日が暮れるのが早くなると、自然と晩御飯の時間も早くなる。
今日の料理当番は私だった。私とはたてが同棲を始めるにあたって、家事は日替わりで交代制と決めたのだ。別にそれ自体に文句は無い。ただ、疲れている日にそれが当たると、少しは楽もしたくなるというものだった。
そんなわけで今日は料理好きの私としては比較的手抜きの鍋にした。具には鶏肉と肉団子、白菜に大根、きのこも入れて、それから鍋と言ったら欠かせない葱。熱々の鍋はすっかり肌寒くなってきた最近の季節にはピッタリで、土曜日だと言うのに朝から龍様のお屋敷で事務作業に駆り出されていた私たちの体にじんわりと染み渡っていった。
思えば一人で暮らしていた時から、この季節になるとよく鍋を作っていたっけ。あの頃は締めと言えばうどんを入れるのがいつもの事だったが、今日の締めは白米を入れた雑炊だった。というのも、私自身は鍋の締めと言えばうどん派なのだが、同居人であるはたては雑炊派なのだ。はたての喜ぶ顔が見られるなら、別に私は雑炊だって構わない。十分に鶏肉の旨味が出ている出汁を吸ったお米は美味しいし、まだ少し出汁は余っているから、明日の朝御飯にでも卵を落としてうどんにしてもらうのも大いにアリだ。
なんて事をぼんやり考えながら、私はソファーベッドの上に寝転がっている。薄目を開けて窓の外を見てみると、外はもう真っ暗。まだ七時前だと言うのに、十月にもなれば空はすっかり冬の訪れを予感させるような速度感である。心地良い満腹感に身を任せながら、そうやってうつらうつらと微睡んでいると、ゆさゆさと私の脚を揺する感覚が。
「ねえ文ー、もうお風呂沸いたよー」
「んー……」
可愛らしい恋人の声に曖昧な返事を返す。こうも疲れていると、なかなかお風呂に入ろうという気持ちになるまでが長い。ましてや、今の私はふわふわとした食後の微睡の中にいる。
「疲れてるのは分かるけどさー、せめてお風呂入ってから寝ようよー」
「わかってる……」
分かっている。そんな事、頭では分かっているのだ。しかし、どうにもこの微睡の感覚は、なかなか私の気力と意識を離してくれそうにない。
「……一緒に入ろうよー」
そのいじらしく甘えた声色を聞いて、さっきまで微睡の中にあった意識が、電流でも流れたかのようにハッキリとして、思わずがばっと起き上がった。そのまま私がはたての表情を見ると、彼女はしゃがみ込んで私の足元を揺すりながら、少し拗ねたような顔をしている。可愛すぎる。何だこの可愛い生き物。
「あんたって本当に甘えるの上手よね……」
「そうかなー? 文の影響だと思うよ?」
「いや、あんたは昔っから甘えるの上手かったわよ。きっと龍様にも椛にも分かってもらえると思う」
「そうなのかな? あんまり自覚ないけど……まあ、文も起きたからいっか。一緒に入ろ、お風呂」
そう言って、にへへと言った感じにはたてが笑う。うーん、可愛い。惚れた弱みを感じながら、私はソファーベッドから立ち上がるのだった。
◆◆
うちのお風呂場はそれなりに広い。まあ、家自体が広いから当然ではあるのだが。浴槽も檜風呂で、二人で入っても狭さを感じる事はない程度の大きさはある。
「文ー、シャンプー取ってー」
「はいはい」
シャワーで髪を濡らして目を瞑っているはたてに、シャンプーの入った容器を手渡す。受け取った彼女は、ありがと、と一言呟いて髪を洗い始めた。
一足先に髪を洗い終えていた私は、ナイロンタオルで体を洗いながら、何とはなしに隣で髪を洗うはたての姿を眺めてみる。
綺麗な亜麻色の長い髪だ。私は烏の濡れ羽色のような短めの黒髪だから、少し憧れがある。その長い髪を横にもせず、そのままわしゃわしゃと洗うなんて事も、こうして一緒に暮らし始めるまでは知らなかった事だ。
私はシャワーヘッドの向きを自分に当たるようにして、体に付いた泡を洗い流す。
こうして一緒に暮らしていると、ずっと昔からの付き合いとは言え、色んなところが違っているんだなと実感して、それがどんなに些細でも、その違いを見つけるたび、どこか幸せに感じる。くすぐられているわけでもないのに、なんだかくすぐったい。
「流すからシャワーこっち向けてー」
