用と思われていない。
と、いうのも、ここ幻想郷では『つくりたけ(マッシュルーム)とえのき以外の白いきのこは毒きのこ』という言い伝えがまことしやかに広がっているのよ。もちろんそんなの迷信なんだけど。で、これ本当、内緒の話なんだけど、何を隠そう、言い伝え広めたのはこの私なのよね!
いやだって、白いきのこは毒って話が広がれば、この美味しいササモダシをほぼ独り占めできるじゃない?
どうよ。我ながら天才でしょ! さすが豊穣神よね!
……え、神様のくせに随分みみっちいって? 器が小さいって? いやいや……! 待って、待って。あのね。この言い伝え、あながち嘘って訳でもないのよ? だって白いきのこに毒きのこ多いのは紛れない事実だし。ほら、てっぽうたけ(ドクツルタケ)とか、ぶすきのこ(シロタマゴテングタケ)とか、みんな白い毒きのこでしょ? 私は里の人が毒きのこで尊い命を落とさないようにっていう意味合いも兼ねて、神の大いなる慈悲をもって、あえて迷信を広めたんだからね? これ結構、割と本当だかんね?
なんて言ってる側から私のかごの中は、瞬く間にササモダシで真っ白に。まるで白星! まさに連勝街道まっしぐら! 縁起が良いから是非お相撲さんにも食べてもらいたいわね。丸餅よりも大きな白星をプレゼントできること請け合いだわ!
と、上機嫌で家に帰ろうとしていたその時、遠くの方にお相撲さんにはすこぶる縁起の悪い、真っ黒い服を着たやつの姿が。
げげ、あいつはまさか!? 近づくと、やっぱりそいつは、我がにっくき宿敵!
「出たな、ショッカー! 怪人毒きのこ女め!」
「げげげげっ。芋臭い神様に出くわしちまった! って、誰が毒きのこ女だ!」
「あんたよあんた。いっつも毒きのこの親玉みたいな帽子かぶっちゃって。何よ、きのこの神様でも気取ってんの?」
「んなわけあるか! この帽子は私のチャームポイントだ! そして私は正真正銘の人間様だぜ!」
「正真正銘の人間様がこんな妖怪はびこる山に来るわけないでしょ。何しに来たのよ! スーサイド?」
「んなわけあるか! ちょっと晩ご飯のきのこをあさりに来ただけだぜ。この山はきのこ狩りするには格好の場所だからな」
「あらそう、それならさっきそこに、真っ白いてっぽうたけ(ドクツルタケ)生えてたわよ?」
「お、そりゃいい。それはおまえさんの晩ご飯にぴったりだ」
「いらないわよ! 確かに美味しいけど!」
てっぽうたけは猛毒だけど、味は良い。特に炒め物や鍋に最適。どうしてそんなことを知ってるかというと、神様にきのこの毒は効かないから。
「せっかくだが私もいらんよ。なぜなら安心安全に食べられるきのこをたった今、見つけたからな!」
「あ、そう。よかったわね。じゃあそれをとってさっさとゴーホームなさい!」
「ああ、是非そうさせてもらうさ。それじゃ、かごの中のきのこ全部よこしてもらおうか!」
「はあ!?」
「私の目はごまかせないぜ。そいつは食えるきのこだな?」
「あんた、白いきのこはほとんど毒きのこって言い伝え知らないの?」
「もちろん知ってるさ。だが、そんなのは迷信に過ぎん。白いきのこも美味いものは美味いんだよ」
ちっ。さすが毒きのこの親玉を気取ってるだけあるわね。手強い。
「いいか? そもそも毒きのこを簡単に見分ける方法なんて、そんなムシの良い話あるわけないだろ? 毒きのこを知るには正しい知識を持って、見分ける以外に近道はないんだよ」
まったくもって正論なんだけど、こいつに言われると妙に腹立つ。
「ええ、その通りよ。さすがきのこ秘神マシューラを名乗るだけあるわね! でもこいつは渡さないわよ。これは私のきのこだもん!」
「そんなん名乗ったこと一度もないからな? いいからカゴの中のきのこをちょっと見せろ!」
と、やつは有無を言わさず私のカゴの中のきのこを勝手に手に取ってじろじろ見始めてくるわけよ。そんでもって
「ややっ!? よく見てみろ。こいつは毒きのこだぞ!?」
なんて、のたまってくるときたもんだ。