「はーい」
シャワーヘッドを今度ははたてへと向けてやると、そのまま彼女はシャンプーの泡を洗い流す。水が滴るその髪はつやつやと輝いていて、思わず見惚れてしまいそうになる。
はたてはいつも体から先に洗うし、私はいつも髪から先に洗う。そんな違いも、やっぱり幸せに感じるんだから、恋ってすごいなって思う。
はたてが一通り髪を洗い終えると、その長い髪を後ろにまとめて、私の手を握ってきた。
「じゃー、お湯浸かろっか」
「そうね」
二人で手を繋いで椅子から立ち上がり、じゃぼっと浴槽へと脚を入れていく。そのまま一緒に腰を下ろして並んで座る。お湯の熱さが身体中に染み渡っていくのを感じて、思わずふいーっと息を吐いた。立ち昇る湯気と共に、檜の香りが鼻腔をくすぐって、いい気分だ。
と。
「えいっ」
もにゅ、とはたてが私の胸を触ってきた。
「何すんのよいきなり」
「いやー、私よりでかいもんだから、つい」
「ついじゃないでしょうがバカ」
罵倒しても止めないどころか、むにゅむにゅとそのまま胸を揉んでくるものだから、思わずはたての頭を軽く叩く。
「ちぇー、いいじゃんか減るもんじゃないしー」
「こっちが恥ずかしいっつってんのよ」
「ふん、恥ずかしがり屋さんめ」
「あんたが色々気にしなさすぎなんだっつーの」
はたては私の胸から手を離すと、そのまま脚を伸ばしてバタバタと動かして見せる。まったく、こいつは。
「あんた、割と胸好きよね」
そう言えば、前に地底の温泉に行った時にも揉んでこようとしてきた事があったなと思い出し、何気なくはたてに聞いてみる。
「んー、別にそういうわけじゃないよ。胸が好きっていうか、文の胸だから好きっていうか」
「……あんたは恥ずかしい事をサラッと言うわよね、本当に」
「ほら、私って自分で言うのもなんだけど華奢な方じゃん? それに比べると、文は私より肉付きいいし、胸も大きいし、脚も長いし」
「え、なに、太ってるって言いたいわけ?」
「もー、もっと素直に捉えてよー。全然太ってないしスタイル良いって言ってるのー。あ、それとも恥ずかしがってる?」
「恥ずかしがってます」
「まあ、なんていうの? そういう違いがね、なんだか好きだなーって思うわけですよ。だから、私は文の体が好き。もちろん心も好きだけど」
「……はあ、敵わないわね。恥ずかしい事言わせたらあんた世界一よ。一応言っとくけど、私も同じだからね」
「んー、同じってー?」
「私と違う、あんたの華奢な体も、素直な心も好きなんだからねって言ってんの」
「えへへ、ありがと」
そう言ってはたてはふにゃりと柔らかく笑んだ。全く、どうしてこいつはこんなに素直でいられるのか分からない。私が素直じゃないだけなんだろうか。だって、単純に恥ずかしいじゃないか。でも、そんな違いもやっぱり愛しく感じてしまうから、もう好きって気持ちは止めようがない。そんなに長く浸かっているわけでもないのに、なんだかのぼせてしまいそうだった。
◆◆
それから、お風呂を上がった私たちは、髪を乾かしたり、洗濯物を片付けたりしてから、寝巻きに着替えた後、一緒に冷やしていたビールを飲みながらのんびりと過ごした。
テレビを点けたらちょうど始まっためちゃイケを見て笑ったり、そのまま流れで特に興味の無いドラマを流してみたり、どうでもいい事を喋っては笑い合って、ビール缶が空になったら冷蔵庫まで取りに行ったり。天狗と河童はほぼ癒着状態にあるため、ここ幻想郷に居てもなお電化製品に困ることは無い。恐らく人里に住む人間に比べたら、相当便利な生活をしている自覚がある。ありがたい話だ。
「んー、はたてー」
「よしよし、どうしたのよ文」
「ぎゅってして」
「酔った文は甘えん坊だよねー、いいよ」
ぎゅっ、とはたてが抱き締めてくれる。こうして少しでも酒が入っていないと、素直に甘えることも出来ない自分が少し情けなくも思うけど、この暖かくて柔らかな感触に比べれば、まあ大したことじゃない。
とくん、とくん、と聴こえるはたての心臓の音が、私を幸せな気持ちでいっぱいにしてくれる。
「ね、はたて。ちゅーしよ」
「次はそう来るだろうと思ってたー。ちょうど私もしたいと思ってたとこだよ」
私より酒に弱いはたてが、くすっと笑う。その笑顔があまりにも可愛くって、思わず私も釣られて笑ってしまう。
唇を尖らせて、静かに瞼を閉じる。
ふわり。
柔らかなはたての唇の感触が、私の唇を覆う。
暖かくって、柔らかくって、ちょっぴりお酒臭いけど、でもなんだか甘い香りもして。
ちゅ、ちゅむ、と唇を重ねる私たちの鼓膜に、お互いを求め合う水音だけがやけに響く。
ぎゅっとはたての細い身体を抱き締める力が、つい強まってしまう。こんなに近くでお互いを求め合っていても、それでもまだはたての事を欲しいと思ってしまう。私ってこんなに欲張りだったっけ。わからない。でも、気持ちいい。
しばらくの間、そうやってキスをしていた私たちだったけれど、やがて唇を離して瞼を開ける。
目の前には大好きなはたての顔。頰が熱い。よく見ると、はたての頬もほんのりと赤く染まっていた。
「好きよ、はたて」
「うん、私も文が好き」
私たちはソファーベッドの上で、抱き締め合いながら、こつんとおでこを合わせた。鼻先が触れるようで触れないような、ちょっとくすぐったい感覚も幸せだ。
「こんな量のビールじゃここまで酔わないのに、そういう口実が無いと素直に甘えて来れない文が可愛くって好き」
「全部言うなバカ」
とっくに見透かされていた、元も子もない事実を言われて、怒りながらも思わず笑ってしまった。はたては最初から笑ってる。こういう素直すぎるところも、悔しいけど、やっぱり好きだ。愛しいなって感じる。
「今日は一緒の布団で寝ましょ」
「私もそうしたいなって思ってたよ」
握った手の指を絡め合いながら、私たちはふふっと笑い合う。
少し肌寒くなってきた秋の夜長に、烏が二羽。それぞれ違う二羽だけど、お互いがお互いを好きだという気持ちは、きっとおんなじなんだろうな、なんて考えながら。
まん丸い黄金色の月が、どこまでも綺麗な夜だった。
今日の料理当番は私だった。私とはたてが同棲を始めるにあたって、家事は日替わりで交代制と決めたのだ。別にそれ自体に文句は無い。ただ、疲れている日にそれが当たると、少しは楽もしたくなるというものだった。
そんなわけで今日は料理好きの私としては比較的手抜きの鍋にした。具には鶏肉と肉団子、白菜に大根、きのこも入れて、それから鍋と言ったら欠かせない葱。熱々の鍋はすっかり肌寒くなってきた最近の季節にはピッタリで、土曜日だと言うのに朝から龍様のお屋敷で事務作業に駆り出されていた私たちの体にじんわりと染み渡っていった。
思えば一人で暮らしていた時から、この季節になるとよく鍋を作っていたっけ。あの頃は締めと言えばうどんを入れるのがいつもの事だったが、今日の締めは白米を入れた雑炊だった。というのも、私自身は鍋の締めと言えばうどん派なのだが、同居人であるはたては雑炊派なのだ。はたての喜ぶ顔が見られるなら、別に私は雑炊だって構わない。十分に鶏肉の旨味が出ている出汁を吸ったお米は美味しいし、まだ少し出汁は余っているから、明日の朝御飯にでも卵を落としてうどんにしてもらうのも大いにアリだ。
なんて事をぼんやり考えながら、私はソファーベッドの上に寝転がっている。薄目を開けて窓の外を見てみると、外はもう真っ暗。まだ七時前だと言うのに、十月にもなれば空はすっかり冬の訪れを予感させるような速度感である。心地良い満腹感に身を任せながら、そうやってうつらうつらと微睡んでいると、ゆさゆさと私の脚を揺する感覚が。
「ねえ文ー、もうお風呂沸いたよー」
「んー……」
可愛らしい恋人の声に曖昧な返事を返す。こうも疲れていると、なかなかお風呂に入ろうという気持ちになるまでが長い。ましてや、今の私はふわふわとした食後の微睡の中にいる。
「疲れてるのは分かるけどさー、せめてお風呂入ってから寝ようよー」
「わかってる……」
分かっている。そんな事、頭では分かっているのだ。しかし、どうにもこの微睡の感覚は、なかなか私の気力と意識を離してくれそうにない。
「……一緒に入ろうよー」