「そんなわけないない! 私がきのこを見間違えるわけないでしょ? 私を誰だと思ってるのよ?」
「芋神」
「やかましい!! いい? 私は豊穣の神よ? 豊穣神である私がきのこの種類を間違うわけなんかないのよ。こいつはまごう事なきササモダシ! 白いけどとーっても美味しいきのこよ! 覚えときなさい!」
「ほーら、やっぱり食えるきのこじゃないか!」
「………………あ゛」
やつはニヤニヤしながらわざとらしい抑揚つけた口調で言ってくる。
「やっぱりそうだったかぁー。そう、そいつはササモダシ、正式名オオイチョウタケ。夏から秋にかけて雑木林に群生する大型の真っ白なきのこで、煮てよし! 焼いてよし!炒めてよし! の三拍子そろった優秀なる食用きのこだ! 幻想郷に生える白いきのこの中では最も美味な部類に入る存在で、そう、例えるなら、名だたる毒きのこ達がひしめく白い魔窟の中の唯一の良心のような存在であり、RPGのパーティーで言うなら、普段は目立たないが、いざとなったとき確実にサポートしてくれる頼りがいのあるヒーラーのようなそんなやつだ」
「あの、イマイチ意味分からない例えしないでくれる? 白い魔窟って何よ? 白い巨塔じゃあるまいし! 勝手に山ん中を総回診でもしてなさい! それはそうと神様をひっかけるなんて! なんて罰当たりなやつなの! 卑怯よ!」
「卑怯もラッキョウもあるものか! 嘘をついたのはそっちだろ。罰としてこいつは没収だな」
「やなこった! これは私のもんよ!」
ここは、三十六計逃げるが勝ちというわけで、私は退散する。
幸い秋度に満ちあふれた今の私なら、こいつを振り払うなんて芋を耕すより容易い!
案の定、あいつの姿はもう見えない。それにしても体が軽い軽い。さすが秋! 私の季節! 思わず妖怪の山を三周くらいしてあいつがいなくなったのを確認してから華麗に帰宅をキメる。
よーし! 今夜はご馳走よ! 祝杯だー! 乾杯だー!
□
……でさ、その夜。さっそくササモダシを鍋にして食べたら、いやこれが不味いのなんのって。
もし、不味いを司る神様がいたら心底から感服するだろうっていうくらいの不味さ。
なんかだいぶ前にもこんなことあった気がするけど、まあ、それはそうと、どうして美味しいはずのきのこがこんなに不味いのか。
考えられるのは、逃げている間に、きのこの秋度を知らないうちに吸収してしまっていた可能性。あー、なんかおかしいと思ったのよ。妙に体軽やかだったし。
やっぱり調子に乗って妖怪の山を三周したのが余計だった。二周にしとけばよかった。
これじゃ祝杯じゃなくて、やけ酒。乾杯じゃなくて完敗。
ああもう、せっかくの秋なのにどうしてこんなことになってしまったの。
……そうだ。あいつだ。
みんな、あんにゃろめが悪い!
今度逢ったら絶対お返ししてやるんだから。倍の倍の倍返しよ!
……ま、今日のところは甘んじて黒星を受け入れてあげましょうか。なんたってまだまだ秋は始まったばかり。
あ、そうだ、この不味い鍋は、姉さんにでも食わせてやりましょ。たまには姉さんにも黒星を味わってもらわないとね。
などと、思いながら、私はしわしわのササモダシを手に取って眺めながら、酒をあおった。
しかしその日、結局姉は帰ってこなかった。
思わず私は空にむかって叫んだ。
「あんにゃろめーーー!」
ついに私の時代がやってきた! 冬の寒さを生き抜いて、春のうららかさをやり過ごし、夏の暑さを耐えしのぎ、ついに今年も秋がやってきたのよ!
秋が来たからにはもう大丈夫! 秋が来たからにはもう安心! 秋は素敵! 秋は無敵! 飽きない秋に酔いしれろ!
さあ、秋度をたくさん採って、来年の秋を迎えられるようにしていかないとね! 冬とか春とか夏とかいう、くっだらない季節のせいで無駄にたくさん消耗しちゃったから。
秋は米に、きのこに、くるみに、ぶどうに、梨に、栗に、柿や、焼き芋などなど、美味しい味覚がたくさん! まさに夢いっぱい、希望いっぱい、腹もいっぱい!