そのいじらしく甘えた声色を聞いて、さっきまで微睡の中にあった意識が、電流でも流れたかのようにハッキリとして、思わずがばっと起き上がった。そのまま私がはたての表情を見ると、彼女はしゃがみ込んで私の足元を揺すりながら、少し拗ねたような顔をしている。可愛すぎる。何だこの可愛い生き物。
「あんたって本当に甘えるの上手よね……」
「そうかなー? 文の影響だと思うよ?」
「いや、あんたは昔っから甘えるの上手かったわよ。きっと龍様にも椛にも分かってもらえると思う」
「そうなのかな? あんまり自覚ないけど……まあ、文も起きたからいっか。一緒に入ろ、お風呂」
そう言って、にへへと言った感じにはたてが笑う。うーん、可愛い。惚れた弱みを感じながら、私はソファーベッドから立ち上がるのだった。
◆◆
うちのお風呂場はそれなりに広い。まあ、家自体が広いから当然ではあるのだが。浴槽も檜風呂で、二人で入っても狭さを感じる事はない程度の大きさはある。
「文ー、シャンプー取ってー」
「はいはい」
シャワーで髪を濡らして目を瞑っているはたてに、シャンプーの入った容器を手渡す。受け取った彼女は、ありがと、と一言呟いて髪を洗い始めた。
一足先に髪を洗い終えていた私は、ナイロンタオルで体を洗いながら、何とはなしに隣で髪を洗うはたての姿を眺めてみる。
綺麗な亜麻色の長い髪だ。私は烏の濡れ羽色のような短めの黒髪だから、少し憧れがある。その長い髪を横にもせず、そのままわしゃわしゃと洗うなんて事も、こうして一緒に暮らし始めるまでは知らなかった事だ。
私はシャワーヘッドの向きを自分に当たるようにして、体に付いた泡を洗い流す。
こうして一緒に暮らしていると、ずっと昔からの付き合いとは言え、色んなところが違っているんだなと実感して、それがどんなに些細でも、その違いを見つけるたび、どこか幸せに感じる。くすぐられているわけでもないのに、なんだかくすぐったい。
「流すからシャワーこっち向けてー」
「はーい」
シャワーヘッドを今度ははたてへと向けてやると、そのまま彼女はシャンプーの泡を洗い流す。水が滴るその髪はつやつやと輝いていて、思わず見惚れてしまいそうになる。
はたてはいつも体から先に洗うし、私はいつも髪から先に洗う。そんな違いも、やっぱり幸せに感じるんだから、恋ってすごいなって思う。
はたてが一通り髪を洗い終えると、その長い髪を後ろにまとめて、私の手を握ってきた。
「じゃー、お湯浸かろっか」
「そうね」
二人で手を繋いで椅子から立ち上がり、じゃぼっと浴槽へと脚を入れていく。そのまま一緒に腰を下ろして並んで座る。お湯の熱さが身体中に染み渡っていくのを感じて、思わずふいーっと息を吐いた。立ち昇る湯気と共に、檜の香りが鼻腔をくすぐって、いい気分だ。
と。
「えいっ」
もにゅ、とはたてが私の胸を触ってきた。
「何すんのよいきなり」
「いやー、私よりでかいもんだから、つい」
「ついじゃないでしょうがバカ」
罵倒しても止めないどころか、むにゅむにゅとそのまま胸を揉んでくるものだから、思わずはたての頭を軽く叩く。
「ちぇー、いいじゃんか減るもんじゃないしー」
「こっちが恥ずかしいっつってんのよ」
「ふん、恥ずかしがり屋さんめ」
「あんたが色々気にしなさすぎなんだっつーの」
はたては私の胸から手を離すと、そのまま脚を伸ばしてバタバタと動かして見せる。まったく、こいつは。
「あんた、割と胸好きよね」
そう言えば、前に地底の温泉に行った時にも揉んでこようとしてきた事があったなと思い出し、何気なくはたてに聞いてみる。
「んー、別にそういうわけじゃないよ。胸が好きっていうか、文の胸だから好きっていうか」
「……あんたは恥ずかしい事をサラッと言うわよね、本当に」
「ほら、私って自分で言うのもなんだけど華奢な方じゃん? それに比べると、文は私より肉付きいいし、胸も大きいし、脚も長いし」
「え、なに、太ってるって言いたいわけ?」
「もー、もっと素直に捉えてよー。全然太ってないしスタイル良いって言ってるのー。あ、それとも恥ずかしがってる?」
「恥ずかしがってます」
「まあ、なんていうの? そういう違いがね、なんだか好きだなーって思うわけですよ。だから、私は文の体が好き。もちろん心も好きだけど」
「……はあ、敵わないわね。恥ずかしい事言わせたらあんた世界一よ。一応言っとくけど、私も同じだからね」
「んー、同じってー?」
「私と違う、あんたの華奢な体も、素直な心も好きなんだからねって言ってんの」
「えへへ、ありがと」
そう言ってはたてはふにゃりと柔らかく笑んだ。全く、どうしてこいつはこんなに素直でいられるのか分からない。私が素直じゃないだけなんだろうか。だって、単純に恥ずかしいじゃないか。でも、そんな違いもやっぱり愛しく感じてしまうから、もう好きって気持ちは止めようがない。そんなに長く浸かっているわけでもないのに、なんだかのぼせてしまいそうだった。
◆◆
それから、お風呂を上がった私たちは、髪を乾かしたり、洗濯物を片付けたりしてから、寝巻きに着替えた後、一緒に冷やしていたビールを飲みながらのんびりと過ごした。
テレビを点けたらちょうど始まっためちゃイケを見て笑ったり、そのまま流れで特に興味の無いドラマを流してみたり、どうでもいい事を喋っては笑い合って、ビール缶が空になったら冷蔵庫まで取りに行ったり。天狗と河童はほぼ癒着状態にあるため、ここ幻想郷に居てもなお電化製品に困ることは無い。恐らく人里に住む人間に比べたら、相当便利な生活をしている自覚がある。ありがたい話だ。
「んー、はたてー」
「よしよし、どうしたのよ文」
「ぎゅってして」
「酔った文は甘えん坊だよねー、いいよ」
ぎゅっ、とはたてが抱き締めてくれる。こうして少しでも酒が入っていないと、素直に甘えることも出来ない自分が少し情けなくも思うけど、この暖かくて柔らかな感触に比べれば、まあ大したことじゃない。
とくん、とくん、と聴こえるはたての心臓の音が、私を幸せな気持ちでいっぱいにしてくれる。
「ね、はたて。ちゅーしよ」
「次はそう来るだろうと思ってたー。ちょうど私もしたいと思ってたとこだよ」
私より酒に弱いはたてが、くすっと笑う。その笑顔があまりにも可愛くって、思わず私も釣られて笑ってしまう。
唇を尖らせて、静かに瞼を閉じる。
ふわり。
柔らかなはたての唇の感触が、私の唇を覆う。
暖かくって、柔らかくって、ちょっぴりお酒臭いけど、でもなんだか甘い香りもして。
ちゅ、ちゅむ、と唇を重ねる私たちの鼓膜に、お互いを求め合う水音だけがやけに響く。
ぎゅっとはたての細い身体を抱き締める力が、つい強まってしまう。こんなに近くでお互いを求め合っていても、それでもまだはたての事を欲しいと思ってしまう。私ってこんなに欲張りだったっけ。わからない。でも、気持ちいい。
しばらくの間、そうやってキスをしていた私たちだったけれど、やがて唇を離して瞼を開ける。
目の前には大好きなはたての顔。頰が熱い。よく見ると、はたての頬もほんのりと赤く染まっていた。
「好きよ、はたて」
「うん、私も文が好き」
私たちはソファーベッドの上で、抱き締め合いながら、こつんとおでこを合わせた。鼻先が触れるようで触れないような、ちょっとくすぐったい感覚も幸せだ。
「こんな量のビールじゃここまで酔わないのに、そういう口実が無いと素直に甘えて来れない文が可愛くって好き」
「全部言うなバカ」
とっくに見透かされていた、元も子もない事実を言われて、怒りながらも思わず笑ってしまった。はたては最初から笑ってる。こういう素直すぎるところも、悔しいけど、やっぱり好きだ。愛しいなって感じる。
「今日は一緒の布団で寝ましょ」
「私もそうしたいなって思ってたよ」
握った手の指を絡め合いながら、私たちはふふっと笑い合う。
少し肌寒くなってきた秋の夜長に、烏が二羽。それぞれ違う二羽だけど、お互いがお互いを好きだという気持ちは、きっとおんなじなんだろうな、なんて考えながら。
まん丸い黄金色の月が、どこまでも綺麗な夜だった。
百合云々としてはところどころを除けば(それはもう好みの話になってくる)
ストレートでそれでいて良いのですが、
若干読んでいてつっかえるところがあるのがきになりました。
はたてはかわいい。
次のあやはたも期待しております。
なんかさわやかでしたね
かわいらしかったです
常に直球で「好き」を伝えるはたてもちょっと恥ずかしがりな文も
とてもかわいかったです。