それじゃあ、今年もがんがん稔っていくわよ!
というわけで、私は今、秋爛漫の妖怪の山にて、きのこ狩りの真っ最中!
見渡す限りに、きのこがたーくさん生えてるわ! どれもこれも美味しいのばかりだけど、特に私のお気に入りは、真っ白くて大きなササモダシ。
大きくて食いでがあるし、煮てよし、焼いてよし、味もよし、色もよし! 白くてきれいだし、それに一個見つかれば絶対近くに一杯生えているし、とにかくとても優秀な食菌なのよ!
しかも、このササモダシ、実は他の人たちにはほぼ食用と思われていない。
と、いうのも、ここ幻想郷では『つくりたけ(マッシュルーム)とえのき以外の白いきのこは毒きのこ』という言い伝えがまことしやかに広がっているのよ。もちろんそんなの迷信なんだけど。で、これ本当、内緒の話なんだけど、何を隠そう、言い伝え広めたのはこの私なのよね!
いやだって、白いきのこは毒って話が広がれば、この美味しいササモダシをほぼ独り占めできるじゃない?
どうよ。我ながら天才でしょ! さすが豊穣神よね!
……え、神様のくせに随分みみっちいって? 器が小さいって? いやいや……! 待って、待って。あのね。この言い伝え、あながち嘘って訳でもないのよ? だって白いきのこに毒きのこ多いのは紛れない事実だし。ほら、てっぽうたけ(ドクツルタケ)とか、ぶすきのこ(シロタマゴテングタケ)とか、みんな白い毒きのこでしょ? 私は里の人が毒きのこで尊い命を落とさないようにっていう意味合いも兼ねて、神の大いなる慈悲をもって、あえて迷信を広めたんだからね? これ結構、割と本当だかんね?
なんて言ってる側から私のかごの中は、瞬く間にササモダシで真っ白に。まるで白星! まさに連勝街道まっしぐら! 縁起が良いから是非お相撲さんにも食べてもらいたいわね。丸餅よりも大きな白星をプレゼントできること請け合いだわ!
と、上機嫌で家に帰ろうとしていたその時、遠くの方にお相撲さんにはすこぶる縁起の悪い、真っ黒い服を着たやつの姿が。
げげ、あいつはまさか!? 近づくと、やっぱりそいつは、我がにっくき宿敵!
「出たな、ショッカー! 怪人毒きのこ女め!」
「げげげげっ。芋臭い神様に出くわしちまった! って、誰が毒きのこ女だ!」
「あんたよあんた。いっつも毒きのこの親玉みたいな帽子かぶっちゃって。何よ、きのこの神様でも気取ってんの?」
「んなわけあるか! この帽子は私のチャームポイントだ! そして私は正真正銘の人間様だぜ!」
「正真正銘の人間様がこんな妖怪はびこる山に来るわけないでしょ。何しに来たのよ! スーサイド?」
「んなわけあるか! ちょっと晩ご飯のきのこをあさりに来ただけだぜ。この山はきのこ狩りするには格好の場所だからな」
「あらそう、それならさっきそこに、真っ白いてっぽうたけ(ドクツルタケ)生えてたわよ?」
「お、そりゃいい。それはおまえさんの晩ご飯にぴったりだ」
「いらないわよ! 確かに美味しいけど!」
てっぽうたけは猛毒だけど、味は良い。特に炒め物や鍋に最適。どうしてそんなことを知ってるかというと、神様にきのこの毒は効かないから。
「せっかくだが私もいらんよ。なぜなら安心安全に食べられるきのこをたった今、見つけたからな!」
「あ、そう。よかったわね。じゃあそれをとってさっさとゴーホームなさい!」
「ああ、是非そうさせてもらうさ。それじゃ、かごの中のきのこ全部よこしてもらおうか!」
「はあ!?」
「私の目はごまかせないぜ。そいつは食えるきのこだな?」
「あんた、白いきのこはほとんど毒きのこって言い伝え知らないの?」
「もちろん知ってるさ。だが、そんなのは迷信に過ぎん。白いきのこも美味いものは美味いんだよ」
ちっ。さすが毒きのこの親玉を気取ってるだけあるわね。手強い。
「いいか? そもそも毒きのこを簡単に見分ける方法なんて、そんなムシの良い話あるわけないだろ? 毒きのこを知るには正しい知識を持って、見分ける以外に近道はないんだよ」
まったくもって正論なんだけど、こいつに言われると妙に腹立つ。
「ええ、その通りよ。さすがきのこ秘神マシューラを名乗るだけあるわね! でもこいつは渡さないわよ。これは私のきのこだもん!」
「そんなん名乗ったこと一度もないからな? いいからカゴの中のきのこをちょっと見せろ!」
と、やつは有無を言わさず私のカゴの中のきのこを勝手に手に取ってじろじろ見始めてくるわけよ。そんでもって
「ややっ!? よく見てみろ。こいつは毒きのこだぞ!?」
なんて、のたまってくるときたもんだ。
「そんなわけないない! 私がきのこを見間違えるわけないでしょ? 私を誰だと思ってるのよ?」
「芋神」
「やかましい!! いい? 私は豊穣の神よ? 豊穣神である私がきのこの種類を間違うわけなんかないのよ。こいつはまごう事なきササモダシ! 白いけどとーっても美味しいきのこよ! 覚えときなさい!」
「ほーら、やっぱり食えるきのこじゃないか!」
「………………あ゛」
やつはニヤニヤしながらわざとらしい抑揚つけた口調で言ってくる。
「やっぱりそうだったかぁー。そう、そいつはササモダシ、正式名オオイチョウタケ。夏から秋にかけて雑木林に群生する大型の真っ白なきのこで、煮てよし! 焼いてよし!炒めてよし! の三拍子そろった優秀なる食用きのこだ! 幻想郷に生える白いきのこの中では最も美味な部類に入る存在で、そう、例えるなら、名だたる毒きのこ達がひしめく白い魔窟の中の唯一の良心のような存在であり、RPGのパーティーで言うなら、普段は目立たないが、いざとなったとき確実にサポートしてくれる頼りがいのあるヒーラーのようなそんなやつだ」
「あの、イマイチ意味分からない例えしないでくれる? 白い魔窟って何よ? 白い巨塔じゃあるまいし! 勝手に山ん中を総回診でもしてなさい! それはそうと神様をひっかけるなんて! なんて罰当たりなやつなの! 卑怯よ!」
「卑怯もラッキョウもあるものか! 嘘をついたのはそっちだろ。罰としてこいつは没収だな」
「やなこった! これは私のもんよ!」
ここは、三十六計逃げるが勝ちというわけで、私は退散する。
幸い秋度に満ちあふれた今の私なら、こいつを振り払うなんて芋を耕すより容易い!
案の定、あいつの姿はもう見えない。それにしても体が軽い軽い。さすが秋! 私の季節! 思わず妖怪の山を三周くらいしてあいつがいなくなったのを確認してから華麗に帰宅をキメる。
よーし! 今夜はご馳走よ! 祝杯だー! 乾杯だー!
□
……でさ、その夜。さっそくササモダシを鍋にして食べたら、いやこれが不味いのなんのって。
もし、不味いを司る神様がいたら心底から感服するだろうっていうくらいの不味さ。
なんかだいぶ前にもこんなことあった気がするけど、まあ、それはそうと、どうして美味しいはずのきのこがこんなに不味いのか。
考えられるのは、逃げている間に、きのこの秋度を知らないうちに吸収してしまっていた可能性。あー、なんかおかしいと思ったのよ。妙に体軽やかだったし。
やっぱり調子に乗って妖怪の山を三周したのが余計だった。二周にしとけばよかった。
これじゃ祝杯じゃなくて、やけ酒。乾杯じゃなくて完敗。
ああもう、せっかくの秋なのにどうしてこんなことになってしまったの。
……そうだ。あいつだ。
みんな、あんにゃろめが悪い!
今度逢ったら絶対お返ししてやるんだから。倍の倍の倍返しよ!
……ま、今日のところは甘んじて黒星を受け入れてあげましょうか。なんたってまだまだ秋は始まったばかり。
あ、そうだ、この不味い鍋は、姉さんにでも食わせてやりましょ。たまには姉さんにも黒星を味わってもらわないとね。
などと、思いながら、私はしわしわのササモダシを手に取って眺めながら、酒をあおった。
しかしその日、結局姉は帰ってこなかった。
思わず私は空にむかって叫んだ。
「あんにゃろめーーー!」
テンションがバグってる神様が楽しそうでよかったです